連載小説
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街道・峠の再生と防御
  《 街道・峠の再生と防御 : ミノタウロス、アマゾネス、エルフなどの活躍 》

 地震による崖崩れや土砂崩れの発生により、多くの街道・峠道が通行不能となった。
 その結果、人員の速やかな移動は叶わず、各種物資の運搬にも大きな遅延が生じる事となった。
 国内の各都市、さらには隣国からも街道整備隊が編成・派遣され、懸命の作業が続けられたものの、巨大な岩石や倒木などがその行く手を阻んだ。

 また同時期、そういった混乱に乗じて我が国への侵入を目論む者達がいた。
 魔物を唾棄すべき存在と考え、彼女達の完璧な殲滅と地上の制圧を目指す『反魔物国家』の特殊偵察部隊である。
 彼らは人に紛れ、森に紛れ、土に紛れ、全ての目を欺きながら我が国への侵入、さらにはその後の工作活動を企図していた。
 その存在と悪意は、我が国にとって地震以上の厄災と言っても過言ではなかった。

 しかし……我々の近くには、そうした困難な状況を救う、強靭な心身の魔物達がいたのである。


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☆とあるミノタウロスの証言

 あん時アタイは、ねぐらにしてる洞窟ん中で寝てたんだけどな。
 「何か揺れたなぁ」と思って、ふと目が覚めたんだよ。
 で、「別に構やしねぇか」と思って、二度寝したんだよ。

 そんでそこから……どれくらい寝てたのかなぁ?
 とにかく、どこからか聞こえて来る大勢の人間の声でまた目が覚めてな。
 「んだよ、うっせぇなぁ」とか言いながら、のっそりと起き出して外へ出てみたら……何が何だかわかんねぇけど、そこいら辺じゅう荒れまくりの崩れまくりになってやがんの。

「なんじゃコリゃ? こっちが寝てる間に戦争でも起こったのか?」

 思わずポカ〜ンとしちまったんだが、そのままじゃ埒も何も明きゃしない。
 だから、愛用の斧を担いで、えっちらおっちら街道の方へ向かってみたんだよ。
 そしたらまぁ、そっちの方も見事にグシャグシャになっててな。馬車や荷車はもちろん、人間一人も通れるかどうかって有様だったんだ。

 で、その街道を何とか直すために、大勢の人間が集まって、土をどかしたり、倒木を切ったり、大岩を動かそうとしたりしてたんだけど……これがまた非力な連中でねぇ。
 アタイのねぐらに届くくらいの声は出てるんだけど、どうにもこうも弱っちい。ホント、あれならヤギの子作りの方がまだ気合に満ちてるってもんだ。

「お〜う、ご苦労さん。何だい? 崖崩れでもあったのかい?」
「はい、ご苦労様で……ヒっ!?」
「……んだよ、失礼な奴だな。声かけられただけで後退りすんなっての」

 たぶん奴さんは、同僚か上役が声をかけて来たと思ったんだろうなぁ。
 でも、振り返ってそこに立ってたのがミノタウロスだとわかった途端、ぴょ〜んと垂直に跳ねて、ズササササっと後退りしやがったさ。

「あんたら、この国の騎士団の連中だろ? 何かあっちこっちがメチャクチャになってるけど、何があったんだい?」
「何がって……大きな地震があったんですけど……え? 気付かなかったんですか?」
「おぅ。だってアタイ、寝てたから」

 そしたら連中、口をあんぐり開けて硬直しやがんの。ホント、つくづく失礼な連中だよ。
 そんでそこから、現場を任されてる中隊長って奴が出て来てな。事の経緯を説明してくれたんだ。
 で、納得したアタイは、こう切り出した訳さ。

「ほぉ〜、そりゃ大変だ。そんじゃあ、アタイも手伝ってやろうかね?」
「そうしていただければ本当に助かりますが……よろしいのですか?」
「あぁ、別に構やしねぇさ。そんじゃ、手始めに……っと。ほれ、こいつをどうすりゃ良いんだい?」

 連中、再び口あんぐりの大硬直さ。
 ん? いや、別に大した事なんてしてねぇよ? ただそこにあった大岩をヒョイと担ぎ上げて訊ねただけだし。
 何か連中は「梃子の原理」がど〜のこ〜の言って、石だの棒だの用意してたみてぇだけど……そんなモン、めんどくせぇ。キンタマ付いてんなら持ち上げて投げろってんだ。

 ほんでもってその後は、切り株を蹴り飛ばしたり、倒木を斧で粉砕したり、岩石を山肌にめり込ませたりして、たっぷりとお手伝いさ。
 アタイにとっちゃ、朝飯前の事だったんだけどなぁ……実際、朝飯も食わずに出て来た訳だし。
 でも、連中はいちいち「すげぇ!」とか「ハンパねぇ!」とか「格好良い!」とか言いやがんの。
 仕舞いにゃ、さっきの中隊長が涙ながらにアタイの手を握って、

「一生に一度のお願いです! どうか、この国の人々を救うため、引き続き我々に同行して力を貸していただけませんか!? 峠と街道の復旧に、あなたの力が必要なんてす!!」

 なんて言い出してよ。
 その妙な迫力と他の連中の縋るような眼差しにちょっとビビったけど、別に断る理由も無かったし……ま、いいかって思って、こう言ったんだ。

「おぅ、別に構わねぇよ? ただちょいと腹が減ったから、何か食いモンくれねぇか?」
「あ、ありがとうございます! 我々の携帯糧食をどうぞ!!」
「ん、悪ぃね……って、あんまし美味くねぇな、これ」

 騎士団ってのは、あんま扱いが良くない仕事なのかい?
 何か、水気を飛ばした堅いパンみたいモンを渡されたけど、口ん中がモサモサするばっかりでちっとも美味くなかったぞ?

「ん〜、そんでもまぁ、腹ん中に入っちまえば同じだな。うっしゃ、そんじゃあ行くかい!」
「 「 「 「 「 オーっ!! 」 」 」 」 」

 その後はまぁ、似たような事の繰り返しさ。
 崩落やら陥没やらで通れなくなってる場所を見つけて、直して、見つけて、直して。
 正直、途中でちょいと飽きが来ちまったんだが……連中の必死な顔を見てると、途中で投げ出す訳にも行かなくなっちまってな。

(やれやれ、アタイもずいぶんと物好きな奴だよ)

 そんな事を腹の中で思いながら、次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、見つけて、直して、見つけて、直して……。
 まぁまぁ、後々に聞いた話じゃ、あの繰り返しもそれなり以上に意味があったらしいし、万事問題ナシって事で良いんじゃねぇか?

 ただ、騎士団の糧食……やっぱりあれは、もうちょっと美味いモンにするべきだと思うぜ?


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☆とあるアマゾネスの証言

 反魔物国家の特殊偵察部隊?
 あぁ、我々にたった一つの手傷すら負わせられなかった、あの者共の事か。

 やはり人間の男とは、我々の夫として慎ましく可憐に生きるべき存在であるらしい。
 あの程度の体術や剣術で特殊偵察部隊を名乗るとは……フフフ。怒りや憐れを通り越して、何だか奇妙な可愛さすら覚えてしまうな。

 あぁ、そうだ。我々には、一切の被害も損耗も無かった。
 それはそうだろう? 中には七歳の子供に討ち取られた者もいたのだぞ?
 初陣の相手とも呼べぬ雑魚ではあったが、実戦の空気を感じる練習台としては悪くなかったかも知れないな。

 地震発生の直後、我々の長は里の広場に全員を集めてこう言ったのだ。

「数日前から森の泉が濁っていたのは、この地震の前兆であったという事か。人間達にこの事を伝えてやれなかったのは、まことに無念だ。お前達の夫も、人里に暮らす親や兄弟の事を心配しているだろう」

 我々は首肯でそれに答え、長の次なる言葉を待った。

「そこで、八人の戦士とその夫を人里へと派遣する。罪滅しとまでは言わぬが、食料と水を携えて赴き、人々の力となってやるが良い。残りの既婚者は、森へ入って水と獲物の確保。未婚の衆は、里の警護にあたれ。……こうした混乱に乗じて、邪な者共が動き出すやも知れぬからな」

 そうして長は、派遣する八人の戦士の名を呼んだ。
 彼女達は、それぞれの夫と共に素早く準備を整え、大量の水や食料を背負って出発した。
 私を含む既婚の戦士達も森へ入り、今後の生活と支援に備えた食料調達にとりかかった。

 そして……里の警護を命じられた未婚の衆が異変に気づいたのは、翌日昼過ぎの事だった。

「……長、お気づきですか? 西の大木の一番上です」
「あぁ。だが、それだけではないぞ? 半時ほど前から、地上にも鼠が動きまわっておるな」
「敵襲、でしょうか? こんな白昼堂々、我らアマゾネスの里に?」
「ふむ。少なくとも、この国の人間ではないな。大方、どこぞの反魔物国家の者であろう」

 未婚の衆の一人が長の家へ報告に入ると、既に彼女は気配から全てを察していた。

「総員に戦闘準備を通達……まずはこの私が、木の上の覗き屋を始末してくれよう」
「ハっ!!」

 愛用の弓矢を手に取った長は悠然と家を出、広場の中央に立ち、そして……叫んだ。

「誇りを知らぬ醜悪奸邪な者共よ! 貴様らはこの地に果てるがよいっ!!」

 長は、澱みの無い滑らかな動作で矢を放った。
 木の上から里の様子を窺っていた輩は、さぞかし驚愕した事だろう。
 自分はどんな矢も決して届かぬ、当たらぬ、安全な場所にいると……そう『人間の理屈と限界』で考えていたはずだから。

 「ギ……っ!?」と、肩を射ぬかれた覗き屋は、そんな奇妙な声を発して地に落ちた。

「さぁ、若き戦士達よ! 我らの里を穢さんとする輩を打ち倒せ!!」
「 「 「 「 うおおおぉぉぉぉぉぉっ!! 」 」 」 」

 長の号令に未婚の衆が鬨の声をあげて応え、敵の気配が漂う方向へと飛び込んだ。
 そして勝敗は、本当に呆気無く決した。

 ある輩は覚悟を決めて剣を抜き、しかし次の瞬間にはそれを叩き落とされて敗北した。
 ある輩は岩陰に身を潜め、しかし次の瞬間には七歳の子供に見つかり、石で殴られて昏倒した。
 ある輩は脱兎の如く逃げ出したが、しかしその方角には濃密なマタンゴの里があった。

「その他の輩も、似たり寄ったりの腰抜けばかり。我々を昂らせる様な、真の戦士は一人としていなかった。あんなものは、戦闘の内に入らぬ。豆がひき臼に潰される様の方が、まだ見応えと手応えに溢れているというものだ」

 後に長はそう語り、苦笑いとともに肩をすくめた。
 さらに、捕らえた輩を締め上げて聞き出したところ……やはり長の推察通り、地震の混乱に乗じて侵入を図った、半魔物国家の手先である事が判明した。

 ……ん? 『締め上げて』とは、一体どんな手段を用いたのか、と?
 フフフ、これは言葉で説明するよりも、実際に体験した方が早いのではないかな?
 誤解を生まぬよう先に言っておくが、決して血生臭い拷問の類ではないぞ? むしろ、お互いに気持ちよくなれる素敵な方法だ。
 今ここで服を脱いでくれれば、すぐにでも実践出来るが、どうするかね……フフフ、冗談だ。

 奴らの総勢は、十五名。
 そのうち十名をこの国の騎士団へと引渡し、こちらの尋問に素直に答え、なおかつ反省の色を見せた五名を貰い受けた。
 うむ。貰い受けたのだ。未婚の衆の婿として、な。
 まぁ、最初はそれなりに抵抗する素振りも見せたようだが、なぁに、そんなウブな男を自分色に染め上げるのもまた、女としての喜びよ。
 
 何にせよ、今回の一件は我々としても意味のある出来事となった。
 人間を支援する事によって互いに情と絆を生み出し、卑怯千万なる者共を捕え、さらには未婚の衆に夫が出来たのだからな。

 今後、復興への道のりは決して平坦なものではないだろうが、どうか忘れないで欲しい。
 この森には、あなた方人間の友である、誇り高き戦士達がいるという事を。


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 〈 ※レポート制作局補足説明 〉

 証言してくれた彼女を含め、国内では八人のミノタウロスが街道の復旧作業に参加してくれた。
 その働きぶりは、東方の言葉で表現されるところの、まさに『一騎当千』であったという。
 同様に、その豪放磊落な言動は、暗くなりがちな現場の士気を大いに高め、作業効率の飛躍的な向上につながったという報告もある。

 なお、証言にもあった戦闘糧食・携帯糧食については、他の現場からも改善を望む声が数多く寄せられた。
 そこで来月より、国内の各都市にて【あなたが考える長持ち糧食コンテスト】を開催する運びとなった。
 玄人素人の枠にとらわれず優れたアイデアを幅広く募集し、優秀作品は新しい糧食として実戦配備される予定である。
 ちなみに……審査員として、証言してくれたミノタウロスの彼女も、夫となった騎士団中隊長と共に参加を予定している。

 そして、我が国への侵入を図った特殊偵察部隊員は、国際協定に則った捕虜としての扱いを行い、現在も拘留中である。
 アマゾネスの里で捕らえられた十人に加え、エルフの集落からも七人が送られて来た事により、その数は合計十七人となった。

【あなた方へ害を成そうとするだけでなく、我らエルフをも侮辱した賊をそちらへ送る。我らは人間に干渉する事も、される事も望まない。人間同士の争いは、人間同士で決着をつけていただきたい。 〜 簀巻きにされ、街道に打ち捨てられていた隊員の側にあった、エルフの手紙より抜粋】

 アマゾネスの尋問により、侵入者の総数は二十二人と判明していた。
 そのため、十+七+(アマゾネスの婿となった)五=二十二……すなわち、全員の撃退と捕縛に成功したのである。

 後日、アマゾネスの里へは国を代表して王女様が訪ね、感謝の意を伝えると共に、記念の品を贈呈された。
 余談ではあるが、その席で王女様はアマゾネスの長と意気投合し、友情の証として互いの髪飾りを交換されたとのこと……。
 ご幼少のみぎり、『おてんば姫』の相性で親しまれた王女様の素直なお心は、アマゾネスのまっすぐな精神にも響いたようである。
10/07/27 10:29更新 / 蓮華
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