連載小説
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陽気なコルコバード
喧騒と退廃、すべては同じ始点だ、悲しみから逃げるように、恐怖を煽り、その矛先を振り回す、その先に誰が傷つこうと、何も感じない、はじめからそういう奴は、誰よりも自分が傷ついていると、勘違いしているからな。

生い茂る森にはいくつもの生命が宿る、それは人から見れば不安に感じたり、好奇心に駆られたりするんだろうな、だが俺の場合は違った、そのときは、森の木々が俺の叫びをかき消すからと・・・・


その男は追われていた、年齢は30の半ば、頭髪はなく、右腕はない、涙を流しながら、鮮血を止めることもなく、逃げていた、誰とも分からない、黒衣に身を包まれたものたちに、それは影のように見えて、いくつもの意思を持っていた、あるものは先回りをして行く手をさえぎり、あるものはひたすらに男を追い詰めていった、やがて誰とも知らない男の逃避行は終わりを告げた、周囲を影が取り囲んだからだ、影たちは皆剣を持ち、男に近づいてゆく、男は諦めたように天を仰ぎ、何かに祈った、それはまるで太陽が男を取り囲む影を消すのを待つように、涙を流しながら、祈った。


刹那

男の世界は逆転した、正確には男の体が逆転したのだ、男の身体にはロープが括り付けられ、男の身体を支えていた、そして男は宙吊りになりながら飛翔したのだ。
影の一つが驚くように上を見上げる、何名かは屋根に跳躍をしてロープを切ろうとする、しかしそれよりも早く、男は高く飛び上がっていった

影の一つはその光景を、飛翔する男の姿を見ていた、そしてしばらくすると影は消えていく、通りには静寂が戻った。

飛翔した男は落ちていた、彼には空に飛ぶ術がない、地面が近づくと男の背中は強い衝撃を受ける、その衝撃は、男の肺を圧迫して男は意識が遠のいていくのを感じた、

「主よ・・・あの子をお守りください」
男は弱弱しい、誰に聞こえるかもわからないような声でそうつぶやくと、意識を失った。

「残念だな、お前さんを助けたのは・・・・・どっちかといえば悪魔だ」
男を抱えた何者かは、そう答えた。







「ブル、オイ、起きろ、オイ」
「ふぁ・・・・あい?・・・おはようございます」

バーテンダーにとって嫌いなものは何かと答えると、だいたい三つのだ、一つは酔っ払った乱暴もの、二つ目は注文をしないで好き勝手言ってくる衛兵、そして三つ目は早起きだ、夜遅くまで接客をしたあとの早起きほど嫌なものはない、それが予定にないものだったらなおさらだ。
「お前は黒、俺は白だ、いいな」
そういうとダニエルさんは白く塗られた渡し舟に乗っていく、今日は週に一度の買出しの日だ、野菜だとか酒なんかは町に卸業者がいないから買い付けないといけない、俺は食器だとか壊れたものの修理のためにだ。

この地域は三つの街になっている、正確には二つの都市国家と一つの自治区といったところだろうか。
この地域の中心にあるのは馬鹿でかい川だ、オマケに深い、近くにある山やら谷やらの水はすべてここに流れるそうだ、そんな川に分断されるように二つの町がある、そしてその丁度間に、左右に分流された川の中心にある小さな島が俺の働く店がある町だ。
二つの街の中は本来一つの国だったんだが川のせいで行政や情報がうまく伝わらないため、本来の行政区がない街には変わりに各種の商会ギルドが集まる議会があった、だけど二つの中は最悪、理由は二つある、一つは立地だ、片方の町は肥沃な大地が広がり、農業が盛んだ、もう一つの街は山岳地帯があり、金やら宝石やらが取れる、二つの街は最初はお互いのほしいものを交易しあったが、互いに摩擦が生じた。やれ貴金属の利益のほうが高いだの、農産物の関税が高いだの、不毛な争いをしていた。
そしてある日互いの中を徹底的に悪くした出来事があった、それがもう一つ、魔物の存在だ、
古くから貴金属などの加工や販売を通して魔物と信仰があった町の議会は魔物の受け入れに対して好意的だった、ところがもう一方は国を治める領主を含め大半が反魔物の教団が幅を利かせていた、この違いは決定的で、互いは戦争寸前にまでいったそうだ、そんな二つの街を取り持ったのは中心に住んでいた一族なんだそうだ、もともとは交易のための中継地として使われていた街に住んでいた商会ギルドは、二つの街に和平を持ちかけた、その結果、二つの街には不干渉の誓いが立てられ、二つを行き来していた船をすべてなくし、代わりに中継地でのみ物のやり取りを許可した、反魔物の街は結界を張り魔物を追い出した、そのうちに自分の街を「ホワイトクロスタウン」と名乗り、相手の町を「ブラッククロウタウン」と読んだ、そして中央の町を「アッシュ」と呼ぶことにした、かわりにアッシュとクロウタウンに自治権を認めた、そうして数十年、二つの街は均衡を保ってきたのだ。

「いいかブル、むこうにいったらよろしく頼む」
「ダニエルさんも、例のアレ、よろしくお願いしますよ」
アッシュの町から出る船には黒と白の色分けがしてある、船頭も同じように白と黒のバンダナをつけることで、それがどちらに向かうのかを分けている、そうすることで沿岸でのトラブルを減らしているのだ、
「おう、坊主、待たせたな」
「お願いします、リックさん」
リックさんはこの道数十年のベテランだガキのころから船頭をしていたとか、白いバンダナには金色の刺繍糸で飾り縫いがされている、このあたりの船頭をまとめる船頭頭の証だ、船も大きいもので大型の荷物を運ぶことが出来る、かわりに制御が難しく、まっすぐ進むにも技術がいるのだが、彼にとっては手足も同じなんだそうだ。
「相乗りする荷物は?」
「おう、鐘と木材だ、なんでも聖堂を建て直すらしくってな、最近も俺のところでいくつも運んだぜ」
なるほど、木箱にはこのあたりの聖教の証である白い翼が書かれている、おそらくは大司教かそのあたりのマークだろう、羽が多いほうが権力が強いらしい、書かれているマークにはいくつもの羽がかかれている。
「いいんすか?俺なんかが一緒に乗っても」
「ダニエルさんから荷降ろしのときに手伝いで使っていいって言われてるんだ、俺に取っちゃ人足とおなじってな」
なるほど、ダニエルさん・・・船賃をケチったな。
「ほら、さっさと乗りな、でないと向こうに着いたら昼がすぎちまう」
「ああ、スイマセン、すぐに乗ります」
俺は船に乗り込むと適当に座る場所を見つけて座った。どうやら木材も太いものを選んでいるらしい、わざわざ一つ一つに木箱と同じマークをつけている。
「向こうに着いたらどうするんだ?」
リックさんは櫂を扱いながら俺に話しかけた、いつも店で飲んだ暮れているときとは違い、働く男の顔と目だ、喋りはしているが、決して手を休ませたりはせず、手の感覚に集中をしている。
「ダニエルさんの愛用のナイフを研いで欲しいってのといくつか食器っすね」
「なんだ?食器?おまえ仕事で落として割ったりしてるのか?」
「なにいってんすか?この間木製の皿が割れるまで若い衆を殴ってた人が」
「ははっ、すまねぇすまねぇ、ありゃあの若いのがふざけたことを言ってるからだ」
そんなたわいのない話をして小一時間、対岸が見えてきた、さすがリックさんだ、なれていても数時間、初めての人間やると半日かかる渡し舟を最短でやってくれる。
「よっしゃ、接岸したら人手を集めるからそしたら荷物降ろすの手伝ってくれ」
「了解、どのぐらいで終わりそう?」
「そりゃお前の努力次第ってところだな、親分に怒られたくなければせいぜいがんばるこったな、アヒャヒャヒャヒャ」
そんなやり取りのあと、結局終わるまで2時間かかった、終わるころには昼をすぎ、自分が朝食を取れずに空腹が限界に近づいていた、
「し・・・・・死ぬ・・・」
神様、ひとかけらでいい、パンと水をください
「おい、ご苦労さん、飯だ」
リックさんから渡されたのは編まれた籠に入ったパンと水筒に入れられた水だった
「あなたが神様ですか・・・ありがとう」
そんなことを言いながら固めに焼かれたパンを齧り、水を口に含む、そして胃に栄養と水分を入れると、汗ばむ陽気の中、船の上で空を見上げていた。
13/05/18 20:08更新 / 左近右大臣
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■作者メッセージ
シリアスだと思った?残念、説明回でした。

・・・・・すんません。なんかすんません。

しかもあまり説明できてないし。
設定と矛盾があって気づいたら悲しくなるタイプですわ

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