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猫探し

少年が寝ている。
少年の朝はいつも遅い。
布団の中に入っているときの少年は、猫の様に体を丸めている。

頬をつつく。
柔らかい。
ドラゴンの鱗は堅いけど、少年の頬は柔らかい。
ふにふに。

今日は雨が降っている。
雨が降っていると外は暗いままだから、まだ夜なのかと思ってしまう。
でも雨が降ってもパン屋さんはパンを焼いているだろうし、行商人のおじさんは荷物を持って村まで歩く。
天気が悪くても、仕事はある。

「おや。お嬢ちゃん、今日は一人かい」
クエストはギルドの掲示板に乗せられる。
でもギルドがない小さな村なんかだと、酒場か宿屋に掲示板が置いている。
「今日の依頼はないよ。ごめんね」
宿屋のお兄さんが私の目の高さにあわせて屈んでいる。

「平和な証拠なんだろうね。クエスト掲示板が空なのってさ」
クエストは、自分ではどうしようもない事が起きた時に、誰かに依頼をするためのもの。
クエストが無いと言う事は、困った事が無いと言う事。
でも冒険者はクエストが無いと困ってしまう。
「あははは。冒険者がクエストを出す場合があるかもしれないね」

クエストがほしい、っていう内容のクエスト?
……不思議。

少年が起きるのを待つ間、宿屋のお兄さんが淹れてくれた紅茶を飲む。
ドラゴンの爪ほどのカップも、今の私では両手でちょうどいい大きさ。
「この辺りの野草にハーブが生えているからね。それをいれてみたんだ」
ハーブ、香草、薬草。
「冒険者をするなら役に立つと思うよ。幾つか教えてあげるよ」

いい匂いのする草や、消化が良くなる草。
ぐっすり眠れる草や料理が美味しくなる草。
見た目は普通の草なのに色々ある。
ふしぎ不思議。

私が草とにらめっこをしていると、宿屋に誰かが入ってきた。
小さな足音。
外が雨だったから、足音もぬれている。

「おや、雨の中どうしたんだい」
宿屋のお兄さんが声をかける。
でもお兄さんは、何をしに来たのかはもうわかっているみたい。
小さな足音は私の後ろを通り過ぎて、掲示板に向かった。

掲示板にクエストの紙を貼り付けようと、ピンで刺している。
でも力が弱いみたいで、すぐにピンが落ちる。
ピンを拾おうとすると紙が落ちる。
けっきょく両方拾ってまた掲示板へ。

私は掲示板に張られようとする紙を手に取る。
クエストの内容は、ネコ探し。
飼っていたネコがいなくなったみたい。

「あ、あの。それ、返して」
女の子が私を見ている。
私は紙を丸めてサックに仕舞う。
「え? あ、あれ?」

「大丈夫だよ。クエストを受けてくれたんだよ」
「え? え?」
「そうだよね」
うなずく。

外は雨が降っている。
女の子は雨合羽のフードを被って着いてくる。
「あまぐ、ないの?」
首をかしげる。

この小雨で雨具なんて要らない。
「こさめって、なに? もう、びしょぬれじゃない」
首をかしげる。
そんなにぬれていない。

ネコが隠れていそうな場所は全部探したみたい。
家の中、近所の家。
雨宿りできそうな場所は全部回って、お気に入りの場所も探した。
だから外に行ってしまったのかもしれない。
女の子がクエストを依頼した理由は、外を探してほしいと言う事だった。

ただでさえ音が聞こえにくい雨の中、静かに歩く猫を探すのは難しい。
大きな音を立てたら逃げてしまう。
私は女の子といっしょに、静かに村の周りを探した。

女の子が歩き疲れてしまったので、いったん宿に戻る。
ネコは見つからなかった。

「おはよう、起きてたんだね、ってうわっ、どうしたの!?」
「おやおや。ずぶぬれじゃないか」
少年がパンを食べながら驚いて、宿屋のお兄さんは慌ててタオルを持ってきた。
柔らかいタオルに頭から包まれて、わしわしと水分を拭き取られていく。

「いっしょにさがしてくれたんだけど。みつからなかったの」
「そうなんだ」
フードを被ると音が聞こえにくい。
だから雨具は使わなかった。
けどやっぱりネコの音は聞こえなかった。

「ネコさんを探してるの?」
「うん。ずっといっしょだったのに」
少年がパンを食べ終えると、椅子から降りてこっちに来た。
「じゃあ探してあげるよ」
少年は自信満々に笑っている。
勝算あり?

そして猫が見つかった。
少年が指笛を吹いたら宿屋の奥からネコがやってきた。
「さっき見かけたんだ。たぶん干し肉のカケラをねだっていたんじゃないかな」
「あはは。当たりだよ。たまにウチにきて催促するんだよ」

少年が猫を抱き上げて女の子に渡す。
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
お礼を言うと、女の子はサイフから依頼料のお金を取り出して少年に渡す。

子供の小遣いにしては多いけど、クエストの報酬としては少ない。
でも少年はいつもと同じ様にうれしそうに報酬を受け取っている。
「ほら、お腹好いたでしょ。ご飯にしようよ」

少年はスライムに負けるほど弱くて、どの魔物にも勝てないくらい弱いのに。
私に出来ないことを簡単にやってのける。

「どうかした?」
なんだか腹が立ったので、少年の頬を引っ張った。

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13/01/17 00:51 るーじ

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