おまけ
ブラウン王国三大童話の一つ
「竜と囚われの姫」
著者:S.スピア
昔々、この王国は一匹の竜に悩まされていました。
竜は月に一度、街へ降りては、籠一杯の宝石を要求し、要求を断れば悪さをして人々を困らせました。
竜がなぜ宝石を要求するかと言うと、それは、竜は王国の外れにある森の塔に、遠い遠い国のお姫様を閉じ込め、そのお姫様のご機嫌を取るために宝石が必要だったからです。
「いらないわ」
しかし、いくら竜が塔に閉じ込めたお姫様に宝石をプレゼントしてもお姫様はご機嫌になりませんでした。
困り果てた竜は、ある日街から小さく体の弱い少年を“せめて退屈しのぎの話し相手に”と連れ去って来ました。
竜の計らいによって話し相手のできたお姫様は、それはそれは喜び、機嫌をよくされたそうです。
そんなお姫様を見た竜は、もっとご機嫌にならないかと、さらに街から使用人に道化師、はたまた樵に庭師と何人もさらって来ました。
王国の王様は竜の人拐いを見て“竜は宝石を渡すことでおとなしくしていたが、流石に民に被害が出るのはいかん”と考え、竜討伐の御触れを出しました。
“人攫いの悪しき竜を退治した者には莫大な報酬と願いを一つ叶えてしんぜよう”
御触れをみた王国中の力自慢技自慢の騎士や戦士に狩人達は,竜を我が先に倒さんと、森の塔へと出向きました。
しかし、森の塔に行ったきり誰も戻っては来ませんでした。
王国の力自慢では竜にかなわないと知った王様は、ならば遠くの大陸の者ならと、大陸の国で御触れを出しました。
そして大陸の国で御触れを見た、大陸中で名を轟かせた騎士に魔法使い、戦士に狩人達が王国にやって来ました。
まず最初にやって来たのは、大剣を背負った筋肉質な大男でした。
『俺が、この自慢の大剣で竜の首をぶった切ってやろう』
大男は言いました。
しかし大男自慢の大剣は、竜の固い鱗に阻まれ折れてしまいました。
次にやって来たのは、銀色に輝く立派な鎧を来た騎士でした。
彼は言いました。
『私の自慢の剣術で竜の羽を切り落としてみせます』
しかし、騎士の剣術は、風より早く飛ぶ竜には当たりませんでした。
『でわでは、私の自慢の魔法で竜を焼き殺してしんぜよう』
と、今度は黒いローブを羽織った魔法使いがやって来ました。
しかし、魔法使い自慢の火炎術は竜の灼熱の息吹の前に、塵となり敵いませんでした。
そして最後に、獲物を捕らえるための豊富な知識と、一滴でグジラをもたちまち痺れさせる毒を矢に塗った、狩人がやって来ました。
『剣も魔法も効かないなら、私の獲物を追い詰める自慢の知識と、世界一の毒で捕まえて来ます』
しかし、狩人自慢の罠は勘の鋭い竜の前には意味なく、自慢の毒でさえ不死身と言われる体を持つ竜には効きませんでした。
王様は竜に何も敵わないとわかると、なすすべ無くとうとう困り果て、悩みなやんだ末に熱を出して寝込んでしまいました。
毎日毎日熱にうなされては、
「う〜ん、誰でもいいからあの竜を倒したまえ……」
と、うめきました。
しかし、王様のうめきは誰にも叶える事はできませんでした。
そんなある日、竜を退治できずに困っている王様の前に、身体が小さく、体の弱い少年が現れます。
そして王様と側近達に言いました。
『王様、もし僕に3日の時間と袋一杯の金貨をいただければ、竜を退治して見せます』
王様の側近達は少年の言葉に腹を抱え笑いました。
『国中だけでなく、大陸中に名を轟かせた者でも、あの竜に敵わなかったのに、小さい子供のお前に何ができる?』
しかし少年は言いました。
『家族の居ない僕は、竜に閉じ込められたお姫様の所まで拐われ、使用人として働かされました。そしてその時、お姫様に竜の弱点を教えていただきました。それから僕は竜の隙を見て逃げ出し、今ここにいるのです』
困り果てていた王様は少年の言葉を真剣に受け止め、藁をも掴む思いで信用する事にしました。
『王様、ありがとうございます』
そして王様は少年に言いました。
『よいか少年よ、猶予は3日、それまでに竜を倒せたらお前の望みを全て叶えてやろう』
少年は王様から貰った金貨を抱え、3日の内のまず1日目に、森とは反対の、港に向かいました。
港に向かった少年は、輸入されたばかりの新鮮な小麦粉を、王様から貰った金貨の半分を使って大量に買いました。
そして、直ぐ家に帰ると買った小麦粉を捏ねてパンを作り始めます。
2日目には森の奥にある、牧場に行き、王様から貰った金貨の残りを使い、上質な肉を大量に買いました。そしてまた直ぐ家に帰ると買った上質な肉を焼き始めました。
そして王様から与えられた最後の3日目に、作ったパンに焼いたお肉を挟んでサンドイッチを作り、竜の所に向かいました。
そして、お姫様が閉じ込められている塔に到着すると叫びました。
『やい竜や、僕と一つ賭けて勝負でもしないか』
少年の叫びに竜は塔の影からノソリと出てきて答えました。
『逃げ出した小僧か、わざわざ戻ってきて私と賭け事をするだと?貴様と賭け事をしても貴様が負けるだけだ、喰われる前に帰ってしまえ』
竜の答えに少年は怯える様子もなく、勇敢に言い返しました。
『そんなの、やってみないとわからない、どうだ、やるのかやらないのか?それとも、自分より小さい僕に怖じけ付いたのか?』
竜は少年の挑発に怒りました。
『黙れ、小僧!私がなぜ、か弱い貴様に怖じけづく。よかろう、貴様と勝負してやる。ただし貴様が負ければ、その場で一口で骨まで食べてやる。それでもやるか?』
牙を剥き出しそう言った竜に、少年は怯えるわけでもなく微笑みました。
『竜よいいだろう、ただし僕に負けたら、三つ僕の願いを聞いてもらう』
竜も微笑みました。
『小僧いいだろう。ちと小さいがこれで夕飯ができた。それで、勝負の仕方は? 力比べか? それとも私に剣や魔法で挑むのか?』
早くも勝ち気な竜は少年の言葉に承諾し勝負を急かしました。
『せかすな竜よ、勝負の方法だが、相手に参ったと言わせたら勝ちだ。だがその前にお前自慢の大きな口で、この小さい僕を一口で食べられるかどうか、証明してみろ』
少年は手振りで、一口で食べれるかと問い掛けました。
『ハッハッハッ、貴様はバカか? 見てわからないか? 大きく口を開けなくても、ほれ、ちょっと開けるだけで食べられるぞ』
竜は牙と大きな舌が少し見える程度に口を開けました。
『嘘を言ってはいけない、そんな少しでは僕を食べれやしない、一杯まで口を開けて証明して見せれば、僕は敗けを認めて、参ったと言って自分から口の中に入ってやる』
少年はさらに挑発しました。
『いいだろう、ならば、これでどうだ』
竜は少年の挑発にのり、自慢の大きな口を一杯一杯まで開けました。
90度以上開いた口は、まるで洞窟の入り口のようでした。
『いやいや、まだまだ』
少年の言葉に竜はさらに口を開けました。
『だいぶ大きな口だ、どれ、本当に僕が一口で食べれるか、口の中に入って調べてみよう』
少年はそう言って竜の口の中に、3日かけて作った大量のサンドイッチを放り投げました。
『ほ、ほげひろ(ほれ見ろ)きはまのはけだ(貴様の敗けだ)、ほのははたへてやう(このまま食べてやる)』
竜は大きな口を開けたまま、そう言って口を閉じました。
『竜よ、それでは勝負を初めようか』
少年は竜が口を閉じることを予め予想していて、限界以上に口を開けた時にできる死角を利用して竜の下に潜っていました。
『ハッハッハッ何を言っている、一口で口に入った貴様は敗けを認めろ、貴様などこの通り一口だ、それにしても小僧、貴様は、パンと肉の味がして旨いな』
モゴモゴと口の中で舌を転がして、少年と勘違いしてサンドイッチを食べる竜は言いました。
そして
『竜よお前の弱点はここだ!!』
少年に完全に油断していた竜は飛び上がりました。
“竜の弱点、それは喉にある逆鱗なの、それをくすぐれば竜はたちまちに、たまらなくなり、おとなしくなるはずよ”
捕らわれの身であるお姫様から弱点を聞いていた少年は、竜の弱点である、逆燐をくすぐり出したのです。
『ば、バカな何故そ、こに……わっはっはっは、な、何故だっ、はっはっ、い、今、確かに、ははった、食べたはず、はっはっは、わーはっはっはっ!!』
逆燐をくすぐられる竜は、たちまちに身体中の力が抜け、下手ってしまいました。
『わーはっはっはっ、や、やめろ、はっはっは、くすぐったい、はっ、やめろ、はっはっ』
竜はくすぐりにたまらず、力なく地面にひっくり返りました。
『竜よ、敗けを認めて降参しろ、そうすれば止めてやる』
少年はひっくり返り笑う竜に馬乗りになり、逆燐をくすぐりながら言いました。
『わ、わかった、わーはっはっはっ、言う、言うからやめろ、はっはっはっ』
竜はそう言うものの、なかなか敗けを認めませんでした。
『ほら、早く』
しかし、くすぐりに耐えられなくなった竜は笑いすぎて、顔がどんどん青白くなって行きます。
『わっはっはっく、苦しい、や、やめ!?やめてくれぇ!?いやぁはっはっは!?』
呼吸困難に近いぐらいに苦しむ竜。
そしてついに、
『はっはっはっ、わ、わかった、お、お前の勝ちだ、はっはっ、だからやめてくれ、わーはっはっはっ、わ、私の、“敗けだ!!”はっはっはっ』
竜は敗けを認めたのでした。
竜に勝った少年は言いました。
『賭けの約束だ、僕の願いを三つ聞いてもらう。もし約束を破ったのなら、“森の塔の竜は約束も何も守れない卑怯者だ”と言いふらしてやる。』
少年は竜の上に股がったまま言いました。
『はぁ、はぁ、はぁ、ふん!? 私を甘く見るな、約束は必ず守る、我が守護神ウーゼル・ペンに誓い約束を守ると誓おう』
竜は、息を切らしながら少年を乗せたまま天に吼えて誓いました。
その後、竜は少年の三つの願いを聞きました。
一つ、王国の王様と人々に謝り、今後一切悪さをしないこと。
一つ、塔に捕らえられたお姫様を無事に国に還すこと。
そして最後の願いは……
『少年よ、本当に三つ目の願いがこれで良かったのか?』
空高く飛ぶ竜が、背中に乗っている少年に言いました。
『うん』
『そうか、なら構わないが……』
あの日竜と勝負をし勝った少年は、敗けた竜をつれて王様の所に行きました。
王様は最初ひっくり返るほど驚きましたが、竜がもう悪さをしないと分かると大変喜び、少年に莫大な報酬を与えようとしました。
しかし少年はその報酬を断り王様に言いました。
“そのお金は未来の王国のためにお使い下さい。僕の報酬は初めに貰った金貨で十分です。なぜなら、あの金貨を頂いたことで、最終的に家族の居なかった僕に竜と言う家族ができましたから”
そう、少年の三つ目の願いは、
“竜よ僕の家族になってくれ!!”
おわり
11/10/25 12:10更新 / 腐れゾンビ
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