連載小説
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仮面と秘密と植物少女
 え、最初に会ったとき、ですか?

 その、私はご覧のとおりのマンドラゴラですけど……あの人に引き抜かれたわけじゃ、ないんです。
 お恥ずかしいんですが……私、家出してたんです。
 いや、あれは家じゃないのかな……順を追って説明しますね。
 最初に引き抜かれたのはもう何年前か、正直覚えていません。
 引き抜かれて、叫んで、その叫びの誘惑に駆られた引き抜いた人に犯されて……ってくだりはマンドラゴラならどの子も一緒だと思います。
 その後で運ばれて、私たちの根とかからできる薬を目当てに飼われ続ける…ということもあんまり珍しくないって、あの人から聞きました。
 私もそうやって運ばれて、ついたところは昼でも暗いお屋敷の荒れ果てた裏庭……怖かったです。
 マンドラゴラの先輩から、ここは魔術師のお屋敷で、私たちは根っこを取るためにこれかわ飼われることになる……って、教えてもらえました。

 はい、ご飯はもらえましたけど……ひどいんですよ? いくら私たちが植物系だからって、肥料を水に溶かしたものを上からざばざばーって。一日一回、それだけでした。
 それが終わってしばらくしたら、みんな順番に並ばされて――あ、そこのお屋敷は私だけじゃなくてほかのマンドラゴラの子たちもいました――、足の先を切られて……たまにあんまり伸びてないと、売れないじゃないかってお仕置きされて……本当に、ひどいところでした。

 だからある夜、みんなで相談して決めたんです。怖いけど……こんなところからは逃げ出そうって。逃げ出して、森や草原で静かに、平和に暮らそうって。
 
 次の日、私たちは計画を実行に移しました。
 計画って言っても、そんな綿密とか、周到とか、そういうことはありませんでした。
 みんなで裏口の近くで待ってて、いつもそこからくるご飯係の人が扉を開けたら、みんなでいっせいにその人に飛び掛って、倒れた隙に逃げるんです。
 うまくは……いったんだと思います。途中までは。
 確かにご飯係の人が倒れた隙に、仲間の子たちはみんなお屋敷から逃げ出せました。
 でも……そこからです。どっちにいけば森や草原にたどり着けるのか、誰も知らなかったんです。遠くから無理やり運ばれてきた子たちばっかりだったから、無理もないですけどね。
 どっちに行けばいいのかわからなくてまごまごしてるうちに、お屋敷から人がたくさん私たちを追ってきて……逃げ惑ってるうちに、散り散りばらばらになっちゃいました。ほかの子たちが今どうしてるのか、私にもわかりません。つかまっちゃった子もきっといると思います。

 私は運良く捕まらなかったんですが……街を抜け出しても、どっちに行ったらいいのかわかりません。
 水と光と土で生きていきながら、何ヶ月か何年か、当てもなくふらふらしてたんですけど……あるとき、荒野に出ちゃって、間の悪いことに日照りの日が何日も続いて……ついに、倒れちゃって。
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