閉ざされた空間の輪舞
「よし! 書き上げた! あとは転送するだけだな。」
「お疲れ様。今回は、いけそう?」
「ああ。バッチリだ。」
俺は書き上げたワードファイルを、メールに添付して送信した。
俺の名は祐介。フリーのオカルト系ジャーナリストだ。ホラーやオカルトの記事をPCで書いて、出版社に記事をメールで送り、掲載が決定すれば給料が貰える。
そのため収入は一定ではない。いいときもあれば、悪いときもある。でも、この仕事は楽しい。労働時間を自分で決められるし、人と接する機会も少ない。
彼女の名前はリリィ。金髪のやや長めの髪を黒いリボンで後ろに束ね、白いドレスを着た、いかにもヨーロッパのお嬢様という容姿だ。年齢は16歳ぐらいのいたいけな少女に見える。この部屋で自分と同棲している。
「さてと・・・次は、UFOの目撃情報が多発したあの山に行ってみるか。」
「もう次の記事のことを考えているの? 本当に祐介はホラー好きなのね。」
「まぁな。」
「でも、その前に・・・」
「うわっ」
リリィは俺に飛びつき、1年中敷きっぱなしの布団に押し倒しキスをした。
一軒家の2階。四畳半の畳の部屋が俺の部屋だ。部屋中、ホラーの雑誌や黒魔術の絵や置物や人形、UMAの写真などで溢れている。
子供の頃からよくホラー映画を見たり、黒魔術を試したり、召喚魔術を試したりしたものだ。サキュバスやヴァルキリーを召喚しようとしたが、いずれも上手くいかなかった。こういうのは素人には無理なのだろうか?
「ゆうちゃんー! ご飯出来たわよー!」
「今はいいー! 部屋の前に置いておいてー!」
「ゆうちゃん・・・」
母親から呼ばれるが、俺は夕食を部屋の前に置いておいてもらうことにした。
執筆活動が多い中、記事を書くことに夢中になって、ご飯を食べ忘れてしまうことも多い。そして、リリィと楽しんでいるときもよく忘れている。
この日は結局深夜までリリィと交わり、疲れてそのまま寝てしまった。
「やっぱり心霊モノは今飽和状態だから、あまりウケないかなぁ・・・。UFOモノの記事を書いてみるかな?」
「UFOの記事って、ちょっと子供っぽいわね。」
「そんなことはないぞ。ヨーロッパではUFOや、未確認生命体について真剣に議論されているし、現にビッグフットの映像だって多く撮られているんだぞ。」
「でも、UMAの映像って、大抵作り物なんじゃないかな・・?」
「まぁ、全くフェイクが無いわけじゃあないな・・・。今の時代、簡単に作れるし・・・」
他にも、空を飛べる魔物娘にLEDをつけて飛ばしたらUFOに見える映像が簡単に作れる。
「でも、子供っぽくて純粋なところ、あたし好きよ! 新しい記事。楽しみにしているわね!」
「ありがとう。」
俺はUFOの記事を書くことにした。
記事がおおよそ完成したとき、俺はお腹の音が鳴ってお腹が空いていることに気づいた。そういえば今日は何も食べていないな。
「ねぇ、少し休憩して、ちょっと付き合ってくれない?」
「ん? いいけど・・・何それ?」
リリィは六芒星が書かれた布を床に敷き、火の灯ったロウソクを端に置く。
「さ、ここに寝て。」
「あ、ああ・・・」
俺は六芒星の布の上に横になる。リリィは謎の液体を私に塗り始めた。
「なんだかぬるぬるするけど・・・これ何?」
「魔力を高める薬みたい。」
「なんか、ちょっと気持ち悪いけど・・・」
「大丈夫。心配しないで!」
リリィはドレスを脱ぎ、体に謎の液体を塗った。
「ちょ、ちょっとリリィ・・・!」
「ふふっ 息、荒くなってきてるよ? もっと気持ちよくしてあげるね!」
リリィは自分の体を俺に擦り付けた。リリィのちょっと膨らみのある柔らかい果実と、陰毛のない膣の入り口が体に擦れるたびに、快感を覚えた。
「そろそろいいかな・・・?」
リリィは何やら呪文を唱え、俺の肉棒を膣に入れた。この怪しい呪文のせいだろうか? 俺は体中の血がたぎり、肉棒は今にも爆発しそうなぐらいに張り詰めていた。
「うっ! リリィ! 受け止めて!!」
「うん! 全部出して!!」
普通の人間では考えられないぐらいの大量の精液がリリィの中へ注がれる。そのあとはただ本能のまま、私はリリィの体を掴み、交わった・・・。
目を覚ますと、既に部屋は暗くなっていた。どうやら眠ってしまったらしい。
「寝ちゃったのか・・・」
俺は電気をつけた。部屋中に精液が飛び散り、イカ臭い香りが充満していた。
「おーい、リリィー もう夜だぞー」
リリィはすやすやと眠っている。
(・・・起こすのも可哀そうか。仕方ない。一人で掃除しよう。)
俺は一人で雑巾で部屋中の精液を拭き取った。それでも臭いは消えなかったので、消臭スプレーを部屋中にまくことにした。
そういえば、ちょっと散らかってるな。この部屋。
部屋中には食べ終わった空の空き缶、ペットボトル、カップ麺のカップが散乱していた。他にも、リリィとの性交の後で使ったティッシュが散乱していた。
(せっかくだし、片づけるか・・・)
俺はゴミ袋にゴミを入れ、袋を縛った。そして部屋を出て玄関にゴミ袋を置いて戻ろうとしたとき、母親に強引に腕を掴まれた。
「ゆうちゃん!」
「な、なんだよ! 離せよ!」
「お願い行かないで!」
「な、なにを言っているんだよ! 原稿書かないといけないから! 離せって!」
俺は母親を強引に振りほどき、部屋に走って戻った。
ドンッ! ドンッ!
「ゆうちゃんお願い! 開けて!」
「うるさいよ! 集中できないだろ! それに近所迷惑だよ!」
「ゆうちゃんお願い! 目を覚まして! あなたは・・」
リリィが私の頭を抱きしめて胸に当て、耳に指を入れる。
「うるさいなぁ・・・ 祐介は少し休んでて。」
「うん・・・」
俺は自然と意識が遠のいた。
「祐介ー 祐介ー もう朝だよー」
「う〜ん・・・リリィ。おはよう・・・」
「おはよう!」
「あっ! そうだ! そういえば!」
「さ、今日も原稿書こう! UFOの記事。早く完成させないと。」
「そ、そうだね・・・」
母親のことが気になったが、俺はすっかり原稿のことを忘れていることに気づき、PCを立ち上げて執筆を始めた。
(祐介は私と居れば幸せで居られる・・・私も祐介のことが大好き・・・だから、ずっと一緒・・・)
リリィは祐介の後頭部に手をかざし、呪文を唱えた。
「ゆうちゃんー! 今日は、あなたにお客さんが来ているの! 降りていらっしゃい!」
「俺に客? 誰だろう・・・?」
「祐介・・・」
「大丈夫。ちょっと、待っててね。 わかった! 今行くー!」
俺は部屋を出て、階段を下りて居間の襖を開けた。
「こんにちは。祐介君。」
「こんにちは・・・」
「ゆうちゃん、こちら・・」
「いえ、お母さん。私から説明させていただきます。私は、和尚をしている道元という者です。」
「どうも・・・祐介です。」
この和尚さんは道元という人らしい。でも、なぜ和尚さんが家に? 傍から見れば怪しいの一言に尽きる。でも、何故か母親は平然としている。
「あの、もしかして宗教の勧誘ですか? 自分、そういうのはちょっと・・・」
「いえいえ。宗教の勧誘などではありませんよ。私は、祐介君と話をしに来ただけです。」
「自分と話を? もしかして、霊感商法か何かですか? そういうのも間に合っています。」
「いえ、霊感商法でもありません。ご安心ください。」
「じゃ、じゃあ、お茶でも入れて来るわね!」
「あっ ちょっとママ!」
母親はお茶を入れに台所へ行ってしまった。
しばらくすると母親がお茶を3人分用意して戻って来た。
何でも、この和尚さんは俺が記事を書いていることを知っていて、それで話をしに来たらしい。にしても、記事を書いていて、オカルト系を扱っているわけだが、和尚が話を聞きに来るというのはどう考えてもおかしい。
「えっと、祐介君は、今は何の仕事をしているのかな?」
「ジャーナリストをしています。フリーですけど。」
「どんな雑誌で、記事を書かれているのですか?」
「書かれていると言っても、自分はフリーなので、どこかの出版社の雑誌に定期的に記事を書いているわけではありません。記事が掲載されたときだけ、私の名前が載って、報酬をもらうという形です。」
「なるほど。では、どんな雑誌に、自分の記事を売り込んでいるのですか?」
「そうですね・・・ワンダーライフとか、アトランティスとか、週刊現代心霊現象とか、ほんとうにあった!呪いの雑誌とか、トリプルエックスとか、悪霊パンデミックとか・・・ですかねぇ。」
「なるほど。やはり、ホラー系が多いのですか?」
「ええ。というよりも、他に書ける分野がないので。まぁ、そこはフリーなので、自由に分野を選べるのが長所ですけど。」
「どれぐらいの確率で、君の書いた記事が掲載されるのかな?」
「まぁ、かなり低いですね。今の時代、オカルトやホラーは流行らないんですよ。特に心霊モノとかは出しているところが多い分、競争率も高いので。つい最近はUFOの記事を書きましたよ。」
「もう、掲載が決定しているのですか?」
「いいえ。昨日仕上げて、原稿を先方に送って、今は返事待ちです。」
「祐介君。今まで、君の記事が雑誌に掲載されたことはあるかな?」
「無いですね。」
「無い? ということは、今の君は・・・」
「まぁ、記事を書いていることは本当ですけど・・・」
「今の君は、無職ということになるのではないですか?」
「違いますよ! 確かに記事は掲載されたことはあまりありませんが、現に昨日だって記事を書いて、メールで送ったところですよ!」
「あまり、ではなく掲載されたことは今まで一度もない。それで、どこかの雑誌の出版社から、返事はありましたか?」
「ないですよ。向こうも忙しいし、こういう業界って、結構そういうところいい加減なんですよ。落選した記事の返答なんていちいちしない。一般の企業だって、不採用になった人に通知すらしないことだっであるでしょう?」
「まぁね。ところで、君は最近、家の外に出たことは?」
「最近はあまり。原稿を書かないといけないので。でも、今はPCでメールで送っちゃえばいいわけですから。」
不穏な空気が流れ始めていることに、自分も母親も直感的に気づき始めていた。
「君の、家族構成は? この家には、何人で住んでいますか?」
「3人ですよ。自分と母親と、あとリリィと。」
「お父さんは?」
「離婚しました。自分が中学辺りの頃に。」
「ねぇ、ゆうちゃん・・・」
今まで黙っていた母親が口を開く。
「リリィって、誰?」
「誰って、リリィだよ。俺の彼女の。」
「彼女って・・・ゆうちゃん。それは、アニメか、それともネットの知り合いのこと?」
「どっちも違うよ! リリィは現実の彼女! ママだって・・」
「見たことないわ! ゆうちゃん、いつも一人で・・」
「バカなことを言うな! 確かに、リリィはあまり部屋から出ないけど、ずっと俺と一緒に居た! 今だって2階に居るよ!」
「ありえないわ!」
母親は立ち上がり、俺の部屋を見に行こうとするが、道元が制止する。
「お母さん。駄目です。素人が近づいては危ない。相手は妖魔です。」
「・・・すみません・・・でも、なんだか信じられなくて・・・」
「妖魔? 何ですか一体。」
「・・・祐介君。君は、最近家を出ていないと言ったね。では、リリィとはどこで会ったんだい?」
「そ、それは・・・」
なぜだろう? リリィといつ、どこで出会ったのか・・・思い出せない。気づいたらあいつは俺の傍に居て・・・。
「君は、いつフリージャーナリストになったんだい?」
「さぁ・・・もう大分前のことなので・・・」
「君は、最後に学校に行ったのはいつだい?」
「それは・・・あれ・・・」
「目を覚ましなさい! 祐介君は妖魔の術中に陥っている!」
和尚は護符を取り出た。護符が光りだし、俺は目の前が真っ白になる。
"俺自身が封印していた記憶"がよみがえり始める。
俺は・・・会社員の父親と、教育熱心な母親の家に生まれた・・・。
幼稚園ぐらいまでは、友達も居て、普通の子と変わらなかった・・・だけど・・・
小学校3年辺りから、勉強についていけなくて・・・いつも0点ばかり取っていて・・・
物忘ればかりしたり・・・体育で運動についていけなくて・・・勉強も全然できなくて・・・テストはいつも0点で・・・
学校ではイジメられていて・・・そのことを先生に相談しても・・・イジメられる側に問題があるって言って取り合ってもらえなかった・・・母親には・・・相談できなかった・・・
母親は勉強ができない俺を常に叱っていて・・・父親も俺に厳しい言葉を多く投げかけて・・・小学校のときは・・・両親からの愛情も感じなくなって・・・友達もみんな自分から離れて行って・・・
俺が引きこもったのは小学5年のときだ!
仮病を使ったズル休みをしたときに・・・それからずるずると何日も仮病を使って・・・
母親と父親が俺を無理やり引っ張り出そうとするけれど・・・俺は必死に抵抗して・・・物を投げて・・・ついには包丁を台所から取り出して振り回して・・・
近所の人が騒ぎを聞いて通報して・・・俺は警察に取り押さえられて・・・俺は1週間施設に送られた!
そうか! 施設から戻ってきたあと・・・ずっと不登校だった! いつの間にかに中学生になっていて、学生服も出来ていたから、それを着て入学式には行ったけど、なんだか、大勢の同年代の人が恐くて、俺は緊張に耐えられなくて、式の途中で倒れて病院に運ばれて、その日に家に帰った。
「じゃあ、俺はリリィと・・・どこで出会っていたんだ? それにパパは?」
「その調子だ! 自分の心の中の扉の鍵を開けるんだ!」
父親は・・・確か、俺が中学生になったときぐらいから、あまり家に寄りつかなくなって、外で愛人を作って不倫して・・・
「俺はもうこんな家イヤなんだ! 祐介だって引きこもったままだし、おまえだってどんどんおかしくなるじゃないか!」
「大丈夫よ! あたしは大丈夫だから! 祐介もちゃんと学校に行かせるから! だからお願い! 考え直して!」
「もう・・・ムリだよ・・・俺はもう、疲れた。」
「祐介・・・ごめんな・・・悪いパパを、許してくれ。そして、ママのこと・・・頼むな・・・」
そのときの俺は、怒りと同時に悲しみがこみ上げて来て、怒る気にも、何か言う気にもならなかった。
リリィとは、確か・・・あの日だ!
俺は父親が出て行ったあと、これ以上母親を悲しませてはいけないと思い、少しずつ外に出るよう努力した。けど、体がなかなか言うことを聞いてくれなかった。
それでもなんとか、街まで行ったことがあった。そのときに・・・
「あれ? こんなところにオカルトショップなんてあったっけ?」
見るからに怪しい店が、裏道に出来ていた。この頃の俺はオカルトやホラーにハマり始めた頃で、好奇心から店に入った。
「おや、人間の来店とは珍しい。いらっしゃい。ここは魔術店だよ。ゆっくり見て行きな。」
「あの、お姉さん。その耳・・・」
「おや、魔物娘の存在を知らないのかい? まぁ、この国では無理もないか。それに、現代社会も魔物娘にとって住みやすいとは言えまい。この国は都会だらけで、自然が少ない。まぁ、私は都会でも暮らせる魔物娘だけどね。」
「まぁ、多少、本で読んだりしたことはあります。」
「むか〜しむかし・・・中世の頃には、全国にたくさん居たんだけどねぇ・・・。まぁ、大陸には今でも魔物娘がたくさん居るって話だけどね。」
「そうなんですか・・・。」
「私も、刑部狸という、まぁ、分かりやすく言えば、商いに長けた魔物娘さ。」
「ふ〜ん・・・人間じゃあないんだ・・・」
「そうさ。恐いかい?」
「いえ、別に・・・。」
「そうか。まぁ、ゆっくり見てお行き。」
俺は店内を歩いた。いくつも怪しい物が置かれていたが、どれも興味深かった。でも、どれも当時の自分には手の届かないものばかりだった。
「あの、すみません。幸運を呼ぶ商品って、ありませんか? できれば安い物で。」
「幸運系のアイテムかい? あるよ。ついて来な。」
「これなんかどうだい? この堕天使の銅像を、家の中心に置いておくと、人間関係が良好になるんだ。値段は、ちょっと張るけどねぇ。」
価格は3万円。到底買えない。最も、銅像としてもかなりいい出来で、まともな店ならもっと高いのかもしれないが・・・。
「この薬は、君の彼女に使うだけで・・」
「自分、彼女居ないのでいいです。」
「そうかい? なら・・・」
「あの、これください!」
僕は六芒星のキーホルダーを買おうと思った。
「それに目をつけるとは、君はいい目をしているね。それは身に着けているだけで不幸や災難から身を守ってくれるアイテムさ。」
「いくらですか?」
「1000円だよ。」
「せ、1000円!?」
当時の自分にとっては大金だ。正直、今の家の財政は苦しく、父親から離婚の慰謝料と養育費が払われているとは言っても、母親はパートで働かなければならないほど貧乏だった。正直、お小遣いをもらうのが申し訳ないぐらいだ。
「少なくとも、うちの商品だから効果は保証するよ?」
「う〜ん・・・」
「それなら、オマケしてあげてもいい。1500円で・・」
「1500って・・・増えているじゃないですか!」
「まぁまぁ、落ち着いて。1500円でそのキーホルダーと・・・これをつけてあげるよ。どうだい?」
刑部狸は金髪で黒いリボン、白いドレスを着た少女の人形を出した。
どうしてだろう? 確かにこの人形はとても可愛いし、よく作られていると思う。だけど、それとは違った・・・物に対する愛着とは違った愛情が、自分の中に沸き上がった。
「買います!」
「はい。まいどあり。この子を買った子は幸せになるよ。ヒッヒッヒ・・・」
そして、俺はこの人形に、リリィという名前をつけて、とても愛着を持っていた。それこそ、本物の女の子のように・・・友達のように・・・そしていつしか、この子がもし本当の女の子で、俺の彼女だったら・・・そんなことを思っているうちに・・・。
「リビングドール。呪われた人形だ。君は刑部狸というタチの悪い妖魔に、呪いの人形を売られたんだよ。」
「・・・そうだ・・・リリィは・・・全部思い出しました。」
「ゆうちゃん・・・お願い・・・今まで、辛い思いをさせて来てごめんなさい。これからはママもゆうちゃんを助けるから・・・これからの人生を・・・」
「祐介君。リビングドールを倒すには、私だけの力では無理だ。君自身が、君自身の手で、彼女を壊すんだ。そして、戻るんだ。家族の元へ。」
そう言って道元は金槌を俺に渡し、3人で俺の部屋に向かった。
俺は扉の部屋を開ける。
「祐介。遅かったわね。どうしたの? ・・・どういうこと!?」
「リリィ・・・ごめん。」
「さぁ、リビングドールよ! 邪悪な洗脳から祐介を解放しろ!」
道元は護符を取り出し、お経のような呪文を唱える。すると護符は眩い光を放つ。
「・・・クッ・・・祐介・・・もう、あたしのことを愛していないの?」
「リリィ・・・」
「祐介! 彼女の言葉に耳を貸すな! 彼女は君を騙そうとしている!」
「何を言っているの!? あたしは祐介を騙したことなんてない!」
「黙れ邪悪な人形!」
「確かに・・・祐介の幼いときの記憶を消したわ・・・だけど、それは祐介に・・・辛い思い出を忘れて、あたしだけを見て欲しかったから・・・」
「どうだ? 祐介よ。彼女は君の記憶をも、消してしまう妖魔なんだ。」
「黙りなさい! あたしから祐介を奪うなら・・!」
リリィも怒りの表情をする。あんな表情は今まで見たことが無い。リリィはいつも、自分には笑顔しか見せなかったから・・・。
リリィは紫色のオーラに身を包む。
「祐介・・・あなたは、現実に帰りたいの?」
「俺は・・・」
「ゆうちゃん・・・お願い・・・ママを一人にしないで・・・」
「祐介。この現代社会において、心を病んでしまい、現実から逃避することは決して珍しいことでもなければ恥でもない! 現実では確かに辛いことがたくさんある。しかし、歩み続ければ必ず光が見えて来る! そして、現実でも居場所を見つけ、幸せを得ることができる! 君は一人ではない! 母親や私。そして、君のような若者を支援してくれる団体もある! 君が苦しむとき、多くの者が君を支えてくれる! だから、恐れずに現実と向き合うのだ!」
「俺は・・・」
俺は、金槌を持って、リリィに歩み寄る。
「祐介・・・現実に戻るの? 祐介がそれを望むなら、それでもいい・・・。ごめんなさい。あたしは祐介をずっと騙し続けて来た・・・。祐介をフリージャーナリストと思い込ませて、掲載されるはずもない記事を書かせていたのもあたし。」
そうか・・・リリィは気づいていたのか・・・。私はずっとオカルト系ジャーナリストに憧れていた。
私はずっと外に出たかった。でも、恐くて出られなかった。日々、ホラーやオカルトの雑誌や本を読んで過ごす日々。私もこんな記事を書いてみたい。世界各地を回って、超常現象や心霊現象をカメラで収めて・・・取材したりして・・・本を出したい。それが、私の夢だった。
だからリリィは・・・私の辛い過去の記憶を消して、架空のジャーナリストとしての記憶に上書きしていたのか。
今まで書いた記事は、全部俺がネットサーフィンや雑誌で得た知識で書いた物に過ぎなかった。そして、メールの送信先はでたらめなメールアドレス。存在しない出版社に、俺はメールを送り続けていた。
今まで一回たりとも返信が来たこともなければ掲載されたこともない。当然だ。存在しない宛先にメールを送り続けて来たのだから。
俺はフリージャーナリストなんかじゃない。本来の俺は、20歳の引きこもりのニートに過ぎない。学歴は中卒。高校受験すらしなかった。
「今までありがとう・・・あたし、祐介に買ってもらえて、幸せだった。祐介はあたしをずっと大切にしてくれた。」
「俺も、リリィと出会えたことを幸運に思ってる。リリィは、俺のたった一人の理解者だったから・・・だからっ!!」
「ゆ、祐介!?」
「ゆうちゃん!」
俺は金槌を捨て、リリィを抱きしめた。
「リリィ! これからもずっと一緒に居てくれ!」
「祐介・・・。あたしは、人間じゃない。あの和尚が言ったように、あたしは呪いの人形。それでも、祐介は愛してくれる?」
「ああ! 勿論さ! 君が呪いの人形だって何だって構わない! 君は俺を愛してくれた! こんな俺でも、君は常に傍に居てくれた!」
「祐介・・・!」
「何を言っている祐介! 妖魔にたぶらかされてはいかん! 戻って来い!」
「黙れ! 現実は俺を受け入れてくれなかった! この現実のどこにも俺の居場所はない! 俺の居場所はリリィの傍だけだ! 現実の幸せ? 幻想の幸せ? 関係ない! 俺が見ること感じたことが全てた! そうだ!俺が感じた幸せこそが・・・俺の幸せだ!!」
「何を言っている!? 君が彼女に取り込まれれば、君の母親はどうなる!?」
「ゆうちゃん! お願い! 戻って来て! もう一度ママと一緒に人生をやり直しましょう!」
俺は振り向いた。ママは悲しそうな顔をして、泣いていた。
「黙れ!! ママが一度だって・・・俺を愛してくれたことがあったかよ!!」
「ゆうちゃん・・・」
母親は泣き崩れた。
「出て行きなさい!!」
リリィから強い光が放たれる。道元と母親は部屋の外へ飛ばされ、部屋の襖は固く閉じられた・・・
「リリィ! ずっとずっと一緒だ!」
「嬉しい! ありがとう! でも・・・」
「いいんだ・・・君は俺を愛してくれた。それに、君は俺の記憶を奪ってはいない!」
「えっ? ・・・祐介・・・気づいていたの?」
「当然さ! どれだけ長く一緒に居ると思っているんだ? それに、君は記憶を消し去るようなことをする子じゃない!」
そう。俺は分かっていた。リリィは俺の記憶を消したりはしていない。ただ、俺が望む限りは記憶を思い起こせないようにしただけなのだ。つまり、"俺が思い出したいと思えば、いつでも思い出せたのだ。"
「リリィ!」
俺はリリィを布団に押し倒し、ドレスを脱がせ、顔を胸に沈めた。そしてリリィの体中を舐めまわし、しゃぶりつくした。
リリィは俺のペニスを咥えた。俺はさらなる刺激を求めて、リリィの頭を掴み、乱暴にペニスをリリィの喉に出したり入れたりした。
何十回。何百回射精したのかは分からない。ただ本能のまま、無我夢中でリリィを犯し続けた。リリィも何回潮を吹いたのか分からないが、たとえリリィが何度イッても、どれだけ子宮から精液があふれ出ようとも、俺とリリィは交わり続けた。
固く閉ざされた祐介の扉は、強力な結界が張られ、二度と開くことはなかった。
「彼自身が部屋から出ようと思わない限りはこの扉は開きません。しかし、それはもう、一生ないでしょう。彼はもう、戻って来ない。」
母親は日々、祐介の部屋の前に来ては、泣き崩れていた。もう、祐介には泣き声は届かないことを知らずに・・・。
その後、祐介がリビングドールも魔物娘であることを知ったのはつい最近だった。
ある日突然、魔物娘図鑑という本と魔術店のカタログが頭上に降ってきたのだ。
「あ! あのときの! ・・・どれも高いなぁ・・・でも、こんな魔術道具よりも・・・」
「ちょ、ちょっと・・・キャア!」
「俺にはリリィが居る!」
俺はリリィを押し倒して馬乗りになり、ペニスを口に押し込んだ。
祐介は疲れて眠ってしまった。
「そろそろ・・・できるかな・・・?」
祐介の精を幾度となく注ぎ込まれたリリィは、強大な魔力を持つようになった。
(祐介には辛かった現実全てを忘れて欲しい。それと、この部屋はあたしと祐介には狭すぎる。これからは、2人だけの世界で、もっと広くて綺麗な家に住みましょう。そして、祐介とあたしはずっと結ばれるの・・・ずっと・・・ふふふっ)
リリィは空間をも操る強力な魔力を放出した。そして、祐介の部屋は現実世界から存在そのものが消えた。
地上には白い薔薇が一面に咲き、綺麗な川が流れ、上空には大きな白い城が浮かぶ。
祐介の部屋はこの城の中に存在し、2人の愛の巣が作られている。
2人分は余裕で眠れるカーテンのついた広いベッドに、大きなソファー。豪華な丸いテーブルに静かに揺れる椅子。
金色の枠をした堕天使の大きな絵が飾られ、2人を見守る。部屋の隅には祐介が使っていた古いPCとPCデスクも置かれている。
「す、凄い家だね! いや、これはもはやお城だよ!」
「そうよ。ここは、あたしと祐介の愛の天空城よ。これからは嫌なことは何も考えなくていい。やりたいことを、したいときにすればいいのよ!」
「そうか! なら早速!」
「キャッ!」
俺はリリィをベッドに押し倒した。
王国の宮殿のような異世界の空間で、2人は永久に交わり続けるのだった。
「お疲れ様。今回は、いけそう?」
「ああ。バッチリだ。」
俺は書き上げたワードファイルを、メールに添付して送信した。
俺の名は祐介。フリーのオカルト系ジャーナリストだ。ホラーやオカルトの記事をPCで書いて、出版社に記事をメールで送り、掲載が決定すれば給料が貰える。
そのため収入は一定ではない。いいときもあれば、悪いときもある。でも、この仕事は楽しい。労働時間を自分で決められるし、人と接する機会も少ない。
彼女の名前はリリィ。金髪のやや長めの髪を黒いリボンで後ろに束ね、白いドレスを着た、いかにもヨーロッパのお嬢様という容姿だ。年齢は16歳ぐらいのいたいけな少女に見える。この部屋で自分と同棲している。
「さてと・・・次は、UFOの目撃情報が多発したあの山に行ってみるか。」
「もう次の記事のことを考えているの? 本当に祐介はホラー好きなのね。」
「まぁな。」
「でも、その前に・・・」
「うわっ」
リリィは俺に飛びつき、1年中敷きっぱなしの布団に押し倒しキスをした。
一軒家の2階。四畳半の畳の部屋が俺の部屋だ。部屋中、ホラーの雑誌や黒魔術の絵や置物や人形、UMAの写真などで溢れている。
子供の頃からよくホラー映画を見たり、黒魔術を試したり、召喚魔術を試したりしたものだ。サキュバスやヴァルキリーを召喚しようとしたが、いずれも上手くいかなかった。こういうのは素人には無理なのだろうか?
「ゆうちゃんー! ご飯出来たわよー!」
「今はいいー! 部屋の前に置いておいてー!」
「ゆうちゃん・・・」
母親から呼ばれるが、俺は夕食を部屋の前に置いておいてもらうことにした。
執筆活動が多い中、記事を書くことに夢中になって、ご飯を食べ忘れてしまうことも多い。そして、リリィと楽しんでいるときもよく忘れている。
この日は結局深夜までリリィと交わり、疲れてそのまま寝てしまった。
「やっぱり心霊モノは今飽和状態だから、あまりウケないかなぁ・・・。UFOモノの記事を書いてみるかな?」
「UFOの記事って、ちょっと子供っぽいわね。」
「そんなことはないぞ。ヨーロッパではUFOや、未確認生命体について真剣に議論されているし、現にビッグフットの映像だって多く撮られているんだぞ。」
「でも、UMAの映像って、大抵作り物なんじゃないかな・・?」
「まぁ、全くフェイクが無いわけじゃあないな・・・。今の時代、簡単に作れるし・・・」
他にも、空を飛べる魔物娘にLEDをつけて飛ばしたらUFOに見える映像が簡単に作れる。
「でも、子供っぽくて純粋なところ、あたし好きよ! 新しい記事。楽しみにしているわね!」
「ありがとう。」
俺はUFOの記事を書くことにした。
記事がおおよそ完成したとき、俺はお腹の音が鳴ってお腹が空いていることに気づいた。そういえば今日は何も食べていないな。
「ねぇ、少し休憩して、ちょっと付き合ってくれない?」
「ん? いいけど・・・何それ?」
リリィは六芒星が書かれた布を床に敷き、火の灯ったロウソクを端に置く。
「さ、ここに寝て。」
「あ、ああ・・・」
俺は六芒星の布の上に横になる。リリィは謎の液体を私に塗り始めた。
「なんだかぬるぬるするけど・・・これ何?」
「魔力を高める薬みたい。」
「なんか、ちょっと気持ち悪いけど・・・」
「大丈夫。心配しないで!」
リリィはドレスを脱ぎ、体に謎の液体を塗った。
「ちょ、ちょっとリリィ・・・!」
「ふふっ 息、荒くなってきてるよ? もっと気持ちよくしてあげるね!」
リリィは自分の体を俺に擦り付けた。リリィのちょっと膨らみのある柔らかい果実と、陰毛のない膣の入り口が体に擦れるたびに、快感を覚えた。
「そろそろいいかな・・・?」
リリィは何やら呪文を唱え、俺の肉棒を膣に入れた。この怪しい呪文のせいだろうか? 俺は体中の血がたぎり、肉棒は今にも爆発しそうなぐらいに張り詰めていた。
「うっ! リリィ! 受け止めて!!」
「うん! 全部出して!!」
普通の人間では考えられないぐらいの大量の精液がリリィの中へ注がれる。そのあとはただ本能のまま、私はリリィの体を掴み、交わった・・・。
目を覚ますと、既に部屋は暗くなっていた。どうやら眠ってしまったらしい。
「寝ちゃったのか・・・」
俺は電気をつけた。部屋中に精液が飛び散り、イカ臭い香りが充満していた。
「おーい、リリィー もう夜だぞー」
リリィはすやすやと眠っている。
(・・・起こすのも可哀そうか。仕方ない。一人で掃除しよう。)
俺は一人で雑巾で部屋中の精液を拭き取った。それでも臭いは消えなかったので、消臭スプレーを部屋中にまくことにした。
そういえば、ちょっと散らかってるな。この部屋。
部屋中には食べ終わった空の空き缶、ペットボトル、カップ麺のカップが散乱していた。他にも、リリィとの性交の後で使ったティッシュが散乱していた。
(せっかくだし、片づけるか・・・)
俺はゴミ袋にゴミを入れ、袋を縛った。そして部屋を出て玄関にゴミ袋を置いて戻ろうとしたとき、母親に強引に腕を掴まれた。
「ゆうちゃん!」
「な、なんだよ! 離せよ!」
「お願い行かないで!」
「な、なにを言っているんだよ! 原稿書かないといけないから! 離せって!」
俺は母親を強引に振りほどき、部屋に走って戻った。
ドンッ! ドンッ!
「ゆうちゃんお願い! 開けて!」
「うるさいよ! 集中できないだろ! それに近所迷惑だよ!」
「ゆうちゃんお願い! 目を覚まして! あなたは・・」
リリィが私の頭を抱きしめて胸に当て、耳に指を入れる。
「うるさいなぁ・・・ 祐介は少し休んでて。」
「うん・・・」
俺は自然と意識が遠のいた。
「祐介ー 祐介ー もう朝だよー」
「う〜ん・・・リリィ。おはよう・・・」
「おはよう!」
「あっ! そうだ! そういえば!」
「さ、今日も原稿書こう! UFOの記事。早く完成させないと。」
「そ、そうだね・・・」
母親のことが気になったが、俺はすっかり原稿のことを忘れていることに気づき、PCを立ち上げて執筆を始めた。
(祐介は私と居れば幸せで居られる・・・私も祐介のことが大好き・・・だから、ずっと一緒・・・)
リリィは祐介の後頭部に手をかざし、呪文を唱えた。
「ゆうちゃんー! 今日は、あなたにお客さんが来ているの! 降りていらっしゃい!」
「俺に客? 誰だろう・・・?」
「祐介・・・」
「大丈夫。ちょっと、待っててね。 わかった! 今行くー!」
俺は部屋を出て、階段を下りて居間の襖を開けた。
「こんにちは。祐介君。」
「こんにちは・・・」
「ゆうちゃん、こちら・・」
「いえ、お母さん。私から説明させていただきます。私は、和尚をしている道元という者です。」
「どうも・・・祐介です。」
この和尚さんは道元という人らしい。でも、なぜ和尚さんが家に? 傍から見れば怪しいの一言に尽きる。でも、何故か母親は平然としている。
「あの、もしかして宗教の勧誘ですか? 自分、そういうのはちょっと・・・」
「いえいえ。宗教の勧誘などではありませんよ。私は、祐介君と話をしに来ただけです。」
「自分と話を? もしかして、霊感商法か何かですか? そういうのも間に合っています。」
「いえ、霊感商法でもありません。ご安心ください。」
「じゃ、じゃあ、お茶でも入れて来るわね!」
「あっ ちょっとママ!」
母親はお茶を入れに台所へ行ってしまった。
しばらくすると母親がお茶を3人分用意して戻って来た。
何でも、この和尚さんは俺が記事を書いていることを知っていて、それで話をしに来たらしい。にしても、記事を書いていて、オカルト系を扱っているわけだが、和尚が話を聞きに来るというのはどう考えてもおかしい。
「えっと、祐介君は、今は何の仕事をしているのかな?」
「ジャーナリストをしています。フリーですけど。」
「どんな雑誌で、記事を書かれているのですか?」
「書かれていると言っても、自分はフリーなので、どこかの出版社の雑誌に定期的に記事を書いているわけではありません。記事が掲載されたときだけ、私の名前が載って、報酬をもらうという形です。」
「なるほど。では、どんな雑誌に、自分の記事を売り込んでいるのですか?」
「そうですね・・・ワンダーライフとか、アトランティスとか、週刊現代心霊現象とか、ほんとうにあった!呪いの雑誌とか、トリプルエックスとか、悪霊パンデミックとか・・・ですかねぇ。」
「なるほど。やはり、ホラー系が多いのですか?」
「ええ。というよりも、他に書ける分野がないので。まぁ、そこはフリーなので、自由に分野を選べるのが長所ですけど。」
「どれぐらいの確率で、君の書いた記事が掲載されるのかな?」
「まぁ、かなり低いですね。今の時代、オカルトやホラーは流行らないんですよ。特に心霊モノとかは出しているところが多い分、競争率も高いので。つい最近はUFOの記事を書きましたよ。」
「もう、掲載が決定しているのですか?」
「いいえ。昨日仕上げて、原稿を先方に送って、今は返事待ちです。」
「祐介君。今まで、君の記事が雑誌に掲載されたことはあるかな?」
「無いですね。」
「無い? ということは、今の君は・・・」
「まぁ、記事を書いていることは本当ですけど・・・」
「今の君は、無職ということになるのではないですか?」
「違いますよ! 確かに記事は掲載されたことはあまりありませんが、現に昨日だって記事を書いて、メールで送ったところですよ!」
「あまり、ではなく掲載されたことは今まで一度もない。それで、どこかの雑誌の出版社から、返事はありましたか?」
「ないですよ。向こうも忙しいし、こういう業界って、結構そういうところいい加減なんですよ。落選した記事の返答なんていちいちしない。一般の企業だって、不採用になった人に通知すらしないことだっであるでしょう?」
「まぁね。ところで、君は最近、家の外に出たことは?」
「最近はあまり。原稿を書かないといけないので。でも、今はPCでメールで送っちゃえばいいわけですから。」
不穏な空気が流れ始めていることに、自分も母親も直感的に気づき始めていた。
「君の、家族構成は? この家には、何人で住んでいますか?」
「3人ですよ。自分と母親と、あとリリィと。」
「お父さんは?」
「離婚しました。自分が中学辺りの頃に。」
「ねぇ、ゆうちゃん・・・」
今まで黙っていた母親が口を開く。
「リリィって、誰?」
「誰って、リリィだよ。俺の彼女の。」
「彼女って・・・ゆうちゃん。それは、アニメか、それともネットの知り合いのこと?」
「どっちも違うよ! リリィは現実の彼女! ママだって・・」
「見たことないわ! ゆうちゃん、いつも一人で・・」
「バカなことを言うな! 確かに、リリィはあまり部屋から出ないけど、ずっと俺と一緒に居た! 今だって2階に居るよ!」
「ありえないわ!」
母親は立ち上がり、俺の部屋を見に行こうとするが、道元が制止する。
「お母さん。駄目です。素人が近づいては危ない。相手は妖魔です。」
「・・・すみません・・・でも、なんだか信じられなくて・・・」
「妖魔? 何ですか一体。」
「・・・祐介君。君は、最近家を出ていないと言ったね。では、リリィとはどこで会ったんだい?」
「そ、それは・・・」
なぜだろう? リリィといつ、どこで出会ったのか・・・思い出せない。気づいたらあいつは俺の傍に居て・・・。
「君は、いつフリージャーナリストになったんだい?」
「さぁ・・・もう大分前のことなので・・・」
「君は、最後に学校に行ったのはいつだい?」
「それは・・・あれ・・・」
「目を覚ましなさい! 祐介君は妖魔の術中に陥っている!」
和尚は護符を取り出た。護符が光りだし、俺は目の前が真っ白になる。
"俺自身が封印していた記憶"がよみがえり始める。
俺は・・・会社員の父親と、教育熱心な母親の家に生まれた・・・。
幼稚園ぐらいまでは、友達も居て、普通の子と変わらなかった・・・だけど・・・
小学校3年辺りから、勉強についていけなくて・・・いつも0点ばかり取っていて・・・
物忘ればかりしたり・・・体育で運動についていけなくて・・・勉強も全然できなくて・・・テストはいつも0点で・・・
学校ではイジメられていて・・・そのことを先生に相談しても・・・イジメられる側に問題があるって言って取り合ってもらえなかった・・・母親には・・・相談できなかった・・・
母親は勉強ができない俺を常に叱っていて・・・父親も俺に厳しい言葉を多く投げかけて・・・小学校のときは・・・両親からの愛情も感じなくなって・・・友達もみんな自分から離れて行って・・・
俺が引きこもったのは小学5年のときだ!
仮病を使ったズル休みをしたときに・・・それからずるずると何日も仮病を使って・・・
母親と父親が俺を無理やり引っ張り出そうとするけれど・・・俺は必死に抵抗して・・・物を投げて・・・ついには包丁を台所から取り出して振り回して・・・
近所の人が騒ぎを聞いて通報して・・・俺は警察に取り押さえられて・・・俺は1週間施設に送られた!
そうか! 施設から戻ってきたあと・・・ずっと不登校だった! いつの間にかに中学生になっていて、学生服も出来ていたから、それを着て入学式には行ったけど、なんだか、大勢の同年代の人が恐くて、俺は緊張に耐えられなくて、式の途中で倒れて病院に運ばれて、その日に家に帰った。
「じゃあ、俺はリリィと・・・どこで出会っていたんだ? それにパパは?」
「その調子だ! 自分の心の中の扉の鍵を開けるんだ!」
父親は・・・確か、俺が中学生になったときぐらいから、あまり家に寄りつかなくなって、外で愛人を作って不倫して・・・
「俺はもうこんな家イヤなんだ! 祐介だって引きこもったままだし、おまえだってどんどんおかしくなるじゃないか!」
「大丈夫よ! あたしは大丈夫だから! 祐介もちゃんと学校に行かせるから! だからお願い! 考え直して!」
「もう・・・ムリだよ・・・俺はもう、疲れた。」
「祐介・・・ごめんな・・・悪いパパを、許してくれ。そして、ママのこと・・・頼むな・・・」
そのときの俺は、怒りと同時に悲しみがこみ上げて来て、怒る気にも、何か言う気にもならなかった。
リリィとは、確か・・・あの日だ!
俺は父親が出て行ったあと、これ以上母親を悲しませてはいけないと思い、少しずつ外に出るよう努力した。けど、体がなかなか言うことを聞いてくれなかった。
それでもなんとか、街まで行ったことがあった。そのときに・・・
「あれ? こんなところにオカルトショップなんてあったっけ?」
見るからに怪しい店が、裏道に出来ていた。この頃の俺はオカルトやホラーにハマり始めた頃で、好奇心から店に入った。
「おや、人間の来店とは珍しい。いらっしゃい。ここは魔術店だよ。ゆっくり見て行きな。」
「あの、お姉さん。その耳・・・」
「おや、魔物娘の存在を知らないのかい? まぁ、この国では無理もないか。それに、現代社会も魔物娘にとって住みやすいとは言えまい。この国は都会だらけで、自然が少ない。まぁ、私は都会でも暮らせる魔物娘だけどね。」
「まぁ、多少、本で読んだりしたことはあります。」
「むか〜しむかし・・・中世の頃には、全国にたくさん居たんだけどねぇ・・・。まぁ、大陸には今でも魔物娘がたくさん居るって話だけどね。」
「そうなんですか・・・。」
「私も、刑部狸という、まぁ、分かりやすく言えば、商いに長けた魔物娘さ。」
「ふ〜ん・・・人間じゃあないんだ・・・」
「そうさ。恐いかい?」
「いえ、別に・・・。」
「そうか。まぁ、ゆっくり見てお行き。」
俺は店内を歩いた。いくつも怪しい物が置かれていたが、どれも興味深かった。でも、どれも当時の自分には手の届かないものばかりだった。
「あの、すみません。幸運を呼ぶ商品って、ありませんか? できれば安い物で。」
「幸運系のアイテムかい? あるよ。ついて来な。」
「これなんかどうだい? この堕天使の銅像を、家の中心に置いておくと、人間関係が良好になるんだ。値段は、ちょっと張るけどねぇ。」
価格は3万円。到底買えない。最も、銅像としてもかなりいい出来で、まともな店ならもっと高いのかもしれないが・・・。
「この薬は、君の彼女に使うだけで・・」
「自分、彼女居ないのでいいです。」
「そうかい? なら・・・」
「あの、これください!」
僕は六芒星のキーホルダーを買おうと思った。
「それに目をつけるとは、君はいい目をしているね。それは身に着けているだけで不幸や災難から身を守ってくれるアイテムさ。」
「いくらですか?」
「1000円だよ。」
「せ、1000円!?」
当時の自分にとっては大金だ。正直、今の家の財政は苦しく、父親から離婚の慰謝料と養育費が払われているとは言っても、母親はパートで働かなければならないほど貧乏だった。正直、お小遣いをもらうのが申し訳ないぐらいだ。
「少なくとも、うちの商品だから効果は保証するよ?」
「う〜ん・・・」
「それなら、オマケしてあげてもいい。1500円で・・」
「1500って・・・増えているじゃないですか!」
「まぁまぁ、落ち着いて。1500円でそのキーホルダーと・・・これをつけてあげるよ。どうだい?」
刑部狸は金髪で黒いリボン、白いドレスを着た少女の人形を出した。
どうしてだろう? 確かにこの人形はとても可愛いし、よく作られていると思う。だけど、それとは違った・・・物に対する愛着とは違った愛情が、自分の中に沸き上がった。
「買います!」
「はい。まいどあり。この子を買った子は幸せになるよ。ヒッヒッヒ・・・」
そして、俺はこの人形に、リリィという名前をつけて、とても愛着を持っていた。それこそ、本物の女の子のように・・・友達のように・・・そしていつしか、この子がもし本当の女の子で、俺の彼女だったら・・・そんなことを思っているうちに・・・。
「リビングドール。呪われた人形だ。君は刑部狸というタチの悪い妖魔に、呪いの人形を売られたんだよ。」
「・・・そうだ・・・リリィは・・・全部思い出しました。」
「ゆうちゃん・・・お願い・・・今まで、辛い思いをさせて来てごめんなさい。これからはママもゆうちゃんを助けるから・・・これからの人生を・・・」
「祐介君。リビングドールを倒すには、私だけの力では無理だ。君自身が、君自身の手で、彼女を壊すんだ。そして、戻るんだ。家族の元へ。」
そう言って道元は金槌を俺に渡し、3人で俺の部屋に向かった。
俺は扉の部屋を開ける。
「祐介。遅かったわね。どうしたの? ・・・どういうこと!?」
「リリィ・・・ごめん。」
「さぁ、リビングドールよ! 邪悪な洗脳から祐介を解放しろ!」
道元は護符を取り出し、お経のような呪文を唱える。すると護符は眩い光を放つ。
「・・・クッ・・・祐介・・・もう、あたしのことを愛していないの?」
「リリィ・・・」
「祐介! 彼女の言葉に耳を貸すな! 彼女は君を騙そうとしている!」
「何を言っているの!? あたしは祐介を騙したことなんてない!」
「黙れ邪悪な人形!」
「確かに・・・祐介の幼いときの記憶を消したわ・・・だけど、それは祐介に・・・辛い思い出を忘れて、あたしだけを見て欲しかったから・・・」
「どうだ? 祐介よ。彼女は君の記憶をも、消してしまう妖魔なんだ。」
「黙りなさい! あたしから祐介を奪うなら・・!」
リリィも怒りの表情をする。あんな表情は今まで見たことが無い。リリィはいつも、自分には笑顔しか見せなかったから・・・。
リリィは紫色のオーラに身を包む。
「祐介・・・あなたは、現実に帰りたいの?」
「俺は・・・」
「ゆうちゃん・・・お願い・・・ママを一人にしないで・・・」
「祐介。この現代社会において、心を病んでしまい、現実から逃避することは決して珍しいことでもなければ恥でもない! 現実では確かに辛いことがたくさんある。しかし、歩み続ければ必ず光が見えて来る! そして、現実でも居場所を見つけ、幸せを得ることができる! 君は一人ではない! 母親や私。そして、君のような若者を支援してくれる団体もある! 君が苦しむとき、多くの者が君を支えてくれる! だから、恐れずに現実と向き合うのだ!」
「俺は・・・」
俺は、金槌を持って、リリィに歩み寄る。
「祐介・・・現実に戻るの? 祐介がそれを望むなら、それでもいい・・・。ごめんなさい。あたしは祐介をずっと騙し続けて来た・・・。祐介をフリージャーナリストと思い込ませて、掲載されるはずもない記事を書かせていたのもあたし。」
そうか・・・リリィは気づいていたのか・・・。私はずっとオカルト系ジャーナリストに憧れていた。
私はずっと外に出たかった。でも、恐くて出られなかった。日々、ホラーやオカルトの雑誌や本を読んで過ごす日々。私もこんな記事を書いてみたい。世界各地を回って、超常現象や心霊現象をカメラで収めて・・・取材したりして・・・本を出したい。それが、私の夢だった。
だからリリィは・・・私の辛い過去の記憶を消して、架空のジャーナリストとしての記憶に上書きしていたのか。
今まで書いた記事は、全部俺がネットサーフィンや雑誌で得た知識で書いた物に過ぎなかった。そして、メールの送信先はでたらめなメールアドレス。存在しない出版社に、俺はメールを送り続けていた。
今まで一回たりとも返信が来たこともなければ掲載されたこともない。当然だ。存在しない宛先にメールを送り続けて来たのだから。
俺はフリージャーナリストなんかじゃない。本来の俺は、20歳の引きこもりのニートに過ぎない。学歴は中卒。高校受験すらしなかった。
「今までありがとう・・・あたし、祐介に買ってもらえて、幸せだった。祐介はあたしをずっと大切にしてくれた。」
「俺も、リリィと出会えたことを幸運に思ってる。リリィは、俺のたった一人の理解者だったから・・・だからっ!!」
「ゆ、祐介!?」
「ゆうちゃん!」
俺は金槌を捨て、リリィを抱きしめた。
「リリィ! これからもずっと一緒に居てくれ!」
「祐介・・・。あたしは、人間じゃない。あの和尚が言ったように、あたしは呪いの人形。それでも、祐介は愛してくれる?」
「ああ! 勿論さ! 君が呪いの人形だって何だって構わない! 君は俺を愛してくれた! こんな俺でも、君は常に傍に居てくれた!」
「祐介・・・!」
「何を言っている祐介! 妖魔にたぶらかされてはいかん! 戻って来い!」
「黙れ! 現実は俺を受け入れてくれなかった! この現実のどこにも俺の居場所はない! 俺の居場所はリリィの傍だけだ! 現実の幸せ? 幻想の幸せ? 関係ない! 俺が見ること感じたことが全てた! そうだ!俺が感じた幸せこそが・・・俺の幸せだ!!」
「何を言っている!? 君が彼女に取り込まれれば、君の母親はどうなる!?」
「ゆうちゃん! お願い! 戻って来て! もう一度ママと一緒に人生をやり直しましょう!」
俺は振り向いた。ママは悲しそうな顔をして、泣いていた。
「黙れ!! ママが一度だって・・・俺を愛してくれたことがあったかよ!!」
「ゆうちゃん・・・」
母親は泣き崩れた。
「出て行きなさい!!」
リリィから強い光が放たれる。道元と母親は部屋の外へ飛ばされ、部屋の襖は固く閉じられた・・・
「リリィ! ずっとずっと一緒だ!」
「嬉しい! ありがとう! でも・・・」
「いいんだ・・・君は俺を愛してくれた。それに、君は俺の記憶を奪ってはいない!」
「えっ? ・・・祐介・・・気づいていたの?」
「当然さ! どれだけ長く一緒に居ると思っているんだ? それに、君は記憶を消し去るようなことをする子じゃない!」
そう。俺は分かっていた。リリィは俺の記憶を消したりはしていない。ただ、俺が望む限りは記憶を思い起こせないようにしただけなのだ。つまり、"俺が思い出したいと思えば、いつでも思い出せたのだ。"
「リリィ!」
俺はリリィを布団に押し倒し、ドレスを脱がせ、顔を胸に沈めた。そしてリリィの体中を舐めまわし、しゃぶりつくした。
リリィは俺のペニスを咥えた。俺はさらなる刺激を求めて、リリィの頭を掴み、乱暴にペニスをリリィの喉に出したり入れたりした。
何十回。何百回射精したのかは分からない。ただ本能のまま、無我夢中でリリィを犯し続けた。リリィも何回潮を吹いたのか分からないが、たとえリリィが何度イッても、どれだけ子宮から精液があふれ出ようとも、俺とリリィは交わり続けた。
固く閉ざされた祐介の扉は、強力な結界が張られ、二度と開くことはなかった。
「彼自身が部屋から出ようと思わない限りはこの扉は開きません。しかし、それはもう、一生ないでしょう。彼はもう、戻って来ない。」
母親は日々、祐介の部屋の前に来ては、泣き崩れていた。もう、祐介には泣き声は届かないことを知らずに・・・。
その後、祐介がリビングドールも魔物娘であることを知ったのはつい最近だった。
ある日突然、魔物娘図鑑という本と魔術店のカタログが頭上に降ってきたのだ。
「あ! あのときの! ・・・どれも高いなぁ・・・でも、こんな魔術道具よりも・・・」
「ちょ、ちょっと・・・キャア!」
「俺にはリリィが居る!」
俺はリリィを押し倒して馬乗りになり、ペニスを口に押し込んだ。
祐介は疲れて眠ってしまった。
「そろそろ・・・できるかな・・・?」
祐介の精を幾度となく注ぎ込まれたリリィは、強大な魔力を持つようになった。
(祐介には辛かった現実全てを忘れて欲しい。それと、この部屋はあたしと祐介には狭すぎる。これからは、2人だけの世界で、もっと広くて綺麗な家に住みましょう。そして、祐介とあたしはずっと結ばれるの・・・ずっと・・・ふふふっ)
リリィは空間をも操る強力な魔力を放出した。そして、祐介の部屋は現実世界から存在そのものが消えた。
地上には白い薔薇が一面に咲き、綺麗な川が流れ、上空には大きな白い城が浮かぶ。
祐介の部屋はこの城の中に存在し、2人の愛の巣が作られている。
2人分は余裕で眠れるカーテンのついた広いベッドに、大きなソファー。豪華な丸いテーブルに静かに揺れる椅子。
金色の枠をした堕天使の大きな絵が飾られ、2人を見守る。部屋の隅には祐介が使っていた古いPCとPCデスクも置かれている。
「す、凄い家だね! いや、これはもはやお城だよ!」
「そうよ。ここは、あたしと祐介の愛の天空城よ。これからは嫌なことは何も考えなくていい。やりたいことを、したいときにすればいいのよ!」
「そうか! なら早速!」
「キャッ!」
俺はリリィをベッドに押し倒した。
王国の宮殿のような異世界の空間で、2人は永久に交わり続けるのだった。
18/08/15 18:10更新 / 幻夢零神