ノムと私の村おこし |
先端に重く分厚い鉄の板が刺さった棒を振り上げる。
鉄の板は丸みを帯びた刃が備わっていて、人の肉くらいは断ち切れそうに見える。 私は額に汗を滲ませて、足元を見る。 正確に、外さないようにと祈りながら、振り上げたそれを振り下ろす。 ザクリと音を立てて、鍬の先端が地面に突き刺さった。 「ふぅ。こんなものかな」 額から垂れる汗を袖で拭う。 魔術師が好んで着用する、ゆったりとしたサイズの魔術服がほんの少しだけ土に汚れる。 汗を拭った後で土汚れに気づいたけど、気にせず作業を再開する。 白と緑をベースに作られたこの服は学校に通っていた時の服で、専攻していた学部が「土魔術」だから土汚れぐらいいつもの事、むしろ土に汚れこそだと自分に言い聞かせる。 あの三角眼鏡の先生もいないのだから怒る人もいないし。 「ん〜。運動した後って気持ちがいい〜」 辺りには耕されて盛り上がっている畝が幾つも作られている。 そのうちの一つ、少しデコボコしている畝が私の作った畝だ。 満足感に浸りながら大きく伸びをすると、高地の涼しい風が運動後の熱さを冷やしてくれる。 「マスター。そろそろ休憩してはどうでしょう」 目を閉じて涼感に浸っていると、首にかけている黒曜石の首飾りから若い娘の声が聞こえてきた。 「うん。農家の人って、本当に凄いなー。まだまだこれからって顔をしてるよ」 私が手を振るとおじちゃんやおばちゃんは元気そうに手を振り返してくれた。 耕したばかりの畑から離れた位置に生えている木の根元に腰を下ろす。 私は胸元にある黒曜石の飾りを持ち上げる。 「どうかな、この畑」 私は指で抓んだ暗紫色の石を見つめる。 私の大切な友人の宿る石は太陽の光できらりと光っている。 宝石の様に滑らかで、気をつけないと指を切ってしまいそうな硬質感。 黒曜石は古い時代には祭器として使われていて、さらに古い時代ではナイフとして使われていたみたい。 その石に宿る土の精霊、ノームが私の質問に答える。 「今年の豊作は間違いないですよ」 「今年のって、来年は大丈夫なの?」 「マスターが怠けなければ大丈夫です」 「もう。ノムったら意地悪言って」 私が臍を曲げても土の精霊は態度を変わらない。 でも石から伝わるノムの気持ちを元に組み上げたイメージは、少し楽しそうに笑っているように見える。 そう、私の中の「イメージ」。 私が契約している土の精霊ノーム、愛称ノムの姿は黒曜石であって、微かに瞬く光と契約の絆から伝わる意思以外にノムの感情を把握する方法がない。 私はのんびりとノムと一緒に寝転がりたいのに、ノムは固い石の姿で転がる以外の移動手段がない。 ノムも(のんびりするという点はさておき)今の姿が不便だと言っている。 会話が途切れて生まれた沈黙。 長い付き合いに私には、ノムの今の心境がわかる。 「マスター。私が言いたいこと、わかりますか?」 「うん。魔精霊になるかって事だよね」 私は目の前に広がるたくさんの畑を見る。 体力のない私がへばっても現役農家のおじちゃんたちは元気よく鍬を振り下ろして土を耕している。 風に乗ってきた土の匂いが私の鼻をくすぐる。 「土の精霊の力は契約者を持つ事で増幅されます」 「うん」 畑を見ると私が耕した畝とおじちゃんたちが耕した畝は、土の荒さも盛られた土の均一さもまるで違う。 私は暗紫色の石を抓み、不出来な私の畝を指差す。 「あれをこーして、それからこうして」 綺麗な畝のイメージを思い浮かべる。 「うん、こんな感じかな」 指先に精霊の力を込めて、視界にある畝を指でなぞる。 すると私の畝が細かく振動して、目の細かく綺麗に整った畝へと変わっていく。 「よし。私のノルマ終了っと」 「マスター。ズルは駄目です」 ノムが非難して来るけど、私は少しだけ舌を出す。 「いいじゃない。私の体力だって残しておかないと駄目でしょ」 「……はぁ。私のマスターは、ダメダメ人間です」 「ひどいなぁ」 「おーい、リリアちゃーん。この石、頼むよー」 「あ、はいはーい」 村で一番むきむきなマッスおじさんに呼ばれて来てみると、おじさんの前に一抱えはある大きな岩が埋まっている。 「これを退かしてくれないかな」 「任せて。んー、ちょっと離れててくれる?」 マッスおじさんが少し離れた位置に移動したのを見てから、腰にさしたワンドを引き抜いてその先端を岩に向ける。 「『意思無き者よ。我、魔力により汝に仮初めの命を与えん』」 呪文を唱えながらワンドの先端で岩に文字を描く。 魔力の篭ったワンドを伝い、岩に魔力が篭っていく。 「『E.M.E.T.H。立ち上がりて頭を上げよ。汝の名はユノ』」 詠唱を終えると岩が揺れ始める。 軋んだ硬い音を立てて岩が変形し、或いは割れて組み合わさる。 出来上がったのは1頭身の岩のゴーレム。 腕や脚の代わりにこぶし大の石、手や足の代わりに顔ほどの大きさの平べったい石がついている。 「さてと。この子に何をお願いしようかな。ん、マッスおじさん、どうかした?」 しりもちをついているむきむきおじさんの傍によって顔を覗き込む。 「あー、いや。リリアちゃんって、精霊魔法使いじゃなかったっけ」 「そうだよ。でもノムだけに頼りきりじゃ駄目だからね、いろいろと魔法を覚えたんだよ。それより、力仕事、何かない?」 「リリアちゃんの細腕じゃあ駄目だなぁ。せめてこれくらいは無いと」 普段の調子を取り戻したマッスおじさんが力瘤を見せる。 「いや、私じゃなくて。……ユノ、持ち上げてみて」 話が上手く通じていない事を感じたので、ユノに「お願い」する。 私の「お願い」を正確に読み取ったユノは無言のままノシノシとおじさんに近付く。 「ひぇえ!? な、なにをするん、だぁあああ!?」 そしておじさんを持ち上げた。 太陽に「どうだ!」と言わんばかりに頭上へと。 小さな子供ぐらいの背丈のユノだけど、石のゴーレムは頑丈で力持ち。 込める魔力が多ければ、オークと力比べをしても負けない。 「わ、わかった、わかったから下ろしてくれー!」 「うん。ユノ、ゆっくり下ろして」 地面に下ろされたおじさんは胸に手を当ててぜーはーと息を荒らげている。 「大丈夫?」 「あー、うん。大丈夫だよ」 「それで、この子に何をお願いしようかな。まだ生まれたばかりだから畑を耕すのを任せるのは心配なんだけど」 「それじゃあ、土や小石を運んでもらおうか」 「うん。じゃあ、ユノ。この人のお手伝いをしてね」 私の「お願い」を聞くと、ユノが体ごと頷いた。 「魔界かー。どうするかなー」 太陽のにおいがするベッドに寝そべる。 「言ってみれば良いじゃないですか。そもそも、マスターは女性なんですから魔物にお持ち帰りされる事はないでしょう。一応、女性なんですから」 「ノム。一応って何? 一応って」 「つるん、ぺたん」 「こらぁ!」 酷い発言をしたノムへのお仕置きとして、胸元を飾る黒曜石を指で弾く。 「魔力で揺らさないで下さい、マスター」 「ノムが悪い」 「私は嘘を言った覚えはないのですが。それより」 「うん。ノムを魔精霊にするためには魔界に行かなくちゃいけないって話だよね」 魔精霊っていうのは、魔物の魔力に適応した精霊の事。 半分魔物になっているために精を吸収する事でその力を増幅させる事が出来る。 するとどうなるか。 今まで自然頼りだった精霊が、自力で自然に手を貸す事が出来るようになる。 他にも色々あるけど、これが一番大きい。 だから私も魔精霊にする事は願ったり適ったり何だけど。 やっぱり気になることがあるんだよね。 「そうすれば無駄な努力でマスターが鍬を振り回す必要もなくなりますよ」 「無駄な努力って」 「そうでしょう。力仕事は石ゴーレムたちに任せて、他の簡単な仕事は泥ゴーレムたちに任せてるでしょう」 「うん」 畑仕事のついでに邪魔な岩は石ゴーレムにしてるし、適材適所。 「前に村に襲ってきた盗賊団は土魔法で撃退ましたし、村の人たちの怪我には治療薬を調合しましたし。マスターが体を動かす必要ってあります?」 「ないよ。でもさ、体を動かさないと皆に悪いじゃない」 「むしろ危なっかしいマスターを見てハラハラしているだけですよ」 「むー」 ノムに言われなくても、自分が力仕事に全く向いていないのは知っている。 だからとにかくたくさんの魔法や知識を覚えてきた。 主に土や石、大地に関わるものばかりだけど。 「でも、魔界は怖いからねー」 「またそれですか」 魔界の大地、魔物特有の魔法には興味があるけど。 うっかり足を運んで魔物になるのは勘弁したい。 魔物になったらどうなるのかは言わずもがな。 ノムを不安がらせたくないので、私は軽い調子で会話を続ける。 「それに教会の人に怒られちゃうじゃない」 「協会の人は褒めてくれますよ」 「そうだろうけどー」 話題が逸れたのは良いけど、また別の問題が持ち上がって眉を寄せる。 教会と協会。 この二つは読み方は同じでも全く異なる組織。 教会は神様にお祈りをする神の子の家。 主神とその眷属である神に仕える教団の、俗な言い方をすれば地方支店みたいなもので、シスターや神父様がいらっしゃる場所。 実は熱心な信徒じゃない私は月に一度の礼拝にも行ったことがないのでよくわからない。 協会は精霊使いの人たちの寄り合いのこと。 教会って言っても実際は正式な組織とかそういうのじゃなくて、勝手にそう呼んでるだけ。 精霊使いは主神信仰じゃなくて精霊信仰なので、教団とは別の繋がりを持っているんだけど、困った事に支店は当然なくて、本店さえもない状態なんだ。 各地の自然が豊かな村に集まって住んでいるぐらいなので、他の精霊使いの人がいまなにをしているのかよくわからない。 郵便が届かなかったら精霊使いの人が私以外に誰もいなくなっても気づかないくらい、精霊使いの人たち同士のつながりが薄い。 「問題は、魔精霊は魔物だって言われている所かな」 「違いますよ。あの神父様も仰っていましたよ。精霊使いにも信徒の中にも、魔精霊を認めない人がいる。でもそう思わない人、魔精霊は純精霊よりも高位の存在だと思っている人も多いと」 「そうだけどね。ノムも知ってるでしょ。ここから一番近い町、アーデルハイムに司祭様や神殿騎士の人たちがいるんだよ」 私が住んでいる村の近所には公明な司祭様が教会で教えを広めている町があるんだ。 あの大きな教会を思い出す。 魔物になったら最後、あの優しそうな白髭の司祭様から討伐命令が出されて、キラキラした騎士の人たちに剣や槍を向けられて、そして最後には殺されてしまうんだ。 想像するだけで怖くなってしまい、私は自分の体を抱きしめる。 「大丈夫です。私がマスターを守ってみせます」 「ありがと。じゃあ私は、村の皆を守るね」 「はい」 「今度はちゃんと守らないといけないからね。頑張らないと」 ノムが黙り込んだので会話はそこで途切れてしまい、畑仕事で疲れた私はストンと眠りに落ちた。 「魔界って遠いね。皆、大丈夫かな?」 「これで何度目ですか。苗も十分に育ちましたし、作物も豊作間違いなしと長老さんも太鼓判を押していたでしょう」 「でも、気になるじゃない。盗賊とか」 「あの村に盗賊が襲ってきたことはあの一件以来、一度もありませんでした」 「でも、今年は来るかもしれないじゃない」 「はいはい。では急ぎましょうね」 「うー、わかってるって」 気になって前日の内に大急ぎで警備用の石ゴーレムを10体も作ってしまったので、目がしょぼしょぼとしてうっかりすると目を閉じてしまう。 その度にノムに起こされるか、躓きそうになって目を覚ます。 「魔界までどれくらいかな」 「この辺りには魔界はありません。もっと遠くに行かないといけませんね」 「冬になる前には帰れるかな」 「それなら馬車に乗るなり、移動用のゴーレムを作ればいいでしょう」 「ノム。遠隔でゴーレムに魔力を供給するのって骨が折れるんだよ。今の私は手のりサイズの泥人形を作るぐらいしか出来ないよ」 「むしろ徒歩1週間の距離でも遠隔魔力供給出来る様なゴーレム師なんてマスターぐらいでしょうけど」 「頑張れば大陸の端からでも出来るよ」 「何をしに端まで行くんですか。ほら、早くしないと冬になります」 「ん〜。は〜い」 その日の夜。 私は夢を見ていた。 それは昔の出来事。 ノムと最初に会った頃の話。 私がとても小さくて、やっと言葉をしゃべれるようになった頃、散歩をしていた私は小さな小石を拾った。 見たことがない透明なその石が綺麗で、太陽に透かして眺めたり様々な角度から石を観察した。 そのまま夜が来てお父さんとお母さんに怒られるまでずっと石を見ていた。 その石は不思議な石だった。 石から声が聞こえるし、「いしのせいれいのーむ」という長い名前を持っていた。 余りにも長いので私はその石の事を「ノム」と呼ぶ事にした。 それが私とノムとの出会いで、精霊魔法使いとしての第一歩だった。 「ぜー、ぜー。まだ坂道は続くの?」 「はい。マスターの貧弱で貧相な体には辛いでしょうけど、このペースならあと30分はかかります」 「ぜー、ぜー、だれが、ひんじゃくで、ひんにゅーって」 「貧相、ですよ」 魔界に出来るだけ早くたどり着こうと近道をしようと思ったら、長くて急な坂道に出会ってしまった。 ノムに言われるまでも無く、私は魔法だけが取り得だから、坂道を登り始めて直ぐに息が切れてしまった。 額から汗が垂れて首筋を伝い、胸へと滴が降りておく。 この私が着ている魔術服は、女性用の場合は胸の部分にある程度の余裕を持って作られている。 でも女性用の服で一番「胸のサイズが小さい服」でも、私の胸には大きくて。 「あはは。空気が通る分だけ涼しくていーなー」 やるせなくて仕方ないけど、こういう時は便利でいい。 喉の渇きを皮袋に入った水で潤しながら坂道を歩く。 「マスター! アラートが鳴ってます!」 「え?」 水を飲み終わって一息ついていた私はノムの鋭い声に首を傾げて、魔物の魔力に反応するアミュレットが発する音に気づいて慌てて周囲を見回す。 「どこ!?」 「わかりません! 近くにいるはずですけど」 「それにしては影も形もないけど。あと、石の反応が変」 首に下げていた赤色の宝石を見る。 鋭い音がどんどん音程を上げていく。 「音が凄く高い。それにこの速度。馬に乗っているか、或いはもっと速い何か。考えたくないけど、馬に乗ったデュラハンかサキュバスか、そのクラスの魔物じゃない」 ノムが息を呑んだ。 「マスター! ゴーレムへの魔力供給を断って下さい! 数日ならゴーレムに残っている残留魔力で行動できるでしょう!」 「うん」 わかってる。 そう返事しようとして、がつんと頭の後ろで鈍い音が聞こえて。 「マスター!」 どこか遠い所からノムの声が聞こえるなぁと思っていると、意識が落ちた。 誰かが傍にいる。 息を荒らげている。 体が熱くて、暑くて、たまらない。 「はは、甘酸っぱくて美味しい。思わぬ拾い物をしたよ」 ぴちゃりと音が聞こえて、くすぐったさに身をよじる。 「男と間違えて襲っちゃったけど、これはこれでいいかも」 「ちょっと! 男と間違えたってどういうこと!?」 人聞きの悪い科白を聞いて思わず私は声を上げる。 「わっ、とと。ようやく目が覚めたんだ」 私の前には女の子がいた。 可愛らしい顔立ちをしているのに、その目と表情は男を襲う魔物の目をしている。 頭から虫の触覚、そして背からは虫の羽。 私の小さな胸に添えられている手はやはり虫の手。 私はこんな外見の魔物を本で読んで知っている。 「虫の魔物でその魔力。あなた、ベルセブブよね」 「あはは、あーたり」 少女の姿をした暴食の悪魔、ベルゼブブ。 大群で村を食い潰すデビルバグと違い、単体で村を食い潰す大食いの魔物。 「私を食べるつもり?」 「そうだよ。というかもう食事中だけどね」 にまりと笑ってベルゼブブが私の胸を舐める。 今気づいたけど、私は服を全て脱がされていた。 「ちょ、私、なんではだか、んぅぅっ」 舌全体でべっとりと舐められて、快感がぞくぞくと背中に走る。 「背中はさっきまでずっと舐めていたんだ。次は当然、胸だよね」 「ちょっと、人に見られたらっ」 「ここに人は来ないけどね」 言われて気づいた。 今いる場所は坂道でもなんでもなく、どこかの暗い洞窟の中。 少し離れた位置に、私が着ていた服が捨てられている。 「服にしみこんだ汗を味わうのは後にするよ」 「この、大食い」 「褒め言葉だね」 笑ってベルゼブブが舐めるのを再開する。 「ひっ、や、やめ、ひゃうっ」 ベルゼブブは私に快楽を与えようとしていない。 私の体にこびり付いた汗や旅の汚れを舐め取っているだけ。 私の腕や脇、横腹などを丹念に舐めていく。 その「食事」をしている彼女の姿がどこか背徳的で、ぞくりと背筋が震える。 「随分と汗っかきだね。おふろ、嫌い?」 「そうじゃ、ないよ。単に山の中に住んでいたから、水浴びする機会が少なかっただけ」 「それでも綺麗好きな子は毎日水浴びをするもんだよ。まるで、汚れるのが好きみたい。ふふ、変態さん」 「ち、ちがう、きゃぁんっ」 舐める場所がどんどんと下へと降りていく。 お臍の中まで丹念に舐められて、その度に変な声が出てしまう。 「さてと、次は」 舌なめずりをするベルゼブブの顔を見て、私は期待してしまう。 本当は駄目なのに、寝ている間もずっと舐められていて、私の体はすっかり快楽に染まっているみたいで、私の抵抗は自分でもわかるほど形だけのものでしかなかった。 ベルゼブブの顔が私の恥ずかしい場所へと移動する。 「ちゅ、ちゅ、ぺろ」 「ひゃあっ」 ベルゼブブがキスをして舐めた場所が予想外の場所で、くすぐったさに甲高い声を上げてしまう。 彼女は太ももの付け根を責めたのだ。 「どこを舐めると思ったの? 変態」 「くぅ、焦らさないでよっ」 「あはは。後でね、あ・と・で」 主導権を握った得意満面の笑顔を見て、私の中の何かがキレた。 「あ、そう。意地悪するんだ?」 私の声音が変わった事に気づいたベルゼブブが動きを止める。 けど自分の優位は変わっていないのだと思い直したみたいで、すぐに余裕を取り戻す。 「そうだよ。文句ある?」 「うん。あるよ」 私は村へと供給している魔力を全て弱める。 私に本来の半分ほどの魔力が戻った事を確認して、ベルゼブブが見えない位置に指先で文字を描く。 さすがに魔物の中でも魔力が高いベルゼブブである彼女は私の変化に気づいて動きを止めるけど、もう遅い。 「なにをするつもり?」 怪訝そうな顔をする彼女へ、逆に私が笑ってみせる。 「意地悪する貴方に、意地悪をする」 そして描いた文字に魔力を走らせる。 「『E.M.E.T.H。汝は我。汝は我が指先。さぁ、縛りなさい。穿ちなさい。私の思うが侭に』」 全てが終わった後に、彼女がこんな捨て台詞を残した。 「あんた、絶対魔物になるために生まれてきたのよ! この性悪変態女!」 「やぁ、リリア、お帰り。早かったじゃないか」 「まーね。ちょっと色々あって、予定が早くなっちゃった」 私は苦笑いを隠すようにオーバーな仕草で頭をかく。 「あれ、リリアちゃん。その硬そうな手袋はなんだい?」 「あー、これ? あは、あははは」 そういえば手を戻すのを忘れていたけど、どの道いいかと割り切ってしまう。 どうせ後で説明するんだと笑って誤魔化す。 「それよりさ。この子の事とか村の事とか話す事あるから、今日の夜は皆を集めてくれないかな」 私の肩に乗っている小さなノムを指で突付く。 魔精霊になったノムは人の姿を手にしているので、もう黒曜石の姿をとっていない。 最も、今は節約モードの小さな掌サイズになっている。 それを見たおじさんは大喜びで手を鳴らす。 「ああ、いいぞ。今日は宴会だぁ!」 大笑いをしながら走り出したおじさんの背中を見ながら、私は思わず唸ってしまう。 「あの調子なら私が魔物になったことを言っても大丈夫かな」 「マスターは楽天家過ぎです」 「いいじゃない。結果的にノムも魔精霊になったんだし」 私はあれから色々とあって魔物になってしまった。 魔物というか、ベルゼブブ。 あの私に襲い掛かってきたのと同じ魔物になってしまった。 自称、「暴食と豊穣を司る魔物」のベルゼブブの話によれば、ベルゼブブは豊穣の力を持っているんだとか。 結果的には魔物になってよかったと思ってしまったところはあるけど、それはさておいてあのベルゼブブにはお仕置き(と感謝)の意味を込めて徹底的に苛め返してやった。 泣きながら「もう二度と魔界の外に出るもんか!」と飛び去っていった彼女の背中には哀愁が滲んでた。 「それでどうするんですか?」 「どうもこうもないよ。全部話して納得してもらうだけ。だーいじょぶだって。みんないい人たちだよ」 「楽天家で貧相なマスターの言い分はもういいです、あたっ」 相も変わらず無愛想な相棒を、私は指先で弾いてやった。 「いい事じゃないかぁ。ノーム様が魔精霊になったし、リリアちゃんも魔物になってたくさんいろんなことが出来るようになって」 「そうじゃそうじゃ」 「んだんだ」 「あはは、お酒は駄目だって。お酒は弱いんだからー」 「……」 いや、ノムが言葉を失うのはよくわかるよ。 私もこうまで大歓迎されるとは思わなかったから。 今の私の姿は髪の色は人の頃と同じで暗い赤色。 手の甲殻や背中に広がっている薄い羽も基本的にその髪の色を基調とした色合いをしている。 背は縮んだけど、胸の大きさは変わらないどころがほんの少し大きくなった辺りにベルゼブブの悪意を感じて、その分苛めてやった。 普通、全部纏めて小さくなるんじゃなかったの? それでベルゼブブへのお仕置きが済んだ後、いつの間にかノムが魔精霊になっていて(なぜかノムまで参加してた。というか私は気づかない内にノムまで纏めて苛めていた)文字通り村へ「飛んで」帰ってきたというわけ。 ちなみにノムの精霊としての姿は土色の体に「大きな胸」の女性。 さすがに素っ裸は駄目だろうと言う事で、今は白い布をローブ代わりに着せている。 「ああ、言っとくけどノムに出来るのは「土に栄養を与える」とかそう言う事だから、耕したり苗を育てたりはしないと駄目だよ」 「わかってらぁ! 精霊様の恵みに溺れてたんじゃ、ご先祖さまに顔向けできねぇ!」 「んだんだ」 「それよか、ノム様、お酒をどうぞ!」 「え、あ、はい。いただき、ます」 「ノム。お酒は酔うんだからね。飲みすぎちゃ駄目だよ」 「わかってます。酔ったマスターの醜態は何度も見ています」 「さ、ぐぐっと」 「はい。ん、んく、んく」 「あー! 一気に飲んじゃって!」 「いいじゃねえか。ノム様だって飲んで食べれるようになったんだから、お酒の良さをしってもらわねぇと」 「馬鹿! 肉体を持ったばかりの精霊は見た目は成人していても、食べ物に関しては赤ん坊並なんだよ! よりにもよってお酒の一気飲みを勧めるなんて」 「……おいしい。もっと、欲しいです」 「そうかいそうかい! では、もっと!」 「駄目だって。あー、もう。仕方ないなぁ」 本当はもっと真剣に止めるべきなんだと思うけど、嬉しそうに料理を食べたりお酒を飲んでいるノムを見ると、本人がいいならいいやと思ってしまう。 「後始末が大変そうだなー」 お酒の入ったグラスの中身を一気飲みしてから、窓の外を見る。 窓の外に映る景色、正確にはゴーレムたちの視界を傍受して見た景色が揺らいでいる。 この大地に恵みを与えている土の精霊が酔っ払ったので、その余波が周辺の地面に影響を与えている。 「お酒も、食べ物も美味しいです」 初めて見る、イメージじゃないノムの上機嫌な顔を見て、翌朝の後始末をする決意を固めてから、私は自分のグラスにお酒を注いだ。 宴会はもう主役を放っておいて盛り上がりに盛り上がっている。 それもそうだろうと思う。 いま、この集会所には村の皆が揃っている。 その中に若者、私と同年代かそれより年下の子はいない。 みんなおじさんかおばさんか、おじいさんかおばあさん。 この村の地力は弱くて作物はあまり育たない。 だから食べ物が少なくて、年に何人かは飢え死にする人が出てしまう。 冬の間は雪が沢山積もっていく。 食べ物が少ないと寒さに対抗する体力が身につかず、何人かは病に倒れてしまう。 この村は冬から春になる時期に雪が解けて雪崩が発生する。 山から駆け下りる雪崩に山側の家が飲まれてしまい、何人かが生き埋めになってしまう。 雪崩の後の雪解け水が畑を沼の様に変えてしまい、春はその水抜きに時間を取られて作物を植える事もままならない上に、水に土の養分が溶けてしまって地力が減る。 畑の地力が減ると作物は育ちにくくなり、自然と村の人たちの食事の量が減って体力が落ちてしまう。 体力が落ちた村の人たちに雪崩対策をする余裕なんてあるはずもなく、一生懸命に畑を耕して作物を植える。 実った作物を収穫して村の人たちは家に閉じこもり、次の春こそは良い年になるようにと祈るけど、冬になると去年と同じ結果になってしまう。 その繰り返しで、この村は少しずつ小さくなって、人が減っていった。 村の若い人たちはこの村を何とかするんだと町へ出稼ぎに行っているけど、もう何年も便りが来ない。 何年か前に村に居た最後の子供が死んでしまい、村は絶望に包まれていた。 私がこの村に訪れたのは偶然で、村の人たちが困っている事を知り二つ返事で村の精霊使いになった。 精霊使いは人や物に影響を与えるんじゃなくて、自然に影響を与える魔法使い。 だから精霊使いは地域や村、町に根を下ろして生活しながら自然に働きかけ、一生かけて自然を良いものにする事を生業にしている。 誰かを殺すためでもなく、誰かと戦う為でもなく、ただ自然と生き物が健やかに育つ手助けをするのが私たち精霊使い。 お陰で教会と主神信者の人たちとは意見が合わなくって、よく喧嘩をしている。 「でも、お金をくれるからねー」 山葡萄の塩漬けを抓んで口に入れる。 今年は豊作だったし、雪崩対策も既にとっているので、村の人たちはこんなご馳走も笑顔でたくさん食べている。 けど冬の食糧を買ったお金は、魔物討伐の手伝いで私が教会から貰ったお金。 誰かを生かすために誰かを殺すその矛盾が詰まったお金を早く手放したかった、という村の人たちにとても失礼な理由で、今まで触れもしなかったお金を全部使った。 教会の人たちはたくさんお金を持っている。 そのお金を使ってたくさん魔物を殺している。 作物の邪魔になる虫を殺すように、人が生活する邪魔をする魔物を殺している。 でも私は魔物に会って、魔物を見て、疑問を抱いていた。 「どうして魔物を殺さないといけないのかな」 魔物と会話した事が全然なかった私は、遠くから魔法で攻撃したり砦の壁や城壁を作ったりしていた私は、魔物の事を全然知らなかった。 ただ、ノムは魔物たちに悪い感情を抱いていなかった事がずっと気になっていた。 古い古い時代の魔物と違って、今の魔物は人にも自然にも優しいと言っていた。 実際に魔物と話をして、魔物になってわかることがある。 今の魔物は人と変わらない。 「むしろ人の方が怖いのかもしれないね」 最後には涙を流しながら喘いでいたベルゼブブを思い出して苦笑いをする。 「ふー」 お酒の熱を逃がす様に息を吐いて、背中の羽を動かす。 今の私は上下ともにインナー姿になっている。 魔物としては平均的か少し大人しい服装だけど、自分の部屋以外の場所で、お腹や太腿、肩さえ露出させているラフな格好で過ごすのはこれが初めて。 暑さに負けて服を脱いだ私は、白と若葉色のインナー姿で寛いでいる。 「こんなに寛げるのもこれのお陰だけどね」 私の両脇に小さな壷を置いている。 この壷は魔物の魔力を吸い取り集める効果がある。 教会の人たちが作ったのか、というとそうではなくて。 実はこれを作ったのは魔女なんだ。 何でも「日々の研究に勤しんで、週末に思いっきりおにいちゃんと乱れる」ために作ったんだとか。 なぜ私がそんな物を持っているのかというと、サバトに誘われたことがあって、その縁で今でもその魔女たちと交流があるんだ。 まさか自分の魔力を吸い込むために使う事になるとは思いもよらなかったけど。 ついでに普段の魔力はノムの首飾りの代わりに、壷と同じ効力のある首飾りを身につけている。 幾ら私が魔物になったり魔物を敵視していないからって、村の人たちを魔物にするのはどうにも気が引ける。 「それも旦那様が見つかるまでの間、かな」 村に若い男性がいないことがよかったんだと思う。 私の魔物としての本能はおじさんたち相手には強く動かない。 魔物としてお腹が空いた時にどうするのかは既に決めているし、ノムの精供給も同じ。 問題は、村の人たちがまだ体力が足りていないから春までお互い待とうって、ノムと約束した。 「春までの間なら、普通に食事をしているだけで魔力の補充は可能だからねー」 心に余裕を持つとどうしてものんびり構えてしまう。 欠伸をして固い指先で触角を整えると、少しだけ休むために床に横たわる。 帰り道は楽だったけど旅に疲れがまだ残っていたのか、それともベルゼブブを苛めるために魔力も体力もありったけ使い果たしたのか、理由はわからないけど。 私は息を吸って吐いた後、すぅと眠りに落ちた。 「冷えてくるねー」 「大丈夫ですか、マスター」 「ん、何が?」 「マスターはベルゼブブ。昆虫ですよね」 「あのねぇ。幾ら虫が寒さに弱いからって、魔物が寒さで死ぬわけないでしょ。いや、吹雪の中に放り込まれたら仮死位にはなるかも知れないけど、しっかり防寒装備に身を包んでれば大丈夫だって」 私は毛皮のコートとブーツで寒さ対策をして、積もった雪を踏みしめる。 「積もりに積もったね。話には聞いていたけどこれはすごい」 「本当ですね」 相変わらず節約モードのノムが私の肩に座って頷く。 ちなみに節約モードでも素っ裸を隠す白いローブは着ている。 「ん。これなら雪崩が起きても大丈夫だね」 私が寒い中をわざわざ歩いてやってきた先に、大きな白い壁が出来ている。 これは秋の間に作っておいた雪崩用の土壁で、毎年雪崩が起きて危ないと言う事で作っておいたんだけど、心配なので様子を見にやってきたんだ。 「冬を越えたら春。雪解け水でぬかるんだ土の余分な水分を出すのは骨だけど、頑張ろうか」 「はい」 ノムが私に返事をすると、肩から降りて通常モードの姿に戻り、さくりと雪に足を下ろす。 「ひゃっ」 直後、可愛らしい悲鳴を上げてノムが飛び跳ねる。 「何ですか、これは。うぅ」 ノムはごつごつと大きな岩の手で私にしがみつきながら雪に触れないように抱きついてくる。 「あはは。そういえば、雪が冷たいって言ってなかったっけ?」 「冷たい水は知っていましたけど、雪も冷たいんですね」 「精霊は風邪を引かないけど、触感は人と同じなんだから。小さくなっている時は純精霊に近いから寒さも関係なかっただろうケド、今の姿じゃあ、ね」 「はい。凄く寒いです」 ガタガタ震えながら私に抱きついてくるノムの背中を撫でる。 「というかさ。私が毛皮を着込んでいるように泥か岩を着込んだらどうなの? 手は寒くないんでしょ」 「そういえばそうですね。では」 足や体に泥のコートを纏ったノムが恐る恐る雪に足を下ろす。 「大丈夫そうですね」 ノムが何度も雪を踏みしめて確かめる。 「うん。安心だね」 「それにしても雪は歩きづらいです。特に埋まってしまって」 「ノムは重いからね。胸とか、手とか、岩とか、胸とか」 「胸を強調しすぎですよ、マスター」 呆れているノムを尻目に、私は雪に手を入れて雪玉を作る。 「落ちてくる雪を触るとすぐ溶けてしまうのですね」 「そうだねー」 十分な固さと大きさになった雪球に満足して頷いてから、物珍しそうに雪を掌の乗せて目を輝かせているノムへと振りかぶる。 「ノムー」 「はい、なんで」 振り向きながら返事するノムの言葉は、私が投げつけた雪球で中断された。 雪の欠片を顔に貼り付けて呆然としているノムを見て、私は思わず笑ってしまった。 「あははは。凄い顔だよ、ノム」 「……」 無言でノムが大きな石の手を積もる雪に差し込む。 雪球を作るのかなと見ていた私に、ノムは水掛遊びの要領で大量の雪をかけてきた。 ノムの大きな石手でかけられた雪は雪崩のような勢いで私に襲い掛かり、私は吹っ飛ばされて雪に倒れこんでしまう。 「……なるほど。水遊びの様な物ですね」 契約者(マスター)を吹っ飛ばしておいて、ノムは悪びれる風もなく納得して頷いている。 「この、やったな!」 私は毛皮の手袋を外して雪に手を突き入れ、雪の層の下にある地面に魔力で文字を描く。 「『汝は我。汝は我が砲塔。雪の砲弾を込めて、砕けるばかりに撃ちなさい。私の思うが侭に!』」 地面に込められた文字が力を持ち、雪を突き破って大きな筒が天高く塔の様に生える。 その筒がゆっくりと傾いて先端の空洞をノムに向ける。 「な、マスター、まさか」 「おかえしだよ!」 私は甲殻の指先をノムに向ける。 「舐めないで下さい」 砲口が自分の顔ほどもある大砲を向けられてもノムは動じない。 ノムは雪球が放たれる前に腕を地面へ突き刺した。 「吹っ飛びなさい」 「防ぎなさい」 風魔法を使ったような音を立てて雪球が放たれ、筒の周囲が雪煙に包まれる。 直後、ノムを庇うように雪の下から大きな土壁が現れる。 風魔法が炸裂したような音を立てて、そこら一帯が雪煙に包まれる。 「困ったねー。水魔法をかじってれば、雪球をたくさん作れたんだけどね」 私は手を動かし、「集合」をかける。 雪に手を入れて雪球を作る。 砲塔を突付いて雪球の装填を行う。 作った雪球でお手玉をしながら、雪煙が晴れるのを待つ。 「余裕ですね」 「まーね。この手の遊びは、男友達とよくやったからね」 雪煙が晴れると、私の背後に石ゴーレムが並んでいる。 「遊びでゴーレムを使うのですか」 「ノムだって使っているじゃない」 ノムの周囲にあった雪煙が消えると、ノムの背後に泥ゴーレムが並んでいる。 「ルールはわかったよね」 「私はマスターと一緒だったのですよ。ルールくらい、知っています」 「じゃあ、始めようか。雪合戦」 私は開戦の合図とばかりに、2度目の砲撃を放った。 「ひーふーみー。ん、こんなもんじゃな」 「はいよ。じゃ、これが今週の分だよ」 吸魔の首飾りを毛皮のふさふさとした手に乗せる。 テーブルの上には私の魔力をたっぷり吸った小壷が並んでいる。 小壷の隣には節約モードのノムが座っている。 「ところで。今日は寄らんのか?」 私の前に立っている小さな女の子が、幼い外見に似合わない古めかしい言葉遣いを使いながら、色気のある上目遣いで私に寄ってくる。 ふさふさの手袋みたいな手と頭に生えた巻き角を見ると妙に和んでしまうけど、うっかり誘いに乗ると大変。 気づいたらサバト入りしかねない。 彼女は私の数少ない魔物の知り合いのバフォメットで、ことあるごとに私のサバト入りを誘ってきた悪友だ。 名前はフィー。 本当の名前は長ったらしいんだけど覚えづらいので、フィーと呼ぶ事にしてる。 親魔派でも反魔派でもない、中立派の町にお店を開いて魔法のアイテムを売りながらこっそりサバトを開いている子なんだけど。 隣が教会なのにサバト開くっていうのは、鋼鉄の心臓でも持っているのかなと思うんだ。 「いや、サバトに入って欲しいというのはもちろんあるんじゃよ? しかしのぉ」 「精の話でしょ」 「うむ」 「問題ないよ。何のためにここにゴーレムを置いていると思ってるの?」 私はまだ恋人がいないので、精をもらう相手がいない。 だから私はゴーレムをサバトにお邪魔させてもらって、その子から精を貰っているのだ。 けれどフィーはモコモコの手を組み合わせて何かを言いづらそうに視線を反らす。 私はその姿を見て、またかと思った。 「それが、その、な」 「どうかしたの。まさか逃げ出したとか?」 「その、まさかなんじゃよ」 「はぁ。『また』なの?」 「こればっかりは仕方なかろう」 「そうなんだよねー」 実は秋頃からゴーレムを置いていたんだけど、今までに2度逃げ出している。 いや、逃げ出したというか、正確には違うんだけど。 「魔物の魔力で作ったゴーレムは魔物っぽくなるのは理解していたつもりなんだけどねー」 「こればっかりはどうにもならんのじゃよ」 「あの幸せそうな顔を見せられたらどうしようもないわよ」 簡単に言うと、「私、お嫁さんになります」なんだ。 魔物に分類されるゴーレムはやっぱり魔物らしく男性と引っ付いて恋人になるのが夢なんだ。 だから精をとるついでに気に入った男性を探していて、意中の男性を見つけるとそのままその人の所に居ついちゃうんだ。 一応、「元」主人である私には精は送ってくれるんだけどね。 けど、けどねぇ。 「どうして、私が、恋人を、見つけるより早く、私のゴーレムが、恋人を、見つけて、いるの、かなー?」 「こ、こら! ワシを揺らすんじゃない!」 「どうするよ、私。恋人とキスをするより早く娘の門出を祝う母親のような気分を味わうってさ、どうよ?」 「やーめーるーんーじゃー」 じっくり頭をシェイクされてぐったりしている山羊娘はさておいて。 「困ったもんだよね、実際」 「良いじゃないですか。このままこの町をリリアさんの人形で埋め尽くしちゃえば。だって、ゴーレムはサキュバスの魔力を動力にしているだけで、魔物の魔力を周囲に放っているわけじゃないんです。それなら魔界化の危険もないでしょ」 このふわふわのキノコみたいに丸い帽子を被っている女の子は、フィーに仕えている魔女の子で、名前はチルル。 フィーの魔女は他にもいるけど、「お兄さん」がいない魔女はチルルだけなのでこの店に一緒に住んでいる。 「私は人形師になりたい訳じゃないんだけど」 「何言ってるんですかリリアさん! リリアさんって本書いたぐらい凄い人でしょ!」 「本ぐらい他の人だって書いてるよ」 魔術学校に通っていた時に先生に言われて人形の本を書いた事があったんだけど、そういえばあれの印税ってどうなってるんだろ。 私は魔術学校の寮を実家代わりに使っていて、多すぎるお金は一度学校に預けているんだけど。 たまに学校の先生に聞いてみると、「家を買ったらどう?」とか言われるくらいだから凄く貯まってるんじゃないかな。 「それが村おこしのために学んだって言うんだから、格好いいんですよね」 「どこが格好いいんだか」 変な事を言う小さな魔女にデコピンをする。 「三人も作ったら精の供給も大丈夫でしょ。だからサバトに入る気はないし、今のままで十分よ」 「本音はどれくらい欲しいんですか?」 「欲しいって言うなら100でも1000でも欲しいんだけどね」 「うわ〜。量を聞くだけで妊娠しちゃいそうです♪」 「たぶん旦那さんを見つけるまでは幾ら食べても足りないんだと思うよ」 顔を赤らめて妄想する魔女を眺めならが頬杖をつく。 さすが暴食の悪魔。 私も気をつけないと、一晩で村の備蓄を食べつくしかねない。 「精液風呂程度の量じゃ食前酒にもならないよ」 「本当ですか!?」 「あー、でもやってみたいかなぁ♪」 ねっとりと糸を引くほど濃い精液を飲み干す光景を思い浮かべてうっとりとする。 「ちょっとそれだけの量を飲み干すのは、さすがに」 「あらそう? それ全部が「お兄さん」の精液だって想像してみたらどうかな」 「……、すごくいいです♪」 「でしょ?」 「取らぬ狸の皮算用、という諺がジパングにありましたね」 「……」 「……ノムー。折角のいい想像が台無しじゃない。それとも、嫌? 精液風呂」 「好きな人と一緒に入れるなら」 「あ、それは確かに」 「そうですね〜」 「マスター、早く恋人を見つけてくださいね」 「わかってるよー」 「私も、私だけのお兄さんが欲しいです」 恋人がいない私たち3名(+1山羊娘)は深いため息をついた。 そろそろ春が訪れるかという頃、私とノムは雪が積もる山肌を見下ろしていた。 「鉱山を作るのですか?」 「うん。ノムの力と私の力を合わせれば簡単だよ」 「でもどうして村おこしに鉱山を作るのですか」 節約モードのノムが私の肩で不思議そうな顔をする。 「鉱山資源を使って私が色々道具を作ればいいじゃない。おじさんたちの作ってる道具って、ボロボロでしょ」 「農具を作れるんですか?」 「さすがにそれは無理だから、フィーのツテでドワーフに作ってもらうよ」 「先立つものは、良質な精ですけど」 「わかってるよ。それに鉱山のこの字もない山に鉱脈を作るんだから、山に物凄く無理をさせちゃうんだしねー」 精霊使いはあくまで、自然と人を元気にする手助けをするのが仕事。 自然を大きく歪めるのはしたくない。 どうしようかと悩んでいると、ノムがため息をついた。 「心配無用ですよ。この山には鉱脈があります」 「ほんと!?」 「山の奥には採掘道もありますし、昔はこの村も採鉱で生活していたのだと思います」 「よかったー。あとはあの辺をああして、ここをこうして」 村の上空を飛びながら村の未来図を頭の中で描いていく。 「あまり自然を無茶苦茶にしないで欲しいです」 「無茶苦茶にはしないよ。でもさ、楽しいじゃない。きっといい村になるよ。ううん、違う」 「きっといい村にしてみせる、ですか」 「そういうことっ」 村の周辺に人が倒れているような「匂い」は漂っていない。 今日も村は安全だとひと安心して、村の中央にある広場の上で滞空する。 春になればたくさん草が生えてくる。 この村を中心にたくさん草が生えてくる。 問題は、加減を間違えると家の床から木が生えてくることで、その辺りの細かい事はノムに任せる。 あの辺を牧草地帯にしてみようか、とか。 あの辺を果樹園にしてみよう、とか。 子供が地面に落書きをするように、私とノムは二人で「村の未来図」について、日が落ちるまでずっと話し続けた。 そして、春。 冬の間に雪解け水を受ける溜池を作って、その溜池から村へ伸びる細い川を作った。 雪が解けるまでの間に村の皆と話した通り、私たちは村づくりに精を出すことにした。 と言っても私がするのは、村から一番近い位置にある魔界へ飛んでいって魔界の獣を狩って食べたり、フィーが集めてくれた虜の果実や虜の果実を使ったデザートを食べたり、比較的元気なおじさんたちから精を貰ったりして、村周辺の地力を底上げするだけ。 何と言っても私がごちゃごちゃ考えるより、大地にありったけの栄養を与えればあとは勝手に自然の恵みが私たちにもたらされるんだから、物凄く簡単。 本当は村の周辺を魔界にすれば、それこそ自由気ままに楽園を築き上げる事が出来るんだけど、村の人たちを魔物にするのはちょっと気が引けるんだよね。 「それでさ。去年は畑を手伝ったけど、今年はもう皆に任せたほうがいいのかなーって」 「あっはっは。気にするこたぁねぇって。雪の心配もなくなった上に綺麗な川まで流れて村の皆は元気がありあまってんだ!」 「おうさ! リリアちゃんさえよけりゃウチの嫁に」 「それは謹んで遠慮するよ」 「がっはっは! つれないねぇ!」 「ほら、奥さんが見てるよ」 「なにぃ!? ……なんだ、いないじゃないか」 「いや、私の後ろ」 「アンタぁ。リリアちゃんに手を出すたぁ、いい度胸してるじゃないかい。えぇ?」 「ちょ、ちょっとタンマ、これから畑仕事が」 「だまらっしゃい!」 「ぐはぁああっ!」 腕が大根の様に太いおばちゃんのパンチを食らって、おじさんが倒れてしまった。 「あらまぁ。けど、気持ちもわからんでは、ないんだよな」 「あんたも一発いっとくかい?」 「あー、いや、さ。俺ら、リリアちゃんに「ご飯」あげてるだろ?」 顔に皺の入ったおじさんが顔を赤くして頭を掻いているところは可愛いけど。 そんなことは関係ないよとおばさんが一喝する。 「だまらっしゃい! あたしの目が黒いウチわね、リリアちゃんにゃ指一本触れさせやしないよ!」 「指どころが息子が、ぐはぁああっ!」 二人目が地面に倒れてしまった。 「まったく。出稼ぎに出て行った馬鹿息子が、どこかからいい男でもつれて帰ってくれやしないかね」 「いや、おばさん。息子さんが友達連れて村に来るのっておかしくない?」 石ゴーレムたちがおじさんたちを担いで畑の方へと運んでいく。 すっかりこの村の日常になってしまった光景から視線を外してから、私は村の現状を確認する。 「やっぱり若い人たちが欲しいんだよねー」 「旦那探しかい?」 「それもある、というかそっちメインにしたいんだけど……じゃなくって。幾らおじさんたちが体力あると言ってもさ、村にとって一番大事なのは、若い人たちがいるかどうかでしょ」 「そりゃまぁそうだけどさ」 「村から出稼ぎに行った人たちがどこに行ったかわかる? ちょっとひとっ飛びして探しに行くよ」 「それがねぇ、やっぱり便りが無くってね。一番近くの町に行ったはずなんだけどさ」 「多分、戦える人は兵士になるか冒険者になってあちこち回ってると思うよ。女の人はちょっとわからないけど、学校とか回ったらわかるかな」 頭の中で周辺の地図を広げながら、若い人たちが働いていそうな場所を挙げていく。 「済まないねぇ。何から何までお世話になっちゃって」 「何言ってるんだか。私、食べてばっかりじゃない」 「女は体が資本だからね。しっかり食べて元気に育ちなよ!」 「うん。胸も、ね」 「気にするこたないって! 胸しか見ない男よりそっちの方がよっぽどいい男にめぐり合えるって」 「おばさん、ありがと」 そして長老の家にお邪魔して、これからの事について話す事にした。 歩きなれたの先には、村で一番大きな家が建っている。 「おじゃましまーす」 「リリアちゃんか。いらっしゃい。元気にしてるかい?」 「元気だよ。長老も元気?」 「もちろんだよ。ささ、おやつを食べてゆっくりしなさい」 「ありがと」 私は出てきた干し芋を齧りながら、長老に若い人を呼び戻す話をした。 「村の若いもんを呼び戻すのはいいんじゃが、どこにおるのやら」 「その辺は私のツテで色々聞いて回るよ。私の友達に顔の広い子がいるからね」 「それに精霊のいる土地であれば、私やマスターが話をする事も出来ます。それに、旦那様探しも出来ます」 「こら。一応、村の人探しがメインでしょ」 「マスター。建前とはいえ、「一応」は問題があると思いますよ」 「う、それは」 つい魔物としての地が出てしまったけど、長老は全然気にしなかったみたい。 「リリアちゃんは、前からそそっかしい所があったからねぇ」 「も〜、ちょ〜ろ〜!」 小さい子供みたいな扱いをされてしまい、私は不満を漏らす。 「若い人を探している間は、おじさんたちに頑張ってもらうしかないけどねー」 魔物になる前に作ったゴーレムたちはまだ魔物化していないから細かい仕事が出来ない。 重いものを運んだり軽い物を運んだり。 石ゴーレムは門番代わりになったのでやっぱり人手が足りないし、今の私が作ったらやっぱり次の「お嫁さん」を作るだけになっちゃう。 「それじゃあ、若返らせればいいんですよっ」 唐突に現れた4人目の声。 開かれた木窓に腰掛けている女の子が、小さく手を振っている。 「チルルじゃない。どうしたの?」 「リリアさんのいる村ってのが気になって、きちゃいました♪」 チルルはちろと舌を出す。 魔女の三角帽子を脱いで、おじゃましまーすと子供らしい声とともに室内に入ってきた。 「村の人を若返らせるって?」 「バフォメットぐらいの高い魔力と技術が無いと使えないんだけどね。ほら、ウチの謳い文句にもあるでしょ」 「ああ、あれね。『どんな女性でも幼くかわいい魔女になれます♪』だったっけ」 一時期は表の看板にそれを掲げていた事もあったんだとか。 突っ込みどころが多すぎる。 隣が教会なのに何でそんな無茶をやろうと思うんだよ。 「その魔術を男性にもかけることが出来るんだよ」 「へぇ。魔物魔力が聞きづらいから難しいんじゃないの?」 「そこはそれ。バフォメットの技術革新で」 「どれだけ『おにいちゃん』に飢えているのよ」 女性に対してかける魔術を男性にかけるのは難しい。 特に魔物の魔術は男性用と女性用で全く違う。 目を血走らせて魔術を研究するバフォメットたちを想像してしまい、思わず苦笑い。 「じゃあ、フィーもその魔術が使えるの?」 「はい。つい先日の事なんですけどね」 「ふーん。あ、じゃあさ。フィーをこっちに呼んでくれない? ちょっとやりたいことがあってさ」 チルルが箒に乗って飛び去るのを見送ってから、長老に両手を合わせる。 東方にあるジパングという国の、謝罪の方法なんだけど、妙に私にはしっくりと来る。 「ごめん! ちょっと、色々と〜」 「何も言わんでいい。リリアちゃんのやりたいようにすればいい」 「でも、でもさ。あまり魔物が関わったり、それに、魔界化とかが進むとさ」 「難しい事はよくわからん。でも、リリアちゃんがするなら、それはきっといいことだ。存分にやりなさい」 ちょっとは疑って欲しいと思うほどの、手放しの信頼。 教会にいた時には絶対に見れなかった顔。 私は嬉しくなって、長老に抱きついてしまった。 「随分と大掛かりな改造をするんじゃな」 私の話を聞いたフィーが呆れている。 そりゃそうだよ。 なんせ私の考えを実行に移すと、村がまるごと変わっちゃうんだから。 「魔界産の植物を育てる事が出来たら、フィーだって楽でしょ?」 「楽というかの。ワシの事を『鉄の心臓』とぬかすがのぉ」 「なに?」 「ヌシは『鋼の心臓』じゃよ。最寄の町に大聖堂持ちの教会があるというのに、魔界を作るじゃと?」 私の作戦を纏めると3つに集約される。 1.フィーたちの魔力を私に集める 2.その魔力をノムに渡す 3.ノムの力で大地を活性化 これで村を魔界化させて、より住民に優しい自然環境を作ろうってことなんだ。 問題点は、魔界になっちゃうこと何だけどね。 「ワシが言うのもなんじゃが。ヌシは村の人を魔物にしたくないとか言ってなかったか?」 「でも魔物になったら問題が全部解決するし」 「……もう好きにせい」 「あはは。長老と同じ事を言うんだね」 その日から、私たちの村改造計画はちゃくちゃくと進んだ。 村から一番近いアーデルハイムまで、馬車で3日は掛かる。 私は村の周辺を徹底的に改造するつもりで居たので、町側も、山側も、全部根こそぎ手を加えている。 特に山には鉱山(予定地)や、洞窟を作ったりと大忙し。 森にも湿地を作ったり、農地に適した場所を作ったりと。 ゴーレムだけじゃ手が足りないからフィー経由で色んな魔物を呼んで手伝ってもらった。 畑や牧草地帯、明るい森に暗い森。 畑は今までどおり何だけど、これからは家の近くにちょっとした畑も造っている。 これは魔界産のじゃがいも、通称「まかいも」を育てるため。 きっと美味しいまかいもが育つんだろうなーと、想像するだけで涎が出てくる。 牧草地帯ではたくさんの羊や牛を飼うようにする。 折角の広い土地なんだから使えるときに使わないと。 高地だから雪の心配もあるけど、そこはノムの力でなんとかする。 具体的には、ノムの影響範囲にある地面はあったかくなる。 お陰で風は涼しくて、地面にねっころがるとあったかい。 一足先に昼寝をしたら、夜まで寝ちゃった。 明るい森には魔界の名物植物をこれでもかと育てる予定。 虜の果実、ねぶりの果実、陶酔の果実に夫婦の果実。 まといの野菜も、畑で栽培するにはちょっとあれな野菜だから、明るい森で育てようかな。 明るい森には川も流れているから、その川でとろけの野菜を栽培できたらいいなぁと思うけど、ノムが言うには「ウィンディーネが所望でしたら、私は暇を……」らしいので難しいみたい。 暗い森には、こちらは魔界特有の名物キノコを育てる予定。 ネバリダケやタケリダケ。 扱いに気をつけるならマタンゴモドキやアンデッドハイイロダケにも挑戦してみようかなーって思う。 マタンゴモドキの大量発生はやだし、アンデッドハイイロダケって、見た目がねぇ。 あと、場所を特定しないなら、明るく綺麗な魔灯花や魔界ハーブもあちこちで育てようと思う。 魔灯花は魔力が少ないから人の町に売ることも出来るし、魔界ハーブに至っては魔術師の間でマンドラゴラの根っこと同じ様にクスリの材料として使ってる。 前に「メルティ・ラブ」のお香を男性からプレゼントされた時はどうしようかと思ったけど。 色んな場所を作っていく中で、そこのお世話をしてもらいながら生活する魔物も色々と呼んだんだ。 気づいた時には住んでいたって人もいるんだけどね。 牧草地域はのんびり過ごすのが好きなワーシープ、ホルスタウルス。 二人はスローペースそのもので、こちらに来るなり日向ぼっこをして過ごしていた。 一応、放牧のための柵を作ってもらったり、普段は羊や牛の面倒を見てもらっているけど。 むしろ羊たちに面倒を見てもらっているんじゃないかと思うほど、いつも寝てる。 ちなみにワーキャットの女の子もやってきて、基本的にこの子が牧草地域の世話をしたり、ネボスケ二人の世話をしてる。 でもこの子も昼寝の場所が欲しくてやってきたみたい。 私もたまに、3人に混ざってお昼寝してる。 ワーキャットの子も一緒に丸くなって寝て、結局ノムが面倒を見るってのがすっかり定着してる。 洞窟にはクィーンに連れられて数名のジャイアントアントが巣作りをしている。 去年は川造りを手伝ってもらっていたので、今度はこちらが協力しようということなんだ。 旦那さんと一緒に来たって言うから、来年にはしっかりとした巣になっているんじゃないかな。 ジャイアントアントは働き者で、いっつも汗だくになるまで働いてる。 掘り出した土はコンモリとした山の様に積み上げられてるけど、これには理由がある。 名づけて、「巨大ゴーレム計画」! 難点は、旦那様になる人のために精のつく食べ物を用意しないと、とてもじゃないけど体力やら何やらが持たないだろうなーってとこ。 これに関しては「変形合体ゴーレム計画」も考えているので、きっと何とかなるに違いない。 ちなみに、友達のワーバットが「早く洞窟を作って〜」と泣いてるけど、子作りに夢中になってるから、私の部屋に逃げ込んだりしてる。 夜になると悪戯っ子になるので何度か「苛めて」あげたら、懐かれちゃったみたい。 どうしてこうなった。 明るい森にはワーウルフの家族が引っ越してきたり、ハニービーの3姉妹が仲のいいホーネットと一緒に引っ越してきたりしてる。 奥さんは元冒険者みたいで、魔界豚なんかの魔界特有の食べ物について知らなかったんだけど、それを教えたらハッスルしちゃって。 ちょっと冒険がてらに近くの魔界に旦那さんと一緒に狩りに行ってるみたい。 私も一緒に行った事あるけど、元冒険者の魔物はみんなすっごく強い。 対抗して連射石弓を16個3セット作って魔界豚を狩ったら、「一人だけ狩りのレベルが違う」って嘆いてた。 ノムが言うには、「戦闘じゃなくて戦争」だってさ。 ハニービーとホーネットはケンカする関係みたいだけど、仲良くなるってのは初めて知った。 ロリロリしぃ3姉妹に蜜塗れにされて弄られているホーネットおねーさん。 会うたびに思う事だけど、なんだかとっても凄い光景。 そろそろ蜜が無くなりそうだと言ってたけど、今度アルラウネが来るらしいから、皆で一緒に蜜取りをするんだろうなぁ。 問題は、このレズっ子たちがたまに私を誘ってくる事なんだけど。 私はそっちのケはないんだよっ。 暗い森にはドリアードが大きな木に住み着いたり、アラクネおねーさんが巣を作っている。 アラクネおねーさんには服を作ってもらおうと思うので、ちょっと気合を入れて男性を呼ばないといけないかもしれない。 気難しいけどきっと優しいに違いないと色々お菓子を届けているんだけど、中々デレてくれない。 ホルスタウルスのミルク持参してドリアードねーさんに愚痴を聞いてもらうのも何だか日課になってきた。 ドリアードねーさんの家はちょっとした異空間になってて、広さが自由に変えれるのですっごく便利。 魔物たちで集会する事があったら是非使わせてもらおう。 なお、気づいたらマンティスおねーさんがマンドラゴラちゃんの世話をしていた。 マンドラちゃんが言うには、春には既に住んでいたみたい。 全然気づかなかった。 マンドラちゃんに水を上げながら話をするけど、マンティスおねーさんは全然口を聞いてくれない。 でも話は聞いてくれるし、無言で頷くところがちょっとかわいい。 山の方ではハーピーや家を作っていた。 恋人募集中って事だったけど、そんなの私だって募集しているよ〜と引っ越し祝いで朝まで飲んでいたら仲良しになっちゃった。 山は上の方では雪が積もったままだし雪崩も起きるので、雪対策で私も引越しの手伝いをしていたけど、ハーピー族は胸が小さいものらしい。 ついついお酒が進んじゃったのはそのせいかも。 今はまだ村のほうには顔を出していないけど、新聞や郵便配達なんかを手伝ってもらえたらいいなーとか思ってる。 他に山に住もうとしている魔物はー、いないみたい。 マンティスさんのこともあるし、気づいたら増えているだろうってことで気にしない気にしない。 「気づいたらたくさん魔物が住んでるんだね」 「積極的に呼び寄せずとも勝手に住み着いている魔物もおる様じゃしの」 ジャイアントアント達やワーシープ・ホルスタウルスは私が呼んだけど、他はいつの間にか住んでいた。 フィーが呼んだ魔物もいるみたいだけど。 「じゃあ後は暗い森に湿地を作ったらそれで終わりだね」 「全く。ここまで派手にやらかすとはの。どうなっても知らんぞ」 「あはは。その時はよろしくね。フィー♪」 こうして私は、村おこしを始めた。 「あ、そうそう。もちろん、ノムもね?」 「私はついでですか」 「そんなワケないじゃない。ほら、笑って。笑いなさい〜」 「ほほをひっはらはひへふははい。ひゃへれまへん」 「あはは。頬を引っ張ったら何言ってるかわかんないよ〜」 んー、違った。 ノムと私の村おこしが、こうして始まった。 |
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「ところで、フィー」
「なんじゃ?」 「旦那さん募集のチラシは?」 「もちろん大量に作ってあるぞ」 「配ってる? 配ってるよね? 当然、配ってるよね?」 「ちょ、ワシの店のとなり、教会、ちょ、ま、ゆ、ゆらすでない〜〜〜!」 「……旦那様。何時になったら来るのでしょう」 ----作者より 今回の話はエロ要素少なめ、新刊の内容 エロは全然ないから全年齢対象でもいいよね?(’_’ それはさておいて。 続きは未定(−− 書き上がるのはまた来年になるかも?(。。 なお、ロリ分が無いとかそういう話は聞きません(−− 13/03/25 21:25 るーじ |