戻る / 目次 / 次へ |
白い勇者 |
白い人たちが現れた。
剣と鎧と盾が真っ白な白い人たち。 「冒険者か?」 白い人たちは見分けがつかない。 みんな同じに見える。 「うん。僕たちは冒険者です」 「ならば魔物を排除しろ。いくぞ」 白い人たちはエルフたちを追いかけて森の中へ入って行った。 「あの人たちって、エルフの人たちを追いかけていたのかな」 少年はエルフたちが入って行った森の方を見る。 心配そうに見ているから、聞いてみた。 何とかしたい? 少年が頷いたので、近くの木を引き抜く。 白い人たちはまだその背中が見える。 その背中に向けて木を投げる。 枝が沢山折れる音がしたから、白い人たちは気づいて避けた。 「何をするのだ」 白い人たちが怒ったみたい。 「我々は魔物を狩りに来た。邪魔をするならば容赦はしない」 エルフはエルフって種族だって聞いた。 魔物じゃない。 「魔物と共に行動していれば、魔物だ」 やっぱり白い人たちの話はよくわからない。 「お前たちは捕らえて再教育を施さねばならないな」 白い人たちが近付いてくる。 「ど、どうしよう」 少年の背中を押す。 「え? で、でも」 私一人の方が楽だから。 そう言うと少年は少し寂しそうな顔をする。 「絶対に、また会おうね」 うなずく。 少年が走る背中を見ながら、飛んできた矢を掴む。 「腕が立つようだが。この数を相手に勝てると思っているのか」 右から左から白い人たちがやってくる。 でも勇者はいない。 白い人たちはあの町から来たみたい。 倒しても倒してもたくさんやってくる。 「後ろだ愚か者め!」 後ろからやってきた白い人の剣を受け止めて、持ち上げて投げる。 「馬鹿な。貴様、魔物か!」 白い人たちの話はよくわからない。 人の姿をしているのに、どうして魔物だって言うんだろう。 白い人たちが笛を鳴らしたり空に向かって魔法を撃ったりすると、どんどん白い人たちが集まってくる。 前に、金槌リザードマンから聞いたことがある。 人間はたくさん集まれば集まるほど強くなるって。 金槌リザードマンが言ってた通り、増えれば増えるほど強くなる。 5人が集まって魔法を使ってくる。 ものすごく沢山の矢が降ってくる。 前と後ろと右と左から大きな斧を振り下ろしてくる。 あっちこっちから攻撃が来る。 大きな魔法は殴って潰す。 沢山の矢は木を振って吹き飛ばす。 前を蹴って後ろを蹴って右と左を掴んでぶつける。 たくさんいると相手にする数が多くて疲れる。 気づいたら足の踏み場も無いくらい、白い人で埋めつくされた。 みんなぐったり倒れている。 でもまだ回りには沢山の白い人がいる。 「勇者はまだか?」 勇者は町にいたみたい。 ラージマウスが言っていた。 大きな街には腕の立つ冒険者がいて、大きな教会には勇者がいるって。 やってきた勇者はやっぱり白い。 今までで一番白い。 顔の髪も全部白い。 白くないのは青色の目だけ。 白い勇者が剣を構えてやってきた。 白い勇者は、あの怖い勇者と似ている。 ぜんぜんしゃべらないし、ちょっと強い。 でもあの怖い勇者と違ってる。 あの怖い勇者は、こんな顔をしなかった。 受けた剣がまた折れたので、剣を交わして剣を拾う。 だんだん暗くなってきた。 早く行かないと少年が心配する。 白い勇者も疲れてきたみたい。 だんだん動きが遅くなってきた。 おなかがすいた。 白い勇者はお腹が空かないのかな? 聞いてみても、白い勇者は何も言わない。 ちょっと驚いたみたい。 「お前は勇者か?」 首をかしげる。 「ならば魔物か?」 首をかしげる。 強かったら勇者か魔物しか答えが無いの? 「そうだ。勇者より強い者は、勇者か魔物だけだ」 でも私は角も生えていないし尻尾も生えていない。 「だが人々を滅ぼそうとする魔物に加担するなら、お前も魔物だ」 よくわからない。 魔物は仲良くなりたいだけなのに。 人々を滅ぼそうとしているの? 「現に魔物に連れ去られた人間は誰一人帰ってこない。誰一人、だ!」 お家に帰って仲良くしてると思う。 「家だと? どこだというのだ!」 たぶん魔界。 「ならば何故帰ってこない!」 帰ってこれるはずが無い。 だって、一人で帰っても二人で帰っても、殺されちゃうから。 白い人は魔物と仲良くした人は、誰も許さない。 白い勇者の人は黙ったまま動かなくなった。 「だが、私は」 白い勇者の人は止まらない。 「それでも魔物を倒す! 人々のために!」 帰ってこない誰かのためじゃないの? 「そんなはずが無いだろう!」 剣がまた折れた。 夜になった。 白い勇者さんは、昔いっしょだった人がいたみたい。 でも魔物に襲われて、会えなくなったって。 白い勇者さんは魔物を倒せば戻ってくるって信じてるみたい。 よくわからないけど、とりあえず殴っておいた。 「おつかれさま。大変だった?」 ちょっとだけ疲れた。 ご飯食べたから、もう寝る。 「そう。おつかれさま」 少年が私の頭を撫でる。 私の力が抜けて、瞼が落ちる。 「わ、ちょ、ちょっと」 何だかあったかくなって安心したら、眠くなってきた。 下の階に寝かせた白い勇者は、暴れないかな。 ちょっとだけ村の様子を見せたから大丈夫かな。 ピクシーに任せたから、きっと大丈夫。 そう思って少年に抱きついた。 |
13/02/28 01:04 るーじ
|