戻る / 目次 / 次へ |
空中交易の町ハイスカイ |
【主な種族:ワイバーン、ハーピー、他空を飛ぶ種族】
【ハイスカイという町】 ここがハイスカイ。 「見てわかる通り、この町は地上よりも空がメインの町なんですよ!」 「船が沢山、浮いている?」 「気球と呼ばれる技術らしいのですけど。この辺りに飛んでいる船はすべて気球です!あの船の上に丸い袋の様なものがあるでしょう。あの袋の機能で空に浮いているんですよー!ああ、大丈夫です!空はシルフや空の魔物たちが居るので、どの船も墜落する事は無いんですよ。万一船から落ちてもシルフの風が飛んできてふわふわと他の船にエスコートしてくれます!」 地上から見るより、空から見るほうがきれいだし。 結局空に行くことになる。 「空に町があるなんて思いもしなかったですよ」 「最初は交易も地上がメインだったんですよ、この町。でも速さ自慢のワイバーンが飛び回って魔界と取引って言うのかな。空の行商人をしていたんですけど。地上に降りるのがだんだん面倒になってきて。それで家とか何か浮かべて、そこで商売したらいいんじゃないかって話になったんです!」 「でも、この浮いている船。軍船もあるんじゃないんですか?」 「ありますよ、軍船も!でもこれには理由があるんです。実はこの国が出来てから町が増えて豊かになった頃、人間の国が戦争を仕掛けてきたんですよ。ザルクバーツという名前の島国なんですけれど。この国と交流を持っていた港町が、そのザルクバーツって島国の船に乗ってやってきた兵士に襲われちゃったんですよー」 「それは確か、大農園地区を流れる川の下流にあるという町ですか?」 「はいそうです。それで、怒ったこの国の王様が、ドラゴンや他の部下たちを率いて突撃。船に居た兵士たち全員を捕縛しちゃったんです」 頑張った。 「それで、幹部の人たちが良く話を聞くと、どうやらザルクバーツ国内で偉い人たちの権力争いがあった事や、港町の人たちがこの国に取り込まれたから助けるとか、ややこしい事情があったみたいなんです。幸い、戦争は早期解決して死者は出なかったのですけど。港町の人たちはやっぱり襲われて怖い思いをしたり怪我をした人もいて、兵士の人たちや兵士を送り込んできたザルクバーツ国に対して不信感を抱いてしまって。兵士の人たちも、魔物側が提供していた食べ物のお陰で港町の人たちが助かっていたことを知って。みんなでどうしたらいいのか頭を抱えてしまったんです。兵士の人たちは港町の人たちが安全ならそれでいいと思っていたし、港町の人たちも兵士さんたちが助けようとしてやって来たと知ったんですけど。戦争を仕掛けて、襲撃もしてしまったから。ごめんなさいで済む問題じゃないから。皆で頭を抱えたんです」 あれはめんどかった。 「ただ、もっと頭を抱える問題が発生したんです」 「ザルクバーツ国の増援が来たのですか?」 「いえ。ザルクバーツ国の王様が、港町に来ちゃったんです」 「国王直々に、兵を率いてやってきたのですか?」 「いえ、来ちゃったのではなくて。連れてこられちゃったんです。みんなが頭を抱えているのを見て、この国の王様がひとっ飛び。ザルクバーツ国王を持って来てしまったんです!」 「え、えええぇぇ」 「はい。えぇぇ、です」 「連れて来たじゃなくて?」 「はい。こう、がしっと掴んで、そのまま飛んできちゃったので。あれは連れて来たじゃなくて、持って来たという方が正しいですね」 「それで、この国の幹部の人も含めて全員、頭を抱えたそうです。ただ、この国の王様はザルクバーツ国王に、こう言いました。『ご飯が無くてこの町の人が困っていたから助けた。問題、ある?』と。ザルクバーツ国王も状況を把握して、改めて町の人たちに話を聞きました。それで誤解が解けて、丸く収まったならよかったんですけど。向こうのザルクバーツ国王側でも色々とややこしい事があったみたいなのです」 権力争いとか、主神教とか色々。 「事の問題は港町がこの国の隣にあるという事と、港町はザルクバーツ国の一部だという事だったんです。そこでザルクバーツ国王は、豪快な解決策を提案しました。港町はザルクバーツ国から離脱して、この国の傘下に入ればいい、と。ザルクバーツ国は元々海上貿易で成り立っている国でした。国が大きくなるにつれて他の島や大陸の町を治める事が難しくなって、権力争いが起きるようになった。だから港町の人たちがこの国の一部になり、その上でザルクバーツ国が港町を経由してこの国と貿易をすればいいと言われました」 「それで上手く解決したのですか?」 「大きな方針が決まったにしても、問題は山積みでした。その一つ一つをザルクバーツ国王と港町の人たち、そしてこの国の人たちみんなで話し合い、港町をこの国に組み入れる事になりました」 大変だった。 「それでザルクバーツ国が町一つを譲るとしても、ザルクバーツ国内で大きな反発があるだろうと言う事で一計案じました。その結果が、軍船を持ち上げて運んだドラゴンの群れだったんです」 「うわぁぁ」 「『人間よ。忘れ物を持って来たが、どこに返せばいい?』と、城を囲むようにして呼びかけたのです。もう、ただの脅しですよこれ。この国の王様からすれば本当に忘れ物を返しに行っただけかもしれませんが、船を一つでも落とされたら町は滅茶苦茶、城に落ちればもう大変。その大混乱に乗じて、ザルクバーツ国王が『我々は無礼を働いたが、かの国は不問にすると言われた。これを機に、両国の良き未来を築いていこうではないか』と宣言しました。反対できる人間は誰も居ません。そりゃそうですよね、ええ。私だってたくさんの軍船を運んできたドラゴンの群れを前にしたら、尻尾丸めちゃいますよ。これにて、幸運なことに死者一人も出ないままザルクバーツ国との戦争が終わりました」 ぱちぱちぱち。 「そして船に関しては、その後に決まりました。つまり、『戦争仕掛けてごめんなさい。船は全部差し上げます』という事で、正式に貰ったんです。だからあの船は盗んできたわけじゃないんです。まぁ、このハイスカイに浮かぶ船を見た時のザルクバーツ国王の反応は、豪胆にも大笑いをされたようでしたけれど」 「こうして、わざわざ地上に降りるのが手間だった空行商人たちと、余った船の扱いの問題が組み合わさって、空飛ぶ船が生まれました。なお、発案者はこの国の王様でした」 頑張った。 「最初はドラゴンが引っ張り続ける案や、シルフが飛ばし続ける案があったそうですが。最終的にグレムリンなど古代文明に詳しい魔物たちの協力を得て、今の形になりました。めでたしめでたし。いやー、ほんとめでたしですよ!こんな大きな船をずっと持ち上げ続けるなんて無茶も良い所です!」 本当は、飛ばしたら面白そうだなーって話が合って、無理なら普通に港町で使う予定だった。 でも色々話を聞いたら簡単に飛ばせるのが分かったから空に浮かべた。 シルフたちも物凄く楽しそうだった。 「たまに調子に乗り過ぎて船同士がぶつかりそうになりますけどねー」 シルフは悪戯っ子。 「ああ、心配しないで良いですよ。この気球船が生まれてからたったの一度も、船同士がぶつかることも、落ちて怪我する事もありません! 万一の備えて気球船で一番低い位置の監視船にはハーピーやワイバーン目を光らせていますし、地上でも陸灯台に常時3名の飛空隊が居ます! それに説明があったかもしれませんが、この気球船の一帯はシルフの領域です。空中交易町の町長であるミル=ラーシアさんが居る限り、絶対、ぜーったいに、空中事故は起きません!」 でも酔っぱらったハーピーやワイバーンがぶつかったり、酔ったセイレーンの歌でふらふらーってなってぶつかったりはある。 「そ、それは無いとは言わないですけど、お客様を連れている時は絶対安全です!」 案内役の仕事中はお酒駄目だからね。 「はい! って、まさか、そのために私に案内役を代わったんですか!?」 『夕暮れの日』、美味しかった。 「く、くぅぅぅ! 私も今日の分の仕事が終わったら飲みますよ! というか、奢ってください!」 了解りょうかい。 「ところで。こちらの方、結局何者なんでしょうか」 「あー、それはですね」 後のお楽しみ。 「だそうです」 【天空喫茶ブルーディ】 「ここはハイスカイ特有の景色の良さを最大限に味わえる喫茶店なんですよ! どうですか、この眺め! 綺麗でしょー!」 「ちょ、ちょっと落ち着かないですね。このふわふわしている雲の椅子から落ちたら、地面までと落ちてしまいますよ、これ」 「この浮き雲は雲のように見えますけど、魔道具の一種なんです。こんなふーに体を前に倒しても〜」 不思議ぱわぁで落ちない。 「おおっ。どうなっているんですか」 「さぁ」 不思議ふしぎ。 「これで安心してお茶が飲めますね!」 「でもみんなふわふわ浮いてて、よく食事出来ますよね」 「慣れると楽ですよー。前に進もうって思ったら、この浮き雲、動きますし」 「あ、ほんとだ!」 「店員さんはフェアリー達なんですよ! 小さな浮き雲にトレイを乗せて、そのまた上に注文の品を乗せて運ぶんです。ほら、あんなふうに」 「フェアリーさんたちも楽しそうですね」 「いま聞こえている歌は店長のセイレーンさんが歌っているんですよ。楽しくなったら歌を歌う。歌に合わせてフェアリー達が踊る。足元には流れる雲。この喫茶店は店内の雰囲気を味わうお店なんです!」 屋外店内。 「はい、そこ! 突っ込みは無しでお願いします! 雲の屋根もあるので雨に降られる心配もないですし! 飛んでいるワイバーンやハーピーを見下ろす景色も好評なんですよ!」 「こういう機会でもないと見れないですからね」 「はい! それに気球船から見下ろすにしても窓側の席からじゃないと見えないですけど。この天空喫茶なら、自由に見れるんです!」 後、このお店。 実は透明な不思議床があるから落ちないし。 「え、そうなんですか」 「あー、もう! それ、後でネタ晴らししようと思っていたのに!」 この天空喫茶は、どこよりも空を楽しめる喫茶店。 大人気のお店。 「このお店は気球船よりも自由に飛び回るので、観光に来た人にはぜひおすすめのお店なんです!」 気球船はどうしても大きいからあちこち見て回るのは危ない。 だから気球船は浮いてるだけ。 ハイスカイの移動はワイバーンに乗って移動する。 そうじゃ無い案内役なら、ふわふわ雲の魔道具に人間を乗せてハーピーが引っ張ったりする。 「だから飛竜ガイドが一番なんですよ!」 「そうなんですね」 そういうこと。 【大気球船商店街】 「はい、到着しました!」 とーちゃく。 「ここは他の気球船よりも大きいですね」 「そうなんです! 元々は船団の物資を担う巨大補給船だったんですよ! それを改造して、今はこうして沢山の店がある大型店舗になりました!」 その名も、大気球船商店街。 「商店街、なんですね」 「はい! 慣れない人はピンと来ないでしょうけど、船って広いだけじゃなくて、深さもあるんですよ。平地の建物で言うなら、普通の軍船でも3階建ての建物が並んでいる位のスペースがあるんです」 「この大気球船ならもっとありそうですね」 「甲板を基準にして、地下5階層までありますよ!」 「それだけ大きいなら、商店街と言うのも納得ですね」 凄い広い。 「ここは甲板の『青空喫茶店』や『青空市場』がメインですね! 特に空行商人が空直行便で商品を運んでくるから、市場は何時も大盛況なんですよ!」 「ここからでも売り買いの声が聞こえてきますね」 みんな元気。 「市場がメインの船なので、この船を『大市場』とか『市場船』って呼んだりするんです。ほら、見てください! 甲板だけじゃ足りないから、マストにも増設して市場を広げているんです!」 「まさに圧巻の一言ですね」 物を買うなら、『大市場』に来ればいい。 ここはそういう場所。 「『大市場』の売りはあちこちの魔界から空輸した商品だけじゃないんです! 地下4階まで色々な市場があるんです!」 「空輸した物を一度地下に運んでいるのですか?」 「良い質問です! この『大市場』は転移魔法陣を使って、各地から様々な物を取り寄せているんです! 地下1階には食べ物関係、地下2階には服飾関係、地下3階は雑貨類、地下4階は」 「地下4階は?」 「ふふふ〜。えっちな物全般です!」 「あ、あはは。魔界らしいですね」 「正確には他の階でも魔界産の物ばかりだから結局エッチな気分になったりするんですけどね! 地下4階はえっちのためだけに使う秘薬や道具類、扱い方を間違えるとちょっと困る物まであるんですよ〜」 「あははは。地下4階には近づかないようにしますね」 「賢明ですね!」 地下4階は入るだけでも覚悟がいる、らしい。 「あは、はははは」 「『大市場』は全部回ると1日2日じゃ足りないので、初めて来た人は『青空市場』を見て回って、それから、ああ、これですこれです! このパンフレットを宿で読みながら、明日はどこに行こうかとか決めるのがお勧めなんです!」 『青空市場』だけでも十分楽しい。 「そうですね。ワイバーン以外にも様々な魔物が飛んでいますね」 「妖精たちは単に騒いでるだけってことが多いんですけどね!」 「妖精、ですからねぇ」 妖精ゆえ仕方なし。 「他にも空飛ぶミュージシャンとか、採れたての果物を使った果実水のお店とか、軽食類の屋台も並んでいるんです! 『青空市場』だけで一日潰せるぐらい、いっぱいあるんですよ!」 「市場ならではの活気が良いですね」 「そうなんですよ! ここは変わり種が並んでいたリ、変わった民芸品があったりと毎日見ていても飽きないんです!」 ワイバーンたちはここがお気に入り。 「はい! だって、見てるだけでも楽しいんでるから! ここって!」 「それでは、おすすめを案内してもらってもよろしいですか?」 「ええ、ええ、もちろんですとも!」 【天空闘技場】 「お次はここです!」 「ここは、何でしょうか。小さな気球船が沢山浮いていますけど」 「直ぐに納得しますよ。あ、そろそろ始まるみたいです!」 あそこ、空いてる。 「じゃあ行きましょうか!」 「え、あの?」 「今のは、いったい」 「風の魔術を使った、たくさんの人に声を届ける魔術みたいですよ!」 「つまり、ここも」 「はい!! 闘技場なんですよ! その名も、【天空闘技場】って言うんです!」 この国の名物闘技場。 「見ての通り! ここは空中戦を下から見上げるのではなくて、同じ空の視点で見ることが出来るんですよ!」 「空から見下ろすだけでも凄いのに、空中戦を普通じゃ見られない位置で見られるんですね!」 「そうなんですよ! しかも今日の大戦カードは、熱いですよぉ! 千客万雷のイングラムと、疾風塵芥のヴェニーなんですよ!」 「それは、すごい事になりそうですね」 なお、イングラムは雨の様に雷を降らせるサンダーバードで、ヴェニーは飛ぶのがすごく得意なワイバーン。 「そう! そうなんです! ヴェニーさんはほんのちょっとした翼の動きだけで華麗に舞う、最も危険で最も激しい空の踊り子なんです! ヴェニーさんに憧れるワイバーンも多いんですよ!」 「あ、はは。そうなんですね」 周りが引くほど、ワイバーンに大人気。 「じゃあ、イングラムはどうなんですか?」 「イングラムも強いんですよ」 急激なテンション低下。 「だって、仕方ないじゃないですか。サンダーバードって何だかんだ、ドラゴン属を目の敵にしてるじゃないですかー」 「そうなんですか?」 サンダーバードの雷は竜を落とすと言われてる。 誰が一番強いというより、サンダーバードも強いってだけ。 「でも、やっぱ女なら燃え上がる炎で勝負じゃないですか!」 サンダーバードに火を吹けとか無茶すぎる。 「でもでもー!」 「珍しいですね。ここまでこだわるのって」 その理由は簡単。 空の覇者問題。 「空の覇者問題?」 空の覇者は誰なのか、どの種族なのか。 力強くて、空を飛んで、火も吹けるドラゴンなのか。 飛翔能力はトップクラスで、竜の鱗と炎を備えたワイバーンなのか。 最速高火力に痺れ付きの雷を操るハーピー種のサンダーバードなのか。 「あ〜。それは根深い問題ですね」 「そうなんですよぉ! だから、今日こそはワイバーンの方が上なんだって、決まって欲しいです!」 案内人が私情挟んじゃダメ。 「案内に関係ない所だからいいじゃですかぁ!」 前にも私情挟んで怒られてなかった? 「そ、それはぁ」 「あ、はは」 それより、準備は良いの? 「え、何かあるんですか?」 「あ〜、えっと。お願いしていいですかぁ?」 自分は観戦に専念するってこと? 「そう言いたいですけど、単純に私じゃ無理ですよぉ」 都合のいい時だけ私頼りと言う。 「そ、それは言わないでくださぃぃ」 「何があるんですか?」 見てれば分かるというか。 普通、観戦する時は準備がいる。 「準備と言うと?」 「あ、始まりますよ!」 あの二人は開幕からトバすから、すぐわかるかも。 「え?」 対戦終了、おつかれさまー。 「くぅ〜! 長期戦になると、やっぱりダメージの蓄積が辛いですよねぇ! 防いでも攻撃が届くって、やっぱり反則ですよ!」 それがサンダーバードの強みだから。 「あ〜。無事ですよね。無事なのが不思議なくらいですけど」 天空闘技場は壁で塞ぐって事が難しい闘技場だから、まぁこうなる。 「まさか流れ弾が飛んでくるとは思わなかったですよ」 「それを防ぐための護衛が本当は居るんですけど。今日はこの人が居たから、まぁ大丈夫かなぁって。ホント、何で大丈夫なんだろうってぐらい完璧に防いでましたよね」 「途中から二人揃ってこっちに攻撃してきた時はどうなるかと思いましたよ」 どうにかなった。 「あれをどうにか出来る方がおかしいって事は、忘れないでくださいね!」 「そうですね。けれど、そうだとすると。貴方は結局、何者なんですか?」 ドラゴン。 「あ、はい。それは分かっているんですけど」 詳しくは秘密。 「そこを何とか」 何ともならない。 「えっと?」 「別に重大な秘密ってわけじゃあ、えっと、まぁないですよ?」 「それって、聞いちゃうと不味い秘密なんでしょうか」 「そうでもないですよ。知っている人はみんな知っている事ですし」 「有名な人なんですか?」 「それも含めて秘密、なんですよね?」 そゆこと。 でもまぁ、放っておいてもどこかしらで知ることになると思う。 「そうなんですね。では、その時を楽しみにしています」 楽しみたのしみ。 |