肉食系ワイバーンのクリスマス |
「うっひゃー、寒い寒い寒い!」
騒がしい声と共に、窓が開かれる。 スーツ姿の若い娘が自分の体を抱きながら、室内へと転がるように入り込む。 それと同時に、冬の冷たい風も暖房で温められた室内に入り込んできた。 風の冷たさに眉を顰めるが、彼女はそれどころじゃないらしい。 「あ〜。やっぱり部屋の中はあったかいなぁ」 「それはいいから、閉めろよ」 俺は『18階』の窓から帰宅した彼女に窓を閉めるよう促すが、聞いちゃいない。 彼女はまっすぐ炬燵の中へと入りこんだ。 「はふぅ〜」 「まったく」 翼を炬燵机の上へ広げてくつろぐ彼女を見て、ため息一つ。 あまりにも幸せそうに温かさを味わっているので、今更こたつを出て窓を閉めろとは言えない。 仕方なく、自分で窓を閉める。 「今日は仕事、どうだったんだ」 「疲れたー。あと寒かった」 寒さに弱いのは爬虫類系だからだろうか。 俺はしばらくの間はこたつの虫になっていそうな彼女を見る。 ワイバーン。 ファンタジーではよく見かけるドラゴンの一種で、強靭な肉体というより空を飛びまわるイメージが強い魔物だ。 翼竜と呼ばれることもある。 細かいことはさておいて。 日本に異界から魔物が大量にやって来た事件があり、ワイバーンも日本にやって来た。 よくあるファンタジーと違うのは、日本に現れた魔物は擬人化されたような存在であり、一言で言えば人間の少女に魔物の特徴が備わっているような姿をしていた。 で。 ワイバーンも人間に似た姿をしていた。 ハーピーに似ている、と言ってもいい。 腕の部分は肘から先は鳥のようになっている。 但し羽毛の代わりに深緑色をした硬い鱗が装甲の様に覆われている。 足も膝から人のそれとは異なっている。 翼と同様に深緑色をした鱗が脚甲の様に覆っていて、足首から先は5本爪の恐竜脚。 踵に当たる部分に短い親指があって、鷲掴みできるようになっている。 炬燵に入ってみかんを食べている彼女は、そのワイバーンだ。 ドラゴンという種族が爬虫類の特徴を持っているためか、彼女は寒さにとても弱い。 単純に彼女が「元の世界」で住んでいた地域に冬がなかったからかもしれない。 理由はさておき、彼女は冬になると羊のごとく暖かな服で身を守るのだ。 こたつで体の芯まで温まった彼女は、今はもうスーツから着替えて分厚い「どてら」とダウンのチョッキを着ている。 腕が翼になっているため、袖のある服が着れないためだ。 下はそこそこ人間と同じ物が着れるので、冬用の分厚いパンツをはいている。 もちろん「どてら」以外は全部、○ニクロ製品だ。 「今日は寒いよ!」 「知ってる」 最初の冬の時は寒さのあまり、室内でファイヤーボールを放ったくらいだ。 あれは死ぬかと思った。 「美味し―料理食べたい! 食べたい食べたい食べたい!」 彼女が自慢の翼を羽ばたかせると、室内に突風が生まれる。 蜥蜴のように長い尻尾で床を叩けば、震度1の揺れが室内を襲う。 「わかったわかった。近所迷惑だから尻尾は止めとけ」 俺は暴れる小さな飛竜を宥めつつ、台所へ向かった。 七面鳥、フライドポテト、ビーフシチューにパン屋で買ってきたバゲット。 一人暮らしでは味気ないメニューも、二人で食べるならご馳走になる。 「わぁ〜♪」 奮発して七面鳥を買ってきた甲斐があったようだ。 彼女の目は七面鳥に釘づけだ。 さすが、肉食系女子。 彼女ならきっと、七面鳥くらい『狩って』来れるだろう。 「おっにく〜、おっにく〜♪ おにくを食べたら、頂きま〜す♪」 意味ありげに俺へ笑いかけた後、彼女は七面鳥にかぶりついた。 「ナイフで切り分けてやるから、フォークを使って食べろよな」 「ひーははひ。ほーひーんははら(いーじゃない。おいしーんだから)」 満面の笑みで口を動かす彼女を見ると、なんだか気が抜けてしまう。 頬をソースや鳥の脂で汚しながら食べる彼女は、いつも以上に愛嬌があって、かわいい。 七面鳥を一人占めしそうな勢いの彼女を眺めながら、俺はフライドポテトを摘まんだ。 なお、彼女の「クリスマスプレゼント、欲しいなぁ♪ かわいくって、ちっちゃな赤ちゃん、ほしぃなぁ♪」発言により、聖なる夜はやや意味合いの変わった夜になりそうだ。 |
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