敬虔なる黒き子 |
天におわします神様。
私たちは貴方の敬虔なる子です。 どうかお救い下さいませ。 唱えた祈りは1000を超えました。 教えも村中の人々へ説きました。 ですから、どうか。 私たちをお救いくださいませ。 魔物の姿が変わり、人々が戸惑いを覚えて久しい頃。 のどかな山村に病が流行りました。 神父様は魔物の仕業だと説き祈れば救われるとみなを協会に集めました。 大人も子供も、仕事を全て放り投げて祈りました。 そしてみな病に倒れました。 神父様は徳の高い僧侶を連れてくると言い残し、村を発ちました。 もう1月にもなりますが、手紙一つ届きません。 きっとその僧侶の方は国中の病に苦しむ方へ赴かれて私たちの村へ来る時間がないのでしょう。 昨日、羊飼いのザイクさんが亡くなりました。 幼馴染のレイナさんは死ぬ間際までザイクさんの傍に付き添っていました。 ご自分も病で苦しいというのに、ずっと彼の傍に居ました。 レイナさんは、今朝亡くなりました。 まるでザイクさんの後を追うように静かに息を引き取りました。 神様、どうか私たちをお救いください。 どうか、どうかお救いください。 もう村の人が半分に減りました。 体の弱い子供たちはたくさん死にました。 優しい人も、力持ちの人も、意地悪な人も、みんな死にました。 みんな、みんな死にました。 他の人たちも倒れています。 私も病に罹り、祈りの言葉も上手く言えません。 枯れた息と揺れる意識が私の信仰を乱すようです。 今の私はもう祈る力がありません。 私はもう、あなたに祈る力がありません。 もう何日も教会で祈っていません。 ベッドから立ち上がることもままならず、恐らくは今も村の誰かが死んでいます。 私はきっと貴方の元へは行けないのでしょう。 数多くの救いを求める村の人たちに私は何も出来ませんでした。 神様。 私は何をすればよろしかったのでしょうか。 「ふふ。敬虔な神の子でございますね」 声が聞こえます。 うっすらと目を開ければ視界に入る翼と光る輪。 今は夜なのでしょうか。 それとも私の目は既に光を失ってしまったのでしょうか。 「あなたはとても可愛らしくいらっしゃる。ふふ、それに純粋な白を感じる肌。ああ、楽しみですわぁ」 念願の天使様は黒曜の輪を頂、その羽はカラスの様に黒い。 顔に浮かぶ表情に清廉さは、ありません。 女性の私が見ても胸が騒ぐほどの淫靡な表情をしていらっしゃいます。 「あなたに救いを。あなたはもう神に十分尽くしました。これからは貴方が貴方のために生きるのがよろしいのですよ」 「ん、んん!?」 天使様の唇が私の唇を塞ぎ、私は戸惑ってしまい思わず天使様を拒絶するように手を動かしてしまいます。 けれど病に疲れた体は思うように動かず、私よりも小柄な天使様を押しのける事も出来ずにただ添えるだけに留まり。 「ん、んんっ」 甘い甘い天使様の舌が私の中に入り込んできました。 私の頬に添えられた手が優しく、羞恥も何もかも全てを包むような、いえ、全てを舐めとってしまうような天使様の笑み。 気づけば私は抵抗する事を忘れ、天使様の舌の動きに没頭していました。 激しい心臓の鼓動も、とろりと流し込まれる甘い液体に消えていきます。 「うふふふ。とてもいい顔をしていらっしゃいますよ、シスターアリサ」 どうして私の名を知っていらっしゃるのか。 疑問が浮かび、やがてその疑問も唾液と共に飲み干してしまいました。 「大きな胸。うらやましいですわ」 天使様の小さな手が私の胸に沈み込み、ぎゅうと形を変えてしまうと、触れられた所からじわりと広がる快感に私は震えてしまいます。 「あら、イッてしまわれたのですね。ふふ、ではこうすれば如何でしょうか」 続けざまに強く胸をもまれ、私は押し寄せる強い快楽に翻弄され続けてしまいます。 気づけば直接胸をもまれ、びくりと体が震えて。 気づけばもっとも恥ずかしい場所を舐められ、はしたなく愛液を噴出してしまい。 徐々に、徐々に、私は快楽を受け入れていきました。 「これで貴女は生まれ変わりました。黒き淫らな神に仕え、愛と快楽を説いて回りなさい」 夜が明ける頃には私は私ではありませんでした。 病は強き魔物の魔力により容易く治癒し、体には活力と快楽への欲求が駆け巡り、腰からは黒い羽と尻尾が生えていました。 「ダークプリースト、アリサ。これからはそう名乗ることになるのでしょう」 「ええ。私はこの胸の内にある快楽を説き、この身をもってその素晴らしさを教えて回りましょう」 着肌蹴た寝巻きを形だけ整え、数日振りの床に足を下ろします。 全てが変わりました。 今まで大切だと思っていたものは下らなく、ガラスの様に綺麗なだけで何の意味のないことであると気づきました。 純潔を守る事は大切ではなく、快楽に素直になることこそが素晴らしい。 神の教えを説くことは言葉ではなく、その身をもって示すのであると。 ですが、ですけれど。 「天使様、一つだけ私の我が侭をお聞きいただけないでしょうか」 「何でしょうか、アリサ」 「私は快楽を説いて回ります。私のために、快楽を知らぬ全ての人のために」 けれど。 私は続けます。 「天使様、どうかお願いです」 村の人たちを、お救いください。 「私の力であれば何人かは私と同じダークプリーストにすることが出来るのでしょう。けれど多くの人は救われません。男性と強く交わればその人は助かるでしょう。けれど他の人々は助かりません。身に宿る魔力を使い治癒を行えば多くの人が助かるでしょう。けれど、助からない人もいます。ですから、ですから」 快楽を説く身で、なぜこのようなことを口にするのか。 自らの行いが間違っているのか、不安が不安を呼び私は言葉を止めません。 「神様はみていらっしゃるのでしょうか。この悲しい現実を、そして私たちの無力を。ですから、ですけれど、私は、私は!」 「わかりました、アリサ」 ふわりと私の前に舞い降りた天使様は、優しく私の頬を撫でます。 「ふふ、あなたは本当に純粋な女性なのですね。そして、少しだけ生真面目すぎです」 「天使様?」 「ふふ、堕天してこの身を闇に染めて以来初めてですね。このように救いを求められるのは」 天使様は宙を浮いたまま私の手をとり、外へと導いてゆきます。 「私は万能ではありません。ですが、できる事があります。では、参りましょう」 天使様は快楽に染まる表情に喜悦を浮かべて仰いました。 「さぁ、救いましょう。生の苦しみを性の楽しみへ、死の悲しみを絶頂の喜びへ変える為に」 天におわします神様。 私は罪深き者です。 あなたを裏切り、あなたを捨て、いま私は新たな神様に仕えています。 村の人々はみな人ではなく、時に骨を鳴らし、時に夢うつつの足取りで男性を求める人も居りますが、それでもみな元気で暮らしています。 けれどみなあなたの敬虔な子らです。 どうか、どうか。 地獄の業火に焼かれるのは私一人です。 みなを愛と快楽に引き落とした罪人は私一人です。 ですから、どうか。 村の人たちには、救いをお与えくださいませ。 |
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