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ドラゴンの村 |
村に着いた。
何事も起きずに村に着いた。 不思議なくらい、村は静かでのどか。 私と少年とピクシーは、眠そうに欠伸をするおじさんを見て呟いた。 「ドラゴンって本当にいるのかなぁ」 「いるんじゃないかなぁ」 本当に村はのどかだった。 「え? ドラゴン?」 宿屋のおじさんに聞いてみた。 「ああ。たまに降りてくるよ」 「ええ! やっぱり来るの?」 「そうだよ」 おじさん、鶏が卵を産んだ話をしているような顔をしてる。 「確かに沢山食べ物は取られるけどねぇ。おかげで盗賊がいなくなって助かっているんだよ」 「でも、この村のデーリングっていう人から依頼が来てるんだけど」 そう言って少年が取り出したのは、ちょっとだけ懐かしい、あのクエストの紙。 1ヶ月以上の旅でくたくたになった羊皮紙を少年が広げる。 「デーリング?」 おじさんはその名前を聞いて嫌そうな顔をする。 「あいつが、ねぇ」 村長さんなのに町長さん? 「え? どういうこと?」 少年が不思議そうにしているので、羊皮紙を突付く。 依頼内容:ドラゴンの討伐又は撃退 依頼者:デーリング 依頼内容詳細 ・ドラゴンが町の近くにある山に住み着いた。今はまだ被害が出ていないが、ドラゴンに襲われるかと思うと気が気でない。報酬は町の住民全員から集めて払うし、ドラゴンが貯めている財宝も全て持っていっていい。早くドラゴンを何とかしてくれ! 「あれ? ここって、町なの?」 ピクシーが不思議そうな顔をする。 だってここ、外壁もないし露天のお店も何も無い。 ふつーの村。 「いーや。デーリングってのは村長の息子でね。村長が倒れたって聞いて村に戻ってきたんだが」 「やる気が変な方向に向いて、『町長さん』ってこと?」 「そういうことだよ」 宿屋のおじさんも疲れ顔。 「村の皆が大丈夫だって言ってるんだが、あいつは一人でキーキーわめいてばかりでね。まったく、何が気に食わないんだか」 「じゃあ、おじさんたちはドラゴンと仲がいいの?」 「いいか悪いかって言うと、わかんねぇな」 おじさんが笑う。 「なにせ言葉が通じない。俺たちとしちゃ、無口な用心棒って所だよ」 「最強の用心棒だよね。ガーゴイルが尻尾巻いて逃げるくらい」 ガーゴイル? 「家や町を守る石像の魔物だよ」 ピクシー、ちょっと物知り。 「ドラゴンが次にやってくるのはいつぐらいなの?」 少年、ドラゴンがやってくるまで待つつもり? 「うん。村の人が一緒なら、話を聞いてくれるかもしれないし」 「ドラゴンとお話かい? それは勇敢だねぇ、少年」 おじさんが笑いながら少年の背中を叩く。 「けほ、けほっ」 「でも依頼は『討伐』ってあるけど、いいのかい?」 「『撃退』でもいいってあるし。それに村の人とドラゴンがもっと仲良くなったら、この依頼なんて要らなくなるでしょ?」 「ちょっ、少年! もしかして、この依頼、なかったことになっちゃってもいいの!?」 ピクシーが驚いたけど、少年は首を傾げてから頷く。 「うん。変かな?」 「あー。まぁ、言われて納得だよ。らしいっちゃらしいよね」 ピクシーも何だか納得の様子。 「ドラゴンが次にやってくるのは、明後日くらいかな」 「そうなんだ! じゃあ、それまでの間、お世話になりますね!」 「おうよ」 宿のご飯を食べてベッドに入る。 少年はしばらくは興奮して眠れないだろうなぁと思っていたら、すぐに寝息が聞こえてきた。 「起きてるよね?」 ピクシーが私の顔の所に飛んできた。 「ちょっと、散歩しない?」 村の夜はとても暗い。 月と星明りだけが村を照らしている。 「どうするの?」 首をかしげる。 「ずっと一緒に来たんでしょ。でも、私さ、ずっとわからなかった事何だけどね」 ピクシーが後ろ向きに飛びながら私の顔を見る。 「何で一緒に来たのかはよくわからないけど。少年がドラゴンと会って話をするのを見てるだけ? ドラゴンが暴れたら取り押さえるの?」 ピクシーがじっと私を見ている。 「私さ。面白半分で顔を出して、何だかんだで1ヶ月くらい一緒に居たじゃない」 ピクシーはあちこち飛びながら話を続ける。 「リザードマンたちやラージマウスみたいに長く一緒にいたわけじゃないけど。色々と話をしたり聞いたりしてるからね」 ピクシーは妖精みたいに小さい。 妖精みたいに踊っているようにあちこち飛んでいる。 「だから凄く腹が立っているんだよね」 首をかしげる。 どうしてピクシーが怒ってる? 「ねぇ。あの少年のこと、好きなんだよね?」 ピクシーが私の目をじっと見る。 好きか、嫌いか。 答えようとしたけど、上手く言葉が出ない。 好きか嫌いかなら好き。 嫌いとはいえない。 でも、好きと口にすることも出来ない。 何でだろう。 「好きなら好きって言えば良いじゃない。勝手に何でもわかったような顔してさぁ」 ピクシーが鼻先に近付いてくる。 「そんなぼやぼやしてると。私がとっちゃうよ?」 ピクシーが怒ってどこかに飛んで行った。 周りに誰もいない。 私は耳を澄ませ、匂いで確認する。 他に誰もいない。 そして私は奥に進む。 話がある。 私がそう言うと、彼女が体を起こす。 彼女は驚いて私を見たけど、私も驚いた。 「人間……いえ、貴女は!」 彼女の事を私は知っている。 公園デビューで最初に話しかけてきた子供ドラゴンだった。 |
13/03/10 20:31 るーじ
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