戻る / 目次 / 次へ |
少年と病 |
「そうか。今日は少年はいないのか」
うなずく。 「それじゃ、仕方ないね。しっかりやりなよ。高ポイントのチャンス何だから」 うなずく。 「私も何か差し入れようか?」 栄養のある物。 「わかった。任せろ!」 「私は薬を作って持って行くよ。旅人の生きる知恵って奴だよ」 私はずっと付きっ切り。 「そうだね。それが一番だよ」 「さ。後は私たちに任せて、早く少年の所に戻ってやれ」 うなずく。 今日は少年は外にいない。 少年は宿に居る。 少年は、風邪を引いた。 「あ、ありがとー」 宿の厨房で粥を作った。 「そうなんだ。おいしそうな匂いだなー」 おいしい。 はず。 「……」 宿屋のおばさんは美味しさのあまり気絶した。 ラージマウスとリザードマンもお腹が苦しくなるまで食べた。 だから大丈夫。 たぶん。 「……」 「えっと。もらって、いいかな?」 どうぞ。 熱いから気をつけて。 「うん。ふー、ふー。んく」 少年が粥を食べた。 味わうように口を動かしている。 「なんだ、おいしいじゃないかっ。あんなに脅すから、びっくりしたよ」 でも3人とも倒れてる。 「え、なんで?」 首をかしげる。 少年が食べているのは卵粥。 ハーピーの無精卵を貰ってきたってラージマウスが言っていた。 リザードマンも何かの卵をたくさん持ってきた。 でも、リザードマンは誰から卵を貰ってきたか教えてくれなかった。 「ねぇ。これ、何?」 少年が粥の隣に置いているコップを指差す。 木製の大きなコップから甘くてスーっとする匂いが漂っている。 問題ない。 飲んで大丈夫。 「えっと、これ、何?」 「それはね」 ラージマウスが部屋に入ってきた。 まだ苦しそうにしている。 「風邪に良く効く、飲み物だよ。あったまるし、喉が楽に、なる」 「ありがとっ。でも、どうしたの? 苦しそうだけど」 「あはは。ちょっとね」 ラージマウスが私を見る。 首をかしげる。 「あ、そう言えば」 ラージマウスが少し楽しそうに笑っている。 「知ってる? 人の体をあっためるのは、人肌が一番いいんだって」 「ひとはだ……、ひとはだ……けふっ!?」 少年が卵粥を吹いた。 「な、ななななななな!?」 「あー。少年、いま想像したなー? この、えっちなやつめ」 「し、していない! なんにも、これっぽっちも!」 「あはははは! 顔が真っ赤だよ!」 「元からだよ!」 ラージマウスを掴んで部屋を出る。 「あら、あららら?」 風邪を引いているときは、安静が一番。 「あー、うん。そだね。ごめん。ついからかっちゃった」 その気持ちはよくわかる。 「あはは。だよねー」 部屋に戻ると、少年はちゃんと粥も食べて、薬湯も飲み終わっていた。 「ありがと。おいしかったよ」 あとはゆっくり寝る。 「うん。それじゃ、おやすみ」 おやすみ。 粥の器とコップを持って下りる。 宿の食堂におばさんとリザードマンが倒れている。 ちなみに、ラージマウスもリザードマンも人化け済み。 「それでさ。残り全部食べるの?」 うなずく。 「あはは。あれだけの量を簡単に平らげるなら、強いのも納得だよ」 首をかしげる。 厨房に行くと、パスタをゆでる深い鍋が二つ置いている。 片方は半分くらい減っているけど、もう片方はあんまり減っていない。 私は減っている方の鍋の卵粥を食べる。 「おお! 豪快にお玉だねぇ」 「でもさ。幾らなんでも作りすぎじゃない?」 作ったら後は温めるだけ。 これなら誰でも作れる。 夜中にお腹を空かせた少年でも。 「なーるほど」 「でもさ。やっぱり多いよ、これ」 首をかしげる。 「そう思うでしょ、って、あれ?」 空っぽ。 「私さ。ラージマウスの自信がなくなってきたよ」 首をかしげる。 追加のお粥と薬湯を持って少年の部屋に入る。 今度のお粥は消化にいい野草を入れた粥。 冷めても食べやすい。 少年は顔に汗をかいている。 人間の体はとても弱い。 何が原因で病気にかかるかわからない。 魔物は人間が引くような風邪を引かない。 何か特別な病気にかかるみたいだけど。 少年がうなされている。 嫌な夢を見ているのかな。 私は夢の中には入れない。 ただじっと、少年を見る。 少年の手を握る。 熱い。 少年はいつも暖かいけど、今日は熱い。 ラージマウスの話だと、体が熱いのは病気を治すためみたい。 少年には魔物の魔力なんて当然ない。 魔法も使えないし、剣もない。 少年の体一つだけで戦っている。 私はそれを見てるだけ。 少年の汗が酷い。 冷水に浸した布で顔を拭うと、楽になったみたい。 少年の体のあちこちを塗らした布で拭き取っていく。 私に出来ること。 少年にできる事。 思いつくまま、全部やってみる。 気づいたら朝。 少年の風邪は治ったみたいで、いつもの寝顔になっている。 体もあまり熱くない。 いつもみたいに暖かい。 まだ少年は起きないみたい。 もうちょっとだけ。 寝る。 少年が目を覚ました。 つられて私も目を開ける。 「えっと。おはよう」 うなずく。 「また布団の中に入ってきて……って駄目じゃない! 風邪がうつるよ!」 少年が布団を跳ね除けて起き上がる。 そして私と目が合う。 「……」 少年が固まっている。 首をかしげる。 「な」 な。 「なな」 なな。 「何で服を着ていないのー!?」 脱いだから。 その日、少年はいつも以上に元気だった。 |
13/01/28 19:54 るーじ
|