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第零章 出会いについて、少しだけ詳しく
 五十の質問に入る前に、まずは定番中の定番を。

 愛する奥様との出会いについて、少しだけ詳しく答えていただきました。

 穏やかな出会い、物心ついた時からの出会い、そして豪快な嵐の如き出会い。

 愛のかたちは、色々。出会いのかたちもまた、色々。


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・妖狐を妻に持つ男性
 僕が十四歳の時、近所に人間と妖狐のご夫婦が引っ越して来ました。
 お二人には九歳になる娘さんがいて……何を隠そう、その子が現在の妻なんです。

 僕には五歳下に妹、七歳下に弟がおりまして。
 弟妹たちとすぐに仲良くなった彼女は、僕の家にもしょっちゅう遊びに来ていました。
 で、「お兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」と誘われて、仕方なく相手をしてあげているうちに、だんだんと彼女のペースに巻き込まれていったんですね。

 そして、彼女の十一歳の誕生日に、僕は美味しくいただかれてしまいました。
 もちろん、性的な意味で。

「お誕生日にはプレゼントも何も持たずに、お兄ちゃん一人で、私のお家に来てね!」

 と言われて、『何か頼みたい用事でもあるのかな?』なんて思いながらノコノコと出かけて行ったら、そりゃもう豪快に飛びつかれて、脱がされて、イヤんバカんですよ。

 本当、何が恐ろしいって、それが彼女のご両親公認の計画的犯行だったことですね。
 ベッドにはピンクのシーツがかけられてるし、部屋には性欲を高める東方秘伝のお香が焚かれてるし、ご両親は「それじゃ、頑張りなさいね!」と言い残して隣村の温泉旅館へ【次女懐妊に向けた野心的小旅行】へ出かけちゃってるし……もう、大変でした。

 けれどもまぁ、相当に無茶苦茶な形だったとはいえ、生涯を共に歩む女性と結ばれたのだから、自分は十分に幸せ者ですよね。
 時の流れと共に、一本から四本に増えた彼女の尻尾を眺めながら、今はしみじみとそう思っています。



・ネコマタを妻に持つ男性
 ある日の夜、仕事場から疲れて帰宅すると、玄関先に一匹の三毛猫が座っていました。

「あら。これはまた、どちらの美人さんで?」
「うるる、ニャ〜ん♪」
「首輪は……着いてないですね。さすらいの美人さんですか?」
「うるるん♪ フニャ、にゃ〜ん♪」

 語りかけた僕に、三毛猫はタイミングの良い鳴き声で応えてくれました。
 僕は昔から動物が好きなのですが、中でも猫が大好きなんです。
 なので、何となく嬉しくなって、こう言ってみました。

「碌なお構いも出来ないですけど、晩ご飯でも食べていきます?」
「ふにゃ〜ん♪ ウルル〜ん♪」

 ピンと尻尾を立てて立ち上がり、嬉しそうに目を細めた三毛猫を見て、僕も思わず笑顔になってしまいました。

 そうして、その日から僕と三毛猫の『晩ご飯デート』が始まりました。
 僕が帰宅すると、三毛猫はきちんと玄関先に座って待っているんです。
 そして、挨拶の言葉を交わして家の中へ招き、自分のご飯と三毛猫のご飯を作って、一緒に食べます。
 その後しばらくまったりした後、大抵は僕がお風呂に入っている間に、開けておいた窓から帰って行って、また翌日の夜になると……ということの繰り返しが、ひと月ほど続きました。
 あまり撫でさせてくれませんでしたし、いつも素っ気なく帰ってしまうのですが、「気ままワガママ、大いに結構。それでこそ、猫!」と思い、大して気にもしていませんでした。

 で、『その日』の夜。
 いつものように三毛猫が帰った後、寝支度を整え、深い眠りに入っていると、「お〜い。ちょっくら起きておくれよぅ」という声がして、誰かに肩を揺すられたんです。

「んぁ?」
「やぁやぁ、愛する君よ。観察二ヶ月、接近ひと月。吟味の結果、あなたこそアタイの夫になるべき人ということになりました。これから末永ぁ〜く、よろしくお願いいたしますにゃ〜ン♪」
「んぁ〜……はい、どうも……んっ!?」

 そこにいたのは、ジパングのキモノ風の衣服に身を包んだ、つり目の可愛い女の子でした。
 僕は驚いて飛び起きようとしたのですが、その女の子は寝具の上から僕をがっちりと捕まえておりまして……そのまま、スリスリスリスリと激しく頬擦りをされてしまいました。
 その時になってようやく僕は、彼女の猫耳と三毛猫柄の手足や肉球、二股の尻尾の存在に気が付いたんです。

「あ……君は、ネコマタ? ジパングの?」
「いやぁ〜ん、さすがは旦那様! 猫に対する素晴らしい知識と愛情! ますます好きになっちゃいますにゃ〜♪」

 と、そこから雨あられとキスをされ、甘噛みをされ、服を脱がされ、以下省略。
 みなさんも、不意に可愛いメス猫が現れた時は、警戒……は、しなくてもいいですね。
 純粋な思いでその子へ親切にしてあげると、素敵な花嫁さんに化けて現れるかも知れませんよ?



・バブルスライムを妻に持つ男性
 スライムの里。
 旧魔王時代から様々な種類のスライムたちが生息し、人間と不思議な共存関係を築いて来た村。
 ……私の故郷は、そんな風に呼ばれています。

 みなさんは、こんな言い伝えをご存知ではないですか?

 ある時代、人間になることを夢見る、清らかな心を持ったスライムがおりました。
 スライムはふとしたきっかけから、確固たる信念と無限の優しさを持つ勇者と出会い、ともに旅立ちます。
 彼らは、数多の苦難に屈すること無く勇敢に立ち向かい、ついに悪を倒しました。
 その偉業に感動した神は、スライムの願いを聞き入れ、夢を叶えてあげることにしました。
 すると、どうでしょう!
 スライムは、誰もが見惚れるような、見目麗しい乙女になったではありませんか!
 そうして、乙女と勇者は深く愛し合い、緑豊かな土地に自分たちの家を立て、末永く幸せに暮らしましたとさ……。

 実は、その乙女と勇者が切り開いた土地が、私の故郷の始まりとされています。
 だから、いつの時代もスライムと人間が仲良しなのは、当たり前なんですね。

 私と妻は、この土地で農業を営んでいます。
 少し具体的に言うと、農薬の類を一切使わない、有機農法というやつです。

 有機農法は、通常の農業以上に土や水の管理が大切なのですが、我が家ではその仕事を妻が担当しています。
 周囲の環境に反応したり、順応したりするバブルスライムの特性を生かして、人間の私では察知できない、極々些細な現象も的確にキャッチしてくれるんですよ。

 そう言えば、都会の下水道などに住むバブルスライムは、とことん強烈な悪臭を放っているそうですが……私の妻は、季節に応じた花の香を放っています。
 本当、妻から漂う匂いで、四季の移ろいを感じられるほどなんです。

「あ、この香りは……そっか。もう夏なんだね」
「ふふふ……」

 そんな会話を交わしながら、今日も二人で水と向き合い、土を耕しています。
 六年前の初夏、花畑の真ん中で太陽の光を浴び、翠玉のような体を輝かせていた妻に一目惚れして以来、私の毎日は素晴らしいものになりました。

 スライムの里の名に恥じぬように。
 そして、ともに歩み、友情と愛情の歴史を紡いで来た、人間とスライムのご先祖様たちに褒めてもらえるように、これからも一生懸命生きて行きたいと思います。



・ゆきおんなを妻に持つ男性
「大きくなったら、わたしをあなたのお嫁さんにしてください!」
「うん、いいよ! ず〜っと仲良しでいようね!」

 五歳の春に、二人で交わした約束。
 ボクとカミさんはその約束を見事に果たし、毎日を幸せに過ごしています。

 ボクたち夫婦が生まれ育ったのは、この国の北部。
 豪雪地帯にひっそりと佇む、小さな村です。
 人から「何がある村なの?」と訊かれても、「雪と自然。以上!」と元気よく答えるしかないような、そんな所です。

 なので、村民は年齢・性別・種族に関係なく、みんな仲良し。
 ボクの両親とカミさんのご両親も親友同士の関係で、それゆえにボクたち二人は、まるで双子の兄妹ように一緒に育てられてきました。
 ……まぁ、後々に判明することなのですが、ボクたちが三歳になった時点で、双方の母親同士が、「この子達を夫婦にしちゃいましょう! きっとお似合いの二人になるわ!」と結託していたそうで。
 ボク自身も子供心に、「きっと自分は、この子と結婚するんだろうなぁ」と思っていましたが、いやはや、ものすごい母親たちに囲まれていたものです。

 時々、友人知人から「自分たちの未来を疑ったことはないの?」と訊かれることがありますが、
その答えは、「ありません」の一言です。
 大きくなり、思春期を迎えたボクは、料理人になるという夢を抱きました。
 そして、全寮制の料理学校へ入るために村を出る……そんな大きな決意を固めた時も、自分たちの未来の形は『幸せな夫婦になる』という、ただそれだけだと思っていました。

 その理由は、いついかなる時も、ボクの傍らにカミさんがいてくれたからです。
 ボクの夢を知った時、カミさんは迷うこと無くこう言いました。

「では、私もそこへ参ります。あなたのいる場所が、私のいる場所。あなたの目指す夢が、私の目指す夢。あなたが学校へ入るのならば、私もそこへ入ります。ともに学び、ともに料理人になりましょう。それが私の、あるがままの気持ちです」

 ボクにとっての未来が一つであったように、カミさんにとっての『あるがまま』とは、二人で一緒に生きていくということだったんですね。
 結果、僕たちはともに村を出て、ともに学んで、ともに料理人資格を取得して、この街に小さな店を開きました。

 カミさんの名前は、セッカといいます。
 ジパングの言葉で、【雪の華】という意味です。
 だから、うちの屋号は“ゆきのはな”。

 近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください!



・アリスを妻に持つ男性
「あら……あらあらあら!」
「え、どうしたの……って、おぉ〜?」
「ん、何が? 誰かいるの……え、うおぉぉ!?」

 昨年の夏、遠くの街で暮らしている兄夫婦が帰省して来た時のこと。
 我が家の玄関先で声を発したのは、義姉、兄、僕の順。
 三人揃って驚いてしまった理由。それは……。

「あ、あの……こんにちは、です」

 ワーラビットである義姉を見て、乗合馬車の停留所から我が家まで、一人のアリスがトコトコついて来てしまったから、でした。

 我が家は代々この村で農業を営んでいるのですが、ご近所さんからは『無駄に明るい農業一家』と呼ばれる程、家族全員が陽気な性格なんです。
 アリスのように珍しい魔物さんが現れたら、普通はびっくり仰天して硬直するのでしょうが……すぐに家族総出で、「すごい! 可愛い! お昼ご飯食べていきなさい! 何なら、今晩泊まりなさい!」と全力歓迎態勢に入ってしまいまして。
 むしろ「え? あ、はい? ありがと、う?」と、アリスの方が目を白黒させているような状態でした。

 聞けば彼女は、子供でも超えられる小さな山向こうの隣町からやって来た、サキュバスさん家の娘さんだそうで。
 お母さんにお弁当を作ってもらって、一人で冒険のピクニックに出かけていた所、義姉を見て思わずフラフラと……。

「あ、じゃあ無理に泊まって行きなさいなんて言ったら迷惑だね。ご両親が心配しちゃう」
「うぅん。お母さんは、『素敵な男性がいたら、お泊りして来ても良いからね』って言ってたよ」
「おぉう……さすがは、サキュバスさん。ケタが違う」

 という会話をうちの両親と交わした結果、彼女は見事にお泊りして行くことになりまして。
 ふと気がつけば、彼女をお風呂に入れるのも、絵本を読んであげるのも、一緒の布団で眠るのも、僕の役目ということになりまして。

「事と次第によっては、やっちゃえロリコン!」と、義姉。
「お前が『Yes、ロリータ!』派でも、俺の弟である事に変わりはないぞ」と、兄。
「この場合、あの子は私の姉になるの? 妹になるの?」と、妹。
「まぁな。身を固める時は、いっそオリハルコンくらい硬くなれば良いよ」と、父。
「サキュバスさん家へご挨拶に行く時は、何をお土産にすればいいのかしら?」と、母。

 ……まぁ、こんな家族ですから。
 その日の深夜に抱きつかれて、超濃厚なキスをされて、彼女に破瓜の血と涙を流させちゃったのも、必然といえば必然なのかも知れません。

 そんなこんなで、僕のお嫁さんはアリスです。
 義母がサキュバスで、義父がインキュバスです。
 ちなみにお二人は、僕たちの結婚をたいそう喜んでくださいました。
 種族柄、エッチ方面に関する考え方に相当なパンチが効いていますが、気さくで飾り気の無い素敵なお二人です。

 それにしても、義姉がワーラビットであることも含めて考えると、うちの親戚関係はものすごくファンキーな状態になっていますね。
 とりあえず、妹は人間の方と普通に結婚して欲しい所ですが……ある日突然、ダークスライムとかになってたら、どうしましょう?



・ワーシープを妻に持つ男性
 嫁さんと知り合ったきっかけは、知人の……いいえ、恩人の紹介です。

 現在、自分は生まれ育った故郷で、家族とともに酪農家として暮らしています。
 ちなみに前職は、拳闘家としてリングに立っていました。
 最高位は、『親魔物国連合 拳闘評議会 ライト級』の三位です。
 自分で言うのも何ですが、結構頑張っていたんですよ?

 毎日こつこつと地道に鍛錬を積み重ね、一歩ずつ着実にランキングを上り、ついに王者に挑戦する権利を得る所にまで辿り着いたんです。
 質、量ともに、これ以上ない特訓の末に臨んだ決戦は……七回:二分三十二秒、王者の強烈な左フックを浴びてのノックアウト負けでした。
 王者への挑戦が決まった時から、『負ければ引退』の覚悟を決めていた自分にとって、それが拳闘人生における最後の戦いとなりました。

 ……が、実は自分、この試合の事を全く覚えていないんです。
 王者の一撃を浴び、昏倒した自分は、そのまま意識不明の重体となってしまいました。
 現場での適切な応急処置と、医師団による懸命な治療のお陰で一命を取り留めることはできましたが、それと引き換えに二つのものを失ったのです。

 一つは、決戦に臨み、敗れ去るまでの十日間の記憶。
 そしてもう一つは、自然で穏やかな睡眠。

 そう……自分は、薬物や魔術の力を借りなければ、眠り落ちることができない、極めて危険な体になってしまったのです。
 飲まない・食べない・眠らない。全ての生物にとって、それは死を意味します。
 自分の場合、飲食に関しては何の問題もありません。しかし、ただひたすらに、眠れないのです。

 処方された睡眠薬を飲んだり、魔術師の方に誘眠魔術をかけてもらったりすれば眠れるのですが、今度はなかなか目覚めないという問題が発生してしまい……。
 酷い時には、死んだように四十時間ほど眠り続けたこともありました。

 先述したように、自分は王者への挑戦を最後に引退し、故郷に戻って酪農をしていました。
 けれども、体がそんな調子であるが故に、普通に働くこともままなりません。
 支えてくれる家族の励ましは本当に有難いものでしたが、同時に、自分自身の不甲斐なさに泣きたくもなりました。

 そんな時、所属していた拳闘会の会長さんが、ふらりと我が家にやって来たのです。
 玄関で出迎えた自分は驚き、挨拶もそこそこに訊ねました。

「会長、こんな田舎まで、一体どうされたんですか……?」
「おぅ、ちょいとお前さんの様子を見にな。具合の方はどうだい。相変わらずかい」
「はぁ……そうですね。四十時間近くぶっ続けで働いて、二十四時間眠りこけての繰り返しです」
「そうかい。んで、嫁さんになってくれそうな子とは、出会ったのかい」

 その唐突な問いかけに、自分は思わず「はい?」と間の抜けた声を出してしまいました。

「『はい?』じゃねぇよ。その辺、どうなんだい」
「あ、いや、あの……いいえ。恥ずかしながら、何の出会いもありません」
「そうかい。そりゃ良かった。実は、お前の嫁さんになってくれそうな、とても良い子がいてな。今日、連れて来てんだよ」

 そう言うと会長さんはニカっと笑い、玄関の外へ向かって「お〜い、入って来な!」と叫ぶように声をかけました。
 すると、何ともふんわりポヤポヤしたトーンの「はぁ〜い」という声がして……。

 ……というのがまぁ、うちの嫁さんと出会うまでの顛末です。

 ワーシープといえば、眠りの魔力が籠っている、あのモコモコした毛皮が有名ですよね。
 自分も、体がこんな風になってしまった際に、ワーシープ印の寝具や寝間着を買おうと思ったのですが、とにかく高い! 手が出ない!
 おまけに、自分の故郷の近辺にはあまりワーシープがいないため、お嫁さんとして来てもらおうという発想も無く……。
 会長は、そうしたこちら側の事情を見越した上で方々に手を尽くし、結婚相手募集中のワーシープを見つけて来てくれたのです。

 そして、ワーシープである嫁さんの毛皮から発せられる眠りの魔力は、自分にとって最高の効果をもたらしてくれました。
 嫁さんと一緒にベッドへ入り、優しく抱きしめられるだけで、スっと自然に眠ることができるのです。
 さらに目覚めに関しても、起きるべき時間にパッと目がさめるのです!
 もう自分には一生叶わないと思っていた自然な生活が、嫁さんのお陰で送れるようになったのです!!

 本当……つくづく自分は、恵まれた男だと思います。
 拳闘家時代も、そして引退後の現在も、周りの人達の優しさに生かされていると感じます。

 今日に、感謝を。明日に、少しずつでも恩返しを。
 眠そうな様子で可愛くあくびをする嫁さんの肩を抱きながら、自分はそんな事を考えています。


 
・白蛇を妻に持つ男性
 例えば、人の多い場所が嫌い。
 飲み会や食事会の類が嫌い。
 あれこれ遊んだり、交友関係を広げたりする事が嫌い。

 例えば、自分のペースで、自分が大切と思うものに囲まれる事が好き。
 あちらこちらへ出歩かず、家の中でごそごそする事が好き。
 流行り廃りに流されず、自分の仕事である笛作りに集中することが好き。

 私は、そういう種類の人間なんです。
 だから、湖の畔に自分の工房兼住居を構え、毎日黙々と生活をしています。
 傍目には随分と寂しい暮らしのように見えるかも知れませんが、私としては煩わしい事柄から距離を置いた、理想的な生活なのです。

 それに、息抜きや他者との交流も無い訳ではありませんしね。
 近くの村へ買い出しに行くだけでも気分転換になりますし、完成した笛を買い付けに来るのは子供の頃からの友人で、顔を合わせれば何だかんだと無駄話もします。
 もちろん、両親との関係も良好ですし……とにかくまぁ、完璧な孤独という事ではないのです。

 そんな私の唯一の取り柄は、子供の頃から手先が器用であるという事でした。
 独学で楽器作りを始め、色々なものを作った末に、笛作りで生計が立てられるようになりました。
 そうして、現在の場所に根を下ろし、自分の好きなように生きる道を選んだのです。

 私は、笛が完成すると、それを持って外に出ます。
 そして、湖を吹き抜ける風を感じながら、その笛で気の向くままに数曲奏でます。
 その時間は、仕事の成否を判断する重要なひと時なのですが……ある時期から、私の笛に合わせて、聞いたことのない楽器の音が混ざるようになりました。

 弦楽器であることはわかるものの、それまでに聞いた事のない、味わい深い音。
 楽器自体の響きもさる事ながら、弾き手の心根も伝わってくるような、そんな音。
 その音は回を追うごとに大きく、近くなり、六度目の夕方……ついに、彼女が現れたのです。

 初めて見る不思議な弦楽器と、それを抱えた白く美しい、蛇の下半身を持った女性。
 もしや、この音色の主は魔物なのでは……という私の予想は、当たりました。
 しかし、その魔物が、遥か東方からやって来た【白蛇】と呼ばれる巫女であるとは、全く予想していませんでした。

 彼女は楽器を抱えたまま、私に向かって深く頭を下げました。

「私は、白蛇のミレイと申します。貴方様の美しい笛の音を聞くたび、その音に合わせてこの琵琶を弾いてみたいという欲を持ち、ついにそれを抑えきれず……。度重なる非礼、何卒ご容赦くださいませ」
「あ、いや……そんな、お気になさらずに。こちらこそ、見事な調べをありがとうございます。ですからどうぞ、顔を上げて下さい」

 私の言葉に、彼女はゆっくりと顔を上げ、柔らかに微笑みました。
 今思えば、私はあの瞬間、彼女に恋をしてしまったのかも知れません。

 彼女……ミレイは、ジパングの守り神的な存在である“龍”からの命を受け、人魔友好の和を広げるために故郷を旅立った巫女でした。
 白蛇である彼女にとって美しい水は必須のものであり、それ故にこの湖に腰を下ろし、日々を過ごしていたとのこと。
 己に課せられた務めを懸命に果たす中で、偶然私の笛の音を聞き、遠く離れた故郷を思ううちに琵琶を取り出し、涙とともに弾いていた……彼女はそう語りました。

 そんな風に私とミレイは出会い、語り合い、ともに一つ屋根の下で暮らすようになりました。
 どこまでも聡明かつ献身的でありながら、恐ろしく嫉妬深い一面を持つ彼女にとって、私の物事に対する取り組み方や人との関わり方は、理想的なものであったようです。

 私の妻となったミレイは言います。

「貴方様は、私にとって運命のお方。嫉妬に狂い、魔力を流し込まずとも、貴方様は私のそばに居てくれる。他の誰も見ることも無く、ふらふらと花を求めて歩く事もなく……。私は、ミレイは、幸せ者で御座います」

 蛇の体を緩く巻きつけ、そっと優しく抱きしめられる度、私は思います。
 今までも、これからも、何も足さず、何も引かずに生きていこう、と。
 この暮らしがあり、この仕事があり、そして愛する妻がいる。

 私は、もう他に、何も要らないのです。
 


・マンティスを妻に持つ男性
 運命のその日、僕は従兄弟の結婚式で午前十時から酒を呑んでいました。
 三歳年上の従兄弟は、とても優しくて面倒見の良い、僕にとっては兄のような人なんです。
 そんな従兄弟が、結婚する……いや、めでたい! 超メデタイ!

 ということで、僕はノリノリで正装し、ノリノリで結婚式場に入り、ノリノリで酒を呑み、ベロベロのゲロゲロになりました。

 最後にうっすらとある記憶は、時計を見て「ん。お昼の十二時半か」と思ったこと。
 それが本当に最後なんです。
 結婚式はもちろん、その後のお祝いパーティーにも二次会まで参加していたらしいのですが、全く、何も、欠片ほどにも憶えていません。

 後々に、親類や友人知人から教えられたところによりますと……。

・傍らにホルスタウロスさんがいるという幻覚を見て、壁に向かって「パイオツカイデー、パイオツカイデー」と言い続ける。
・ぶどう酒の瓶を両手で持ち、陶酔した表情で笛のように吹き続ける。
・ローストビーフを手で引き千切りながら食べた後、親戚の禿頭のおじさんの頭頂部にそれを貼り付ける。
・パーティー会場の隅っこに置かれていた酒樽に、無表情でチョップし続ける。
・これまで一度も呑んだことがない三鞭酒を呑んで、「大地の味がします」と宣言する。

・初対面である花嫁さん側の親類の人と意気投合し(この人も超泥酔)、大根作りの未来について熱い議論を交わす(僕の親戚もあちらの親戚も、み〜んな農家なんです)。
・隣のテーブルにさりげなく乱入し、誰にも気づかれること無くサラダのトマトだけを全部食べるという離れ業を見せる。
・突如、「デビルバクの立場はどうなるんだよぉ」と小声で呟きながら泣き出す。
・退場する新郎新婦に何故かついて行き、みんなからライスシャワーを荒々しくぶつけられる。
・花嫁さんのブーケトスを参列者の女性がキャッチした瞬間、「試合終了ーっ! 皆様、本日はどうもありがとうございましたぁーっ!」と叫び、何故かあたたかい拍手と笑いを引き出す。

 ……などなど、この他にも山ほど色んな事を仕出かしていました。

 で、次に意識と記憶が繋がった時、僕はマンティスさんの寝床の中にいました。
 突然ですね。急展開ですね。意味がわかりませんね。
 はい、だって僕自身にも何が何だかサッパリわからないんですもの。

 とにかく、「いっそ殺してくれ」と思うほど気分が悪く、頭が痛く、全身が重く、どうにもこうにもならないんです。冗談でも何でもなく、指一本すら動かないし、呻き声すら出せないんです。

 「あぁ……俺、これ、死ぬのかな?」と、本気で命の終わりを覚悟しかけた時、歪む視界の中に、無表情なマンティスさんがひょいと現れました。

 マンティスさんは、僕の顔をじ〜っと見つめた後、恐ろしく苦くてドロリとしたものを口の中に流し込んで来ました。
 通常ならば飛び起きたり吐き出したりする場面ですが、その時の僕はなされるがままにそれを飲み下し、心の中で「……マズい」と呟くだけでした。

 後々に、親類や友人知人から教えられたところによりますと……そのニ。

・二次会終了後、「家まで送るから」と心配する親類を振り切り、一人で帰宅しようとする。当然のごとく、芸術的なまでの千鳥足。
・その後、見事に道を間違え、家のある方向ではなく森の奥深くへと突き進む。
・運が良かったのか、それともあまりにも酒臭かったからか、森の魔物さんに襲われることもなく、マンティスさんが住処とする洞窟へ到着。
・狩った獲物の解体作業中だったマンティスさんに「ただいま〜♪」とご機嫌で声をかけ、糸が切れたようにその場で爆睡開始。
・マンティスさん、あまりにも突然の出来事に硬直。

 皆さんも御存知の通り、未婚のマンティスさんは産卵期にならない限り、人間の男に興味を示さない魔物さんです。
 けれども、そのマンティスさんは僕を三日間にわたって丁寧に介抱し、家まで送り届け、その後もしばしば遊びに来てくれるようになったんです。

 そうして出会って三ヶ月が経った頃に僕から告白し、恋人同士となり、現在は夫婦になりました。
 で、訊いてみたんです。あの日の出来事と、その後の彼女の行動について。
 彼女はしばし考え込んだ後、小さな声でこう言いました。

「あの時は、本当に、驚いた。放っておいたら、こいつ、死ぬなって思った。でも、何か、憎めなくて……心の中がチクチクしたから、助けて、そのあとも、様子、見に行ったの」

 そう言って彼女は、ほんの僅かに微笑んでくれました。
 僕は何だか堪らない気持ちになって、ぎゅっと彼女を抱きしめてしまいました。
 すると……彼女は、僕の耳元でこんな風に呟いたんです。

「でも、もう、酒、呑んじゃダメ」
「う……はい。わかりました。断酒します」

 ということで、現在の僕はお酒と縁を切った生活をしています。
 彼女との約束を守って、ちゃんと長生きしたいですからね。
 ……あと、みなさんは僕の真似をして、酔っ払った状態で森に入らないように。
 僕の場合は、あくまでも極めて珍しいケースですからね。本当、危ないですよ?



・ヴァンパイアを妻に持つ男性
 私の妻は、元人間。
 それも、とある反魔物国家の勇者だった人物です。

 ……と、こんな風に書くと「ヴァンパイア討伐に失敗して血を吸われたのか?」と訊かれそうですが、そうではありません。
 彼女は自らの意思で、とあるヴァンパイアと人間の夫婦のもとへと赴き、語り合い、考え抜いた末に、【人であることをやめる】という決断を下したのです。

 彼女は、勇者として生きるには優しすぎる女性でした。
 反魔物国家の勇者でありながら、人間の命と魔物の命を平等に捉え、慈しむことが出来てしまう、そんな人だったんです。

 世の中では往々にして、優しく素直な人ほど苦労してしまうものです。
 残念ながら彼女もその例に漏れず、『勇者としての自分』と『一人の人間としての自分』との狭間で苦しむことになりました。

 人も魔物も、神が創りたもうた大切な命です。
 きっと私たちは、わかり合う事ができるはずです。
 だから、偏見を消し去り、差別を拭い去り、共に手を取り合って生きて行こうではありませんか。

 ……親魔物国家では、当たり前の考えです。
 しかし、反魔物国家でこんな事を口にすれば、即座に投獄され、その日のうちに打ち首になってしまうでしょう。
 彼女は悩み、考え、悶え抜きました。
 そして、縋るような思いと共に、一つの賭けに出たのです。

 僕と彼女の母国である反魔物国家と、隣国の中立国との間に広がる、大きな森。
 その奥深くにある、古びた館。
 そこには、長い時を生きるヴァンパイアとその夫が暮らしていました。

 彼女は一切の武器を持たず、その館を目指しました。
 揺るぎない気高さと、高い魔力。恐ろしい怪力と、豊かな知識。
 それら全てを兼ね備えたヴァンパイアという魔物と語り合えば、人間と魔物の未来について、自分自身が抱える悩みについて、何か答えが見つかるのではないか。
 彼女は、そう考えたのです。

 突然の訪問者である彼女を、夫婦は心よく迎え入れてくれたそうです。
 騎士としての礼節と切羽詰まったような悩みの表情が、ヴァンパイアに何かを悟らせたのかも知れません。

 そうして、三人は荘厳な雰囲気が漂うダイニングで語り合いました。
 人間と魔物の関係。教団の教えの内外に潜むもの。この世界の過去・現在・未来。自分自身が理想とする未来の形と、目の前にある現実との差。そして、命や愛情というものの大切さ……。

 彼女の言葉に夫婦はどこまでも真剣に向き合い、丁寧な言葉を返してくれました。
 答えが出たこと。ヒントを得たこと。謎が深まったこと。また新たな疑問が湧き出したこと。
 夫婦との時間の中で彼女は様々な思いを抱き、ため息をつきながらこう言いました。

「私程度の人間では、どう足掻いても明確な答えには辿り着けそうにありません。この一生をかけたとしても、何もわからないまま終わってしまいそうな気がします」

 その言葉に対して、ヴァンパイアは静かに応えました。

「では、我が血族となるか? 貴女には、間違い無く貴族としての資質がある。血族になれば、少なくとも人としての寿命からは解放されよう。その後の時間をどう生きるのかは貴女次第ではあるが……どうする?」

 彼女は、ヴァンパイアとじっと視線を合わせました。
 ヴァンパイアもまた、その赤い瞳を揺るぎなく妻へと向けました。
 そして、彼女は決意したのです。

 僕は、失踪した彼女の捜索隊の一員として森へ足を踏み入れ、仲間とはぐれ、一人で館へと辿り着きました。
 ヴァンパイアとなった彼女を見た時は……「あぁ、良かった」と思いました。本当に、顔を見た瞬間に、そう思ったのです。

 かつての彼女は、その悩みゆえに勇者でありながらも、どこかに影がさしたような表情をしていました。
 その憂いの気配は、彼女の美しさを引き立てる不思議な効果を発揮してはいたものの、やはり苦しさを感じさせるものでもあったのです。
 しかし、館の玄関ホールに凛と立っていた彼女からは、そんな影が消え失せていました。
 
「よくぞ、ご無事で」

 僕はそう言って、深く頭を垂れました。
 彼女は小さく首肯した後、口を開きました。

「私を、迎えに来たのですか?」
「自分は、あなたのための捜索隊の一員として、この森に入りました。ですから、あなたを保護し、お連れする義務があります」

 そこで僕は一旦言葉を切り、顔を上げ、こう伝えました。

「しかし、今のあなたをお連れする必要はないと思います」
「……それは、私が魔物となったからですか?」
「いいえ、違います」

 僕は、否定の言葉に力を込めました。そして、自然に微笑みながら、言いました。

「今のあなたは、とても良い顔をしていらっしゃいます。魔物になる中で、何かを捨て去り、何かを得ることができたような、そんなお顔です。もしよろしければ、何があったのかを教えていただきたいのですが」

 すると彼女は、美しい野の花が開くように笑い、こんな言葉を返してくれました。

「私を見つけてくれた人が、あなたで良かった。少し長い話になりますが、どうぞこちらへ」

 ……その後のことは、ご想像にお任せします。
 あまり詳細に書き過ぎると、母国のわからず屋たちが討伐隊を編成して暴れだすかも知れませんから。
 もっとも、森狩りを行ったところで、僕たち夫婦も、妻に道を示して下さったご夫婦も、今は新たな土地にいるから無駄なのですが。

 今、確実に言えることは、僕たちは深く愛し合っているということ。
 そして、妻は今をきちんと生き、難題にしっかりと挑み、未来に希望を抱いているということ。

 今は、それだけで十分だと……僕たち夫婦は、心からそう思っています。



・ユニコーンを妻に持つ男性
「農耕馬は、農家にとって大切な働き手だ。農耕馬がいてくれるからこそ出来る事が、たくさんあるんだ。ということは、我が家にとってあの子は大切な家族なんだ。年をとったとか、怪我をしたとか、病気をしたとか、そんな理由で放り出せる訳がない。ワシらは、あの子の命と存在に心から感謝しなきゃいかんのだ」

 僕の祖父の、そのまた祖父の言葉です。
 この言葉と考えは我が家に代々受け継がれ、一つの家訓として輝いています。

 農家の中には、働けなくなった途端にその馬を放り出し、次の馬を買う所もあります。
 しかし我家の場合は、最初に書いたご先祖様の教えに基づき、その馬が天寿を全うするまで、次の馬を買うことはありません。
 農耕馬としての仕事が出来なくなった後も世話を続け、一緒にのんびりと散歩をしたり、怪我や病気の治療をしたりするのです。
 そして、命の灯火が消える時は家族全員で見取り、涙を流し、丁寧に葬ってあげるのです。

 先代の農耕馬は、栗毛の雌でした。
 頭が良くて人懐っこく、仕事も一生懸命に頑張ってくれる、そんな子でした。
 彼女と僕たち家族は一緒に働き、一緒に休み、一緒に笑い合ってきました。

 そうして、馬の年齢としての『晩年』に差し掛かった頃、彼女は内蔵の病気を患いました。
 農耕馬としては働けなくなってしまいましたが、僕たち家族は何も変わること無く彼女に接し、彼女もまたそれを喜んでいるようでした。

 そんな初冬のある日。
 僕は彼女とともに、夕方の散歩に出ていました。
 実はその前日、幼い頃からの悪友が結婚式をあげまして。
 綺麗な花嫁さん(人間の方です)と共に式に臨む奴の姿は、なかなかに格好良いものでした。

「ん〜……結婚かぁ。俺にもいつか、そんな日が来るのかなぁ?」

 無意識の内に、僕はそんな呟きを漏らしていました。
 すると、傍らでゆっくりと歩いていた彼女が、「ぶるる」と鼻を鳴らしました。
 何故だかその時の僕には、その音が“あなたも結婚したいの?”という問いかけに聞こえたのです。

「結婚……うん、ちょっと憧れはあるかな。でもまぁそれ以前に、俺の場合は女の子と付き合った経験すら無い『イモ兄ちゃん』だからねぇ。具体的なことは、な〜んにも想像できないよ」

 自虐気味に笑い、肩をすくめた僕に、彼女は再び「ぶるるる」と鼻を鳴らしました。
 今度は、“あなたは、どんな女性と結婚したいの?”と問われたような気がしました。

「綺麗事じゃなくて、見た目なんかはどうでもいいな。優しくて嘘をつかない人なら、きっと一生を支えあって歩いていけるんじゃないかなぁ。たぶん……って、何でこんな話をしてるんだろうね」

 そう言って僕は苦笑いを浮かべて立ち止まり、彼女の首筋を撫でました。
 彼女は気持ち良さそうに目を細め、僕の手を受け入れてくれました。

 そして、翌日……馬房から、彼女の姿が消えました。

 僕たち家族は半ばパニックになりながら、彼女を探しました。
 しかし、何処にもいないのです。

 戸締りが出来ていなかったのだろうか。
 狼や野犬に襲われてはいないだろうか。
 まさか、死期を悟って出て行ってしまったのだろうか。
 もしかして、もしかして、もしかして……。

 悪い想像ばかりが次々と膨らみ、どうしようもない気持ちを抱えていた失踪四日目の朝。
 彼女は、不意に帰って来ました。
 その傍らに、見目麗しいユニコーンさんを連れて。

 驚きと安堵が混ざり合い、ぽかんと口を開けて立ち尽くしてしまった僕たち家族に、ユニコーンさんは事情を説明してくれました。

「私は、花嫁修業の旅を続けている、ユニコーンのオルガと申します。近くの街道で大雨に降られ、雨宿りをしている所で彼女と出会いまして……。『私の家には、心優しい家族と結婚を夢見る気の良い男の子がいるから、ぜひ紹介させて』、と」

 その言葉を聞いて、僕は一気に合点が行きました。
 彼女は、僕のお嫁さんを探すために馬房から抜け出し、その目的を僅か四日間で果たしてしまったのです。
 うまく言葉を紡げず、金魚のように口をパクパクさせていた僕へ、彼女は「ぶるる」と鼻を鳴らしました。
 僕にはそれが、こう聞こえたのです。

“これが私の、最後のお仕事。私を愛し、受け入れてくれたあなた達にしてあげられる、最後のご奉公よ”

 そんな風に、僕は妻:オルガと出会いました。
 そして、僕たちを引き合わせてくれた彼女は、その三ヶ月後、眠るように息を引き取りました。

 実は今、オルガのお腹には新しい命が宿っています。
 生まれてくる娘の名前は、もう決まっています。

 その名前は、エマ。
 僕とオルガの運命を結びつけ、幸せな今日を生み出してくれた【恩馬】である彼女の名前を貰おうと、夫婦で話し合って決めました。

 ありがとう、エマ。
 君がいてくれたからこそ、僕たちは今日も笑っていられるよ。

 そして、早く生まれておいで、エマ。
 君がこれから歩む世界は、優しい温もりと希望にあふれているよ。

 僕たちは全力で、君を愛すると、そう決めているからね。
 何も心配は、いらないよ。
12/06/08 00:11更新 / 蓮華
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■作者メッセージ
二年三ヶ月ぶりに始まりました、魔物と結婚した皆さんへ、50の質問。
その第二弾でございます。

前作に劣らぬよう、また皆様から「待ってました!」と言っていただけるよう
努力して参りますので、完成まで気長にお付き合いいただければ幸いです。

……いや、それにしても、やっぱり魔物娘ワールドは素敵ですね。
ずらりと並んだ魔物娘さんたちの名前を見ているだけで、自然に
あれこれとイメージが浮かんできますから。

あぁ……押入れの襖を開いたら、魔物娘ワールドへつながる
ワープホールとかが開いてないもんかなぁ(´・ω・`)。

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