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025.元勇者 |
カナシャとメルセが喧嘩をしてる。
ご飯を食べて元気になったからかな。 「はっ。力任せじゃ、私は倒せないよ」 メルセの斧槍が動くと、カナシャの突進がそれる。 カナシャが爪を振り下ろすけど、メルセが下がって当たらない。 蛇の体がうねうねってなって、距離が縮んだり遠くなったりしてる。 うん、よくわかんない。 「ブレスなら、関係ないだろ!」 「そう来ると思ってたよ」 ブレスは息を大きく吸って、吐く。 息を吸っている間に近づいて顎を打ちあげられたら、不発になる。 ちょうど、今カナシャがやられたみたいに。 「鬱陶しいんだよ。第一、俺にはダメージなんざ入ってねえぞ」 「だったら、あんたが倒れるまで何度も繰り返そうじゃないか」 カナシャとメルセがひーとあっぷしてく。 でも。 私は暇。 リュウマカイモも食べ終わったし。 「暇なら参加してきたらどう?」 すぐ終わるから、面倒。 「なんだ、リィーバ。参加する気か?」 「竜王の参加かい。楽しめるといいけどね」 「はっ。楽しめるといいな」 ちょっとだけ、参加しよう。 アマゾネスが使っていた大きな剣。 それを山羊先生が硬くした。 これを使えば、ちょっと強く振っても大丈夫。 「武器を使うのか。なんだ、手加減でもするつもりかよ」 「ドラゴンても倒せそうなサイズの剣だね。アマゾネスの剣か?」 ぱぱっとやって、すぐ終わろう。 大きく一歩、カナシャに近づいて、振り下ろす。 「げ、はええ!?」 脳天一撃ー。 あ、両手で防いだ。 「ちい、相変わらず馬鹿力だな」 カナシャより力持ち―。 剣の腹で、ばっちこーん。 カナシャが吹っ飛んだ。 「おいおい。マジかい?」 「竜王って伊達じゃないのね。あのメルセと戦ってたドラゴンが、ゴブリンみたいにすっ飛んで行ったわよ」 「あの二人で満足したらいいのだけど、ねぇ」 「え、まさか。こっちに飛び火するって?」 「可能性はあるわよ」 メルセもすっ飛べ―。 あ、外れた。 「風圧だけで木が吹き飛ぶなんて、めちゃくちゃだよ」 えい、やぁ、てい、やぁ。 大きな剣を振っても中々当たらない。 蛇の体を使ってうにょうにょ動いて当たらない。 だったら、こうする。 切っ先を少し地面に埋めて。 「ん、何をする気……まさか」 地面ごとふっとべー。 よし、メルセも吹っ飛んだ。 地面も木も一緒に飛んでったけど。 「自然破壊も甚だしいわね」 「うわー。あれだけのことをやってて、まだ封印中なのよね」 「ついでに言うなら、人の姿って時点で能力は低下してるわよ」 「聞きたくなかったわね。デルエラ様が来なくても、あの子一人がレスカティエに来ただけで勝負があったわよ、確実に」 力任せで全部終わるから困りもの。 速さ勝負なら、どうなんだろ? ディリアに振り下ろしても、当たんない。 というか、飛んだ。 「やっぱりこうなるのね」 跳ねて、切って、当たんない。 「まさか、翼もなしに私と戦うつもり?」 大きくかがんで、それから、ジャンプ。 「勢いだけはあるけれど、タイミングがわかればどうと言うことはないわよ」 あんまり当たらない。 じゃあ、もっと速く跳ぶ。 「さっきより速いわね。……まさか、ね」 もっと速く。 もっと。 もっと。 もっと。 「まさか、剣の傾きで飛ぶ角度を調整しているの? 目測が合わなくなってきたわね」 剣が届かないなら。 届かせる。 地面を吹っ飛ばすように。 風を吹っ飛ばす。 ディリアも飛んだし。 あとは。 「げ、まさかこっちに来る? ちょっと、私は関係ないでしょ!」 狼さんと鬼ごっこ。 捕まったら最後〜。 「なんか怖いこと言ってるし〜!?」 ワーウルフでエルフなプリメーラは、森に入ると速い。 木の陰に隠れたり、木の上にいたと思ったら木の根元にいる。 時々牽制で矢が飛んでくる。 でも、矢が飛んできた先にはいない。 地面ごと木を吹っ飛ばしても、森が無くならない限り当たらない気がする。 力技では倒せないのかな。 じゃあ、どうしよう。 地面に手を添えて、大きく息を吸って。 魔力を注ぐ。 イメージするのは大量に咲く花々。 森を照らして、私の世界を押し広げる。 森がエルフとワーウルフの領域なら。 その利点をまず無くそう。 「うえぇええ!? な、なにこれ!? え、なに? これって、魔灯花?」 竜色の花が咲いて光る。 ここはもう、ドラゴンの領域。 エルフも狼も関係がない。 巣に入り込んだ獲物を狩るのは、ドラゴンの仕事。 狭く逃げ場のない洞窟の様に。 暗がりのない森に、獲物の姿は色濃く残る。 木を一本引き抜いて、逃げ道を塞いで。 あとはすっ飛ばすだけ。 拍手が聞こえる。 小さな子供を褒めるような、穏やかな拍手。 「凄いわね。二重の封印をつけたまま、あの4人を相手に一方的に勝負をつけるなんて」 メルセとプリメーラは、怪我をしないように自分から飛んでたけどね。 「それを踏まえても、よ」 でるえらは楽しそうに笑ってる。 二人きりになったことを、楽しそうにしてる。 「内緒のお話、してくれるのかしら?」 でるえらに剣を向ける。 でるえらは、やっぱり楽しそうに笑っている。 「遊び足りないのかしら?」 首をかしげる。 魔王は勇者に倒される。 それが、物語の在り方。 いまここには、人間と魔王の代理がいる。 でるえらが魔王に夢を見ているなら。 その夢、一度忘れたほうがいい。 弱いやつが抱く夢は、泡みたいに消えるものだから。 |