白い恋人
「やっくん…やぁーっくん♪朝、ですよ…起きてください♪」
俺、多摩ヤスオはそんな優しい声に起こされて目を覚ました…
眠気まなこを擦り目を開くと目の前には透き通るような白い髪の女性が、その宝石のような紅い瞳を緩ませて、その白い肌の頬を仄かに朱に染め俺を見下ろしていた
俺はゆっくりと寝ていたベッドから身体を起き上がらせる、すると目の前の女性の全体像が見える…今時の制服に身を包み、そのプリーツのスカートから伸びるのはスラリとした足…ではなく、真っ白な蛇の身体
「おはようございます、やっくん♪」
「あぁ、おはよー…サヤさん」
そう、彼女…白咲サヤさんは白蛇という魔物だ
魔物、というのはずっと前に人間と共存を表明した種族で全てが女性、身体が人間とは違う部分がある…と言った点以外は人間とはあまり変わらない種族で、昔はともかくいま現代そう珍しいものではない
「朝ごはん出来てますから、早くお着替えしちゃいましょうね♪あんまりのんびりしてると、学校にも遅刻しちゃいますし…」
「またご飯作ってくれたのか、おねーさんいつも悪いねぇ」
そんな魔物のサヤさんがどうして朝から俺を起こしてきたかと言うと…それは俺とサヤさんが付き合っている恋人の関係だからである
「あらあらそんなことないですよぉ、だって私がやっくんのお世話をするのは当然ですし…やっくんのお嫁さんになるなら花嫁修業は早くから始めた方が良いですし…♪」
頬を染めそう言うサヤさん、ちなみにサヤさんの料理は凄腕だ
「あ〜腹減ったなあ、着替えてご飯ご飯…」
俺自身好き嫌いないけど、サヤさんの料理は何を食べても美味しいんだよな
「ほらほらやっくん、ばんざ〜いってして下さいね♪」
「わっ、急に近いって!」
一瞬目を離した隙にサヤさんが鼻先が当たるような位置まで近づいてきていた、ふわりと良い匂いがして、ごく自然と腕に柔らかいサヤさんの胸の感触がした
「あれ、サヤさんまた胸大きくなった?」
「まぁまぁ、やっくんったらえっちなんですから…♪」
「えっ、あ、いや純粋な興味で…下心は9割しか無かったんだよ」
「もぉ、だめですよ?今は…急がないと遅刻しちゃいますし、まぁやっくんがどうしてもって言うなら1日くらい休んだって…♪」
「おっとそうだったそうだった、はやく着替えないと…」
俺がパジャマのボタンに手をかけると素早くサヤさんの下半身がしゅるりと伸びてきてそれを遮った
「あらあら、やっくんはじっとしていて下さいね?今私が脱がせてあげますから♪」
「待て待て、ちょっと待って?」
「あら、着替えより先にお手洗いでしたか?でしたら私もご一緒に…♪」
「一緒に来てナニをするんですかねぇ?…とりあえず着替えくらい一人でやるから!外に出てて、どうぞ」
「あらあら恥ずかしがっちゃって、気にしなくて良いんですよ?お風呂だって一緒に入る仲じゃないですかぁ♪」
「それとこれとは話が別なんだよなぁ…すぐ行くからサヤさんはご飯食べる準備しててホラホラ」
「…はぁい、わかりました。じゃあ待ってますから、はやく来てくださいね?二度寝したらダメですからね、その時はまた起こしに来ますけど…あら、もしかしたらその方が私的には嬉しいのでは…?」
「もうバッチリ目ぇ覚めてますよ!大丈夫だって安心しろよ〜!」
俺は半ば力ずくでサヤさんを部屋の外へ押し出す、まぁ相手のサヤさんは魔物だからちょっと本気出されたらすぐに押し返されちゃうんだけど
「ふう、さっさと着替えますかね…パパパッとやって、終わり!」
ちょっと遅れるとまたサヤさんが飛び込んできてしまいそうだし、俺はパジャマを脱ぎ捨てて多分サヤさんが用意してくれたであろう綺麗に折りたたまれた制服を着る
「サヤさんお待たせ」
「いえいえ、ちょうど食器が並び終わったところですよ♪」
下のリビングではちょうどサヤさんがお皿をテーブルに並び終わったところだったらしい
俺とサヤさんは大きなテーブルの席に二人きりで座る、昔はこのテーブルに家族みんなで集まったものだけど…うちの親は今ハネムーンとか言いながら海外に行っている
ハネムーンとか言っているが実際は海外での仕事で、俺とサヤさんがある程度大きくなったらほとんど家にいないで海外にいるようになったのだ
初めは寂しいとか思ったりしたが、基本四六時中サヤさんと一緒だからそんなことはなかったんだよなぁ
「はいあ〜ん♪はやく食べないと、もうあまり時間ないですよぉ〜」
「はいはい、って近い…近くない?」
ただでさえ隣で近いサヤさんが身体を乗り出してひっついて、あーんっと料理を食べさせようとしてくる
「大丈夫ですよぉ、外ではちゃんと離れますから♪」
「できれば家の中でも遠慮してくれると助かるよ!?」
「やっくんの好きな甘〜い卵焼きちゃんと作ったんですよぉ〜、ほら早く早く♪」
「あらやだこのおねーさん話全く聞いてくれないわ」
まぁいつものことなので俺はサヤさんのなすがまま料理を味わうのだった
…
「うぅ、外は眩しいし朝はつらい…太陽氏何をするんですかやめてくださいよ!」
「いきなり太陽に吠えても…それに今日はそんなに陽は強くないですよ?」
学校へ向かう通学路、俺とサヤさんは少し距離を開けて並んで歩く
外であまりサヤさんとくっつかないようにしているのは、俺たちが恋人同士だって言うのは学校で公にしていないからだ
サヤさんは公にしてほしいそうだけど、俺がどうしてもと頼み込んで学校では仲が良い程度にしてもらっている…その理由は
「あ、生徒会長だ!今日も綺麗だわ!」
「白咲会長!おはようございます!」
「会長〜!」
そう、サヤさんは学校の生徒会長なのだ
サヤさんは美しい魔物…才色兼備で文武両道、家柄だって相当良い…そんな生徒達の尊敬と憧れの的であるサヤさんが幼馴染だからというだけの俺と付き合ってるのが公になったらどうだろうか
今だって通学路の生徒達にひっきりなしに声を掛けられているサヤさん、家だって普通、何やっても普通の俺が毎日サヤさんにご飯を作ってもらってるなんて知られたらもう俺は袋だたきに遭うだろう…
いやそれからはサヤさんが全力で守ってくれるだろうけど、とにかくメリットに対してデメリットが大き過ぎるので俺たちが恋人なのは秘密なのだ
「はぇ〜…いつもながらすっごい人気、はっきりわかんだね」
生徒達の挨拶に愛想よく微笑んで応えているサヤさんを見てるとなんだかいつもと別人の様に思える
「…どうしましたやっくん、私の顔じっと見て」
「えっ、いやなんでもないよ?っていうか、近いって…みんなに見られるよ」
急に目の前をひょっこりとサヤさんが覗き込んだ、相当近い距離だし誰かに見られるんじゃ…
「ふふ、大丈夫ですよぉ?ほらもうみんないませんから♪…それより、じっとしててください…制服が乱れちゃってますよ?」
「えっ、マジ?悪いなあサヤさん…」
周りがいないことにホッとして俺はサヤさんが制服を治すのに身を委ねる
「よし、これでカッコよくなりましたね♪」
「それにしても、うちの学校の奴らはサヤさんを見ると元気になってるよなぁ…流石生徒会長と言わざるを得ない」
「そうですね…元気なのはいいですけれど、正直…少しうるさいですよね」
「…サヤさん?」
急にサヤさんの声が低くなった、それと同時にサヤさんからドス黒い殺気のような強い威圧感が俺を気圧する
背中に氷を入れられたように、身体中から冷や汗が出てくる…どうやらサヤさんのスイッチが入ってしまったらしい
「…私がせっかくやっくんと二人で登校してるのに、なんで空気を読まず割り込んでくるんですかね?あいつらみたいなのがいるからやっくんが私とラブラブなの秘密にしたがるんですよね、あいつらがいるから…何がいけないんですかね?私たちはただ愛し合っているだけなのに、それを邪魔して…」
顔を俯けて呪詛を唱えるようにブツブツと呟くサヤさん、どうにもサヤさんは白蛇故に嫉妬深い性格らしく…このように一度スイッチが入ってしまうとこれまた別人の様になってしまう
「もーサヤさん、そんなこと言ったらダメだよ」
こうなったサヤさんを元に戻すのは少し大変だ、俺はサヤさんから放たれる威圧感にちびりそうになるもなるべく温和に話しかける
「やっくん…あいつらのこと、庇うんですか?」
「庇うとかそんなんじゃなくて、そんな言葉遣いしちゃダメだよ。学校の、サヤさんに好意を持ってくれてる人たちをあいつらとか言っちゃダメ、そんな言葉遣い…可愛いサヤさんがしちゃダメでしょ」
そうしてゆっくりとサヤさんを落ち着かせる、サヤさんはスイッチが入ってもちゃんと話を聞いてくれるから話せばわかってくれる
「ぁ、ぅ…やっ、くん…?」
「めっ!」
「ぅ…ご、ごめんなさい、私どうかしていました…私、やっくんのことになるとなんだか変になっちゃって…」
「うんうん、いいんだよサヤさん。大丈夫、サヤさんが俺のこと考えてくれてるの知ってるから…」
そうして話をして冷静に戻ったサヤさんの頭を撫でてあげる、こうするとしばらくは機嫌が良くなってあの嫉妬スイッチは入らなくなる
「え、えへへ…やっくん、やっくんやっくん…♪」
「ほらほら、サヤさんは確か今日朝から生徒会の仕事でしょ?早く行かないと」
「はぁい♪それじゃあ私は生徒会室寄ってから行きますから、また教室で♪」
俺はルンルン気分で尻尾を揺らすサヤさんを見送り別れる、そして下駄箱までやってくると深いため息をついた
「はぁー朝から死ぬかと思ったゾ…」
これまでに何度も体験したサヤさんの嫉妬スイッチ、昔からなのである程度慣れたけど相変わらず心臓に悪い
学校ではお淑やかな白蛇の生徒会長、そんなイメージを変えるあの一面を知っているのが恋人の俺だけっていうのはなんだか優越感に浸れる気がする…
「まぁアレ含めてサヤさんだしなぁ、困るっちゃ困るけど…俺を想ってのアレだから男として嬉しくないわけないよな」
…あれ、俺ってなんだか危ないやつ?とか考えながら下駄箱で靴を履き替えてゆっくりと教室に行く
「…やっくん、どうしたの?」
「ん〜…あれサヤさん?」
教室に入る扉の側にサヤさんがいた、生徒会の仕事終えた後だろうか
「何か考え事ですか?相談なら私が…」
「いやいや、考え事なんて…それより生徒会の仕事は終わったの?」
「えぇ、書類を運ぶだけでしたからすぐに」
「あー、一緒に行って手伝った方が良かったかなぁ」
「いえいえ、そんな手伝ってもらう量じゃないですよぉ?すぐに終わらせて、ここでやっくんのこと待ってたんですから♪」
俺をここで待ってたって…教室すぐそこだけど、なんでわざわざここで待っていたのだろうか
「いや教室すぐそこなんだし先に入ってて良かったんじゃ…」
「そうですけど…やっぱり朝は一緒に教室に入りたかったんですよぉ…」
「あーあー落ち込まないでサヤさん!ごめんね!気持ちはとても嬉しいの!ありがとうね!」
いまは幸運にも誰にも見られていないが、俺なんかがサヤさんを落ち込ませている姿を見られたらサヤさんファンの皆さんに俺殺されてしまうかもしれない…多分サヤさんが全力で守ってくれるけど
「謝らなくてもいいですよぉ、私が好きでやっているんですし…それよりも、考え事…なんなんですか?」
「え?い、いや、本当に何もないよ?」
考えていたことなんて、俺って危ないやつ?とないうくだらないことだ、悩む価値すらないしサヤさんに言っても帰ってくる言葉は「そんなわけないですよぉ」に決まってる
「私にも、相談できないこと…なんですか…?」
「だから何もないって、大丈夫だって安心しろよ〜!それよりほら、さすがに教室に入ろう!」
「え、えぇ…」
俺は教室の扉を開けてさっさと教室に入ってしまう、後ろから少し離れてサヤさんが入ってきてそのまま一番後ろの席に着いた
ちなみに俺の席は窓際の前から3番目の席だ、居眠りがしやすい
「う〜ん」
朝のHRが終わり、授業が始まったのだがなんと今日は自習らしい…まぁみんな自習なんかしないで友達と話したりトランプしたりとしている
「…う〜ん」
ちなみに俺は少し寝ていた、そして俺はポケットから伝わる振動で起こされた、ちらりと携帯を出して画面を見ると今流行りのSNSアプリの新着メッセージが大量に来ていた
もちろん差出人はサヤさんである、メッセージを見てみると…
『今朝は邪魔が入って一緒に登校できませんでしたね、明日からは邪魔が入らないようにしますから』
『それと、先ほどは変なこと言ってごめんなさい…でも、私心配なんです…』
『やっぱり私には話せないことですか?やっくんはいい人過ぎて騙されやすそうだから、できれば私に相談してほしいです…』
『ダメ…ですか?返事、してください…』
『ごめんなさい、怒らないでください、ただやっくんのこと考えたら…迷惑ですか?』
『返事、ほしいです…』
こんな感じのメッセージがずらっと並んでいた
「なんだこれは…たまげたなぁ」
最新メッセージに既読をつけて、チラッと後ろのサヤさんを見た
生徒会長らしく、一見真面目に自習しているように見えるが…机の下では物凄い速さで携帯を操作していた
「っ…♪」
そして俺の視線に気づくとパッと顔を輝かせて嬉しそうに身体をうねらせて俺に満面の笑みを投げかけてくる
俺はピースをして応えてから、携帯に向き直り『寝てた、考え事はクッソくだらない事だから気にしないで』と打って送信して、テキトーなスタンプを送ってやる
すぐに既読がついたので、もう一度サヤさんの方を見てピースをするとサヤさんが笑ってこちらに小さく手を振った
(クッソくだらない事でサヤさんにあんな思いをさせるのは流石に胸が苦しいよなぁ、いやサヤさんも過剰なんだけどさ)
サヤさんは俺とは生まれ持ったものが違う、月とスッポン、豚に真珠なのだ…いやそれは違うか
俺は容姿も成績も全てが並、何もかもが完璧なサヤさんがそんな俺を深い愛情を向けてくれているのは…ただ俺が幼馴染だからではない
あれはもう何年も前になる、俺がまだ小さい頃…俺の隣にすっごい大きな豪邸が建った、隣にサヤさん…白咲一家が引っ越してきたのだった
初めはご近所挨拶で顔を見知っただけだった、家柄からしてうちとは関わりないなって小さいながらに理解するほどだ
初めてサヤさんと顔を見知った時は、ただ魔物の女の子なんだなぁ、かわいいなぁという感情しかなくて…それこそ高嶺の花なんだと小さいながらに思ったよ
でもしばらくして、俺は近所を散歩してると…サヤさんが道端で泣いていた、どうやら散歩に出て迷ってしまったらしい
俺はただ下心無しにサヤさんを泣き止ませた後、安心させるために手を繋いで家まで送ってあげたのだ…それからだった、サヤさんが俺にべったりになり始めたのは
どこに行くのも、何をするのも俺と一緒で、サヤさんの親も俺を気に入ってて、また俺の親もサヤさんを気に入ってた
大体週の全てがどちらかの家に泊まりあってずっと一緒だった、そんな関係が十年と続いて今に至るわけだ
『やっくんのお嫁さんになります』
『やっくんさえ、やっくんさえいればそれでいいの』
昔からこんな感じだったので俺も自然とサヤさんが好きになっていったのだ
外野から見れば過剰な愛なのかもしれないけど、それでも俺は一途に俺だけを好いてくれるサヤさんが大好きなのだ
「う〜ん、やっぱ俺ってば危ないやつ?」
「おーい多摩ぁ、あんたもトランプやらなーい?いま人数足りないんだけどぉ」
想いに耽っていたらクラスの女子に声を掛けられた、どうやら自習中に暇してる俺に目をつけたらしい
うちのクラスはそれなりにクラス間の仲が良くて、女子男子分け隔てなく仲が良いクラスだからこうして女子から声を掛けられることもある
「トランプかぁ、何やってんの?ナポレオン?」
「マジうける〜何それ知らな〜い!マイナーなやつ?ウチらがやってんのは大富豪だよ」
「ばっかお前、確かにこっちじゃ馴染みのないゲームかも知れないけど他の国じゃ大会が開かれるくらい人気なやつなんだぞ!ルール知らないけど!」
「あはは、ちょー必死じゃん!で、どーするの?トランプ入る?」
「あー、折角だけどパスかなぁ。悪いんだけど次までに出さなきゃいけない課題を自習中にやっちゃいたいんだ」
「マジでー?しょーがないなぁ、次は入ってよ?」
「ありがとー」
俺が断るとそのまま戻って向こうでまた女子たちがワイワイトランプをやり始めた、ふう焦った…いやー何たって
「…」
後ろのサヤさんからすっごい圧力掛けられてたからね、もう正直漏らしちゃうかと思いました。
「…っ♪」
ちゃんと断ったよー、ってサインを送ると満足げにこっちを見てニコニコとするサヤさん…どうやら大丈夫みたいだ
きっとあの場でトランプに参加していたら俺は死んでいたのかも知れない、いやまぁ流石にそれはなさそうだけど
(…とりあえず課題なんてないけど、なんかやってる風を装っておこう)
一人で勉強してるところを見たらサヤさんだって何かしてくるなんてないだろうしね
…
授業を終えるチャイムがなって先生がHRを終えるとみんながワイワイとクラスから出て帰り始める
「はぁー今日も疲れた、俺も帰る支度すっかなぁ」
「あ、多摩くん…ちょっと生徒会の仕事手伝ってもらいたいことがあるから残ってくれませんか?」
「あ、白咲さん…手伝い?俺でよければ」
俺がカバンに教科書やら何やらを入れているとサヤさんから声を掛けられた、このサヤさんのセリフは俺にだけ伝わるサインみたいなもので…クラスの人にバレないように二人で学校から帰る為のものだ
生徒会の仕事を手伝う為に残る、というのは実際には嘘で…みんながいなくなるくらいまで学校に残って、それから気兼ねなく二人で帰宅するというもの
「…ふぅ、ようやく二人きりになれましたね♪」
「わぁ!サヤさん!?」
クラスから人がいなくなって、二人きりになった瞬間にサヤさんが身体を絡みつかせるようにして抱きついてきた
「もぉ、いつもいつもこの瞬間だけが待ち遠しくて…あぁやっくんやっくんやっくん♪」
ぎゅうっと俺を体全体で抱きしめてスリスリとしてくるサヤさん、柔らかいし良い匂いもして嬉しいのだけどまだ学校だし少し落ち着いてほしい
「ちょっとサヤさん、落ち着いて落ち着いて…嬉しいのはわかったから」
「やっくんは嬉しくないんですか?ようやく二人きりになれたって言うのに…」
「嬉しいよ、けどほら…まだ学校だし」
「二人きりなんだから大丈夫ですよぉ♪私、今日一日ずっとずーっとやっくんのことばかり考えてたんですから♪」
サヤさんの抱擁がどんどんキツくなってくる、嬉しさのあまり強く抱きしめてるんだろうか…結構痛くなってきた
「あれあれ、サヤさん熱い抱擁にしては力が強すぎない?」
「…えぇ、だって強くしてますから♪」
「あの、そろそろちょっと痛いなーなんて…」
「おしおきですよ〜、痛くて当然です♪」
にっこりと笑ってそういうサヤさん、顔は笑ってはいるがその目が笑っていなかった
一見態度こそ機嫌が良いように見えるけど、これはもう既にサヤさんの嫉妬スイッチが入ってしまっているようだった
(くっ…回避したはずなのに、なんで…どこでスイッチを入れてしまったんだ…?)
考えるが特に思いつかなかった、サヤさんが嫉妬する場面なんてなかったように思えるけど…
「さ、サヤさぁん…なんでおしおきなの?」
「だってやっくん、今日私以外の雌と36秒もおしゃべりしてたじゃないですかぁ…?」
「36…普通だな!」
「普通じゃないですよぉ…私は学校じゃロクにやっくんと話せないっていうのに、あの雌は何の苦労もなしにやっくんと楽しそうに話して…!」
どうやらサヤさんは俺がクラスの女子と話していたのが気に食わなかったらしい…うーん、学校に通っている以上避けては通れない道だと思うんだけどなぁ
「そんなことで嫉妬してくれたの?サヤさんは可愛いなぁ」
「そ、そんなやっくん…可愛いだなんて…♪」
とりあえずこの場はサヤさんを褒めちぎってご機嫌を稼いでおこう、縛られたままじゃ何もできないし
「可愛いなあサヤさん」
「も、もぉ!そんなんじゃ誤魔化されませんからね!」
そういってぷくっと頬を膨らませるサヤさんだが、その嬉しさは隠せないようで体は緩み尻尾の先はフリフリと揺れている
「じゃあクラスの女子と喋った10倍はサヤさんをじっと見ちゃおうかなぁ、じーっ」
「や、やぁ…♪やっくんったら、そんな見られちゃ、恥ずかしいですよぉ…?」
「まだまだ、まだまだ見るぞぉ〜!じぃ〜〜〜〜〜〜〜!」
「わ、分かりましたぁ!わ、私の負けですよぅ…そ、そんな真剣に見られちゃったら私恥ずかしすぎて死んじゃいますよぅ…」
「そんなサヤさんが可愛いからもっともっと見ちゃうぞ!」
「や、やぁですよぉ…うう〜…っ」
サヤさんの色白の肌が真っ赤に染まっていく、身体は完全に緩みきり身体に触れる程度になっている
「も、もうっ!あ、あんまりからかうと本当に絞め落としちゃいますよ…っ?」
「おねーさんおねーさん、そんな怖い冗談やめよーよ、ほれこちょこちょー」
「えっ、きゃっ!?ひゃはっ、ちょっ!やめっ、あはははっ!や、やぁだっ!」
指先でこちょこちょとサヤさんの尻尾の先をくすぐる、サヤさんはくすぐりに弱いのですぐに巻きついた体を解いて俺から離れた
「はっはっは、脱出大成功」
「う、うぅ〜〜〜〜!やっくんの馬鹿ぁ…私がくすぐりに弱いの知ってるくせにぃ…」
「でもされるのそんなに嫌いじゃないでしょ?」
「た、確かに…むしろ、好き…ですけどぉ…」
「さ、そろそろ学校にあまり人もいなくなっただろうし帰ろうよサヤさん」
「はぁい…あっ、やっくん帰りに夜ご飯の材料買いに寄ってもいいですか?」
「いいよいいよ、いやぁいつもご飯任せっきりで悪いねぇおねーさん」
「いえいえ♪」
そうして俺たちは人気の無い学校から二人で手を繋いで校舎を出る、生徒がいないこの時間は堂々と手を繋げる
「やっくん、今日は何が食べたいですか?」
「えぇ?うーん、そうだなぁ…おねーさんの作るのは全部美味しいから迷っちゃうなぁ」
「ふふ、ありがとうございます♪やっくんに食べてもらうためにいっぱいいっぱい練習しましたから…」
「ねぇサヤさん、材料買うついでにお菓子も買っていい?」
「しょうがないですねぇ、一個だけですよぉ?」
「やったぜ。」
そんなたわいもない会話をしながら俺たちはのんびりとスーパーに寄って夕飯の材料を買ってから、家に帰って来た
「うーんマイホーム、居心地の良さはサヤさんのロールミーの次くらいに良い…」
「ふふ、学校お疲れ様でした♪ご飯の準備しちゃいますから、ゆっくりしていてくださいね」
「ありがとーおねーさん、じゃあリビングでゆっくりしてるー」
キッキンに入って料理の準備をするサヤさんのことを尻目に俺はリビングのソファーに寝転んで、のんびりする
サヤさんの料理をする小気味よい音を聞いていると、なんだかウトウトとしてくる…料理が出来たらサヤさんが起こしてくれるだろうし、少し寝ようかな
「…zzz」
…
夢を、夢を見ていた…あれは俺とサヤさんの小さい頃の、あの時の夢だ
「ひっく…ひぃん…っ」
ねぇ君、確か俺の隣に引っ越して来たスッゲーでかい家の子だよね!?なんで泣いてるの?ポンポン痛いのかな!?
「おさんぽしてたら…迷っちゃって…ぐすっ、ここどこぉ…?こわいよぉ…さみしいよぉ…っ」
迷子になっちゃったんだ、来たばっかりじゃ道もわっかんないよねー!でも大丈夫!泣き止んでよ、ホラホラ!
「ひぅ…っ、大丈夫…なの?」
俺は昔からここに住んでるんだぜ!この辺りは俺の庭みたいなもんだからな!君の家まで送り届けてあげるよ!だから、泣かないで?せっかく可愛いんだから泣いてちゃ勿体無いよ!?
「か、かわいい…?えへへ…」
あっ!笑った笑った!やっぱり笑ってるほうが可愛いよ、どんなときも笑顔が大事だぜ!?
「え、えへへ…」
そういえば君、名前は?俺は多摩ヤスオ!巷では選ばれし勇者と呼ばれているとかいないとか!?
「わ、私は…サヤ…です」
よーしサヤちゃんだね!じゃあ君をお家まで連れてってあげよう!俺のそばにぴったりくっついてな!離れちゃダメだぜ!?
「う、うん…!ぴったりくっついてるね…?」
…懐かしい夢だなぁ、我ながら純粋な子供時代だったものだ
「…っくん、やっくん!」
「…んあ?」
俺を呼ぶ声に俺は夢の世界から現実へと引き戻された、懐かしい夢だったなぁ
どうやらご飯が出来たようでサヤさんが起こしてくれたらしい、リビングのテーブルにテキパキと料理を運んでいるサヤさんの姿が目に入った
「やっくん、ご飯できましたよ?起きてくださいねぇ」
「…サヤちゃん、俺の側を離れちゃダメだっていっただろ?」
「えっ…きゃあっ!」
可愛らしいエプロンを制服の上から来たサヤさんを昔のように呼んで、後ろから抱き寄せてみた
いつも振り回されてるからたまには俺からサヤさんをからかってもいいかもしれない
「や、やっくん…?どうしたんですか、昔みたいに呼んでくれるなんて…」
「俺に、ぴったりくっついてなきゃダメじゃないか…また迷子になっちゃうぜ?」
「ふぁあ…♪や、やぁっくん…♪私、私ぃ…♪」
後ろから抱きしめて耳元でなるべくセクシーに囁いてみた、効果は抜群な様でサヤさんの白い頬は真っ赤に染まり頭からは湯気が出るほど熱くなっている
「なーんてね、ちょっと昔の夢見ちゃってさあ…サヤさん?」
「はぁう…♪ダメですよやっくん…っ♪そんな風に囁かれたら私っ…♪キュンキュンしすぎて、はぁんっ♪」
「サヤさん!?」
俺の胸の中で顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせて気絶してしまったサヤさん、うーんどうやら効きすぎたらしい
「…サヤさん起きてー、ご飯冷めちゃうよー」
「はへぇ…♪」
「ダメみたいですね…」
結局サヤさんはご飯が冷める前に起きてくれたけど、終始熱に浮かされた様にふらふらしていた
うーん、今度はサヤさんが暴走しかけた時にでも使ってみるかな
「全くやっくんたら、急にあんなことするなんて反則ですよ!反則!」
「ごめんよおねーさん、つい昔の夢を見ちゃってさあ」
「で、でもかっこよかったから…ちゃんと宣言してからなら許してあげます!」
ご飯を食べ終えてサヤさんがシャキッと正気に戻ったので俺は自分の部屋に戻ってきた、もちろんサヤさんも一緒だ
いつも通り今日も泊まっていくらしい、うちはサヤさん家と違い小さい一軒家…余分に空いている部屋なんてない
だから寝る部屋はいつも俺の部屋なのだ、いやまぁ実はうちの親の部屋とか今使ってないから使わせても大丈夫なんだけどね
「さぁさぁやっくん、明日も学校で早いですから、早くベッドの中に入りましょうね。寝る時寂しくないようにぎゅ〜っ♪ってしてあげちゃいます♪」
ベッドの上で両手を広げて俺を迎えるサヤさん、サヤさんはこう見えて結構な寂しがりやさんで甘えん坊さんだから、俺が一緒に寝てあげないといけないんだ
「やっくん〜あったかいですよぉ♪すりすり〜♪」
「おねーさんおねーさん、そんなスリスリしたら摩擦熱で溶けちゃう」
「まぁ大変♪そうなったらドロドロに溶けたやっくんを私が全部飲み下してあげちゃいますね♪」
「サヤさんって意外とサイコパスなところない?まぁ、サヤさんと一つになれるってことならそれもありかなぁ…」
「…やっくんも人のこと言えない時ありますよね?冗談に決まってるじゃないですかぁ」
サヤさんはちょっと暴走しがちだけどそれも含めてとても素敵な女の子、これからも俺はサヤさんとこんな関係でいれたらいいな…とか、ちょっとキザなことをベッドの中で思ってみたりする
「…?やっくん、私の顔に何かついてますか?」
「いいや、相変わらずサヤさんは綺麗だなーって見てただけ」
「もぉやっくんったら…♪」
一緒にいたいって気持ちはきっと、サヤさんも同じかな?なんて思ったり、きっといつまでもこの幸せが続くように、とかそんなことを考えているとそれを察したようにサヤさんが俺の手をぎゅっと握ってくる
「私、やっくんが好きです…ずっと、ずっと一緒ですよ」
「あぁ、そうだね…ずっと一緒にいようねサヤさん」
「浮気とかしたら、許さないですよぉ?」
「当たり前だよなぁ、俺はサヤさん一筋だからね」
「ふふっ、だからやっくんって大好きですっ♪」
そんないつもの日常の終わり、俺はベッドの中でサヤさんとの幸せを感じながら…この幸せを絶対に離さないようにしよう、そう決めたのだった。
…
俺、多摩ヤスオはそんな優しい声に起こされて目を覚ました…
眠気まなこを擦り目を開くと目の前には透き通るような白い髪の女性が、その宝石のような紅い瞳を緩ませて、その白い肌の頬を仄かに朱に染め俺を見下ろしていた
俺はゆっくりと寝ていたベッドから身体を起き上がらせる、すると目の前の女性の全体像が見える…今時の制服に身を包み、そのプリーツのスカートから伸びるのはスラリとした足…ではなく、真っ白な蛇の身体
「おはようございます、やっくん♪」
「あぁ、おはよー…サヤさん」
そう、彼女…白咲サヤさんは白蛇という魔物だ
魔物、というのはずっと前に人間と共存を表明した種族で全てが女性、身体が人間とは違う部分がある…と言った点以外は人間とはあまり変わらない種族で、昔はともかくいま現代そう珍しいものではない
「朝ごはん出来てますから、早くお着替えしちゃいましょうね♪あんまりのんびりしてると、学校にも遅刻しちゃいますし…」
「またご飯作ってくれたのか、おねーさんいつも悪いねぇ」
そんな魔物のサヤさんがどうして朝から俺を起こしてきたかと言うと…それは俺とサヤさんが付き合っている恋人の関係だからである
「あらあらそんなことないですよぉ、だって私がやっくんのお世話をするのは当然ですし…やっくんのお嫁さんになるなら花嫁修業は早くから始めた方が良いですし…♪」
頬を染めそう言うサヤさん、ちなみにサヤさんの料理は凄腕だ
「あ〜腹減ったなあ、着替えてご飯ご飯…」
俺自身好き嫌いないけど、サヤさんの料理は何を食べても美味しいんだよな
「ほらほらやっくん、ばんざ〜いってして下さいね♪」
「わっ、急に近いって!」
一瞬目を離した隙にサヤさんが鼻先が当たるような位置まで近づいてきていた、ふわりと良い匂いがして、ごく自然と腕に柔らかいサヤさんの胸の感触がした
「あれ、サヤさんまた胸大きくなった?」
「まぁまぁ、やっくんったらえっちなんですから…♪」
「えっ、あ、いや純粋な興味で…下心は9割しか無かったんだよ」
「もぉ、だめですよ?今は…急がないと遅刻しちゃいますし、まぁやっくんがどうしてもって言うなら1日くらい休んだって…♪」
「おっとそうだったそうだった、はやく着替えないと…」
俺がパジャマのボタンに手をかけると素早くサヤさんの下半身がしゅるりと伸びてきてそれを遮った
「あらあら、やっくんはじっとしていて下さいね?今私が脱がせてあげますから♪」
「待て待て、ちょっと待って?」
「あら、着替えより先にお手洗いでしたか?でしたら私もご一緒に…♪」
「一緒に来てナニをするんですかねぇ?…とりあえず着替えくらい一人でやるから!外に出てて、どうぞ」
「あらあら恥ずかしがっちゃって、気にしなくて良いんですよ?お風呂だって一緒に入る仲じゃないですかぁ♪」
「それとこれとは話が別なんだよなぁ…すぐ行くからサヤさんはご飯食べる準備しててホラホラ」
「…はぁい、わかりました。じゃあ待ってますから、はやく来てくださいね?二度寝したらダメですからね、その時はまた起こしに来ますけど…あら、もしかしたらその方が私的には嬉しいのでは…?」
「もうバッチリ目ぇ覚めてますよ!大丈夫だって安心しろよ〜!」
俺は半ば力ずくでサヤさんを部屋の外へ押し出す、まぁ相手のサヤさんは魔物だからちょっと本気出されたらすぐに押し返されちゃうんだけど
「ふう、さっさと着替えますかね…パパパッとやって、終わり!」
ちょっと遅れるとまたサヤさんが飛び込んできてしまいそうだし、俺はパジャマを脱ぎ捨てて多分サヤさんが用意してくれたであろう綺麗に折りたたまれた制服を着る
「サヤさんお待たせ」
「いえいえ、ちょうど食器が並び終わったところですよ♪」
下のリビングではちょうどサヤさんがお皿をテーブルに並び終わったところだったらしい
俺とサヤさんは大きなテーブルの席に二人きりで座る、昔はこのテーブルに家族みんなで集まったものだけど…うちの親は今ハネムーンとか言いながら海外に行っている
ハネムーンとか言っているが実際は海外での仕事で、俺とサヤさんがある程度大きくなったらほとんど家にいないで海外にいるようになったのだ
初めは寂しいとか思ったりしたが、基本四六時中サヤさんと一緒だからそんなことはなかったんだよなぁ
「はいあ〜ん♪はやく食べないと、もうあまり時間ないですよぉ〜」
「はいはい、って近い…近くない?」
ただでさえ隣で近いサヤさんが身体を乗り出してひっついて、あーんっと料理を食べさせようとしてくる
「大丈夫ですよぉ、外ではちゃんと離れますから♪」
「できれば家の中でも遠慮してくれると助かるよ!?」
「やっくんの好きな甘〜い卵焼きちゃんと作ったんですよぉ〜、ほら早く早く♪」
「あらやだこのおねーさん話全く聞いてくれないわ」
まぁいつものことなので俺はサヤさんのなすがまま料理を味わうのだった
…
「うぅ、外は眩しいし朝はつらい…太陽氏何をするんですかやめてくださいよ!」
「いきなり太陽に吠えても…それに今日はそんなに陽は強くないですよ?」
学校へ向かう通学路、俺とサヤさんは少し距離を開けて並んで歩く
外であまりサヤさんとくっつかないようにしているのは、俺たちが恋人同士だって言うのは学校で公にしていないからだ
サヤさんは公にしてほしいそうだけど、俺がどうしてもと頼み込んで学校では仲が良い程度にしてもらっている…その理由は
「あ、生徒会長だ!今日も綺麗だわ!」
「白咲会長!おはようございます!」
「会長〜!」
そう、サヤさんは学校の生徒会長なのだ
サヤさんは美しい魔物…才色兼備で文武両道、家柄だって相当良い…そんな生徒達の尊敬と憧れの的であるサヤさんが幼馴染だからというだけの俺と付き合ってるのが公になったらどうだろうか
今だって通学路の生徒達にひっきりなしに声を掛けられているサヤさん、家だって普通、何やっても普通の俺が毎日サヤさんにご飯を作ってもらってるなんて知られたらもう俺は袋だたきに遭うだろう…
いやそれからはサヤさんが全力で守ってくれるだろうけど、とにかくメリットに対してデメリットが大き過ぎるので俺たちが恋人なのは秘密なのだ
「はぇ〜…いつもながらすっごい人気、はっきりわかんだね」
生徒達の挨拶に愛想よく微笑んで応えているサヤさんを見てるとなんだかいつもと別人の様に思える
「…どうしましたやっくん、私の顔じっと見て」
「えっ、いやなんでもないよ?っていうか、近いって…みんなに見られるよ」
急に目の前をひょっこりとサヤさんが覗き込んだ、相当近い距離だし誰かに見られるんじゃ…
「ふふ、大丈夫ですよぉ?ほらもうみんないませんから♪…それより、じっとしててください…制服が乱れちゃってますよ?」
「えっ、マジ?悪いなあサヤさん…」
周りがいないことにホッとして俺はサヤさんが制服を治すのに身を委ねる
「よし、これでカッコよくなりましたね♪」
「それにしても、うちの学校の奴らはサヤさんを見ると元気になってるよなぁ…流石生徒会長と言わざるを得ない」
「そうですね…元気なのはいいですけれど、正直…少しうるさいですよね」
「…サヤさん?」
急にサヤさんの声が低くなった、それと同時にサヤさんからドス黒い殺気のような強い威圧感が俺を気圧する
背中に氷を入れられたように、身体中から冷や汗が出てくる…どうやらサヤさんのスイッチが入ってしまったらしい
「…私がせっかくやっくんと二人で登校してるのに、なんで空気を読まず割り込んでくるんですかね?あいつらみたいなのがいるからやっくんが私とラブラブなの秘密にしたがるんですよね、あいつらがいるから…何がいけないんですかね?私たちはただ愛し合っているだけなのに、それを邪魔して…」
顔を俯けて呪詛を唱えるようにブツブツと呟くサヤさん、どうにもサヤさんは白蛇故に嫉妬深い性格らしく…このように一度スイッチが入ってしまうとこれまた別人の様になってしまう
「もーサヤさん、そんなこと言ったらダメだよ」
こうなったサヤさんを元に戻すのは少し大変だ、俺はサヤさんから放たれる威圧感にちびりそうになるもなるべく温和に話しかける
「やっくん…あいつらのこと、庇うんですか?」
「庇うとかそんなんじゃなくて、そんな言葉遣いしちゃダメだよ。学校の、サヤさんに好意を持ってくれてる人たちをあいつらとか言っちゃダメ、そんな言葉遣い…可愛いサヤさんがしちゃダメでしょ」
そうしてゆっくりとサヤさんを落ち着かせる、サヤさんはスイッチが入ってもちゃんと話を聞いてくれるから話せばわかってくれる
「ぁ、ぅ…やっ、くん…?」
「めっ!」
「ぅ…ご、ごめんなさい、私どうかしていました…私、やっくんのことになるとなんだか変になっちゃって…」
「うんうん、いいんだよサヤさん。大丈夫、サヤさんが俺のこと考えてくれてるの知ってるから…」
そうして話をして冷静に戻ったサヤさんの頭を撫でてあげる、こうするとしばらくは機嫌が良くなってあの嫉妬スイッチは入らなくなる
「え、えへへ…やっくん、やっくんやっくん…♪」
「ほらほら、サヤさんは確か今日朝から生徒会の仕事でしょ?早く行かないと」
「はぁい♪それじゃあ私は生徒会室寄ってから行きますから、また教室で♪」
俺はルンルン気分で尻尾を揺らすサヤさんを見送り別れる、そして下駄箱までやってくると深いため息をついた
「はぁー朝から死ぬかと思ったゾ…」
これまでに何度も体験したサヤさんの嫉妬スイッチ、昔からなのである程度慣れたけど相変わらず心臓に悪い
学校ではお淑やかな白蛇の生徒会長、そんなイメージを変えるあの一面を知っているのが恋人の俺だけっていうのはなんだか優越感に浸れる気がする…
「まぁアレ含めてサヤさんだしなぁ、困るっちゃ困るけど…俺を想ってのアレだから男として嬉しくないわけないよな」
…あれ、俺ってなんだか危ないやつ?とか考えながら下駄箱で靴を履き替えてゆっくりと教室に行く
「…やっくん、どうしたの?」
「ん〜…あれサヤさん?」
教室に入る扉の側にサヤさんがいた、生徒会の仕事終えた後だろうか
「何か考え事ですか?相談なら私が…」
「いやいや、考え事なんて…それより生徒会の仕事は終わったの?」
「えぇ、書類を運ぶだけでしたからすぐに」
「あー、一緒に行って手伝った方が良かったかなぁ」
「いえいえ、そんな手伝ってもらう量じゃないですよぉ?すぐに終わらせて、ここでやっくんのこと待ってたんですから♪」
俺をここで待ってたって…教室すぐそこだけど、なんでわざわざここで待っていたのだろうか
「いや教室すぐそこなんだし先に入ってて良かったんじゃ…」
「そうですけど…やっぱり朝は一緒に教室に入りたかったんですよぉ…」
「あーあー落ち込まないでサヤさん!ごめんね!気持ちはとても嬉しいの!ありがとうね!」
いまは幸運にも誰にも見られていないが、俺なんかがサヤさんを落ち込ませている姿を見られたらサヤさんファンの皆さんに俺殺されてしまうかもしれない…多分サヤさんが全力で守ってくれるけど
「謝らなくてもいいですよぉ、私が好きでやっているんですし…それよりも、考え事…なんなんですか?」
「え?い、いや、本当に何もないよ?」
考えていたことなんて、俺って危ないやつ?とないうくだらないことだ、悩む価値すらないしサヤさんに言っても帰ってくる言葉は「そんなわけないですよぉ」に決まってる
「私にも、相談できないこと…なんですか…?」
「だから何もないって、大丈夫だって安心しろよ〜!それよりほら、さすがに教室に入ろう!」
「え、えぇ…」
俺は教室の扉を開けてさっさと教室に入ってしまう、後ろから少し離れてサヤさんが入ってきてそのまま一番後ろの席に着いた
ちなみに俺の席は窓際の前から3番目の席だ、居眠りがしやすい
「う〜ん」
朝のHRが終わり、授業が始まったのだがなんと今日は自習らしい…まぁみんな自習なんかしないで友達と話したりトランプしたりとしている
「…う〜ん」
ちなみに俺は少し寝ていた、そして俺はポケットから伝わる振動で起こされた、ちらりと携帯を出して画面を見ると今流行りのSNSアプリの新着メッセージが大量に来ていた
もちろん差出人はサヤさんである、メッセージを見てみると…
『今朝は邪魔が入って一緒に登校できませんでしたね、明日からは邪魔が入らないようにしますから』
『それと、先ほどは変なこと言ってごめんなさい…でも、私心配なんです…』
『やっぱり私には話せないことですか?やっくんはいい人過ぎて騙されやすそうだから、できれば私に相談してほしいです…』
『ダメ…ですか?返事、してください…』
『ごめんなさい、怒らないでください、ただやっくんのこと考えたら…迷惑ですか?』
『返事、ほしいです…』
こんな感じのメッセージがずらっと並んでいた
「なんだこれは…たまげたなぁ」
最新メッセージに既読をつけて、チラッと後ろのサヤさんを見た
生徒会長らしく、一見真面目に自習しているように見えるが…机の下では物凄い速さで携帯を操作していた
「っ…♪」
そして俺の視線に気づくとパッと顔を輝かせて嬉しそうに身体をうねらせて俺に満面の笑みを投げかけてくる
俺はピースをして応えてから、携帯に向き直り『寝てた、考え事はクッソくだらない事だから気にしないで』と打って送信して、テキトーなスタンプを送ってやる
すぐに既読がついたので、もう一度サヤさんの方を見てピースをするとサヤさんが笑ってこちらに小さく手を振った
(クッソくだらない事でサヤさんにあんな思いをさせるのは流石に胸が苦しいよなぁ、いやサヤさんも過剰なんだけどさ)
サヤさんは俺とは生まれ持ったものが違う、月とスッポン、豚に真珠なのだ…いやそれは違うか
俺は容姿も成績も全てが並、何もかもが完璧なサヤさんがそんな俺を深い愛情を向けてくれているのは…ただ俺が幼馴染だからではない
あれはもう何年も前になる、俺がまだ小さい頃…俺の隣にすっごい大きな豪邸が建った、隣にサヤさん…白咲一家が引っ越してきたのだった
初めはご近所挨拶で顔を見知っただけだった、家柄からしてうちとは関わりないなって小さいながらに理解するほどだ
初めてサヤさんと顔を見知った時は、ただ魔物の女の子なんだなぁ、かわいいなぁという感情しかなくて…それこそ高嶺の花なんだと小さいながらに思ったよ
でもしばらくして、俺は近所を散歩してると…サヤさんが道端で泣いていた、どうやら散歩に出て迷ってしまったらしい
俺はただ下心無しにサヤさんを泣き止ませた後、安心させるために手を繋いで家まで送ってあげたのだ…それからだった、サヤさんが俺にべったりになり始めたのは
どこに行くのも、何をするのも俺と一緒で、サヤさんの親も俺を気に入ってて、また俺の親もサヤさんを気に入ってた
大体週の全てがどちらかの家に泊まりあってずっと一緒だった、そんな関係が十年と続いて今に至るわけだ
『やっくんのお嫁さんになります』
『やっくんさえ、やっくんさえいればそれでいいの』
昔からこんな感じだったので俺も自然とサヤさんが好きになっていったのだ
外野から見れば過剰な愛なのかもしれないけど、それでも俺は一途に俺だけを好いてくれるサヤさんが大好きなのだ
「う〜ん、やっぱ俺ってば危ないやつ?」
「おーい多摩ぁ、あんたもトランプやらなーい?いま人数足りないんだけどぉ」
想いに耽っていたらクラスの女子に声を掛けられた、どうやら自習中に暇してる俺に目をつけたらしい
うちのクラスはそれなりにクラス間の仲が良くて、女子男子分け隔てなく仲が良いクラスだからこうして女子から声を掛けられることもある
「トランプかぁ、何やってんの?ナポレオン?」
「マジうける〜何それ知らな〜い!マイナーなやつ?ウチらがやってんのは大富豪だよ」
「ばっかお前、確かにこっちじゃ馴染みのないゲームかも知れないけど他の国じゃ大会が開かれるくらい人気なやつなんだぞ!ルール知らないけど!」
「あはは、ちょー必死じゃん!で、どーするの?トランプ入る?」
「あー、折角だけどパスかなぁ。悪いんだけど次までに出さなきゃいけない課題を自習中にやっちゃいたいんだ」
「マジでー?しょーがないなぁ、次は入ってよ?」
「ありがとー」
俺が断るとそのまま戻って向こうでまた女子たちがワイワイトランプをやり始めた、ふう焦った…いやー何たって
「…」
後ろのサヤさんからすっごい圧力掛けられてたからね、もう正直漏らしちゃうかと思いました。
「…っ♪」
ちゃんと断ったよー、ってサインを送ると満足げにこっちを見てニコニコとするサヤさん…どうやら大丈夫みたいだ
きっとあの場でトランプに参加していたら俺は死んでいたのかも知れない、いやまぁ流石にそれはなさそうだけど
(…とりあえず課題なんてないけど、なんかやってる風を装っておこう)
一人で勉強してるところを見たらサヤさんだって何かしてくるなんてないだろうしね
…
授業を終えるチャイムがなって先生がHRを終えるとみんながワイワイとクラスから出て帰り始める
「はぁー今日も疲れた、俺も帰る支度すっかなぁ」
「あ、多摩くん…ちょっと生徒会の仕事手伝ってもらいたいことがあるから残ってくれませんか?」
「あ、白咲さん…手伝い?俺でよければ」
俺がカバンに教科書やら何やらを入れているとサヤさんから声を掛けられた、このサヤさんのセリフは俺にだけ伝わるサインみたいなもので…クラスの人にバレないように二人で学校から帰る為のものだ
生徒会の仕事を手伝う為に残る、というのは実際には嘘で…みんながいなくなるくらいまで学校に残って、それから気兼ねなく二人で帰宅するというもの
「…ふぅ、ようやく二人きりになれましたね♪」
「わぁ!サヤさん!?」
クラスから人がいなくなって、二人きりになった瞬間にサヤさんが身体を絡みつかせるようにして抱きついてきた
「もぉ、いつもいつもこの瞬間だけが待ち遠しくて…あぁやっくんやっくんやっくん♪」
ぎゅうっと俺を体全体で抱きしめてスリスリとしてくるサヤさん、柔らかいし良い匂いもして嬉しいのだけどまだ学校だし少し落ち着いてほしい
「ちょっとサヤさん、落ち着いて落ち着いて…嬉しいのはわかったから」
「やっくんは嬉しくないんですか?ようやく二人きりになれたって言うのに…」
「嬉しいよ、けどほら…まだ学校だし」
「二人きりなんだから大丈夫ですよぉ♪私、今日一日ずっとずーっとやっくんのことばかり考えてたんですから♪」
サヤさんの抱擁がどんどんキツくなってくる、嬉しさのあまり強く抱きしめてるんだろうか…結構痛くなってきた
「あれあれ、サヤさん熱い抱擁にしては力が強すぎない?」
「…えぇ、だって強くしてますから♪」
「あの、そろそろちょっと痛いなーなんて…」
「おしおきですよ〜、痛くて当然です♪」
にっこりと笑ってそういうサヤさん、顔は笑ってはいるがその目が笑っていなかった
一見態度こそ機嫌が良いように見えるけど、これはもう既にサヤさんの嫉妬スイッチが入ってしまっているようだった
(くっ…回避したはずなのに、なんで…どこでスイッチを入れてしまったんだ…?)
考えるが特に思いつかなかった、サヤさんが嫉妬する場面なんてなかったように思えるけど…
「さ、サヤさぁん…なんでおしおきなの?」
「だってやっくん、今日私以外の雌と36秒もおしゃべりしてたじゃないですかぁ…?」
「36…普通だな!」
「普通じゃないですよぉ…私は学校じゃロクにやっくんと話せないっていうのに、あの雌は何の苦労もなしにやっくんと楽しそうに話して…!」
どうやらサヤさんは俺がクラスの女子と話していたのが気に食わなかったらしい…うーん、学校に通っている以上避けては通れない道だと思うんだけどなぁ
「そんなことで嫉妬してくれたの?サヤさんは可愛いなぁ」
「そ、そんなやっくん…可愛いだなんて…♪」
とりあえずこの場はサヤさんを褒めちぎってご機嫌を稼いでおこう、縛られたままじゃ何もできないし
「可愛いなあサヤさん」
「も、もぉ!そんなんじゃ誤魔化されませんからね!」
そういってぷくっと頬を膨らませるサヤさんだが、その嬉しさは隠せないようで体は緩み尻尾の先はフリフリと揺れている
「じゃあクラスの女子と喋った10倍はサヤさんをじっと見ちゃおうかなぁ、じーっ」
「や、やぁ…♪やっくんったら、そんな見られちゃ、恥ずかしいですよぉ…?」
「まだまだ、まだまだ見るぞぉ〜!じぃ〜〜〜〜〜〜〜!」
「わ、分かりましたぁ!わ、私の負けですよぅ…そ、そんな真剣に見られちゃったら私恥ずかしすぎて死んじゃいますよぅ…」
「そんなサヤさんが可愛いからもっともっと見ちゃうぞ!」
「や、やぁですよぉ…うう〜…っ」
サヤさんの色白の肌が真っ赤に染まっていく、身体は完全に緩みきり身体に触れる程度になっている
「も、もうっ!あ、あんまりからかうと本当に絞め落としちゃいますよ…っ?」
「おねーさんおねーさん、そんな怖い冗談やめよーよ、ほれこちょこちょー」
「えっ、きゃっ!?ひゃはっ、ちょっ!やめっ、あはははっ!や、やぁだっ!」
指先でこちょこちょとサヤさんの尻尾の先をくすぐる、サヤさんはくすぐりに弱いのですぐに巻きついた体を解いて俺から離れた
「はっはっは、脱出大成功」
「う、うぅ〜〜〜〜!やっくんの馬鹿ぁ…私がくすぐりに弱いの知ってるくせにぃ…」
「でもされるのそんなに嫌いじゃないでしょ?」
「た、確かに…むしろ、好き…ですけどぉ…」
「さ、そろそろ学校にあまり人もいなくなっただろうし帰ろうよサヤさん」
「はぁい…あっ、やっくん帰りに夜ご飯の材料買いに寄ってもいいですか?」
「いいよいいよ、いやぁいつもご飯任せっきりで悪いねぇおねーさん」
「いえいえ♪」
そうして俺たちは人気の無い学校から二人で手を繋いで校舎を出る、生徒がいないこの時間は堂々と手を繋げる
「やっくん、今日は何が食べたいですか?」
「えぇ?うーん、そうだなぁ…おねーさんの作るのは全部美味しいから迷っちゃうなぁ」
「ふふ、ありがとうございます♪やっくんに食べてもらうためにいっぱいいっぱい練習しましたから…」
「ねぇサヤさん、材料買うついでにお菓子も買っていい?」
「しょうがないですねぇ、一個だけですよぉ?」
「やったぜ。」
そんなたわいもない会話をしながら俺たちはのんびりとスーパーに寄って夕飯の材料を買ってから、家に帰って来た
「うーんマイホーム、居心地の良さはサヤさんのロールミーの次くらいに良い…」
「ふふ、学校お疲れ様でした♪ご飯の準備しちゃいますから、ゆっくりしていてくださいね」
「ありがとーおねーさん、じゃあリビングでゆっくりしてるー」
キッキンに入って料理の準備をするサヤさんのことを尻目に俺はリビングのソファーに寝転んで、のんびりする
サヤさんの料理をする小気味よい音を聞いていると、なんだかウトウトとしてくる…料理が出来たらサヤさんが起こしてくれるだろうし、少し寝ようかな
「…zzz」
…
夢を、夢を見ていた…あれは俺とサヤさんの小さい頃の、あの時の夢だ
「ひっく…ひぃん…っ」
ねぇ君、確か俺の隣に引っ越して来たスッゲーでかい家の子だよね!?なんで泣いてるの?ポンポン痛いのかな!?
「おさんぽしてたら…迷っちゃって…ぐすっ、ここどこぉ…?こわいよぉ…さみしいよぉ…っ」
迷子になっちゃったんだ、来たばっかりじゃ道もわっかんないよねー!でも大丈夫!泣き止んでよ、ホラホラ!
「ひぅ…っ、大丈夫…なの?」
俺は昔からここに住んでるんだぜ!この辺りは俺の庭みたいなもんだからな!君の家まで送り届けてあげるよ!だから、泣かないで?せっかく可愛いんだから泣いてちゃ勿体無いよ!?
「か、かわいい…?えへへ…」
あっ!笑った笑った!やっぱり笑ってるほうが可愛いよ、どんなときも笑顔が大事だぜ!?
「え、えへへ…」
そういえば君、名前は?俺は多摩ヤスオ!巷では選ばれし勇者と呼ばれているとかいないとか!?
「わ、私は…サヤ…です」
よーしサヤちゃんだね!じゃあ君をお家まで連れてってあげよう!俺のそばにぴったりくっついてな!離れちゃダメだぜ!?
「う、うん…!ぴったりくっついてるね…?」
…懐かしい夢だなぁ、我ながら純粋な子供時代だったものだ
「…っくん、やっくん!」
「…んあ?」
俺を呼ぶ声に俺は夢の世界から現実へと引き戻された、懐かしい夢だったなぁ
どうやらご飯が出来たようでサヤさんが起こしてくれたらしい、リビングのテーブルにテキパキと料理を運んでいるサヤさんの姿が目に入った
「やっくん、ご飯できましたよ?起きてくださいねぇ」
「…サヤちゃん、俺の側を離れちゃダメだっていっただろ?」
「えっ…きゃあっ!」
可愛らしいエプロンを制服の上から来たサヤさんを昔のように呼んで、後ろから抱き寄せてみた
いつも振り回されてるからたまには俺からサヤさんをからかってもいいかもしれない
「や、やっくん…?どうしたんですか、昔みたいに呼んでくれるなんて…」
「俺に、ぴったりくっついてなきゃダメじゃないか…また迷子になっちゃうぜ?」
「ふぁあ…♪や、やぁっくん…♪私、私ぃ…♪」
後ろから抱きしめて耳元でなるべくセクシーに囁いてみた、効果は抜群な様でサヤさんの白い頬は真っ赤に染まり頭からは湯気が出るほど熱くなっている
「なーんてね、ちょっと昔の夢見ちゃってさあ…サヤさん?」
「はぁう…♪ダメですよやっくん…っ♪そんな風に囁かれたら私っ…♪キュンキュンしすぎて、はぁんっ♪」
「サヤさん!?」
俺の胸の中で顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせて気絶してしまったサヤさん、うーんどうやら効きすぎたらしい
「…サヤさん起きてー、ご飯冷めちゃうよー」
「はへぇ…♪」
「ダメみたいですね…」
結局サヤさんはご飯が冷める前に起きてくれたけど、終始熱に浮かされた様にふらふらしていた
うーん、今度はサヤさんが暴走しかけた時にでも使ってみるかな
「全くやっくんたら、急にあんなことするなんて反則ですよ!反則!」
「ごめんよおねーさん、つい昔の夢を見ちゃってさあ」
「で、でもかっこよかったから…ちゃんと宣言してからなら許してあげます!」
ご飯を食べ終えてサヤさんがシャキッと正気に戻ったので俺は自分の部屋に戻ってきた、もちろんサヤさんも一緒だ
いつも通り今日も泊まっていくらしい、うちはサヤさん家と違い小さい一軒家…余分に空いている部屋なんてない
だから寝る部屋はいつも俺の部屋なのだ、いやまぁ実はうちの親の部屋とか今使ってないから使わせても大丈夫なんだけどね
「さぁさぁやっくん、明日も学校で早いですから、早くベッドの中に入りましょうね。寝る時寂しくないようにぎゅ〜っ♪ってしてあげちゃいます♪」
ベッドの上で両手を広げて俺を迎えるサヤさん、サヤさんはこう見えて結構な寂しがりやさんで甘えん坊さんだから、俺が一緒に寝てあげないといけないんだ
「やっくん〜あったかいですよぉ♪すりすり〜♪」
「おねーさんおねーさん、そんなスリスリしたら摩擦熱で溶けちゃう」
「まぁ大変♪そうなったらドロドロに溶けたやっくんを私が全部飲み下してあげちゃいますね♪」
「サヤさんって意外とサイコパスなところない?まぁ、サヤさんと一つになれるってことならそれもありかなぁ…」
「…やっくんも人のこと言えない時ありますよね?冗談に決まってるじゃないですかぁ」
サヤさんはちょっと暴走しがちだけどそれも含めてとても素敵な女の子、これからも俺はサヤさんとこんな関係でいれたらいいな…とか、ちょっとキザなことをベッドの中で思ってみたりする
「…?やっくん、私の顔に何かついてますか?」
「いいや、相変わらずサヤさんは綺麗だなーって見てただけ」
「もぉやっくんったら…♪」
一緒にいたいって気持ちはきっと、サヤさんも同じかな?なんて思ったり、きっといつまでもこの幸せが続くように、とかそんなことを考えているとそれを察したようにサヤさんが俺の手をぎゅっと握ってくる
「私、やっくんが好きです…ずっと、ずっと一緒ですよ」
「あぁ、そうだね…ずっと一緒にいようねサヤさん」
「浮気とかしたら、許さないですよぉ?」
「当たり前だよなぁ、俺はサヤさん一筋だからね」
「ふふっ、だからやっくんって大好きですっ♪」
そんないつもの日常の終わり、俺はベッドの中でサヤさんとの幸せを感じながら…この幸せを絶対に離さないようにしよう、そう決めたのだった。
…
17/11/10 01:42更新 / ミドリマメ