特別更生房
「糞っ……何で俺がこんな目に……」
両手に着けられた手錠を忌々しく睨みつけながら、一人の若者が呟く。
彼の両脇には連行を担当する武装した正規兵が二名、片方は人間の男性、もう片方はソルジャービートルだ。
若者の呟きを聞き取ったソルジャービートルが淡々と彼を責める。
「街ノ建物ニ火ヲ点ケタ貴方ガ悪イ、当然ノ結果ヨ」
彼女の言葉にもう一人の兵士が反応する。
「まぁまぁミネルバ落ち着いて、僕たちの仕事は彼を牢番に引き渡すまでだよ」
「後の事は判事さんに任せて、僕たちは早く警備に戻ろう」
彼の言葉に納得したミネルバは、うな垂れる若者に速く歩くように急かす。
魔物相手から逃げ切れる算段の無い若者は、大人しく判事の下まで連行されて行った。
若者達は無事に判事の下へと辿り着き、兵士達は仲睦まじくイチャイチャしながら街の中心へと戻っていく。
入り口の警備兵へと引き渡された若者は、街唯一の刑務所である巨大な建物の中へと連行されて行く。
「魔物用のサイズなのか……こりゃあ……」
若者は建物の大きさに目をパチクリさせて、自分の立場も忘れて興奮している。
彼が周囲の状況を見渡している間に判事の部屋まで到着したらしい、警備兵が判事の部屋のドアを開けると、若者に中に入るように指示を出した。
「君がここ最近この街を騒がしていた放火魔か、まずは名を聞こう」
美しい顔をした女騎士が若者を厳しい目付きで見据えながら声を掛けてきた。
若者は思わぬ美女の登場に動揺したのか、少し詰まり気味に自分の名前を答える。
「テ……テオだ、テオ・マクドネル……」
テオが素直に名乗った事に満足したのか、判事の女騎士は彼の罪を確認する。
「君がこの街で引き起こした放火は四件、三件はボヤ程度で済んだものの一件は全焼、生命に関わる重傷者を出している」
テオは判事の言葉に自分の立場を思い出すと、顔を伏せて黙り込んでしまう。
「どうした? 何か反論や事実と違う事は無いのか?」
判事の言葉にテオは顔をパッと上げると苦し紛れの言い訳を口にする。
「建物を全焼させ重傷者を出した火災は、俺のパートナーが起こした火事だ!」
テオのこの発言は、あっさりと三件の放火について認めたものであり、全焼させた一件についても関与を認めたものでもあった。
呆れた表情をしながら判事はテオを睨みつけながら語気を強める。
「そのパートナーとやらは火災に巻き込まれた子供を救う為に大怪我をしたのだぞ!」
「自らの保身の為に仲間を売る貴様とは大違いだな!」
判事の言葉にテオはぐうの音も出ない様子で、顔を真っ赤にさせ全身を震わせている。
「性根の腐った貴方に相応しい牢屋を用意してあげます」
「この罪人を特別房へ連れて行きなさい!」
判事の命令に頷いた警備兵が、抵抗するテオの襟首を掴んで引きずっていく。
「俺は悪くない! 俺に放火を指示したやつがいるんだー!」
テオの情けない声が建物内に響き渡るが、彼に同情する者は誰一人いなかった。
テオは牢番へと引き渡され、さらに刑務所の奥へと引きずられる。
「糞っ、刑務所の奥深くなんて拷問部屋くらいしか想像つかねぇじゃねぇか!」
テオが喚き散らしていると、牢番がその歩みをピタリと止める。
「私達は人を傷つけるような野蛮な道具は使ったりしない、予想が外れて残念だったな」
牢番はテオに吐き捨てるように言い放つと、テオを部屋の中へと投げ捨てる。
テオが投げつけられた痛みに耐えつつ立ち上がった頃には、頑丈な鉄の扉が閉められ施錠されていた。
扉の外から牢番の声が聞こえる。
「ここで今までの自分の行いを悔い改め、新たな人生を手に入れるといい」
石と金属がぶつかる音が次第に遠ざかって行く音を聞きながら、テオは一人呟いた。
「俺の人生はこれが二度目なんだよ……チクショウ」
テオはしばらく扉と睨めっこしていたが、今は体力を温存しようと牢屋にしては整えられたベッドに横になり眠りについた。
テオはその日、自分の人生を大きく変えてしまった日の夢を見た。
高名な彫刻家の長男として衣食住には困らない生活をしていた頃の夢だ。
そんな彼は、厳しい父、感情を面に出さない母、自分の事を疎ましく思う次男に囲まれた複雑な家庭生活を送っていた。
テオは幼い頃から幼い頃から父に厳しく彫刻の指導をされ、メキメキと頭角を現していく。
次男も同じように頭角を現していくが、当然後を継ぐのはテオだ。
テオはいつもその事で弟の事を馬鹿にしていた。
「お前がいくら頑張ったって親父の跡は継げないぞ? せいぜい自分の力だけで這い上がって来いよ」
弟の目に見る見る怒りが浮かぶが、テオはそんな弟の様子を面白がっていた。
テオの人生が大きく変わったのはそれから数ヶ月後、父の彫刻を買いにお得意先の貴族が屋敷を訪れた時だ。
「これはこれはマクドゥーガル様、良くぞお越しくださいました」
いつも家族には厳しい父が、貴族に対して笑顔を振りまきペコペコと頭を下げている。
テオはこの日も、ばれないようにそんな滑稽な父の様子を観察していた。
貴族は父の作品を一つずつ手に取り、一通り見回すと、元の場所へと戻していく。
そんな中、一つの作品の前で突然貴族の足が止まり、信じられないという表情で固まる。
「マクドネル君……君には失望したよ」
「こんな程度の低い作品を売りに出すようでは、君の腕も所詮ここまでの物だったという事かな?」
貴族が作品を手に取り、見せ付けるように父の前へ差し出す
見る見る表情が青ざめる父、貴族が持っている作品はテオの作ったものだった。
「なんで俺の作品が売り場に……」
テオは慌てて自分の部屋へと駆け出し、自分の作った物を飾ったショーケースを確認する。
「無い……俺の最初に作った作品が無い……」
うな垂れるテオの耳に、怒りを込めた足音が近づいてくる。
「テオ! お前はこの父の顔に泥を塗った、そんな貴様に家を継がせる事は出来ん!」
父はテオの事を殴りつけると、テオの胸倉を掴んで玄関へと連れて行く。
「二度とこの屋敷に戻ってくるな! この恩知らずが!」
投げ捨てられ、泥に塗れたテオの目に事の元凶が映る。
窓から口が裂けんばかりに口の両端を歪めた弟が、窓の内側からゴミを見るような目でテオの事を見つめていた。
テオが拘留された牢屋の中にヌルリと侵入する影が一つ。
悪夢に苦しめられ脂汗を流すテオの頬をそっと手のような物が撫でる。
不思議な事に手のような物が撫でた後は、テオの汗がまるで布で拭かれたように無くなっている。
不気味な影がテオの体液に満足したのか、その身を捩じらせ歓喜に打ち震える。
「うっ……うう?」
テオが起きそうになったのを察知したのか、影は先ほどよりも素早く、そして音を立てぬように姿を消した。
「うう……久々に嫌な夢を見たな……」
テオは目を開けると気だるそうに両目を擦り、上体を起こす。
「昨日は早く寝すぎたみたいだな、まだ日が昇ってきていないか」
テオはこっそり侵入して来た者に気づいた様子が全く無い、背伸びをして深呼吸をすると、ベッドから離れ牢屋の内部を確認し始めた。
牢屋の中は牢屋と思えないほど充実しており、テオを困惑させた。
寝室、居間、トイレと風呂は別々存在し、作業部屋のような部屋まであった。
キッチンだけは用意されていなかったが、囚人に火を使わせる刑務所などこの世界の何処にも存在しないだろう。
「まぁ、自殺しようと思えばできない事もないが……」
風呂にお湯を溜めながらテオは独り言を続ける。
「しかし、苦しい死に方は嫌だな、どうせ死ぬなら痛みを感じずにさっさと逝きたいものだ」
「それは困ります……旦那様」
突然後ろで聞こえた女の声に、テオは驚いて湯船の中へと落ちてしまう。
テオが溺れ死ぬつもりだと勘違いした女が慌ててテオの身体を引き上げる。
「ああっ旦那様! 早まらないでください」
ヌルヌルとした触手のような感触がテオの身体に伝わる。
テオは咳き込みながら湯船に飛び込む原因となった女を視界に捕らえた。
「ス……スライム?」
そこには美しい女性の顔をしたスライムのような魔物が淑やかに立っていた。
「スライムではありません、旦那様」
「私の名前はメイ、ショゴスという種族です」
テオはメイには答えず、彼女の外見をしっかりと確認する。
黒い髪状の部分にはホワイトブリムが存在し、身体もメイド服のような形状で保たれている。
顔は青白く十人中十人が美女という程整っており、目はまるで星一つ無い夜に月だけが輝いて見えているようだった。
思わず見惚れていたテオに心配そうな顔表情を浮かべたメイが顔を近づけてくる。
「大丈夫ですか? 何処かお怪我はございませんか?」
メイの言葉に正気を取り戻したテオが、慌てて彼女から距離を取る。
「寄るな魔物め、そもそもどうやってこの中に入ったんだ!」
テオのあからさまな拒絶にメイは一瞬悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに表情を改めテオの質問に答える。
「もちろん、私のこの液状の身体でしか通れない道を使っております」
「旦那様がこの特別更生房にいる間は私が身の回りのお世話を致しますので、これから末永く宜しくお願いいたします。」
まるで一生涯共に過ごすような言葉が聞こえたが、テオは聞き返すのも面倒くさいと、あえて突っ込まなかった。
否定をしないテオの様子に気を良くしたのか、メイが上機嫌でテオに話しかけてくる。
「まずは濡れた服を脱いで、ゆっくりと入浴なさってください」
「私は旦那様が入浴されている間に、濡れたお召し物の洗濯とお食事の用意を致します」
メイが上品な立ち振る舞いで風呂場を後にした後、テオは聞き忘れていた事を思い出し思わず呟いた。
「そういえば、特別更生房って言ってたな……どういう仕組みなんだ」
しばらく考え込むテオだったが、濡れた服が冷えてきたのか思わず震えると、大急ぎで服を脱いで暖かい湯船に収まる。
その後、風呂場でくつろいだテオの頭からは、特別更生房の疑問がすっぽりと抜けてしまっていた。
テオがメイに身の回りの世話をされるようになって半年の月日が流れた。
「うん、今日もメイの料理は美味しいな、すっと身体に入ってくる」
「お褒め頂いて光栄ですわ、旦那様♥」
褒められたメイの青白い肌が少し赤くなり、恥ずかしそうに身を捩らせる。
始めのうちは不気味だったその仕草も、今のテオにとっては可愛いものだ。
最初は彼女の料理に口をつけなかったテオだったが、空腹に負け一口食べた後は毎日残さず完食している。
メイへの態度が軟化すると共に、彼の性格も徐々にいい方向へと変化していた。
人の嫌がる事を平気で行い、自分の行動に責任を持っていなかった彼の姿はもう無い。
今のテオは何処にでもいるような好青年へと大変身を遂げていた。
メイの献身的な奉仕と、街の精神科医のカウンセリングが功を奏したのだろう。
「さて、腹ごしらえも済んだし、俺は作業に戻るよ」
テオは食事を終えると、実家を追い出されてから見るのも嫌だった、彫刻を作る作業へと戻っていく。
「はい、今日もお仕事頑張ってください」
テオの食べ終えた食事を素早く片付けながらメイが彼を作業場へと見送る。
彼の姿が完全に作業場へと消えたのを確認したメイが、先ほどまで持っていた食器類を自分の身体の中へと吸収していく。
「ああ……今日も旦那様に私の身体を使って頂けて、こんなに嬉しい事はありません」
テオに褒められた時よりも数段激しく、メイは身体を捩りながら両手を頬に添える。
鏡に写った彼女の顔はだらしなく蕩け、発情したメスの顔そのものだった。
作業場に篭ったテオは汗まみれに成りながら一つの作品を完成させた。
すっかり手に馴染んだ道具を見つめながら、テオは独り言を呟く。
「メイに新しく用意してもらった道具、軽くて丈夫で使いやすいな」
「もうこの道具じゃないと上手く作品を作れなさそうだ」
テオは自分が作り上げた作品と道具を交互に見つめる。
まだ父までとはいかないが、十分売り物になる彫刻をテオは作り出せるようになっていた。
「この牢から出たら、この街で彫刻屋を開くのもいいかも知れないな」
牢から出た後の事を想像し楽しそうにしていたテオは、一抹の寂しさも同時に感じていた。
「しかし、牢から出たらもう……メイとは会えなくなるんだな」
寂しそうに呟く彼の言葉に、手に持った彫刻道具がかすかに震えたように感じたが、この時のテオは気づいていなかった。
作品作りで疲れていたテオは、お風呂にも入らず汗まみれのままベッドへと横になる。
「いつも掃除や選択してくれるメイには申し訳ないが……」
ここにはいない、良く尽くしてくれている彼女に向かってテオは謝る。
身体にフィットする気持ちのいい枕とベッドの効果か、彼はいつの間にか深い眠りへと落ちていった。
約三時間後、日が落ち真っ暗になったテオの寝室に不審な影がヌルリと侵入していく。
暗い室内の中で不審な影の、月のように輝く瞳が注意深く辺りを見渡す。
その時、部屋の中に月明かりが差し込み、不審な影の姿が鮮明になる。
其処には、恍惚とした表情を浮かべたメイが身を捩らせながらテオの側に立っていた。
「今日は着替えもせず、お風呂にも入らずに眠ってしまわれたのですね?」
メイはテオを起こさないように小さく呟くと、愛おしそうに彼の頬へと手を伸ばす。
彼の頬をそっと撫でたメイの表情が見る見る快楽に歪んでいく。
「いつももより数段濃くていいお味です……♥」
「今日こそは最後まで御奉仕させて頂きますね、旦那様♥」
メイのメイド服のような身体が徐々に変化し、全裸の女性の形を作り出す。
そのまま彼女は、テオが起きても構わないといった様子で馬乗りになる。
「ん……? 何だ……?」
流石に目を覚ましたテオの視界一杯に、全裸のメイの姿が飛び込む。
「な……何をやっているんだ!」
テオの意識が急速に覚醒し、馬乗りになったメイを降ろそうと上体を起こし手を伸ばそうとする。
しかし、テオの行動よりも早くベッドからメイの身体と同じ色をした触手が伸びて来て、彼の全身を拘束していく。
「旦那様、心配しないでください♥」
寝ていたベッドに拘束され、暴れるテオをなだめる様にメイが話しかける。
「今までは生活のお世話だけでしたが、今夜からは夜のお世話も私がさせて頂くだけですから……♥」
彼女の言葉が終わる頃には、テオが着ていた服がドロドロと溶け出し、彼女の体内へと吸収されていく。
テオが今まで使っていた道具、身に着けていた衣服、恐らくはそれ以外の細かい物までもが、全てメイの身体から出来ていたのだ。
「や、やめてくれメイ! 頼むから俺の言うことを聞いてくれ!」
テオは必死に一線を超える事を拒否し、メイに奉仕を辞めるよう懇願するが、彼女は全く聞く耳を持たない。
「旦那様の分身は私と交わる事を望んでいるようですよ? 嘘をついてはいけませんわ♥」
馬乗りになったメイのヌルヌルした感触に刺激されたせいか、テオのペニスは完全に勃起してしまっている。
「自分の欲望に正直になってください、旦那様」
「私と、『一つ』になりましょう♥」
メイのヴァギナの形をした部分が、有無を言わさずテオのペニスを包み込む。
テオの身体に今まで感じた事が無い、不思議な快楽が押し寄せてくる。
まるで彼女の身体に自分のペニスが吸収されたかのように溶け合い、繋がった境界線が分からないのだ。
「メイ、お前……俺の身体を溶かしてるのか?」
未知の快楽に恐怖を覚えたテオが、一心不乱に腰を上下させるメイに問いかける。
気持ち良さそうに上を向いたまま身体を上下させていたメイが、涎を垂らしそうな程表情を歪めた顔をテオに向ける。
「溶かしてなどいませんわ、心配なら一度抜いて見せますよ……ほらっ♥」
メイが名残惜しそうに腰を浮かべると、たしかにテオのペニスは溶かされておらず、ガチガチに硬く反り返ったままの状態で現れる。
安心して息を吐き出すテオに、メイが少し咎めるような口調で話しかける。
「旦那様、私ばかりが動いていては不公平ですわ」
「どうか私と一緒に愛し混じり合って下さい」
テオの身体を拘束していた触手が姿を消し、自由に動けるようになる。
同時にベッドがその長さを変え、馬乗りになっていたメイが伸びた部分に仰向けに倒れこむ。
「さぁ……私を好きなように使ってください♥」
メイは脚をM字に開くと、自分の手でテオに見せ付けるようにヴァギナを拡げて見せる。
理性の限界を迎えたテオは鼻息を荒くしながらメイに近づき、乱暴にペニスを突き立てる。
「うおおおっ……気持ちよすぎる」
溶かされる不安が無くなったテオは先ほどまでの様子とはうって変わって、メイの中へと激しくペニスを前後させる。
メイもテオの動きに合わせるように腰を前後させ、精液を搾り取ろうと粘液の締め付けを強くする。
テオは限界が近いのか、身体をメイに密着させ彼女の唇を奪う。
「んんっ♥」
テオのラストスパートが始まり、メイの身体がパチャパチャと激しい水音を上げる。
しばらくピストンを続けたテオを身体が大きく跳ね、彼のペニスから大量の精液がメイの中へと注ぎ込まれる。
テオの長い射精が収まるまで、メイはテオの身体を密着させたまま離さなかった。
「ぷはっ……はぁ……はぁ……」
危うく窒息しそうになったテオだったが、射精を終えた事でメイの抱擁から解放される。
「旦那様の汗、唾液……精液……どれも美味しすぎます……♥」
もはや普段の淑やかなメイの表情は保たれておらず、精液をねだる淫らなメスの表情をテオに向けていた。
彼女に表情に再びテオはペニスを硬くすると、中に入れたまま再度ピストンを再開する。
「まだまだ夜は長いぞ……メイ、楽しませてくれよ?」
「はい、存分に私の身体を堪能してください♥」
どちらが動いているのか分からないほど溶け合った二人は、体力の限界を迎えるまで交わり続け、最後には一つの生物のように溶け合っていた。
テオが出所してから三年の月日が流れ、彼の経営する彫刻屋はそこそこ繁盛していた。
黙々と作品を作る彼の左手薬指には結婚指輪がはめられている。
「あなた、ご飯の用意が出来ましたよ?」
彼は作品を作る手を止めると、自分と同じように左手薬指に結婚指輪をはめた、最愛の妻、メイへと振り返る。
彼の使っていた彫刻道具が次々と彼女の身体へ吸収されていく。
「道具を片付けられちゃ、ご飯を食べるしかないな……」
テオは自分の頭をポリポリと掻きながら作業机から離れ、妻の元へと歩いていった。
食事の後、最愛の妻と朝まで溶け合ったのは毎日の事である。
両手に着けられた手錠を忌々しく睨みつけながら、一人の若者が呟く。
彼の両脇には連行を担当する武装した正規兵が二名、片方は人間の男性、もう片方はソルジャービートルだ。
若者の呟きを聞き取ったソルジャービートルが淡々と彼を責める。
「街ノ建物ニ火ヲ点ケタ貴方ガ悪イ、当然ノ結果ヨ」
彼女の言葉にもう一人の兵士が反応する。
「まぁまぁミネルバ落ち着いて、僕たちの仕事は彼を牢番に引き渡すまでだよ」
「後の事は判事さんに任せて、僕たちは早く警備に戻ろう」
彼の言葉に納得したミネルバは、うな垂れる若者に速く歩くように急かす。
魔物相手から逃げ切れる算段の無い若者は、大人しく判事の下まで連行されて行った。
若者達は無事に判事の下へと辿り着き、兵士達は仲睦まじくイチャイチャしながら街の中心へと戻っていく。
入り口の警備兵へと引き渡された若者は、街唯一の刑務所である巨大な建物の中へと連行されて行く。
「魔物用のサイズなのか……こりゃあ……」
若者は建物の大きさに目をパチクリさせて、自分の立場も忘れて興奮している。
彼が周囲の状況を見渡している間に判事の部屋まで到着したらしい、警備兵が判事の部屋のドアを開けると、若者に中に入るように指示を出した。
「君がここ最近この街を騒がしていた放火魔か、まずは名を聞こう」
美しい顔をした女騎士が若者を厳しい目付きで見据えながら声を掛けてきた。
若者は思わぬ美女の登場に動揺したのか、少し詰まり気味に自分の名前を答える。
「テ……テオだ、テオ・マクドネル……」
テオが素直に名乗った事に満足したのか、判事の女騎士は彼の罪を確認する。
「君がこの街で引き起こした放火は四件、三件はボヤ程度で済んだものの一件は全焼、生命に関わる重傷者を出している」
テオは判事の言葉に自分の立場を思い出すと、顔を伏せて黙り込んでしまう。
「どうした? 何か反論や事実と違う事は無いのか?」
判事の言葉にテオは顔をパッと上げると苦し紛れの言い訳を口にする。
「建物を全焼させ重傷者を出した火災は、俺のパートナーが起こした火事だ!」
テオのこの発言は、あっさりと三件の放火について認めたものであり、全焼させた一件についても関与を認めたものでもあった。
呆れた表情をしながら判事はテオを睨みつけながら語気を強める。
「そのパートナーとやらは火災に巻き込まれた子供を救う為に大怪我をしたのだぞ!」
「自らの保身の為に仲間を売る貴様とは大違いだな!」
判事の言葉にテオはぐうの音も出ない様子で、顔を真っ赤にさせ全身を震わせている。
「性根の腐った貴方に相応しい牢屋を用意してあげます」
「この罪人を特別房へ連れて行きなさい!」
判事の命令に頷いた警備兵が、抵抗するテオの襟首を掴んで引きずっていく。
「俺は悪くない! 俺に放火を指示したやつがいるんだー!」
テオの情けない声が建物内に響き渡るが、彼に同情する者は誰一人いなかった。
テオは牢番へと引き渡され、さらに刑務所の奥へと引きずられる。
「糞っ、刑務所の奥深くなんて拷問部屋くらいしか想像つかねぇじゃねぇか!」
テオが喚き散らしていると、牢番がその歩みをピタリと止める。
「私達は人を傷つけるような野蛮な道具は使ったりしない、予想が外れて残念だったな」
牢番はテオに吐き捨てるように言い放つと、テオを部屋の中へと投げ捨てる。
テオが投げつけられた痛みに耐えつつ立ち上がった頃には、頑丈な鉄の扉が閉められ施錠されていた。
扉の外から牢番の声が聞こえる。
「ここで今までの自分の行いを悔い改め、新たな人生を手に入れるといい」
石と金属がぶつかる音が次第に遠ざかって行く音を聞きながら、テオは一人呟いた。
「俺の人生はこれが二度目なんだよ……チクショウ」
テオはしばらく扉と睨めっこしていたが、今は体力を温存しようと牢屋にしては整えられたベッドに横になり眠りについた。
テオはその日、自分の人生を大きく変えてしまった日の夢を見た。
高名な彫刻家の長男として衣食住には困らない生活をしていた頃の夢だ。
そんな彼は、厳しい父、感情を面に出さない母、自分の事を疎ましく思う次男に囲まれた複雑な家庭生活を送っていた。
テオは幼い頃から幼い頃から父に厳しく彫刻の指導をされ、メキメキと頭角を現していく。
次男も同じように頭角を現していくが、当然後を継ぐのはテオだ。
テオはいつもその事で弟の事を馬鹿にしていた。
「お前がいくら頑張ったって親父の跡は継げないぞ? せいぜい自分の力だけで這い上がって来いよ」
弟の目に見る見る怒りが浮かぶが、テオはそんな弟の様子を面白がっていた。
テオの人生が大きく変わったのはそれから数ヶ月後、父の彫刻を買いにお得意先の貴族が屋敷を訪れた時だ。
「これはこれはマクドゥーガル様、良くぞお越しくださいました」
いつも家族には厳しい父が、貴族に対して笑顔を振りまきペコペコと頭を下げている。
テオはこの日も、ばれないようにそんな滑稽な父の様子を観察していた。
貴族は父の作品を一つずつ手に取り、一通り見回すと、元の場所へと戻していく。
そんな中、一つの作品の前で突然貴族の足が止まり、信じられないという表情で固まる。
「マクドネル君……君には失望したよ」
「こんな程度の低い作品を売りに出すようでは、君の腕も所詮ここまでの物だったという事かな?」
貴族が作品を手に取り、見せ付けるように父の前へ差し出す
見る見る表情が青ざめる父、貴族が持っている作品はテオの作ったものだった。
「なんで俺の作品が売り場に……」
テオは慌てて自分の部屋へと駆け出し、自分の作った物を飾ったショーケースを確認する。
「無い……俺の最初に作った作品が無い……」
うな垂れるテオの耳に、怒りを込めた足音が近づいてくる。
「テオ! お前はこの父の顔に泥を塗った、そんな貴様に家を継がせる事は出来ん!」
父はテオの事を殴りつけると、テオの胸倉を掴んで玄関へと連れて行く。
「二度とこの屋敷に戻ってくるな! この恩知らずが!」
投げ捨てられ、泥に塗れたテオの目に事の元凶が映る。
窓から口が裂けんばかりに口の両端を歪めた弟が、窓の内側からゴミを見るような目でテオの事を見つめていた。
テオが拘留された牢屋の中にヌルリと侵入する影が一つ。
悪夢に苦しめられ脂汗を流すテオの頬をそっと手のような物が撫でる。
不思議な事に手のような物が撫でた後は、テオの汗がまるで布で拭かれたように無くなっている。
不気味な影がテオの体液に満足したのか、その身を捩じらせ歓喜に打ち震える。
「うっ……うう?」
テオが起きそうになったのを察知したのか、影は先ほどよりも素早く、そして音を立てぬように姿を消した。
「うう……久々に嫌な夢を見たな……」
テオは目を開けると気だるそうに両目を擦り、上体を起こす。
「昨日は早く寝すぎたみたいだな、まだ日が昇ってきていないか」
テオはこっそり侵入して来た者に気づいた様子が全く無い、背伸びをして深呼吸をすると、ベッドから離れ牢屋の内部を確認し始めた。
牢屋の中は牢屋と思えないほど充実しており、テオを困惑させた。
寝室、居間、トイレと風呂は別々存在し、作業部屋のような部屋まであった。
キッチンだけは用意されていなかったが、囚人に火を使わせる刑務所などこの世界の何処にも存在しないだろう。
「まぁ、自殺しようと思えばできない事もないが……」
風呂にお湯を溜めながらテオは独り言を続ける。
「しかし、苦しい死に方は嫌だな、どうせ死ぬなら痛みを感じずにさっさと逝きたいものだ」
「それは困ります……旦那様」
突然後ろで聞こえた女の声に、テオは驚いて湯船の中へと落ちてしまう。
テオが溺れ死ぬつもりだと勘違いした女が慌ててテオの身体を引き上げる。
「ああっ旦那様! 早まらないでください」
ヌルヌルとした触手のような感触がテオの身体に伝わる。
テオは咳き込みながら湯船に飛び込む原因となった女を視界に捕らえた。
「ス……スライム?」
そこには美しい女性の顔をしたスライムのような魔物が淑やかに立っていた。
「スライムではありません、旦那様」
「私の名前はメイ、ショゴスという種族です」
テオはメイには答えず、彼女の外見をしっかりと確認する。
黒い髪状の部分にはホワイトブリムが存在し、身体もメイド服のような形状で保たれている。
顔は青白く十人中十人が美女という程整っており、目はまるで星一つ無い夜に月だけが輝いて見えているようだった。
思わず見惚れていたテオに心配そうな顔表情を浮かべたメイが顔を近づけてくる。
「大丈夫ですか? 何処かお怪我はございませんか?」
メイの言葉に正気を取り戻したテオが、慌てて彼女から距離を取る。
「寄るな魔物め、そもそもどうやってこの中に入ったんだ!」
テオのあからさまな拒絶にメイは一瞬悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに表情を改めテオの質問に答える。
「もちろん、私のこの液状の身体でしか通れない道を使っております」
「旦那様がこの特別更生房にいる間は私が身の回りのお世話を致しますので、これから末永く宜しくお願いいたします。」
まるで一生涯共に過ごすような言葉が聞こえたが、テオは聞き返すのも面倒くさいと、あえて突っ込まなかった。
否定をしないテオの様子に気を良くしたのか、メイが上機嫌でテオに話しかけてくる。
「まずは濡れた服を脱いで、ゆっくりと入浴なさってください」
「私は旦那様が入浴されている間に、濡れたお召し物の洗濯とお食事の用意を致します」
メイが上品な立ち振る舞いで風呂場を後にした後、テオは聞き忘れていた事を思い出し思わず呟いた。
「そういえば、特別更生房って言ってたな……どういう仕組みなんだ」
しばらく考え込むテオだったが、濡れた服が冷えてきたのか思わず震えると、大急ぎで服を脱いで暖かい湯船に収まる。
その後、風呂場でくつろいだテオの頭からは、特別更生房の疑問がすっぽりと抜けてしまっていた。
テオがメイに身の回りの世話をされるようになって半年の月日が流れた。
「うん、今日もメイの料理は美味しいな、すっと身体に入ってくる」
「お褒め頂いて光栄ですわ、旦那様♥」
褒められたメイの青白い肌が少し赤くなり、恥ずかしそうに身を捩らせる。
始めのうちは不気味だったその仕草も、今のテオにとっては可愛いものだ。
最初は彼女の料理に口をつけなかったテオだったが、空腹に負け一口食べた後は毎日残さず完食している。
メイへの態度が軟化すると共に、彼の性格も徐々にいい方向へと変化していた。
人の嫌がる事を平気で行い、自分の行動に責任を持っていなかった彼の姿はもう無い。
今のテオは何処にでもいるような好青年へと大変身を遂げていた。
メイの献身的な奉仕と、街の精神科医のカウンセリングが功を奏したのだろう。
「さて、腹ごしらえも済んだし、俺は作業に戻るよ」
テオは食事を終えると、実家を追い出されてから見るのも嫌だった、彫刻を作る作業へと戻っていく。
「はい、今日もお仕事頑張ってください」
テオの食べ終えた食事を素早く片付けながらメイが彼を作業場へと見送る。
彼の姿が完全に作業場へと消えたのを確認したメイが、先ほどまで持っていた食器類を自分の身体の中へと吸収していく。
「ああ……今日も旦那様に私の身体を使って頂けて、こんなに嬉しい事はありません」
テオに褒められた時よりも数段激しく、メイは身体を捩りながら両手を頬に添える。
鏡に写った彼女の顔はだらしなく蕩け、発情したメスの顔そのものだった。
作業場に篭ったテオは汗まみれに成りながら一つの作品を完成させた。
すっかり手に馴染んだ道具を見つめながら、テオは独り言を呟く。
「メイに新しく用意してもらった道具、軽くて丈夫で使いやすいな」
「もうこの道具じゃないと上手く作品を作れなさそうだ」
テオは自分が作り上げた作品と道具を交互に見つめる。
まだ父までとはいかないが、十分売り物になる彫刻をテオは作り出せるようになっていた。
「この牢から出たら、この街で彫刻屋を開くのもいいかも知れないな」
牢から出た後の事を想像し楽しそうにしていたテオは、一抹の寂しさも同時に感じていた。
「しかし、牢から出たらもう……メイとは会えなくなるんだな」
寂しそうに呟く彼の言葉に、手に持った彫刻道具がかすかに震えたように感じたが、この時のテオは気づいていなかった。
作品作りで疲れていたテオは、お風呂にも入らず汗まみれのままベッドへと横になる。
「いつも掃除や選択してくれるメイには申し訳ないが……」
ここにはいない、良く尽くしてくれている彼女に向かってテオは謝る。
身体にフィットする気持ちのいい枕とベッドの効果か、彼はいつの間にか深い眠りへと落ちていった。
約三時間後、日が落ち真っ暗になったテオの寝室に不審な影がヌルリと侵入していく。
暗い室内の中で不審な影の、月のように輝く瞳が注意深く辺りを見渡す。
その時、部屋の中に月明かりが差し込み、不審な影の姿が鮮明になる。
其処には、恍惚とした表情を浮かべたメイが身を捩らせながらテオの側に立っていた。
「今日は着替えもせず、お風呂にも入らずに眠ってしまわれたのですね?」
メイはテオを起こさないように小さく呟くと、愛おしそうに彼の頬へと手を伸ばす。
彼の頬をそっと撫でたメイの表情が見る見る快楽に歪んでいく。
「いつももより数段濃くていいお味です……♥」
「今日こそは最後まで御奉仕させて頂きますね、旦那様♥」
メイのメイド服のような身体が徐々に変化し、全裸の女性の形を作り出す。
そのまま彼女は、テオが起きても構わないといった様子で馬乗りになる。
「ん……? 何だ……?」
流石に目を覚ましたテオの視界一杯に、全裸のメイの姿が飛び込む。
「な……何をやっているんだ!」
テオの意識が急速に覚醒し、馬乗りになったメイを降ろそうと上体を起こし手を伸ばそうとする。
しかし、テオの行動よりも早くベッドからメイの身体と同じ色をした触手が伸びて来て、彼の全身を拘束していく。
「旦那様、心配しないでください♥」
寝ていたベッドに拘束され、暴れるテオをなだめる様にメイが話しかける。
「今までは生活のお世話だけでしたが、今夜からは夜のお世話も私がさせて頂くだけですから……♥」
彼女の言葉が終わる頃には、テオが着ていた服がドロドロと溶け出し、彼女の体内へと吸収されていく。
テオが今まで使っていた道具、身に着けていた衣服、恐らくはそれ以外の細かい物までもが、全てメイの身体から出来ていたのだ。
「や、やめてくれメイ! 頼むから俺の言うことを聞いてくれ!」
テオは必死に一線を超える事を拒否し、メイに奉仕を辞めるよう懇願するが、彼女は全く聞く耳を持たない。
「旦那様の分身は私と交わる事を望んでいるようですよ? 嘘をついてはいけませんわ♥」
馬乗りになったメイのヌルヌルした感触に刺激されたせいか、テオのペニスは完全に勃起してしまっている。
「自分の欲望に正直になってください、旦那様」
「私と、『一つ』になりましょう♥」
メイのヴァギナの形をした部分が、有無を言わさずテオのペニスを包み込む。
テオの身体に今まで感じた事が無い、不思議な快楽が押し寄せてくる。
まるで彼女の身体に自分のペニスが吸収されたかのように溶け合い、繋がった境界線が分からないのだ。
「メイ、お前……俺の身体を溶かしてるのか?」
未知の快楽に恐怖を覚えたテオが、一心不乱に腰を上下させるメイに問いかける。
気持ち良さそうに上を向いたまま身体を上下させていたメイが、涎を垂らしそうな程表情を歪めた顔をテオに向ける。
「溶かしてなどいませんわ、心配なら一度抜いて見せますよ……ほらっ♥」
メイが名残惜しそうに腰を浮かべると、たしかにテオのペニスは溶かされておらず、ガチガチに硬く反り返ったままの状態で現れる。
安心して息を吐き出すテオに、メイが少し咎めるような口調で話しかける。
「旦那様、私ばかりが動いていては不公平ですわ」
「どうか私と一緒に愛し混じり合って下さい」
テオの身体を拘束していた触手が姿を消し、自由に動けるようになる。
同時にベッドがその長さを変え、馬乗りになっていたメイが伸びた部分に仰向けに倒れこむ。
「さぁ……私を好きなように使ってください♥」
メイは脚をM字に開くと、自分の手でテオに見せ付けるようにヴァギナを拡げて見せる。
理性の限界を迎えたテオは鼻息を荒くしながらメイに近づき、乱暴にペニスを突き立てる。
「うおおおっ……気持ちよすぎる」
溶かされる不安が無くなったテオは先ほどまでの様子とはうって変わって、メイの中へと激しくペニスを前後させる。
メイもテオの動きに合わせるように腰を前後させ、精液を搾り取ろうと粘液の締め付けを強くする。
テオは限界が近いのか、身体をメイに密着させ彼女の唇を奪う。
「んんっ♥」
テオのラストスパートが始まり、メイの身体がパチャパチャと激しい水音を上げる。
しばらくピストンを続けたテオを身体が大きく跳ね、彼のペニスから大量の精液がメイの中へと注ぎ込まれる。
テオの長い射精が収まるまで、メイはテオの身体を密着させたまま離さなかった。
「ぷはっ……はぁ……はぁ……」
危うく窒息しそうになったテオだったが、射精を終えた事でメイの抱擁から解放される。
「旦那様の汗、唾液……精液……どれも美味しすぎます……♥」
もはや普段の淑やかなメイの表情は保たれておらず、精液をねだる淫らなメスの表情をテオに向けていた。
彼女に表情に再びテオはペニスを硬くすると、中に入れたまま再度ピストンを再開する。
「まだまだ夜は長いぞ……メイ、楽しませてくれよ?」
「はい、存分に私の身体を堪能してください♥」
どちらが動いているのか分からないほど溶け合った二人は、体力の限界を迎えるまで交わり続け、最後には一つの生物のように溶け合っていた。
テオが出所してから三年の月日が流れ、彼の経営する彫刻屋はそこそこ繁盛していた。
黙々と作品を作る彼の左手薬指には結婚指輪がはめられている。
「あなた、ご飯の用意が出来ましたよ?」
彼は作品を作る手を止めると、自分と同じように左手薬指に結婚指輪をはめた、最愛の妻、メイへと振り返る。
彼の使っていた彫刻道具が次々と彼女の身体へ吸収されていく。
「道具を片付けられちゃ、ご飯を食べるしかないな……」
テオは自分の頭をポリポリと掻きながら作業机から離れ、妻の元へと歩いていった。
食事の後、最愛の妻と朝まで溶け合ったのは毎日の事である。
16/05/03 23:57更新 / 富有柿