・・・・・・何?この人?誰?
「ウウ……グスン」
暗い暗い闇の中、子供の泣き声が聞こえる。
辺りは無風、ときどき小動物が動く気配しかしない。
そう、音も無い。
「おねえちゃああん……ウウ…」
(やっぱり一緒にいれば良かった…)
声の主はまだインキュバスになってから間もない男の子だった。
今朝、お姉ちゃんであるミノタウロスとその夫、インキュバスのお義兄さんが結婚式を挙げる予定だと村で聞き、それじゃあ、と思い、花を摘みに行ったのだ。姉の友達からは危ないと言われていたがただ一人の家族(別にお義兄さんが家族じゃないわけではないが)なのだ。魔物化して結婚するまではいつも体がボロボロになるまで働いてくれた。
(だからそれくらい!)
その恩返しくらい当然、と子供心に思い急いで野山に分け入った。
子供だからこそ、だったのかもしれない。
だが、そこで異変が起きた。
山に入ってからしばらくすると突然大きな音がした。
村の方角からだ、たいした距離でもないので急いで戻ると…
(兵隊だ!)
村が教団に攻め入られていた。
急いで姉に会いたいがそうも行かない。今村に戻ったら大変な事になる。
震える体を動かし、やっとのことで普段大人も滅多に入らない山の洞窟に身を隠した。
隠れるまでずっとどこからか兵隊の声がしていたのだ。
洞窟に入っても聞こえるので、奥へ奥へと逃げた。
するといつの間にか暗闇の中にいた。少しの光があればインキュバスなので見えるかもしれないが、一筋の光さえ見ることは無かった。
(……おねえちゃん…………おねえちゃん)
ハア ハア……
体を動かさないようにしてからしばらく経つがなぜか息が速い。
(おねえちゃん)
ただ心の中で姉を呼ぶ。
「クソッ!」
ドン!
木の幹をミノタウロスが叩いた。
(なんで行かせたんだ……!)
ここは村から離れたとある森。人間の襲撃から避難した村人が集まっていた。
そんな中ミノタウロスはただ一人の血の繋がった弟を思う。
朝、花を摘みに行った。どうやら私達の正式な結婚を祝うためらしい。
(……なんでこんな日に…)
本来なら晴れ舞台になるはずが……教団への恨みが募る。
だがそれにも増して、自分自身に苛立ちが募る。
なんでこんな日を結婚日にしたのか……。
もちろんどうしようもない事だがそれでも苛立つ。自分を呪う。
そっと誰かの手が肩に置かれた。
夫だった。
その目はすまない、と言う風に哀しい目をしていた。
(馬鹿……すまないのはあたしだ)
ミノタウロスはただただ逃げ延びれたかどうかも分からない弟の事を思う。
「うおおおおお!勇者様ばんざあああああい!ばんざああああい!!」
村が占領されたでろう雄叫びが上がる。
勇者、巷で話題の伝説の勇者だろう。
(どうか……無事で…)
ミノタウロスは願う事しかできなかった。
「おねえちゃん、花……、ハア!、花、おねえちゃん…ハア、ハアア!」
子供は発狂寸前だった。
暗闇に閉じこまれ、音も無い。大人であってもいつかは狂うだろう。
「おねえちゃん、おねえちゃん、おねえ……ザスッ
ハッとする。
音が聞こえた。土や岩を踏む音だ。
(……誰?)
ザスッザスッザスッザス……
音は近づいてくる。
(人間だ……)
普段大人も近づかない。しかもこんな状況では来るはずも無い。となると…、
「ハア……ハア……」
(どうしよう)
勝てるだろうか、いや、勝たなければ行けない。
奥に逃げる事は……恐い。
そう判断し、近くの石を取り相手を待つ。
ザスッザスッザスッ
(来た!)
「イヤアアアアアアッ!!」
ゴス!
当たった。どこに!?
そんな疑問は謎の声にかき消された。
「アーーーーーーーーウチ!」
(……えっ?)
「いてええええ!あれ!?まじでいてえええ!」
「ヒッ」
子供は未だかつて痛みでここまで叫ぶ人は見たことがなかった。
「うおおおおおお!なになに!?どこに当たったの!どこに当たったのお!」
「……」
「うおおお!あ、ここか!ちくしょおここは……ここは……脛じゃねえかあああ!いてええええ!」
「……」
唖然と声がするほうを見ていると、
ガシッ!
「うわっ!」頭を掴まれた。
「このガキいいい!」
(殺される…)
子供心にそう思った。
「脛に当ててんじゃねええ!痛いだろうが!ああ!?」
「……」
目をつぶったままその時を待つ。
「分かってんのか!いてえんだぞ!なめくじ知ってるだろ?なめくじ!あれだ!塩まぶされたなめくじぐらいいてえんだぞ!」
「……」
「お前なめくじの気持ち考えた事あんのか!あん!?考えた事あんのか!」
「……」
「なめくじはなあ、必死ではいずってよお!、いや、必死じゃないかもしんないけど……とにかくだ!食べ物を見つけるために這ってんだ!」
「……」
「葉っぱの上とか、時には親戚のかたつむりと挨拶しながらいきてんだよ!」
「……」
「それをお前!お前!塩をまぶすとかないだろ!ああ!」
「……」
「第一よお、何?塩をまぶすって?何?何でまぶすの?いいじゃん!塩まぶさなくっても!いいんだぞ塩!うまいんだぞ!塩!」
「……」
「塩はなあ!大事だぞ!うん大事大事それをお前……」
男の話を聞きながら子供は思う。
(……いつ終わるんだろ?)
いつの間にか脛からなぜかなめくじの話になり、今度は塩になっている。
とりあえず、子供は目をつぶるのにも疲れたのでまずは目を開く事にした。
「なるほど……それでこんなところにいたのか〜」
いつの間にか若い男(声からして)と少年は壁にもたれ、座り込んで話していた。
「うん」
「そりゃあ大変だったな、うん。だが村に戻らなくて正解だ。あそこには今ちょっと強い勇者がいるからな」
「うん……お兄ちゃんも教団の兵士?」
「ああ、そうだ。それに驚くなよお!俺は……勇者だ!」
「……」
いやそれはないだろうと思った。勇者があんなに動揺するか。まず子供とはいえインキュバスと分かったら話さないし、いきなり斬りかかるだろう。まあ普通の人間でも武器があればそうする可能性大だが。
とりあえずちょっと変だが優しいお兄ちゃんと位置づける。
子供の無言をどう取ったかは分からないが、男は一度深呼吸をすると。
「疲れてるか?」
「ううん」
実際疲れてはいない。大分休めたようだ。
「それじゃあ行くか」
「……どうやって」
まさかこのまま入り口に戻るつもりだろうか。そうなると……
「行くって、奥に進むに決まってんだろ」
「え?」
「ちなみにこの奥には道が続いている。今じゃあ誰も知らねえだろうがな」
「何で知ってるの?」
「俺はお前らの村を襲撃した奴らとは別の件でこっちに来たんだ」
とりあえず歩こう、といって子供の手を取り立たせる。
「でも、暗くて見えないよ」
「確かにここは暗い。けど、太陽の光が入らないからって光が無いわけじゃない」
そういって男は子供の頭を地面に近づけ、どうだ、と訊く。
「……あっ!」
「見えるか?」
「うん」
なにかが光っていた。小さくて明かりも微弱なのでまったく気付かなかった。
「だいたい自然で生き物が生きていない所ってのはない。よく目を凝らせばその環境に適している奴がいるもんだ。たとえばこの植物」
男は壁から擦り取った光るものを子供に見せる。
「何で光ってると思う」
「……う〜ん」
「これはな、そこら辺にいる小さな動物を集めるためだ。虫とかな」
「……どうして?」
「海に住むチョウチンアンコウは明かりで獲物をおびき寄せる。これも同じだ。こんな暗いところで光ったら虫なんかが集まる。するとその近くに巣とかができる。そこで大往生した虫や、食べ残した死骸を養分にするってわけだ」
「へええ」
「すげえだろ。まあ虫の一生は短いモンが多いからな。それ程待たなくても養分はくるが結構長い話だ」
フッ、と植物を吹きとばす。
「ここら辺の奴は小さいが、奥に行ったらもっとあるはずだ」
「そうなの?」
「ああ、ついて来い」
また男は子供の手を取り奥へと進んでいった。
いつしか子供は自ら男の手を握る手に力を込めていた。
「そういえば別の件って何?」
歩きながら訊く。
今はあたり一面とはいわなくてもチラホラと地面や天井が光っている。
「ん?ああ、別の件ね。はいはい。実は病気で寝込んでる子供がお前のいた村からちょっと先にいてな。その親に頼まれたんだ。で、見たところこれは単純な病気じゃなくてな。万病に、とはいわねえがいろんな病気に効くスノーフラワーってやつを採りに来たんだ」
「スノーフラワー?」
「ああ、本来極寒の雪山に生えるんだが、稀に暖かいところでも群生する。雪山じゃあ危なくて採りにくいし、暖かいところでも稀だから採りにくい。つまり、かなり高い植物なんだ。もちろん普通の家庭が買えるはずもねえ。だから俺が一肌脱ごうとするわけだ」
「ふ〜ん。でも、お兄ちゃんもお金は取るんでしょ?」
「俺は勇者だ。だからとらねえ、って言いたいところだがそろそろ金欠でな。ちょっとはとるよ。もちろん原価と比べると破格だがな」
「……優しいんだね」
「だろ!俺は勇者だからな!」
ハイハイ、と適当に子供があしらう。
しばらく進むと、
「おっ、あったあった」
(あれが…)
それは白かった。ツル状で葉が垂れ下がっている。
(きれい…)
そう思った。
「よっ」
男が適当に摘む。
「……一本だけ?」
「ああ、これで充分だよ」
「ふ〜ん」
男が採ったものを見れば根っこも白かった。きれいだ。キラキラ光っている。
(あれ?)
雑に採ったように見えたが、ちゃんと根っこまできれいに採っている。
「お前も一本採ってくか?」
「いいの?」
「いいんじゃねえの」
「……」
おそるおそる近づいて……採ろうとする。
…抜けない。
「ああ、ああ、だめだぜそんなんじゃあ。根っこが痛んじまう。無理せずに当たりの土を掘って抜け。ちょっと土が固いがな」
「うん」
言われたとおりに掘り続ける。
掘って掘って掘って掘って……
どれぐらい経ったろうか。
「……抜けた!」
「おお、よくやったな!」
気付けば手から少し血がにじんでいた。
「ッ……」
鈍い痛みが走る。
「やっぱ傷できたか。見せろ」
男が手をとる。
そっと男が傷ついた手を両手で包む。
「……勝者の手だ。立派だぜ」
「……えへへ」
少し照れる。
男は懐から瓶を取り出すと、その中からクリーム状のものをすくい、傷に塗った。
「ま、これで大概の傷はすぐ治る」
「ありがとう」
「ん。じゃ、出るか」
「……戻るの?」
「いや、このまま進むと出口がある…らしい」
「ふ〜ん」
「よし行こう」
再び男は手を取り、進み始めた。
(……あ)
手を取られた時痛いかな、と思ったが。痛くなかった。
チラと男の顔があるであろう暗闇を見る。
薬がすごいのか、この男が意識して手を握ってくれるのか……。
子供は複雑に考えなかったが、こんなに無意識に頼りに思うのは姉以外いなかた。
「お」
「あ」
光の点が見える。
「もうすぐだな」
「うん」
少しずつ点は大きくなっていき、やがて点の中に植物が見え始めた。
鳥の声も聞こえてくる。
気が付けば自分が暗闇に慣れていたのに驚いた。
「ちょっと待て」
そういって男は立ち止まり、子供に何かを被せた。
「一応この洞窟は山の反対側に繋がっているからもう兵隊はいないと思うが一応、な。パッと見インキュバスは区別が付きにくいが顔は隠しとけ」
そうか、まだ敵はいるかもしれないのだ。
「どれぐらい時間が経ったの?」
「まだ一日が過ぎてもいない。明るいし、夕方だろう」
そんなに、と思うべきか、それだけ、と思うべきか分からなかった。
「そうだ。外に出るときまでは目を薄く開きながら、ゆっくり進もう、暗闇になれた目が急に強い光に会うと目がやられるからな」
そうなんだ、と初めて知った知識を頭にしまう。
言ったとおりに目を薄く開くと同時にペースがゆっくりになった。
だが確実に進んでいく。
そうして……出口に着いた。
辺りは夕焼けに覆われていた。
「やっとでれたな」
「うん」
一息つこうとしたところ、
グイと男が引っ張り背中に付かされた。
いきなりのことに疑問を口にしようとすると。
「そこにいるのは誰だ!」
太い男の声がした。
ビクッ!とする。
背中を影に前方を見ると甲冑に身を包んだ兵が二人丘を登ってきていた。
一人は弓を番えながら、一人は槍を構えている。
「……」
ギュッと男の手を掴む。
男が握り返してきた。
「そこを動くな!」
兵が近づいてくる。
「おいおい、勇者様にそれはないだろ?」
「なんだと!」
二人が間合いに入ってくる。
「……なんだ、あんたか…」
弓を構えた兵が腕を下ろす。
「知っているのか?」
「ああ、まったく問題ない」
「どういう輩だ?」
「新顔の奴に自分は勇者だとホラを吹く奴だ。まあ悪い奴じゃない」
「なんだと!勇者!?」
槍を構えた兵はジロジロ眺めたかと思うと、
「ハハハ!こんな奴が勇者!!」
「おいおい、おれは本気だぜ!」
男が反駁する。
だが子供の目から見ても確かに笑える話だった。
子供が被っているのはボロボロのケープのようなマントのような、悪く言うと茶色い布切れでどうやら男が着ていたものらしい。
その下はどうなっているかというと、薄手の上着にズボンといったどこからどう見ても普通の人間だ。
「分かった分かった」
勝手を心得ているのか弓の兵はもう警戒していない。
「そこの子供は何だ?」
だが槍の兵にはまだ警戒心が残っているようだ。
「ああ、近所の貧しい家のガキなんだがな。今日が父親の誕生日だからって山に果物や花を探しに来たんだ」
「こんなところにか」
「こんなところ、だからだよ。贈り物には確かに心が篭る必要があるが、心が篭ってて珍しいもんだったらもう号泣もんさ」
「……そんなものなのか」
「まあ確かにそうだろうな」
弓兵が同意する。
「安心しろ。こいつはそんな悪い奴じゃない。ボク、良いものは探せたか?」
コクリ、と頷いておく。
「そうか。……一応言っておくが気をつけろよ。ここに魔族の集団が逃げたとの報告がある」
「ふ〜ん。二人で大丈夫か?」
「我々の力を侮るな!」
「いやいや、数の有利ってものがあるだろ」
「お前の言うとおりだ。我々も探索に来たに過ぎない。とにかく、忠告したぞ」
「ああ。そうだあんたの妹、早く帰ってきて欲しいって言ってたぜ」
「そうか。むう。そろそろ休暇を出したほうが良いか」
「何を言う!こんな時に!」
「こんな時だからこそ、一日ぐらい休んだほうが良いぜ。なにせ本の中でもバタバタ人が死んでくんだ。現実はどうなるか分からねえ」
「うむ。……分かった。アンネには今回の兵役が終わったら戻ると伝えてくれ」
「ああ。ま、俺が戻る前にあんたが先に着きそうだがな。こっちも仕事があるし」
「分かった。気をつけて」
そうして二人と分かれた。
「知ってる人?」
「ああ、ちょっと旅をしてた頃の町でな」
「旅してるの?」
「ああ。一つの所に留まっても意味ねえだろ。なんたって俺は勇者だからな」
「はいはい」
「…信じてねえだろ」
信じてるよ、いやその目は信じてない、などと言っているうちに、
「あっ」
「どうした?」
「おねえちゃんの匂いだ!」
「そうか!良かったな!」
「うん」
「どうだ!これが勇者の力だ!」
「……まさか」
「…この野郎…」
早く会いたい、と体がウズウズする。
「……そいじゃ、ここでお別れといこうか」
「え?」
ピタッと体が止まる。
「一緒に来ないの?」
「ああ、俺はまだ人間なんでね」
「……」
「手、見せろ」
言われたとおりに見せる。
「……良い手だ。いいか。何事も真摯に、だ。忘れるなよ」
「…うん」
「どんなに傷ついてもそれを忘れなかったらまったく問題ない」
「うん」
「そんなお前にプレゼント」
男が先程の薬の瓶を握らせる。
「これで、傷ついても問題ない」
「……」
「…よし、いいな。さ。さっさと花、持っていてやれ」
男にケープを渡しながら男の顔を見る。
思えば男の顔を見たのはこれが初めてだった。
ややぼさぼさの黒髪に黒目、背は中より少し高いほどで腰には古びた、変な紋様が鞘に描かれた剣を吊るしている。
「…ここで待ってて!おねえちゃん達連れてくるから!!」
「え〜」
「待ってて!」
そうして子供は駆け出した。
「……アルル!」
「おねえちゃん」
ミノタウロスと幼いインキュバスが抱き合う。
「今までどこにいたんだ!」
子供は周りの魔者達に事情を手早く話した。
自分を助けてくれた人がいると。
最初は半信半疑だったがそんな人間もいるだろう、ということで皆が興味を持ち急いで向かった。
「お兄ちゃん!……あれ?」
別れた場所には誰もいなかった。
「……あたし達が恐かったのかな?」
「そんなことないよ!」
声が強く出る。
「……アルル」
「……あっ!」
地面を俯いているとそこになにか文字が彫られていた。
まるで子供、アルルがそうする事を知っていたかのように。
周りの魔物が覗き込む。
そこには…
この世は一期一会なんてしょっちゅうだ。グッドラック。なめくじの痛みを忘れずに。
勇者かもしれない人より
そう書かれてあった。
「……」
姉が肩に手を乗せる。
「いい人に会えたね」
「うん……」
他の魔物達はすでに旅支度を始めている。村が消えたので他に移るのだ。
誰も見ていない。あの人の姿を…。
「……行こうか」
「うん」
姉についていく。
心のそこで別れを告げる。
(さようなら、……勇者様)
どこかでフクロウが鳴いている。
すでに月も高く、さっきまで愛を交わしていたペアも寝入っている。
寝ている夫の横顔を見て、次に間に挟まれている弟の寝顔を見る。
(本当に良かった)
時間が経つにつれて弟の生死が怪しくなるのだ。気が気ではなかった。
(それにしても……)
弟を助けてくれた人間。一度会って見たかった。
弟の頭をさすっていると……、
(……ん?)
少し疑問を感じた。
弟は暗闇の中にいた、といった。しかしその男は暗闇の中の対処法を知っていた。
そんな男が弟が隠れていたことを知らなかったのだろうか?
(……まさかな)
いくら何でも少しの光があるかないかの暗闇の中で誰かがいるなんて分からないだろう。
たとえ分かっていたとしてもそれがなんだというのだ。
結果弟を助けてくれた。
(勇者かも知れない……人か…)
いつか会ってみたい。
暗い暗い闇の中、子供の泣き声が聞こえる。
辺りは無風、ときどき小動物が動く気配しかしない。
そう、音も無い。
「おねえちゃああん……ウウ…」
(やっぱり一緒にいれば良かった…)
声の主はまだインキュバスになってから間もない男の子だった。
今朝、お姉ちゃんであるミノタウロスとその夫、インキュバスのお義兄さんが結婚式を挙げる予定だと村で聞き、それじゃあ、と思い、花を摘みに行ったのだ。姉の友達からは危ないと言われていたがただ一人の家族(別にお義兄さんが家族じゃないわけではないが)なのだ。魔物化して結婚するまではいつも体がボロボロになるまで働いてくれた。
(だからそれくらい!)
その恩返しくらい当然、と子供心に思い急いで野山に分け入った。
子供だからこそ、だったのかもしれない。
だが、そこで異変が起きた。
山に入ってからしばらくすると突然大きな音がした。
村の方角からだ、たいした距離でもないので急いで戻ると…
(兵隊だ!)
村が教団に攻め入られていた。
急いで姉に会いたいがそうも行かない。今村に戻ったら大変な事になる。
震える体を動かし、やっとのことで普段大人も滅多に入らない山の洞窟に身を隠した。
隠れるまでずっとどこからか兵隊の声がしていたのだ。
洞窟に入っても聞こえるので、奥へ奥へと逃げた。
するといつの間にか暗闇の中にいた。少しの光があればインキュバスなので見えるかもしれないが、一筋の光さえ見ることは無かった。
(……おねえちゃん…………おねえちゃん)
ハア ハア……
体を動かさないようにしてからしばらく経つがなぜか息が速い。
(おねえちゃん)
ただ心の中で姉を呼ぶ。
「クソッ!」
ドン!
木の幹をミノタウロスが叩いた。
(なんで行かせたんだ……!)
ここは村から離れたとある森。人間の襲撃から避難した村人が集まっていた。
そんな中ミノタウロスはただ一人の血の繋がった弟を思う。
朝、花を摘みに行った。どうやら私達の正式な結婚を祝うためらしい。
(……なんでこんな日に…)
本来なら晴れ舞台になるはずが……教団への恨みが募る。
だがそれにも増して、自分自身に苛立ちが募る。
なんでこんな日を結婚日にしたのか……。
もちろんどうしようもない事だがそれでも苛立つ。自分を呪う。
そっと誰かの手が肩に置かれた。
夫だった。
その目はすまない、と言う風に哀しい目をしていた。
(馬鹿……すまないのはあたしだ)
ミノタウロスはただただ逃げ延びれたかどうかも分からない弟の事を思う。
「うおおおおお!勇者様ばんざあああああい!ばんざああああい!!」
村が占領されたでろう雄叫びが上がる。
勇者、巷で話題の伝説の勇者だろう。
(どうか……無事で…)
ミノタウロスは願う事しかできなかった。
「おねえちゃん、花……、ハア!、花、おねえちゃん…ハア、ハアア!」
子供は発狂寸前だった。
暗闇に閉じこまれ、音も無い。大人であってもいつかは狂うだろう。
「おねえちゃん、おねえちゃん、おねえ……ザスッ
ハッとする。
音が聞こえた。土や岩を踏む音だ。
(……誰?)
ザスッザスッザスッザス……
音は近づいてくる。
(人間だ……)
普段大人も近づかない。しかもこんな状況では来るはずも無い。となると…、
「ハア……ハア……」
(どうしよう)
勝てるだろうか、いや、勝たなければ行けない。
奥に逃げる事は……恐い。
そう判断し、近くの石を取り相手を待つ。
ザスッザスッザスッ
(来た!)
「イヤアアアアアアッ!!」
ゴス!
当たった。どこに!?
そんな疑問は謎の声にかき消された。
「アーーーーーーーーウチ!」
(……えっ?)
「いてええええ!あれ!?まじでいてえええ!」
「ヒッ」
子供は未だかつて痛みでここまで叫ぶ人は見たことがなかった。
「うおおおおおお!なになに!?どこに当たったの!どこに当たったのお!」
「……」
「うおおお!あ、ここか!ちくしょおここは……ここは……脛じゃねえかあああ!いてええええ!」
「……」
唖然と声がするほうを見ていると、
ガシッ!
「うわっ!」頭を掴まれた。
「このガキいいい!」
(殺される…)
子供心にそう思った。
「脛に当ててんじゃねええ!痛いだろうが!ああ!?」
「……」
目をつぶったままその時を待つ。
「分かってんのか!いてえんだぞ!なめくじ知ってるだろ?なめくじ!あれだ!塩まぶされたなめくじぐらいいてえんだぞ!」
「……」
「お前なめくじの気持ち考えた事あんのか!あん!?考えた事あんのか!」
「……」
「なめくじはなあ、必死ではいずってよお!、いや、必死じゃないかもしんないけど……とにかくだ!食べ物を見つけるために這ってんだ!」
「……」
「葉っぱの上とか、時には親戚のかたつむりと挨拶しながらいきてんだよ!」
「……」
「それをお前!お前!塩をまぶすとかないだろ!ああ!」
「……」
「第一よお、何?塩をまぶすって?何?何でまぶすの?いいじゃん!塩まぶさなくっても!いいんだぞ塩!うまいんだぞ!塩!」
「……」
「塩はなあ!大事だぞ!うん大事大事それをお前……」
男の話を聞きながら子供は思う。
(……いつ終わるんだろ?)
いつの間にか脛からなぜかなめくじの話になり、今度は塩になっている。
とりあえず、子供は目をつぶるのにも疲れたのでまずは目を開く事にした。
「なるほど……それでこんなところにいたのか〜」
いつの間にか若い男(声からして)と少年は壁にもたれ、座り込んで話していた。
「うん」
「そりゃあ大変だったな、うん。だが村に戻らなくて正解だ。あそこには今ちょっと強い勇者がいるからな」
「うん……お兄ちゃんも教団の兵士?」
「ああ、そうだ。それに驚くなよお!俺は……勇者だ!」
「……」
いやそれはないだろうと思った。勇者があんなに動揺するか。まず子供とはいえインキュバスと分かったら話さないし、いきなり斬りかかるだろう。まあ普通の人間でも武器があればそうする可能性大だが。
とりあえずちょっと変だが優しいお兄ちゃんと位置づける。
子供の無言をどう取ったかは分からないが、男は一度深呼吸をすると。
「疲れてるか?」
「ううん」
実際疲れてはいない。大分休めたようだ。
「それじゃあ行くか」
「……どうやって」
まさかこのまま入り口に戻るつもりだろうか。そうなると……
「行くって、奥に進むに決まってんだろ」
「え?」
「ちなみにこの奥には道が続いている。今じゃあ誰も知らねえだろうがな」
「何で知ってるの?」
「俺はお前らの村を襲撃した奴らとは別の件でこっちに来たんだ」
とりあえず歩こう、といって子供の手を取り立たせる。
「でも、暗くて見えないよ」
「確かにここは暗い。けど、太陽の光が入らないからって光が無いわけじゃない」
そういって男は子供の頭を地面に近づけ、どうだ、と訊く。
「……あっ!」
「見えるか?」
「うん」
なにかが光っていた。小さくて明かりも微弱なのでまったく気付かなかった。
「だいたい自然で生き物が生きていない所ってのはない。よく目を凝らせばその環境に適している奴がいるもんだ。たとえばこの植物」
男は壁から擦り取った光るものを子供に見せる。
「何で光ってると思う」
「……う〜ん」
「これはな、そこら辺にいる小さな動物を集めるためだ。虫とかな」
「……どうして?」
「海に住むチョウチンアンコウは明かりで獲物をおびき寄せる。これも同じだ。こんな暗いところで光ったら虫なんかが集まる。するとその近くに巣とかができる。そこで大往生した虫や、食べ残した死骸を養分にするってわけだ」
「へええ」
「すげえだろ。まあ虫の一生は短いモンが多いからな。それ程待たなくても養分はくるが結構長い話だ」
フッ、と植物を吹きとばす。
「ここら辺の奴は小さいが、奥に行ったらもっとあるはずだ」
「そうなの?」
「ああ、ついて来い」
また男は子供の手を取り奥へと進んでいった。
いつしか子供は自ら男の手を握る手に力を込めていた。
「そういえば別の件って何?」
歩きながら訊く。
今はあたり一面とはいわなくてもチラホラと地面や天井が光っている。
「ん?ああ、別の件ね。はいはい。実は病気で寝込んでる子供がお前のいた村からちょっと先にいてな。その親に頼まれたんだ。で、見たところこれは単純な病気じゃなくてな。万病に、とはいわねえがいろんな病気に効くスノーフラワーってやつを採りに来たんだ」
「スノーフラワー?」
「ああ、本来極寒の雪山に生えるんだが、稀に暖かいところでも群生する。雪山じゃあ危なくて採りにくいし、暖かいところでも稀だから採りにくい。つまり、かなり高い植物なんだ。もちろん普通の家庭が買えるはずもねえ。だから俺が一肌脱ごうとするわけだ」
「ふ〜ん。でも、お兄ちゃんもお金は取るんでしょ?」
「俺は勇者だ。だからとらねえ、って言いたいところだがそろそろ金欠でな。ちょっとはとるよ。もちろん原価と比べると破格だがな」
「……優しいんだね」
「だろ!俺は勇者だからな!」
ハイハイ、と適当に子供があしらう。
しばらく進むと、
「おっ、あったあった」
(あれが…)
それは白かった。ツル状で葉が垂れ下がっている。
(きれい…)
そう思った。
「よっ」
男が適当に摘む。
「……一本だけ?」
「ああ、これで充分だよ」
「ふ〜ん」
男が採ったものを見れば根っこも白かった。きれいだ。キラキラ光っている。
(あれ?)
雑に採ったように見えたが、ちゃんと根っこまできれいに採っている。
「お前も一本採ってくか?」
「いいの?」
「いいんじゃねえの」
「……」
おそるおそる近づいて……採ろうとする。
…抜けない。
「ああ、ああ、だめだぜそんなんじゃあ。根っこが痛んじまう。無理せずに当たりの土を掘って抜け。ちょっと土が固いがな」
「うん」
言われたとおりに掘り続ける。
掘って掘って掘って掘って……
どれぐらい経ったろうか。
「……抜けた!」
「おお、よくやったな!」
気付けば手から少し血がにじんでいた。
「ッ……」
鈍い痛みが走る。
「やっぱ傷できたか。見せろ」
男が手をとる。
そっと男が傷ついた手を両手で包む。
「……勝者の手だ。立派だぜ」
「……えへへ」
少し照れる。
男は懐から瓶を取り出すと、その中からクリーム状のものをすくい、傷に塗った。
「ま、これで大概の傷はすぐ治る」
「ありがとう」
「ん。じゃ、出るか」
「……戻るの?」
「いや、このまま進むと出口がある…らしい」
「ふ〜ん」
「よし行こう」
再び男は手を取り、進み始めた。
(……あ)
手を取られた時痛いかな、と思ったが。痛くなかった。
チラと男の顔があるであろう暗闇を見る。
薬がすごいのか、この男が意識して手を握ってくれるのか……。
子供は複雑に考えなかったが、こんなに無意識に頼りに思うのは姉以外いなかた。
「お」
「あ」
光の点が見える。
「もうすぐだな」
「うん」
少しずつ点は大きくなっていき、やがて点の中に植物が見え始めた。
鳥の声も聞こえてくる。
気が付けば自分が暗闇に慣れていたのに驚いた。
「ちょっと待て」
そういって男は立ち止まり、子供に何かを被せた。
「一応この洞窟は山の反対側に繋がっているからもう兵隊はいないと思うが一応、な。パッと見インキュバスは区別が付きにくいが顔は隠しとけ」
そうか、まだ敵はいるかもしれないのだ。
「どれぐらい時間が経ったの?」
「まだ一日が過ぎてもいない。明るいし、夕方だろう」
そんなに、と思うべきか、それだけ、と思うべきか分からなかった。
「そうだ。外に出るときまでは目を薄く開きながら、ゆっくり進もう、暗闇になれた目が急に強い光に会うと目がやられるからな」
そうなんだ、と初めて知った知識を頭にしまう。
言ったとおりに目を薄く開くと同時にペースがゆっくりになった。
だが確実に進んでいく。
そうして……出口に着いた。
辺りは夕焼けに覆われていた。
「やっとでれたな」
「うん」
一息つこうとしたところ、
グイと男が引っ張り背中に付かされた。
いきなりのことに疑問を口にしようとすると。
「そこにいるのは誰だ!」
太い男の声がした。
ビクッ!とする。
背中を影に前方を見ると甲冑に身を包んだ兵が二人丘を登ってきていた。
一人は弓を番えながら、一人は槍を構えている。
「……」
ギュッと男の手を掴む。
男が握り返してきた。
「そこを動くな!」
兵が近づいてくる。
「おいおい、勇者様にそれはないだろ?」
「なんだと!」
二人が間合いに入ってくる。
「……なんだ、あんたか…」
弓を構えた兵が腕を下ろす。
「知っているのか?」
「ああ、まったく問題ない」
「どういう輩だ?」
「新顔の奴に自分は勇者だとホラを吹く奴だ。まあ悪い奴じゃない」
「なんだと!勇者!?」
槍を構えた兵はジロジロ眺めたかと思うと、
「ハハハ!こんな奴が勇者!!」
「おいおい、おれは本気だぜ!」
男が反駁する。
だが子供の目から見ても確かに笑える話だった。
子供が被っているのはボロボロのケープのようなマントのような、悪く言うと茶色い布切れでどうやら男が着ていたものらしい。
その下はどうなっているかというと、薄手の上着にズボンといったどこからどう見ても普通の人間だ。
「分かった分かった」
勝手を心得ているのか弓の兵はもう警戒していない。
「そこの子供は何だ?」
だが槍の兵にはまだ警戒心が残っているようだ。
「ああ、近所の貧しい家のガキなんだがな。今日が父親の誕生日だからって山に果物や花を探しに来たんだ」
「こんなところにか」
「こんなところ、だからだよ。贈り物には確かに心が篭る必要があるが、心が篭ってて珍しいもんだったらもう号泣もんさ」
「……そんなものなのか」
「まあ確かにそうだろうな」
弓兵が同意する。
「安心しろ。こいつはそんな悪い奴じゃない。ボク、良いものは探せたか?」
コクリ、と頷いておく。
「そうか。……一応言っておくが気をつけろよ。ここに魔族の集団が逃げたとの報告がある」
「ふ〜ん。二人で大丈夫か?」
「我々の力を侮るな!」
「いやいや、数の有利ってものがあるだろ」
「お前の言うとおりだ。我々も探索に来たに過ぎない。とにかく、忠告したぞ」
「ああ。そうだあんたの妹、早く帰ってきて欲しいって言ってたぜ」
「そうか。むう。そろそろ休暇を出したほうが良いか」
「何を言う!こんな時に!」
「こんな時だからこそ、一日ぐらい休んだほうが良いぜ。なにせ本の中でもバタバタ人が死んでくんだ。現実はどうなるか分からねえ」
「うむ。……分かった。アンネには今回の兵役が終わったら戻ると伝えてくれ」
「ああ。ま、俺が戻る前にあんたが先に着きそうだがな。こっちも仕事があるし」
「分かった。気をつけて」
そうして二人と分かれた。
「知ってる人?」
「ああ、ちょっと旅をしてた頃の町でな」
「旅してるの?」
「ああ。一つの所に留まっても意味ねえだろ。なんたって俺は勇者だからな」
「はいはい」
「…信じてねえだろ」
信じてるよ、いやその目は信じてない、などと言っているうちに、
「あっ」
「どうした?」
「おねえちゃんの匂いだ!」
「そうか!良かったな!」
「うん」
「どうだ!これが勇者の力だ!」
「……まさか」
「…この野郎…」
早く会いたい、と体がウズウズする。
「……そいじゃ、ここでお別れといこうか」
「え?」
ピタッと体が止まる。
「一緒に来ないの?」
「ああ、俺はまだ人間なんでね」
「……」
「手、見せろ」
言われたとおりに見せる。
「……良い手だ。いいか。何事も真摯に、だ。忘れるなよ」
「…うん」
「どんなに傷ついてもそれを忘れなかったらまったく問題ない」
「うん」
「そんなお前にプレゼント」
男が先程の薬の瓶を握らせる。
「これで、傷ついても問題ない」
「……」
「…よし、いいな。さ。さっさと花、持っていてやれ」
男にケープを渡しながら男の顔を見る。
思えば男の顔を見たのはこれが初めてだった。
ややぼさぼさの黒髪に黒目、背は中より少し高いほどで腰には古びた、変な紋様が鞘に描かれた剣を吊るしている。
「…ここで待ってて!おねえちゃん達連れてくるから!!」
「え〜」
「待ってて!」
そうして子供は駆け出した。
「……アルル!」
「おねえちゃん」
ミノタウロスと幼いインキュバスが抱き合う。
「今までどこにいたんだ!」
子供は周りの魔者達に事情を手早く話した。
自分を助けてくれた人がいると。
最初は半信半疑だったがそんな人間もいるだろう、ということで皆が興味を持ち急いで向かった。
「お兄ちゃん!……あれ?」
別れた場所には誰もいなかった。
「……あたし達が恐かったのかな?」
「そんなことないよ!」
声が強く出る。
「……アルル」
「……あっ!」
地面を俯いているとそこになにか文字が彫られていた。
まるで子供、アルルがそうする事を知っていたかのように。
周りの魔物が覗き込む。
そこには…
この世は一期一会なんてしょっちゅうだ。グッドラック。なめくじの痛みを忘れずに。
勇者かもしれない人より
そう書かれてあった。
「……」
姉が肩に手を乗せる。
「いい人に会えたね」
「うん……」
他の魔物達はすでに旅支度を始めている。村が消えたので他に移るのだ。
誰も見ていない。あの人の姿を…。
「……行こうか」
「うん」
姉についていく。
心のそこで別れを告げる。
(さようなら、……勇者様)
どこかでフクロウが鳴いている。
すでに月も高く、さっきまで愛を交わしていたペアも寝入っている。
寝ている夫の横顔を見て、次に間に挟まれている弟の寝顔を見る。
(本当に良かった)
時間が経つにつれて弟の生死が怪しくなるのだ。気が気ではなかった。
(それにしても……)
弟を助けてくれた人間。一度会って見たかった。
弟の頭をさすっていると……、
(……ん?)
少し疑問を感じた。
弟は暗闇の中にいた、といった。しかしその男は暗闇の中の対処法を知っていた。
そんな男が弟が隠れていたことを知らなかったのだろうか?
(……まさかな)
いくら何でも少しの光があるかないかの暗闇の中で誰かがいるなんて分からないだろう。
たとえ分かっていたとしてもそれがなんだというのだ。
結果弟を助けてくれた。
(勇者かも知れない……人か…)
いつか会ってみたい。
11/12/23 15:39更新 / nekko
戻る
次へ