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首都リィーヴァー |
【主な種族:ドラゴン】
【中央通り】 「観光の締めは、やっぱりここですよね! 首都リィーヴァ―!」 ぱちぱちぱち。 「空からでも見えていましたけど。あの城、物凄く大きいですね。地上からでも見えますよ」 「元々はあの城から国が始まったんです!あの城とその周辺だけが国だったんですよ!」 「あれは山を削ったんでしょうか」 「いえ。あれは巨大な岩を運んで作ったらしいですよ?」 「え、岩を?」 さすがに一度には運べなかった。 「あっははは。あんなに大きい物を一度ではさすがに無理でしょう」 3回に分けて運んだ。 「え?」 「冗談の様ですけど、本当なんですよ。覚えていますか?空から見ると巨大な塔が3つ並んでいるように見えたでしょう!」 「ええ。変わった形の城だなぁとは思っていましたけど」 近くにあった手ごろな小島を3つ運んできて、巣にしたのが切っ掛け。 「え? 岩じゃなくて、島? え?」 岩だったし、島だった。 「細かい事は考えない方が良いですよ〜」 「あ、はい」 「実は最初からあの形だったわけじゃないんです!」 「そうなんですか?」 「ええ。きっかけと言うか、なんというか。多くの魔物が集まる様になり、当時の幹部たちの中でもあまりに大雑把すぎだという意見が出まして。特にこだわりのない王様を説得して、大工など職人を集めて大工事を実施して、そうしてやっと城らしくなったそうですよ!」 必要な材料は後から運んだけど、それはそれとする。 「あははは。本当にこの国は凄いんですねぇ」 「首都リィーヴァーは、平たく言うと全部が一流です!食事も服飾も何もかもが国内一番を争う名店ばかり!」 「やはり国の中心、という事ですね」 「と言っても、ドラゴン達が喜ぶのは食事とお酒と貴金属(きらきらするなにか)ですから!」 「そういう店が多い、と」 「はい、そうなんです!」 中央通りは別名「竜殺し」。 「凄い名前ですね」 食べ過ぎて倒れるとか、お酒で酔いつぶれるとか、良くある。 「あ〜、そういう意味での「竜殺し」なんですね」 「はい! 特にお城の中庭に果樹園があるんですけど! そこの果物を使ったお酒は最高級品! もう、国内でも限られたヒトしか飲めないんです!」 飲みすぎ注意。 「酔いつぶれちゃうんですか」 「それもありますけど、それだけじゃないんです!」 ドラゴンになる。 「え?」 「専門家の話では、ドラゴン系の魔力が高過ぎてドラゴン属になっちゃうんです!」 魔界の果実を食べてサキュバスになるような物、らしい。 「詳しい事は、国家機密なので言えないです!」 秘密ひみつ。 「それにしても、皆さんお酒を飲んでいますね」 あ、そうだ。 あれって持っているんだったっけ? 「あれって何ですか? あー、えーっと。あ、あ〜〜〜〜!」 「え、何ですか?」 「これ、これを持っててください!」 「あ、はい。これは、首飾りですか。身に着けたらよいでしょうか」 「はい、ぜひ! 今すぐ!」 「これでいいですか?」 「はい! いやー、すみません! 首都観光に気を取られて、大事なことを忘れてました!」 「これは首都を歩くための通行証なのですか?」 「ある意味でそうと言えますけど、ちょっと違います! 首都の魔力は濃密なのです! 特にお酒を飲んでいる魔物が振り撒く魔力が絡み合うと、良くてお酒酔い、悪ければ振り撒かれた魔力が反応してインキュバスになっちゃうんです! 女性なら魔物化です!」 「魔界で共通の注意事項。魔物化濃度ですね」 「ご自身でも備えが有るのでしょうけれど、やはり案内をする側が提供すべき物でしたのに! 忘れててごめんなさい〜!」 「いえいえ。こうして侵蝕除けのアミュレットを渡してくれる魔界は珍しいですよ」 「魔物夫妻以外で男性が来られることが滅多にないので、うっかりしてましたよー!」 「この首都リィーヴァーは、首都闘技場と中央通り以外は特徴らしい特徴はないんです!」 「そうなのですか?」 「いやまぁ、この国一番の店が並んでいるって、首都ならどの国でも同じでしょう? 決して見どころが無いとは言わないですけど、決め手に欠けるって言うか〜」 じゃあ、お城観光をすればいい。 「あー、その手が〜、って、ええええええ!?」 「え!? お城を観光って、良いのですか!?」 駄目だったら帰ろう。 「いや普通に門前払いじゃないですか!」 「あー、でも、あ〜。ダメで元々ってことで、行っちゃいますか?」 「え?」 【王城】 「まさかの素通りとは思いませんでした。門番の方の何とも言えない顔が印象的でしたね」 「あはははー」 すっかり元気がなくなった案内役ワイバーンなのだった。 「もう疲れましたよぉ。案内役は盗られちゃいますしー、振り回されましたし〜!」 でも私の奢りで一杯食べたり飲んだりしてた。 「そ、それは〜」 それは? 「何でもありません〜〜」 よし。 「ところで。そろそろ貴女が何者なのか、教えてもらう事は出来るのでしょうか?」 んー。 もう少ししたら分かる。 「まぁ、分かるというか、分からされるというか、ですね〜」 「城で出会う魔物の方々がみんな二度見していますからね。珍しいのですよね、こうして人間の男性が城の中を歩いているという光景って」 「今は侵蝕濃度に達しないようにうまく調整して「くれて」いますけど。普通なら他の魔界と同じで、とっくの昔にインキュバスコースですよ」 「未だに実感が沸かないですね。人間の国の城内を歩く事さえないのに、魔界の城内を歩けるとは思いもしませんでした」 「私も城内を案内するとは思いもしませんでしたよ〜」 そういう事もある。 「あっちゃ駄目じゃないですかぁ!」 諦めも肝心。 ◆◆◆◆ とーちゃく。 「えっと、ここは」 「みてのとーりです。ここは謁見の間。つまり、王様と会うための場所ですよ」 「今は不在なのでしょうか。勝手に入ってきても良いのですか?」 「いえ、勿論駄目ですよ」 「ええ!? というか、どんどん玉座まで引っ張られているんですけど!」 「きにしちゃだめですよ〜」 「気にしますよ! さすがに、これは! えっと、あの!?」 よいしょ。 という事で、ようこそ竜の国へ。 「え? あー、あの。この方は、その」 私がこの国の王様。 だから問題なし。 「いえ、問題が山ほどあると思うんですけどー?」 気にしない。 「あ、あはははは。な、なるほど。私は、最初からこの国の王に、拝謁していたのですね」 私が居たから見れた場所もあったから、観光には最適。 「ふつーは王様が観光案内役をしませんよー」 「あの、王様相手にその態度は、その、大丈夫なのですか?」 問題なし。 「え、ええぇぇ」 「この方への敬意はありますけど、それはそれです。それに、この方は何だかんだと親しみやすいんですよね」 庶民派国王。 えっへん。 「あはははー。もう、この国に来て一番の驚きに、もう笑うしかないですよ、これ」 それも含めて、この国の特徴。 他の国には無い特徴を覚えたら、本を書く時にも便利でしょ? 「ええ、この上なく。他の国では真似が出来ない事も含めて。ですけれど、良いのですか?」 問題ない。 バフォメットや他の幹部も私の行動は知ってる。 それでも止めに来ないって事は、問題ないって事。 「この方、考えなしに動いているところも多いですけど、これで王様上手くやっているんですよ」 伊達に王様押し付けられていない。 「あ、あははは」 これで、この国の一通りの案内は終わり。 「もう粗方見て回りましたからねぇ」 「実に見どころが沢山あってよかったです」 ところで。 「なんですか?」 実はワイバーンと一緒だと案内が変わったりする。 「えぇ?」 「そんなのあるんですか?」 ある。 だから、続きはワイバーンの案内で観光した方が良い。 お勧めのお店とか、お気に入りの昼寝場所とか教えてくれるかも。 「昼寝場所は教えないですよ!」 そうなんだ。 「そうですよ!」 それはいいとして。 どうする? 「そうですね。私としては、貴女の案内でも観光してみたいですね」 「あ、良いんですか!? ほんとですか!?」 「ええ。それで、もしよろしければ」 「はい!」 「お名前を窺ってもよろしいですか?」 「あ、あああ〜! そう言えばドタバタしすぎて自己紹介を忘れていました! 私の名前はですね―――」 ◆◆◆◆ こうして、ちょっと人見知りするワイバーンは男性と主に観光案内に飛んで行った。 どこかの誰かが案内した場所よりももっといい場所をと張り合うかもしれない。 観光名所にはならないけど見晴らしの良い草原に案内するかもしれないし、山に行って川遊びをするかもしれない。 もしかしたら、友達のお店に案内するかもしれない。 それもこれも全部合わせて、案内役の特権。 もしかすると。 彼はこの国に居つくことになるかもしれない。 この国は竜の国。 紅竜王国バナドナド。 自由気ままな王様の居る、まだ生まれたばかりの国。 貴方は、来てみる? もしかすると。 暇な王様が案内役にやってくる。 かも、ね。 |