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魔界の入り口町ハザマ |
【主な種族:多種多様】
【自由で暇な竜の王様】 目が覚めた。 セイレーンたちが朝の歌を歌っている。 体を起こすと、朝だった。 大きく伸びをする。 うん、今日もいい天気。 昨日は何をしていたんだったかな。 忘れた。 闘技場で遊んでいたかな。 ご飯の食べ歩きをしていたかな。 空の散歩をしていたかな。 あんまり覚えてないけど、いつも通りだった気がする。 今日もいつも通りでいこう。 ああ、そういえば。 今日は色んな魔界を歩き回っている学者さんが来るって、聞いた事がある。 国のお勉強をしている時だったかな。 あんまり覚えていない。 最近は人間が魔界と交流する事が増えてきた。 中でも魔界研究をする学者さんが増えてきてるらしい。 今日は私の手が空いているし、私が案内をすることに決めた。 今決めた。 よし。 それじゃあ。 入り口町にごぉ。 ◆◆◆◆ 入り口町に辿り着いた。 門の所に見慣れない人を発見。 知らない匂いの人だ。 旅人風なのに見慣れない服を着ている。 不思議な服だ。 「え、えっと?」 こんにちは。 「あ、はい。こんにちは」 学者の人? 「はい、そうです。もしかして、貴女が案内の人ですか?」 案内に来た。 よろしく。 「あ、はい。よろしくお願いします」 どこ見る? 「あー、えっと。この国のことは良く知らないので、基本的なことから教えて欲しいんです」 わかった。 「あ、あと。将来的には、その、魔物の方と結婚する事を考えているのですけど。仕事も続けたいので、その」 まだ結婚とかしない。 それか、結婚するとしても学者さんで旅人さんな人じゃないとだめってこと? 「はい。それでお願いします」 わかった。 私と一緒に歩いていたら襲われないし、問題ない。 「では、よろしくお願いします」 ごぉ。 【ハザマという町】 最初の町は、ハザマ。 人の住む町と魔物の住む魔界の間にあるから、ハザマって名前が付いた。 この町は魔物が苦手な人や、苦手じゃないけどお嫁さんはまだ探していない人が多い。 魔物もこの町じゃ旦那さん探しは、あんまりしちゃだめ。 「ここも魔界には違いないのでしょうけど、明緑魔界に近いのでしょうか」 明緑と人世界の間。 上手く結界とかを使って、魔法が得意な魔物が魔界の範囲を調整してるって聞いた。 魔物に興味はあるけど、ちょっと気が引ける。 魔物は怖いって聞いたけど本当かどうか見てみたい。 そういう、好奇心はあるけどちょっと魔物が怖い人間たちのために作ったのが、この町。 それまでは魔界に来ると、大体は魔物になっちゃうか魔物の旦那さんになっちゃうって話が広がっていたから。 好奇心があっても魔界に足を運ぶ人間が全然いなかったみたい。 今は、明緑魔界やあんまり人間を襲わない魔界も増えてきているみたいだし、少しは魔界に遊びに行きやすくなったけど。 人間と魔物がお互いの事を知るために作った町は、たぶん珍しい? この国は人間の同意も無いのに無理やり襲う魔物は、元々少なかった。 知ってるかな。 この国は元々、ドラゴンたちしか居なかった。 色々あってドラゴン以外の魔物も集まって。 色々足りないから畑を作ったり、闘技場を作ったりした。 「この国は、まだ作られたばかりだと聞きましたが」 最初に戦争があった時に国になったけど、名前は無かった。 2回目のちっちゃな戦争があって、3回目の凄く大きな戦争があって。 その後にドラゴンの王様が旦那さんをげっとして。 結婚のお祝いの時に、国の名前も付けた。 それが、え〜っと。 大分前。 「だいぶ前」 うん。 大分前。 皆長生きだし、長生きになる魔法とかあるから気にしてない。 でも100年は経ってないかな。 「この国の歴史に詳しい方はいらっしゃるでしょうか」 城に行ったら居る。 国の歴史より、まずはこの町の話。 「あ、はい。それもそうですね」 ハザマの町は今の所、一番新しい町。 この国は元々、他の魔界と商売をしてた。 特産品を持って行って、食材をいっぱい持って帰る商売。 でもこれからは人間と仲良くした方が良いってなって。 そういう話が、3回目の凄く大きな戦争の前とか後とかに決まって。 それで、いっぱい人間を呼び込むことにした。 でも戦争の後片付けとか色々する事があって、そのためにいっぱい魔物を呼んで。 それで魔物が沢山増えたら、まぁみんな旦那さん欲しいから。 旦那欲しいーって魔物がいっぱいになって、来る人間をどんどん旦那さんにしていっちゃった。 それはそれで幸せらしいけど、行商人が減ると問題もいっぱい出てくるし、人間の行商人が減ると人間しか住んじゃダメーっていう町が大変になる。 だから人間襲っちゃダメって場所が必要になって、色々建物を増やしたら町が出来た。 それがハザマの町。 ここは人間が人間のまま、魔物と知り合うことが出来る町。 魔物の事を知って欲しい。 魔物は怖くないって知って欲しい。 そういう魔物たちの思いも詰め込んだ、人間にも寄らない、魔物にも寄らない町。 そういう町にしようって、最初に決まった。 人間が一番簡単に来れる場所だし、人間のして欲しい事を実現する場所だから。 でも面倒なことも起きた。 人間がこの町のてっぺん、町長さんになったとき、人間をものすごく優遇するようにした。 色々問題があったけど、人間がたくさん来るなら良いかなって置いてたけど。 どんどん魔物を、なんだろう、奴隷みたいにする事も増えてきて。 魔物と仲良くしたい人間も仲良く出来ないようになって。 良く分からない難しい問題が一杯あったから、国のみんなが頭を抱えてた。 でも、ある魔物の女の子がね。 泣いてたんだ。 大好きな男の子と会えなくなったって、泣いてたんだ。 だから、この国の王様が、えいやってやっちゃった。 こう、えいやって。 それで物凄く混乱があったんだけど、好きな子同士がくっつけないならこんな町なんていらないって王様が言い出して、そうだそうだって言う人たちが集まって、それでみんなですごく話し合って。 今、この町は3つに分かれている。 人間の場所、魔物の場所、両方の町長さんが管理する場所の3つ。 人間の場所に魔物が入っても良いし、魔物の場所に人間が入っても良い。 でも人間の場所だと人間のルールが優先されるから、魔物は人間を襲っちゃいけない。 魔物の場所だと、魔物が人間を襲っても良いけどやり過ぎたら、こう、罰がある。 両方のルールがある場所はお互いに襲っちゃいけない。 この町全体のルールは、いくつかある。 一つ目は、人間を魔物にしない事と、人間をえっちな意味で襲わない事。 えっちしたら魔物になりやすくなるしインキュバスにもなりやすくなるから、駄目。 二つ目は、人間が魔物の事を知ろうとしているなら邪魔しちゃいけない。 もっとお話ししたくても、他のお店の事を知りたいなら邪魔しちゃダメ。 だから学者さんはこの町にいる間なら、一人で歩いても大丈夫。 三つ目は、本人が嫌だと言ったら、一度離れないといけない。 ハザマの町に入る時に受け取った首飾り。 あれは魅了避けの道具。 魔物を見てもえっちな気分にならないようにするおまけつき。 だから男性を魅了するなら体に触らないと難しい。 触っても良いけど、ダメって言われたら触っちゃダメ。 別に話をしちゃいけないってわけじゃない。 話はしないといけない。 でも力づくはダメ。 無理強いも駄目。 人間のルールも魔物のルールも押し付けちゃいけない。 それがこの町の、この町だけのルール。 この町は、ハザマ。 ジパングの言葉で、「何かと何かの間」「境」って意味の言葉。 この町は、今までの自分とこれからの自分の間でもある。 だからこの国は、魔物も人間も、嫁さん旦那さんが欲しいなーって思ったら、まずこの町で暮らさないといけない。 それでお互いの事を良く知ってから、嫁さん旦那さん探しをしても良いってなる。 「かなり、人間に歩み寄った仕組みですね」 魔物は3日くらい一生懸命頑張ったら、この町で旦那さん探しをしても良い様になる。 だってこの仕組みは、人間の事を全然知らなかった魔物と、魔物の事を全然知らなかった人間のためのものだから。 魔物は人間と仲良くしたいだけだから、人間が嫌な事とか人間はどういう人が居るのかを知るだけ。 でも人間は、いっぱい色んな性格とか種族とかたくさんある魔物の事を知るから、時間がかかる。 「本当に、多いですからねぇ」 この国は悪さをしないなら、魔物に襲われることが少ない。 実はこの国に来た魔物、その事を知らないことが多いから。 「ああ、だからこそ、まずはこの町に来ないといけないのですね」 そゆこと。 魔物にとっても、この国に入るってことは今までと違うルールを守るってこと。 見つけた、襲った、旦那げっとはダメだって知ってもらう、大事な町。 ああ、でも。 決闘したらアウトだから気を付ける様に。 「え、決闘?」 うん、決闘。 ルールを決めてからけんかして、勝ったり負けたりを決めるやつ。 この国のルールで、魔物からの決闘を受けて負けちゃったら、もう夫婦になっちゃう。 「それは、今までで一番、魔界らしいというか魔物らしいルールですね」 だってドラゴンの国だから。 旦那確保は簡単な方が良い。 まぁ簡単に言うと。 決闘で負けた時と魔物のお家に遊びに行く時は、そのままえっちして結婚しちゃっても仕方ない。 気を付ける様に。 あと告白を断らなかったらアウト。 これは忘れちゃダメ。 「そこは他の魔界と変わらないのですね」 だって魔物だから。 「でも告白を断っても求愛され続けたらどうしたらいいのでしょう」 好きな人に求愛する事は別にいい。 これから好きになって欲しいってだけだから。 「それもそうですね」 なお、私は攻略対象外だから、求愛禁止。 禁止だから。 「あ、はい」 【町の特徴】 この町は、魔界作物があんまり無い町。 食べたらうっかりサキュバスになっちゃう虜の果実は置いてないし、他の魔界特有の食べ物は無い。 魔物ルールの場所だけ、虜の果実ジュースを他の果実ジュースで割ったジュースとか、魔物たちが好きな魔界素材の服とか売ってる。 魔物化や魔物大好きになりやすい素材の物はなるべく使わない、でもちょっとだけ使っている。 そういうお店が並んでる。 「こう言っては何ですが。魔物たちにとっては居心地が悪いのではないでしょうか」 人間ごっこ出来るって喜ぶ魔物はいる。 「ごっこ、ですか」 人間ルールの場所だと、魔物ごっこが出来る。 「まもの、ごっこ。それは、えっと」 魔物化しない服とかそう言うのを身に着けて、魔物っぽい姿をする。 こっちの方が大変だったけど。 「問題があったのですか」 どこかの馬鹿が、セルキーの毛皮置いてたり、身につけたらデュラハンになる鎧を置いていたリ。 だからそういうことをした馬鹿は、罰を与えることにした。 「どんな罰ですか?」 虜の果実を沢山食べさせる。 「それ、ご褒美では」 特別製の、えっちしたくなる虜の果実。 それを食べさせた後で、仲良くエッチをしている恋人とかの姿を見させる。 見るだけ。 他は何もしちゃダメ。 「独身の魔物からすればかなり辛いでしょうね」 魔物夫婦を作りたい過激派の場合は、人間夫婦の仲良しエッチを見させる。 魅了とか魔物になりたい魔法とかそう言うのは全部封じて悪さできないようにして。 「それは、罰なのでしょうか」 魔物になったらもっと良いのに、って思うから、人間の仲良し夫婦はすごくもどかしいんだって。 でも魔物の罰は難しいから、大体は美味しいケーキを目の前で食べる罰になる。 「すごく優しい罰ですね」 厳しいだけの罰は誰も得にならないから、片方が幸せになる罰にした。 罰があると私もご飯食べ放題なのに、最近はみんな大人しくなった。 残念。 ハザマの町は、他にも魔物たちの生活の本とかある。 普段どんな風に暮らしているのか、色々書いてる。 「それは良いですね」 魔物ルールの場所は過激な内容、人間ルールの場所は過激じゃない内容。 「過激、というと」 すごいえっちなのが魔物ルールの場所で売ってる本に多い。 種族ごとで共通してる食べ物の好みとか、種族の特徴とかそういう話は人間ルールの場所で売ってる本に多い。 「良く出来たルールだと思いますね。人間にとって都合のいい、と言っては少々言い方が悪いのでしょうが」 人間を沢山呼びたいなら、人間がたくさん来るような町を作ればいい。 ハザマ以外は他の魔界と同じで魔物ルール中心だけどね。 ハザマの町は、この国を案内してもらう魔物を探す町でもある。 魔物ルールの場所に行くときは、案内役を紹介するけど大丈夫?って訊かれるし、紹介して欲しい時はそういう場所まで案内してくれる。 あとこの町の魔物は大体、大人しい魔物が多い。 魔物的な意味で。 案内役はフェアリーとかエルフとか、魔物か魔物じゃないかよく分からないけど魔界に慣れている人たちだったり。 リザードマンとかドラゴンとか他の魔物に比べてえっちえっちしてない魔物だったり。 あとはジパング魔物の稲荷とかえっちえっちしてない地方の魔物が案内役になることが多いのかな。 「ジパングの魔物もいるのですね」 いま空を飛んでた黒ハーピーは、ジパング魔物のカラステングだし。 「え、そうだったのですか? あー、見逃したー」 この国はジパング魔物も他の魔界に比べると多いと思う。 山羊先生がゲートを作ったから。 「それは凄いですね!」 ジパング風の町も、あったかなぁ。 あった気がする。 あれ、無かったかな。 どっちだったかなぁ。 【なりきり喫茶ベルル】 「なんでしょうか、このお店は。ものすごく広いですけど」 ここが、人間が魔物の格好をしたり、魔物が人間の格好をするお店。 人間ルールの場所なら魔物の格好になれるし、魔物ルールの場所なら人間の格好になれる。 いまいるお店は両方ルールのお店だから、人間の姿にもなれるし魔物の姿にもなれる。 あと魔法で見た目だけ魔物になったりする。 「つまり、あのハーピーさんは人間の女性という事ですか」 そう。 ハーピーになるとおまけで空も飛べるし、シルフと店内の空中散歩も出来る。 空飛ぶ魔法をかけたり、シルフの風に乗せたりしてる。 この店は、すごく広い。 飛び回っても大丈夫なように、この建物は凄く大きい。 4階建ての建物の、えっと、床を物凄く減らして屋根の裏側が良く見える、んー。 「吹き抜け構造という事ですか」 大体それであってる。 他にも猫とか狼とかになると元気に動き回れる。 お店ではしゃいでる人は大体、魔物っぽくなった人間。 「でも魔物にはなっていないんでしょう?」 そう。 だから腕をばたばた動かしても飛んでる動きに影響ないし、狼の姿になっても鼻が良くなるわけじゃない、尻尾も動かない。 あれは動いているように見せてるだけ、ただの幻。 「けれど魔物になった時の感覚を少しだけ味わえるというのは、普通の人にとって見れば楽しい事でしょうね」 ワイバーンに乗ったら楽しいとか、ケンタウロスに乗ったら楽しいって人間が多かったから。 じゃあもうワイバーンになっちゃえとか言ったら出来上がったお店 すごく大人気のお店になった。 「あのハーピーさんは翼で飛んでいるように見えますけど」 あれは本物ハーピー。 店員ハーピー。 このお店は、えっと、魔物になったらとか魔界で暮らしたらこんな生活になるよ、っていうお店でもある。 ほら、あそこ。 ハーピーになった人間、ハーピーに色々話を聞いてるでしょ。 魔物になってみたいけど、ちょっと踏ん切りつかない人間は、まずこの店に案内される。 ここでなりきるのもよし、店員になって魔物店員から話を聞くもよし。 「一度魔物になってしまうと後戻りできない、という方にはまさにうってつけのお店ですね」 魔物にも大人気。 自分で人化け出来ないスライムとか、体がちっちゃいフェアリーが不思議な魔法で普通の人間の姿になることも出来る。 あのこけそうになった女の子。 あの子、スライム。 足を使って歩くって知らないから、何回もこけてる。 スライムだから怪我しないんだけど。 将来的には自分の力で歩くんだーって毎日通ってるって聞いた。 「努力なさっているんですね」 理由は、人間ごっこエッチをするためだって聞いたけど。 「あ、そこはすごく魔物らしい理由ですね」 スライムとかおおなめくじとか、足の無い魔物がここで練習して、男の人と一緒に宿に行って、えっちすることが多いって聞いた事がある。 スライムはともかく、おおなめくじは絶対えっちが目的。 他にはケンタウロスとかスキュラとかもこのお店に遊びにくるみたい。 「多いんですね、魔物のお客さんも」 でも他人に人化けさせる魔法を使える魔物ってあんまりいないから。 魔法得意な魔物大大大大大募集って言ってた。 「あはは、店員さんも大変なんですね」 旦那さん見つける店員さんも多いから、本当に人手不足。 他の魔界で魔法得意な魔物見つけたら、このお店紹介して。 本当に大変だって聞いたから。 【服飾店トーラ】 このお店は魔物に大人気の服を売ってるお店。 店長はアラクネじゃなくて、ハーピー。 「ハーピー種の方は服を作るのが苦手なように思いましたけど」 服を作るのは他の魔物がやってる。 ハーピーもおしゃれしたいって事でお店を作ったのがきっかけで、今は種族関係なしにお洒落したい人を応援してるんだって。 お店の半分は魔物向けの魔物素材や魔界素材の服が置いてる。 もう半分は人間向け素材の服。 魔物が作るとどうしても、こー、魔物に影響される服になるから、あっちの服は人間が作ってる。 なりきり喫茶ベルルで魔物の生活に興味を持った人は、このお店に来て服を見て回ることが多い。 魔物向けの服は手に取ったり見るだけでも影響を受けるから、このお店に来た人間は入り口で首飾りとか帽子を受け取る。 魔物の魔力を吸ったり封じる効果があるから、服を着たりずーっと触ったりしないなら影響が出ないって山羊先生も言ってた。 「このお店も大きいですね」 ベルルは4階建ての大きさで1階だけのお店。 このお店は4階建てで4階あるお店。 男女関係なし、年齢も関係なし。 仲良くなった人たちが自分に合った服を一緒に選べるお店。 過激派が紛れ込んで大変なことになった事もあるけど、皆わいわい服を選んでる。 「過激派の方、あちこちにいらっしゃるんですね」 もどかしいんだって。 あとほんの一押しすれば楽しくてえっちな魔物生活が送れるのにって。 特に元人間の過激派がめんどい。 悪気が無いからすごいめんどい。 過激派は全部悪気無いけど、「元人間だから、早くあの子たちにも幸せになって欲しい」とか言われるからすごいめんどい。 過激したいなら他の魔界、せめて他の町でやって欲しい。 魔物に興味ないけど服には興味あるって人間も多い。 ジパング魔物の服とか大人気だし、えっちで過激な魔物服のえっち部分を直したデザインを考えたりしてるって。 例えば、あの胸とかお腹すっごい出すえっちなギザギザ服。 あれだけを着たらえっちだけど、他の服の上から来たら凄く格好いいって事で、人間の町でも気軽に着て歩けるようなアレンジをしたり。 キマイラなりきり服セットのデザインを少し大人しくて格好いい服を作ったり。 魔物はえっちで過激だから駄目だっていう人間は多いけど、魔物たちが好きなデザインは人間が好きな事も多いから。 そういう人にも人気がある。 後は学者さんにも人気。 「それは分かりますね。ジパングの服に霧の大陸の服。これほど様々な服が置いてある店は珍しいですよ」 この国は食べ物と強い人を沢山集めた国だから、あちこちと商売してる。 ドラゴンの国だからドラゴンっぽい国になっているけど、ドラゴンの国だからいっぱい集まってる。 「竜の国と言っても、ドラゴニアとはまるで違いますね」 どらごにあ。 あの国は、えっと、人間とドラゴンの国だから。 この国はドラゴンの国。 大事にしたいものをあちこちから集めて町が出来ていった国。 この国らしさは、たぶんこれから出来てくると思う。 「この服はジパング風でも、霧の大陸風でもないようですね」 「そう! そうなんですよ!」 わ、びっくり。 「バナドナドは様々な魔界や文化が、これでもかーってくらい集まる国なんですよ! でも、だからこそ! バナドナドらしい物が必要なんです!」 この服みたいに? 「そう! 例えばこの服はドラゴンの強さとか格好良さを際立たせるんです! 無骨な板金をあしらった服は、戦士としての風格を強調します!」 こっちの霧ぽいやつは? 「霧の大陸風の服ですね! 霧の大陸は格闘術が盛んらしいので、逆に布地を減らして屈強で逞しいドラゴンらしさを強調してるんです!」 「なるほど。こちらの落ち着いた服はどうなのでしょうか」 「ドラゴンさんも結婚すれば落ち着いた生活を好まれることが多いんです。そう言った方には逆に威圧するようなドラゴンらしさを隠す大きめサイズの長袖チュニックタイプをお勧めしています! 基本は家の中で旦那さんにだけ見せる服なんですけど、こう言った甘えやすい服は他の素直になり辛い種族の方にも人気なんですよ!」 そうなんだ。 「そうなんです!」 あ、この人が店長さん。 「はい、店長です!」 「あ、これはどうも」 「男性向けの服もあるので、よかったらどうですか!」 この人、魔界研究学者の人だから、魔物服の方が良いかも。 「そうなんですね! では、まずこちらからどうぞ!」 「わ、わわ、ついていきますから、ひっぱらないでください!」 お店巡り、れっつらごぉ。 【入口館】 お疲れみたいだから、ちょっとここで休もう。 ここは入口館。 本格的な魔界に入る手前の場所。 ハザマの町で魔物の事を知ってから、魔物ルール中心の国に入る場所。 ここから先は本当の意味で、ドラゴンの国。 強くなりたいなら、この国に来ればいい。 色々な物を食べたいなら、この国に来ればいい。 どらごにあとは違うドラゴンの国を見てみたいなら、この国に来ればいい。 逆に言うと、それしかない国。 それがバナドナド。 その中でも、ハザマの町は出来たばかりの町だから、特徴らしい特徴が全然無い。 境界の町、ハザマ。 魔界への入り口、ハザマ。 魔物の事を知らない人間が、魔界に入る前に魔物の事を知るための町。 ここから先は、案内役が居なかったら通りがかりの魔物に襲われる。 空を見ればわかるけど、ワイバーンもドラゴンも飛んでる。 あれは、一人でここを通る男の人が来るのを待ってる。 強そうだったらドラゴンが来るし、そうじゃなかったらワイバーンが来る。 案内役じゃなくて、普通に襲ってくる。 「え。悪さをしないなら襲われないのではなかったのですか」 正確には、魔物的に襲われない。 でも腕試しはあり。 腕試しとか決闘の条件に旦那さんにするとかあったら、そのまま結婚。 「ワイバーンの方も決闘が好きなんですね」 どちらかというと、ワイバーンなら勝負かな、 かけっこ勝負とか、この国を出るまでに惚れさせたらワイバーンの勝ち、とか。 でもこの国に住んでるから強い人間を好きってワイバーンは多い。 そういうワイバーンは大体強い人を旦那さんにしたいから、そうじゃ無さそうな人には襲わないけど。 強くなりたい人間がやってきたら、どんどん襲っていく。 この入口館は、腕自慢の人たちにとっては重要。 ここから先は強いか強くないかだから。 この大きな門を潜って、はい。 もうここから先は魔界。 魔物たちの住む世界。 ようこそ、食と闘いの国へ。 紅竜王国バナドナドは悪さをしない限り、誰も拒まない。 美味しいものを食べてのんびり過ごすのもよし。 強さを求めて武者修行するもよし。 魔界としても国としても生まれたばかりのここは、新しく来た人と一緒になって国を作っている。 お兄さんも良かったら、少しこの国で休んだらいい。 この国はたぶん、魔物学者さんにとって良い場所。 理由はこの国を歩いていたらわかる。 たぶんわかる。 じゃあ行こうか。 最初はどこが良いかな。 |