お世話します♪
「ご主人様〜、お夕飯の支度ができましたが…って寝てらっしゃいますね」
…誰か女の人の声がする、誰かいるみたいだ
「…母、さん?」
「ご主人様?私です、ブランシェですわ。」
「え?ぁ…ごめん、寝ぼけてた」
家で女性の声がしたから、てっきり母さんかと思ったぜ…もう随分聞かなくなったんだけどさ
「いえいえ、それよりもお夕飯の支度ができましたわ」
「えっ、わざわざ用意してくれたのか?」
夜飯はコンビニで何か買おうかと思ってたんだが…
「当たり前ですわ、ご主人様のお世話のためにいるのですから。…ご主人様、さては今夜も買って済まそうとしていましたね?」
「うっ…するどい」
「ご主人様にはちゃんとした栄養のあるものを食べてもらわないとダメですわ、さぁさぁいきましょう」
「へいへい…」
ブランシェさんに背中を押されてリビングまで降りてくる
「食事などの生活費の仕送りはローラ様からいただいていますので、明日からは食べたいものなどがありましたら仰ってくださいね♪」
と、彼女は言うが今のリビングのテーブルに並んでいる料理を見れば言葉など出ないだろう
「すげぇ…これ全部ブランシェさんが?」
「はいっ、腕によりを掛けさせていただきました」
今まで俺は雑な料理しか作ってこなかった、しかしいまテーブルの上に並べられた料理を見よ
彩り豊かな料理の数々は素人目に見てもかなり手が込んでいることが分かる
「な、なぁ、食べていいか!?」
「はいっ、たんとお召し上がり下さい♪」
「い、いただきますっ!」
待てから解放された犬のように料理に手をつけようとして、ある事に気づく
俺の箸とかスプーンとかはブランシェさんの手にある
「どうぞ、口をお開けになってください」
ブランシェさんが俺の横で料理を箸で取り、こちらへ…
こ、これは…仲の良い男女のみに許される「あーん」というやつではないか
漫画とかでよくある風景だけどコレかなりこっ恥ずかしいというか何というか
「どうぞ〜」
でもこの、すっごい期待に満ちた表情で差し出されるブランシェさんを断る度胸はなくて…
「あ、あーん…?」
「はい、あーん♪」
め、めっちゃくちゃ美味ぇ…
けど今は恥ずかしさでいっぱいいっぱい
「お口に合いますか?」
「あ、あぁ…凄い美味しいよ」
「っ〜!」
料理を褒められて嬉しがっているのだろうか、耳と尻尾がブンブン動いている
「た、たくさんありますからっ!いっぱい食べてくださいね!」
「う、うん、じゃあ箸を俺に渡して…」
「はいっ、あーん♪」
「…あーん」
…うん、美味しいなぁ
「さっきから食べさせてもらってばかりなんだけど、ブランシェさんは食べないのか?」
「そんな、メイドがご主人様と食事を共にするなんてありえませんわ。ブランシェはご主人様に給仕する立場ですから」
ブランシェさんはそういうが、どうにも食べさせられているだけなのは忍びないが…
「ご主人様にご奉仕するのが私の何よりの喜びなので、ご主人様は何も気負わずに給仕されてくださいませ♪」
ブランシェさんのこの笑顔を見てると、なんかどうでもよくなってきた
まぁ当人が幸せならいいのだろう
「じゃ、箸をそろそろ俺に…」
「はい、あ〜ん♪」
「…あーん」
食べるのもいいが飲み物も欲しくなってきたな…
「はいご主人様、お飲み物をどうぞ!」
「あ、ありがとう…」
すごい丁度いいタイミングで飲み物をくれる、まるで心が読まれているみたいだ
「ご主人様の意図を読み取るのはメイドの嗜みですわ」
「メイドってなんだよ(哲学)」
「さぁさぁ、そんなことよりまだまだありますから沢山食べてくださいね♪」
「あ、ありがとう…」
箸でつまむ料理が皿からなくなり、食事を終える
丁度満腹で、絶妙な料理と俺好みの味付けだったがそれもメイドの嗜みなのだろうか
「ご主人様、お皿をお下げいたしますわ」
「あ…それくらい自分で」
「いえいえ、メイドの仕事ですから」
しかし、何もかもブランシェさん任せというのは…
「ご主人様、御入浴の準備はすでに整っていますがいかがなさいますか?」
「…わかった、それじゃあ入っちゃうよ」
「はい、すでに寝巻きとタオルは洗面所に用意してありますわ」
この仕事の完璧っぷりは驚くばかりだ、メイドというのは全員こんな感じなのだろうか
「洗面所まで綺麗にされてるし…」
洗面所も綺麗に掃除されていて、その仕事ひとつひとつに手を抜いていないことが素人目に分かる
「俺には勿体無さすぎるよなぁ…ちょっと大胆というか、押しが強いけど」
「まぁまぁ、お褒めにあずかり光栄ですわ♪」
浴場に入ると何故かブランシェさんがいた、しかも裸で
「っ!?」
ちょっと待て、俺が洗面所で服を脱いでいた時点でまだ台所だったはずじゃ…
「メイドの嗜みですわ♪」
「って、それより何でいるんだよ!?」
「それは勿論、ご主人様のお背中を流しにですわ」
「い、いや…大丈夫だから!風呂くらい一人で入れるから!」
「そうは参りませんわ、お風呂場は滑りやすく危険ですから…不慮の事故でご主人様の身に何かあったら大変ですもの。それに、元来からメイドはご主人様のお身体を清める役目でございますから」
「わ、わかった!じゃあとりあえず隠せ、な!?」
お互いに素っ裸のこの現状、どうにかしなければマズイ
「ご主人様、お風呂は裸で入るのがマナーですわ。それに、ご主人様…隠す必要はありませんわよ?」
ブランシェさんが俺の胸元に指を這わせる
「ぅ…ぁ…」
「照れていらっしゃるということは…ご主人様、ブランシェに欲情為さっているのですよね?…ふふ、遠慮なんかしなくてもよいのですわ…私はご主人様の従者なのですから」
「だ、め…だ、こんな…」
「何がダメなのですか?…ブランシェはご主人様が好き、ご主人様はブランシェの裸体に欲情為さっている…これはもうお互いに合意と見なしてもよろしいのではないですか?」
ふーっ、と耳に息をかけられる
頭がぐるぐるになり、難しいことが考えられなくなってきた
「良いのですよ、ブランシェの全てはご主人様の物なのですから…」
ブランシェさんと俺の身体が完全に密着する、直に伝わってくる柔らかさに俺の下半身に血が滾る
「口も、胸も…手も足も、ご主人様が好きにして良いのですわ」
「っ…!だ、ダメだ!」
消えかかった理性を振り絞り、ブランシェさんから体を引き剥がす
「で、出会ってすぐにだなんて…ダメだそんなこと!こういうのは正規の手続きを踏んでじゃないと…!」
「ご主人様…なんて可愛いことを仰るんでしょう♪」
俺の必死の説得に何故か頬を緩ませるブランシェさん
「えぇ、えぇかしこまりましたわ、ブランシェとは段階を踏んで仲良くラブラブになっていきたいと仰るんですね!?ご主人様ってばもう…ブランシェの心を掴むのがお上手なんですからぁ♪」
「えっ…いや、そういうわけじゃ…」
「さぁさぁ、それじゃあ手始めとしてお背中を…いえ隅々までお流しさせていただきますわ♪そこにお座りになってくださいまし」
強引に風呂場に座らされて、ブランシェさんが石鹸を手に取る
一応、危機は回避したのだろうか?何か間違っている気がするが…
「まずは髪の毛ですから、目を瞑ってくださいねー」
まぁ…身体を洗われるくらいなら、メイドの仕事らしいし…
「ではお背中を…はぁ、ご主人様のお背中って逞しいですわね…思わず頬ずりしたくなりますわ♪」
「い、いいから洗うなら早くしてくれ…恥ずかしいんだよ…」
ブランシェさんが優しく洗ってくれて気持ちいいのだが、今にも心臓が飛び出そうなほど高鳴っている
「ふふ、耳まで真っ赤ですよぉ♪」
「誰のせいだよ!」
「まぁ、では責任をとって丹念に洗わさせていただきますわ♪」
ブランシェさんが丁寧に俺の背中を洗い、汚れを流してくれる
「さぁさぁ、次は前ですわ♪」
「ま、前は自分で洗うからいい!せ、背中流し終わったんだからもういいだろぉ…」
「…まぁ、いきなりコミュニケーションを取っても好感度の上りは良くなさそうですね…初日ですしここまでにしておきましょうか♪」
失礼します、と一礼してブランシェさんは風呂場から出て行った
「…ふぅ、ようやく落ち着ける…」
素早く身体を洗い、湯船に浸かる
ブランシェさんってば強引過ぎるって…自分でもよく耐えたと褒めてやりたい
「…ブランシェさんの身体、綺麗だったな…」
あの髪に溶け込むように垂れた犬耳、整った顔…豊満な胸に、あの鱗が規則正しく並ぶあの網タイツのような足…
「…って何考えてんだよ俺は!」
いかんいかん、ブランシェさんをそういう目で見てしまったらいけない
そういう目で見てしまったら俺はもう止まらなくなってしまうだろう
「…出るか」
身体も暖まって来たので湯船から上がり着替える
そしてさっさと歯を磨いて風呂場を後にする
「お湯加減はいかがでしたかご主人様」
「あ、あぁ…よかったよ」
リビングでブランシェさんと鉢合わせした、さっきのことが脳裏に浮かび少しどもってしまった
「あらご主人様、ちゃんと髪を乾かさないといけませんわよ?」
「え?いやいつも乾かしてないんだけど…」
「いけませんわご主人様、こういうのはお若いうちにきちんとしておかないと将来どのようになってしまうか…」
多分ブランシェさんのことだから本当に心配しているんだろうけど、男というものはこういうことにあまり意識を持たない
「さぁさぁ、乾かして差し上げますからこちらに頭を向けてくださいまし」
「…なんで急にドライヤーが手元に?」
「メイドの嗜みですわ」
半ば強制に頭を向けさせると、ブランシェさんがドライヤーで俺の頭を乾かし始める
「熱くはなさいませんか?」
「あぁ…丁度いいよ」
ブランシェさんの細い指が俺の髪を梳くたびに、こそばゆい感触がしてむずむずする
「こら、頭は動かさないでくださいまし」
「ご、ごめん…くすぐったくて」
「もうすぐですから…はい、もう大丈夫ですよ」
ドライヤーの温風とブランシェさんの手が止まる
「あ、ありがとう」
「いえいえ、ご主人様の髪を乾かさせていただけるなんてメイド冥利につきますわ♪」
そういうと一礼してブランシェさんはリビングから立ち去り風呂場の方へ行った、どうやら次の風呂を待っていたらしい
今日は疲れたし、もう部屋でのんびりしよう…
「あー…もう今日はいろいろあり過ぎだぜ」
ベッドに入っていろいろ考えに耽る、全てがブランシェさんのことだ
今までのイメージだと、美人で大胆な魔物のメイドさん…
そして俺のことが好きらしい、少なくとも体を許すくらいには
大胆で結構強引だが、こちらが本気で嫌がるようなことはしてこないし…やたらとポジティブに解釈する時があるけど
それで俺に対して、そうやって尽くしてくれるだけじゃなくて怒ってくれたりもする
「…はぁ、これから一体どうなるんだよ…」
思考の深くまで浸っていると、静かにドアを叩く音で現実に引き戻される
「…誰?ってブランシェさんしかいないか、空いてるぜ」
「はい、失礼いたしますわご主人様」
ぺこりと一礼してブランシェさんが部屋に入ってくる
「どうしたの一体、何かわからないことでもあったか?」
「いえいえ、そろそろご主人様もお眠りの時間かと思いまして…夜伽に参りましたわ♪」
「よとぎ…?」
聞きなれない言葉がブランシェさんの口から出てきた
「夜伽とは、ご主人様の枕の伽…すなわち添い寝のことですわ♪」
「そ、添い寝!?」
「はい♪」
添い寝…つまり一緒に寝るってことなのだが、ブランシェさんと…?
「ま、待ってくれ…一人で寝れるから!」
「ご主人様、しかし私メイドにはご主人様が安息にお眠りに就くのを見守る使命があるのです」
「そんな子供じゃないんだから…」
「もしご主人様が悪夢に魘されていたり、急な病気になられた際はすぐ対処できるように…ご主人様を危険から守るためにブランシェはご主人様のお側にいなければならないのです!」
ブランシェさんが身を乗り出しながら俺に迫る、その迫力に押されてしまう
「で、でも…付き合ってもない男女が一緒に寝るって…」
「…そういうことをお気になされる必要はないのですけど、わかりましたわ。ではこういたしませんか?私は枕元でご主人様のことを見守りますから、ご主人様はそのままお眠りになさって下さい」
「ブランシェさんはどうするの?」
「私はご主人様が大丈夫だと判断しましたら自室に戻りますわ、ですからどうでしょうか?」
ブランシェさんにも色々メイドとしての複雑な事情があるのだろう、その上できっと譲歩してくれてるんだろうし…
「…分かったよ」
「ありがとうございます、ご主人様」
見られながら寝るっていうのはなかなか気になるが、今日は疲れたし…すぐ寝付くだろう
そうしたらブランシェさんも部屋に戻ってくれるだろうし…
「…じゃあ、おやすみ」
「はい、どうぞお眠りくださいませ♪」
目を瞑り、寝ようとした時…
「〜…♪」
静かな鈴の音のような澄んだ歌声が聞こえた
「♪」
優しくて、何だか懐かしい…聞いたことのない曲なのに…
「…ご主人様…♪」
そっと何か優しい感触が頭を撫でる、それは溶けるような…とても至福で…
「…ぶ、らんしぇ…さん…?」
「あ…も、申し訳ありません…うるさかったですか?」
「…いい、続けて…」
「っ!は、はいっ♪」
あぁ、なんだろうこの包み込むような優しい感覚は…昔にこういうことがあった気もする
…そんな気もするけど、それよりも意識が…遠く…
「…母、さ…ん…」
「ご主人様…」
「…zzz」
…誰か女の人の声がする、誰かいるみたいだ
「…母、さん?」
「ご主人様?私です、ブランシェですわ。」
「え?ぁ…ごめん、寝ぼけてた」
家で女性の声がしたから、てっきり母さんかと思ったぜ…もう随分聞かなくなったんだけどさ
「いえいえ、それよりもお夕飯の支度ができましたわ」
「えっ、わざわざ用意してくれたのか?」
夜飯はコンビニで何か買おうかと思ってたんだが…
「当たり前ですわ、ご主人様のお世話のためにいるのですから。…ご主人様、さては今夜も買って済まそうとしていましたね?」
「うっ…するどい」
「ご主人様にはちゃんとした栄養のあるものを食べてもらわないとダメですわ、さぁさぁいきましょう」
「へいへい…」
ブランシェさんに背中を押されてリビングまで降りてくる
「食事などの生活費の仕送りはローラ様からいただいていますので、明日からは食べたいものなどがありましたら仰ってくださいね♪」
と、彼女は言うが今のリビングのテーブルに並んでいる料理を見れば言葉など出ないだろう
「すげぇ…これ全部ブランシェさんが?」
「はいっ、腕によりを掛けさせていただきました」
今まで俺は雑な料理しか作ってこなかった、しかしいまテーブルの上に並べられた料理を見よ
彩り豊かな料理の数々は素人目に見てもかなり手が込んでいることが分かる
「な、なぁ、食べていいか!?」
「はいっ、たんとお召し上がり下さい♪」
「い、いただきますっ!」
待てから解放された犬のように料理に手をつけようとして、ある事に気づく
俺の箸とかスプーンとかはブランシェさんの手にある
「どうぞ、口をお開けになってください」
ブランシェさんが俺の横で料理を箸で取り、こちらへ…
こ、これは…仲の良い男女のみに許される「あーん」というやつではないか
漫画とかでよくある風景だけどコレかなりこっ恥ずかしいというか何というか
「どうぞ〜」
でもこの、すっごい期待に満ちた表情で差し出されるブランシェさんを断る度胸はなくて…
「あ、あーん…?」
「はい、あーん♪」
め、めっちゃくちゃ美味ぇ…
けど今は恥ずかしさでいっぱいいっぱい
「お口に合いますか?」
「あ、あぁ…凄い美味しいよ」
「っ〜!」
料理を褒められて嬉しがっているのだろうか、耳と尻尾がブンブン動いている
「た、たくさんありますからっ!いっぱい食べてくださいね!」
「う、うん、じゃあ箸を俺に渡して…」
「はいっ、あーん♪」
「…あーん」
…うん、美味しいなぁ
「さっきから食べさせてもらってばかりなんだけど、ブランシェさんは食べないのか?」
「そんな、メイドがご主人様と食事を共にするなんてありえませんわ。ブランシェはご主人様に給仕する立場ですから」
ブランシェさんはそういうが、どうにも食べさせられているだけなのは忍びないが…
「ご主人様にご奉仕するのが私の何よりの喜びなので、ご主人様は何も気負わずに給仕されてくださいませ♪」
ブランシェさんのこの笑顔を見てると、なんかどうでもよくなってきた
まぁ当人が幸せならいいのだろう
「じゃ、箸をそろそろ俺に…」
「はい、あ〜ん♪」
「…あーん」
食べるのもいいが飲み物も欲しくなってきたな…
「はいご主人様、お飲み物をどうぞ!」
「あ、ありがとう…」
すごい丁度いいタイミングで飲み物をくれる、まるで心が読まれているみたいだ
「ご主人様の意図を読み取るのはメイドの嗜みですわ」
「メイドってなんだよ(哲学)」
「さぁさぁ、そんなことよりまだまだありますから沢山食べてくださいね♪」
「あ、ありがとう…」
箸でつまむ料理が皿からなくなり、食事を終える
丁度満腹で、絶妙な料理と俺好みの味付けだったがそれもメイドの嗜みなのだろうか
「ご主人様、お皿をお下げいたしますわ」
「あ…それくらい自分で」
「いえいえ、メイドの仕事ですから」
しかし、何もかもブランシェさん任せというのは…
「ご主人様、御入浴の準備はすでに整っていますがいかがなさいますか?」
「…わかった、それじゃあ入っちゃうよ」
「はい、すでに寝巻きとタオルは洗面所に用意してありますわ」
この仕事の完璧っぷりは驚くばかりだ、メイドというのは全員こんな感じなのだろうか
「洗面所まで綺麗にされてるし…」
洗面所も綺麗に掃除されていて、その仕事ひとつひとつに手を抜いていないことが素人目に分かる
「俺には勿体無さすぎるよなぁ…ちょっと大胆というか、押しが強いけど」
「まぁまぁ、お褒めにあずかり光栄ですわ♪」
浴場に入ると何故かブランシェさんがいた、しかも裸で
「っ!?」
ちょっと待て、俺が洗面所で服を脱いでいた時点でまだ台所だったはずじゃ…
「メイドの嗜みですわ♪」
「って、それより何でいるんだよ!?」
「それは勿論、ご主人様のお背中を流しにですわ」
「い、いや…大丈夫だから!風呂くらい一人で入れるから!」
「そうは参りませんわ、お風呂場は滑りやすく危険ですから…不慮の事故でご主人様の身に何かあったら大変ですもの。それに、元来からメイドはご主人様のお身体を清める役目でございますから」
「わ、わかった!じゃあとりあえず隠せ、な!?」
お互いに素っ裸のこの現状、どうにかしなければマズイ
「ご主人様、お風呂は裸で入るのがマナーですわ。それに、ご主人様…隠す必要はありませんわよ?」
ブランシェさんが俺の胸元に指を這わせる
「ぅ…ぁ…」
「照れていらっしゃるということは…ご主人様、ブランシェに欲情為さっているのですよね?…ふふ、遠慮なんかしなくてもよいのですわ…私はご主人様の従者なのですから」
「だ、め…だ、こんな…」
「何がダメなのですか?…ブランシェはご主人様が好き、ご主人様はブランシェの裸体に欲情為さっている…これはもうお互いに合意と見なしてもよろしいのではないですか?」
ふーっ、と耳に息をかけられる
頭がぐるぐるになり、難しいことが考えられなくなってきた
「良いのですよ、ブランシェの全てはご主人様の物なのですから…」
ブランシェさんと俺の身体が完全に密着する、直に伝わってくる柔らかさに俺の下半身に血が滾る
「口も、胸も…手も足も、ご主人様が好きにして良いのですわ」
「っ…!だ、ダメだ!」
消えかかった理性を振り絞り、ブランシェさんから体を引き剥がす
「で、出会ってすぐにだなんて…ダメだそんなこと!こういうのは正規の手続きを踏んでじゃないと…!」
「ご主人様…なんて可愛いことを仰るんでしょう♪」
俺の必死の説得に何故か頬を緩ませるブランシェさん
「えぇ、えぇかしこまりましたわ、ブランシェとは段階を踏んで仲良くラブラブになっていきたいと仰るんですね!?ご主人様ってばもう…ブランシェの心を掴むのがお上手なんですからぁ♪」
「えっ…いや、そういうわけじゃ…」
「さぁさぁ、それじゃあ手始めとしてお背中を…いえ隅々までお流しさせていただきますわ♪そこにお座りになってくださいまし」
強引に風呂場に座らされて、ブランシェさんが石鹸を手に取る
一応、危機は回避したのだろうか?何か間違っている気がするが…
「まずは髪の毛ですから、目を瞑ってくださいねー」
まぁ…身体を洗われるくらいなら、メイドの仕事らしいし…
「ではお背中を…はぁ、ご主人様のお背中って逞しいですわね…思わず頬ずりしたくなりますわ♪」
「い、いいから洗うなら早くしてくれ…恥ずかしいんだよ…」
ブランシェさんが優しく洗ってくれて気持ちいいのだが、今にも心臓が飛び出そうなほど高鳴っている
「ふふ、耳まで真っ赤ですよぉ♪」
「誰のせいだよ!」
「まぁ、では責任をとって丹念に洗わさせていただきますわ♪」
ブランシェさんが丁寧に俺の背中を洗い、汚れを流してくれる
「さぁさぁ、次は前ですわ♪」
「ま、前は自分で洗うからいい!せ、背中流し終わったんだからもういいだろぉ…」
「…まぁ、いきなりコミュニケーションを取っても好感度の上りは良くなさそうですね…初日ですしここまでにしておきましょうか♪」
失礼します、と一礼してブランシェさんは風呂場から出て行った
「…ふぅ、ようやく落ち着ける…」
素早く身体を洗い、湯船に浸かる
ブランシェさんってば強引過ぎるって…自分でもよく耐えたと褒めてやりたい
「…ブランシェさんの身体、綺麗だったな…」
あの髪に溶け込むように垂れた犬耳、整った顔…豊満な胸に、あの鱗が規則正しく並ぶあの網タイツのような足…
「…って何考えてんだよ俺は!」
いかんいかん、ブランシェさんをそういう目で見てしまったらいけない
そういう目で見てしまったら俺はもう止まらなくなってしまうだろう
「…出るか」
身体も暖まって来たので湯船から上がり着替える
そしてさっさと歯を磨いて風呂場を後にする
「お湯加減はいかがでしたかご主人様」
「あ、あぁ…よかったよ」
リビングでブランシェさんと鉢合わせした、さっきのことが脳裏に浮かび少しどもってしまった
「あらご主人様、ちゃんと髪を乾かさないといけませんわよ?」
「え?いやいつも乾かしてないんだけど…」
「いけませんわご主人様、こういうのはお若いうちにきちんとしておかないと将来どのようになってしまうか…」
多分ブランシェさんのことだから本当に心配しているんだろうけど、男というものはこういうことにあまり意識を持たない
「さぁさぁ、乾かして差し上げますからこちらに頭を向けてくださいまし」
「…なんで急にドライヤーが手元に?」
「メイドの嗜みですわ」
半ば強制に頭を向けさせると、ブランシェさんがドライヤーで俺の頭を乾かし始める
「熱くはなさいませんか?」
「あぁ…丁度いいよ」
ブランシェさんの細い指が俺の髪を梳くたびに、こそばゆい感触がしてむずむずする
「こら、頭は動かさないでくださいまし」
「ご、ごめん…くすぐったくて」
「もうすぐですから…はい、もう大丈夫ですよ」
ドライヤーの温風とブランシェさんの手が止まる
「あ、ありがとう」
「いえいえ、ご主人様の髪を乾かさせていただけるなんてメイド冥利につきますわ♪」
そういうと一礼してブランシェさんはリビングから立ち去り風呂場の方へ行った、どうやら次の風呂を待っていたらしい
今日は疲れたし、もう部屋でのんびりしよう…
「あー…もう今日はいろいろあり過ぎだぜ」
ベッドに入っていろいろ考えに耽る、全てがブランシェさんのことだ
今までのイメージだと、美人で大胆な魔物のメイドさん…
そして俺のことが好きらしい、少なくとも体を許すくらいには
大胆で結構強引だが、こちらが本気で嫌がるようなことはしてこないし…やたらとポジティブに解釈する時があるけど
それで俺に対して、そうやって尽くしてくれるだけじゃなくて怒ってくれたりもする
「…はぁ、これから一体どうなるんだよ…」
思考の深くまで浸っていると、静かにドアを叩く音で現実に引き戻される
「…誰?ってブランシェさんしかいないか、空いてるぜ」
「はい、失礼いたしますわご主人様」
ぺこりと一礼してブランシェさんが部屋に入ってくる
「どうしたの一体、何かわからないことでもあったか?」
「いえいえ、そろそろご主人様もお眠りの時間かと思いまして…夜伽に参りましたわ♪」
「よとぎ…?」
聞きなれない言葉がブランシェさんの口から出てきた
「夜伽とは、ご主人様の枕の伽…すなわち添い寝のことですわ♪」
「そ、添い寝!?」
「はい♪」
添い寝…つまり一緒に寝るってことなのだが、ブランシェさんと…?
「ま、待ってくれ…一人で寝れるから!」
「ご主人様、しかし私メイドにはご主人様が安息にお眠りに就くのを見守る使命があるのです」
「そんな子供じゃないんだから…」
「もしご主人様が悪夢に魘されていたり、急な病気になられた際はすぐ対処できるように…ご主人様を危険から守るためにブランシェはご主人様のお側にいなければならないのです!」
ブランシェさんが身を乗り出しながら俺に迫る、その迫力に押されてしまう
「で、でも…付き合ってもない男女が一緒に寝るって…」
「…そういうことをお気になされる必要はないのですけど、わかりましたわ。ではこういたしませんか?私は枕元でご主人様のことを見守りますから、ご主人様はそのままお眠りになさって下さい」
「ブランシェさんはどうするの?」
「私はご主人様が大丈夫だと判断しましたら自室に戻りますわ、ですからどうでしょうか?」
ブランシェさんにも色々メイドとしての複雑な事情があるのだろう、その上できっと譲歩してくれてるんだろうし…
「…分かったよ」
「ありがとうございます、ご主人様」
見られながら寝るっていうのはなかなか気になるが、今日は疲れたし…すぐ寝付くだろう
そうしたらブランシェさんも部屋に戻ってくれるだろうし…
「…じゃあ、おやすみ」
「はい、どうぞお眠りくださいませ♪」
目を瞑り、寝ようとした時…
「〜…♪」
静かな鈴の音のような澄んだ歌声が聞こえた
「♪」
優しくて、何だか懐かしい…聞いたことのない曲なのに…
「…ご主人様…♪」
そっと何か優しい感触が頭を撫でる、それは溶けるような…とても至福で…
「…ぶ、らんしぇ…さん…?」
「あ…も、申し訳ありません…うるさかったですか?」
「…いい、続けて…」
「っ!は、はいっ♪」
あぁ、なんだろうこの包み込むような優しい感覚は…昔にこういうことがあった気もする
…そんな気もするけど、それよりも意識が…遠く…
「…母、さ…ん…」
「ご主人様…」
「…zzz」
15/07/08 02:27更新 / ミドリマメ
戻る
次へ