連載小説
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二日目 ハーブを取りに
「んん〜?」
ふと、息苦しさで目を覚ます。
胸の当たりに重くのしかかるような重みがある。
そしてなんだか暑い。
金縛りかなんかか?
ふと、胸元に目をやってみる。
するとそこには、俺に抱きついて眠っているジュラがいた。
「んにゅ〜……おにいちゃ〜ん……」
一瞬思考停止する。
こいつ、ベッドで寝てなかったっけ?
そんなふうに固まっているうちに、ジュラが目を覚ましたようだ。
「ふみゅ〜?あ、おにいちゃん、おはよ〜」
ニコっと笑いかけてくる無邪気さになんでも許してあげたくなるが、
なんでこんなふうになったのかは問いたださなければならない。
「ジュラ、お前、ベッドで寝てたはずだろ?
 どうしてこんな硬い床の上でで俺と一緒に寝てるんだ?」
「おトイレに起きたらベッドまで戻りたくなかったの〜」
「だからって、勝手に人を枕にするな」
「ふぁ〜あ、旦那ぁ〜、どうしたんだい?」
フェブが目を擦りながらこちらに目を向ける。
俺に抱きついているジュラを確認すると、目が覚めてきたのか、ふるふると震え始めた。
別に寒い冬ではないし、寒いはずないんだが?
「どうした?風でも引いたか?」
「こ、こ、こ、こ……」
鶏にでもなったんだろうか?
「コ?」
「この変態がぁああああああああ!!!」
「グホォ!!?」
なぜ俺が殴られなければならないのか?
そんな理不尽さを感じながら、俺の意識は闇に落ちていった。


そんなこともあり朝飯が始まったのはもう日が高いところに登ってからだった。
チンブル・オレーズで今日も料理を頼む。
さすがに懐の中身がさみしくなったきた。
……もうそろそろ自炊も始めたほうがよさそうだ。
と思いつつ、今日はみんなで大きなチーズドリアを取り分けて食べた。
「あぁ、美味い!!」
なんでこの店の料理はこんなにも美味しいんだろう?
「褒めてくださってありがとうございます〜」
奥からほんわかした感じのお姉さんがやってきた。
頭の小さめな角、チョンっと乗った牛の耳、白と黒のまだらな毛、そして巨大な胸。
見た目からしてホルスタウルスのようだ。
「こんにちは〜、わたし〜、ここの料理人をやっている〜
 ホルスタウルスの〜、ミルキーって言います〜。」
見た目以上におっとりしているなぁ。
こんなに料理が美味しいのは、彼女のおかげか。
「僕はギルです。そこのギルドで冒険者をしています」
彼女はニコーっと笑って、
「まぁ〜!じゃあ新しく〜依頼でもしようかしら〜」
といった。
こんな話の最中でもゴブリン四姉妹は食べることをやめない。
まぁ、こっちも気にしてはないが……。
「では、どんな依頼ですか?」
「ハーブ取りの依頼よ〜」

なんでもこの料理には彼女自身の母乳と、
それに合ったハーブやスパイスが使われているらしい。
それは一年のうち、この時期にしか取れないそうなのだ。
しかも、もう備蓄も少ないとのこと。
ドブさらいなどよりは楽しそうだ。
「じゃあ〜、これが依頼書です〜」


依頼書:採取依頼
依頼人:ミルキー
報酬:300マイス+チンブル・オレーズの食事券(40食分)
   今年もあのハーブの季節がやってきたの〜
   いっぱい採ってきてね〜
   質によってはサービスするよ〜

「……ミルキーがお前を指名した……
 ハーブが取れる場所は西の森だ……
 ギザギザした葉が目印だから間違えないだろう……
 あと、最近、魔物が活発だそうだから気を付けて行け……」
「忠告ありがとうございます、マスター
 フェブ、マーチ、メイ、ジュラ、行くぞ」
「えぇ〜?アタイたちも行くの〜?」
「今日の夕飯抜きでいいならこなくてもいいぞ」
「!?分かった、行くから!!夕飯抜きはやめて!!」
こいつら飯のことしか頭にないのか?


そんなこんなで西の森。
さぁ、たくさんのハーブをもって帰るぞ!!

少し行くと、ハーブの群生地があった。
爽やかな香りが、草の青臭さに混じって流れてくる。
「旦那ぁ、いっぱいあるよ!!」
「だんな様、全部とってもいいんですか?」
フェブとマーチはもうハーブを取りたそうにウズウズしている。
こいつら最初は来たがらなかったのに……
「いや、少し残しておいてくれ
 ハーブを取るのは今年だけではないからね」
……こういうモノは根こそぎ取ると、生えてこなくなるって聞いたことがあるからな。

「うん、わかったおにいちゃん!!!」
そう言いながら、ジュラはブチブチと、ほぼ根こそぎとっていった。
「もう、ジュラは……
 お兄ちゃんの言ったことわかってる?
 こうやって葉っぱを一枚一枚取るんだよ」
そう言いながらメイがジュラに教えている。
意外と姉らしいこともするんだな。
……そんなこんなしながら、カゴいっぱいになるまでハーブを取った。
気がついたら、日も傾き、西の空が橙色に染まっていた。
「これぐらい取れば十分だろう
 みんな、もう遅いしそろそろ帰ろうか?」
「ラジャ!!」
「わかりました」
「わかったよ〜」
「うん、おにいちゃん」

んじゃ、帰ろうか!!と言おうとしたそのとき、突然、周りの雰囲気が変わった。
なんなんだ、この気配は?
「旦那、同士たんだい?
 腹でも痛くなったのかい?」
フェブたちは全く気付いてないようだ。
しかし、幽かだが、人の気配はある。
どこだ、どこにいる?

ザッ!!!
気配がいきなり動いた。
「上か!!」
咄嗟に剣を抜いて防御する。
ガキン!!!!!
なんとか間に合った。
すぐに相手が飛び退く。
少し褐色がかった浅黒い肌、筋肉質な、それでいて女性特有のしなやかさを持つ肢体。
そして、控えめなしっぽ。アマゾネスのようだ。
「うわぁ!!?」
「ふみゅ!?」
「きゃあ!!!!」
「ひゃあ!!!?」
四人もそれぞれ襲われたようだ。
ていうか、捕まってる?
「あとは、お前だけだ。」
距離を一歩一歩詰められる。
「おとなしく観念するんだな。
 なに、悪いようにはせん。
 我が夫として、大切にしてやろう。」
「名前も知らない奴と結婚するなんて真っ平ゴメンだね!!!!」
実践はしたことないが、俺だって、剣術は習っていたんだ。
たとえ魔物であっても対等に戦える自信がある。
「ならば、力ずくで夫にするまでだ!!!!」
奴は、勢い良く切りかかってきた。
袈裟斬りだ!!
ビュ!!!
一歩下がってよける。
振り切った刃を、手首を返して切り上げてくる。
「はぁっ!!!」
ギン!!!!!
叩きつけるように剣で止める。
そのまま左肘を水月に叩き込む。
「がはっ!!?」
少しよろめくアマゾネス。
「どうだ、これが人間の力だ!!」
しかし、ダメージが回復してきたのか、もうすでに薄く笑っている。
「ふふ、面白い奴だ。
 私を怒らせたらどうなるか、その身をもって味わうがいい!!!!」
ビュ!!ビュン!!!
さっきの倍ぐらいは速い。
師匠の特訓を受けてなかったらとっくの昔に負けていただろう。
シュン!!ビュン!!!ヒュン!!!!
剣術を習っていて本当によかったと思う。
避け続けるうちに、相手の息が上がってきた。
「はぁ、いつまで、はぁ、逃げ続けるつもりだ?
 攻めないと、はぁ、勝てんぞ?」
「じゃあ、そろそろ攻めようか」
俺は大きく振りかぶる。
咄嗟に頭を守ろうとするアマゾネス。
そこへミドルキック。
「ゴハァ!!?」
「おいおい、こんな初歩的なフェイントに引っかからないでくれよ……」
「ぐ、グオォオ!!!」
頭に血が登ったのか突進してきた。
好都合だ。
少し体をそらし、足をかけてやる。
顔面から倒れそうなので、バランスを崩したところを、腕をつかみ、引き寄せる。
悔しそうな奴の首根っこを掴み、「まだまだだな、出直してこい」と言ってやった。
さて、四人を助けるとするか。
「おい、貴様ら!!
 こいつを助けて欲しければさっき襲ったゴブリンたちを放しやがれ!!!!」
リーダーのような奴が合図するとフェブたちは開放された。
「おにいちゃん、怖かってよ〜」
「もうだめかと思った」
フェブたちも無事で何よりだ。
こちらも人質を開放してやる。
「じゃあ、もう襲ってくるんじゃねーぞ!!!」
アマゾネスたちが帰っていくのを確認して、俺たちは森を後にした。


街に帰り付いた頃には、既に星が美しく瞬いていた。
「マスター、クエスト終わりましたよー」
「……どうした、すごく疲れているぞ……?」
「いや、アマゾネスに襲われて、もうへとへとですよ」
「そうか……これが報酬だ……」
そう言って袋を受け取る。
「フェブ、お前ら、この食券で何か食べとけ……」
「旦那はどうすんのさ?」
「俺は疲れたからもう寝るよ
 昨日と同じだから
 ジュラもきちんとベッドで寝かせてくれよ」
「……うん、わかった……」
「何だ?何か言いたいことがあるのか?」
「いや、別に」
「じゃあ、遅くならないように早く寝るんだぞ」
そう言って、俺は部屋まで歩いていった。
部屋に着いたとたん、猛烈な眠気に誘われて、倒れるように寝てしまった。
11/09/03 01:08更新 / ryo
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■作者メッセージ
ギル君は実は剣術を習っています。
ちなみに、師匠の攻撃を全て防ぎきったら旅に出ても良い、という条件だったようです。

ちなみに更新はもっと遅くなりそうです。
気長に見守ってください。
感想・アドバイス、どんどんお願いします。

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