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013.「僕の整理整頓と、出発」 |
僕は一晩考えたいと言って、部屋に戻ってしまった。
眼鏡をかけなおしたアラーティアが、あまり時間は無いって言っていた。 だから僕も決めないといけない。 夢を叶える為に、どこまで行くつもりなのか。 多分、今日の決断は、とても重要な決断だと思う。 人と共に魔物を倒す道か。 魔物と共に人と暮らす道か。 何を考えたらいいのかわからない。 何を基準にしたらいいのかも分からない。 僕の頭の中は糸が絡み合った糸玉みたいに、こんがらがってしまう。 ベッドに寝転がっても、椅子に座りなおしても、余計にこんがらがる。 こんがらがった糸を解こうとしても簡単に解けない。 僕はあーとかうーとか言いながらベッドの上で転がり続けた。 結局、僕が頭を抱えていると、僕の部屋のドアがノックされる。 「どうぞー」 「お邪魔するね」 入ってきたのは、僕と同じ位の背丈の女の子、マリーだ。 「悩んでいるだろうから、来てみたよ。邪魔だったら部屋に帰るけど」 「ううん。僕も、考えが纏まらなくて」 「それじゃ。失礼してっと」 マリーが僕のベッドに腰掛ける。 本当はラージマウスなんだけど、今のマリーは耳と尻尾を隠しているから、どう見ても普通の女の子にしか見えない。 そして、マリーが他の皆と違う点が一つ、ある。 それは、マリーが元々は普通の人間の女の子だったって事。 きっと僕が頭を抱えている理由を、他のみんなよりわかってくれるんじゃないかな。 そう思っていると、にぃとマリーが笑う。 「こういう人とか魔物とかって話は、やっぱり元人間の私じゃないと駄目。そう思ってたでしょ?」 「う。うん、正解」 「やっぱりねー」 マリーが足をバタバタさせて笑う。 少しの間、何でもない話をしてから、僕はずっと気になっていたことを聞く事にした。 「ねぇ、マリー。前から聞きたかったことなんだけどさ」 「なに?」 「人から魔物になった時、どんな気持ちだった?」 マリーは思い出そうと、目を閉じたり、首を捻ったりする。 「おなかすいた。えっちなことがしたい、かな。あと、子供を作りたいとか、噛みたいとか」 「そ、そうなんだ。いっぱいあるね。でも、どうして噛みたいって?」 「後で分かったんだけど。ラージマウスの前歯で噛むと、噛んだ部分からラージマウスの魔力が注がれるんだ。ラージマウスってむやみやたらと体の中に魔力を溜め込むから、すぐにえっちしたくなるんだよねー」 マリーは何だかんだで魔物だからかな。 えっちとかそう言う事を平気で言っちゃう。 そんな時、僕はもう顔を赤くするしかない。 「ねぇ、ロイス。ロイスは魔物の事、どう思ってる?」 いつの間にか足を止めたマリーが、じっと僕の目を見る。 「嫌いじゃないし、友達だと思うよ」 「怖くないの?」 「怖いって言われても」 少し考えてみる。 僕にとって、魔物は怖いけど怖くない。 怖いって言うなら、蛇やムカデの方が怖い。 けど、ラミアの人たちは何ていうか、怖いけど怖くない。 「ふーん。ロイスの言いたいこと、わからないでもないけどさ」 「どういうこと?」 「つまり、ラミアだろうと人間だろうと、怖い人は怖いし、怖くない人は怖くないって事」 言われてみれば、しっくりと来る。 「うん、そうだね」 僕は、僕の中で絡まっていた糸が、一つ解けた気がした。 それからマリーが簡単な質問を幾つか投げてきて、僕がそれに答えるやり取りを何度もした。 「じゃ、次。魔物が困っています。ロイスはどうする?」 「助けるよ」 「即答だね。なら次。誰か知らないけど、人が魔物に襲われています。どうする?」 「助けるよ」 「どうやって?」 「どうやってって言うと。んー。話し合って」 「はい、少年の目の前でその人は襲われちゃって、巣に持ち去られちゃいました」 「ええええ!?」 時々、マリーは僕を困らせる様に意地悪な質問をしてくる。 でも実際にそうなっちゃうんだってことも、旅をしてきた僕はわかる。 だって、何度も襲われたから。 「そいじゃ、次。魔物と人が結婚するって言ったら、どうする?」 「えっと。祝福する」 「それって主神様に?」 「うん!」 「はい残念。主神はそういうの嫌いだから」 「あー、そうだったー」 僕の答え方が変だと、マリーはどんな結果になるのかを教えてくれる。 実際にそうなるとは限らないって言ってくれるけど、僕も何がおかしかったのか、少しずつわかる様になっていく。 僕の頭の中でこんがらがった糸球が、1本ずつ、丁寧にほどけていくような感覚に、僕はうれしさが沸きあがってくる。 「じゃ、これで最後ね。ドラゴンの本拠地が人間の兵士たちに教われました。ピンチです。どうする?」 これは僕がずっと頭を悩ませてきた質問だ。 でも、今の僕は直ぐに答えられる。 「助けに行くよ」 マリーは僕の目をじっと見つめてくる。 「それで、本当にいいの?」 今までの軽い調子じゃない顔つき。 それもそうだ。 だって、これは僕の人生を左右しかねない話だから。 でも。 「うん。いいよ」 僕の答えは簡単に出てきた。 「だってさ。皆、仲良くしたいから。そういうの、無しにしたいんだ」 マリーは僕の答えをじっくり聞いてから。 「そっか。大変な道を選んだよ」 「うん。きっと僕の想像以上に大変なんだと思う。でも、決めたんだ」 そっかぁって、マリーはもう一度だけ呟いた。 「いいんじゃない?」 マリーがベッドから立ち上がると、部屋を出て行こうとする。 部屋を出る前に、マリーが振り向く。 「まー、心配する事は無いと思うんだけどね」 「どう言う事?」 マリーは人差し指を立てて、内緒話をするように背を曲げる。 「今回の事件。たぶん、ドラゴンも人も、誰も死なないで解決していると思うんだよね」 内緒だからね。 そう囁いてから、マリーは部屋を出て行った。 どういう事なんだろう。 マリーは心配なんてしていないみたい。 ドラゴンってやっぱり、すごく強いのかな。 「そうだよね。すごく強いんだよね」 勇者が二人居ても勝てないくらいなんだから。 沢山ドラゴンがいたら、人なんか鼻息一つで飛ばしちゃうに違いない。 僕は荷物整理をする。 要る物と要らない物を分けると、ベッドに寝転がる。 やっと寝付けそうだ。 「では出発しよう」 「おー!」 勇者の二人、リナリアさんとリーベック君は、まだ元気が無いし、これからの旅には連れて行けない。 だから二人より先に出発する事にした。 「忘れ物は無いねー?」 「うん」 「では少年。いこうか」 僕は少しだけ軽くなった荷物を背負って、歩き出す。 これから先の道を。 |
13/07/22 00:08 るーじ
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