連載小説
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1862.7.4
 埃と古紙とインクの臭いに塗れながら、僕はいつものようにいつ終わるとも知れない文字の羅列を追っていた。そのさなか、突如として魔力の大きな乱れが家の周囲から感知された。乱れはどうやらこちらの方へ向かっている模様。正体を調べるべく、庭を一望する縁側へ出た。

 陽光の下の庭には、見知らぬ魔物の子供が紛れ込んでいた。どうやらサキュバスの幼体らしい。リボンで可愛らしく飾った角や翼がある。子供は物珍しそうにきょろきょろしながら、そこそこ手入れされているはずの花壇と菜園を歩き回っている。僕は小さな無法者へ声を掛けた。

「随分と可愛らしいお客さんが来たものだね」
「あ! お兄ちゃん、このお家の人?」
「そうだ。君は?」
「わたしマリアっていうの!」
「マリア、か。僕はセオドア。この屋敷で魔術の研究をしているんだ。君はどこから来た?」
「ん、えっと……」

 はきはきしていた彼女の口調が淀む。答えにくいことなのか? いや、敢えて隠す必要のないはずの質問だが。そもそも、彼女は答えにくそうにしているというよりかは、思い出そうとしている。自分の辿ってきた道を一つ一つ。そんな目付きだ。暖かな風が吹き込んで、頬を撫でる。やがて彼女は答えに行き着いたようだった。

「……わかんない!」

 それが僕と彼女の、いつ終わるとも知れない日々の始まりだった。
シルフによろしく18/10/08 22:19
節介な遠雷18/10/08 22:21
なつのゆうわく18/10/08 22:34

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