いってらっしゃいませ、ご主人様
朝の眩しい日差しで目が醒めた
「おはようございますわ、ご主人様」
ブランシェさんは昨日と変わらぬ位置にいた、ずっといたのだろうか
「あぁ、おはよう…もしかしてずっといたのか?」
「はい♪」
「…ちゃんと寝たのか?」
「はい、そもそも魔物は人間と違いそこまで睡眠を重視するわけではありませんが…」
「いや…なら、いいんだ」
「あらあら、ご主人様ったら私の心配をして下さっているのですか!?もう、嬉しいのでブランシェの抱擁を差し上げますわっ♪」
そういってぎゅっと抱きしめてくるブランシェさん、朝から大胆なメイドさんだ
「ちょっ、ブランシェさん!」
「…あら、この腰に当たっているのはなんでしょうか♪」
俺は健康な男子なわけで、まぁ朝の生理現象とブランシェさんの抱擁と来たら…
「っ!は、離れてくれ…マズイよ…!」
「まぁまぁ、そんなに照れなくてもよろしいのですよ?ふふ…男の子ですものね♪」
「か、顔洗ってくる!」
顔を洗うことを方便にブランシェさんから逃れようとする
「はいっ、ご一緒いたしますわ」
「え…」
「メイドですもの、ご主人様の朝の身支度をお手伝いさせていただきますわ♪」
「…顔洗うのはいいや、着替えるから…」
「はいご主人様、こちらに用意してありますわ」
そういって綺麗にされた制服を渡してくるブランシェさん、いやそういうことじゃなくて…
「あの、着替えるから…」
「はい、ではズボンを履いていただくのでおみ足を…」
「いや、違うだろ?ブランシェさんがいたら着替えられないから、な?」
「…ご主人様」
少し強く言いすぎたか…ブランシェさんの頭が下がり、尻尾と耳がシュンとする
「あ…その、だから…邪魔とかじゃなくて、恥ずかしいから外にいてほしいというか…」
「ご主人様はブランシェがいらないというのですね…シクシク」
背を向けたブランシェさんから涙の音が聞こえてくる
「うるうる…」
「き、着替えるから手伝って欲しいなぁブランシェさん!」
「はいっ、かしこまりましたわっ♪」
一転して尻尾を振り円満の笑顔…分かってた、嘘泣きってのは分かってたよ!
でもさぁ!分かっててもダメなものはダメなんだよぉ!
「ベルトはこれくらいでよろしいですか?」
「…あぁ」
「ではネクタイを締めますので、首をあげてくださいねー」
少し屈んでネクタイを締めてくれるブランシェさんは自然と俺を見上げる形になって…
ってこのネクタイを締めてもらうの、なんか新婚さんみたいだな…
「ふふ…なんだか新婚さんみたいですね♪」
「ほぁっ!?」
心を読まれたか、ブランシェさんが俺の考えていたことを口に出す
「ご主人様、いかがなされましたか?」
「な、何でもないよ…」
「そうですか、では朝食が出来上がっているので下のリビングまで行きましょう♪」
ブランシェさんに背を押されながらリビングまで降りてくる
「朝ごはんがちゃんと用意されてるとは…」
「朝なので食べやすさを重視致しました、ブランシェ特製のホットサンドとホルスタウロスのミルクですわ。」
ブランシェさんが用意してくれたホットサンドは具材がバランスよく入っており、見た目も綺麗だ
「はい、お口を開けてくださいまし。あ〜ん、ですわ♪」
「…あーん」
もう食べさせてもらうことに突っ込むのはやめよう、うん美味しいなぁ
「美味しいなぁ、市販のとは大違いだ」
「それは勿論ですわ、材料の厳選から料理法までメイドとして完璧な仕事をしていますから」
さも当然のように言ってのけるブランシェさんだが、嬉しそうに尻尾を振っている
「でも…美味しさの一番の秘密は、ご主人様への「愛」ですよ♪」
「っ…あ、朝から何言ってんだよ…」
一々発言がドキッとする事ばかり言って…
「はい、ミルクもどうぞ〜」
「…ありがと」
「ホルスタウロスのミルクですから栄養満点ですよ♪」
ホルスタウロス…前にテレビで見たことがある、乳牛の魔物で大変栄養価の高い乳が搾乳出来るから人間の間でも有名だ
「…初めて飲んだけど、美味しいなぁ」
「えぇ、知り合いに頼んで搾りたてを貰っていますから♪」
なんと贅沢な…ホルスタウロスのミルクは高いって聞いているが
「…ご馳走様、美味しかったよ」
「はい、お粗末様ですわ」
久しぶりに朝から充実した飯を食べれたなぁ…なんかいつもより元気な気がする
「よーし、じゃあそろそろ学校行ってくる」
「あ、ご主人様!こちらをお持ち下さいませ」
ブランシェさんが俺に四角い包みを渡してくれた
「え、これ弁当?」
「はい!ブランシェの愛情たっぷり詰まった愛従者弁当ですわ♪」
愛従者弁当…またよく分からないの単語だ
「ありがとう、これで購買戦争に参加しなくてよさそうだぜ」
「はい、では気をつけて行ってらっしゃいませっ♪」
玄関までブランシェさんが見送りに来てくれる、なんかこういうのいいなぁ…
「じゃあ行ってくるよ」
「あ…ご主人様、一つお忘れ物がございますわ」
「えっ?」
俺が玄関から出ようとしたらブランシェさんに引き止められ、振り向いた瞬間…
「んっ…♪」
ちゅっ、と頬に柔らかい感触が
「…なっ!?」
「行ってらっしゃいのキス、ですわ♪」
「い、行ってくる!」
「はい、行ってらっしゃいませご主人様♪」
…
朝から大胆な行動の数々で見送られた俺は学校に着いてからも動悸がしばらく治らなかった
「もう…勘弁してくれよなぁ」
ブランシェさんは本当に大胆だ、特に最後のアレは今までで一番の衝撃だ
「お、ジュキヤじゃん!朝から何頭を抱えてるんだよ?」
「…お前か、お前は良いよなぁ…悩みなんかなさそうでさ」
悩む俺に能天気なアホ面をした特に仲の良くない筈のクラスメイトA(モブ)が話しかけてきた
「何人との関わりを薄くしてるんだよ!俺とお前はマブダチじゃないか!?」
「何も言ってねえだろ、なんで分かるんだよ」
「そりゃあお前…マブダチだから、かな?」
モブA改めてこいつは渋谷(シブタニ)コウキ、まぁ…こいつとは小学生からの腐れ縁だ
「ほらまたそうやって縁を薄くしようとするなー!親友だろ?ソウルフレンドだろ?な?」
「うるせえ、だからなんで分かるんだよ」
「ベストパートナー…バディだから、かな?」
こうふざけたやつで、クラスのムードメーカー的存在だ
しかしこんなやつでも家が大企業で、そこの御曹司…本物の金持ちだ
「なぁ、金持ちのお前なら分かると思うが…メイドってどう思う?」
「メイド?あぁ、うちに何人かいるけど…アレはいいものだよなぁ、慎ましくてお淑やかで清楚で…なんて言うんだろうな!こう、ああいうのって汚したくなるよな!セクハラとかさ!」
「お前今人として最低なこと言ってることに気づけよ」
ほら、クラスメイトからクールな視線が送られてるから
「何を言う、メイドにセクハラをしないなんてそこに犬耳の女の子がいるのに頭を撫でないのと同じことだぞ!」
「待て、定義がよく分からん」
「そうか?じゃあ動物っ子の尻尾を握ってへにゃへにゃにしないと同義だ!」
「お前何言ってんの?」
メイド、犬耳、尻尾とブランシェさんの特徴が上がってくるがコウキの言っていることがよく分からない
「で、なんでいきなりそんなこと聞くんだ?あ、うちのメイドが欲しいっていうのはいくら親友でもダメだぜ!?あの子達は俺のもんだからな!」
「誰もそんなことは言ってねえよ…ただ少し気になっただけだよ」
「ふーん、でもそんな話をしてるせいでクラスの皆がお前に冷たい視線を浴びせてるわけだが?」
いやその視線はお前に送られているものだぞ
「とりあえずお前の意見は参考にならんことは分かった」
「なんだよー、お前が聞いたくせにー」
コウキがいろいろうるさかったが、先生が来て授業が始まったら静かになった
そして退屈な授業が終わり、昼休みになる
「…さてと、飯食うかな」
「あれ、お前が弁当だなんて珍しいじゃん!」
「あぁ、少しな」
購買に行って帰ってきたコウキが机を寄せてくる
「お前、いつも購買だけど金持ちなんだし家で作ってもらえないのか?」
「いやー、こういうのって学生らしいじゃん?別に豪華な飯が食いたいわけじゃないから、俺は今だけの学生気分を味わうのさ」
そういってコウキは「エリンギメープルチョコ」とパッケージに書かれたパンを頬張る
「うおっ、クソ不味い!」
「お前相変わらずチャレンジャーだな」
コウキは購買の商品を全て制覇するという小さな野望を持っているので、よくわからない変な物を買うことが多い
いやあのバカはどうでもいいんだ、俺も飯を食おう
「何が入ってるんだろう…」
ブランシェさんが渡してくれた包みを開ける
「っ…」
肉、野菜の彩り豊かなオカズ
そしてご飯の上にはシャケフレークでハートが象られている
「おぉっ!なんだジュキヤ、まるで愛妻弁当じゃねえか!」
なるほど…愛従者弁当、そういうことか…
「なんで弁当まで大胆なんだよ…」
しかも文句無しに美味い、ペロリと平らげてしまう
「なるほど、朝の質問の意図が分かったぜ!ジュキヤに彼女が出来て、その彼女が尽くしてくれるタイプでさながらメイドの様だったんだな?それで親友である俺にあんな質問をしたわけだ!」
3割ほど当たっているというか、ギリギリ違うというか…
「うるせえ、大人しく不味いパンでも食ってろ」
「いや、流石にもうあのパンは買わないから」
あっという間に昼休みが過ぎ、授業が開始する
「あ…」
午後の授業が終わり、帰ろうとしたところで外に雨が降り始めた
「そういや今日午後から雨だって予報だったな」
「そうなのか?見てないからな…」
しかしどうしようか、不幸なことに傘など持ってきてない
コウキは家が逆方向だから…
「おいジュキヤ!なんか玄関にメイドさんが来てるらしいぜ!?」
「メイド?お前のところのじゃないのか?」
「いや、うちのは今日は呼んでないし連絡も来てないから違うだろ。ちょっと見に行こうぜっ!」
野次馬根性バリバリのコウキに引っ張られて、玄関までやってきた
「ほら、あれあれ!」
コウキの方向を見ると、学生の制服とは明らかに違う白黒の服…
って、あの薄い水色の髪に垂れた耳…あのしっぽは
「ブランシェさん!?」
「あっ♪ご主人様、お疲れ様ですわ」
ブランシェさんも俺に気づいたらしく、こちらに笑顔で駆け寄ってくる
「な、なんで学校にいるの!?」
「えぇ、雨が降ってしまわれたのでご主人様に傘をお届けに参りましたわ♪」
そういって傘を渡してくれた
「あ、ありがとう…」
「いえいえ、これもメイドの務めですわ♪」
「お、おいジュキヤ!こちらの麗しいメイドさんは知り合いかよ!?」
「あら、ご主人様の御学友様ですか?私、メイドのブランシェと申しますわ」
「これはこれはご丁寧に、私は渋谷コウキと言います。」
ブランシェさんとコウキが起立正しく挨拶をする、何やらお上品な雰囲気だ
あぁ、周りにバラが咲き始めた…!
「その立ち振る舞い、相当高貴な家柄と察します。もしやあの、渋谷グループの…」
「はい、仰る通りで…僭越ながらジュキヤ君とは仲良くさせていただいています。ブランシェさんはそのお姿から、キキーモラ…しかも相当な訓練を積んでいらっしゃるようですね」
そういえばコウキは大企業の御曹司だもんなぁ、普段がアレだから新鮮な感じだぜ
「おいおい、なんで二人ともそんな畏まってんだよ…」
俺が蚊帳の外なんだけど、どうすればいいのさ
「あ、すまねえジュキヤ!いやー、相手が相手だとこういう風になっちゃうもんなんだわ!」
「申し訳ありませんご主人様、つい白熱してしまい…」
どうやら高貴なる者同士だと何か戦いがあるらしい
「…まぁいいけど、さっさと帰ろうぜ」
「そうだな、俺はこっちだから先に帰るぜ!じゃあなジュキヤ、ブランシェさん!」
そういってコウキは雨の中、傘を差して突っ込んでいっで…あ、転んだ
「これだから雨はよぉぉぉぉぉぉ!」
全く、騒がしいやつだ
「…さっきブランシェさんと上品に挨拶を交わしていた男とは思えないな」
「いえご主人様、あれは周りを油断させるカモフラージュですわ。大企業の御曹司となると、何かと周りから狙われますからね…あのように振る舞うことで周りから狙われないようにしているのですわ」
「いやあいつはあれが素だと思うよ」
マジで、多分さっきの上品のは作ってる
「…とりあえず、帰ろっか」
「はいっ♪」
傘を差して気づいた、今持っているのはブランシェが行きに使ってきたものだ
そして俺に渡してくれた、ということは傘はこれ一本だ
「あの、ブランシェさん…傘って」
「あらあら、私ったらうっかり傘を一つしか持ってきてませんでしたわ」
「だよな…とりあえず俺は差さなくていいから」
そういって傘をブランシェさんに渡そうとするが…
「そんな、いけませんわご主人様!私こそ大丈夫ですのでご主人様が…」
「いやそんなわけにはいかないだろ」
「…でしたら、こうしませんか?」
ブランシェさんが傘を差している俺の側に寄る
「これって…」
「どうですか、これならどちらも濡れませんよ♪」
俗に言う相合傘ってやつだろ、これ…
「ブランシェさん、まさかこれ狙ったんじゃ…」
「あらあら、どうでしょうか♪」
意味深な笑みを浮かべるブランシェさん、しかしこうなってしまっては仕方がない
「…はぁ、とりあえずさっさと帰るか」
「はいっ♪」
学校から家までの帰路をブランシェさんと一緒に歩く
「あの…ご主人様、あまりこちらに傘を寄せ過ぎてはご主人様が濡れてしまいますよ?」
女性と並んで歩く、なんてしたことがない俺は自然と少しブランシェさんとの距離を取ってしまう
その分ブランシェさんに傘を寄せていたわけだが…
「ご主人様、もう少し寄らせていただきますね」
「えっ…」
ブランシェさんが傘を持っている俺の腕に、腕を絡ませてくる
その時に、ちょうど俺の腕がブランシェさんの胸に挟まれて柔らかく心地の良い感触がした
「な、ちょっ、ブランシェさん!?」
「これならば傘にお互いの身体がちゃんと入りますね♪」
優しく微笑むブランシェさんだが、そんなことを気にしている場合ではない
「ぶ、ブランシェさん…あ、当たってるから…!」
「あらあら、ふふっ…♪」
狼狽える俺を見てにこにこと笑っているブランシェさん、腕を解いてくれる気は無さそうだった
「さぁさぁ、早くお家に参りましょう♪」
そうしてこのまま柔らかい感触を味わいながら、しばらくの間ブランシェさんと雨の中歩いたのであった…
「おはようございますわ、ご主人様」
ブランシェさんは昨日と変わらぬ位置にいた、ずっといたのだろうか
「あぁ、おはよう…もしかしてずっといたのか?」
「はい♪」
「…ちゃんと寝たのか?」
「はい、そもそも魔物は人間と違いそこまで睡眠を重視するわけではありませんが…」
「いや…なら、いいんだ」
「あらあら、ご主人様ったら私の心配をして下さっているのですか!?もう、嬉しいのでブランシェの抱擁を差し上げますわっ♪」
そういってぎゅっと抱きしめてくるブランシェさん、朝から大胆なメイドさんだ
「ちょっ、ブランシェさん!」
「…あら、この腰に当たっているのはなんでしょうか♪」
俺は健康な男子なわけで、まぁ朝の生理現象とブランシェさんの抱擁と来たら…
「っ!は、離れてくれ…マズイよ…!」
「まぁまぁ、そんなに照れなくてもよろしいのですよ?ふふ…男の子ですものね♪」
「か、顔洗ってくる!」
顔を洗うことを方便にブランシェさんから逃れようとする
「はいっ、ご一緒いたしますわ」
「え…」
「メイドですもの、ご主人様の朝の身支度をお手伝いさせていただきますわ♪」
「…顔洗うのはいいや、着替えるから…」
「はいご主人様、こちらに用意してありますわ」
そういって綺麗にされた制服を渡してくるブランシェさん、いやそういうことじゃなくて…
「あの、着替えるから…」
「はい、ではズボンを履いていただくのでおみ足を…」
「いや、違うだろ?ブランシェさんがいたら着替えられないから、な?」
「…ご主人様」
少し強く言いすぎたか…ブランシェさんの頭が下がり、尻尾と耳がシュンとする
「あ…その、だから…邪魔とかじゃなくて、恥ずかしいから外にいてほしいというか…」
「ご主人様はブランシェがいらないというのですね…シクシク」
背を向けたブランシェさんから涙の音が聞こえてくる
「うるうる…」
「き、着替えるから手伝って欲しいなぁブランシェさん!」
「はいっ、かしこまりましたわっ♪」
一転して尻尾を振り円満の笑顔…分かってた、嘘泣きってのは分かってたよ!
でもさぁ!分かっててもダメなものはダメなんだよぉ!
「ベルトはこれくらいでよろしいですか?」
「…あぁ」
「ではネクタイを締めますので、首をあげてくださいねー」
少し屈んでネクタイを締めてくれるブランシェさんは自然と俺を見上げる形になって…
ってこのネクタイを締めてもらうの、なんか新婚さんみたいだな…
「ふふ…なんだか新婚さんみたいですね♪」
「ほぁっ!?」
心を読まれたか、ブランシェさんが俺の考えていたことを口に出す
「ご主人様、いかがなされましたか?」
「な、何でもないよ…」
「そうですか、では朝食が出来上がっているので下のリビングまで行きましょう♪」
ブランシェさんに背を押されながらリビングまで降りてくる
「朝ごはんがちゃんと用意されてるとは…」
「朝なので食べやすさを重視致しました、ブランシェ特製のホットサンドとホルスタウロスのミルクですわ。」
ブランシェさんが用意してくれたホットサンドは具材がバランスよく入っており、見た目も綺麗だ
「はい、お口を開けてくださいまし。あ〜ん、ですわ♪」
「…あーん」
もう食べさせてもらうことに突っ込むのはやめよう、うん美味しいなぁ
「美味しいなぁ、市販のとは大違いだ」
「それは勿論ですわ、材料の厳選から料理法までメイドとして完璧な仕事をしていますから」
さも当然のように言ってのけるブランシェさんだが、嬉しそうに尻尾を振っている
「でも…美味しさの一番の秘密は、ご主人様への「愛」ですよ♪」
「っ…あ、朝から何言ってんだよ…」
一々発言がドキッとする事ばかり言って…
「はい、ミルクもどうぞ〜」
「…ありがと」
「ホルスタウロスのミルクですから栄養満点ですよ♪」
ホルスタウロス…前にテレビで見たことがある、乳牛の魔物で大変栄養価の高い乳が搾乳出来るから人間の間でも有名だ
「…初めて飲んだけど、美味しいなぁ」
「えぇ、知り合いに頼んで搾りたてを貰っていますから♪」
なんと贅沢な…ホルスタウロスのミルクは高いって聞いているが
「…ご馳走様、美味しかったよ」
「はい、お粗末様ですわ」
久しぶりに朝から充実した飯を食べれたなぁ…なんかいつもより元気な気がする
「よーし、じゃあそろそろ学校行ってくる」
「あ、ご主人様!こちらをお持ち下さいませ」
ブランシェさんが俺に四角い包みを渡してくれた
「え、これ弁当?」
「はい!ブランシェの愛情たっぷり詰まった愛従者弁当ですわ♪」
愛従者弁当…またよく分からないの単語だ
「ありがとう、これで購買戦争に参加しなくてよさそうだぜ」
「はい、では気をつけて行ってらっしゃいませっ♪」
玄関までブランシェさんが見送りに来てくれる、なんかこういうのいいなぁ…
「じゃあ行ってくるよ」
「あ…ご主人様、一つお忘れ物がございますわ」
「えっ?」
俺が玄関から出ようとしたらブランシェさんに引き止められ、振り向いた瞬間…
「んっ…♪」
ちゅっ、と頬に柔らかい感触が
「…なっ!?」
「行ってらっしゃいのキス、ですわ♪」
「い、行ってくる!」
「はい、行ってらっしゃいませご主人様♪」
…
朝から大胆な行動の数々で見送られた俺は学校に着いてからも動悸がしばらく治らなかった
「もう…勘弁してくれよなぁ」
ブランシェさんは本当に大胆だ、特に最後のアレは今までで一番の衝撃だ
「お、ジュキヤじゃん!朝から何頭を抱えてるんだよ?」
「…お前か、お前は良いよなぁ…悩みなんかなさそうでさ」
悩む俺に能天気なアホ面をした特に仲の良くない筈のクラスメイトA(モブ)が話しかけてきた
「何人との関わりを薄くしてるんだよ!俺とお前はマブダチじゃないか!?」
「何も言ってねえだろ、なんで分かるんだよ」
「そりゃあお前…マブダチだから、かな?」
モブA改めてこいつは渋谷(シブタニ)コウキ、まぁ…こいつとは小学生からの腐れ縁だ
「ほらまたそうやって縁を薄くしようとするなー!親友だろ?ソウルフレンドだろ?な?」
「うるせえ、だからなんで分かるんだよ」
「ベストパートナー…バディだから、かな?」
こうふざけたやつで、クラスのムードメーカー的存在だ
しかしこんなやつでも家が大企業で、そこの御曹司…本物の金持ちだ
「なぁ、金持ちのお前なら分かると思うが…メイドってどう思う?」
「メイド?あぁ、うちに何人かいるけど…アレはいいものだよなぁ、慎ましくてお淑やかで清楚で…なんて言うんだろうな!こう、ああいうのって汚したくなるよな!セクハラとかさ!」
「お前今人として最低なこと言ってることに気づけよ」
ほら、クラスメイトからクールな視線が送られてるから
「何を言う、メイドにセクハラをしないなんてそこに犬耳の女の子がいるのに頭を撫でないのと同じことだぞ!」
「待て、定義がよく分からん」
「そうか?じゃあ動物っ子の尻尾を握ってへにゃへにゃにしないと同義だ!」
「お前何言ってんの?」
メイド、犬耳、尻尾とブランシェさんの特徴が上がってくるがコウキの言っていることがよく分からない
「で、なんでいきなりそんなこと聞くんだ?あ、うちのメイドが欲しいっていうのはいくら親友でもダメだぜ!?あの子達は俺のもんだからな!」
「誰もそんなことは言ってねえよ…ただ少し気になっただけだよ」
「ふーん、でもそんな話をしてるせいでクラスの皆がお前に冷たい視線を浴びせてるわけだが?」
いやその視線はお前に送られているものだぞ
「とりあえずお前の意見は参考にならんことは分かった」
「なんだよー、お前が聞いたくせにー」
コウキがいろいろうるさかったが、先生が来て授業が始まったら静かになった
そして退屈な授業が終わり、昼休みになる
「…さてと、飯食うかな」
「あれ、お前が弁当だなんて珍しいじゃん!」
「あぁ、少しな」
購買に行って帰ってきたコウキが机を寄せてくる
「お前、いつも購買だけど金持ちなんだし家で作ってもらえないのか?」
「いやー、こういうのって学生らしいじゃん?別に豪華な飯が食いたいわけじゃないから、俺は今だけの学生気分を味わうのさ」
そういってコウキは「エリンギメープルチョコ」とパッケージに書かれたパンを頬張る
「うおっ、クソ不味い!」
「お前相変わらずチャレンジャーだな」
コウキは購買の商品を全て制覇するという小さな野望を持っているので、よくわからない変な物を買うことが多い
いやあのバカはどうでもいいんだ、俺も飯を食おう
「何が入ってるんだろう…」
ブランシェさんが渡してくれた包みを開ける
「っ…」
肉、野菜の彩り豊かなオカズ
そしてご飯の上にはシャケフレークでハートが象られている
「おぉっ!なんだジュキヤ、まるで愛妻弁当じゃねえか!」
なるほど…愛従者弁当、そういうことか…
「なんで弁当まで大胆なんだよ…」
しかも文句無しに美味い、ペロリと平らげてしまう
「なるほど、朝の質問の意図が分かったぜ!ジュキヤに彼女が出来て、その彼女が尽くしてくれるタイプでさながらメイドの様だったんだな?それで親友である俺にあんな質問をしたわけだ!」
3割ほど当たっているというか、ギリギリ違うというか…
「うるせえ、大人しく不味いパンでも食ってろ」
「いや、流石にもうあのパンは買わないから」
あっという間に昼休みが過ぎ、授業が開始する
「あ…」
午後の授業が終わり、帰ろうとしたところで外に雨が降り始めた
「そういや今日午後から雨だって予報だったな」
「そうなのか?見てないからな…」
しかしどうしようか、不幸なことに傘など持ってきてない
コウキは家が逆方向だから…
「おいジュキヤ!なんか玄関にメイドさんが来てるらしいぜ!?」
「メイド?お前のところのじゃないのか?」
「いや、うちのは今日は呼んでないし連絡も来てないから違うだろ。ちょっと見に行こうぜっ!」
野次馬根性バリバリのコウキに引っ張られて、玄関までやってきた
「ほら、あれあれ!」
コウキの方向を見ると、学生の制服とは明らかに違う白黒の服…
って、あの薄い水色の髪に垂れた耳…あのしっぽは
「ブランシェさん!?」
「あっ♪ご主人様、お疲れ様ですわ」
ブランシェさんも俺に気づいたらしく、こちらに笑顔で駆け寄ってくる
「な、なんで学校にいるの!?」
「えぇ、雨が降ってしまわれたのでご主人様に傘をお届けに参りましたわ♪」
そういって傘を渡してくれた
「あ、ありがとう…」
「いえいえ、これもメイドの務めですわ♪」
「お、おいジュキヤ!こちらの麗しいメイドさんは知り合いかよ!?」
「あら、ご主人様の御学友様ですか?私、メイドのブランシェと申しますわ」
「これはこれはご丁寧に、私は渋谷コウキと言います。」
ブランシェさんとコウキが起立正しく挨拶をする、何やらお上品な雰囲気だ
あぁ、周りにバラが咲き始めた…!
「その立ち振る舞い、相当高貴な家柄と察します。もしやあの、渋谷グループの…」
「はい、仰る通りで…僭越ながらジュキヤ君とは仲良くさせていただいています。ブランシェさんはそのお姿から、キキーモラ…しかも相当な訓練を積んでいらっしゃるようですね」
そういえばコウキは大企業の御曹司だもんなぁ、普段がアレだから新鮮な感じだぜ
「おいおい、なんで二人ともそんな畏まってんだよ…」
俺が蚊帳の外なんだけど、どうすればいいのさ
「あ、すまねえジュキヤ!いやー、相手が相手だとこういう風になっちゃうもんなんだわ!」
「申し訳ありませんご主人様、つい白熱してしまい…」
どうやら高貴なる者同士だと何か戦いがあるらしい
「…まぁいいけど、さっさと帰ろうぜ」
「そうだな、俺はこっちだから先に帰るぜ!じゃあなジュキヤ、ブランシェさん!」
そういってコウキは雨の中、傘を差して突っ込んでいっで…あ、転んだ
「これだから雨はよぉぉぉぉぉぉ!」
全く、騒がしいやつだ
「…さっきブランシェさんと上品に挨拶を交わしていた男とは思えないな」
「いえご主人様、あれは周りを油断させるカモフラージュですわ。大企業の御曹司となると、何かと周りから狙われますからね…あのように振る舞うことで周りから狙われないようにしているのですわ」
「いやあいつはあれが素だと思うよ」
マジで、多分さっきの上品のは作ってる
「…とりあえず、帰ろっか」
「はいっ♪」
傘を差して気づいた、今持っているのはブランシェが行きに使ってきたものだ
そして俺に渡してくれた、ということは傘はこれ一本だ
「あの、ブランシェさん…傘って」
「あらあら、私ったらうっかり傘を一つしか持ってきてませんでしたわ」
「だよな…とりあえず俺は差さなくていいから」
そういって傘をブランシェさんに渡そうとするが…
「そんな、いけませんわご主人様!私こそ大丈夫ですのでご主人様が…」
「いやそんなわけにはいかないだろ」
「…でしたら、こうしませんか?」
ブランシェさんが傘を差している俺の側に寄る
「これって…」
「どうですか、これならどちらも濡れませんよ♪」
俗に言う相合傘ってやつだろ、これ…
「ブランシェさん、まさかこれ狙ったんじゃ…」
「あらあら、どうでしょうか♪」
意味深な笑みを浮かべるブランシェさん、しかしこうなってしまっては仕方がない
「…はぁ、とりあえずさっさと帰るか」
「はいっ♪」
学校から家までの帰路をブランシェさんと一緒に歩く
「あの…ご主人様、あまりこちらに傘を寄せ過ぎてはご主人様が濡れてしまいますよ?」
女性と並んで歩く、なんてしたことがない俺は自然と少しブランシェさんとの距離を取ってしまう
その分ブランシェさんに傘を寄せていたわけだが…
「ご主人様、もう少し寄らせていただきますね」
「えっ…」
ブランシェさんが傘を持っている俺の腕に、腕を絡ませてくる
その時に、ちょうど俺の腕がブランシェさんの胸に挟まれて柔らかく心地の良い感触がした
「な、ちょっ、ブランシェさん!?」
「これならば傘にお互いの身体がちゃんと入りますね♪」
優しく微笑むブランシェさんだが、そんなことを気にしている場合ではない
「ぶ、ブランシェさん…あ、当たってるから…!」
「あらあら、ふふっ…♪」
狼狽える俺を見てにこにこと笑っているブランシェさん、腕を解いてくれる気は無さそうだった
「さぁさぁ、早くお家に参りましょう♪」
そうしてこのまま柔らかい感触を味わいながら、しばらくの間ブランシェさんと雨の中歩いたのであった…
15/07/10 15:55更新 / ミドリマメ
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