不思議な猫はニヤニヤ笑う
~不思議の国への誘い~
辺り一面に広がる草原に男が微睡んでいた。
夢の中にもその草原は広がっていて、そこには場違いな赤いハート型の扉がぽつりと佇んでいる。
「なんでこんな所に扉が？」
何か細工がしてあるようではなく、扉の反対側には何も無い。
そして、この男は生まれながらに好奇心が強い。
ともなれば、扉を開けて向こうに行こうと思ってしまうのはもはや必然といえる。
「建物が無いのに扉だけあるなんて不思議だな・・・。扉の向こうには何があるんだろうか？よし、確かめてみるか！」
勢い良く扉を開け、くぐり抜けたその刹那、男は暗闇に飲み込まれてどこへともなく落ちていった。
そして、後に残るのは男と扉が消えた草原のみであった
~ウサギ穴とニヤニヤ笑い~
それから長い間、男は暗闇を落ち続けていた。
誰もいないのに音楽を奏でる楽器や踊る動物、エトセトラとすれ違い、忙しなく時間を気にするせっかちな白ウサギの追跡から逃れつつ、カラフルで変わった形の扉をいくつもくぐり抜けていった先に待っていたのは、これまた変わった森だった。
花は歌い、木々は絡み合いながらうねり、今まで見たこともない動物がそこらを歩き回っている。
迷いこんでしまった世界はとにかくへんてこだった。
そして男が周りの奇々怪々な様子に驚いていると、頭上から歌が聞こえてきた。
「こ〜の国は〜、ま〜かふ〜しぎ〜、ま〜りょくで満ちた〜国だ〜。迷い人かニャ？」
仰ぎ見ると、ニヤニヤ笑いが枝の上にあるだけで、頭や体はどこにも見当たらないではないか！
「誰だ！？」
「おやおやおや、誰かがウサギ穴から落ちて来たと思えば人間の雄じゃニャいか。人の世界では他人に名乗らせる前に自分が名乗るらしいがニャア？」
まあ私は人じゃないけれどニャ、とニヤニヤ笑いは誰に話すともなくつぶやく。
「むぅ、確かにそうだな。僕の名前は男っていうんだ。それで君は？」
「私？私は・・・」
そう言いかけると頭上のニヤニヤ笑いがパッと消え、同時に男の背中にむにゅっとした感触が。
「チェシャ猫っていうニャ。よ・ろ・し・く・ね。ふぅ♥」
急に後ろに現れた猫のような獣人は、その豊かな双丘を押しつけたうえに耳に息を吹き込んだ。
そのため男は素っ頓狂な声を上げて驚いたのだった。
~不思議の国の案内役~
「君は見た限りだとアリスやワーラビットと一緒じゃニャいし、どうやって来たの？」
「それがよく分からないんだ。夢の中でハート型の扉をくぐり抜けたと思えば、ここにいた訳だからな。やっぱりここは夢の世界なのか？」
チェシャ猫はハート型の扉を経由して来た事を聞くと、ハートの女王の仕業だと理解し、悪戯を思いついたのかいっそうニヤリと笑った。
「夢の世界だとすれば答えは分かっているんじゃニャいかねぇ、なにせ君の夢なのだから」
「やっぱり夢の世界なのか・・・。夢でもなければあんな光景は見られないだろうしな」
「さっきは夢だと言ったけど、何かに触った時の感触はしっかりあるから本物かもニャ」
触ってみろととでもいうように胸を突き出すチェシャ猫に、双丘を押しつけられたことを思い出したのか男の挙動はぎこちない。
「じゃ、じゃあここは現実世界だっていうのか！？」
「それはニャ、君が、どっちがいいと思うかだニャー」
意地悪そうな笑みを浮かべて楽しげに尻尾を動かすチェシャ猫を見て、この問答に終わりがなさそうだと思った男はさすがに困りはててしまった。
「さて、どうしたものか・・・」
「観光でもしていったらどうニャ？それに私はこの国の案内役だしねぇ」
「じゃあ、ここで立ち話をしても何も始まらないし、案内をしてもらおうかな」
「誰が？」「チェシャ猫が」「誰を？」「僕を」
すっとぼけである。
「・・・」
「そ、そんな顔で睨まニャいでほしいねぇ。ただのお茶目ニャ」
「で、案内を頼めるのか？」
「それはもちろん！しっかり付いて来てニャ」
言うが早いか、チェシャ猫の体はスゥっと消えていった。
かと思えば、あのニヤニヤ笑いだけが残り、『不思議の国にようこそ』と言うとこんどこそ消え、足跡だけが森の奥へと伸びていった。そして男は、森の奥へと伸びていく足跡を追っていくのだった。
~不思議の国の不思議な森~
-キノコの森-
男が自分のいた世界では見られない不思議な物に気を取られながら足跡を辿っていくと、鬱蒼と茂るキノコの群生地に着いた。
「やあ、ずいぶんと遅い到着だねぇ」
ニヤニヤ笑いではあるが少しむっとしている。
「ごめんごめん、どうにも珍しい物があると気になってしまう質で・・・」
「まあ、そんな事だと思ってたけどねぇ。さて、ここはキノコの森ニャ！」
そこには小さいものはもちろん、見上げる程に大きなものも生え、赤青黄色はては極彩色まであるまさにキノコの森といえる場所であった。
「凄い！なんて大きさだ！木程の大きさのもある！」
「珍しいのもあるんだよねぇ。ほら、これなんてなかなか珍しいんじゃないかニャ？」
指さした先にあったのは、どことなく男性のアレを彷彿とさせるキノコだった。
「凄く・・・大きいです・・・」
「これはタケリダケっていうニャ」
チェシャ猫はそう言いながらタケリタケを掴むと、モギッ！と根元から折取った。
その光景をまじまじと見てしまい、男は息子を抑えながらながら前屈みになってしまった。少し顔色も悪いようだ。
「うわぁ・・・」
「刺激が強かったかニャ？あ、そうだ！これ持っててねぇ」
チェシャ猫はタケリダケを男に渡すと、やたら粘ついているキノコから粘液を掬い取って塗り付けていった。
「これでよし。いただきまーす♥」
粘液でぬらぬらにてかっているタケリダケの根元から傘の裏にかけてゆっくりかつ執拗に舐め上げていき、棒付きの飴を舐めるように傘をちろちろと舐める。
そして、十分に舐めるとタケリダケをくわえ込み、音を立てながらストロークする。
その様はまさにナニにおけるソレであった。
それを間近で見せつけられる男はたまったものではなく、それ故、さきほどとは違う意味で息子を抑えながらながら前屈みになるのも仕方ないのだ。
ひとしきり男の反応を楽しめたのか、チェシャ猫が口からタケリダケを出すと、泡だったせいか白みを帯びたため、白くべたつく何かに見える粘液が口内から溢れ、露わにされた谷間に糸を引きながら溜まっていく。
「んふふ〜♥前屈みになっちゃってどうしたのかニャア？」
「う、うるさいな！早く次に行こう！」
「はいはーい。怒られちゃうから次に行きますねぇ」
-媚薬の池-
「ここは不思議の国の夏のおすすめスポット、媚薬の池ニャ」
そこには薄桃色の水の池があった。
「この水が全部媚薬なのか？」
「そう、この池は媚薬の雨が溜まってできてるニャ。だから暑くなるとカップルや夫婦で泳ぎに来て、そのままお楽しみニャんてことは日常茶飯事なのよね♥一泳ぎしてみニャい？」
さきほどの事もあってか、水着姿を想像してしまう男だが、どうやらそれが表情に出たようだ。
「やらしいこと考えてニャい？君もやらしいんだねぇ♥してほしいならさっきのをヤってあげるし、最後までヤってもいいニャ♥」
ぺろりと舌なめずりしながらとんでもない事を聞いてくるチェシャ猫に驚きながらも、懇願の言葉が口をついて出ようとしたその時、トランプの絵柄をあしらった、キノコ付きのシルクハットをかぶった女性が現れ、男は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「おや、チェシャ猫じゃないか。こんな所で会うとは奇遇だね。それに珍しい客人もいるようだ」
「奇遇だねマッドハッター。彼はハートの女王の気まぐれに巻き込まれたニャ」
「ふむ、そうなのか。それは運が良いというか気の毒というか・・・。ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕はマッドハッターさ」
そう言って手を差し出すマッドハッター。
「男っていうんだ。よろしく」
マッドハッターが差し出した手を握手と思い、男も手を差し出すが、マッドハッターの手は男の手を握らずに下半身に向かい、一物を握った。
その仕草は当たり前のように行われ、さながら上流階級貴族の洗練された作法のようにごくごく自然に行われるものだった。
「おわっ！急になにを！！」
「ちょっとした挨拶さ。なんせここではみんながみんな色狂いだからね。当たり前のことだよ」
「だからといってだな・・・」
「そう気にすることではないさ。ときにチェシャ猫、これからお茶会があるんだがどうだい？」
「せっかくだし、招かれるニャ」
「お、おい、僕はどうするんだよ」
「ふむ、君はどうしたいかね？」
「うーん、僕はどっちでもいいけど・・・」
「それニャらどちらが良いか聞く必要はニャいわけだ。どっちを選べど同じこと。ふふふ」
「では参加ということにしようか。くくく」
怪しく笑う二人を見て、少し後悔しながらも楽しくさえ思い始めた男だった。
~色狂いのお茶会~
お茶会の会場であるマッドハッターの館は混沌を極めていた。長テーブルの上に所狭しと置かれたティーカップ、誰も触っていないのに動き回って湯気とともにピーとかポーなど音を立てているティーポット、極めつけは長テーブルの上の巨大なポット。その中でネズミの獣人が寝ているのだ。
（なんなんだこれは・・・？）
「ほら君、立ってないで座ればいいニャ」
「自分の家だと思ってくつろいでほしいね。それに立っていては紅茶の一杯も落ち着いて飲めないんじゃないかな？」
もっともなことを言われるが、気になってしまうのは仕方ない。
「それより、ポットの中にいるのは誰なんだ？」
すると、ポットの住人は眠たそうにまぶたを擦りながら口を開いた。
「あたし、ドーマウス・・・よろしｋぐぅ・・・zzz」
そしてすぐに眠ってしまった。
「お、おう。よろしく？」
「彼女は何時もああだからね。気にしなくても平気さ」
「ニャんだかんだで、話はちゃんと聞いてたりするからねぇ」
「ん−・・・zz」
寝ぼけながらもポットからぬるりと這い出てきて、椅子に座った直後に再び眠りにつくドーマウスを見て、なかなか愉快な面子だなと感じる男であった。
「さて、僕も紅茶をもらおうかな」
「ちょっと失礼するニャ」
男が椅子に座ると、チェシャ猫が男の脚の上に座ってきた。
その自由気ままさはまさしく猫そのものである。
ニヤニヤしているが愛嬌のある顔を目の前にして、息子に当たる非常にけしからん感触を我慢することは難儀だが、特に断る理由の無いため男は拒みはしないのだった。
「お茶会を始めようか」
マッドハッターが指をパチンと鳴らすと、先ほどまでドーマウスが入っていた巨大なポットが普通の大きさになって各々のカップに紅茶が注がれていき、紅茶と糖蜜のような甘い香りが広がっていく。
「さて、今日は誰の何でもない日だったかな？」
「男、誕生日はいつ・・・？」
「誕生日？もう過ぎたが」
「そうなのかい！？なら今日は君の何でもない日を祝わなければ！」
男の返答に喜色を表すマッドハッター。
「何でもない日ってなんだ？」
という男の疑問は至極当然のものである。
「一年の内、誕生日は1日ニャ。そうすると残りの364日はなんでもニャい日なのさ。その日を祝えば一年中お祝いの日でみんニャがハッピー！」
ということらしい。
いまいち納得できていない様子の男の前に、いつの間にか箱が置いてあった。
「それは今日が何でもない日である君へ送る、僕たちからのプレゼントさ」
チェシャが脚に座っているため動きづらいが、箱を手に取ってみると焼き菓子の甘い香りが漂ってくる。
箱を開けてみるとそこにはクッキーがあり、『Eat me』と焼き印がされている。
「美味しそうなクッキーだけど、怪しいものは入っていないよな？」
「もちろん入っていないさ」
ニコリと微笑むマッドハッターたち。
それを聞いていくらか安心したのか、男はクッキーを一口だけ囓る。
「おっと失礼、僕たちにとってであることを言い忘れていたよ」
「ゑ！？」
男が恐る恐る囓りかけのクッキーを調べると、裏には『Erection』と焼き印がされているではないか。
もちろん他のクッキーにも焼き印はされていた。
『Rejuvenation』『Unequaled』『Sensitive』エトセトラ・・・・・・
今まで焦らされてきたせいか、クッキーに施されていた魔術が強かったのか、効果はすぐに現れた。
「おやおや〜？そんなに固くしてどうしたのかニャ？」
チェシャ猫は、んふふと笑いながら脚の上で器用に男と対面するように座り直すと、男の耳元で囁いた。
「男のエッチ♥」
チェシャ猫は男の脚の上に座っているため、起つと当たるのだ。
また、対面する状態で座っているため、豊かな胸や太ももがきわどい所まで見えてしまい、より血流を送ることになった。
「ねぇ、どうしてほしいニャ？♥」
「えっと、だな・・・」
クッキーに施された魔術の効果が出ているものの、少ししか囓らなかったためか男は羞恥心が何とか勝っていた。
そんな様子を見て、また悪戯を思いついたのかニヤニヤ笑いがいっそう顕著になるチェシャ猫。
「正直じゃニャい君にはお仕置きが必要だねぇ♥」
チェシャ猫は男の首にスルリと腕を回すと啄むようなキスをし始める。
それでいて男が求めようとすると、腕を回したままでも器用にかわすのだ。
「ちゅっ、ちゅっ・・・おっと危ない。そうはいかニャいよぅ。なんせお仕置きニャんだからねぇ♥んふふ♥・・・ん〜、ちゅっ♥」
ひたすらキスを浴びせていたチェシャ猫は、キスだけでなく男の一物に自らの秘所を擦りつけるように腰をくねらせ、男に新たな快感を与え続ける。
しかしその快感は達するには弱いが、男の治まりかけた劣情を煽るには充分な快楽だった。
「んっ♥あっ♥・・・それで、どうしてほしいニャ？・・・あんっ♥」
「させてほしい・・・。僕だってもう我慢できそうにないんだ！だから、頼むよ・・・」
「正直に言えたからご褒美をあげニャいとねぇ♥」
チェシャ猫が今にも暴発しそうな男のモノを秘所にあてがい、自らの内に迎え入れようとしたその瞬間・・・・・・
『キ○グ・クリ○ゾン！！』
「『キン○・○リムゾン』の能力では、この世の時間は消し飛び･･････そして全ての人間は、この時間の中で動いた足跡を覚えていないッ！』
「空の雲は、ちぎれ飛んだ事に気づかず！･･････」
「消えた炎は、消えた瞬間を炎自身さえも認識しない！」
「『結果』だけだ！！この世には『結果』だけ残る！！
それからいくばくかの時が流れ、男とチェシャ猫は結ばれ、二人で不思議の国の案内役を務めているとかいないとか。
fin
辺り一面に広がる草原に男が微睡んでいた。
夢の中にもその草原は広がっていて、そこには場違いな赤いハート型の扉がぽつりと佇んでいる。
「なんでこんな所に扉が？」
何か細工がしてあるようではなく、扉の反対側には何も無い。
そして、この男は生まれながらに好奇心が強い。
ともなれば、扉を開けて向こうに行こうと思ってしまうのはもはや必然といえる。
「建物が無いのに扉だけあるなんて不思議だな・・・。扉の向こうには何があるんだろうか？よし、確かめてみるか！」
勢い良く扉を開け、くぐり抜けたその刹那、男は暗闇に飲み込まれてどこへともなく落ちていった。
そして、後に残るのは男と扉が消えた草原のみであった
~ウサギ穴とニヤニヤ笑い~
それから長い間、男は暗闇を落ち続けていた。
誰もいないのに音楽を奏でる楽器や踊る動物、エトセトラとすれ違い、忙しなく時間を気にするせっかちな白ウサギの追跡から逃れつつ、カラフルで変わった形の扉をいくつもくぐり抜けていった先に待っていたのは、これまた変わった森だった。
花は歌い、木々は絡み合いながらうねり、今まで見たこともない動物がそこらを歩き回っている。
迷いこんでしまった世界はとにかくへんてこだった。
そして男が周りの奇々怪々な様子に驚いていると、頭上から歌が聞こえてきた。
「こ〜の国は〜、ま〜かふ〜しぎ〜、ま〜りょくで満ちた〜国だ〜。迷い人かニャ？」
仰ぎ見ると、ニヤニヤ笑いが枝の上にあるだけで、頭や体はどこにも見当たらないではないか！
「誰だ！？」
「おやおやおや、誰かがウサギ穴から落ちて来たと思えば人間の雄じゃニャいか。人の世界では他人に名乗らせる前に自分が名乗るらしいがニャア？」
まあ私は人じゃないけれどニャ、とニヤニヤ笑いは誰に話すともなくつぶやく。
「むぅ、確かにそうだな。僕の名前は男っていうんだ。それで君は？」
「私？私は・・・」
そう言いかけると頭上のニヤニヤ笑いがパッと消え、同時に男の背中にむにゅっとした感触が。
「チェシャ猫っていうニャ。よ・ろ・し・く・ね。ふぅ♥」
急に後ろに現れた猫のような獣人は、その豊かな双丘を押しつけたうえに耳に息を吹き込んだ。
そのため男は素っ頓狂な声を上げて驚いたのだった。
~不思議の国の案内役~
「君は見た限りだとアリスやワーラビットと一緒じゃニャいし、どうやって来たの？」
「それがよく分からないんだ。夢の中でハート型の扉をくぐり抜けたと思えば、ここにいた訳だからな。やっぱりここは夢の世界なのか？」
チェシャ猫はハート型の扉を経由して来た事を聞くと、ハートの女王の仕業だと理解し、悪戯を思いついたのかいっそうニヤリと笑った。
「夢の世界だとすれば答えは分かっているんじゃニャいかねぇ、なにせ君の夢なのだから」
「やっぱり夢の世界なのか・・・。夢でもなければあんな光景は見られないだろうしな」
「さっきは夢だと言ったけど、何かに触った時の感触はしっかりあるから本物かもニャ」
触ってみろととでもいうように胸を突き出すチェシャ猫に、双丘を押しつけられたことを思い出したのか男の挙動はぎこちない。
「じゃ、じゃあここは現実世界だっていうのか！？」
「それはニャ、君が、どっちがいいと思うかだニャー」
意地悪そうな笑みを浮かべて楽しげに尻尾を動かすチェシャ猫を見て、この問答に終わりがなさそうだと思った男はさすがに困りはててしまった。
「さて、どうしたものか・・・」
「観光でもしていったらどうニャ？それに私はこの国の案内役だしねぇ」
「じゃあ、ここで立ち話をしても何も始まらないし、案内をしてもらおうかな」
「誰が？」「チェシャ猫が」「誰を？」「僕を」
すっとぼけである。
「・・・」
「そ、そんな顔で睨まニャいでほしいねぇ。ただのお茶目ニャ」
「で、案内を頼めるのか？」
「それはもちろん！しっかり付いて来てニャ」
言うが早いか、チェシャ猫の体はスゥっと消えていった。
かと思えば、あのニヤニヤ笑いだけが残り、『不思議の国にようこそ』と言うとこんどこそ消え、足跡だけが森の奥へと伸びていった。そして男は、森の奥へと伸びていく足跡を追っていくのだった。
~不思議の国の不思議な森~
-キノコの森-
男が自分のいた世界では見られない不思議な物に気を取られながら足跡を辿っていくと、鬱蒼と茂るキノコの群生地に着いた。
「やあ、ずいぶんと遅い到着だねぇ」
ニヤニヤ笑いではあるが少しむっとしている。
「ごめんごめん、どうにも珍しい物があると気になってしまう質で・・・」
「まあ、そんな事だと思ってたけどねぇ。さて、ここはキノコの森ニャ！」
そこには小さいものはもちろん、見上げる程に大きなものも生え、赤青黄色はては極彩色まであるまさにキノコの森といえる場所であった。
「凄い！なんて大きさだ！木程の大きさのもある！」
「珍しいのもあるんだよねぇ。ほら、これなんてなかなか珍しいんじゃないかニャ？」
指さした先にあったのは、どことなく男性のアレを彷彿とさせるキノコだった。
「凄く・・・大きいです・・・」
「これはタケリダケっていうニャ」
チェシャ猫はそう言いながらタケリタケを掴むと、モギッ！と根元から折取った。
その光景をまじまじと見てしまい、男は息子を抑えながらながら前屈みになってしまった。少し顔色も悪いようだ。
「うわぁ・・・」
「刺激が強かったかニャ？あ、そうだ！これ持っててねぇ」
チェシャ猫はタケリダケを男に渡すと、やたら粘ついているキノコから粘液を掬い取って塗り付けていった。
「これでよし。いただきまーす♥」
粘液でぬらぬらにてかっているタケリダケの根元から傘の裏にかけてゆっくりかつ執拗に舐め上げていき、棒付きの飴を舐めるように傘をちろちろと舐める。
そして、十分に舐めるとタケリダケをくわえ込み、音を立てながらストロークする。
その様はまさにナニにおけるソレであった。
それを間近で見せつけられる男はたまったものではなく、それ故、さきほどとは違う意味で息子を抑えながらながら前屈みになるのも仕方ないのだ。
ひとしきり男の反応を楽しめたのか、チェシャ猫が口からタケリダケを出すと、泡だったせいか白みを帯びたため、白くべたつく何かに見える粘液が口内から溢れ、露わにされた谷間に糸を引きながら溜まっていく。
「んふふ〜♥前屈みになっちゃってどうしたのかニャア？」
「う、うるさいな！早く次に行こう！」
「はいはーい。怒られちゃうから次に行きますねぇ」
-媚薬の池-
「ここは不思議の国の夏のおすすめスポット、媚薬の池ニャ」
そこには薄桃色の水の池があった。
「この水が全部媚薬なのか？」
「そう、この池は媚薬の雨が溜まってできてるニャ。だから暑くなるとカップルや夫婦で泳ぎに来て、そのままお楽しみニャんてことは日常茶飯事なのよね♥一泳ぎしてみニャい？」
さきほどの事もあってか、水着姿を想像してしまう男だが、どうやらそれが表情に出たようだ。
「やらしいこと考えてニャい？君もやらしいんだねぇ♥してほしいならさっきのをヤってあげるし、最後までヤってもいいニャ♥」
ぺろりと舌なめずりしながらとんでもない事を聞いてくるチェシャ猫に驚きながらも、懇願の言葉が口をついて出ようとしたその時、トランプの絵柄をあしらった、キノコ付きのシルクハットをかぶった女性が現れ、男は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「おや、チェシャ猫じゃないか。こんな所で会うとは奇遇だね。それに珍しい客人もいるようだ」
「奇遇だねマッドハッター。彼はハートの女王の気まぐれに巻き込まれたニャ」
「ふむ、そうなのか。それは運が良いというか気の毒というか・・・。ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕はマッドハッターさ」
そう言って手を差し出すマッドハッター。
「男っていうんだ。よろしく」
マッドハッターが差し出した手を握手と思い、男も手を差し出すが、マッドハッターの手は男の手を握らずに下半身に向かい、一物を握った。
その仕草は当たり前のように行われ、さながら上流階級貴族の洗練された作法のようにごくごく自然に行われるものだった。
「おわっ！急になにを！！」
「ちょっとした挨拶さ。なんせここではみんながみんな色狂いだからね。当たり前のことだよ」
「だからといってだな・・・」
「そう気にすることではないさ。ときにチェシャ猫、これからお茶会があるんだがどうだい？」
「せっかくだし、招かれるニャ」
「お、おい、僕はどうするんだよ」
「ふむ、君はどうしたいかね？」
「うーん、僕はどっちでもいいけど・・・」
「それニャらどちらが良いか聞く必要はニャいわけだ。どっちを選べど同じこと。ふふふ」
「では参加ということにしようか。くくく」
怪しく笑う二人を見て、少し後悔しながらも楽しくさえ思い始めた男だった。
~色狂いのお茶会~
お茶会の会場であるマッドハッターの館は混沌を極めていた。長テーブルの上に所狭しと置かれたティーカップ、誰も触っていないのに動き回って湯気とともにピーとかポーなど音を立てているティーポット、極めつけは長テーブルの上の巨大なポット。その中でネズミの獣人が寝ているのだ。
（なんなんだこれは・・・？）
「ほら君、立ってないで座ればいいニャ」
「自分の家だと思ってくつろいでほしいね。それに立っていては紅茶の一杯も落ち着いて飲めないんじゃないかな？」
もっともなことを言われるが、気になってしまうのは仕方ない。
「それより、ポットの中にいるのは誰なんだ？」
すると、ポットの住人は眠たそうにまぶたを擦りながら口を開いた。
「あたし、ドーマウス・・・よろしｋぐぅ・・・zzz」
そしてすぐに眠ってしまった。
「お、おう。よろしく？」
「彼女は何時もああだからね。気にしなくても平気さ」
「ニャんだかんだで、話はちゃんと聞いてたりするからねぇ」
「ん−・・・zz」
寝ぼけながらもポットからぬるりと這い出てきて、椅子に座った直後に再び眠りにつくドーマウスを見て、なかなか愉快な面子だなと感じる男であった。
「さて、僕も紅茶をもらおうかな」
「ちょっと失礼するニャ」
男が椅子に座ると、チェシャ猫が男の脚の上に座ってきた。
その自由気ままさはまさしく猫そのものである。
ニヤニヤしているが愛嬌のある顔を目の前にして、息子に当たる非常にけしからん感触を我慢することは難儀だが、特に断る理由の無いため男は拒みはしないのだった。
「お茶会を始めようか」
マッドハッターが指をパチンと鳴らすと、先ほどまでドーマウスが入っていた巨大なポットが普通の大きさになって各々のカップに紅茶が注がれていき、紅茶と糖蜜のような甘い香りが広がっていく。
「さて、今日は誰の何でもない日だったかな？」
「男、誕生日はいつ・・・？」
「誕生日？もう過ぎたが」
「そうなのかい！？なら今日は君の何でもない日を祝わなければ！」
男の返答に喜色を表すマッドハッター。
「何でもない日ってなんだ？」
という男の疑問は至極当然のものである。
「一年の内、誕生日は1日ニャ。そうすると残りの364日はなんでもニャい日なのさ。その日を祝えば一年中お祝いの日でみんニャがハッピー！」
ということらしい。
いまいち納得できていない様子の男の前に、いつの間にか箱が置いてあった。
「それは今日が何でもない日である君へ送る、僕たちからのプレゼントさ」
チェシャが脚に座っているため動きづらいが、箱を手に取ってみると焼き菓子の甘い香りが漂ってくる。
箱を開けてみるとそこにはクッキーがあり、『Eat me』と焼き印がされている。
「美味しそうなクッキーだけど、怪しいものは入っていないよな？」
「もちろん入っていないさ」
ニコリと微笑むマッドハッターたち。
それを聞いていくらか安心したのか、男はクッキーを一口だけ囓る。
「おっと失礼、僕たちにとってであることを言い忘れていたよ」
「ゑ！？」
男が恐る恐る囓りかけのクッキーを調べると、裏には『Erection』と焼き印がされているではないか。
もちろん他のクッキーにも焼き印はされていた。
『Rejuvenation』『Unequaled』『Sensitive』エトセトラ・・・・・・
今まで焦らされてきたせいか、クッキーに施されていた魔術が強かったのか、効果はすぐに現れた。
「おやおや〜？そんなに固くしてどうしたのかニャ？」
チェシャ猫は、んふふと笑いながら脚の上で器用に男と対面するように座り直すと、男の耳元で囁いた。
「男のエッチ♥」
チェシャ猫は男の脚の上に座っているため、起つと当たるのだ。
また、対面する状態で座っているため、豊かな胸や太ももがきわどい所まで見えてしまい、より血流を送ることになった。
「ねぇ、どうしてほしいニャ？♥」
「えっと、だな・・・」
クッキーに施された魔術の効果が出ているものの、少ししか囓らなかったためか男は羞恥心が何とか勝っていた。
そんな様子を見て、また悪戯を思いついたのかニヤニヤ笑いがいっそう顕著になるチェシャ猫。
「正直じゃニャい君にはお仕置きが必要だねぇ♥」
チェシャ猫は男の首にスルリと腕を回すと啄むようなキスをし始める。
それでいて男が求めようとすると、腕を回したままでも器用にかわすのだ。
「ちゅっ、ちゅっ・・・おっと危ない。そうはいかニャいよぅ。なんせお仕置きニャんだからねぇ♥んふふ♥・・・ん〜、ちゅっ♥」
ひたすらキスを浴びせていたチェシャ猫は、キスだけでなく男の一物に自らの秘所を擦りつけるように腰をくねらせ、男に新たな快感を与え続ける。
しかしその快感は達するには弱いが、男の治まりかけた劣情を煽るには充分な快楽だった。
「んっ♥あっ♥・・・それで、どうしてほしいニャ？・・・あんっ♥」
「させてほしい・・・。僕だってもう我慢できそうにないんだ！だから、頼むよ・・・」
「正直に言えたからご褒美をあげニャいとねぇ♥」
チェシャ猫が今にも暴発しそうな男のモノを秘所にあてがい、自らの内に迎え入れようとしたその瞬間・・・・・・
『キ○グ・クリ○ゾン！！』
「『キン○・○リムゾン』の能力では、この世の時間は消し飛び･･････そして全ての人間は、この時間の中で動いた足跡を覚えていないッ！』
「空の雲は、ちぎれ飛んだ事に気づかず！･･････」
「消えた炎は、消えた瞬間を炎自身さえも認識しない！」
「『結果』だけだ！！この世には『結果』だけ残る！！
それからいくばくかの時が流れ、男とチェシャ猫は結ばれ、二人で不思議の国の案内役を務めているとかいないとか。
fin
14/06/25 01:39更新 / リキッド・ナーゾ