読切小説
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図書館のひみつ

 えっと、魔女のルーシアといいます。まだサバトに入ったばかりで右も左もわからないです。
 優秀な先輩達のおかげでなんとか、こんなわたしでもこのサバトで色々なことを学ぶことができてます。



「ルーシアちゃん!」
「わっ! な、なんですか」
 図書館に向かって歩いていたら、リム先輩からいきなり抱き着かれて危なく本を落っことしちゃうところでした。
「リム先輩、あの、びっくりしますので」
 リム先輩はラタトスクという魔物さん。とってもかわいくて、しっぱをもふもふさせてもらったことがある。先輩だけど誰にでもこうして気軽に話しかけてくれる。
「えへへ、なになに資料運びなら手伝うよーっ。それとも、もふもふするぅ???」
 にこっとしたかと思うとリム先輩がくるっと振り向いてわたしに向かってしっぽを……うう、こんなの反則だよ。
「ほらぁ、遠慮はいらないよーっ」

 もふ

「せ、先輩……、やっぱりこれとってもきもちいいです」
「ふふふ、実はねー。新しいお手入れのブラシとか手に入れたのだ!! えっへん」
「これは、一日中もふもふできますよ」
 わたしはいつの間にかリム先輩のしっぱを全身でぎゅってしてしまった。

 しあわせ。

「あ、わたしったら、なんてことをごめんなさい!」
「ふふふー、いいんだよ。ふむふむ、これで50達成!! ありがとーーーっ」
 え、50ってなんだろう。それにリム先輩はいつの間にかメモ用紙を取り出して何かを書いてる。
「それ、なんですか?」
「ルーシアちゃんは協力してくれたから教えてあげるね。ズバリっ! これはわたしのしっぽのもふもふの評価をしてるのだ! 次のサバトジャーナルの記事楽しみにしててねーーーーっ」
「あ、あの」
 そう言うとものすごい勢いでリム先輩がはしってどこかにいっちゃった……。
 わたしはあのもふもふを思いだす。というかまだ手にあのぬくもりがある。記事の内容は気になったけれど、早く本と資料を図書館に置いてこないと!



「すー、すー」
 わたしは図書館へ入った時、さらにびっくりしてしまった。
 我がサバトの、えっと、本を枕にして絶賛眠っているけれど。
 バフォメットのルーニャ・ルーニャ様だ。


 そもそもわたしがこのサバトに入るきっかけをくれたお方。わたしは魔女になったのはいいんだけど、肝心な魔法が全然だめだめだった。
 魔力はあるって言われたけれど……。

 そこで、バフォさま、えっと一番偉いバフォメット様に連れられて来たのが、このルーニャ様のサバトだった。
 たくさんの本がある図書館を見てわたしは思わず。わーーーー!! って言っちゃった。バフォさまは笑っていたけれど、すごく恥ずかしかった。でもでも、ほんとに見渡す限りの本、本、本、ほんがいっぱい。人間の時から読書が大好きだったわたしとってここは天国だった。


「すぅすぅ」
 それで、その本に囲まれるようにして眠っておられるのが、えと、ルーニャ様。

 どうしよう。
 たかーく積み上げられた本がグラグラ揺れている。

 このままだと、本が崩れてルーニャ様が本の中に埋まっちゃう!

「あ、あの、ルーニャ様」
「くー」
 うう、どうしよう。なんで誰もいないんだろう。リム先輩はどっかにいっちゃったし、来るまでに誰にも会っていない。いつも居る司書さんも居ない。

「んー」
 あああ、ルーニャ様の足が本に!!
 
 ぐらぐら

「る、ルーニャ様!! あぶないっ」
 わたしは持っていた本と資料を置いてルーニャ様に向かって走り出した。
 そうしている間にも、本が、上から崩れて、お願い間に合って!!
 




 気が付いたら、なにかあたたかいモノの上でわたしは横になっていた。


 あれ?

 あれれ?

「おはよう〜。だいじょうぶ??」
「え、ええ、ルーニャ様」
 もしかして、ここって、ルーニャ様のお顔が上にあって、わたしが横になってて。


 もしかしなくてもひざまくら


「あ、あのすぐにどきますっ」
「ルーニャとお昼寝しよ〜」
 え、えええ、ちょっとルーニャ様、いつの間にか、後ろには、もふもふの羊のクッションが置いてあった。
 リム先輩のもふもふもすごかったけれど、ルーニャ様のお膝も、いやいや、そうじゃなくて!
「あの、ルーニャ様」
「くー」

 よーくみると本が崩れたままになっている。

 動きたいけれど、ルーニャ様に抱き着かれてて動けないよぉ。
 どうしよう。

「ルーニャのまくら〜」
「あの」
 
 さらにぎゅーーっと抱きしめられる。えっと、もしかしなくてもルーニャ様の枕? わたしが??

「えへへ〜〜」

 顔がくっつくくらいにルーニャ様の寝顔が近くにあって、息が当たって、同じ女の子同士なのに、どきどきがとまらない。

「んん?」
「ルーニャ様、あの」
「あれ〜、ルーニャまた眠ってた」
 良かった。ルーニャ様がくぅぅっと腕を伸ばして。おっきく口を開けた。

「吾輩は……眠たいのだ」
「起きましょう。え、えと、わたしはあの本を片付けますのでルーニャ様は自室でおやすみください」
「? 司書が片づけるから大丈夫だろう。というかここが吾輩の部屋でもあるぞ」
「え、そうなんですか、でも」
 ようやく起き上がってくれたルーニャ様。というかあの本の山を片付けるの大変そうだよ。

「大丈夫、吾輩は使えないが司書の魔法で元通りになるのだ」
「なるほどです。……あ、あのっ、さっきはごめんなさい!」
「ん? なにかあったのか」
 わたしはルーニャ様にお話しした。本の雪崩と。あと、ひざまくらのことも……。

「吾輩を助けようとしてのことだろう。むしろお礼をいうは吾輩だ」
「そ、そんな」
 まさかルーニャ様とお話して、ペコリとお辞儀までしてもらって、もうわたしの心臓は飛び出そうだ。

「その本は」
 ルーニャ様がわたしの置いた本と資料に目を向けた。あ、そもそもこれを返却に来たんだった。

『まじかる☆ばふぉめっと』

 初版本も部屋にもあるけれど、実は何回も刷りなおされてて、それにシリーズ物だし、わたしはよくここに借りにきていた。

「あの、大好きなんです。お部屋にもありますけど、新しいシリーズが出ていたので、あの、すっごく楽しいし、わたしも魔法が苦手で……その、あの」
「ふふふ、そうか、ありがとう」

 ルーニャ様の笑顔。
 それからも色々お話ができた。まさか、こんなことになるなんて思っていなかったので、わたしは時間も忘れてゆっくりしてしまった。

「もうこんな時間でした」
「そうか」
「あの、またここに来てもいいですか」
「当然なのだ。ここの本はみんなの物、ルーシアちゃんには吾輩の書庫にもぜひ来てほしいのだ」
 すっと指さした方向を見ると『ルーニャの書庫』という文字が見えた。

「ええっ、あそこは閉架書庫で立ち入り禁止だって聞きました。それにわたしの名前まで」
「む、吾輩がいいと言っているから問題ない。それにサバトの魔女達もちろん、所属している者の名前はみんな覚えているぞ」
 にこっと笑ってくれるルーニャ様、うわ、わわわわ。どうしようきっとわたし感動で顔が真っ赤で泣きそう。

「では、またな、ルーシアちゃん」
「ありがとうございました。ルーニャ様」
「それから魔法が苦手といっていたが、大丈夫なのだ」
「え、それって」
「つづきはまた今度」



 閉められてしまう書庫。

 でもなんだろう。

 やっぱり、このサバトに来て良かった。 

 


 少女の胸には『まじかる☆バフォメット』の最新刊、しかもルーニャ・ルーニャ様の直筆のサイン入りが大事そうに抱えられていた。
「えへへっ」
 


 ルーニャ・ルーニャのサバトは今日もどこかゆっくりと時間が流れて行く。
18/08/28 21:51更新 / ロボット4頭身

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