読切小説
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滑って、倒して、責任とって
 風鈴の音が涼しげに響く季節。
 今年も土用の丑の日がやって来ました。
 多くの人がスーパーでウナギを買ったり、飲食店にウナギを食べにいらっしゃいます。

 「今年も予約が多くて忙しかったわ」

 私はお店の入り口に引っ掛けてある札を『準備中』に変える。まだ閉店には早いですが、ウナギの在庫が無くなってしまいました。
 お店の後片付けをしながら、私は一人の男性の様子をチラチラと確認する。

 「ふふふ、六郎さんは良く眠っているみたいですね」

 六郎さんは私が夫にしようと企んでいる35歳独身、大工をしているせいか少し職人気質な所がありますが、そこがまた魅力的。
 今日、彼の注文したうな重には、睡眠薬と私の粘液を混ぜた特別な物をお出ししました。彼がグッスリ眠っているのは私のせいなのです。

 「六郎さんが起きる前に身体も綺麗にしておかないと、忙しいわ……」

 私の身体は仕事疲れで少しだるさを感じますが、これから訪れるであろう交わりを想像してエネルギーを補充します。
 いつも以上にクネクネと左右に動きながらお店の後片付けを終え、六郎さんを担いでお店の奥の居住スペースへと運ぶ。

 「少し待っていてくださいね? すぐに身体を綺麗にしてきますから」

 寝ている六郎さんの耳元で囁いた後、私は素早くお風呂場へと移動するのでした。

















 私が六郎さんの頭を、人間でいう膝の辺りに乗せて一時間程が経ちました。

 「六郎さん、早く起きてくれないかしら?」

 仰向けに眠る彼のズボンの一部は大きく膨らみ、苦しそうにピクピクと動いています。
 もしかしたら、いやらしい夢を見ているのかも知れません。
 不意に、彼の口から寝言が漏れ出しました。

 「撫子さん……本当に……んですか?」

 どうやら夢の中で、六郎さんは私に何かを求めているようです。
 嬉しくなった私は六郎さんの耳元で優しく囁きます。

 「六郎さんの好きなようにしてくれていいんですよ? 私はこの機会をずっと待っていたんですから」

 私の言葉に六郎さんの目蓋がピクリと動き、ゆっくりと開いていく。ようやく目を覚ましたようです。

 「あれ……? なんで撫子さんの顔がこんなに近くに?」

 寝ぼけた頭で必死に状況を理解しようとする可愛い六郎さん。
 しばらくすると、自分が寝言で呼んでいた相手に膝枕をされている事に気づいたようです。
 慌てて私から離れようと思ったのでしょう、起き上がろうと手を突いた先は私の尻尾でした。もちろん、尻尾の位置は私が計算して置いておいたのですが。

 「うわっ!」

 六郎さんの手が盛大に滑り、無理に起き上がろうとした彼の顔が私の谷間へと向かってきます。正直ここまで計算通りに滑ってくれるとは思いもしませんでした。
 見事私の谷間へ挟まれた六郎さんを愛しく思いながら、私はわざと驚いた声を出します。

 「きゃっ、六郎さん……?」

 私の声を聞いた六郎さんが谷間から離れようともがきます。
 必死に手を突いて離れようとしますが、私の身体は彼を滑らせるためにいつも以上に粘液で覆われています。
 床にも予め自分の粘液を塗りつけてあるので、六郎さんが何処に手をついても滑るように仕向けてあります。
 何度も何度も六郎さんの手が滑り、その度に私の胸の谷間に顔を埋め、手は私の胸を鷲掴みにします。
 六郎さんの股にある立派な鰻の感触が丁度下腹部に触れ、私も興奮してきました。

 「六郎さん……そんなに胸を触りたいんですか?」

 私はわざとらしく六郎さんに問いかけると、彼の顔を谷間から離してあげます。彼の手は私の大きな胸を鷲掴みにしたままですが……。
 


















 私が六郎さんの身体を支えた事で、やっと胸から離れた六郎さんは顔を真っ赤にしながら私の望んだ言葉を言ってくれました。

 「本当に申し訳ない! 俺に出来る事があれば何でもするよ!」

 頭を床にこすりつけながら六郎さんは私に許しを求めています。
 ここで失敗するわけにもいかないですが、何度も胸を鷲掴みにされた私の身体は十分に火照り、もう我慢も出来そうにありません。

 「そうですね……六郎さんが私に何かをご馳走してくれれば許してあげますよ?」

 私の言葉に六郎さんが素早く顔を上げると、恐る恐る問いかけてきます。

 「撫子さん……ちなみに何が食べたいんですか?」

 六郎さんは高級料理店に連れて行かれると思っているのでしょう。彼の視線が彼の財布の中身と、私の顔を何度も往復します。

 「大丈夫ですよ六郎さん、私が望む物は六郎さんでも簡単に用意できるものですから」

 ああ、ついにこの言葉を言うときが来ました。淫らな表情を浮かべないように気をつけながら、あくまでもお淑やかに六郎さんに私の希望を伝えます。

 「六郎さんの持っている立派なウナギを、私のお口に食べさせてください」

 私の言った意味が分からなかったのでしょう。六郎さんはしばらく考え込んだ後に、先ほどよりも顔を真っ赤にしておもむろに立ち上がろうとします。

 「撫子さん! 流石にそれは―――」

 六郎さんの足が再び滑り、体制を崩した彼の身体全てが私のほうへと倒れこんできます。ここまで計画通りに事が運ぶと、後からしっぺ返しが来そうで怖いです。

 「六郎さん、これで言い逃れも何も出来ませんよ? ふふふっ」

 六郎さんに押し倒された私は、素早く彼の身体に自分の身体を巻きつけ、耳元で妖艶に囁きます。
 彼はしばらく私から離れようともがきますが、私の何処を触っても滑って逃げられません。
 自分の粘液で服が透けているせいでしょうか、六郎さんの視線が私の胸に固定されています。今日は黒のレースの下着を着けていますから、破壊力は抜群でしょう。

 「ふふふっ……ここまで来てしまったら、後はどうするか分かりますよね?」

 六郎さんの視線が私の顔へと移動します。

 「ちゃんと……責任、とってくださいね♥」

 私の言葉に、ようやく六郎さんが覚悟を決めたようです。ゆっくりと私に顔を近づけると、優しくキスをしてくれます。
 キスの後、私達はお互いに生まれたままの姿へと変わり、朝まで何度も愛を交わしました。
 生まれてから30年目の土用の丑の日、ようやく私はウナギを食べました。同時に夫も手に入り幸せ一杯です。
 













 季節は少し流れて秋。
 美味しいものをついつい食べすぎてしまう季節になりました。
 今日はお隣に住むサキュバスに朝食を尋ねられたので、私はこう答えました。

 「朝からお腹一杯、主人のウナギを味わっています」

 私の答えを聞いたサキュバスは、羨ましそうに私の顔を見つめるのでした。
16/05/22 08:13更新 / 富有柿

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