一つ目っ娘 |
赤い赤い炎が燃える。
メラメラメラメラ燃え上がる。 小さな小さな高炉の中で。 メラメラメラメラ燃え上がる。 笑うように踊るように。 火の粉が火の子が舞い踊る。 触ると熱い子供たち。 元気で腕白な子供たち。 取り出だしたるは鉄の棒。 硬くて冷たい鉄の棒。 それを炉の中に入れて待つ。 ジリジリジリジリ入れて待つ。 鈍色の鉄が熱くなる。 ジリジリジリジリ熱くなる。 熱くなると赤くなる。 私みたいに赤くなる。 熱くなったら金床へ。 熱い鉄は柔らかい。 思いを込めよう金槌に。 トンテンカンテン金槌に。 叩くと響く鉄の声。 トンテンカンテン鉄の声。 思いを込めると変わってく。 ちょっとずつちょっとずつ変わってく。 冷えてくると硬くなる。 色もすっかり鉄の色。 冷えたらもう一度あっためよう。 高炉に入れてまた待とう。 熱くなったらまた叩こう。 思いを込めてトンテンカン。 ちょっとずつちょっとずつ変わってく。 早く生まれろ工房の子。 「ぐぉっらぁあああああああ!!」 「きゃんっ!!」 ものすごく硬い物で頭を叩かれた。 涙が出るほど痛いので頭を摩る。 こんな酷いことをするのは一人しかいない。 後ろを振り向くと金槌で自分の肩をトントン叩いている男の子が居た。 「ザイル、痛いよー」 「馬鹿は叩かなきゃなおらねぇから、直そうとしてるんだよ!」 「ひどい、『治す』じゃなくって『直す』なんだー」 「細かい事は良いんだよ!」 あんまりにひどいことを言うので頬を膨らませて怒った。 でもザイルは全然反省してくれない。 反省する代わりに、また金槌で頭を叩いてきた。 「うぅー。私は鉄じゃないよ」 「鉄で十分だ、この単眼馬鹿!」 「あー、また馬鹿って言ったー」 「馬鹿は馬鹿で十分だ!」 また馬鹿って言った。 男の子って本当に口の悪い。 でも、この子は口は悪いけどそんなに悪い子じゃない。 そっぽ向いたまま私に背を向けるようにしてしゃがんできた。 「ほら、肩貸してやる。さっさと掴まれよ」 「ん、ありがと」 きっと顔が赤くなってるんだろうなー。 そう思うとちょっと可愛くて、にこにこしながらザイルの肩に手を置いた。 私はサイクロプス。 単眼短角の青い色した魔物。 昔々は物凄く体が大きかったけど、「魔王」さんが代替わりをしてからは小さくなってしまった。 ついでに性格が(性別も?)変わっちゃったけど、私はあんまり気にしてない。 今も昔も変わらないから。 サイクロプスは孤独な魔物。 姿が変わっても、何にも変わらない。 いつもと同じで山に篭ってぼーっと過ごすだけ。 それがこの元気で口の悪い男の子が来てからは随分と変わった。 「おい、粥が出来たぞ、わっちちち!」 凄く賑やかになった。 そして凄く顔が熱くなった。 見ると何か顔にどろどろとした白い物がこびり付いている。 「うわっ、ちょ、大丈夫か!?」 「顔が熱いよー」 「おま、ちょっとは避けるとかしろよな! そんだけ目がでかいんならよ!」 「昔は体もおっきかったー」 「んなこたしらねぇよ! ああもう、タオル持ってくるからそこ動くなよ!」 どたばたと走る音が遠ざかっていく。 あれ、でもタオルなんてあったっけ? 「白くておいしー」 「くぉおおらあああ! なに妙な事口走ってんだ!」 ざぱぁと冷たくなった。 水? 「びしょぬれー」 「これでやけどは大丈夫だな! おし、タオル持ってくる!」 またバタバタ走る音が遠ざかっていく。 だから、タオルあったかなって。 「それよりもこれじゃ風邪を引く」 「それだけはありえねぇから問題ねぇ!」 「あれー。今馬鹿にされたー?」 「馬鹿は元からだろう!」 走りながらも大きな声。 男の子は本当に元気いっぱい。 「じゃあな、今度はちゃんとベッドでじっとしていろよ!」 「大きな声で言わなくても聞こえてるよ」 「だったらいい加減、勝手にベッドから降りたりするなよ! わかったな!」 喉が枯れないかなって思うくらい大きな声を出すと、熊みたいにのっしのしと山を降りていく。 その姿も次第小さくなって、見えなくなる。 「悪い子じゃないんだけどね」 ふぅと息をつく。 「どうして苛めるんだろう、男の子って」 ベッドに転がってシーツの上で丸くなる。 起き上がったらまた頭を叩かれるので仕方なくじっとする。 「優しいかと思ったら意地悪。不思議」 ジクジクと痛む足を摩る。 ザイルと出会った時の事を思い出す。 私はいつもと同じ様に山の鉱石を探して歩いていた。 土の匂いが濃い場所を掘って、鉱石を取り出す。 この山は元々山の気質が強いから鉱石が取れやすい。 加えて私たちサイクロプスが住む山と言うのは鉱石が取れやすい。 だから私は一度山に住み着けば鉱石に困った事がない。 「今日も大量大漁」 背中の篭一杯に詰め込んだ鉱石がずっしり重い。 体が小さくなっても基本的に力は変わらないみたい。 どっちかといえば昔より器用になったくらい。 他にも色々変わったかもしれないけど、あまり良く覚えていない。 今は武器作りが楽しいから。 昔よりも楽しいから。 「ん? なんだろうあれ」 山を降りて昇ってを繰り返していると、小さな小さな子供が居た。 子供と言うか少年? と言うか人間? 「んー、人間かー」 私は目がいい。 だから基本的に人間に見つかる前に見つける。 見つけたらどうするのか? 「逃げよう」 私は少年から見つからない道を歩く事にした。 魔物がどうして人間から逃げるかって言われても、怖いからとしか言いようがない。 目が二つで、とっても好戦的で、私の苦手な神様と仲がいいから。 前なんて「目が一つの化け物め」だなんて言われた。 私、化け物じゃないのに。 それになんで「目が一つ」って事がそんなに悪いのかわからない。 見るだけなら一つで良いのに二つも目があるほうがおかしいのに。 言っても全然わかってくれないし、話も聞いてくれない。 だから人間は怖い。 人間の子供も駄目。 一緒に居たら大人がいっぱいやってくる。 何もしなくても武器を持っていっぱいやってくる。 どうしてなんだろう。 一つ目が何か悪いのかな。 「それにしても。あの子、危ない所を歩く」 一つ目なら落ちそうな岩だって直ぐわかる。 でもあの子は気づいていないみたい。 「危ない。でも近付いても危ない」 凄く困った。 放っておくと危ない。 でも近付くと私が危ない、主に人間が怖い。 「どうしよう」 迷っているうちにあの子が危ない所に近付いていく。 あんな場所で大声なんて出したら、岩が落ちてくる。 「子供は何をするかわからない」 やっぱり放っておけないから注意する事にした。 でも注意するのが遅くて、私が声を書ける前に岩が落ちてきた。 「あぶないっ!!」 頑張れば岩を受け止めたり出来たかもしれない。 鉱石が詰まった背中の篭を思いっきりぶつけたらよかったかもしれない。 けど焦っていた私は何も考えないで、少年を突き飛ばした。 地面に倒れた私は驚いた少年の顔を見てほっとして、そして岩の下敷きになった。 魔物も人間も痛い時は痛い。 あの時は久しぶりに痛くてたまらなくって、沢山泣いた。 それから後の事はあまり覚えていないけど、たぶん自分で岩をどけて帰ったんだと思う。 子供にはあの岩は動かせないから。 「でもおかしいんだよね」 だって、私はあの岩が原因で今もこうして動けなくなっているから。 うつぶせに倒れた私の足の上に落ちてきた岩が、私の足を折った。 いくら元巨人で魔物でも、大きな岩が足に落ちてきたらひとたまりもない。 ぽっきり足が折れてしまった。 今は添え木をしているので私は足だけ太くなっている。 元々短パンだったからあまり問題はないけど、ちょっと不恰好。 それに、鉄が打てない。 「はー。私に治す系の力が使えたらなぁー」 ない物ねだりをしてもだめ。 金物を直すみたいに体は治らない。 ちゃんと治るまでじっとしていないといけない。 部屋の隅に置いてある篭に入った鉱物が恨めしそうに見ている。 「私が悪いんじゃなくて、落ちてきた岩が悪いんだよ」 文句を言っても仕方がない。 することが無いからもう寝よう。 「早く明日になーぁれ」 私は子供みたいなおまじないを唱えて目を閉じた。 |
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「アンタ、また山に行ってたのかい」
「悪いかよ。じゃ、もう寝るから、おやすみー」 「やれやれ。山の神様に粗相でもしたら承知しないよ! まったく、もう」 「かーちゃんもうるさいな。あー、もう。早く明日にならないかなー」 ----作者より ネタが尽きてきたら短編読み切り。 何となくだけど(’’ 無愛想キャラと言うか天然っぽいサイクロプスは実はお気に入り(。。 10/05/08 12:12 るーじ |