時にはもっと私らしく?
「うーん…」
俺は今、学校から配られた一枚の紙を見て悩んでいた
「おいおいどうしたよジュッキー、そんなにトイレに行きたいならいけよ」
「誰がジュッキーだ、トイレを我慢してるわけでもねえよ!」
「なんだよ、今時大便を恥ずかしがることはないぞ?学校で大便をしてイジられるのは小学校くらいだぜ?」
悩んでいる俺に下ネタを交え話しかけてくる…クラスメイトのコウキだ、こいつ大企業の御曹司で育ちいいくせに何堂々と下ネタ言ってんだ
「トイレから離れろ、俺は今悩みがあって忙しいんだ」
「悩み?…これさっき配られた来週の授業参観のプリントじゃねえの」
「そうだよ、お前のところ親は来るのか?」
「あー、多分仕事で無理だな。まぁいつものことだし…てか俺一度も授業参観来てもらったことないからなぁ」
コウキの両親は仕事で忙しいらしく案の定来れないらしい、俺も今まではいなかったが…
「ジュキヤは…って、そうだブランシェさんに来てもらわないのか?」
「…それで悩んでたんだよ」
「お前からしたらブランシェさんは親代わりみたいじゃん?別にいいんじゃないか?」
「いや、目立つだろ…魔物だし、メイドだぜ?」
魔物を親に持つクラスメイトは少ないがいる、しかしメイドはいないだろう
「普通の服で来てもらえよ」
「ブランシェさんはメイド服以外は頑なに着ないんだよ、メイドだからって」
「うーん…うちのメイドは命令で何でもするからなぁ」
「やっぱやめとくか、どうせ言わなきゃ授業参観って知らないんだし」
家帰ったらゴミ箱に捨てておこう、ブランシェさんにわざわざ来てもらう必要もないし
「さぁ帰ろ帰ろ、ブランシェさんが家で待ってる」
「おう、また明日なー」
帰ったらすぐにプリントを捨ててしまわないと、ふいに見られないようにしないとな
「ご主人様!これはどういうことですか!?」
「げっ、ばれた!」
家帰ってすぐゴミ箱に捨てたのだが、ブランシェさんに発掘されてしまった…学校で捨てればよかったか
「授業参観だなんて大事な事、こういうのはちゃんと話さないといけませんよ!報告、連絡、相談のホウレンソウです!」
「い、いやだって…今まで誰も来なかったから別にいいかなって…」
「よくありませんよ!ご主人様、もしかして…ブランシェが学校へと出向くのに不満が…?」
さっきまで耳を立て激しくまくし立ててたブランシェさんが急にしおらしくなる
「い、いや不満だなんて…ただ、その…ブランシェさんは魔物だし…」
「ご主人様、ブランシェはご主人様にとって世間に出せない汚点なのですね…しくしく」
顔を伏せ涙を啜る音を鳴らすブランシェさん、あぁどうすればいいんだ…
「い、いやぁせっかくの授業参観だからブランシェさんにも是非来て欲しいなぁ!せっかくの授業参観だからなぁ!家族のブランシェさんに来て欲しいなぁ!」
「あらあら、ご主人様ったら!そんなにブランシェを信頼していただけているだなんて、喜んで参観させていただきますわ♪」
はい、知ってた。うん…知ってたよ?こうなることは分かってたよ?
「…まぁ、いっか」
授業を見られて困るわけではない、ただちょっとクラスで話題になるだけだ…もうすでに一回ブランシェさんが学校に来てるわけだしなぁ
…
「…で、結局ブランシェさんが来るわけ?」
「そうだよ、見事に見つかったよ」
授業参観当日、教室でコウキにブランシェさんがくる旨を話す
「まぁそうなると思って俺もメイドに来てもらったよ、お前だけに苦労は掛けさせないぜ!?」
「コウキ…お前いい奴だな、見直したわ」
「よせやい、親友として当たり前だぜ」
「ありがとう親友」
「まぁまぁ、仲がよろしいようで何よりですわ」
まだ他の生徒達の親があまり集まっていないような朝の休み時間に、ブランシェさんが来た
「ブランシェさん、早いね」
「ご主人様の晴れ舞台ですから、最初から最後まで見届けますよ♪」
犬耳、尻尾、メイドという他にいない格好の美女にクラスがざわつく
「これはこれはブランシェさん、ご機嫌麗しゅうございます」
「まぁまぁ、コウキ様…おはようございますわ」
やばい、コウキとブランシェさんの交わした挨拶で教室が高級な雰囲気になっていく!
「お、お前んとこのメイドさんはまだいないのか?」
「ん?もういると思うぞ、ノワール」
「くっふふふぅ♪はぁい、お呼びですか坊っちゃまぁ♪」
コウキが一声掛けると女性の笑う声がして、コウキの後ろから黒い液体が溢れて人の形を成していく
そして完全に成形されるとそこには青黒い肌をした黒髪のメイド服を着た女性…体からは、目のようなものが見えたり、不定形な液状の触手が生えていたりしている
「!?」
そのあまりにも異様な光景に、俺やクラスの皆が言葉を無くした
「ノワール、その登場の仕方は不気味だから別のにしようって言わなかったかい?」
「くっふふふぅ♪申し訳ありません坊っちゃま、どうしても思い浮かばなくてぇ…どんなオシオキでも受け入れますわ♪」
「そうだな、じゃあ帰ったらキツめのオシオキだ…ってこらこらよさないか、子供たちの前だぞ?」
「いやん、坊っちゃまぁ♪」
異様な光景の中でコウキとノワールと呼ばれたメイドが話している
「あら、ノワール?」
「まぁ、ブランシェじゃあないですかぁ」
「え、知り合い?」
「えぇ、彼女は私の…魔界立従者育成学校の同期ですわ」
魔界…そういえば魔物って魔界と呼ばれる別の世界からこちらに来ているらしいな
というか従者育成学校って…そんなものがあるのか、キキーモラ以外に魔物メイドがいるのにも驚きだ
てっきりコウキに仕えているメイドは人間か、同じキキーモラかと思ったが
「では改めて自己紹介を…コウキ坊っちゃまに専属で仕えさせていただいているノワールと申しますぅ。先程言われた通りショゴスという魔物ですぅ、よろしくお願いしますねぇ」
「あぁこれはどうも…コウキのクラスメイトの上月ジュキヤです」
「では私も…ジュキヤ様に仕えさせていただいているメイドのブランシェと申しますわ」
ノワールさんの丁寧な挨拶に、俺とブランシェさんも続いて頭を下げる
「おいおいジュッキー!ただのクラスメイトとは水くさいじゃねえの!?ふふ、親友…だろ?」
「お前さっきまで上品だったのになんで俺に話しかけたら元に戻るんだよ」
「くっふふふぅ♪坊っちゃまはジュキヤさんのことをとても気に入っておられる様子で…お家でもジュキヤさんの事ばかり言っていて嫉妬してしまいますぅ」
「あぁすまないノワール、君が嫉妬してしまう程だったかい?何せジュキヤと俺は硬く熱い絆で繋がっているからな…なぁブラザー?」
コウキが何かほざいているが、そろそろHRが始まる時間なので席に着いておこう
「あ、保護者…ブランシェさんは俺の席の横じゃなくて後ろで授業を見ていてくれればいいんだよ」
「まぁ、残念ですわ…すぐに奉仕できる位置なのですが」
「こらジュッキー!バディである俺を無視してるんじゃねえぜ!?」
「お前もそろそろ先生来るから座れよ」
コウキが渋々と席に戻り、少しして担任の先生が教室に来る
当たり障りない挨拶をして、ブランシェさんやノワールさんに驚き…なんてこともありながら授業参観が開始された
「えー、つまり魔物は〜…魔界の〜…」
「ふむふむ…」
「おいおいジュキヤ、真面目に授業を受けててもつまらないぜ?」
真面目に授業を聞いている横で、ひそひそとコウキが話しかけてきた
「うるせぇ、真面目に授業に取り組んでて何が悪いんだよ…授業参観の時ぐらい真面目にしたらどうだ?」
「おいおい、俺はいつだって真面目だぜ?真剣にふざけているんだ」
「こらそこ静かに!」
あーほら、言わんこっちゃない…先生にバレて怒られてるし
「へへ、バレちまったぜ」
「自業自得だろ…」
「よーし、じゃあこの魔界史の問題が分かるやつはいるかー?」
黒板には魔界についての内容が書いてある…魔界が見つかって変わったことについてか
漠然と理解はしているが、これを説明するのは難しいなぁ…えーと確か魔界が見つかって魔物と関わって…
「はいはい!はーい!」
「おっ、じゃあ渋谷!」
(へぇー、コウキのやつ分かるのか)
まぁコウキはなんだかんだイイトコ育ちだからな、それなりの教養が…
「へへ、聞いて驚けよ皆!…えー、やべぇよ分からねぇ…」
(分からないのかよ…)
「分からないなら手は上げない!じゃあ次は…」
先生が他の人を当て始める、全く分からないなら大人しくしとけよな…俺はそうしてる
「なぁ知ってるかジュッキー、魔界が見つかった事により我々人間は魔物という新しい知的生命体と交流を深めるようになっただろ?それで魔界における空気中や魔物が持つ未知のエネルギー、つまり魔力という新たなエネルギーが発見されたんだ。その魔力ってエネルギーのお陰で人類のエネルギー問題はほぼ解消されたんだぜ?この魔力を科学的に解明して問題を解消したのが志賀タクマって科学者でよぉ…」
「お前…そこまで詳しく知っててなんで言わなかったんだよ」
「え?そりゃあ、授業で言っても面白くないしなぁ…」
「ならなんで俺に話したんだよ…」
「親友であるお前が分からなそうな顔してたからな、教えるのは当たり前だろ?」
「お前がどういう奴なのか分からなくなってきたよ…」
…
「…まさかあなたがいるなんてね、ノワール」
「それは私のセリフですよぅブランシェ、久しぶりじゃないですかぁ」
私とノワールは魔界にあるメイドを育てる機関の同級生、お互いに成績を競い合った学友です
私たちの卒業後は基本的に仕える主人を探すために、魔界や人間界で直接探すか、またメイドを求める求人を見つけてくるか…進路は様々ですが
万能型メイドとして名高いショゴスのノワールは卒業後にすでにある企業へと行くことがすでに決まっていたので、卒業後からはずっと会っていなかったのです
「あなたが行った企業ってコウキ様の所だったんだ」
「えぇ、ブランシェは普通の家庭でしたか…あのご主人、ブランシェのモロにタイプですからねぇ」
「そういうノワールだって…コウキ様に惚れたから専属になったんじゃないの?行くときは一般メイドとしてだったはずでしょう」
「確かに坊っちゃまのことは愛しておりますが…専属に選んだのは私ではなくて坊っちゃまなんですよぅ?あの家にはメイドがいくらでもいる中で選んでくれたんですぅ」
「私だって、ご主人様愛してるわよ?出会ってからもうすぐに愛し合う関係になりましてね♪」
「やりますねぇ、でも坊っちゃまだって負けてませんよ?忘れはしません、あの坊っちゃまが私を求めてくださったあの夜を…」
互いに自分の主人を自慢し合う、これはメイドとしてとても幸せなこと…
とは言えご主人様が頑張って勉強している中、こうして思い出話に花を咲かせ過ぎるのもいけません…周りの保護者の方の視線も気になって来ました
「まぁ、元気にやってるみたいで何よりだわ」
「くっふふふぅ♪それはこちらのセリフですよぅ」
授業を終えるチャイムが鳴り、ご主人様が席を立ちこっちにやって来ます
「ご主人様、授業お疲れ様ですわ」
「あぁ、なんか特に発表とかしなくてごめん…」
「いえいえ、ご主人様はご主人様なりに頑張っていらしてましたわ」
文机に向かい勉学に励むご主人様は大変ご立派でした、まぁコウキ様との談笑はあったようですが居眠りなどはしておられませんでしたし…真面目と言って差し支えは無かったと思います
「坊っちゃまも立派でしたよぉ、あの凛々しく教師に手を挙げるお姿はさながら剣を掲げる勇者のようですぅ♪」
「ありがとうノワール、たかだか学校のつまらない用事に呼びつけてしまって申し訳なかったよ」
「そんなことありませんよぉ、本来なら四六時中一緒に居たいんですからぁ…」
べったりとノワールがコウキ様にまとわりついて…流石はスライム属ですね、私もああやってご主人様と一体化してみたいものです
「おいおいノワール、はしたないからやめないか。こういうのは家とか二人きりの時にしなさい、ジュキヤが見てるし」
「自然に俺を巻き込むなよ、この後は特に無いから俺らは帰るぜ」
「そうなのかジュッキー、まぁ俺もこの後は家の用事ですぐに家帰らなくちゃならないんだけどな」
「そういうことなので、私たちもこれで失礼しまうよぅ♪久々にブランシェに会えて嬉しかったですよぅ、また会いましょうねぇ」
そういって早々にお二人が去ってしまいました、私たちも帰るとしましょう
「なんか嵐のようなメイドだったな…コウキと相見えて暴風だなあれは」
「ふふ、ノワールは昔からああですからね…メイドとしてご主人様に全力で仕えることが我々の幸せですから」
久々にノワールと会えたけどあまり変わってないようで安心しました
「でもショゴスってすごいな、あれって何にでも姿変えられるんじゃないのか?」
「えぇ、特にノワールは優秀なショゴスでして…彼女の質量以内のものでしたらなれないものは無いと言われていますよ」
「へぇー、便利そうな身体だなぁ」
「あ、あのご主人様?もちろんショゴスの能力には目の張るものがありますがキキーモラだって負けてはいませんわ!基礎的な魔法さえ熟知すれば空気中の魔力から生活用品くらいなら瞬時に作り出せますし、作法やメイドとしての技術だったらノワールよりも私の方が上で…!」
「え?あ、あぁ…ごめんブランシェさん、別にブランシェさんよりノワールさんがいいとかそういう意味で言ったわけじゃないんだよ。ただ単純にああいう身体が自分にあれば便利だと思っただけで…」
まぁ…私ったらなんて早とちりをしてしまったんでしょう、お恥ずかしい…
てっきりご主人様が私の代わりにショゴスを雇ってしまう…だなんて思ってしまって、嫉妬なんて見苦しいですわ…
「も、申し訳ありません…」
「てゆーか、俺がブランシェさん以外を選ぶわけないだろ?どんだけ俺を好きにさせたと思ってるんだよ…」
ご主人様が頬を染めて照れ臭そうにそう呟きました、あぁ…ご主人様!なんて男らしい…
従者のくせに嫉妬なんてしてしまった私になんてありがたいお言葉をくださるのでしょうか…!
「ご主人様、ご主人様ぁ!私も、ブランシェもご主人様以外ありえませんわっ!」
「だっ…な、何言ってんだ…恥ずかしいだろ…」
「好きです!もう好きです!好き好き好きぃ!大好きですもう!あああああもうワケわかんない!好きすぎておかしくなりそうなんですよ!なんでこんなにご主人様が愛おしいんですか!ご主人様の全部が私の一番好きなポイントにドンピシャなんですよ!?なんなんですかもう!大好きですわっ!」
私は気持ちの昂りが抑えきれずに、帰り道に人目も気にせずに強くご主人様を抱きしめました…最悪人目はありませんでしたが
「ぶ、ブランシェさん…?」
「申し訳ありませんご主人様っ!わ、私…気持ちが抑えきれなくて…抱きしめないと今にもご主人様を押し倒してしまいそうで!」
「う、嬉しいけど外ではまずいよな…このままでいいから急いで帰ろうか?」
「はいっ、家まで超特急で運ばさせて頂きますわっ!」
仮にもウルフ種の魔物なので、速さには自信があります
私はご主人様を抱きかかえたまま可能な限りご主人様を不快にさせないように、家の塀などを飛び越えて最短ルートで家まで走り抜けました
「うぉぉ、すげー…」
「はぁ…はぁ…ご主人様、ご主人様ぁ♪」
「…なんか嫉妬させちゃったみたいだし、とことん付き合うぜ。まぁ…なんだ、とりあえずベッドまで行こうか」
「はい、ご主人様っ♪」
この後、何も考えずに交わり続けて…気がついたら日はとっくに沈んでしまっていました
なんという痴態、これじゃあ完璧なメイドとは言えませんが…
「えへへ、ご主人様ぁ…♪」
「今日のブランシェさんは甘えん坊さんだなぁ」
「…甘えてくる私はイヤ、ですか?」
「普段俺が甘えてるから、なんかこういうブランシェさんも可愛いと思うよ…年相応っていうのは違うかもしれないけどさ。」
ご主人様が可愛いと仰って下さったから…それでいいんです、明日から…明日から完璧なメイドに戻ってご主人様を甘えさせるから…
今だけは、ご主人様に甘えさせてください…
俺は今、学校から配られた一枚の紙を見て悩んでいた
「おいおいどうしたよジュッキー、そんなにトイレに行きたいならいけよ」
「誰がジュッキーだ、トイレを我慢してるわけでもねえよ!」
「なんだよ、今時大便を恥ずかしがることはないぞ?学校で大便をしてイジられるのは小学校くらいだぜ?」
悩んでいる俺に下ネタを交え話しかけてくる…クラスメイトのコウキだ、こいつ大企業の御曹司で育ちいいくせに何堂々と下ネタ言ってんだ
「トイレから離れろ、俺は今悩みがあって忙しいんだ」
「悩み?…これさっき配られた来週の授業参観のプリントじゃねえの」
「そうだよ、お前のところ親は来るのか?」
「あー、多分仕事で無理だな。まぁいつものことだし…てか俺一度も授業参観来てもらったことないからなぁ」
コウキの両親は仕事で忙しいらしく案の定来れないらしい、俺も今まではいなかったが…
「ジュキヤは…って、そうだブランシェさんに来てもらわないのか?」
「…それで悩んでたんだよ」
「お前からしたらブランシェさんは親代わりみたいじゃん?別にいいんじゃないか?」
「いや、目立つだろ…魔物だし、メイドだぜ?」
魔物を親に持つクラスメイトは少ないがいる、しかしメイドはいないだろう
「普通の服で来てもらえよ」
「ブランシェさんはメイド服以外は頑なに着ないんだよ、メイドだからって」
「うーん…うちのメイドは命令で何でもするからなぁ」
「やっぱやめとくか、どうせ言わなきゃ授業参観って知らないんだし」
家帰ったらゴミ箱に捨てておこう、ブランシェさんにわざわざ来てもらう必要もないし
「さぁ帰ろ帰ろ、ブランシェさんが家で待ってる」
「おう、また明日なー」
帰ったらすぐにプリントを捨ててしまわないと、ふいに見られないようにしないとな
「ご主人様!これはどういうことですか!?」
「げっ、ばれた!」
家帰ってすぐゴミ箱に捨てたのだが、ブランシェさんに発掘されてしまった…学校で捨てればよかったか
「授業参観だなんて大事な事、こういうのはちゃんと話さないといけませんよ!報告、連絡、相談のホウレンソウです!」
「い、いやだって…今まで誰も来なかったから別にいいかなって…」
「よくありませんよ!ご主人様、もしかして…ブランシェが学校へと出向くのに不満が…?」
さっきまで耳を立て激しくまくし立ててたブランシェさんが急にしおらしくなる
「い、いや不満だなんて…ただ、その…ブランシェさんは魔物だし…」
「ご主人様、ブランシェはご主人様にとって世間に出せない汚点なのですね…しくしく」
顔を伏せ涙を啜る音を鳴らすブランシェさん、あぁどうすればいいんだ…
「い、いやぁせっかくの授業参観だからブランシェさんにも是非来て欲しいなぁ!せっかくの授業参観だからなぁ!家族のブランシェさんに来て欲しいなぁ!」
「あらあら、ご主人様ったら!そんなにブランシェを信頼していただけているだなんて、喜んで参観させていただきますわ♪」
はい、知ってた。うん…知ってたよ?こうなることは分かってたよ?
「…まぁ、いっか」
授業を見られて困るわけではない、ただちょっとクラスで話題になるだけだ…もうすでに一回ブランシェさんが学校に来てるわけだしなぁ
…
「…で、結局ブランシェさんが来るわけ?」
「そうだよ、見事に見つかったよ」
授業参観当日、教室でコウキにブランシェさんがくる旨を話す
「まぁそうなると思って俺もメイドに来てもらったよ、お前だけに苦労は掛けさせないぜ!?」
「コウキ…お前いい奴だな、見直したわ」
「よせやい、親友として当たり前だぜ」
「ありがとう親友」
「まぁまぁ、仲がよろしいようで何よりですわ」
まだ他の生徒達の親があまり集まっていないような朝の休み時間に、ブランシェさんが来た
「ブランシェさん、早いね」
「ご主人様の晴れ舞台ですから、最初から最後まで見届けますよ♪」
犬耳、尻尾、メイドという他にいない格好の美女にクラスがざわつく
「これはこれはブランシェさん、ご機嫌麗しゅうございます」
「まぁまぁ、コウキ様…おはようございますわ」
やばい、コウキとブランシェさんの交わした挨拶で教室が高級な雰囲気になっていく!
「お、お前んとこのメイドさんはまだいないのか?」
「ん?もういると思うぞ、ノワール」
「くっふふふぅ♪はぁい、お呼びですか坊っちゃまぁ♪」
コウキが一声掛けると女性の笑う声がして、コウキの後ろから黒い液体が溢れて人の形を成していく
そして完全に成形されるとそこには青黒い肌をした黒髪のメイド服を着た女性…体からは、目のようなものが見えたり、不定形な液状の触手が生えていたりしている
「!?」
そのあまりにも異様な光景に、俺やクラスの皆が言葉を無くした
「ノワール、その登場の仕方は不気味だから別のにしようって言わなかったかい?」
「くっふふふぅ♪申し訳ありません坊っちゃま、どうしても思い浮かばなくてぇ…どんなオシオキでも受け入れますわ♪」
「そうだな、じゃあ帰ったらキツめのオシオキだ…ってこらこらよさないか、子供たちの前だぞ?」
「いやん、坊っちゃまぁ♪」
異様な光景の中でコウキとノワールと呼ばれたメイドが話している
「あら、ノワール?」
「まぁ、ブランシェじゃあないですかぁ」
「え、知り合い?」
「えぇ、彼女は私の…魔界立従者育成学校の同期ですわ」
魔界…そういえば魔物って魔界と呼ばれる別の世界からこちらに来ているらしいな
というか従者育成学校って…そんなものがあるのか、キキーモラ以外に魔物メイドがいるのにも驚きだ
てっきりコウキに仕えているメイドは人間か、同じキキーモラかと思ったが
「では改めて自己紹介を…コウキ坊っちゃまに専属で仕えさせていただいているノワールと申しますぅ。先程言われた通りショゴスという魔物ですぅ、よろしくお願いしますねぇ」
「あぁこれはどうも…コウキのクラスメイトの上月ジュキヤです」
「では私も…ジュキヤ様に仕えさせていただいているメイドのブランシェと申しますわ」
ノワールさんの丁寧な挨拶に、俺とブランシェさんも続いて頭を下げる
「おいおいジュッキー!ただのクラスメイトとは水くさいじゃねえの!?ふふ、親友…だろ?」
「お前さっきまで上品だったのになんで俺に話しかけたら元に戻るんだよ」
「くっふふふぅ♪坊っちゃまはジュキヤさんのことをとても気に入っておられる様子で…お家でもジュキヤさんの事ばかり言っていて嫉妬してしまいますぅ」
「あぁすまないノワール、君が嫉妬してしまう程だったかい?何せジュキヤと俺は硬く熱い絆で繋がっているからな…なぁブラザー?」
コウキが何かほざいているが、そろそろHRが始まる時間なので席に着いておこう
「あ、保護者…ブランシェさんは俺の席の横じゃなくて後ろで授業を見ていてくれればいいんだよ」
「まぁ、残念ですわ…すぐに奉仕できる位置なのですが」
「こらジュッキー!バディである俺を無視してるんじゃねえぜ!?」
「お前もそろそろ先生来るから座れよ」
コウキが渋々と席に戻り、少しして担任の先生が教室に来る
当たり障りない挨拶をして、ブランシェさんやノワールさんに驚き…なんてこともありながら授業参観が開始された
「えー、つまり魔物は〜…魔界の〜…」
「ふむふむ…」
「おいおいジュキヤ、真面目に授業を受けててもつまらないぜ?」
真面目に授業を聞いている横で、ひそひそとコウキが話しかけてきた
「うるせぇ、真面目に授業に取り組んでて何が悪いんだよ…授業参観の時ぐらい真面目にしたらどうだ?」
「おいおい、俺はいつだって真面目だぜ?真剣にふざけているんだ」
「こらそこ静かに!」
あーほら、言わんこっちゃない…先生にバレて怒られてるし
「へへ、バレちまったぜ」
「自業自得だろ…」
「よーし、じゃあこの魔界史の問題が分かるやつはいるかー?」
黒板には魔界についての内容が書いてある…魔界が見つかって変わったことについてか
漠然と理解はしているが、これを説明するのは難しいなぁ…えーと確か魔界が見つかって魔物と関わって…
「はいはい!はーい!」
「おっ、じゃあ渋谷!」
(へぇー、コウキのやつ分かるのか)
まぁコウキはなんだかんだイイトコ育ちだからな、それなりの教養が…
「へへ、聞いて驚けよ皆!…えー、やべぇよ分からねぇ…」
(分からないのかよ…)
「分からないなら手は上げない!じゃあ次は…」
先生が他の人を当て始める、全く分からないなら大人しくしとけよな…俺はそうしてる
「なぁ知ってるかジュッキー、魔界が見つかった事により我々人間は魔物という新しい知的生命体と交流を深めるようになっただろ?それで魔界における空気中や魔物が持つ未知のエネルギー、つまり魔力という新たなエネルギーが発見されたんだ。その魔力ってエネルギーのお陰で人類のエネルギー問題はほぼ解消されたんだぜ?この魔力を科学的に解明して問題を解消したのが志賀タクマって科学者でよぉ…」
「お前…そこまで詳しく知っててなんで言わなかったんだよ」
「え?そりゃあ、授業で言っても面白くないしなぁ…」
「ならなんで俺に話したんだよ…」
「親友であるお前が分からなそうな顔してたからな、教えるのは当たり前だろ?」
「お前がどういう奴なのか分からなくなってきたよ…」
…
「…まさかあなたがいるなんてね、ノワール」
「それは私のセリフですよぅブランシェ、久しぶりじゃないですかぁ」
私とノワールは魔界にあるメイドを育てる機関の同級生、お互いに成績を競い合った学友です
私たちの卒業後は基本的に仕える主人を探すために、魔界や人間界で直接探すか、またメイドを求める求人を見つけてくるか…進路は様々ですが
万能型メイドとして名高いショゴスのノワールは卒業後にすでにある企業へと行くことがすでに決まっていたので、卒業後からはずっと会っていなかったのです
「あなたが行った企業ってコウキ様の所だったんだ」
「えぇ、ブランシェは普通の家庭でしたか…あのご主人、ブランシェのモロにタイプですからねぇ」
「そういうノワールだって…コウキ様に惚れたから専属になったんじゃないの?行くときは一般メイドとしてだったはずでしょう」
「確かに坊っちゃまのことは愛しておりますが…専属に選んだのは私ではなくて坊っちゃまなんですよぅ?あの家にはメイドがいくらでもいる中で選んでくれたんですぅ」
「私だって、ご主人様愛してるわよ?出会ってからもうすぐに愛し合う関係になりましてね♪」
「やりますねぇ、でも坊っちゃまだって負けてませんよ?忘れはしません、あの坊っちゃまが私を求めてくださったあの夜を…」
互いに自分の主人を自慢し合う、これはメイドとしてとても幸せなこと…
とは言えご主人様が頑張って勉強している中、こうして思い出話に花を咲かせ過ぎるのもいけません…周りの保護者の方の視線も気になって来ました
「まぁ、元気にやってるみたいで何よりだわ」
「くっふふふぅ♪それはこちらのセリフですよぅ」
授業を終えるチャイムが鳴り、ご主人様が席を立ちこっちにやって来ます
「ご主人様、授業お疲れ様ですわ」
「あぁ、なんか特に発表とかしなくてごめん…」
「いえいえ、ご主人様はご主人様なりに頑張っていらしてましたわ」
文机に向かい勉学に励むご主人様は大変ご立派でした、まぁコウキ様との談笑はあったようですが居眠りなどはしておられませんでしたし…真面目と言って差し支えは無かったと思います
「坊っちゃまも立派でしたよぉ、あの凛々しく教師に手を挙げるお姿はさながら剣を掲げる勇者のようですぅ♪」
「ありがとうノワール、たかだか学校のつまらない用事に呼びつけてしまって申し訳なかったよ」
「そんなことありませんよぉ、本来なら四六時中一緒に居たいんですからぁ…」
べったりとノワールがコウキ様にまとわりついて…流石はスライム属ですね、私もああやってご主人様と一体化してみたいものです
「おいおいノワール、はしたないからやめないか。こういうのは家とか二人きりの時にしなさい、ジュキヤが見てるし」
「自然に俺を巻き込むなよ、この後は特に無いから俺らは帰るぜ」
「そうなのかジュッキー、まぁ俺もこの後は家の用事ですぐに家帰らなくちゃならないんだけどな」
「そういうことなので、私たちもこれで失礼しまうよぅ♪久々にブランシェに会えて嬉しかったですよぅ、また会いましょうねぇ」
そういって早々にお二人が去ってしまいました、私たちも帰るとしましょう
「なんか嵐のようなメイドだったな…コウキと相見えて暴風だなあれは」
「ふふ、ノワールは昔からああですからね…メイドとしてご主人様に全力で仕えることが我々の幸せですから」
久々にノワールと会えたけどあまり変わってないようで安心しました
「でもショゴスってすごいな、あれって何にでも姿変えられるんじゃないのか?」
「えぇ、特にノワールは優秀なショゴスでして…彼女の質量以内のものでしたらなれないものは無いと言われていますよ」
「へぇー、便利そうな身体だなぁ」
「あ、あのご主人様?もちろんショゴスの能力には目の張るものがありますがキキーモラだって負けてはいませんわ!基礎的な魔法さえ熟知すれば空気中の魔力から生活用品くらいなら瞬時に作り出せますし、作法やメイドとしての技術だったらノワールよりも私の方が上で…!」
「え?あ、あぁ…ごめんブランシェさん、別にブランシェさんよりノワールさんがいいとかそういう意味で言ったわけじゃないんだよ。ただ単純にああいう身体が自分にあれば便利だと思っただけで…」
まぁ…私ったらなんて早とちりをしてしまったんでしょう、お恥ずかしい…
てっきりご主人様が私の代わりにショゴスを雇ってしまう…だなんて思ってしまって、嫉妬なんて見苦しいですわ…
「も、申し訳ありません…」
「てゆーか、俺がブランシェさん以外を選ぶわけないだろ?どんだけ俺を好きにさせたと思ってるんだよ…」
ご主人様が頬を染めて照れ臭そうにそう呟きました、あぁ…ご主人様!なんて男らしい…
従者のくせに嫉妬なんてしてしまった私になんてありがたいお言葉をくださるのでしょうか…!
「ご主人様、ご主人様ぁ!私も、ブランシェもご主人様以外ありえませんわっ!」
「だっ…な、何言ってんだ…恥ずかしいだろ…」
「好きです!もう好きです!好き好き好きぃ!大好きですもう!あああああもうワケわかんない!好きすぎておかしくなりそうなんですよ!なんでこんなにご主人様が愛おしいんですか!ご主人様の全部が私の一番好きなポイントにドンピシャなんですよ!?なんなんですかもう!大好きですわっ!」
私は気持ちの昂りが抑えきれずに、帰り道に人目も気にせずに強くご主人様を抱きしめました…最悪人目はありませんでしたが
「ぶ、ブランシェさん…?」
「申し訳ありませんご主人様っ!わ、私…気持ちが抑えきれなくて…抱きしめないと今にもご主人様を押し倒してしまいそうで!」
「う、嬉しいけど外ではまずいよな…このままでいいから急いで帰ろうか?」
「はいっ、家まで超特急で運ばさせて頂きますわっ!」
仮にもウルフ種の魔物なので、速さには自信があります
私はご主人様を抱きかかえたまま可能な限りご主人様を不快にさせないように、家の塀などを飛び越えて最短ルートで家まで走り抜けました
「うぉぉ、すげー…」
「はぁ…はぁ…ご主人様、ご主人様ぁ♪」
「…なんか嫉妬させちゃったみたいだし、とことん付き合うぜ。まぁ…なんだ、とりあえずベッドまで行こうか」
「はい、ご主人様っ♪」
この後、何も考えずに交わり続けて…気がついたら日はとっくに沈んでしまっていました
なんという痴態、これじゃあ完璧なメイドとは言えませんが…
「えへへ、ご主人様ぁ…♪」
「今日のブランシェさんは甘えん坊さんだなぁ」
「…甘えてくる私はイヤ、ですか?」
「普段俺が甘えてるから、なんかこういうブランシェさんも可愛いと思うよ…年相応っていうのは違うかもしれないけどさ。」
ご主人様が可愛いと仰って下さったから…それでいいんです、明日から…明日から完璧なメイドに戻ってご主人様を甘えさせるから…
今だけは、ご主人様に甘えさせてください…
15/09/21 02:28更新 / ミドリマメ
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