高坂雄一は、電車に乗りながら窓の外を見ていた。既に日は暮れており、建物の窓から放たれる明かりが見える。仕事の疲れで鈍くなった頭に、その明かりは催眠のような効果をもたらす。
　そのような状態にあっても、電車の中の人々が自分を時折見ている事は、雄一には分かる。露骨に怪訝そうな顔をして雄一を見ている女の顔が、電車の窓に映っていた。
　当たり前か。雄一は苦笑する。さえないメタボなおっさんが極上の香水の香りを漂わせていれば、不審に思うことは当たり前だ。もっとも、雄一は香水を付けてはいない。妻と娘に付けられた香りだ。
　雄一は、電車内から目をそらして窓の外を見る。いい加減に他人の反応は慣れたが、不快であることは変わらない。早く家に帰りたかった。

　雄一は、自宅のドアの前に立った。妻と共稼ぎで、やっと手に入れた中古住宅だ。もっと稼げたらなと、苦笑しながらチャイムを押す。たちまち走ってくる音が聞こえてくる。ドアが勢いよく開き、翼を広げた二人の魔物が飛びついてくる。
「あなた、おかえりなさい！早く中年男の臭いをかがせて！」
「父さん、おかえり！オヤジ臭をかがせて！」
　二人は、雄一を金色の翼で包み込み、肉感的な褐色の体を押し付ける。二人の体から放たれる官能をかき立てる香気が、雄一を包む。そして二人は、雄一の体に顔を擦り付けて、鼻を鳴らしながら臭いをかいだ。魔物たちは、臭いをかぐと陶然とした顔となる。
　雄一は、二人を抱きながら家に入り、ドアを閉める。もう近所では知られている光景だが、それでも雄一は見られたくは無い。
　妻と娘は、神鳥と呼ばれる魔物ガンダルヴァだ。愛の女神に仕えて音楽を愛する鳥の魔物だ。妻であるマラティは、高校の音楽教師をしている。元は、ヴィーナを初めとする弦楽器の奏者だった。雄一と結婚した時に、生活を安定させるために音楽教師となったのだ。娘であるカマラは、中学生であり同じ学校の生徒とバンドを組んでいる。担当はベースだ。
　ガンダルヴァは、洗練された香りをまとっていることでも知られる。彼女達は、体に香りを作る機能があるのだ。ガンダルヴァの香気によってつくられた香水は、最高級のものとされる。マラティとカマラは、毎朝、自分の香りを雄一にすり付ける。そのために雄一は、高級な香水を付けているのだと思われているのだ。
　そして、もう一つ彼女たちには大きな特徴がある。自分が愛する者の匂いをかぐことを好むのだ。彼女たちは、恋人や夫の匂いを熱心にかぐことが習性だ。
　もっともマラティとカマラは、ガンダルヴァの中でも変わり者と見なされるかもしれない。自分たちがすり付けた香りと混ざった雄一の臭いを、上気した顔でかぐ。
「あああ、このメタボ中年のくっさい臭い…。たまらない、たまらないのよ…」
「ふぁあああ、このキモオヤジのツンとくる臭い…。どうにかなりそう…」
　雄一をぼろくそに言いながら、雄一の臭いに酔いしれている。匂いフェチを通り越して、変態の域に達している。
　雄一はいい加減に慣れてしまっており、苦笑するしかなかった。

　マラティは、雄一を風呂へと連れてきた。夫婦の営みを風呂でやろうというのだ。カマラは、風呂には近づけない。「飯を先にしろ！じゃなければ、あたしもまぜろ！」とわめくカマラをよそに、二人はさっそく肉欲を満たそうとする。
　マラティは、金の飾りと紫の薄物で構成された衣装をまとっていた。乳首を金の飾りで隠しているだけであり、胸のほとんどを露出させている。下腹部は、逆三角地帯をわずかに薄物で覆っているだけだ。薄物は、透けて見えそうなほど危うい。この扇情的な衣装は、彼女が愛の女神に対してヴィーナを奏する時に着る衣装だ。マラティは、学校ではビジネススーツを着ている。だが、雄一と交わる時は、この官能的な衣装をまとうのだ。
　マラティは、鳥と人間が混ざり合ったような姿の魔物だ。手の代わりに金色の翼が生えている。その翼が手の代わりをするのだ。足は鳥のものであり、紫色の獣毛に包まれて金色の爪を生やしている。それでいながら、派手な感じの人間の美貌を持つ。豊かな胸と引き締まった腰、柔らかそうな太ももと下腹部は人間の女のものだ。その奇妙で官能的な体から、濃密な性を思わせる芳香が漂ってくる。
　マラティは、中学生の娘がいる女だ。それにもかかわらず、魔物女らしく若々しい容姿をしている。人間の女で言えば、二十代後半くらいに見える。
　マラティは、雄一のスーツを脱がしていく。ネクタイを外し、シャツを脱がせる。そしてアンダーシャツを脱がせて、ぜい肉が目立つ雄一の上半身を裸にした。マラティは舌なめずりをすると、汗で濡れた雄一の胸に顔をすり付ける。さらに右腋に顔を移動し、鼻を押し付けながら臭いをかぐ。
「何よ、この酸っぱい臭い。こんな臭いをさせて人前で歩いていたの？歩く公害じゃないの」
　マラティは、犬のように鼻を鳴らしながら言う。さらに、腋に舌を這わせる。あまりにも熱心になめ回すので、たちまち腋が唾液まみれになる。右腋が終わると、今度は左腋の臭いをかぎ、なめ回す。
　マラティは、雄一のベルトを外してスラックスを脱がす。既にペニスはそそり立ち、ブリーフはテントを張っている。雄一は元々トランクス派だったが、マラティにブリーフを履くことを命じられていた。マラティは、口でブリーフを引き下ろしてペニスを露出させる。
　肉感的な美貌を持った魔物は、雄一のペニスに鼻を押し付ける。そのまま鼻をこすり付けながら、音を立てて臭いをかぐ。
「臭い、臭すぎる！何よこれ！鼻がツンとするわ。臭いが脳まで突き刺さりそうよ」
　艶麗な顔を持った美女は、形の良い鼻を臭い肉棒に繰り返しこすり付ける。そして脱衣所中に響くような音を立てて臭いをかぐ。欲情に染まった顔を激しく動かし、鼻だけでは無く顔じゅうでペニスを愛撫する。
　雄一は怒張した肉の棒を動かして、メイクの映えるはっきりとした作りの顔を蹂躙した。肉棒の先端から次々とあふれ出す先走り汁で、褐色の顔をぬめり光らせる。鼻の穴に先走り汁が流れ込み、鼻水を流しているような有様となる。
　雄一は興奮と快楽のあまり、ペニスを弾けさせた。人間離れした大量の白濁液が、褐色の派手な美貌にぶちまけられる。インキュバスとなった男の精液で、たちまち褐色の顔が白く染まっていく。雄一は、ペニスを魔物の鼻に押し付けて、腰の奥から精液を撃ち放つ。濁った音を立てて、鼻の穴から白濁液が飛び出す。
　長かった射精が終わった。脱衣所内には刺激臭が充満している。臭液を顔じゅうに浴びせられて鼻の穴に流し込まれた魔物女は、白目をむいたまま涙を流している。男は、ペニスで鼻の穴に白濁液を塗り付けた。
「ああぁぁ、痛いのよ…。臭いを通り越して痛いのよ…。鼻が精液で凌辱されているの…」
　魔物女は、顔を動かし始めた。頭が壊れてしまったような顔をして、顔をペニスにこすり付け始める。魔物女は、ペニスを使って自分の顔中隅々まで白濁液を塗り付ける。涙と涎が、濃厚な精液と混ざり合っている。鼻で呼吸をしようとするたびに、鼻の穴の白濁液が泡立つ。
　魔物女は、男の白濁液まみれのペニスに舌と口で丹念に奉仕した。そして、乳首をわずかに隠す金の飾りを外して、胸を露わにする。唾液をたっぷり塗り付けたペニスを、豊かな胸の谷間にはさみ込む。弾力のある胸で初めはゆっくりと、次第に早く激しく愛撫する。胸の先から飛び出す先端に、繰り返し口づけをする。そしてねっとりと舌で嬲る。
　男のペニスは再び弾けた。一度目に劣らぬ濃さと量を保った白濁液が、すでに汚れている顔にぶちまけられる。二人の周りに立ち込めている刺激臭がさらに強烈なものとなる。魔物女の鼻に、再び大量の汚液が叩き付けられた。
　精液は、艶麗な顔を、滑らかな首を、豊かで張りのある胸を白く汚していく。褐色の肌が白く汚れる様は、男の欲情をかき立てる。臭いを染み込ませることで、自分のものにする満足感を味わうことが出来る。そして何よりも、汚れることを、臭いが染みつくことを魔物女が望んでいた。
　男は、白と褐色のまだらになって汚れている女を見た。魔物女は、汚れた鼻を鳴らして臭いをかいでいる。そして、壊れたような陶然とした顔で男を見上げている。男は、興奮で鼻息が荒くなっていく。
　男のペニスが柔らかい刺激を受け、硬くなっていく。魔物女が、また胸でペニスを揉み始めたのだ。よく見ると、女の股からは洪水のように液があふれて匂いを立てている。まだ、女の中に肉棒を埋めてはいない。
　変態たちの肉欲のぶつけ合いは、始まったばかりなのだ。

　二人は、風呂場に場所を移して繰り返し貪り合った。雄一は、床の上にマラティを押し倒して、腋をなめながら熱い膣を肉棒で貪る。マラティは、雄一の上にまたがり、顔をなめ回しながら肉棒を自分の中に咥え込む。雄一の精液は、マラティの子袋の中へと何度も注ぎ込まれた。
　雄一は、マラティの顔や胸だけでは無く、彼女の体中をペニスで嬲る。髪を、翼を、腋を、腹を、太ももを、尻を嬲り、先走り汁と精液を塗り付けた。マラティは、自分の体中を雄一になすり付けて、自分の体から出る液を塗りたくる。魔物女の汗が、唾液が、愛液が男の体に染み込まされて、匂いを付けた。
　こうして二人は、相手の体の外と中を、繰り返し汚して臭いを付けた。この偏執狂的な交わりは、性豪となっている雄一の精液を出しつくすまで行われた。風呂場の中は、男と女の性臭で充満してむせ返るほどだ。
　二人は、臭いと快楽を貪りつくすと、やっと換気扇を回してセックスを終えた。後は互いの体を洗い流してゆく。雄一は、胸が大きいためにこっているマラティの肩を揉みながら洗う。マラティは、その豊かな胸をスポンジ代わりに使って雄一の体を洗う。
　二人がやっと風呂場から出た時は、カマラはすっかりとお冠だ。わざとらしく、スプーンで食器を楽器のように叩いている。育ち盛りのカマラのために、間食としてサンドイッチを用意していたが、それでは足りなかったらしい。
　マラティは、急いで夕食を作り始める。雄一が帰ってくる前に半分以上終わらせており、仕上げにかかっているのだ。雄一も手伝いたいが、精を残らず搾り取られたので動けそうにない。精を存分に貪ったマラティは、つやつやとしている。
　カマラは、そんな二人をやれやれと言いたげな目で見ていた。

　食事を終えると、雄一はさっそく寝台に入った。仕事が終わった後に、マラティと繰り返し性の歓楽を尽くしたために、疲れ果てているのだ。早く寝て休まないと明日の仕事に差し支える。
　寝室のドアがノックされると、マラティとカマラが入ってきた。マラティはネグリジュ姿、カマラはパジャマ姿だ。二人は、さっそく雄一の寝ているベッドに入り込む。雄一に左側にマラティが入り、右側にカマラが入る。雄一は、妻の豊かな香りと娘の若い香りに包まれた。二人は、入ってすぐさま雄一の臭いをかぎ始める。
「あぁ…、風呂に入っても洗い落とせないこの臭い、たまらないわ…」
「臭うぜぇ、メタボオヤジの臭いがプンプンするぜぇ」
　二人は、雄一に抱き付きながら臭いを貪った。雄一は身じろぎする。妻はともかく、年頃の娘が自分に抱き付いて臭いをかぐ事には違和感がある。だがカマラは、雄一といつも一緒に寝ようとするのだ。だから、雄一とマラティの夫婦の営みは、風呂場でやることが多い。
「もう、カマラもいい加減に恋人を作りなさいな」
　マラティは、困ったような顔で言う。
「あたしの好みの男は、妻がいる場合が多いんだよ。独身のメタボなおっさんは、少ないんだ」
　どういう趣味だよ、と雄一は呆れる。
「そうねえ、私も同じ悩みを持ったから、カマラの苦労は分かるわ」
　分かるのかよ、と雄一は苦笑する。
「でも、独身な上に童貞の中年男は、たくさんいるのよ。日本は、童貞中年男の繁殖地だからね」
　どういう国だよ、と雄一は呆けそうになる。
「そういう男を捕まえたら、ご飯を食べさせて太らせなさい。男は育てるものよ」
　どういう育て方だと言いたいが、雄一は黙ることにした。
「そして、ユニコーンに注意しなさい。奴らは、目を血走らせて童貞を狙っているわ」
　ユニコーンは、上半身が人で下半身が馬の魔物娘だ。童貞男に執着する事で知られる。
「あと、あかなめとベルゼブブに気を付けなさい。奴らの好物はメタボなおっさんよ」
　あかなめは、長い舌を持つ魔物娘だ。人間の垢を好むことで知られ、伴侶の体中の垢をなめ取るそうだ。ベルゼブブは、ハエの体と人間の体が混ざり合った魔物娘だ。体臭や体液、垢を好み、伴侶の体を貪るのだそうだ。
　雄一はトリップしそうになる。妻と娘は、メタボな中年男についてかなり酷いことを言っている。ただ、ユニコーン、あかなめ、ベルゼブブが、メタボなおっさんの争奪戦をしていることは事実だ。
「それと男を捕まえたら、毎日臭いをかぐことを忘れないでね。浮気しているか、風俗に行っているか分かるから」
　マラティは、布団の下で雄一の体を愛撫しながら言う。雄一は、冷や汗が流れそうになる。雄一はもてない為に、マラティと付き合う前は風俗に通って性欲を満たしていた。風俗嬢のテクニックに感嘆し、マラティと付き合ってからも一度だけ行ったことがある。
　マラティは、臭いをかいで即座に見破った。きちんと体を洗っているにもかかわらず、他の女と交わったことを臭いで見破ったのだ。その後でマラティは、拷問の様なセックスを三日三晩続けて雄一を締めあげた。それ以来、雄一はマラティ以外の女と性の交わりはしていない。
　それどころか、オナニーもマラティから禁じられている。体を洗っても、オナニーをしたことが臭いでばれるのだ。マラティの嗅覚は、人間離れした魔物のものだ。
　まあ、風俗に行けなくても、オナニー出来なくてもかまわない。もてない俺が、マラティのような極上の女とセックス出来るのだ。その上に、カマラのような美少女が自分の娘であり、恥ずかしげもなく甘えてくる。雄一は、声を出さずに笑う。
　マラティは、柔らかい羽根でおおわれた翼で雄一の体を愛撫する。カマラも、雄一の体中を愛撫する。ただカマラは、雄一の股間は撫でることが出来ない。マラティが翼でおおっているからだ。
「ここは駄目よ、私だけのものなんだから。恋人のものを撫でなさい」
「けち！」
　カマラは、頬を膨らませる。
　雄一は、二人のやり取りに笑ってしまう。だが、急に眠気が襲いかかって来る。仕事とセックスで疲れ切っているのだ。
　眠りに落ちていく雄一のペニスを、マラティは翼でやさしく揉みほぐす。酷使したペニスが、愛撫によって癒される。かぎ慣れたマラティの香気が、ゆったりと雄一を包む。
　雄一は、妻と娘の愛撫と香りに包まれながら、安らかな眠りの世界へと落ちて行った。