読切小説
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魔導院のダメ魔術教師
 
 魔導院の魔術教師である僕は彼女に恋をしてしまった。


 ミミル・ミルティエ


 しかし、彼女は天才魔法少女である。(正式には“天才魔術師”なのだが、僕は勝手に魔法少女と呼んでいる)教えることはもう何も無く。時々、魔導院でその姿を見ては、色々と妄想をした。

 そもそも、ここはレスカティエ教国、魔術の最高機関の神聖なる学舎、とっくに僕の魔法技術を追い越して、何度か授業で意地悪な質問をされて、散々な目にあった。
 最初は、生意気な生徒だと思っていたが、彼女は天才すぎた。あっという間に他の生徒を追い越したと思っていたら、今ではレスカティエの勇者の一人で最強の魔法少女である。


 僕は過去に数回だけ教えた頃を思い出す。

「あーあ、先生そんなことも知らないの?」

 覚めた目で自分よりも年下の少女にバカにされる。

「もういいや、先生いらない」

 他の生徒が唖然とする中、彼女が教室を出ていく。


 そんな態度をとられたら普通の教師はものすごく怒るだろう。
 しかし、僕はいつの間にかミミルちゃんのその態度で興奮するおかしな人間になっていた。

 もうすでに遠い存在になってしまったミミルちゃん、可愛らしい服で着飾って、ものすごい魔法で大人たちを驚かせる彼女。僕の中にはほんとに少ししか彼女との思い出は無い。

 しかもバカにされた。というどうしょうもない記憶しかない、一人でその時のことを思い出しては自慰に耽っていた。
 それだけ彼女のことが好きになってしまっていた。

 ああ、ミミルちゃん!
 ミミルちゃん!!



 こんなことがバレたら極刑だ。
 レスカティエの魔導院の教師たるものが、一生徒にゾッコンなどとバレてはいけない。
 しかし、それがより僕の興奮を誘った。絶対手を出してはならない存在の彼女。

 はぁはぁ……ミミルさまっ、いつの間にか様付けになっていた。

 あのちっちゃい足で踏まれたい。また、あの時みたいにバカにされたい。
 狂っていた。わかってる。でも手が止まらない。ペニスが痛いくらいに勃起して、何度も欲望をぶちまける。



「先生?」
 授業中なのに妄想してしまったあの小さい手でバカにされながら何度も寸止めされたい、あの冷たい目で愚かな僕を……

「先生、大丈夫ですか?」
「ああ、ごめん。次のページだな」
 その日の授業をなんとか終わらせて、家へと帰った。

 日に日にひどくなっていく妄想。
 







 そんな僕の弱味につけこまれたのだろう。たまたま違う村で行われた魔法の講師として呼ばれたその帰り道、僕は魔物に襲われてしまった。
 魔物は、なんと僕のこれまでのミミルへの想いを知っていた。
 しかも相手はあのリリムだ。出会った時、僕の人生は終わったのだ。

「あの、魔導院の教師が聞いて呆れちゃうわ。バッカじゃないの!?」
 リリムは散々僕のことを見下してきた。これまでの自分の行為を振り替えってみてもそれは当然だ。

「ああ、そうさ。僕はあの天才魔法少女に歪んだ愛情を持ってしまった。どうせ、そのうち我慢できなくなって同じ年頃の生徒を襲っていただろう」
「やだわ。とんでもない人間がいたものね」
 すっかり呆れた様子のリリム。
「頼む。このままじゃ、俺は本当におかしく、いやすでにもうダメだ。いっそ〇してくれ」
「断るわ。魔物は決して人間を〇さない、例えあんたみたいな、どうしようもない人間だったとしてもね」
 僕は目の前が真っ白になった。
 そんなバカな…、魔物は人を襲って残虐に〇すって教えられてたのに……。
「あーあ、説明するのも面倒だわ。とにかくあんたは〇さない」
 魔法で拘束された体が自由になる。
「自由になさい。何かに利用できると思って捕らえたけど、こんな役立たずの愚か者だったなんて、わざわざ私が出向くまでもなかった。というか去れ。不愉快だ!」
 冷たい目で睨みつけるリリム。
 魔物にまで見放された。

 もうおしまいだ。
 僕はレスカティエに帰ることも出来ず、ここで朽ちよう。それでいい。
 誰も傷つかないし。これでいいんだ。
 横になって空を見る。ああ、綺麗だ。

 最高の最期。
 
 目を閉じる。魔物じゃなくてもこのままここにいれば夜には野生動物に襲われて食われるだろう。

 その時、空が見えなくなった。
 ああ、もう腹を空かせた……あれ?


「……バカね。わたしもどうかしてるわ」
 ぎゅっと抱き締められる感触。去ったはずのリリムが僕を抱き締めていた。
「な、な、どうして!」
 返事の代わりにリリムは更に僕を抱き締める力を強くする。
「ほっとけないじゃない。例え救い用のないクズで最低な人間でも、自ら命を捨てるなんて真似はさせないわ」
 魔物は絶対悪と教えられてきた。それなのになんだこの状況は、あのリリムが僕を慰めている?
 でも、不思議と安心する。
 教会で祈りを捧げても、どんなに懺悔しても救われなかった僕が、今魔物に救われている。

「ほら、ぎゅってしてあげる」
「いいのか、こんな最低な人間に触ったら、腐るかもしれないぞ」
「ばっかじゃないの、あんたは黙ってこの胸に抱かれてなさい。このリリム様がこんなことするなんて普通はありえないんだから」

 そしてしばらく静かな時間が続いた。

 満たされる想い。

 魔物を誤解していた自分を恥じる。


 それよりももっと最低な自分が恥ずかしい。




 
「それじゃ、あなたに一つ提案してあげる。魔界に来ることを望むなら、あんたの働き口も探してあげるわ」
「そんな、いいのか?」
 抱き締められていた手が離されると、リリムが僕の目を見てはっきりと言う。

「どのみち、レスカティエはもうすぐ堕ちる。あなたが居ようが居まいが、もうこれは止められない」
「な、それは本当か」
 微笑むリリム、いや、彼女達ならあのレスカティエでさえ魔界に変えることができるのかもしれない。
「本当よ。あなたが想いを寄せている子も、みんなみんな魔物になるの……」
「そっか」
「あら、以外。もっと驚くと思っていたのに」
「もう、いいんだ。あの国に居ても苦しむだけだ。お願いします。僕を魔界に連れていってください」
 僕はリリムに頭を下げた。

 せっかくの提案だ。
 それに救ってくれた魔物にあんなに優しく抱き締められて、それから断るなんていう選択は僕にはなかった。
 
「頭を上げなさい。わかったわ。魔界に連れていってあげる」
 リリムが再び僕を抱き締める。

 やがて僕は意識を失った。






「ふむ、こやつか」
「そうよ。役に立たなかったらどっかに捨ててもいいから」
「そんなことせんわい。わしはこれでもバフォメットじゃ! 一応、他の魔女達のお兄様候補になるかもしれん。こやつは預かるぞ」
「ふふ、ちょっとあたしが抱いてあげたから、もしかしておっぱいの大きな魔物に性癖が変わったかもしれないわぁ」
 男が狂わないようにリリムとして自動発動される魅了等はすべて強引に押し込めて正解だった。

「サバトを舐めるな、それならまた幼い少女の背徳と魅力を上書きしてやる」
 バフォメットならあの男を正しい道へと戻してくれるに違いない。と言っても淫らな道。
 
「よろしくね♪」
 まあ、どのみちどうなるかは、あの男次第ね。

「ふん」
 リリムの奴め、あやつの考えなどすべてお見通しじゃ。面倒ごとばかりわしに押し付けおって。まあ良い。
 ちょっとした暇潰しにはなるじゃろ。


「ここは」
「サバトじゃ、お兄ちゃん候補よ。リリムに聞いたが、お主、魔法を教えていたそうじゃな?」
 あ、あのバフォメットが僕の前に居る。最強の魔物だ。リリムに続いて、まさかこんな魔物まで出てくるとは。
「そ、そそそうです!」
「くく、まあ、そんなに緊張するな、お兄ちゃん。ここにはお主の仕事があるぞ、まだ幼い魔女見習い達に魔法の基礎を教えてやって欲しいのじゃ」
 バフォメットもリリムに劣らず恐ろしい魔物だと聞いていた。
 それなのに、この僕に仕事を……しかも僕の専門分野の魔法の基礎。
「あ、ありがとうございます。こんな僕ですが、精一杯がんばります」

 いきなりの話だった。
 場所は変わるが、また魔法を教えることができる。それに一度は捨てようと思った命だ。とことんやってやる!
 バフォメットはうんうんと頷いて、ニヤリと微笑みながらも歓迎してくれた。
「さて、お兄ちゃん、わしには惚れるなよ? わしは自分より強いお兄ちゃんを探しておるからの、まあ、これは、その給料の前払いじゃ」
 
 ぎゅっ

「え、ちょ、ちょっと」
 もふもふの手に抱き締められる感触。リリムに続いて。まさかあのバフォメットにも抱き締められるなんて。
「くく、どうじゃ、お兄ちゃん、リリムのでっかいあの脂肪より、こっちのがよいじゃろ?」
 僕の頭を撫でながら耳元でささやかれる。まさに悪魔の囁き。正直に言う。リリム様のおっぱいは確かに良かった。それは認める。

 だが、このバフォメット様のもふもふでぺったんこの胸の方が僕はいい。


 まったく幼い少女は最高だぜ。


 誰かの声が聞こえた気がした。
 そっか、そうだよな。リリム様も良かったけど、バフォメット様のが俺の好みの体型だ。
「バフォメット様、これからもよろしくお願いします」
「うむ、合格じゃ、もし、リリムが良いといったら、幼女地獄巡りの刑じゃった」
 
 なにそれ、もしかして僕にとってはご褒美なんじゃ、と思ったが、それは言わないでおいた。

「さあ、もっとわしの胸で甘えてよいぞ」
 リリム様に負けないくらいの長い時間、僕はバフォメット様の胸に抱かれて幸せな時間を過ごした。
 あと呼び方は、バフォ様でいいと言ってくれるし、どんなに恐ろしい魔物かと思えばすごく可愛い魔物じゃないか。


 僕の中にあった魔物のイメージが完全に崩れた瞬間だった。

 教団はこのことを黙っていたのか、それとも何か別の目的が? と思ったがもうどうでもいい。
 とにかくバフォ様の胸は最高だった。



「さて、リリムのやつから聞いておるぞ。お主、魔法少女が好きらしいな、しかもとんでもない変態だと聞いておる」
 ふぅ、とため息を付いてバフォ様が言う。
「やっぱり最低ですよね。僕……」
 
「は? 何言ってるんじゃ? いいではないか、お主のその魔法少女とやら、わしは大変気になっているぞ? 具体的にイメージを描いて欲しいのじゃが」
 え、僕、絵なんて、と思ったら、目の前には期待たっぷりのバフォ様の顔。
 僕は必死でミミルちゃんの着ていた服を思い出す。




「で、できました」
「ほほう、なんじゃ、描けるではないか、うーむ、もっとこの魔法の杖は可愛くしよう」
 バフォ様がささっと画き加える。
「それでは、ここにリボンを追加しましょう」
 僕も負けずとささっと描く。
「むむ、それではここはピンクでどうじゃ」

 なんか、楽しくなってきた。隣のバフォ様もすごく楽しそうだ。
 
「いいですね。あとサバトの印のような物はありますか?」

「うむ」

「うわ、かわいいです。それをここにこう付けます」
「お主、ノリノリじゃな?」
「え、バフォ様もでは」

 く、くくく、あははははは
 僕もバフォ様もそろって笑った。まさかこんな話で盛り上がるなんて思ってなかったからだ。

 それからも、これはこうとか。色が〜、のじゃのじゃのじゃっと!



「こ、これは!!」
「素晴らしいのじゃ、これはいいぞ、さっそく服の手配じゃな!!!」
 一緒に考えること数時間、やっと魔法少女の服のデザインが決定した。ベースはミミルちゃんのだが、僕たちは更にそれを可愛く、ちょっとエッチで見えそうで見えないギリギリのラインを攻めた。


 がしっとバフォ様と僕は握手する。
 もう、言葉はいらなかった。



「では、ここがおぬしの部屋じゃ」
 バフォ様自らが案内した部屋を見る。なんかすごい待遇がいい。レスカティエの家はなんだったんだ。
「ふふん、どうじゃ気に入ったか、えと先生よ」
 どきっとした。バフォ様に先生と言われると、すごく心臓がバクバク言う。魔物と言っても見かけは子どものバフォメット、それも上目遣いで。

 しかも、すでにあのデザインの魔法少女の服を着ている。
 仕事が早い。
 そしてむちゃくちゃ可愛い。


「すごく……いいです」
 ぼっと赤くなるバフォ様。
「お、お主、さっきもわしの服を見てぎゃーぎゃー言ってたが、まあ良い。んふふ、この服は気にいったぞ。毎日着てやるから楽しみにしてるのじゃ。せ・ん・せ・い」
 ぴょんと僕の首に抱きつくと耳元で言われる。
 
「あの」
「なんじゃ」
「部屋、ありがとうございます!」
 僕は最後になんとか理性を取り戻して頭を下げた。
 
 バフォ様は「うむ」と頷いて、そこはやはり威厳とカリスマがたっぷりだ


 と、思ったら
 スキップで帰っていくバフォ様。というかそんなにジャンプしたら見え、そうでやっぱり見えなかった。
 うん、最高だ。見えたらただのエロい服だ。見えそうで見えない方がいい。




 そして、僕の教える授業が始まった。
 バフォ様から聞いていた通り、魔物娘はみんな小さい少女だった。はじめは戸惑ったものの魔女見習いの子達はみんな良い子だった。

 レスカティエ魔導院は各国から集められた選りすぐりの人や貴族が通う学院だ。その為、魔術の基礎なんて、ほとんど身に付いていて当たり前、しかも貴族の子ども達も相手だったのでおっかなびっくりだ。何か授業中に問題があれば、即刻親が学院に文句を言う。そして、良くて減給、悪くて免許剥奪の上、国外追放、財産を没収され貧民街送りになった奴も居た。
 今考えたら恐ろしい学院だった。

 そんな中で僕はよくもまあ、ミミルちゃんミミルちゃんって、妄想に耽っていたもんだ。単に運が良かったのかなんなのか。

 まあ、それはひとまず。
 つまりの所、僕の授業はあまり意味が無かった。その、ミミルちゃんがいい例だ。むしろ彼女はどちらかというと真面目な部類だった。

 ただあの子は天才だったのだ。

 
 そして、このサバトの学校に来る子は元々魔物だった子や、魔物になったばかりの元人間ばかり、身寄りの無い子ども達も居たのでとにかく色なんな子が居た。
 姿も見た目も違うがみんな良い子だ。

 魔法少女服は正式に制服となった。ちゃんと種族ごとにデザインが見直され、みんな可愛い。
 バフォ様も着てるし、なぜか、すでに魔女になった子も着てるしで、大好評で良かった。

 夜な夜なバフォ様に呼ばれ、色んな魔法少女服のデザインや学校の運営、魔術の研究の助手。

 と言っても、新しい魔法少女の服のデザインがほとんどだった。

「だから、こやつは尻尾があるから、こうじゃ」
「いえ、そこは譲れません。フリルを追加した方が可愛いです」
「ふむ、そうかのう」
「実際着てもらって、本人に決めてもらいましょう」
「そうじゃな」
 ちなみに現在バフォ様が着ている服は、魔法少女服の夏服、レオタードバージョン3。
 体にぴったりとフィットして一見水着のようだが、ちゃんとスカートも着いてる、ロング手袋もぴちっとしていて、足を覆う布もぴちっとしてスカートの間に“ぜったいりょーいき”なる肌がちょっと見えるすき間がある。
 この“ぜったいりょーいき”に関して、バフォ様と僕の白熱した意見交換はすごかった。結局それも「生徒に決めてもらう」で解決したけど。


「かわいいです」
「ん、ふふ、そうじゃろ〜そうじゃろ〜」
 バフォ様は僕に見せびらかすように仁王立ち、くるっと回ったり、飛び跳ねたり(バフォ様は耐久性のテストと言ってるが、どうみても楽しんでいる)
 いつも最初に着るのはバフォ様なので、そのお披露目の第1号に僕がなれるのは光栄だ。
 しかも

「せんせい、ほら遠慮しないでくるのじゃ」

 ぎゅっ

 いつも何か理由を付けて、バフォ様が抱き締めてくれる。
 僕はバフォ様の胸に顔をこすりつける。というかモフモフの手でぎゅってされると自然にそうしてしまう。

「くく、すっかり気にいったようじゃな」
「はい」
 嫌な顔ひとつせずに抱き締めてくれる。そして、僕もバフォ様の髪を撫でる。
「うみゅう……きもちいいのじゃ〜、もっと撫でるが良いぞ〜〜」

 この時だけ、本当の彼女を見ることが出来た。しかし、僕にはやっぱりバフォ様は遠い存在。
 一回だけ、戯れで


「褒美じゃ、抱いてやるぞ」
 と言われて心が揺れ動いたが、断った。

 バフォ様にはもっとふさわしい良いお兄様が出来ることを願っている。
 本人には言えないが、僕にとってバフォ様は、共に少女を愛し愛でて語り会える友人のような存在なのだ。

 その関係を壊したくない。

 バフォ様も戯れで、僕を無理やり犯すことはできるのに、それを絶対にしないのが何よりの証拠だ。




 その後、レスカティエが陥落したと聞いた。あのリリム様が言っていた通り、あっけないものだった。





「これから忙しくなるぞ」
 バフォ様のいった通り、サバトの学校には多くの魔女見習いの子どもがやってきた。もちろん僕ひとりではすべて面倒を見きれないので、他の魔女達と協力して授業を続けていた。


「さて、今日は基礎中の基礎を教えます」
「「「「「「はーーーーーい!」」」」」」

 元気に響く少女達の声。ここでは種族に関係なくみな平等だ。

「はい、先生質問です」
 一人の少女が元気よく聞いてきた。僕は丁寧に説明を始める。

 実はこの学校を始めるにあたって、僕はすべて基本から魔法学を学び直した。
 それはこのサバトに良い書物があったのはもちろんのこと、今度こそは誰かの役に立ちたいと心から思ったことがきっかけだ。

 一度は捨てようと思った命。あの日に誓った想い。リリム様との約束。バフォ様との絆。

 バフォ様も僕が遅くまで勉強しているのを知って、無理矢理休暇を取らされた。が、ベッドで寝ながらも僕は魔導書を読んでいたので、バフォ様に取り上げられたくらいだ。


「おぬしが倒れたら、すごく困る」
「あらあら、ずいぶん変わったわね。どう、久々にわたしの胸に抱かれてみない」
 まさか、あのリリム様まで来るとは思わなかった。丁重にお断りしたら、このロリコン、ぜっっっったい後悔するわよ。とすごい怒られた。

 なぜかバフォ様の機嫌がいつも以上に良かったのを覚えている。

「ほれ、もふもふするが良いぞ」

 半日以上、僕はバフォ様の胸に抱かれた。というか強制だった。魔法で拘束されたので、貞操の危機だったが、やっぱりバフォ様はそれ以上何もしなかった。

 僕もそれでいいと思った。

 バフォ様の胸に抱かれると本当に幸せだ。


 僕よりずっと忙しいはずなのに……リリム様もバフォ様も…。



「という訳です。わかりましたか?」
「はい、とてもよくわかりました」
 質問した子はさっそくノートに書いているみたいだ。
 熱心な生徒だ。


「さて、今日はこれで終わります」


「先生、ちょっとまた、教えてもらいたい所があります」
 さっき質問してきた子だった。
 すごい勢いで板書もしていたし、きっといい魔女になるだろう。

「こっちです」
 なぜか手を引っ張られて連れていかれる。

 はて? どこに行くんだ??



「ま、わたしは覚えてないんだけど、リリム様やおにいちゃんに直接頼まれたから、仕方ないか〜」
 驚いた。
 生徒が振り向くといきなりの暗闇。

 そして、あの

 ミミルが居た。

 あの時より成長はしてるものの、間違いなく彼女だ。

「ほら、来なさいよ」
 ミミルが両手を広げている。
 僕はどういう状況だか理解できない。


「あーもう、そっちから来ないなら、わたしから、ほら、ぎゅーーー」
 え、ええええ!!!!
 ちょっとあのミミルちゃんが僕に抱き着いてる。それも、あの昔の格好のままだ。
「はい、終わりよ終わり!!」

「み、ミミル様」
「ちょっと、なんで様付けなのよ。気持ち悪い!」
 
「つっ!」
 蹴られた。
 全然痛くないけど。

「ま、まあ、良かったわよ。あんたちゃんとやれば出来るじゃない。それでも基本中の基本だけどね。これは一応、昔のあんたの生徒としての意見」

 僕は彼女の前に崩れ落ちた。
 もう二度と会えないと思っていた少女。まさかこんな所で再会するとは夢にも思わなかった。

「ちょ、ちょっと、そんなに嬉しいの? もう仕方ないなー、ほら、こっちのでも抱きしめてあげる」
 ぱっとミミルの姿が変わる。
 あの可愛らしい魔法少女とは一変して、真っ黒な服に変わるミミルの姿。すごくきわどい格好だが、ミミルに似合っている。
「ふふ、変態」
 言葉はひどいが。
 僕はただただ彼女に抱きしめられた。触れることなんてできないと思っていた少女。
 すっかり変わってしまった。元魔法少女のミミル、真っ黒い衣装を身に纏い、淫らで、……でも、やっぱりミミルだ。

「はい、今度こそおしまい。あーもう、早く帰っておにいちゃんに抱いてもらおう。あーきもいきもい!!」
 ミミルはそう言って僕の前から姿を消した。
 きもいと言われたが、抱きしめられた時、一瞬だけ、何か言われた。何かはわからなかったが。


「先生も早くいい人みつかるといいね!」



 びっくりした。どうやら後で発動する魔法だったらしい。





「ふふ、わたしからのささやかな贈り物、気に入ってもらえたかしら」
 いきなり現れるリリム様。
 というかだいぶ慣れた。

「はい、これでもう未練も何もありません。ありがとうございました」
「ちょっと、何、言ってるのよ。それ〇亡フラグって言うのよ?」
 まあ、そんなのへし折るけど、と言って両手を広げるリリム様。

「え?」
「いいから、もうっ、そんなのだからまだ誰も嫁に来ないのよ。バカなんだから」
 リリム様に抱きしめられる。
 最初に出会った時、以来の抱擁だった。
 
 ああ、あの時はバカだったなあ僕。

「はい、いいこいいこ、よく頑張りました」
 リリム様が棒読みでそんなことを言ってくれる。
 たっぷり30分くらい抱きしめられた。


「こ、これ、何をやっておる!!!」

「じゃーねー。これからも期待してるわよ♪」
 あっという間に姿を消すリリム様。


「先生よ! 説明するのじゃ、さっきのミミルは許そう、しかしじゃ、リリムの胸に抱かれていたのは好かん!!」

 怒り心頭で現れたが、ほれと言って両手を広げてくるバフォ様。
 というか、もふっという感触、バフォ様の方から抱き着いてきた。


「上書きじゃ、上書き!!! まったくあやつと来たら、甘やかしおって!!!」
 それはバフォ様もでは? という言葉は飲み込んだ。

 ベッドに転がされて、たっぷり朝まで抱きしめられた。
 ちなみにえっちなことは無し。

 お互いそれはもう暗黙の約束。


 こんな幸せでいいのだろうか。
「いいんじゃ、お主は人間の割には。ま、まあ、まあ頑張ったのじゃ」
「さりげなく僕の心を読まないでください。バフォ様」
「くく、良いではないか、ほらわしの頭も撫でろ。そしてこの胸に顔をすりすりするのじゃ」
「はい、バフォ様」


 
 こんなに魔物達に囲まれているが、バフォ様によっていつの間にか、僕の体は魔力耐性とか魅了無効とかの強化がされているらしい。実験の助手として必須だったらしい。


「は? バカなの、それじゃ、あの男、一生独身じゃない!」
 リリム様はご立腹だった。
「好きにしろ。と言ったのはリリムよ。お主じゃ」
 彼女達がこの件で大変揉めたらしいが、僕はどうでも良かった。





 相変わらず、そんな感じのゆるい生活が続いている。
 願わくば一生人間のままで生涯が終わればいい。



「(あの男はもうちょっと強化してから立派はお兄様にするのじゃ、くくくく)」
「(隙を見て部屋に連れ込んで、大人の女性の魅力をたっぷり教え込むわ!!)」



 なんか一瞬、寒気がしたが、気のせいだろ。



 僕は、次の日も教壇に立って魔女見習いの子の世話をする。

「せんせー!」



 幼い少女達に囲まれて僕は幸せだ。


18/07/20 22:35更新 / ロボット4頭身

■作者メッセージ
堕落の乙女達を読んでいて、ミミルちゃんかわいいな、から書き始めたらこうなりました。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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