エルルート1「ねぇねぇと遊ぼう」
歓迎会、起きるとエルねぇねぇが隣で寝ていた
「そういや昨日ねぇねぇを運んだまま寝たんだったな」
たしか反対側はシルクねぇちゃんだったが、もうすでに起きているのかいなかった
「…すー…むにゃ…」
幸せそうな寝顔だ、起こさないでおいてあげたほうがいいだろう
「みんないないのかな」
台所に顔を出すとねぇちゃんが家事をしていた
「…たくま、おはよう」
「ねぇちゃんおはよう、みんなは?」
「…エル姉さん以外は学校とか仕事とか」
「そうか、みんな忙しいもんなぁ」
「…ん、はい朝ごはん」
ねぇちゃんに朝ごはんを渡された、朝にぴったりの焼き魚とかの和食だ
「ねぇねぇ起こしてきたほうがいいかな、気持ちよさそうに寝てたから起こさなかったんやけど」
「…ご飯の匂いで起きてくるの」
「うーお腹すいたなー!朝ごはんちょーだい!」
本当に起きてきた、お互いを理解してるところは流石姉妹だ
「あれ、タクも今からご飯?いやーお互いにお寝坊さんだねー」
「まぁな、昨日はちょっとはしゃぎ過ぎたかな」
「そうだよねー、タクったらはしゃぎ過ぎて何人かに分身してたもんね」
いやそれはねぇねぇが酔っ払って視界が安定していなかっただけ、はしゃぎ過ぎて分身とかどこの忍者だ
「…姉さん、たくま、そろそろ学校だから行くね」
「はーい、いってらっしゃい!」
「大変やなぁ、いってらっしゃい」
ねぇちゃんも出て行った、ねぇねぇと二人きりになったがねぇねぇは特にないのだろうか
「ねぇねぇは学校とかないん?」
「私のとこは今日は休講、なんか創立記念日なんだってさ」
「お休みかー、俺も仕事から離れたから暇なんやけど」
「じゃあ久しぶりにさ、二人で遊びに行こうよ!」
ねぇねぇと遊びに…か、外の天気も快晴だし遊びに行くのもいいだろう
「ええよ、何するんや?」
「海の方で釣りでもしようよ、昔よくやったよね!」
そういえば昔ねぇねぇに海の方へ釣りに連れて行ってもらったな
で、魚を引っ張り上げる時にまだ小さかった俺はバランスを崩して海に落っこちて…
「昔さー、タクったら海に落っこちたことあったよね!その時私が引き上げて助けてあげてさぁ…」
「あぁ、あったあったそないなこと!いやー、俺ってばそれが原因で未だ泳げないんやけどな」
「ありゃ、そうなの?じゃあ釣りはやめとこうか?」
「いや、もう流石に不注意で落ちるようなアホせえへんよ!釣りは久しぶりやし、せっかくやから行こうや」
「そう?じゃあ釣竿とか準備してくるから外で待っててね!」
そういってねぇねぇは準備のためにリビングを離れた、俺も外に出ていよう
「ねぇねぇと出掛けるんは久しぶりやなぁ」
ねぇねぇとの小さい頃の記憶はよく覚えている、それは他の姉達に比べて遊ぶ頻度が高かったからだ
シャクヤ姉さまとユウねーさんは俺が小さいから大きくて忙しかったし、シルクねぇちゃんとシロ姉は積極的に外へ遊びに行くタイプじゃなかった
だから俺はねぇねぇと外で遊ぶことが多かったし、俺の小さい頃の記憶はねぇねぇと遊ぶことが大多数を占めていた
俺の小さい頃の経験はほとんどがねぇねぇに教えてもらったものだ
ねぇねぇは結構自分の好きなように行動するんだけど…姉御肌というか、なんだかんだ面倒見が良かったから俺も楽しく子供時代を過ごしていたなぁ
「おまたせタク!…あれ、なんかぼーっとしてるけど大丈夫?」
「いや、ねぇねぇと出掛けるんは久しぶりやから少し思い出に浸ってた」
「もう、タクったらお姉ちゃんっ子なんだから♪」
ふわりとした羽根で抱きしめられた、この抱擁は気持ちよすぎて自分から離れられない
「うん…俺はお姉ちゃんっ子やから」
「えへへ…もぅ、可愛いぞっ♪」
しまった、自ら深みにハマってしまうとは…やはりこの底なし沼のような気持ちよさの抱擁は危険だな
「んー、タクは大きいから抱きしめ甲斐があるねぇ」
「ね、ねぇねぇ…釣りは?」
「あ、そっか。早く行かないと時間なくなっちゃうもんね」
ねぇねぇが離れる、少し残念だがあのままだとずっとひっついているだけで1日が終わりそうだったから良しとしよう
「よーし、それじゃあ海まで行くよー!」
「おー、って…ねぇねぇ?」
ねぇねぇが俺の腰あたりをを鳥のような脚で掴む
「飛ぶよー!」
「お、おわぁぁぁぁぁぁ!?」
ふわりと浮遊感が俺を襲う、ねぇねぇが俺を掴んで飛んでいる
そうだ、確か昔もこうやってねぇねぇに飛んで近所の海辺まで連れて行ってもらっていたんだったな
「久しぶりだねー、タクを運んで飛ぶのは」
「お、俺も久しぶりやから…驚いたで」
「あははー、ごめんごめん!一声かければよかったかな!」
あまり悪びれていないように笑うねぇねぇ、笑顔が良く似合う人だ
「もうちょっと高く飛ぼうか!タク、しっかり捕まってなよ!」
「お、おぉっ!?」
ギューンと更に高度が高くなった、近くの家々が低く見える
流石に少し怖いので、言う通りにねぇねぇにしがみつく
「…うん、そうやって…離れないようにね」
「え?ねぇねぇ何か言った?」
こうまで高いと風で声も聞き取りにくい
「んふふ、海まで飛ばすよって言ったの!」
「おぉぉぉぉぉぉ!?」
凄い速さで空を駆けるねぇねぇ、そこらの絶叫マシンでは比にならないぐらいの勢いだ
「はい着いたよ」
「お、おぅ…」
そして数秒のうちに目的地まで着いた、流石はハーピー種のセイレーンだ
「んー…いつまでも抱きついててくれるのはお姉ちゃん的には嬉しいんだけど、これじゃお姉ちゃん動けなくて釣りができないかな?」
「わっ、す、すまん…」
「謝ることはないぞー、タクがお姉ちゃんっ子で私嬉しいからさ」
にこっと笑うねぇねぇ、うーん…恥ずかしいところを見せてしまった
「あれ、そういえば釣り場って昔の防波堤とかじゃないんだね」
周りを見ると昔によく釣りをした防波堤や磯ではなく、沖の方にある突き出た大岩の上にいた
「ほら、防波堤の方って人とかがいっぱい釣りしてるじゃん?魚も警戒しててあまり釣れなくなっちゃったんだよねー、ここは人が来ないからいっぱい釣れるよ」
流石昔から俺に遊びの全てを教えてくれたねぇねぇだ、それは未だ健在だった
「はい、タクの釣竿」
「ん、おおきに…ってこれ…昔の?」
「うん、昔使ってたタクの釣竿だよ」
懐かしい俺の釣竿、昔もらったねぇねぇのお下がりで俺はこれでねぇねぇと釣りをしていた
かなり古い釣竿だけど、ちゃんと手入れしてあるのかしっかりとしている…家にいない間に捨てられてたかと思ってた
「タクがいつ帰ってきてもいいようにね、ちゃんと大事にしてたんだ。えへへ、また一緒に遊べるようにってね」
「ねぇねぇ…!」
胸に何かがこみ上げる感じがして、ねぇねぇに抱きつく
「わっ…た、タク…?」
「ご、ごめん…なんか、胸に何かこみ上げてきて…なんか、す、凄く嬉しくて…!」
「もー、甘えんぼさんなんだから…」
よしよしと頭を撫でられる、なんだかねぇねぇには凄く甘えてしまうな…
「そうだよね、タクは10年もパパと向こうにいたんだもん…パパは仕事だしあまり構えてなかっただろうし、寂しかったんだよね…」
「ねぇねぇ…ありがとう、覚えててくれて…」
「なんだー、タク?お姉ちゃんは1日たりともタクを忘れた日なんかないぞー!いつもいつもタクと遊ぶことを考えてたんだからさ、私はいつだってタクのお姉ちゃんなんだから」
「うん…ありがとう、お姉ちゃん…」
「なんだか今日のタクは変だなー、ほらほらっ!早く釣りしよう!」
ねぇねぇが自分の釣竿で釣り糸を垂らす、腕が羽根になってるのに器用な釣竿捌きだ
「…よーし俺も!」
俺も釣竿の釣り糸を垂らす、久しぶりにねぇねぇと釣りをするんだし目一杯楽しもう
「食べられる魚が釣れるといいなー」
「食べられない魚は釣っても嬉しくないしね」
ねぇねぇと喋りながらのんびりと釣りを楽しむ、なんだかこの瞬間だけ昔に戻ったみたいだ
「ん、タクの竿引いてない?」
「あ、本当だ」
竿を上げると魚が釣れていた、そこまで小さくないが大きいわけでもない普通の魚だ
「あははー、普通だねー」
「まぁ最初はこんなもんやで」
「んふー、じゃあお姉ちゃんの見本を見せてあげましょうかな!」
ねぇねぇが竿を揺らすと、大きく引きが来る
「えーい!」
バッと引き上げると立派に育った大きな魚が釣れた
「うおぉっ!すげえ!」
「えへへー、どうだお姉ちゃんはすごいでしょー!」
「すげえねぇねぇ、マジで尊敬するで!」
「も、もぅ…タクったら、そんなに褒めたらテレちゃうよ」
褒めるとテレて少ししおらしくなるねぇねぇ、この仕草にドキッとする
「よーし、俺も大物釣り上げるでぇ!」
再び糸を垂らす、そうするとすぐに当たりがくる
「お、結構引きが強い…?」
「早く引き上げよっ!」
「あいよっと!」
思いっきり引き上げる、釣りあがっていたのは
「…タコ?」
赤い身体に蠢く8本の足、紛れもなくタコだった
「あっははは!タク、タコって…あっははは!面白〜い!」
「ばっ、タコやって食べれるし美味しいやろ!」
「そ、そうだね…あははは!」
「で、でも確かにタコってのは…くっくく…笑えるわな!」
「あっははは!タコだー!」
「くっ、くくく…あははは!」
「「あはははは!」」
しばらく二人で笑いあった、タコを釣り上げただけでこんなに笑えるとは…
というより、久しぶりに声をあげて笑った気がするなぁ…
「タク、ようやく笑ったね」
「え?いや、俺だって笑うよ?てゆーか昔から結構笑ってた気がするんやが…」
「いや、そうじゃなくてさ…こっちに帰ってきてからの話」
「んー?帰ってきてから、結構笑ってると思うけどなぁ」
皆に会った時とか、歓迎会の時とか笑顔やったと思う
「そういうのじゃなくてさ、思いっきり楽しくて笑うってこと。なんかタク、こっちに帰ってきてから笑ってても顔だけだったんだもん」
顔だけ…か、思い当たる節はある
研究施設では偉い人とかと会う事とかがあり親父に作り笑いを仕込まれたから、それのせいで素直に笑うということを久しく忘れていた
こういうところに気付くなんて、流石はねぇねぇというか…
「きっとこの10年でタクは私なんかよりずっと大変な毎日を送ってきたんだよね、本当に笑うことを忘れて、作った笑顔をするくらい」
「そんなことはあらへんよ、ただ親父に便利だからって教えられただけや…」
「タク、いい?私はね、心の底から笑うのが好き。知ってる?心の底からの笑顔ってね、自分を、周りを幸せにしちゃうんだよ?…だから、心の底から笑ってる人は幸せで、逆に心の底から笑えない人は不幸せなの」
確かに、今までの研究施設での10年は幸せか不幸せかと言われると俺は不幸せだと断言できる
大好きな姉たちと離されて、来る日も来る日も無機質な研究ばかりで…あの時の俺は死んだようなものだったな
「どんな時でも心の底から笑うことを忘れちゃダメだよ…タク。そうしないといつか抜け出せない底なしの不幸の沼に落ちちゃうから…」
「ねぇねぇ…そうやね、確かに笑うことを忘れてたかも」
「まぁタクがその沼に落ちても、私が引き上げてあげるけどね」
「…俺を引き上げるにはねぇねぇの身長が足りないんやないかな?」
ねぇねぇは家族で一番背が低い、といってもシャクヤ姉さまを抜くと微々たる差だけど
引き上げると言うことは俺より高くないといけないからな
「へっへー、その為のお姉ちゃんの翼なんだから!これならタクより高くなるし、引き上げれるよね?」
「…そっか、ねぇねぇはセイレーンやもんね」
「お姉ちゃんはさ、いつだってお姉ちゃんなんだからね。タクが困ったら助けるし、タクの為だったらなんでもできちゃうんだよ?だから、辛い時や困った時…いつどこでも私を頼ってよね」
そうだ、いつだって俺に何かを教えてくれたのは…
いつだって俺を助けてくれたのは…ねぇねぇだったじゃないか
今もこうして、俺の笑顔を取り戻して…笑顔の大切さを教えてくれた
「…なんや、俺ってば…ねぇねぇに助けてもらってばかりやな」
「んー、そうでもないよー?」
「いや、そうやろ…ねぇねぇに対して俺何も出来てないやん」
「うーんとねぇ、私がタクに何かしてあげるじゃない?するとタクって私に感謝してくれるでしょ?」
「えっ…まぁ、そりゃあ…」
「ほら、もう十分な程お返しされてるじゃん」
「ええ?」
「むー、分からないかなぁ?」
ねぇねぇがふるふると綺麗な羽根の先をもどかしそうに震わせている
「お姉ちゃんって言うのはね、弟のために何かをしてあげるのが大好きなの。それだけで満足するのに、それに加えて感謝の言葉までくれるんだよ?ほら、もう十分なお返しじゃない」
「えっ、いや…そんなこと…」
「お姉ちゃんってそういう生き物なんだよ、種族問わずにね。知らなかった?」
「し、知らなかった…」
「んふふ、それじゃあまた一つお姉ちゃんから学んだね♪」
にっこりと笑うねぇねぇ、思わず俺も口元が緩んでしまう…本当にねぇねぇは凄いな、すぐに人を笑顔にしてしまう
「なんだか話してたら時間経っちゃったね」
「せやな、もうそろ帰ろうかの」
「成果は…私の大きい魚と、タクの普通の魚とタコ…あははは!」
「も、もうタコって単語だけで笑えるわな…くっくく…」
「もー、タクがタコなんか釣り上げるからだよ」
「あはは、悪い悪い!」
笑いあいながら、ねぇねぇが俺を掴んで飛ぶ
相変わらずの絶叫マシン顔負けのスピードで飛んで行く
「タク、また一緒に出掛けようね!」
「あぁ、これからはねぇねぇ達と一緒やからな」
こうして俺たちは笑顔で家まで帰ってきたのだった
「そういや昨日ねぇねぇを運んだまま寝たんだったな」
たしか反対側はシルクねぇちゃんだったが、もうすでに起きているのかいなかった
「…すー…むにゃ…」
幸せそうな寝顔だ、起こさないでおいてあげたほうがいいだろう
「みんないないのかな」
台所に顔を出すとねぇちゃんが家事をしていた
「…たくま、おはよう」
「ねぇちゃんおはよう、みんなは?」
「…エル姉さん以外は学校とか仕事とか」
「そうか、みんな忙しいもんなぁ」
「…ん、はい朝ごはん」
ねぇちゃんに朝ごはんを渡された、朝にぴったりの焼き魚とかの和食だ
「ねぇねぇ起こしてきたほうがいいかな、気持ちよさそうに寝てたから起こさなかったんやけど」
「…ご飯の匂いで起きてくるの」
「うーお腹すいたなー!朝ごはんちょーだい!」
本当に起きてきた、お互いを理解してるところは流石姉妹だ
「あれ、タクも今からご飯?いやーお互いにお寝坊さんだねー」
「まぁな、昨日はちょっとはしゃぎ過ぎたかな」
「そうだよねー、タクったらはしゃぎ過ぎて何人かに分身してたもんね」
いやそれはねぇねぇが酔っ払って視界が安定していなかっただけ、はしゃぎ過ぎて分身とかどこの忍者だ
「…姉さん、たくま、そろそろ学校だから行くね」
「はーい、いってらっしゃい!」
「大変やなぁ、いってらっしゃい」
ねぇちゃんも出て行った、ねぇねぇと二人きりになったがねぇねぇは特にないのだろうか
「ねぇねぇは学校とかないん?」
「私のとこは今日は休講、なんか創立記念日なんだってさ」
「お休みかー、俺も仕事から離れたから暇なんやけど」
「じゃあ久しぶりにさ、二人で遊びに行こうよ!」
ねぇねぇと遊びに…か、外の天気も快晴だし遊びに行くのもいいだろう
「ええよ、何するんや?」
「海の方で釣りでもしようよ、昔よくやったよね!」
そういえば昔ねぇねぇに海の方へ釣りに連れて行ってもらったな
で、魚を引っ張り上げる時にまだ小さかった俺はバランスを崩して海に落っこちて…
「昔さー、タクったら海に落っこちたことあったよね!その時私が引き上げて助けてあげてさぁ…」
「あぁ、あったあったそないなこと!いやー、俺ってばそれが原因で未だ泳げないんやけどな」
「ありゃ、そうなの?じゃあ釣りはやめとこうか?」
「いや、もう流石に不注意で落ちるようなアホせえへんよ!釣りは久しぶりやし、せっかくやから行こうや」
「そう?じゃあ釣竿とか準備してくるから外で待っててね!」
そういってねぇねぇは準備のためにリビングを離れた、俺も外に出ていよう
「ねぇねぇと出掛けるんは久しぶりやなぁ」
ねぇねぇとの小さい頃の記憶はよく覚えている、それは他の姉達に比べて遊ぶ頻度が高かったからだ
シャクヤ姉さまとユウねーさんは俺が小さいから大きくて忙しかったし、シルクねぇちゃんとシロ姉は積極的に外へ遊びに行くタイプじゃなかった
だから俺はねぇねぇと外で遊ぶことが多かったし、俺の小さい頃の記憶はねぇねぇと遊ぶことが大多数を占めていた
俺の小さい頃の経験はほとんどがねぇねぇに教えてもらったものだ
ねぇねぇは結構自分の好きなように行動するんだけど…姉御肌というか、なんだかんだ面倒見が良かったから俺も楽しく子供時代を過ごしていたなぁ
「おまたせタク!…あれ、なんかぼーっとしてるけど大丈夫?」
「いや、ねぇねぇと出掛けるんは久しぶりやから少し思い出に浸ってた」
「もう、タクったらお姉ちゃんっ子なんだから♪」
ふわりとした羽根で抱きしめられた、この抱擁は気持ちよすぎて自分から離れられない
「うん…俺はお姉ちゃんっ子やから」
「えへへ…もぅ、可愛いぞっ♪」
しまった、自ら深みにハマってしまうとは…やはりこの底なし沼のような気持ちよさの抱擁は危険だな
「んー、タクは大きいから抱きしめ甲斐があるねぇ」
「ね、ねぇねぇ…釣りは?」
「あ、そっか。早く行かないと時間なくなっちゃうもんね」
ねぇねぇが離れる、少し残念だがあのままだとずっとひっついているだけで1日が終わりそうだったから良しとしよう
「よーし、それじゃあ海まで行くよー!」
「おー、って…ねぇねぇ?」
ねぇねぇが俺の腰あたりをを鳥のような脚で掴む
「飛ぶよー!」
「お、おわぁぁぁぁぁぁ!?」
ふわりと浮遊感が俺を襲う、ねぇねぇが俺を掴んで飛んでいる
そうだ、確か昔もこうやってねぇねぇに飛んで近所の海辺まで連れて行ってもらっていたんだったな
「久しぶりだねー、タクを運んで飛ぶのは」
「お、俺も久しぶりやから…驚いたで」
「あははー、ごめんごめん!一声かければよかったかな!」
あまり悪びれていないように笑うねぇねぇ、笑顔が良く似合う人だ
「もうちょっと高く飛ぼうか!タク、しっかり捕まってなよ!」
「お、おぉっ!?」
ギューンと更に高度が高くなった、近くの家々が低く見える
流石に少し怖いので、言う通りにねぇねぇにしがみつく
「…うん、そうやって…離れないようにね」
「え?ねぇねぇ何か言った?」
こうまで高いと風で声も聞き取りにくい
「んふふ、海まで飛ばすよって言ったの!」
「おぉぉぉぉぉぉ!?」
凄い速さで空を駆けるねぇねぇ、そこらの絶叫マシンでは比にならないぐらいの勢いだ
「はい着いたよ」
「お、おぅ…」
そして数秒のうちに目的地まで着いた、流石はハーピー種のセイレーンだ
「んー…いつまでも抱きついててくれるのはお姉ちゃん的には嬉しいんだけど、これじゃお姉ちゃん動けなくて釣りができないかな?」
「わっ、す、すまん…」
「謝ることはないぞー、タクがお姉ちゃんっ子で私嬉しいからさ」
にこっと笑うねぇねぇ、うーん…恥ずかしいところを見せてしまった
「あれ、そういえば釣り場って昔の防波堤とかじゃないんだね」
周りを見ると昔によく釣りをした防波堤や磯ではなく、沖の方にある突き出た大岩の上にいた
「ほら、防波堤の方って人とかがいっぱい釣りしてるじゃん?魚も警戒しててあまり釣れなくなっちゃったんだよねー、ここは人が来ないからいっぱい釣れるよ」
流石昔から俺に遊びの全てを教えてくれたねぇねぇだ、それは未だ健在だった
「はい、タクの釣竿」
「ん、おおきに…ってこれ…昔の?」
「うん、昔使ってたタクの釣竿だよ」
懐かしい俺の釣竿、昔もらったねぇねぇのお下がりで俺はこれでねぇねぇと釣りをしていた
かなり古い釣竿だけど、ちゃんと手入れしてあるのかしっかりとしている…家にいない間に捨てられてたかと思ってた
「タクがいつ帰ってきてもいいようにね、ちゃんと大事にしてたんだ。えへへ、また一緒に遊べるようにってね」
「ねぇねぇ…!」
胸に何かがこみ上げる感じがして、ねぇねぇに抱きつく
「わっ…た、タク…?」
「ご、ごめん…なんか、胸に何かこみ上げてきて…なんか、す、凄く嬉しくて…!」
「もー、甘えんぼさんなんだから…」
よしよしと頭を撫でられる、なんだかねぇねぇには凄く甘えてしまうな…
「そうだよね、タクは10年もパパと向こうにいたんだもん…パパは仕事だしあまり構えてなかっただろうし、寂しかったんだよね…」
「ねぇねぇ…ありがとう、覚えててくれて…」
「なんだー、タク?お姉ちゃんは1日たりともタクを忘れた日なんかないぞー!いつもいつもタクと遊ぶことを考えてたんだからさ、私はいつだってタクのお姉ちゃんなんだから」
「うん…ありがとう、お姉ちゃん…」
「なんだか今日のタクは変だなー、ほらほらっ!早く釣りしよう!」
ねぇねぇが自分の釣竿で釣り糸を垂らす、腕が羽根になってるのに器用な釣竿捌きだ
「…よーし俺も!」
俺も釣竿の釣り糸を垂らす、久しぶりにねぇねぇと釣りをするんだし目一杯楽しもう
「食べられる魚が釣れるといいなー」
「食べられない魚は釣っても嬉しくないしね」
ねぇねぇと喋りながらのんびりと釣りを楽しむ、なんだかこの瞬間だけ昔に戻ったみたいだ
「ん、タクの竿引いてない?」
「あ、本当だ」
竿を上げると魚が釣れていた、そこまで小さくないが大きいわけでもない普通の魚だ
「あははー、普通だねー」
「まぁ最初はこんなもんやで」
「んふー、じゃあお姉ちゃんの見本を見せてあげましょうかな!」
ねぇねぇが竿を揺らすと、大きく引きが来る
「えーい!」
バッと引き上げると立派に育った大きな魚が釣れた
「うおぉっ!すげえ!」
「えへへー、どうだお姉ちゃんはすごいでしょー!」
「すげえねぇねぇ、マジで尊敬するで!」
「も、もぅ…タクったら、そんなに褒めたらテレちゃうよ」
褒めるとテレて少ししおらしくなるねぇねぇ、この仕草にドキッとする
「よーし、俺も大物釣り上げるでぇ!」
再び糸を垂らす、そうするとすぐに当たりがくる
「お、結構引きが強い…?」
「早く引き上げよっ!」
「あいよっと!」
思いっきり引き上げる、釣りあがっていたのは
「…タコ?」
赤い身体に蠢く8本の足、紛れもなくタコだった
「あっははは!タク、タコって…あっははは!面白〜い!」
「ばっ、タコやって食べれるし美味しいやろ!」
「そ、そうだね…あははは!」
「で、でも確かにタコってのは…くっくく…笑えるわな!」
「あっははは!タコだー!」
「くっ、くくく…あははは!」
「「あはははは!」」
しばらく二人で笑いあった、タコを釣り上げただけでこんなに笑えるとは…
というより、久しぶりに声をあげて笑った気がするなぁ…
「タク、ようやく笑ったね」
「え?いや、俺だって笑うよ?てゆーか昔から結構笑ってた気がするんやが…」
「いや、そうじゃなくてさ…こっちに帰ってきてからの話」
「んー?帰ってきてから、結構笑ってると思うけどなぁ」
皆に会った時とか、歓迎会の時とか笑顔やったと思う
「そういうのじゃなくてさ、思いっきり楽しくて笑うってこと。なんかタク、こっちに帰ってきてから笑ってても顔だけだったんだもん」
顔だけ…か、思い当たる節はある
研究施設では偉い人とかと会う事とかがあり親父に作り笑いを仕込まれたから、それのせいで素直に笑うということを久しく忘れていた
こういうところに気付くなんて、流石はねぇねぇというか…
「きっとこの10年でタクは私なんかよりずっと大変な毎日を送ってきたんだよね、本当に笑うことを忘れて、作った笑顔をするくらい」
「そんなことはあらへんよ、ただ親父に便利だからって教えられただけや…」
「タク、いい?私はね、心の底から笑うのが好き。知ってる?心の底からの笑顔ってね、自分を、周りを幸せにしちゃうんだよ?…だから、心の底から笑ってる人は幸せで、逆に心の底から笑えない人は不幸せなの」
確かに、今までの研究施設での10年は幸せか不幸せかと言われると俺は不幸せだと断言できる
大好きな姉たちと離されて、来る日も来る日も無機質な研究ばかりで…あの時の俺は死んだようなものだったな
「どんな時でも心の底から笑うことを忘れちゃダメだよ…タク。そうしないといつか抜け出せない底なしの不幸の沼に落ちちゃうから…」
「ねぇねぇ…そうやね、確かに笑うことを忘れてたかも」
「まぁタクがその沼に落ちても、私が引き上げてあげるけどね」
「…俺を引き上げるにはねぇねぇの身長が足りないんやないかな?」
ねぇねぇは家族で一番背が低い、といってもシャクヤ姉さまを抜くと微々たる差だけど
引き上げると言うことは俺より高くないといけないからな
「へっへー、その為のお姉ちゃんの翼なんだから!これならタクより高くなるし、引き上げれるよね?」
「…そっか、ねぇねぇはセイレーンやもんね」
「お姉ちゃんはさ、いつだってお姉ちゃんなんだからね。タクが困ったら助けるし、タクの為だったらなんでもできちゃうんだよ?だから、辛い時や困った時…いつどこでも私を頼ってよね」
そうだ、いつだって俺に何かを教えてくれたのは…
いつだって俺を助けてくれたのは…ねぇねぇだったじゃないか
今もこうして、俺の笑顔を取り戻して…笑顔の大切さを教えてくれた
「…なんや、俺ってば…ねぇねぇに助けてもらってばかりやな」
「んー、そうでもないよー?」
「いや、そうやろ…ねぇねぇに対して俺何も出来てないやん」
「うーんとねぇ、私がタクに何かしてあげるじゃない?するとタクって私に感謝してくれるでしょ?」
「えっ…まぁ、そりゃあ…」
「ほら、もう十分な程お返しされてるじゃん」
「ええ?」
「むー、分からないかなぁ?」
ねぇねぇがふるふると綺麗な羽根の先をもどかしそうに震わせている
「お姉ちゃんって言うのはね、弟のために何かをしてあげるのが大好きなの。それだけで満足するのに、それに加えて感謝の言葉までくれるんだよ?ほら、もう十分なお返しじゃない」
「えっ、いや…そんなこと…」
「お姉ちゃんってそういう生き物なんだよ、種族問わずにね。知らなかった?」
「し、知らなかった…」
「んふふ、それじゃあまた一つお姉ちゃんから学んだね♪」
にっこりと笑うねぇねぇ、思わず俺も口元が緩んでしまう…本当にねぇねぇは凄いな、すぐに人を笑顔にしてしまう
「なんだか話してたら時間経っちゃったね」
「せやな、もうそろ帰ろうかの」
「成果は…私の大きい魚と、タクの普通の魚とタコ…あははは!」
「も、もうタコって単語だけで笑えるわな…くっくく…」
「もー、タクがタコなんか釣り上げるからだよ」
「あはは、悪い悪い!」
笑いあいながら、ねぇねぇが俺を掴んで飛ぶ
相変わらずの絶叫マシン顔負けのスピードで飛んで行く
「タク、また一緒に出掛けようね!」
「あぁ、これからはねぇねぇ達と一緒やからな」
こうして俺たちは笑顔で家まで帰ってきたのだった
15/04/05 06:18更新 / ミドリマメ
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