「やっと着いた〜……」
十日歩いてようやくついた。
ここは港町・ポルト。
磯の香りがかぐわしい、人口5000人ぐらいの大きな街だ。
今まで住んでいた町を出て、この街にやってきたのはほかでもない、冒険者ギルドに入るためだ。
しかし、ここまでくるのは大変だった。
オーガには追いかけられるし、リザードマンからは勝負を挑まれるし……。
どちらも逃げ切れたから良かった。
……別に魔物が嫌いっていうわけではないが、女性はちょっと苦手だ。
さて、早速ギルドを探しますか!!


〜数十分後〜


やっぱり街が広すぎる。
今どこに居るのかすらわからない。
仕方がないから近くの店にでも寄ってギルドの場所を訪ねよう。
ということで、寂れた酒場に入ってみる。
昼間っから酒臭い。
中にいるのは冒険者風の男が２，３人とリザードマンが一人それぞれちびちび飲んでいる。
カウンターの中ではマスターが、他にやることもないのか、グラスを磨いている。
ちょうど暇そうなので、マスターに声をかける。
「すみません、ギルドがどこにあるか教えていただけませんか？」
「……ここがそのギルドだ」
寡黙そうなマスターが答えた。
ここがギルドだって？
こんな寂れたところが？
ギルドっていうものは、もっとうるさく賑やかなものだと思っていたが、そうではないらしい。
「ここがギルドなんですか？」
「そうだ……」
「ギルドに入りたいのですが？」
カウンターの下にある机をガサガサあさって何か紙を出し、僕に渡してきた。
「ここに出身と名前をかけ」
素直に自分の名前「ギル＝ジョーンズ」と出身地「フォレス・バレー」と書いてマスターに返した。
するとマスターは小さな腕輪のようなものを渡してきた。
「マスター、これ、なんですか？」
「……これはギルドの一員である証だ」
そんなこと言わせるなという雰囲気がピリピリと伝わってくる。
マスターの雰囲気は落ち着いている感じだが、どこか話しかけづらい。
「仕事、ありませんか？」
そう聞くと、たくさんの紙が貼られている壁を指さし、「選んでとってこい」と言われた。
仕方がないので選んでみる。

これはドブさらいか……ん？これは討伐依頼？

依頼書：討伐依頼
依頼人：リジュ＝エーリク
報酬：1,200マイス
盗賊の討伐
最近、西の森で盗賊が出て荷物が届かない!
このままじゃ商売あがったりだ!!
誰かあいつらをなんとかしてくれ!!!
　　　


盗賊か……初めてのクエストにしちゃ荷が重いかもなぁ。
でも、ほかは安すぎる。
これから住む場所も探さないといけないが、ほかのじゃ宿代にも満たない。
その紙をはがしてマスターの元へ持っていく
「マスター、これにします」
「じゃあ、幸運を……死ぬなよ」

また、今日も歩きだ。
まあ、魔術も使えないんだし仕方ないか。
これも明日、柔らかなベッドで眠るためだ。
そんなことを考えながら西の森に向かう。


……地図に書かれたとおりならこの辺で山賊が出るんだが。
などと思っていると、後ろから思いっきり殴られそうになった。
「おっとっと」
「!?……今のをよけるなんて……なかなかやるね、あんた」
そう言って相手がまた棍棒を構える。
１３歳ぐらいの少女に角が生えたような外見。
そして、その外見に似合わぬ巨大な棍棒。
盗賊はゴブリンのようだ。
こちらもロングソードを構える。
しかし、目の前にいるのは一人。
きっとまだ仲間がいるに違いない。
いつ出てくるのかはわからないが、背後の草むらから時折、ガサッガサッという音がわずかに聞こえる。
数は二つか三つ。
昨日の夕飯だった鹿の方がもっと上手く気配を消していた。
さて、そろそろ動くか。
俺は急に振り返り、後ろの茂みの気配に対し、突撃し、首筋に刃を突きつけた。
「さあ、こいつの命が惜しければ武器を捨てて降参しろ」
「うわーん、姉さん、ごめんなさいー」
剣を突きつけられたゴブリンは恐怖で泣いている。
「……っく」
リーダー格のゴブリンが武器を捨てると残りの二人も武器を捨てた。
「今からお前らを街に連行する。たぶん命までは取られないだろう」
たかが物を取られたぐらいで生き物を殺すほどひどくはないだろう。
そう思いつつ、街へ帰るのだった。



結局帰り着いたのは、カラスが鳴いて寝床へ帰る時間になってだった。
「マスター!クエスト終わりましたよー!!」
盗賊を４人引っ立てて連れてきた。
「……よくやった……報酬だ」
そう言って報酬を差し出すマスター。
「たしかに受け取りました。で、こいつらはどうすればいいんですか？」
捕まえたゴブリンたちをどうするのかわからない。
「お前、生け捕りにしたのか……」
「そりゃそうですよ。なにも好き好んで、こんな子達殺しませんよ」
「じゃあ、そいつらの面倒、お前が見ろ……」
ふーん、俺が見るのか……って
「ええええぇぇぇええ!!!??」
「そのまま逃したら、また悪さをするかもしれない……
そうならないように社会に適応させろ……」
「僕、そんなお金無いですよ!!?」
「依頼をこなせ……。部屋は二階を使ってもいい……」
いきなり二階に住ませてくれることになった。
「家賃はただですよね？」
「ひと月で1,000マイスだ……」
「なん部屋借りれるんですか？」
「一部屋だ……ベッドは二つ……」
こういうところは抜け目ないんだな。
「……わかりました、それで手を打ちましょう」



二階へ荷物を運び、ゴブリンたちの縄を解いてやる。
「聞いたとおりだ。まぁ、これから仲良くしようぜ」
そう笑いかけても彼女たちの表情は険しい。
特に俺が剣を突きつけた子は、まだ怯えている。
どうすれば、心を開いてくれるのか？
「……飯にするか……」
「「「「!!」」」」
四人とも、飯という単語が聞こえた瞬間に反応した。
こいつら、もしかしたら腹減ってるんじゃねぇか？
下の階に降りてマスターに聞いてみる。
「マスター、美味い飯屋知りませんか？」
「……チンブル・オレーズ……真向かいの店だ……」
「ありがとうございます、マスター」



そこは小綺麗な食事処だった。
明るい色調の壁紙、賑やかな団欒、そして食欲をそそられる美味そうな料理の匂い。
早く飯が食いたい一心でテーブルに着き、ほかの４人も俺に合わせて席に着く。
「さて、今日は俺の奢りだ!!たんと食え!!」
そう言うとみんな食べ始める。
「ボク、こんな美味しい料理食べるの初めて!」
「ｱﾑ、ﾓｸﾞ、ﾊﾞｸ、……ﾝｸﾞ、ｺﾞｸｺﾞｸ、ぷはー!!美味いねー!!」
「おいおい、料理は逃げねーぞ？」
「お姉ちゃん、そんなにいそいで食べたら喉詰まるよ？」
「いいじゃないか、アタイを誰だと思ってるんだい？」
「ジュラ、こんなにいっぱい食べたの初めて。美味しいね、おねーちゃん」
……まぁ、喜んでもらえたようだ。

そんなこんなでたらふく飯を食ったあと、部屋に戻った。
「……さて、自己紹介をしよう
　俺はギル、ギル＝ジョーンズ
　駆け出しの冒険者だ
　お前たちも教えてくれないか？」
少しの間の後、リーダー格の奴がおもむろに口を開く
「アタイはフェブ
この姉妹の長女だ
よろしくな、旦那」
こいつはまっすぐな髪を短めに切り揃えている。
挑発するような目でこちらを見てくる。
少し強気そうだ。

「ボクはマーチ
　この姉妹の次女だよ
　よろしくね、だんな様」
セミロングなまっすぐな髪だ。
少し人懐っこそうだな。

「アタシはメイ
　三女だよ
　よろしくね、お兄ちゃん」
こいつは上の二人に比べて、まだまだ幼そうだ。
長い髪をそのまま伸ばしている。

「ジュラはね、ジュラなの!!四女なの!!
　お兄ちゃん、美味しもの食べさせてくれるから大好き!!」
……こいつさっきまで怯えてたやつなんだけど。
まあいいか。このなかでは一番幼く見える。
長い髪を紐で括って、ツインテールにしてる。

「さて、もう遅いし、寝よっか？」
しかし、ベッドは２つだけ……
ここで、俺がベッドを取るのは男としてダメだよなぁ……
「俺、床で適当に寝るから、踏むんじゃないぞ」
そう言って明かりを消す。
「お休み」
「「「「おやすみ(なさい)」」」」
こうして俺とゴブリンたちの共同生活が始まった。

■作者メッセージ
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