ユウルート番外編「龍の鳴く祭」
ユウねーさんの祀られている神社で行う夏祭りを龍の鳴く祭、と書いて龍鳴祭というらしい
俺は以前からユウねーさんに連れられてその祭りの準備を手伝っていたのだが、それもこの間終わりいよいよ祭りが始まる日までやってきた
…のだが、少し困ったことになっていた
「ゆ、ユウ様!?祭りに参加しないとはどういうことですか!」
「やーだぁ!やだやだやだぁ!」
「ね、ねーさん…わがまま言ったらアカンよ」
そう、祭の要であるユウねーさんが突然祭の参加を拒否し始めたのである
「ユウ様は神社に祀られた龍神として、来ていただかないと困りますぞ」
「今年のお祭りは神様不在としましょう…屋台さえあればお客さんは満足でしょう?」
「それではこの祭をやる意味がございません!ユウ様もあれほど祭を楽しみにしていらしたではありませんか!」
「うぅ、忘れてたわぁ…こんなことになるなら準備の段階で潰しておくべきだったのよぉ」
「神様とは思えない発言が飛び出したんやが」
「困りましたなぁ…」
ユウねーさんを呼びに来た神主さん達もお手を挙げていた、なんで急に祭りに行きたくないだなんて言い始めたのだろうか
気まぐれなところや子供っぽいところがあるねーさんだが、基本的には大人なのでこう言った時に反故する性格じゃないんだけど…
「…と、とりあえず我々は先に会場へおりますゆえ、どうかお考え直し下さい」
「どうやっても変わらないわよぉ…」
そう言って神主さん達は引き返してしまった、うーん…とは言えこの調子じゃ返事が変わることは無いよな
「なんでやユウねーさん、あんなにはりきって準備してたのに…」
「うぅ、たっくんには、たっくんだけには言えないの…ごめんねぇ」
「い、いや、無理強いはしないよ…嫌やったら仕方ないもんなぁ」
「たっくんは優しいのねぇ、でも今はその優しさが痛いわ…たっくんは気にせずみんなとお祭り楽しんでね」
「お、おう…」
そう言われては俺も引き下がるしかない、ねーさんが嫌な理由…なんなんだろうか?去年までは普通に参加してたと聞いたけど
…
「っつーわけなんやが、なんでか分かる人〜」
困った時、俺には頼れる人たちがいる…困った時のお姉ちゃん頼みということでユウねーさんを除くみんなに居間へ集まってもらった
「…姉さん、体調悪い?」
「さっき、ご飯お代わりするくらいには元気だったよね〜」
「今日までとても楽しみにしていたのに、どうしたのでしょうか?」
「ユウは気まぐれで約束事を破るやつではない、が…ユウは少々秘密主義なところがあるからな。」
「頼みのお姉ちゃん達にも分からないかぁ」
「うぅ…たくまちゃんの期待に答えられないダメなお姉ちゃんを許してくださいぃ…」
「あぁいや!シロ姉が悪いわけじゃ…」
「…ユウ姉さん、せっかくの晴れ舞台なのに」
「そうだよねぇ〜毎年毎年張り切ってるのにね」
「ちなみによく知らへんのやけど、ユウねーさんは祭では何をやるんや?」
「なんじゃ、知らぬのか?祀られた神としての力を示すのじゃ」
「神としての力を示す?」
「魔物についてはたー坊の方が詳しいだろうが、ユウは龍…魔物として最上位の力を持つことは知っているな」
「あぁ、知っとるよ。一説によると天候まで操る力を持ってるとかなんとか…」
「あぁ、ユウ姉さんってば雨とか降らせるんだっけ?凄いよねー」
「それほどに凄い力を持っているから、神様として祀られてるってことですね」
「…毎年、祭でその力を少しだけ見ることができるの」
「そう、神としての力を示すため、ユウはその力の一端を祭で見せつけるのじゃ。その際には巨大な龍へと姿を変えるのじゃが、あれは毎年驚愕するのぅ」
魔物娘は、魔王と呼ばれる存在の力により女性の姿になっているらしいが龍の様な強力な力を持つ存在は元の変わる前の身体に戻ることができると聞いた
祭では、そのユウねーさんの力を披露するというのが一番の目玉なのだとか…
「へぇ〜…やっぱり、そんなことやるんだったら俺、ユウねーさんには祭に参加してもらいたいんやけどなぁ」
研究者として、個人としても是非とも見てみたいものだが…
「…あっ!私、姉さんが嫌がった理由分かったかも!」
「ねぇねぇそれマジ!?」
「タクがいるからだよ、だから嫌がったんだ」
「えっ…お、俺?もしかして実は俺、ユウねーさんに嫌われてる…?」
今まで相思相愛で世界一熱々なカップルだと思っていたのに、百年の恋も冷めてしまったのだろうか
「…あぁ、そういうことですか」
「…なるほどなの」
「愛されとるのぉ、たー坊」
「えっ?えっ?」
「嫌われるより逆、愛されてるねぇタク」
俺以外は合点がいった様で、しきりに頷いている…一体なんなんだろう?
「姉さんは力を使う時の姿を、たくまちゃんに見られたくないんですよぉ」
「なんで?」
「タクに乙女心理解しろっていうのは無理な話だったかな…」
「…えっとね、たくま。姉さんも女の子だから…」
「???」
「言ったじゃろ、ユウは巨大な龍へと姿を変える。…好きな男の前で、一端の女がそんな姿を晒そうとなんて思うか?」
「え?別にいいじゃない、カッコ良さそう…」
「「「「ハァ〜〜〜…」」」」
みんなにめちゃくちゃデカいため息を吐かれてしまった、何がおかしいだろうか…
(タクってさ、前々から思ってたけど感覚がさぁ…普通の人とズレてない?)
(…きっとお父さんのせいですよ、学校に行かず研究所でずっと大人しかいない環境で育ってますから)
(…パパ、帰ったら覚えとくなの)
(うむ、帰ってきたら父上は処すとして…それよりたー坊じゃ。魔物のワシらが言うのもなんじゃが、一般的な人の感覚と乙女心を少し教えてやる必要がある)
(((賛成〜)))
「?」
ため息を吐かれてから、みんながヒソヒソと話し始めた…会話の内容は聞こえないが俺について話しているのか全員視線は俺に向けている
「よーし、タク!ちょっとアンタには一般人としてズレてるところがあるから、お姉ちゃん達が授業をしてあげましょう!」
「…ま、まぁ…この状況が打破できるなら…」
「…というわけですたくまちゃん、お姉ちゃんと二人きりでお部屋に行きましょう!いえいえ怖がる必要はありませんよ、お姉ちゃんが手取り足取り…ハァハァ、教えてあげますから…!」
「…シロナ、ふざけるとこじゃない」
「じ、冗談です…」
「いいか?たー坊よ、まず人は強大な力を何より恐るべきであるし、女として〜…」
…1時間ほどお姉ちゃん達の授業は続き、俺はなんとかユウねーさんが祭を拒否した理由が理解できた
つまり、普通の人は強大な力を怖がるからユウねーさんは俺に怖がられたりしたくないから龍としての姿を見せたくない…乙女心という複雑な理論らしい
「ユウねーさん、あまり気にするタイプじゃないと思ってた」
「まぁ、魔物同士の私達や他人に見られても気にしないのは確かですよ。ただ、好きな人に見せたいかと言われると…」
「…私なら嫌かも」
「アタシもかなぁ、タクに怖がられたらその場で死ぬ自信があるぅ」
「まぁ、たー坊がそんなことで怖がることは無いのは…ユウも承知の上でじゃろうがな」
「俺は良くても、自分は割り切れない…と、乙女心は複雑やなぁ…」
醜いオバケ、ということであれば躊躇する気持ちは分からんでもない…が、龍というのは写真で見たことがあるけど、綺麗だしカッコいいし…恥じるところは何もないはず
いや、カッコいいと言うのは…そうだな、女の子に相応しくない言葉かな、乙女心…難しい。
「…俺が今日ずっと家にいて、祭に行かなければユウねーさんは祭に出るかな?」
「うーん、望み薄いんじゃない?」
「姉さん、たくまちゃんには祭り楽しんでほしいと思いますよ」
「…逆にそのせいで行かなかったら、姉さん病んじゃうかも」
「俺が行くにしろ行かないにしろ、今のところユウねーさんが参加しないことにならんか」
「うむ、しかしワシらが介入できることでも無いからのぉ…伴侶はお主なのだ、どうにかしてみせい」
「ま、どっちにしろ私らは邪魔になりそうだし、先にお祭り行ってるよ〜」
そう言ってみんなは各々解散してしまった、まぁ…原因はわかったし後は俺次第かぁ
「…よし!」
…
「…はぁ、何やっているのかしらね…私は」
私の部屋からは縁側を跨ぎ、庭と繋がっている…その縁側から外をぼーっと見ながら私は悩んでいた
毎年恒例の夏祭り、私は神社の神を引き継いで数年…欠かさず参加していたのだけれど、今年はどうしても参加する気になれなかった
祭の目玉となる、私が龍の神としての力を披露する場…それにはある問題があった
(あんな姿…たっくんに見られたくない)
だってあんな、大きくて毛深くて恐ろしい姿…きっと怖がられてしまうから
怖がらない魔物の姉妹や、赤の他人に見られてもどうとも感じない…けれど、大好きな人に見せるのは…
(…あぁ、私はまだ過去に引きづられてるのね。本当に、面倒くさい女…)
小さい頃からたっくんはたっくんだった、優しくて純真無垢で、魔物だった私達に怯えるどころかすぐに歩み寄ってくれた
魔物の力は人間にとって強大で恐るべきもの、近代では受け入れられてきてはいるものの未だに恐れられた存在なのに、たっくんは微塵も臆することなく「ねーさん、ねーさん」と甘えてきてくれた
昔から知的好奇心が旺盛だった子なのは、研究者だったお父様譲りなのかしらね
それだけでどんなに姉妹が救われたか、たっくん自身は知る由もないのだろうけれど…
でも、だからこそ私だけは…龍の姿をたっくんに見せられない。
私だけが、他の姉妹と違い完全に人ではない姿を持っている…昔からそれだけが私のコンプレックスだった
勿論、龍であることに誇りは持っている…だから今までは気にしていなかった、けれど今は昔とは違う。
今の私はたっくんと結ばれた、男女の関係になった…だからこそ人間であるたっくんに完全に人では無い姿を見せることは、やはり抵抗がある。
(…たっくんがそういうの気にしないのは、分かりきってるんだけどね。)
気にされないと分かっていても、それでも切り替えられないのが私という女
僅かでも最悪な可能性があると、それを回避しようとしてしまう…我ながら面倒くさい女だなって思う
「…みんなは、もう祭に行った頃かしら。たっくんも一緒かしらね…久しぶりの祭だもの、たっくんには楽しんでもらいたいわね」
「…ねーさん抜きじゃ、楽しめないよ」
「ぇっ!?た、たっくん…?」
急に庭からたっくんがひょっこりと現れる、みんなと一緒に祭に行ったはずじゃ…
「は、早く行かないとお祭り終わっちゃうわよぉ〜」
「まだまだ始まったばかりや、本番は夜からだし…それに、ユウねーさんがいない祭なんて行く気にならない」
「みんなもう行ったんでしょう?ダメよ、一人だけ行かないなんて」
「ねーさんがそれ言う?…ええやん、片時も離れたくないって言ったのはねーさんやろが。俺はずっとユウねーさんの側にいるよ。」
「あら、お姉ちゃん好き好き甘えんぼモード?昔からずっとべったりねぇ」
「あぁ、そうや…ずっと昔からな」
「…ごめんねぇ、面倒くさいお姉ちゃんで…」
「そこが好きやもん、仕方ないわ」
あぁ…もう、さらっとこういうこと言えちゃう様になっちゃって…悪い男に育っちゃったわね
…いや、たっくんは昔からこういうこと言う子だったかしら、裏表がなくてさらっと心を口説き落とす言葉を言えちゃう…
だからみんな好きになっちゃったんだわ、本当に…悪い男ねぇ
「ねーさんが嫌だっていうこと、無理やりやらせる気は無いよ。神主さんだって、前の龍神が婿探しとか言って急にいなくなったぐらいのことがあったんだし、祭参加のドタキャンくらい想定してないわけないでしょ」
「…まぁ、私が後継いでなかった時は不在のまま祭やってたからねぇ」
「じゃ、別にええやん。…まぁ、俺個人としてはユウねーさんの全てを見たいっていう知的好奇心はあるけどな」
「…龍の姿なんて面白くもなんとも無いわよぉ、デカいし毛深いし…」
「面白くなくても、恋人の全てを見たいっていう気持ち…男として理解してほしいもんやな」
「…見たいの?」
「見たい、超見たい」
「ノータイムねぇ…」
「知的好奇心を抑えられないタチでして…」
「…わかった、わかったわよぉ…もう、ずるいんだから。弟に、大好きな人にそう言われて…断れるお姉ちゃんなんていないわよ」
魔物も人間も、お姉ちゃんという生き物は弟の喜ぶことの前にはどんな問題も些細なことになってしまう…コンプレックスとか自分がどういう存在なのかとか、どうでもよくなってしまう
ただただ、この愛おしい人のために尽くしてあげたくなってしまう…
「…少しでもビビったら、食べちゃうから」
「この時点で驚かしてくるのはズルやない?」
「目を閉じて、いいって言うまで開けないでね」
…
目を開けた、目の前にいるのはとても大きな存在だった。
神々しく、全てを包み込むような巨大な存在…そして変わることのない大好きな女の子の気。
「綺麗だよ、ユウねーさん…とても綺麗だ」
目の前にいる姿を変えたユウねーさんはとても美しかった、思わずひれ伏したくなるほどの圧倒的に神威…これが、龍…
でも、やっぱり怖くはない…だってユウねーさんが怖いなんてありえないから
「さぁ、願いを言いなさい…なんてね」
「ギャルのパンティーでも頼もうかな」
「たっくん?」
「この俺と、ユウねーさんの愛を永遠のものに…なんて言うのはどうや?」
「ふふ、容易い願いね」
「…あ、雨だ…」
ユウねーさんが変身してすぐにポツポツと空から雫が落ちてきて頬を濡らした、決して不快ではない、優しく清らかな雨…
「この姿になるとね、力が溢れて…天候に少し作用するみたいなの。だから龍が神様なんて呼ばれてるのかしらね」
「あぁ、あの神社…っていうかこの土地に古くから伝わる昔話だっけ」
昔々、この土地は枯れ果て生物のいない死の大地であったそうな
そこへ現れた一匹の龍が天へと一鳴きしたことにより、枯れ果てた土地に恵みの雨が降り注いだ
こうしてこの地は雨のおかげで緑に溢れ、生物の繁栄が約束された恵まれた土地に変わった、感謝した人々はこの龍を神様として祀ったのだという。
「…ははっ、凄い…マジで神様みたいやユウねーさん」
「みたい、じゃなくて実際に神様なの〜!」
「あははは、そうだったそうだった!そういえばこの近くのお祭りに、神様が来てないらしいな?」
「…もう、ここまでしたんだから行くわよぉ。ほら、たっくんも来なさい!」
「わっ、わっ!」
何か念力のようなもので身体が浮かされ、俺はユウねーさんの大きな頭の上に乗せられた
「このままお祭りまで行くの?」
「ええ、このまま派手に登場しましょう♪」
「…はいよ、付き合いましょうユウねーさん!」
そうして俺とユウねーさんは家から大空へ飛び立つ
身体を打つ優しい雨と、体を吹き抜ける風が心地よかった
…
「あ…姉さんだ!タクもいるよ!」
「本当ですね、って!たくまちゃん、あんなに危ない場所に…」
「…この優しい雨、久しぶりなの」
「ふふっ!やりおった、たー坊め…もう一人前の男じゃな」
俺は以前からユウねーさんに連れられてその祭りの準備を手伝っていたのだが、それもこの間終わりいよいよ祭りが始まる日までやってきた
…のだが、少し困ったことになっていた
「ゆ、ユウ様!?祭りに参加しないとはどういうことですか!」
「やーだぁ!やだやだやだぁ!」
「ね、ねーさん…わがまま言ったらアカンよ」
そう、祭の要であるユウねーさんが突然祭の参加を拒否し始めたのである
「ユウ様は神社に祀られた龍神として、来ていただかないと困りますぞ」
「今年のお祭りは神様不在としましょう…屋台さえあればお客さんは満足でしょう?」
「それではこの祭をやる意味がございません!ユウ様もあれほど祭を楽しみにしていらしたではありませんか!」
「うぅ、忘れてたわぁ…こんなことになるなら準備の段階で潰しておくべきだったのよぉ」
「神様とは思えない発言が飛び出したんやが」
「困りましたなぁ…」
ユウねーさんを呼びに来た神主さん達もお手を挙げていた、なんで急に祭りに行きたくないだなんて言い始めたのだろうか
気まぐれなところや子供っぽいところがあるねーさんだが、基本的には大人なのでこう言った時に反故する性格じゃないんだけど…
「…と、とりあえず我々は先に会場へおりますゆえ、どうかお考え直し下さい」
「どうやっても変わらないわよぉ…」
そう言って神主さん達は引き返してしまった、うーん…とは言えこの調子じゃ返事が変わることは無いよな
「なんでやユウねーさん、あんなにはりきって準備してたのに…」
「うぅ、たっくんには、たっくんだけには言えないの…ごめんねぇ」
「い、いや、無理強いはしないよ…嫌やったら仕方ないもんなぁ」
「たっくんは優しいのねぇ、でも今はその優しさが痛いわ…たっくんは気にせずみんなとお祭り楽しんでね」
「お、おう…」
そう言われては俺も引き下がるしかない、ねーさんが嫌な理由…なんなんだろうか?去年までは普通に参加してたと聞いたけど
…
「っつーわけなんやが、なんでか分かる人〜」
困った時、俺には頼れる人たちがいる…困った時のお姉ちゃん頼みということでユウねーさんを除くみんなに居間へ集まってもらった
「…姉さん、体調悪い?」
「さっき、ご飯お代わりするくらいには元気だったよね〜」
「今日までとても楽しみにしていたのに、どうしたのでしょうか?」
「ユウは気まぐれで約束事を破るやつではない、が…ユウは少々秘密主義なところがあるからな。」
「頼みのお姉ちゃん達にも分からないかぁ」
「うぅ…たくまちゃんの期待に答えられないダメなお姉ちゃんを許してくださいぃ…」
「あぁいや!シロ姉が悪いわけじゃ…」
「…ユウ姉さん、せっかくの晴れ舞台なのに」
「そうだよねぇ〜毎年毎年張り切ってるのにね」
「ちなみによく知らへんのやけど、ユウねーさんは祭では何をやるんや?」
「なんじゃ、知らぬのか?祀られた神としての力を示すのじゃ」
「神としての力を示す?」
「魔物についてはたー坊の方が詳しいだろうが、ユウは龍…魔物として最上位の力を持つことは知っているな」
「あぁ、知っとるよ。一説によると天候まで操る力を持ってるとかなんとか…」
「あぁ、ユウ姉さんってば雨とか降らせるんだっけ?凄いよねー」
「それほどに凄い力を持っているから、神様として祀られてるってことですね」
「…毎年、祭でその力を少しだけ見ることができるの」
「そう、神としての力を示すため、ユウはその力の一端を祭で見せつけるのじゃ。その際には巨大な龍へと姿を変えるのじゃが、あれは毎年驚愕するのぅ」
魔物娘は、魔王と呼ばれる存在の力により女性の姿になっているらしいが龍の様な強力な力を持つ存在は元の変わる前の身体に戻ることができると聞いた
祭では、そのユウねーさんの力を披露するというのが一番の目玉なのだとか…
「へぇ〜…やっぱり、そんなことやるんだったら俺、ユウねーさんには祭に参加してもらいたいんやけどなぁ」
研究者として、個人としても是非とも見てみたいものだが…
「…あっ!私、姉さんが嫌がった理由分かったかも!」
「ねぇねぇそれマジ!?」
「タクがいるからだよ、だから嫌がったんだ」
「えっ…お、俺?もしかして実は俺、ユウねーさんに嫌われてる…?」
今まで相思相愛で世界一熱々なカップルだと思っていたのに、百年の恋も冷めてしまったのだろうか
「…あぁ、そういうことですか」
「…なるほどなの」
「愛されとるのぉ、たー坊」
「えっ?えっ?」
「嫌われるより逆、愛されてるねぇタク」
俺以外は合点がいった様で、しきりに頷いている…一体なんなんだろう?
「姉さんは力を使う時の姿を、たくまちゃんに見られたくないんですよぉ」
「なんで?」
「タクに乙女心理解しろっていうのは無理な話だったかな…」
「…えっとね、たくま。姉さんも女の子だから…」
「???」
「言ったじゃろ、ユウは巨大な龍へと姿を変える。…好きな男の前で、一端の女がそんな姿を晒そうとなんて思うか?」
「え?別にいいじゃない、カッコ良さそう…」
「「「「ハァ〜〜〜…」」」」
みんなにめちゃくちゃデカいため息を吐かれてしまった、何がおかしいだろうか…
(タクってさ、前々から思ってたけど感覚がさぁ…普通の人とズレてない?)
(…きっとお父さんのせいですよ、学校に行かず研究所でずっと大人しかいない環境で育ってますから)
(…パパ、帰ったら覚えとくなの)
(うむ、帰ってきたら父上は処すとして…それよりたー坊じゃ。魔物のワシらが言うのもなんじゃが、一般的な人の感覚と乙女心を少し教えてやる必要がある)
(((賛成〜)))
「?」
ため息を吐かれてから、みんながヒソヒソと話し始めた…会話の内容は聞こえないが俺について話しているのか全員視線は俺に向けている
「よーし、タク!ちょっとアンタには一般人としてズレてるところがあるから、お姉ちゃん達が授業をしてあげましょう!」
「…ま、まぁ…この状況が打破できるなら…」
「…というわけですたくまちゃん、お姉ちゃんと二人きりでお部屋に行きましょう!いえいえ怖がる必要はありませんよ、お姉ちゃんが手取り足取り…ハァハァ、教えてあげますから…!」
「…シロナ、ふざけるとこじゃない」
「じ、冗談です…」
「いいか?たー坊よ、まず人は強大な力を何より恐るべきであるし、女として〜…」
…1時間ほどお姉ちゃん達の授業は続き、俺はなんとかユウねーさんが祭を拒否した理由が理解できた
つまり、普通の人は強大な力を怖がるからユウねーさんは俺に怖がられたりしたくないから龍としての姿を見せたくない…乙女心という複雑な理論らしい
「ユウねーさん、あまり気にするタイプじゃないと思ってた」
「まぁ、魔物同士の私達や他人に見られても気にしないのは確かですよ。ただ、好きな人に見せたいかと言われると…」
「…私なら嫌かも」
「アタシもかなぁ、タクに怖がられたらその場で死ぬ自信があるぅ」
「まぁ、たー坊がそんなことで怖がることは無いのは…ユウも承知の上でじゃろうがな」
「俺は良くても、自分は割り切れない…と、乙女心は複雑やなぁ…」
醜いオバケ、ということであれば躊躇する気持ちは分からんでもない…が、龍というのは写真で見たことがあるけど、綺麗だしカッコいいし…恥じるところは何もないはず
いや、カッコいいと言うのは…そうだな、女の子に相応しくない言葉かな、乙女心…難しい。
「…俺が今日ずっと家にいて、祭に行かなければユウねーさんは祭に出るかな?」
「うーん、望み薄いんじゃない?」
「姉さん、たくまちゃんには祭り楽しんでほしいと思いますよ」
「…逆にそのせいで行かなかったら、姉さん病んじゃうかも」
「俺が行くにしろ行かないにしろ、今のところユウねーさんが参加しないことにならんか」
「うむ、しかしワシらが介入できることでも無いからのぉ…伴侶はお主なのだ、どうにかしてみせい」
「ま、どっちにしろ私らは邪魔になりそうだし、先にお祭り行ってるよ〜」
そう言ってみんなは各々解散してしまった、まぁ…原因はわかったし後は俺次第かぁ
「…よし!」
…
「…はぁ、何やっているのかしらね…私は」
私の部屋からは縁側を跨ぎ、庭と繋がっている…その縁側から外をぼーっと見ながら私は悩んでいた
毎年恒例の夏祭り、私は神社の神を引き継いで数年…欠かさず参加していたのだけれど、今年はどうしても参加する気になれなかった
祭の目玉となる、私が龍の神としての力を披露する場…それにはある問題があった
(あんな姿…たっくんに見られたくない)
だってあんな、大きくて毛深くて恐ろしい姿…きっと怖がられてしまうから
怖がらない魔物の姉妹や、赤の他人に見られてもどうとも感じない…けれど、大好きな人に見せるのは…
(…あぁ、私はまだ過去に引きづられてるのね。本当に、面倒くさい女…)
小さい頃からたっくんはたっくんだった、優しくて純真無垢で、魔物だった私達に怯えるどころかすぐに歩み寄ってくれた
魔物の力は人間にとって強大で恐るべきもの、近代では受け入れられてきてはいるものの未だに恐れられた存在なのに、たっくんは微塵も臆することなく「ねーさん、ねーさん」と甘えてきてくれた
昔から知的好奇心が旺盛だった子なのは、研究者だったお父様譲りなのかしらね
それだけでどんなに姉妹が救われたか、たっくん自身は知る由もないのだろうけれど…
でも、だからこそ私だけは…龍の姿をたっくんに見せられない。
私だけが、他の姉妹と違い完全に人ではない姿を持っている…昔からそれだけが私のコンプレックスだった
勿論、龍であることに誇りは持っている…だから今までは気にしていなかった、けれど今は昔とは違う。
今の私はたっくんと結ばれた、男女の関係になった…だからこそ人間であるたっくんに完全に人では無い姿を見せることは、やはり抵抗がある。
(…たっくんがそういうの気にしないのは、分かりきってるんだけどね。)
気にされないと分かっていても、それでも切り替えられないのが私という女
僅かでも最悪な可能性があると、それを回避しようとしてしまう…我ながら面倒くさい女だなって思う
「…みんなは、もう祭に行った頃かしら。たっくんも一緒かしらね…久しぶりの祭だもの、たっくんには楽しんでもらいたいわね」
「…ねーさん抜きじゃ、楽しめないよ」
「ぇっ!?た、たっくん…?」
急に庭からたっくんがひょっこりと現れる、みんなと一緒に祭に行ったはずじゃ…
「は、早く行かないとお祭り終わっちゃうわよぉ〜」
「まだまだ始まったばかりや、本番は夜からだし…それに、ユウねーさんがいない祭なんて行く気にならない」
「みんなもう行ったんでしょう?ダメよ、一人だけ行かないなんて」
「ねーさんがそれ言う?…ええやん、片時も離れたくないって言ったのはねーさんやろが。俺はずっとユウねーさんの側にいるよ。」
「あら、お姉ちゃん好き好き甘えんぼモード?昔からずっとべったりねぇ」
「あぁ、そうや…ずっと昔からな」
「…ごめんねぇ、面倒くさいお姉ちゃんで…」
「そこが好きやもん、仕方ないわ」
あぁ…もう、さらっとこういうこと言えちゃう様になっちゃって…悪い男に育っちゃったわね
…いや、たっくんは昔からこういうこと言う子だったかしら、裏表がなくてさらっと心を口説き落とす言葉を言えちゃう…
だからみんな好きになっちゃったんだわ、本当に…悪い男ねぇ
「ねーさんが嫌だっていうこと、無理やりやらせる気は無いよ。神主さんだって、前の龍神が婿探しとか言って急にいなくなったぐらいのことがあったんだし、祭参加のドタキャンくらい想定してないわけないでしょ」
「…まぁ、私が後継いでなかった時は不在のまま祭やってたからねぇ」
「じゃ、別にええやん。…まぁ、俺個人としてはユウねーさんの全てを見たいっていう知的好奇心はあるけどな」
「…龍の姿なんて面白くもなんとも無いわよぉ、デカいし毛深いし…」
「面白くなくても、恋人の全てを見たいっていう気持ち…男として理解してほしいもんやな」
「…見たいの?」
「見たい、超見たい」
「ノータイムねぇ…」
「知的好奇心を抑えられないタチでして…」
「…わかった、わかったわよぉ…もう、ずるいんだから。弟に、大好きな人にそう言われて…断れるお姉ちゃんなんていないわよ」
魔物も人間も、お姉ちゃんという生き物は弟の喜ぶことの前にはどんな問題も些細なことになってしまう…コンプレックスとか自分がどういう存在なのかとか、どうでもよくなってしまう
ただただ、この愛おしい人のために尽くしてあげたくなってしまう…
「…少しでもビビったら、食べちゃうから」
「この時点で驚かしてくるのはズルやない?」
「目を閉じて、いいって言うまで開けないでね」
…
目を開けた、目の前にいるのはとても大きな存在だった。
神々しく、全てを包み込むような巨大な存在…そして変わることのない大好きな女の子の気。
「綺麗だよ、ユウねーさん…とても綺麗だ」
目の前にいる姿を変えたユウねーさんはとても美しかった、思わずひれ伏したくなるほどの圧倒的に神威…これが、龍…
でも、やっぱり怖くはない…だってユウねーさんが怖いなんてありえないから
「さぁ、願いを言いなさい…なんてね」
「ギャルのパンティーでも頼もうかな」
「たっくん?」
「この俺と、ユウねーさんの愛を永遠のものに…なんて言うのはどうや?」
「ふふ、容易い願いね」
「…あ、雨だ…」
ユウねーさんが変身してすぐにポツポツと空から雫が落ちてきて頬を濡らした、決して不快ではない、優しく清らかな雨…
「この姿になるとね、力が溢れて…天候に少し作用するみたいなの。だから龍が神様なんて呼ばれてるのかしらね」
「あぁ、あの神社…っていうかこの土地に古くから伝わる昔話だっけ」
昔々、この土地は枯れ果て生物のいない死の大地であったそうな
そこへ現れた一匹の龍が天へと一鳴きしたことにより、枯れ果てた土地に恵みの雨が降り注いだ
こうしてこの地は雨のおかげで緑に溢れ、生物の繁栄が約束された恵まれた土地に変わった、感謝した人々はこの龍を神様として祀ったのだという。
「…ははっ、凄い…マジで神様みたいやユウねーさん」
「みたい、じゃなくて実際に神様なの〜!」
「あははは、そうだったそうだった!そういえばこの近くのお祭りに、神様が来てないらしいな?」
「…もう、ここまでしたんだから行くわよぉ。ほら、たっくんも来なさい!」
「わっ、わっ!」
何か念力のようなもので身体が浮かされ、俺はユウねーさんの大きな頭の上に乗せられた
「このままお祭りまで行くの?」
「ええ、このまま派手に登場しましょう♪」
「…はいよ、付き合いましょうユウねーさん!」
そうして俺とユウねーさんは家から大空へ飛び立つ
身体を打つ優しい雨と、体を吹き抜ける風が心地よかった
…
「あ…姉さんだ!タクもいるよ!」
「本当ですね、って!たくまちゃん、あんなに危ない場所に…」
「…この優しい雨、久しぶりなの」
「ふふっ!やりおった、たー坊め…もう一人前の男じゃな」
20/03/14 07:41更新 / ミドリマメ
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