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016.大自然と魔界と精霊使い |
最近はあんまり動いていない気がする。
魔界に行って力仕事をして、皆にお土産を持って帰るだけ。 みんなは竜の聖地にいるから、ドラゴンがご飯を持っていかないといけない。 私、確か竜のおーさまのはずなんだけど。 ドラゴンの巣は、一杯改造してある。 転移方陣があるからあちこちに飛べるし。 お客さんが増えたから、巣の周辺にちっちゃな巣を追加した。 近くから山を幾つか持ってきて、がっちゃんこ。 巣が大きいからあちこちに案内板が付けられて、巣の中を跳ぶ転移方陣も追加された。 上に行ったり下に行ったり、お隣に行ったり戻ってきたり。 便利になったから走らなくて良くなった。 隊長さんが喜んでいたけど、走らなくて良くなったからかな、それとも私が走り回らなくなったからかな。 増えたって言えば、食べ物が増えた。 もっと言うと、料理が増えた。 魔力のある食べ物がいいってわかったから、色んな食べ物を集めてもらっていた。 するとコックさんもいつの間にか増えていた。 魔界の料理は人間が作る料理とちょっと違う。 食材は魔界の食材をたっぷり使う。 食べると元気になる食材が沢山。 主にえっちな意味で。 色んな料理を作るコックさんがいる。 マカイモをすり潰してクッキーを作るんだけど、マカイモって沢山種類があるから色んなクッキーが作れる。 コックさんは複数のマカイモを組み合わせて美味しいクッキーを目指しているけど。 確か100種類は越えていたよね、今この巣にあるマカイモって。 「あ、おーさま。今日も試食に来たの?」 ちっこいのがパタパタ近付いてきたので、うなずく。 料理好きなコックさんは女の子。 でもサキュバス。 「ちょっと待っててねー。そろそろ焼きあがるって言ってたからー」 料理好きなコックさんが好きな妖精が、厨房に入っていく。 一緒に戻ってきたのは栗色の髪のおねーさん。 同じ色の翼と尻尾が揺れてる。 「今日も良い出来だよ。マルチィのお墨付き」 「すっごいんだよ! すっごいんだよ!」 コックのサキュバスが持ってきたお皿に赤や緑や黄色や、色んな色のクッキーが並んでる。 料理好きでコックのサキュバスの助手の妖精は、えっと、なんていう種族だったかな。 もっと沢山食べたい。 「はいはい。王様向けのデザートも用意してるから」 コックのサキュバスが持ってきたデザートは、たっぷりと蜜が掛かったバニラアイス。 サイズはバケツ。 「ホルスタウルスのミルクとハニービーの蜜。取れ立て搾り立てだから美味しいよ」 お隣さんのミルク? 「違うよ。ほら、ディリアって子が持ってきてくれたんだ」 ディリアの速さはワイバーン以上、荷運びの量はドラゴン級。 「有名どころの虜の果実以外にも、美味しいものは沢山魔界にあるんだよ」 クッキーみたいに平べったい物がお皿の上に沢山並んでいて、おいしそうな果実がその上に乗っている。 紫や青や白の果物は、甘酸っぱかったりミルクの味がしたり不思議。 「いや、それはホルスホイップクリームだよ」 おかしを一杯食べたら魔界に手伝いに行く。 この間、町を襲って即席勇者をかき集めたから、しばらくは人間は襲ってこないみたい。 だから気楽にあちこち歩いていけるし、飛んでいける。 今日はどこに行こうかな。 「こんにちわ。相変わらず小さいんだね」 「マスター。相手は竜王ですよ。そんな調子では、また村長が嘆かれます」 「はいはい。わかったよ」 「本当に分かっていますか? マスター」 空で出会ったのはちっちゃなノームとちっちゃなベルゼブブ。 現在、二人とも旦那さん募集中。 「今日も食べにきたの? どうぞどうぞー」 「けっして山を枯らさないようにお願いします。貴方は前科がありますので」 この辺り一帯は魔界。 でも空は青いし草木は緑色をしている。 今は暖かいから雪解け水の周りに沢山の草が生えているし、牧草地帯には背の高くておいしそうな草が生えている。 「いや。食べちゃ駄目だよ? あれは竜王様のおやつじゃないんだからさ」 このベルゼブブは魔物だけど精霊と仲がいい。 今はここにやってくる旅の人からせーえきを貰って暮らしているみたい。 ここは自然が逞しくて、のんびりのどかな食べ物村。 「ご飯を食べに来たんだったら、ちょーっと相談があるんだけどね」 首を傾げて、うなずく。 前にも頼まれた事があるから、多分それ。 「ちょっと近くの町を襲って欲しいんだ」 首をかしげる。 「いやさ。冒険者が多いってのは別にいいんだけど。竜の城攻略に失敗したからって、今度は他の魔界を攻略しようとしてるらしくってね」 「他の力が強い方々は、旦那様との交わりが良いと仰いますし」 「私はケンカがやだからねぇ」 でもこの二人なら、冒険者100人くらいでも大丈夫だって知ってる。 「最近、勇者って増えたよねぇ」 うなずく。 この間も即席勇者が沢山いた。 「あの大襲撃でしょ。ハーピー新聞は読んでるから知ってる」 「あーもう。腹立つなぁ。何だって主神ってのは、こうもやる事なすこと無茶苦茶なんだろ」 私も同じ事を思ってた。 主神は子供みたいに話を聞かない。 「違う違う。子供の方がまだ聞き訳がいいよ」 精霊使いのベルゼブブは、私を隣の町に連れて来た。 やっぱり勇者がいるみたい。 「まだこっちに気づいていないみたい。ちゃちゃっとやってくれる?」 勇者をお持ち帰りー。 仮面をつけてマントをつけて、他にも色々身につけて。 竜のおーさま姿で町に下りる。 「ひっ!? ど、ドラゴンか!?」 がおー、たーべちゃーうぞー。 少し経ったら冒険者の人たちがやってきた。 ちょっと遅れて騎士の人がやってきた。 勇者はまだかなー。 みんな私を見てるだけ。 何で見てるだけなんだろう。 どうして来ないのかな。 あ、そうだ、暇だからあれをやってみよう。 大きく手を上げて、地面に置いて、いっせーのーで。 「は、花が!?」 「なんだこの花は!」 夜に光る不思議な魔界の花。 よくわからないけど、コツさえあれば簡単に生えてくるみたい。 「住民の避難は済ませたか!?」 「息を止めろ! 毒の可能性があるぞ!」 ちょっとやりすぎたかな。 町があっという間に花だらけ。 「勇者はどこだ! 勇者はまだ来ないのか!?」 「くそ、やってやる! やってやるぞ!」 「待て早まるな! 連携を取れ!」 「どうせもう殺されるんだ! 殺される前に殺してやる!」 騎士の人たちがやってきたので、持って投げる。 冒険者の人たちは逃げ出した。 さっきまで、何で動かなかったのかよくわからない位、みんないっせいに動き出した。 何でだろう。 勇者が来ると思ったら、勇者は来なかった。 あまり人をお持ち帰りすると色々大変だから、今は勇者以外はお持ち帰りしない方針。 その日は帰ってベルゼブブの村に立ち寄って色々と食べた。 村長はなぜか小さい男の子だった。 この村は自然が逞しい。 魔力たっぷりの水が山から下りてくる。 住んでいる魔物は動物系か植物系。 みんなお昼寝をして過ごしてる。 日が沈むと魔界の花が光るから、空の上が暗くても明るい。 この村は昔、食べる物に困っていた村みたいだけど、今じゃ食べ物を他の人にあげるくらいになってる。 ベルゼブブがやってきて、精霊と一緒に村おこしをしたからだって聞いた。 魔物の魔物による魔物のための村おこし。 村のあちこちにいるゴーレムや色んな土人形は、精霊使いのベルゼブブが造ったんだって。 だから村の守りは問題ないんだけど、みんなはどっちかっていうと畑造りをしているから戦うのは苦手なんだって。 村の皆も畑造りが好きだから戦う事は苦手。 結局、精霊使いのベルゼブブがすっ飛んで解決するみたい。 「私だってね、戦うのは苦手だけど。みーんな戦うのが苦手だし、好きじゃない人たちばかりだからね」 よくわかるようで、よくわからない。 「みんな弱いからね。ついつい、守ってあげたくなるんだよ。そーゆーのはわかる?」 それなら分かる。 ドラゴンは皆、戦う事は好きだし、私の周りにいる魔物も大抵は戦うのが好き。 「そりゃ、そーゆー連中が集まっているからでしょ」 「竜の城の軍備拡張は聞いています」 首をかしげる。 みんながしたことは、食糧問題の解決だと思ってた。 「あはははは! 知ってるよ、それは。ウチにもお声が掛かるくらいだったからね」 「他の魔界の食糧問題にまで発展しかかったと聞いています」 食糧問題、大問題。 「いやさ。竜の城を襲撃したって話を聞いたじゃない。その後に、戦える魔物が集まったって聞いたんだよ」 武者修行しに出かけようとしたら止められたから、修行相手を呼んでもらった。 「……誰の修行相手?」 私。 精霊使いのベルゼブブがお酒を注ぎながら、色々話を聞いてきた。 お酒を飲みながら答えると、いつの間にか周りに人が集まっていた。 肩掛け鞄を背負っているハーピーは、新聞屋さん。 ゴブリンを襲わないハーピー。 お酒を飲んでおつまみを食べて。 やってきたリザードマンの相手をして、お酒を飲んで、ふかしマカイモを食べて。 畑を皆で耕して、お酒を飲んで、腕自慢の人たちの相手をして、マカイモ食べて。 日が落ちてきたので、巣に帰った。 「今度は一体何をしたのですか」 帰ると隊長さんが待っていた。 お話を聞くまで寝かせませんよと、目で訴えてくる。 首をかしげる。 「町に大量の花を咲かせたと聞いて、何事かと思いましたよ」 話すと隊長さんが呆れていた。 「魔灯花の種自体はどこにでも撒かれている、という話は聞いたことがあります。ハーピー種の服に付いた小さな種が落ちている、とも言われています。ですが」 隊長さんが困っている。 隊長さんの顔に手を伸ばす。 「いっ!? な、なにを!?」 何か言いたい事があるのかと思った。 「い、言いますから! 言いますから頭は取らないで下さい!」 「幾らなんでも、花の量が多すぎます。蔓薔薇の様に成長して屋根にまで届いた花もあると聞きましたよ」 百花繚乱。 「意味は通じますが。何をしたのですか」 首をかしげる。 みんなを驚かせようと思って、いっぱい花を咲かせた。 「……どうやって、とは聞いても意味が無いのでしょうね」 花が咲くように、地面に魔力を注いだ? 「どうして疑問系なのですか。あなたは、まったく」 「後日、バフォメットを含めたサバトの方々が話を聞きに来られるので、その時にもお話ください」 うなずくと、隊長さんが歩いて行った。 今日の晩御飯は何かな。 考えながら食堂に歩いていく。 段々と増えていく勇者。 時々聞こえてくる噂。 もう少し、急いだ方が良いかもしれない。 ご飯を食べながら、目を閉じる。 主神の足音が聞こえてくる気がした。 |
13/08/04 00:55 るーじ
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