ブチ切れ稲荷と呆れた狸の過激にもほどがあるブラック企業潰し!!!(改訂版)
ある日のことだ。
お昼のニュースのローカル枠に、皐月さんが映っていた。
｢では続きまして、県内のニュースをお送りします。｣
画面には『リビングマートとたぬぽん｢ブラック企業許さない｣』なんてテロップ。
｢県内に37店舗のスーパーマーケットを展開する株式会社リビングマートは本日、悪質なテナントに強制閉店の制裁措置を下したと発表しました。リビングマートの発表によりますと、同社の商業施設『リブワイドモールRYUZAN』など２店舗に出店していた雑貨店『ディスカバリー・キャニオン』に対しサービス残業などの実態があるとして、『悪質な規約違反により誠に遺憾ながら強制閉店・一部財産没収という厳しい制裁措置を下す結果となった』としています。それでは、記者会見の映像をどうぞ。｣
そして彼女はマスコミの前で、堂々とこう言ってのけたのだ。
｢･･･我が社は、テナントの従業員も直営の従業員と同じくらい大切にします。そして従業員の為ならデベロッパーとしての権限を振りかざします。我が社は、ブラック企業の存在を決して許しません。それが地域に根ざしたスーパーとしての責務だと考えています。｣
なお今後ディスカバリー・キャニオン跡地は高山市の家具店、有限会社たぬぽんの新形態店舗が入居する予定で、社長の保谷 惠子さんによりますと今回のリビングマートの行動に賛同して希望すればスタッフは全員引き継ぐ意向を示しているとのことです。
･･････････････････････････････
ブラック企業。
そんな言葉が世に出てからもう久しい。
ある日、僕と皐月さんがは二人で出かけていた。
全国規模のスーパー、アイランドグループが運営する｢アイランドモール｣の店内をぶらついていた。まぁ、確かに敵情が気にならないわけではないが、あくまで純粋なお出かけである。
そしてモール内をぶらついていると、たまたま古い友人に出くわした。
｢よぉ、凪じゃねーか。この綺麗なねーちゃんは!?｣
｢お、久しぶりだなぁ。あ、皐月さん。コイツは望月 宗一(もちづき そういち) 、僕の古い友人。･･･ってか宗一、何か顔色悪くねーか?｣
｢あぁ･･･いや、お前の女の前で話すことじゃねーよ。ちょっと残業続きで疲れてるだけだから。｣
｢へぇ、でも残業代とか｣
｢出ればいいんだけどなぁ･･･｣
後から聞いた話だと宗一は中に入居している雑貨店でバイトしているという。
ところがだ。いざ入ってみるとその雑貨店はサビ残地獄だった。
開店準備で1時間。しかも金は出ないのに遅れると怒られる。
そして帰りも定時で帰れた試しがない。もちろん給与にカウントされない。
･･･月に30時間はサビ残してるというのも、あながちウソではなさそうだ。
･･････････････････････････････
本当に、気の毒だ。
旧友がブラックで搾取されてるだなんて。
しかし、この話に強く食いついたのは意外にも皐月さんの方だった。
｢宗一くん、だったわよね? ご飯奢るから、その話、詳しく聞かせてちょうだい。もちろん、キミがリークしたってことは誰にも言わないわ。｣
そう言うと、モールを後にした。
そして、場所は変わって｢和風処 なごみ｣。
ちなみにこのお店、グループ企業のリブレスト・ディベロプメントが運営している。
当然後述するリビングマートの社風を受け継ぎ、従業員の表情もどこかゆったりとしている。
それに真っ先に気付いたのは、宗一だった。
｢なんだか、そこそこ混んでるのにスタッフの表情に余裕がありますね。あ、一人、二人･･･フロアスタッフだけで12人もいるんですか!?｣
｢え? それくらいは必要でしょ!?｣
｢いらっしゃ･･･あ、皐月さん。こちらはお友達ですかね。お話の通り、奥部屋を用意してます。｣
｢ほんと、ここのスタッフはみんないい顔してます。表情がいい。来てすぐわかりましたよ。｣
･･････････････････････････････
｢さて、本題だけど･･･それ、どこのお店の話なの!?｣
リビングマートグループには、従業員をとにかく大切にする企業風土がある。それこそスタッフの人員には余裕を持たせるし、サービス残業などもってのほかである。そしてそれはテナントにも徹底させており、破った場合は厳しい罰則が科せられている。
そしてそれは、リビングマート以外にある系列他店で行われていた場合にも科せられるのだ。
｢あ、ディスカヴァリー・キャニオンです。夜番の奴なんかは3時間残ることもザラにあるみたいですよ。｣
｢･･･何か嫌な予感するわね･･･ちなみに、時給はいくら?｣
｢690円ですね。日曜だろうと夜だろうとずーっとこれ。｣
｢えぇっ!? 幸川県の最低賃金って、先月発表された最新ので確か752円よ!?｣
｢えぇーっと、752×30で･･･おい、22000円は搾取されてるぞ!?｣
｢え、最賃ナナハン!?嘘だろ!? そう言えば、バイト募集にも時給書いてなかったな･･･｣
このやりとりで、とうとうというか･･･皐月さんは静かに、しかし確実にブチ切れた。
その顔はというと、｢甘々お姉ちゃんのお稲荷さん｣から、｢怒りに震える妖狐｣へと変わっていった。そして･･･
｢･･･潰す。｣
ちょ!?
何か、皐月さんの口から物騒な単語が聞こえたぞ!?
｢宗一くん、今すぐ辞表を突きつけなさい。いずれ、ディスキャニは潰れるわ。いいえ、リビングマートが絶対に潰す。｣
｢はぁぁっ!?｣
｢サビ残を強要するような企業は、存在することを許さない。それは、私達リビングマートの信念だから。手始めに、龍山モール店を強制閉店に追い込むわ。｣
｢ちょっとそれは無茶なんじゃ｣
｢規約に書いてあることだから、大丈夫。｣
｢でもさ、宗一はどうなる｣
｢今、アイランドモールにいるのよね。500mも離れていないリビング・ライフ龍山バスターミナル店で食品品出しの募集を掛けてたはずよ。よかったら、また連絡してみてね。さて、労基署とうちの労働環境調査部に連絡しないと･･･それから、空きができるから惠子さんにも･･･｣
そう言う皐月さんを、宗一は止めにかかった。
｢ま、待ってくれ! 労基署はやめてくれ!! 店長が本部にこっぴどくやられちまう!!｣
なんでも、上からの圧力が非常に強く店長は目にクマができ、今にもぶっ倒れそうな状態なのだとか。結果、ビタミン剤多量摂取のヤク漬けゾンビ状態になっているそうだ。
｢･･･それなら、尚更ね。店長さんもこのままじゃ死んじゃいます。きっとそんなんじゃ、ご飯もマトモに食べていないでしょうし･･･。｣
｢確かに、食いそびれてるだろうなぁ･･･｣
ぐぅ〜っ。
｢お待たせいたしました。こちら豚カツ定食3つになります。｣
｢ははは、俺も今日は昼メシ食えなかったからなぁー。休憩時間は短いし、フードコートは混みまくりだし。｣
｢あらあら。それでしたらご飯とおみそ汁はお代わり自由になっておりますので、ぜひお腹いっぱいお召し上がり下さい。｣
｢それじゃ、この話はここでおしまい。さぁ、早く食べましょ。｣
･･････････････････････････････
｢･･･これは、酷いわね･･･。｣
皐月さんは、アイランドモールに戻っていた。
ディスキャニの店舗を覗く為だ。ちょうどそのタイミングで･･･
｢おい!! なんなんだこの成績は!! お前らがボケカスなお陰で会社のカネがどんどん消えてるのがわかんねーのか?｣
｢社長、も、申し訳ございまs｣
｢テメーの謝罪なんて一円にもなんねーんだよ!!わかったらもっと稼ぎやがれ!｣
何と社長が、店長をまるで奴隷の如く罵倒していたのである。
しかも、そこはバックヤードですらない。客からも丸見えな、レジでであった。
｢ひ、酷い･･･店長さん、かわいそう･･･。｣
レジの中にいる店長からは、客の様子が見える。
当然というか、社長の態度に客はドン引きだ。
｢(おい、こんな店、とっとと出ようぜ･･･)｣
｢(そうね･･･こんな店で働きたくない〜。)｣
そんな客のヒソヒソ話が、店長の耳には聞こえていた。
｢(あぁ･･･お客様が、逃げていく･･･)｣
｢聞いてんのかコラ!!｣
｢(あぁ、もう6時だよ･･･滝沢くん、4時上がりなんだけどなぁ･･･)｣
｢何とかいったら｣
｢あ、滝沢くん。キミはもう上がって。２時間も遅れて、本当にすまない｣
｢たった２時間で何だ!! お前は仕事をなんだと思って｣
｢ただの金を得る手段です。｣
あの滝沢くんって子も、相当機嫌が悪そうだ。それはまぁ、２時間もサビ残させられたら無理もない。
｢社長、悪いことはいいません。その態度を改めてください。労基署に訴えられて一番困るのは、他でもない社長自身ですよ。｣
｢なんなんだお前は社長に逆らうのか!｣
｢店長は法に則ってカネ払えって言ってるだけだろ。テメーがやってんのは食い逃げと同じなんだよ。｣
｢何だと!? おい、ちょっとこっち来い!!俺がお前の根性、叩き直してやる!｣
｢で、業務命令ですからちゃんと時給はでるんですよね?｣
｢出る訳ないだろうお前は何を考えて｣
｢なら帰ります。クビにしたいならご自由にどうぞ。さて、今日の上がりは6時13分、っと･･･あ、社長。私、ここ2ヶ月の上がりの時間を記録してますんで覚悟しておいてください。｣
｢･･･オイ、明智! あのガキがああなのも、全部お前のせいだからな! 覚悟しておけ!!｣
｢(全部お前のせいだろうが･･･)｣
その後、皐月さんはこの滝沢くんにも話を聞いた。
すると宗一と瓜二つの答えが返ってきた。
｢店長もいつ倒れるんじゃないかと、正直心配だよなぁ･･･｣
その後、リブワイドモールRYUZAN店も覗いた。
アイランドグループはどうか知らないが、リビングマートの店舗ならあんな惨状は厳しく規制しているはずだ･･･そう、信じていた。しかし、その想いは見事にうち砕かれた。
酷さは相変わらずだったのだ。皐月さんが関係者とわかると、どこか怯えた表情をする店長。どうやら、社長の巡回でこっぴどくやられたようだ。
店をあとにする際、皐月さんはこう言ったそうだ。
｢･･･あなたやここのスタッフはいい人揃いだけど、ここはあと1ヶ月の命です。その後の再就職はうちが面倒見ますから、どうかご自愛下さい。｣
｢ここだけの話なんですが、あの社長･･･｣
｢アイランドモール店も覗いたので、大体想像は付きます。先程、そのスタッフからのSOSも聞きましたし･･･｣
｢リビングマートの規約以前にみんなのことを考えると、僕は定時で上がらせたいし残業代もキッチリ出したいんです。もちろん僕だって欲しいです。それに、スタッフだってあと5人は入れたいです。でも、あの社長はそれを許さないんです。こんな店を5人で回せなんて･･･。｣
･･･皐月さんは、開いた口がふさがらなかった。
｢私達を、助けてください。もう、私の力ではどうしようもありません。｣
店長の、悲痛な叫びだった。
｢わかりました。うちの労働環境調査部に話を入れましょう。失われた給料は、必ず取り戻しましょう。｣
これが、確定した皐月さんの答えであった。
･･････････････････････････････
一方、高山駅周辺。
市民生活の会という市民団体が、デモ運動を行っていた。
実は、いくら幸川県といえども残念ながらブラック企業は存在するのだ。
ついにブチ切れた労働者が、一斉に駅前のペデストリアンデッキで声を上げているのだ。
｢･･･まさか、この幸川にもブラック企業が存在してるとは思いもしなかったわ。｣
｢たぬぽん｣の会議室の窓から、デモを眺めていた惠子は悲しそうな顔をしていた。
そんな中である。
惠子のケータイが鳴った。そのディスプレイには｢リビングマート 中原皐月｣とあった。
｢あら、何の用かしら･･･｣
｢あ、毎度お世話になっております。こちら家具と生活雑貨のデパートたぬぽん 保谷惠子です。｣
｢こちらこそお世話になります、リビングマートの中原皐月です。ちょっと一つお話がありまして、お電話させて頂きました。｣
｢あ、はい。どのような用件でしょう。｣
｢単刀直入に申します。リブワイド・モールRYUZANのディスカヴァリー・キャニオン跡地に出店するつもりはございませんか?｣
｢龍山モールに出店できるのは当社としても魅力的な話ではありますが、ディスキャニってそれほど業績は悪くないはずですよね。何があったんですか?｣
｢実はディスキャニは私の聞き込みでブラックであることがわかりました。労働環境調査部が正式にその判定を出せば、当社の規定に基づき強制閉店のペナルティを受けて頂くことになるのです。リビング・ライフ高山第一団地店に関しても同様の処分が下ります。そこで、ブラックとは無縁のたぬぽんさんに来て頂けたらと思いまして。｣
｢わかりました、前向きに検討させて頂きますのでその話が確定しましたらまた連絡してください。私もブラックは許せませんので、従業員の幸せにもブラックへの見せしめにもなるのであればと思います。｣
･･････････････････････････････
【警告書】
黒龍堂株式会社 社長殿
この度、弊社は貴社店舗｢ディスカヴァリー・キャニオン｣アイランドモール龍山店、リブワイド・モールRYUZAN店におきましてサービス残業、最低賃金規定違反の事実があるとの情報を受けました。
これは、弊社テナント規定に違反しております。
弊社労働環境調査部でこの案件に関して調査し事実であることが確認できましたので、テナント規定に基づき
ディスカヴァリー・キャニオン リブワイド・モールRYUZAN店
ディスカヴァリー・キャニオン リビング・ライフ高山第一団地店
以上2店舗に強制閉店の処分を下す事といたしました。
<注釈>弊社テナント規定
第1条【法令に関するもの】
緊急時を除き、いかなる場合も法令遵守で企業活動を行わなければならない。
第12項
サービス残業など、従業員を対価なしで使役する行為を原則禁止する。
第13項
弊社の内外を問わず、系列店舗で同様の違反行為があった場合はペナルティを課す。
第27条【規定違反へのペナルティ】
第3項
悪質な違反が見受けられた場合、強制閉店処分を執行することがある。
尚、いかなる資産も撤退期限までに運び出せなかった場合はその全てを没収し、
所有権は弊社へと移行する。
第4項
何らかの形で従業員に損失を負わせた場合、その評価額の1.5倍を
該当者に支払わなければならない。現物支給に関しては双方が納得すれば
店頭表示価格の20%相当として支払いに充てることができる。
尚、閉店当日には店舗にご来店頂きますのでその点もご留意下さい。
株式会社リビングマート 中原皐月
･･････････････････････････････
そして、リブワイド・モールRYUZAN店強制閉店処分執行の日がやってきた。
撤退期限は、通達から10日後の午後7時半。
実はこの7時半という時間帯、ディスキャニ前がもっとも混む時間帯である。
そう、リビングマートはディスキャニを晒し者にする気なのである。
しかしそうとは知らない社長は相変わらずの利益至上主義で、その日の午後5時までは撤退業務を禁止した。もちろん、損失は出してはいけない。
その話を聞いた皐月さん。怒りを通り越して、最早呆れていた。
｢事情はわかりました。通達は10日前に出していますから、これで間に合わなければこの指令を出した社長の責任です。あなた方が損失を補填することはありませんよ。｣
これはつまり、｢２時間半で何ができるんだ｣と言う意味でもあった。
それを見越して撤退までの猶予を与えたのに、それを無視した社長。
それで間に合わなかったのは、社長の落ち度だとしたのだ。
そして、午後7時を回った頃。
｢ったくもー!! あのクソ社長!!棚卸しでも1週間は掛かるこの商品を２時間で運び出せとか頭イッてんじゃねーのかー!!｣
せっぱ詰まった少ない従業員からは、愚痴がダダ漏れだ。
皐月さんはただただ、その様子を見守っていた。
そして、とうとう時計の長針が6を指したのであった･･･。
･･････････････････････････････
｢なんだお前らー!! 全然片づいてないじゃねーか!! 使えねークズ共だなｺﾞﾙｧ!!｣
この一言に、皐月さんはブチ切れた。
｢あら社長さん、ご足労どうもです。でもあなたに、情状酌量の余地はまったくありませんねぇ。｣
｢何だと?｣
パチン、と指を鳴らすと、なにやら物々しい装備を持ったガタイのいい女が3人こっちに来るではないか。
アカオニ、オーガ、アマゾネスの3人組で構成された建築物解体業者だ。
｢･･･やれ。｣
｢わーりやしたぁぁぁッ! 皐月さんッ!!｣
｢さーて、イッツ・公開処刑ターイムッ!!｣
｢さぁさぁみんな見てらっしゃい、今からブラック社長への公開処刑が始まるよぉ〜ん!!｣
すると、3人はバールを一斉に掲げ･･･
｢そーれっ!!!｣
バキャッ!!
｢Discovery CANYON｣と書かれた看板が、一気に床へと落とされる。
そして、オーガとアマゾネスの二人がかりでその看板を社長の目の前に持ってくると、あからさまにぞんざいな扱いで地にまた落とす。そして、次の瞬間。
｢悪徳企業、粉砕。｣
アカオニの鉄拳が、その看板にクリーンヒット。言葉どおり、看板は一撃で粉砕されてしまった。
｢や、やめろおおおぉぉぉおぉぉっ!!!!｣
社長の懇願するような叫び声。
しかし、3人組を止めるモノは誰一人としていなかった。
かつての従業員も、誰も止めようとはしない。
中には、笑みを浮かべる者までいる。
もちろん立ち会いのリビングマート社員が止めるわけもない。
｢よーし、もう一枚いくかー。｣
そう言うと、今度はオーガが巨大なハンマーを取り出した。
｢Poweeeeeeerrrrrrrrr!!!!!｣
･･･ハンマー厨のオーガに掛かれば、外さずとも看板は即事粉砕だった。
･･･
看板を粉々にされてがっくり来ている社長に、皐月さんはさらなる追い打ちを掛ける。
2x4材とコンパネを組み合わせて作られた大型のパネルが、ディスキャニ前に次々と運び込まれた。そしてトリオに合流した作業員10人と電動インパクトドライバー13台。
他の作業員は社長を羽交い締めにして、身動きを取らせなかった。
ギュルン、ダダダダダダッ。ダダダダダダダッ。
次々とネジが打ち込まれ、パネルがさらに大型のものになっていく。
そしてしばらくすると、ディスキャニの店舗は完全に通路から遮断された。
｢皐月さん、例のブツ、刷り上がりました。｣
｢OK、問題なしよ。今すぐ貼って。｣
･･････････････････････････････
株式会社 リビングマート
労働環境調査部
リブワイドモールRYUZAN 運営セクション
リビング・ライフ 運営セクション
お客様へ
お客様にご愛顧頂いておりました、
｢Discovery CANYON リブワイドモールRYUZAN店｣
｢Discovery CANYON リビング・ライフ高山第一団地店｣
(運営会社：黒龍堂株式会社)
ですが、このたび重大なテナント契約違反があることが発覚したためペナルティとして強制閉店の処分を下すこととなりました。
【リビングマートが把握している契約違反の主たる内容】
・賃金不払い(サービス残業の強制等)
・幸川県の最低賃金を下回る時給の設定
・偶発的に発生した損害に対する弁償の強制
これらは労働基準法に違反していると同時に従業員の権利を侵害するものであり、リビングマートとしては決して許されてはならないものと考えております。
そのため、誠に遺憾ではありますがこのような処分を下す次第でございます。
尚、本店で購入された商品についてのお問い合わせは
リブワイドモールRYUZAN店：1階総合インフォメーション
リビング・ライフ高山第一団地店：食品コーナーサービスカウンター
にてお受けいたします。
この度はお客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが事情をご賢察の上、何卒ご了承くださいますようよろしくお願い申し上げます。
･･････････････････････････････
2時間後、9時45分。
モールの閉店時間が近づき、館内に「蛍の光」が鳴り響く。
そして、目の前には完全に息の根を止められた｢元｣ディスキャニ。
意気消沈し、へたり込む社長。
｢テナントの従業員は我が社の従業員も同じ。だからホワイト企業にはデベロッパーとして全力で支援する。そしてブラック企業は抹殺する。これがリビングマートのやり方です。この様子は、全てビデオに撮らせて貰いました。今後あなたのような愚かな悪徳企業が現れないようにとの願いを込め、必要であれば見せしめとして一般公開も行います。｣
｢まさかここまで裏切られるとは･･･いったい、誰がリークしたんだ･･･｣
｢何を言っているのかわかりません。社員があなたを裏切ったのではありません。あなたが社員を裏切ったのです。もしこれで訴えるのであれば、我が社は全力で対抗します。｣
･･････････････････････････････
翌日。
デベロッパーがサビ残を理由にテナントを惨たらしく潰したというニュースは流通業界を震撼とさせた。
中にはやり過ぎだという声もあったが、概ねは犯罪者への制裁は当然と擁護する声だった。特に庶民の暮らしを大事にすると言うことを掲げるいくつかの政党からは大絶賛。
しかも、その情報はアイランドモールにも伝わった。その結果ディスキャニはアイランドモールからもこっぴどく怒られて、かなりの店舗が強制閉店に追い込まれた。
もちろん龍山店も、その中の一つだ。どうやらここで追随しておかないと、元々苦戦している幸川の市場でまたリビングマートに差を付けられると思ったようなのだ。
･･･
そして、リブワイドモールRYUZANのディスキャニ跡地。
そこには電動工具を持った男達。所々ドワーフやアカオニ、アマゾネスなんかの姿もあったりする。
そこには、こんなポスターが貼られていた。
｢厳選した生活雑貨をお届け。皆様の生活をより明るく、楽しく、豊かにすることをお約束します。｣
新店舗の名前は｢ふぁにーらいふ・ぞーん ぷろでゅーす・ばい・たぬぽん｣。そう、あの話が本当になったのである。
そしてそこには、こんなポスターも貼られていた。
｢まだまだスタッフが足りません！リブワイド・モールRYUZAN店(12名)・リビング・ライフ高山第一団地店(５名) 新規スタッフ募集中！｣
実は、たぬぽんはディスキャニで働いていたスタッフの中から希望者を優先的に採用していた。結果ほぼ全てのスタッフを引き継ぐことにはなったのだが、惠子さんに言わせればまだスタッフは足りないのだとか。
｢あと10人は採らないと･･・このままじゃ、第一団地店はオープンできないかも知れないわね･･･｣
｢確かに。ほんと、ディスキャニは人を採らなさすぎです。しかもこれでも多すぎるって言ってたらしいですよ。うちは多少オープンが遅れても大丈夫ですから、まずは十分な人員を確保してください。｣
｢この店の規模で総メンバー5人でしょ? みんな休む暇、あったのかしらね。｣
･･･数ヶ月後。
人員不足を理由に開店は1ヶ月遅れたものの、無事に第一団地店もオープンした。
コンセプトの違いから常時置いてる商品は違うものの、そこは有力家具・雑貨店が母体なだけにディスキャニが担っていた需要もカバーできているという。
それより何より、スタッフの顔色が明らかにいいのが見て取れた。
そしてそんなある日。
｢宗一、もう上がりだろー。メシ行こうぜー。｣
｢おぉー、凪･･・と、なんだ。皐月さんも一緒かよ。ま、俺も･･･ほら。｣
｢よろしく。エクシエント・クラークスよ。｣
宗一の隣には、何とも豪快そうなオーガが突っ立っていた。
なんでも、店が新しくなってからできた彼女なんだそうだ。
｢まったく、二人には感謝しないとな。それこそ前なんか、”発電”する元気すらなかった事もあったからなぁ。｣
｢そーいちぃ。“発電”なんかする暇、“今も”ないでしょ?｣
どうやら、二人ともお盛んなようだ。
｢でもまぁ、元気になって何よりだよ。じゃ、とりあえずどの店にする?｣
そう言って、僕達4人はモールのレストラン街に消えていったのだった。
お昼のニュースのローカル枠に、皐月さんが映っていた。
｢では続きまして、県内のニュースをお送りします。｣
画面には『リビングマートとたぬぽん｢ブラック企業許さない｣』なんてテロップ。
｢県内に37店舗のスーパーマーケットを展開する株式会社リビングマートは本日、悪質なテナントに強制閉店の制裁措置を下したと発表しました。リビングマートの発表によりますと、同社の商業施設『リブワイドモールRYUZAN』など２店舗に出店していた雑貨店『ディスカバリー・キャニオン』に対しサービス残業などの実態があるとして、『悪質な規約違反により誠に遺憾ながら強制閉店・一部財産没収という厳しい制裁措置を下す結果となった』としています。それでは、記者会見の映像をどうぞ。｣
そして彼女はマスコミの前で、堂々とこう言ってのけたのだ。
｢･･･我が社は、テナントの従業員も直営の従業員と同じくらい大切にします。そして従業員の為ならデベロッパーとしての権限を振りかざします。我が社は、ブラック企業の存在を決して許しません。それが地域に根ざしたスーパーとしての責務だと考えています。｣
なお今後ディスカバリー・キャニオン跡地は高山市の家具店、有限会社たぬぽんの新形態店舗が入居する予定で、社長の保谷 惠子さんによりますと今回のリビングマートの行動に賛同して希望すればスタッフは全員引き継ぐ意向を示しているとのことです。
･･････････････････････････････
ブラック企業。
そんな言葉が世に出てからもう久しい。
ある日、僕と皐月さんがは二人で出かけていた。
全国規模のスーパー、アイランドグループが運営する｢アイランドモール｣の店内をぶらついていた。まぁ、確かに敵情が気にならないわけではないが、あくまで純粋なお出かけである。
そしてモール内をぶらついていると、たまたま古い友人に出くわした。
｢よぉ、凪じゃねーか。この綺麗なねーちゃんは!?｣
｢お、久しぶりだなぁ。あ、皐月さん。コイツは望月 宗一(もちづき そういち) 、僕の古い友人。･･･ってか宗一、何か顔色悪くねーか?｣
｢あぁ･･･いや、お前の女の前で話すことじゃねーよ。ちょっと残業続きで疲れてるだけだから。｣
｢へぇ、でも残業代とか｣
｢出ればいいんだけどなぁ･･･｣
後から聞いた話だと宗一は中に入居している雑貨店でバイトしているという。
ところがだ。いざ入ってみるとその雑貨店はサビ残地獄だった。
開店準備で1時間。しかも金は出ないのに遅れると怒られる。
そして帰りも定時で帰れた試しがない。もちろん給与にカウントされない。
･･･月に30時間はサビ残してるというのも、あながちウソではなさそうだ。
･･････････････････････････････
本当に、気の毒だ。
旧友がブラックで搾取されてるだなんて。
しかし、この話に強く食いついたのは意外にも皐月さんの方だった。
｢宗一くん、だったわよね? ご飯奢るから、その話、詳しく聞かせてちょうだい。もちろん、キミがリークしたってことは誰にも言わないわ。｣
そう言うと、モールを後にした。
そして、場所は変わって｢和風処 なごみ｣。
ちなみにこのお店、グループ企業のリブレスト・ディベロプメントが運営している。
当然後述するリビングマートの社風を受け継ぎ、従業員の表情もどこかゆったりとしている。
それに真っ先に気付いたのは、宗一だった。
｢なんだか、そこそこ混んでるのにスタッフの表情に余裕がありますね。あ、一人、二人･･･フロアスタッフだけで12人もいるんですか!?｣
｢え? それくらいは必要でしょ!?｣
｢いらっしゃ･･･あ、皐月さん。こちらはお友達ですかね。お話の通り、奥部屋を用意してます。｣
｢ほんと、ここのスタッフはみんないい顔してます。表情がいい。来てすぐわかりましたよ。｣
･･････････････････････････････
｢さて、本題だけど･･･それ、どこのお店の話なの!?｣
リビングマートグループには、従業員をとにかく大切にする企業風土がある。それこそスタッフの人員には余裕を持たせるし、サービス残業などもってのほかである。そしてそれはテナントにも徹底させており、破った場合は厳しい罰則が科せられている。
そしてそれは、リビングマート以外にある系列他店で行われていた場合にも科せられるのだ。
｢あ、ディスカヴァリー・キャニオンです。夜番の奴なんかは3時間残ることもザラにあるみたいですよ。｣
｢･･･何か嫌な予感するわね･･･ちなみに、時給はいくら?｣
｢690円ですね。日曜だろうと夜だろうとずーっとこれ。｣
｢えぇっ!? 幸川県の最低賃金って、先月発表された最新ので確か752円よ!?｣
｢えぇーっと、752×30で･･･おい、22000円は搾取されてるぞ!?｣
｢え、最賃ナナハン!?嘘だろ!? そう言えば、バイト募集にも時給書いてなかったな･･･｣
このやりとりで、とうとうというか･･･皐月さんは静かに、しかし確実にブチ切れた。
その顔はというと、｢甘々お姉ちゃんのお稲荷さん｣から、｢怒りに震える妖狐｣へと変わっていった。そして･･･
｢･･･潰す。｣
ちょ!?
何か、皐月さんの口から物騒な単語が聞こえたぞ!?
｢宗一くん、今すぐ辞表を突きつけなさい。いずれ、ディスキャニは潰れるわ。いいえ、リビングマートが絶対に潰す。｣
｢はぁぁっ!?｣
｢サビ残を強要するような企業は、存在することを許さない。それは、私達リビングマートの信念だから。手始めに、龍山モール店を強制閉店に追い込むわ。｣
｢ちょっとそれは無茶なんじゃ｣
｢規約に書いてあることだから、大丈夫。｣
｢でもさ、宗一はどうなる｣
｢今、アイランドモールにいるのよね。500mも離れていないリビング・ライフ龍山バスターミナル店で食品品出しの募集を掛けてたはずよ。よかったら、また連絡してみてね。さて、労基署とうちの労働環境調査部に連絡しないと･･･それから、空きができるから惠子さんにも･･･｣
そう言う皐月さんを、宗一は止めにかかった。
｢ま、待ってくれ! 労基署はやめてくれ!! 店長が本部にこっぴどくやられちまう!!｣
なんでも、上からの圧力が非常に強く店長は目にクマができ、今にもぶっ倒れそうな状態なのだとか。結果、ビタミン剤多量摂取のヤク漬けゾンビ状態になっているそうだ。
｢･･･それなら、尚更ね。店長さんもこのままじゃ死んじゃいます。きっとそんなんじゃ、ご飯もマトモに食べていないでしょうし･･･。｣
｢確かに、食いそびれてるだろうなぁ･･･｣
ぐぅ〜っ。
｢お待たせいたしました。こちら豚カツ定食3つになります。｣
｢ははは、俺も今日は昼メシ食えなかったからなぁー。休憩時間は短いし、フードコートは混みまくりだし。｣
｢あらあら。それでしたらご飯とおみそ汁はお代わり自由になっておりますので、ぜひお腹いっぱいお召し上がり下さい。｣
｢それじゃ、この話はここでおしまい。さぁ、早く食べましょ。｣
･･････････････････････････････
｢･･･これは、酷いわね･･･。｣
皐月さんは、アイランドモールに戻っていた。
ディスキャニの店舗を覗く為だ。ちょうどそのタイミングで･･･
｢おい!! なんなんだこの成績は!! お前らがボケカスなお陰で会社のカネがどんどん消えてるのがわかんねーのか?｣
｢社長、も、申し訳ございまs｣
｢テメーの謝罪なんて一円にもなんねーんだよ!!わかったらもっと稼ぎやがれ!｣
何と社長が、店長をまるで奴隷の如く罵倒していたのである。
しかも、そこはバックヤードですらない。客からも丸見えな、レジでであった。
｢ひ、酷い･･･店長さん、かわいそう･･･。｣
レジの中にいる店長からは、客の様子が見える。
当然というか、社長の態度に客はドン引きだ。
｢(おい、こんな店、とっとと出ようぜ･･･)｣
｢(そうね･･･こんな店で働きたくない〜。)｣
そんな客のヒソヒソ話が、店長の耳には聞こえていた。
｢(あぁ･･･お客様が、逃げていく･･･)｣
｢聞いてんのかコラ!!｣
｢(あぁ、もう6時だよ･･･滝沢くん、4時上がりなんだけどなぁ･･･)｣
｢何とかいったら｣
｢あ、滝沢くん。キミはもう上がって。２時間も遅れて、本当にすまない｣
｢たった２時間で何だ!! お前は仕事をなんだと思って｣
｢ただの金を得る手段です。｣
あの滝沢くんって子も、相当機嫌が悪そうだ。それはまぁ、２時間もサビ残させられたら無理もない。
｢社長、悪いことはいいません。その態度を改めてください。労基署に訴えられて一番困るのは、他でもない社長自身ですよ。｣
｢なんなんだお前は社長に逆らうのか!｣
｢店長は法に則ってカネ払えって言ってるだけだろ。テメーがやってんのは食い逃げと同じなんだよ。｣
｢何だと!? おい、ちょっとこっち来い!!俺がお前の根性、叩き直してやる!｣
｢で、業務命令ですからちゃんと時給はでるんですよね?｣
｢出る訳ないだろうお前は何を考えて｣
｢なら帰ります。クビにしたいならご自由にどうぞ。さて、今日の上がりは6時13分、っと･･･あ、社長。私、ここ2ヶ月の上がりの時間を記録してますんで覚悟しておいてください。｣
｢･･･オイ、明智! あのガキがああなのも、全部お前のせいだからな! 覚悟しておけ!!｣
｢(全部お前のせいだろうが･･･)｣
その後、皐月さんはこの滝沢くんにも話を聞いた。
すると宗一と瓜二つの答えが返ってきた。
｢店長もいつ倒れるんじゃないかと、正直心配だよなぁ･･･｣
その後、リブワイドモールRYUZAN店も覗いた。
アイランドグループはどうか知らないが、リビングマートの店舗ならあんな惨状は厳しく規制しているはずだ･･･そう、信じていた。しかし、その想いは見事にうち砕かれた。
酷さは相変わらずだったのだ。皐月さんが関係者とわかると、どこか怯えた表情をする店長。どうやら、社長の巡回でこっぴどくやられたようだ。
店をあとにする際、皐月さんはこう言ったそうだ。
｢･･･あなたやここのスタッフはいい人揃いだけど、ここはあと1ヶ月の命です。その後の再就職はうちが面倒見ますから、どうかご自愛下さい。｣
｢ここだけの話なんですが、あの社長･･･｣
｢アイランドモール店も覗いたので、大体想像は付きます。先程、そのスタッフからのSOSも聞きましたし･･･｣
｢リビングマートの規約以前にみんなのことを考えると、僕は定時で上がらせたいし残業代もキッチリ出したいんです。もちろん僕だって欲しいです。それに、スタッフだってあと5人は入れたいです。でも、あの社長はそれを許さないんです。こんな店を5人で回せなんて･･･。｣
･･･皐月さんは、開いた口がふさがらなかった。
｢私達を、助けてください。もう、私の力ではどうしようもありません。｣
店長の、悲痛な叫びだった。
｢わかりました。うちの労働環境調査部に話を入れましょう。失われた給料は、必ず取り戻しましょう。｣
これが、確定した皐月さんの答えであった。
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一方、高山駅周辺。
市民生活の会という市民団体が、デモ運動を行っていた。
実は、いくら幸川県といえども残念ながらブラック企業は存在するのだ。
ついにブチ切れた労働者が、一斉に駅前のペデストリアンデッキで声を上げているのだ。
｢･･･まさか、この幸川にもブラック企業が存在してるとは思いもしなかったわ。｣
｢たぬぽん｣の会議室の窓から、デモを眺めていた惠子は悲しそうな顔をしていた。
そんな中である。
惠子のケータイが鳴った。そのディスプレイには｢リビングマート 中原皐月｣とあった。
｢あら、何の用かしら･･･｣
｢あ、毎度お世話になっております。こちら家具と生活雑貨のデパートたぬぽん 保谷惠子です。｣
｢こちらこそお世話になります、リビングマートの中原皐月です。ちょっと一つお話がありまして、お電話させて頂きました。｣
｢あ、はい。どのような用件でしょう。｣
｢単刀直入に申します。リブワイド・モールRYUZANのディスカヴァリー・キャニオン跡地に出店するつもりはございませんか?｣
｢龍山モールに出店できるのは当社としても魅力的な話ではありますが、ディスキャニってそれほど業績は悪くないはずですよね。何があったんですか?｣
｢実はディスキャニは私の聞き込みでブラックであることがわかりました。労働環境調査部が正式にその判定を出せば、当社の規定に基づき強制閉店のペナルティを受けて頂くことになるのです。リビング・ライフ高山第一団地店に関しても同様の処分が下ります。そこで、ブラックとは無縁のたぬぽんさんに来て頂けたらと思いまして。｣
｢わかりました、前向きに検討させて頂きますのでその話が確定しましたらまた連絡してください。私もブラックは許せませんので、従業員の幸せにもブラックへの見せしめにもなるのであればと思います。｣
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【警告書】
黒龍堂株式会社 社長殿
この度、弊社は貴社店舗｢ディスカヴァリー・キャニオン｣アイランドモール龍山店、リブワイド・モールRYUZAN店におきましてサービス残業、最低賃金規定違反の事実があるとの情報を受けました。
これは、弊社テナント規定に違反しております。
弊社労働環境調査部でこの案件に関して調査し事実であることが確認できましたので、テナント規定に基づき
ディスカヴァリー・キャニオン リブワイド・モールRYUZAN店
ディスカヴァリー・キャニオン リビング・ライフ高山第一団地店
以上2店舗に強制閉店の処分を下す事といたしました。
<注釈>弊社テナント規定
第1条【法令に関するもの】
緊急時を除き、いかなる場合も法令遵守で企業活動を行わなければならない。
第12項
サービス残業など、従業員を対価なしで使役する行為を原則禁止する。
第13項
弊社の内外を問わず、系列店舗で同様の違反行為があった場合はペナルティを課す。
第27条【規定違反へのペナルティ】
第3項
悪質な違反が見受けられた場合、強制閉店処分を執行することがある。
尚、いかなる資産も撤退期限までに運び出せなかった場合はその全てを没収し、
所有権は弊社へと移行する。
第4項
何らかの形で従業員に損失を負わせた場合、その評価額の1.5倍を
該当者に支払わなければならない。現物支給に関しては双方が納得すれば
店頭表示価格の20%相当として支払いに充てることができる。
尚、閉店当日には店舗にご来店頂きますのでその点もご留意下さい。
株式会社リビングマート 中原皐月
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そして、リブワイド・モールRYUZAN店強制閉店処分執行の日がやってきた。
撤退期限は、通達から10日後の午後7時半。
実はこの7時半という時間帯、ディスキャニ前がもっとも混む時間帯である。
そう、リビングマートはディスキャニを晒し者にする気なのである。
しかしそうとは知らない社長は相変わらずの利益至上主義で、その日の午後5時までは撤退業務を禁止した。もちろん、損失は出してはいけない。
その話を聞いた皐月さん。怒りを通り越して、最早呆れていた。
｢事情はわかりました。通達は10日前に出していますから、これで間に合わなければこの指令を出した社長の責任です。あなた方が損失を補填することはありませんよ。｣
これはつまり、｢２時間半で何ができるんだ｣と言う意味でもあった。
それを見越して撤退までの猶予を与えたのに、それを無視した社長。
それで間に合わなかったのは、社長の落ち度だとしたのだ。
そして、午後7時を回った頃。
｢ったくもー!! あのクソ社長!!棚卸しでも1週間は掛かるこの商品を２時間で運び出せとか頭イッてんじゃねーのかー!!｣
せっぱ詰まった少ない従業員からは、愚痴がダダ漏れだ。
皐月さんはただただ、その様子を見守っていた。
そして、とうとう時計の長針が6を指したのであった･･･。
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｢なんだお前らー!! 全然片づいてないじゃねーか!! 使えねークズ共だなｺﾞﾙｧ!!｣
この一言に、皐月さんはブチ切れた。
｢あら社長さん、ご足労どうもです。でもあなたに、情状酌量の余地はまったくありませんねぇ。｣
｢何だと?｣
パチン、と指を鳴らすと、なにやら物々しい装備を持ったガタイのいい女が3人こっちに来るではないか。
アカオニ、オーガ、アマゾネスの3人組で構成された建築物解体業者だ。
｢･･･やれ。｣
｢わーりやしたぁぁぁッ! 皐月さんッ!!｣
｢さーて、イッツ・公開処刑ターイムッ!!｣
｢さぁさぁみんな見てらっしゃい、今からブラック社長への公開処刑が始まるよぉ〜ん!!｣
すると、3人はバールを一斉に掲げ･･･
｢そーれっ!!!｣
バキャッ!!
｢Discovery CANYON｣と書かれた看板が、一気に床へと落とされる。
そして、オーガとアマゾネスの二人がかりでその看板を社長の目の前に持ってくると、あからさまにぞんざいな扱いで地にまた落とす。そして、次の瞬間。
｢悪徳企業、粉砕。｣
アカオニの鉄拳が、その看板にクリーンヒット。言葉どおり、看板は一撃で粉砕されてしまった。
｢や、やめろおおおぉぉぉおぉぉっ!!!!｣
社長の懇願するような叫び声。
しかし、3人組を止めるモノは誰一人としていなかった。
かつての従業員も、誰も止めようとはしない。
中には、笑みを浮かべる者までいる。
もちろん立ち会いのリビングマート社員が止めるわけもない。
｢よーし、もう一枚いくかー。｣
そう言うと、今度はオーガが巨大なハンマーを取り出した。
｢Poweeeeeeerrrrrrrrr!!!!!｣
･･･ハンマー厨のオーガに掛かれば、外さずとも看板は即事粉砕だった。
･･･
看板を粉々にされてがっくり来ている社長に、皐月さんはさらなる追い打ちを掛ける。
2x4材とコンパネを組み合わせて作られた大型のパネルが、ディスキャニ前に次々と運び込まれた。そしてトリオに合流した作業員10人と電動インパクトドライバー13台。
他の作業員は社長を羽交い締めにして、身動きを取らせなかった。
ギュルン、ダダダダダダッ。ダダダダダダダッ。
次々とネジが打ち込まれ、パネルがさらに大型のものになっていく。
そしてしばらくすると、ディスキャニの店舗は完全に通路から遮断された。
｢皐月さん、例のブツ、刷り上がりました。｣
｢OK、問題なしよ。今すぐ貼って。｣
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株式会社 リビングマート
労働環境調査部
リブワイドモールRYUZAN 運営セクション
リビング・ライフ 運営セクション
お客様へ
お客様にご愛顧頂いておりました、
｢Discovery CANYON リブワイドモールRYUZAN店｣
｢Discovery CANYON リビング・ライフ高山第一団地店｣
(運営会社：黒龍堂株式会社)
ですが、このたび重大なテナント契約違反があることが発覚したためペナルティとして強制閉店の処分を下すこととなりました。
【リビングマートが把握している契約違反の主たる内容】
・賃金不払い(サービス残業の強制等)
・幸川県の最低賃金を下回る時給の設定
・偶発的に発生した損害に対する弁償の強制
これらは労働基準法に違反していると同時に従業員の権利を侵害するものであり、リビングマートとしては決して許されてはならないものと考えております。
そのため、誠に遺憾ではありますがこのような処分を下す次第でございます。
尚、本店で購入された商品についてのお問い合わせは
リブワイドモールRYUZAN店：1階総合インフォメーション
リビング・ライフ高山第一団地店：食品コーナーサービスカウンター
にてお受けいたします。
この度はお客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが事情をご賢察の上、何卒ご了承くださいますようよろしくお願い申し上げます。
･･････････････････････････････
2時間後、9時45分。
モールの閉店時間が近づき、館内に「蛍の光」が鳴り響く。
そして、目の前には完全に息の根を止められた｢元｣ディスキャニ。
意気消沈し、へたり込む社長。
｢テナントの従業員は我が社の従業員も同じ。だからホワイト企業にはデベロッパーとして全力で支援する。そしてブラック企業は抹殺する。これがリビングマートのやり方です。この様子は、全てビデオに撮らせて貰いました。今後あなたのような愚かな悪徳企業が現れないようにとの願いを込め、必要であれば見せしめとして一般公開も行います。｣
｢まさかここまで裏切られるとは･･･いったい、誰がリークしたんだ･･･｣
｢何を言っているのかわかりません。社員があなたを裏切ったのではありません。あなたが社員を裏切ったのです。もしこれで訴えるのであれば、我が社は全力で対抗します。｣
･･････････････････････････････
翌日。
デベロッパーがサビ残を理由にテナントを惨たらしく潰したというニュースは流通業界を震撼とさせた。
中にはやり過ぎだという声もあったが、概ねは犯罪者への制裁は当然と擁護する声だった。特に庶民の暮らしを大事にすると言うことを掲げるいくつかの政党からは大絶賛。
しかも、その情報はアイランドモールにも伝わった。その結果ディスキャニはアイランドモールからもこっぴどく怒られて、かなりの店舗が強制閉店に追い込まれた。
もちろん龍山店も、その中の一つだ。どうやらここで追随しておかないと、元々苦戦している幸川の市場でまたリビングマートに差を付けられると思ったようなのだ。
･･･
そして、リブワイドモールRYUZANのディスキャニ跡地。
そこには電動工具を持った男達。所々ドワーフやアカオニ、アマゾネスなんかの姿もあったりする。
そこには、こんなポスターが貼られていた。
｢厳選した生活雑貨をお届け。皆様の生活をより明るく、楽しく、豊かにすることをお約束します。｣
新店舗の名前は｢ふぁにーらいふ・ぞーん ぷろでゅーす・ばい・たぬぽん｣。そう、あの話が本当になったのである。
そしてそこには、こんなポスターも貼られていた。
｢まだまだスタッフが足りません！リブワイド・モールRYUZAN店(12名)・リビング・ライフ高山第一団地店(５名) 新規スタッフ募集中！｣
実は、たぬぽんはディスキャニで働いていたスタッフの中から希望者を優先的に採用していた。結果ほぼ全てのスタッフを引き継ぐことにはなったのだが、惠子さんに言わせればまだスタッフは足りないのだとか。
｢あと10人は採らないと･･・このままじゃ、第一団地店はオープンできないかも知れないわね･･･｣
｢確かに。ほんと、ディスキャニは人を採らなさすぎです。しかもこれでも多すぎるって言ってたらしいですよ。うちは多少オープンが遅れても大丈夫ですから、まずは十分な人員を確保してください。｣
｢この店の規模で総メンバー5人でしょ? みんな休む暇、あったのかしらね。｣
･･･数ヶ月後。
人員不足を理由に開店は1ヶ月遅れたものの、無事に第一団地店もオープンした。
コンセプトの違いから常時置いてる商品は違うものの、そこは有力家具・雑貨店が母体なだけにディスキャニが担っていた需要もカバーできているという。
それより何より、スタッフの顔色が明らかにいいのが見て取れた。
そしてそんなある日。
｢宗一、もう上がりだろー。メシ行こうぜー。｣
｢おぉー、凪･･・と、なんだ。皐月さんも一緒かよ。ま、俺も･･･ほら。｣
｢よろしく。エクシエント・クラークスよ。｣
宗一の隣には、何とも豪快そうなオーガが突っ立っていた。
なんでも、店が新しくなってからできた彼女なんだそうだ。
｢まったく、二人には感謝しないとな。それこそ前なんか、”発電”する元気すらなかった事もあったからなぁ。｣
｢そーいちぃ。“発電”なんかする暇、“今も”ないでしょ?｣
どうやら、二人ともお盛んなようだ。
｢でもまぁ、元気になって何よりだよ。じゃ、とりあえずどの店にする?｣
そう言って、僕達4人はモールのレストラン街に消えていったのだった。
15/01/01 18:46更新 / ぜろトラ！