斬鉄剣の本気
放課後。
学業と言う名の苦行から開放された生徒達が親友達と、リア充なら彼氏彼女と帰宅するなど学校の敷地から騒ぎながら出て行く。
しかし、俺の学校のある一角だけはその喧騒など知ったことかといわんばかりにしんと静まり返っている。
「…………」
「…………」
相対しているのは俺とクゥ。
それぞれの手には訓練用の刃をつぶされた剣。
俺が両手で、クゥが片手で軽々と剣を構え、互いに一言も交わさず、1ミリたりとも動かない。
俺たちがかもし出している尋常ならざる空気に、そこで部活をしていた部員達も自らの活動を忘れ俺達の様子をじっと見つめる観客になる。
俺の頬を、一筋の汗が流れ落ちる。
そして、その汗が顔のラインに沿って次第に顎へと流れていき、顎の先端でしばらくとどまったかと思うと……
落ちた。
「おおおおおおおおおおお！！！」
「……かもん」
俺の汗が落ちるのと同時に、俺とクゥは行動を開始する。
俺は構えた剣を振り上げ、クゥへ向かって振り下ろす。
それに対し、クゥは……
「…………」
左半身引くことでかわす。
最小限の動きゆえ、次の行動を先に起こせたのは……クゥ。
手にした剣を横薙ぎにし、刃は俺の胴を狙う。
それを俺は無理やり腰を引くことで避けるが、無理したせいで腰に痛みが走る。
それでも意識はクゥからはずさない。
これを避けられることはクゥも十分承知済みだろう。
故に、クゥは追撃を仕掛けてくることは確実だ。
事実、クゥは振り切った刃を返すと、今まで振った軌跡を逆になぞるかのように再び横薙ぎ。
今度は腰を引いて避けるなどと言うことはできない。
が、防ぐことは出来る。
「っ！」
「〜〜〜っ！」
クゥの刃の軌跡を邪魔するかのように俺の剣を割り込ませる。
クゥの剣と俺の剣がぶつかり合い、金属と金属がこすれあう嫌な音が響く。
自身の攻撃が防がれたと見るや否や、クゥはそのままバックステップで俺から距離を離す。
俺はと言うと剣と剣がぶつかった際の衝撃で手がしびれてしまい、多大な隙を見せる事となる。
バックステップで下がったはずのクゥが、持ち前のばねを生かして着地と同時に前へと踏み込む。
そのまま脇に引いた剣を刺突の構えへと持っていき、剣を俺の首へと突き出す……
「……今日も私の勝ち」
「だな、俺の負けだ」
突き出された剣は、俺の喉に当たるか否かと言う場所で止められ、これにて俺たちの試合は終了した。
剣を下ろし、互いに礼をする俺たちに、外野からの拍手が飛び込んでくる。
「はぁ、相変わらず二人ともすっごいわ」
「なんであれで騎士部に入らないのやら」
「スカウト？ レッツスカウト？」
「止めとけ。今までもスカウトしたが断られてるんだ」
本来ここを部活動の場所として利用している騎士部の面々が今まで離せなかった分を取り返すかのように話し始める。
そう、今日はクゥに誘われ手合わせをしていたのだ。
俺がクゥと手合わせするのは月に2〜3度あることだ。
クゥいわく、身体が鈍らないように定期的に身体を動かしたいんだと。
ちなみにクゥはマンティス故か妙に刃物関係の扱いがうまい。
もちろん、彼女が一番扱いがうまいのは持ち前の鎌だろうが、クゥは持ち前の鎌をまず使わない。
こういった訓練のときだけでなく、ほぼ日常生活でも使ったところを見た事がない。
リィナさんはしょっちゅう脅しとかで鎌を突きつけてくるけど、クゥが鎌を突きつけてきたことはないし、誰かに突きつけたというところを見たこともなかったりする。
とにかく、こうして俺たちは騎士部の面々に許可を取って、場所を提供してもらって手合わせをしていたのだ。
ちなみに、騎士部と言うと非常にお堅い感じの部活に捉えられるが、実質ただの剣術部である。
何故騎士部という名前にしたかと言うと、かっこいいじゃん？というなんともいえない理由だったりする。
閑話休題
こうして本日の手合わせ終了。
今日までの俺の戦績は127戦中0勝124敗3分と言うなんとも情けない結果だ。
……いくら両親チートでも俺自身そこまでチートじゃないし、せいぜいそこらのチンピラの集団を無傷でフルボッコに出来る程度だ。
何より魔物娘は地力が人間と桁違いだ。
むしろ魔物の中でけっこうな武闘派なマンティスに3回引き分けに持ってこれた俺を褒めて欲しい。
悔しくないといえば嘘になるが、まぁこんなもんだろと半ば達観してる俺、プライスレス。
「お疲れ、カル」
「おう、クゥもお疲れ。しっかし、また太刀筋鋭くなってね？ 最初の一撃、避けるの結構無茶しちまったぞ」
「ん、男子三日会わざれば剋目せよ」
「お前は女子じゃ」
俺の突っ込みに「あれ」と小首をかしげるクゥ。
ぐぬぬ、恋人贔屓がなくても可愛いのう、可愛いのう。
と、恋人の思わぬ萌えしぐさにもだえていると……
「少し良いかな？」
「……？」
聞こえてきたのは男の声。
声の方向を見ると……あ、こいつあれだ、クゥに告白して盛大に振られた人だ。
(幼馴染は斬鉄剣の終わりあたりに振られた男です)
「あの、何か？」
「君に用はないんだ。黙っていてくれないか？」
何用か聞こうとするも、俺が声をかけた瞬間俺をまるで親の仇のように睨みつけ、こんな言葉を投げつけられた。
あれ、俺この人ここまで怒らせるようなことしたっけ？
このとき、クゥの眉が少し動いたことに、誰も気が付かなかった。
「クゥエルさん、先ほどの手合わせを見ていて俺は確信した。そんな弱っちい男はクゥエルさんには合わない。だから今すぐその男と別れて俺と付き合って欲しい」
……こいつ何言ってるんだろうか？
あまりの自体に怒りを通り越して呆れてしまった。
なんというか、突っ込みどころが多すぎる言葉だなおい。
まず何でお前がクゥには誰が合うか合わないか決めてるんだよ。
次にお前がクゥに釣り合うと考えた根拠が一切ないぞ。
で、最後に、恋人持ち相手に告白とか常識知らずにも程がある。
「おい、アイツまだ諦めてなかったのかよ」
「というかあの手合わせ見てたならカルが弱いなんざ言えないって」
「私、最初の一撃でやられる自信がある(ｷﾘｯ」
「威張るなｗｗ」
「というかアイツ、ろくに練習しないで、けどプライドだけ高い奴じゃん」
「アイツなんか一撃食らう前にクゥエルの威圧感でチビるんじゃねぇの？」
おーおー酷い言われようだな。
つまりあれか、こいつ勘違い君か。
だったら俺がわざわざ怒りを覚える必要も無し。
せいぜい哀れんでやろう。
……が、このとき俺たちはやっぱり気が付かなかった。
クゥの眉が最早局所地震の如くぴくぴくと震えていることに。
その間にも、男はいかに自分がクゥにふさわしいかを熱弁してたが……どれもこれも的外れ。
クゥの好みにニアピンすらしてない。
もうね、ここまで来るとほんと哀れ。
でもうるさい雑音だから、とりあえずクゥを連れてここからでようとしたときだった。
「…………」
クゥが無言で立ち上がる。
そしてしばらく男を睨みつけるようにじっと見つめていると……
何かが空を裂く音が聞こえた。
「帰ろう、カル」
「お、おう」
反論しがたい雰囲気だったため、クゥの言葉に頷き既に立ち去ろうとしているクゥを追う。
「なっ！？ まだ話は終わって……！」
「話は終わってる。それにやることもとっくに終わってる」
クゥのその言葉と同時に、男が着ていた服が縦一直線に真っ二つになる。
当然、下着も縦一直線。
「……へ？」
思わず何が起こったのか分からず、呆けたままいろいろこんにちわさせている男。
そしてクゥは首だけで男に振り返り、そのこんにちわしている部分をちらっと見ると、鼻で笑った後にこういった。
「……ふっ、カルのと比べたら果物ナイフとクレイモアほど違う……短小が」
男が、崩れ落ちた。
俺も崩れ落ちたい。
なしてこんな場所で俺のマイサンのサイズを比喩とはいえ公開されなきゃならんのか。
「それに、今の一撃、カルなら見切れてた。見切れない時点でお前は論外。私の攻撃も見切れず、それに短小であるながら私に告白？ 分不相応だ。恥を知れ」
男、真っ白になる。
というかクゥさん？ やけに毒舌入ってますね？
そんなクゥの背中を、俺はただ追いかけていた。
「それに……カルは私に唯一勝てる男だよ」
最後にクゥが呟いた言葉は、よく聞こえなかった。
※ ※ ※
「なぁクゥ。お前まさか怒ってるのか？」
「怒ってないとでも？」
やっぱりか。
妙に毒舌入ってると思ったら、ご立腹だったわけだ。
怒ってる理由は……あの男が俺を馬鹿にしたからか？
「なぁ、怒ってる理由って……」
「……カルは弱くない。私はいつも負ける」
「は？ 負けるって……いや、いつも勝ってるのお前だろ？ っと、それは置いといて、俺の事で怒ってくれたのは嬉しいけど、お前、鎌できるのはやりすぎじゃないか？」
「殺してない。問題ない」
そういう問題じゃないって。
しかし、まさかクゥが鎌を使う光景をこの目で見ることが出来たとはね。
あまりの速さに俺も危うく見逃すところだった。
どうやらクゥは相当怒らないと鎌を使わないらしい。
と、そんな事を思いながらも早くも俺達の家の前に到着。
ここで俺とクゥは各々の家に別れて帰宅……のはずだったんだが……
「あの、クゥさん？ なにゆえ私の服の裾をつまんでいるんでせう？」
「……今日、父さんも母さんも帰ってくるのが遅い」
……なぬ？
「そ、それってつまり……」
「…………」
こ、これは伝説のお誘いシチュエーション！！
まさか実在していたとは！！
と、そんなふざけたことを思いながらも、俺の身体はすたすたとクゥの家へ。
oh...なんと正直な我が身体とマイサンよ。
『Hey！ ダディ！ 俺はもういつでもイケるぜ！』
まったく、何でこんな節操無しな息子になっちゃったんだ！
恥を知りなさい！ メッ！
「……カル？」
「ん……なぬ？」
い、いつの間にかクゥの部屋にまで上がっていた。
いったい何が起こったというのか。
なんという超時空。
「……まぁいいや」
クゥは俺の様子に首を傾げるがどうでもいいことと判断したのか、未だにクゥの部屋の入り口付近で立ちっぱなしの俺に抱きつき、背中に腕を回した。
そしてそのまま腕に力を入れてぎゅー……
おお、身体にやわらかいお山が当たっておる……
などと思っていると、どうにもクゥの様子がおかしい。
まず呼吸が妙に荒いのだ。
まるで標高が高い山を常に全力で走りながら登って、降りてきたかのように。
そして次第に足が震えだし、自身の身体さえ支えられなくなりつつある。
そして、ついに耐え切れなかったのか、俺に縋り付くかのようにずり落ち、床にくずおれた。
「なっ！？ ク、クゥ！？」
「……ふふふ、ほら、やっぱり負けちゃった」
はい？
いったい何を……
「いつもこうだ。カルといると私の胸がどきどきする。カルの声を聞くと頭がボーっとしてしまう。カルに触れていると……こんなにも濡れてしまう」
そこまでいうと、クゥは俺の顔を見上げた。
その顔は、ひどく扇情的で、思わず生唾を飲み込む。
瞳を情欲に潤ませながら、クゥは言葉を続ける。
「カルだけなんだ、私をこんなにするのは。私はいつもカルに負けてこんなことになってしまう。だから、カルは私より強い。カルは私を唯一負かすことの出来る男だ」
そして、震える両腕をまるで受け入れるかのように、求めるかのように伸ばし、広げるとトドメの一言を言い放った。
「もっと、私を負かして？」
脳神経が、一気に束でご臨終する音が聞こえた。
「喜んで！！」
俺は着ている服を一瞬で脱ぎ去ると、クゥへ向かって飛び込んでいった。
今日、俺は二重の意味でクゥの本気の姿を見たのだった。
学業と言う名の苦行から開放された生徒達が親友達と、リア充なら彼氏彼女と帰宅するなど学校の敷地から騒ぎながら出て行く。
しかし、俺の学校のある一角だけはその喧騒など知ったことかといわんばかりにしんと静まり返っている。
「…………」
「…………」
相対しているのは俺とクゥ。
それぞれの手には訓練用の刃をつぶされた剣。
俺が両手で、クゥが片手で軽々と剣を構え、互いに一言も交わさず、1ミリたりとも動かない。
俺たちがかもし出している尋常ならざる空気に、そこで部活をしていた部員達も自らの活動を忘れ俺達の様子をじっと見つめる観客になる。
俺の頬を、一筋の汗が流れ落ちる。
そして、その汗が顔のラインに沿って次第に顎へと流れていき、顎の先端でしばらくとどまったかと思うと……
落ちた。
「おおおおおおおおおおお！！！」
「……かもん」
俺の汗が落ちるのと同時に、俺とクゥは行動を開始する。
俺は構えた剣を振り上げ、クゥへ向かって振り下ろす。
それに対し、クゥは……
「…………」
左半身引くことでかわす。
最小限の動きゆえ、次の行動を先に起こせたのは……クゥ。
手にした剣を横薙ぎにし、刃は俺の胴を狙う。
それを俺は無理やり腰を引くことで避けるが、無理したせいで腰に痛みが走る。
それでも意識はクゥからはずさない。
これを避けられることはクゥも十分承知済みだろう。
故に、クゥは追撃を仕掛けてくることは確実だ。
事実、クゥは振り切った刃を返すと、今まで振った軌跡を逆になぞるかのように再び横薙ぎ。
今度は腰を引いて避けるなどと言うことはできない。
が、防ぐことは出来る。
「っ！」
「〜〜〜っ！」
クゥの刃の軌跡を邪魔するかのように俺の剣を割り込ませる。
クゥの剣と俺の剣がぶつかり合い、金属と金属がこすれあう嫌な音が響く。
自身の攻撃が防がれたと見るや否や、クゥはそのままバックステップで俺から距離を離す。
俺はと言うと剣と剣がぶつかった際の衝撃で手がしびれてしまい、多大な隙を見せる事となる。
バックステップで下がったはずのクゥが、持ち前のばねを生かして着地と同時に前へと踏み込む。
そのまま脇に引いた剣を刺突の構えへと持っていき、剣を俺の首へと突き出す……
「……今日も私の勝ち」
「だな、俺の負けだ」
突き出された剣は、俺の喉に当たるか否かと言う場所で止められ、これにて俺たちの試合は終了した。
剣を下ろし、互いに礼をする俺たちに、外野からの拍手が飛び込んでくる。
「はぁ、相変わらず二人ともすっごいわ」
「なんであれで騎士部に入らないのやら」
「スカウト？ レッツスカウト？」
「止めとけ。今までもスカウトしたが断られてるんだ」
本来ここを部活動の場所として利用している騎士部の面々が今まで離せなかった分を取り返すかのように話し始める。
そう、今日はクゥに誘われ手合わせをしていたのだ。
俺がクゥと手合わせするのは月に2〜3度あることだ。
クゥいわく、身体が鈍らないように定期的に身体を動かしたいんだと。
ちなみにクゥはマンティス故か妙に刃物関係の扱いがうまい。
もちろん、彼女が一番扱いがうまいのは持ち前の鎌だろうが、クゥは持ち前の鎌をまず使わない。
こういった訓練のときだけでなく、ほぼ日常生活でも使ったところを見た事がない。
リィナさんはしょっちゅう脅しとかで鎌を突きつけてくるけど、クゥが鎌を突きつけてきたことはないし、誰かに突きつけたというところを見たこともなかったりする。
とにかく、こうして俺たちは騎士部の面々に許可を取って、場所を提供してもらって手合わせをしていたのだ。
ちなみに、騎士部と言うと非常にお堅い感じの部活に捉えられるが、実質ただの剣術部である。
何故騎士部という名前にしたかと言うと、かっこいいじゃん？というなんともいえない理由だったりする。
閑話休題
こうして本日の手合わせ終了。
今日までの俺の戦績は127戦中0勝124敗3分と言うなんとも情けない結果だ。
……いくら両親チートでも俺自身そこまでチートじゃないし、せいぜいそこらのチンピラの集団を無傷でフルボッコに出来る程度だ。
何より魔物娘は地力が人間と桁違いだ。
むしろ魔物の中でけっこうな武闘派なマンティスに3回引き分けに持ってこれた俺を褒めて欲しい。
悔しくないといえば嘘になるが、まぁこんなもんだろと半ば達観してる俺、プライスレス。
「お疲れ、カル」
「おう、クゥもお疲れ。しっかし、また太刀筋鋭くなってね？ 最初の一撃、避けるの結構無茶しちまったぞ」
「ん、男子三日会わざれば剋目せよ」
「お前は女子じゃ」
俺の突っ込みに「あれ」と小首をかしげるクゥ。
ぐぬぬ、恋人贔屓がなくても可愛いのう、可愛いのう。
と、恋人の思わぬ萌えしぐさにもだえていると……
「少し良いかな？」
「……？」
聞こえてきたのは男の声。
声の方向を見ると……あ、こいつあれだ、クゥに告白して盛大に振られた人だ。
(幼馴染は斬鉄剣の終わりあたりに振られた男です)
「あの、何か？」
「君に用はないんだ。黙っていてくれないか？」
何用か聞こうとするも、俺が声をかけた瞬間俺をまるで親の仇のように睨みつけ、こんな言葉を投げつけられた。
あれ、俺この人ここまで怒らせるようなことしたっけ？
このとき、クゥの眉が少し動いたことに、誰も気が付かなかった。
「クゥエルさん、先ほどの手合わせを見ていて俺は確信した。そんな弱っちい男はクゥエルさんには合わない。だから今すぐその男と別れて俺と付き合って欲しい」
……こいつ何言ってるんだろうか？
あまりの自体に怒りを通り越して呆れてしまった。
なんというか、突っ込みどころが多すぎる言葉だなおい。
まず何でお前がクゥには誰が合うか合わないか決めてるんだよ。
次にお前がクゥに釣り合うと考えた根拠が一切ないぞ。
で、最後に、恋人持ち相手に告白とか常識知らずにも程がある。
「おい、アイツまだ諦めてなかったのかよ」
「というかあの手合わせ見てたならカルが弱いなんざ言えないって」
「私、最初の一撃でやられる自信がある(ｷﾘｯ」
「威張るなｗｗ」
「というかアイツ、ろくに練習しないで、けどプライドだけ高い奴じゃん」
「アイツなんか一撃食らう前にクゥエルの威圧感でチビるんじゃねぇの？」
おーおー酷い言われようだな。
つまりあれか、こいつ勘違い君か。
だったら俺がわざわざ怒りを覚える必要も無し。
せいぜい哀れんでやろう。
……が、このとき俺たちはやっぱり気が付かなかった。
クゥの眉が最早局所地震の如くぴくぴくと震えていることに。
その間にも、男はいかに自分がクゥにふさわしいかを熱弁してたが……どれもこれも的外れ。
クゥの好みにニアピンすらしてない。
もうね、ここまで来るとほんと哀れ。
でもうるさい雑音だから、とりあえずクゥを連れてここからでようとしたときだった。
「…………」
クゥが無言で立ち上がる。
そしてしばらく男を睨みつけるようにじっと見つめていると……
何かが空を裂く音が聞こえた。
「帰ろう、カル」
「お、おう」
反論しがたい雰囲気だったため、クゥの言葉に頷き既に立ち去ろうとしているクゥを追う。
「なっ！？ まだ話は終わって……！」
「話は終わってる。それにやることもとっくに終わってる」
クゥのその言葉と同時に、男が着ていた服が縦一直線に真っ二つになる。
当然、下着も縦一直線。
「……へ？」
思わず何が起こったのか分からず、呆けたままいろいろこんにちわさせている男。
そしてクゥは首だけで男に振り返り、そのこんにちわしている部分をちらっと見ると、鼻で笑った後にこういった。
「……ふっ、カルのと比べたら果物ナイフとクレイモアほど違う……短小が」
男が、崩れ落ちた。
俺も崩れ落ちたい。
なしてこんな場所で俺のマイサンのサイズを比喩とはいえ公開されなきゃならんのか。
「それに、今の一撃、カルなら見切れてた。見切れない時点でお前は論外。私の攻撃も見切れず、それに短小であるながら私に告白？ 分不相応だ。恥を知れ」
男、真っ白になる。
というかクゥさん？ やけに毒舌入ってますね？
そんなクゥの背中を、俺はただ追いかけていた。
「それに……カルは私に唯一勝てる男だよ」
最後にクゥが呟いた言葉は、よく聞こえなかった。
※ ※ ※
「なぁクゥ。お前まさか怒ってるのか？」
「怒ってないとでも？」
やっぱりか。
妙に毒舌入ってると思ったら、ご立腹だったわけだ。
怒ってる理由は……あの男が俺を馬鹿にしたからか？
「なぁ、怒ってる理由って……」
「……カルは弱くない。私はいつも負ける」
「は？ 負けるって……いや、いつも勝ってるのお前だろ？ っと、それは置いといて、俺の事で怒ってくれたのは嬉しいけど、お前、鎌できるのはやりすぎじゃないか？」
「殺してない。問題ない」
そういう問題じゃないって。
しかし、まさかクゥが鎌を使う光景をこの目で見ることが出来たとはね。
あまりの速さに俺も危うく見逃すところだった。
どうやらクゥは相当怒らないと鎌を使わないらしい。
と、そんな事を思いながらも早くも俺達の家の前に到着。
ここで俺とクゥは各々の家に別れて帰宅……のはずだったんだが……
「あの、クゥさん？ なにゆえ私の服の裾をつまんでいるんでせう？」
「……今日、父さんも母さんも帰ってくるのが遅い」
……なぬ？
「そ、それってつまり……」
「…………」
こ、これは伝説のお誘いシチュエーション！！
まさか実在していたとは！！
と、そんなふざけたことを思いながらも、俺の身体はすたすたとクゥの家へ。
oh...なんと正直な我が身体とマイサンよ。
『Hey！ ダディ！ 俺はもういつでもイケるぜ！』
まったく、何でこんな節操無しな息子になっちゃったんだ！
恥を知りなさい！ メッ！
「……カル？」
「ん……なぬ？」
い、いつの間にかクゥの部屋にまで上がっていた。
いったい何が起こったというのか。
なんという超時空。
「……まぁいいや」
クゥは俺の様子に首を傾げるがどうでもいいことと判断したのか、未だにクゥの部屋の入り口付近で立ちっぱなしの俺に抱きつき、背中に腕を回した。
そしてそのまま腕に力を入れてぎゅー……
おお、身体にやわらかいお山が当たっておる……
などと思っていると、どうにもクゥの様子がおかしい。
まず呼吸が妙に荒いのだ。
まるで標高が高い山を常に全力で走りながら登って、降りてきたかのように。
そして次第に足が震えだし、自身の身体さえ支えられなくなりつつある。
そして、ついに耐え切れなかったのか、俺に縋り付くかのようにずり落ち、床にくずおれた。
「なっ！？ ク、クゥ！？」
「……ふふふ、ほら、やっぱり負けちゃった」
はい？
いったい何を……
「いつもこうだ。カルといると私の胸がどきどきする。カルの声を聞くと頭がボーっとしてしまう。カルに触れていると……こんなにも濡れてしまう」
そこまでいうと、クゥは俺の顔を見上げた。
その顔は、ひどく扇情的で、思わず生唾を飲み込む。
瞳を情欲に潤ませながら、クゥは言葉を続ける。
「カルだけなんだ、私をこんなにするのは。私はいつもカルに負けてこんなことになってしまう。だから、カルは私より強い。カルは私を唯一負かすことの出来る男だ」
そして、震える両腕をまるで受け入れるかのように、求めるかのように伸ばし、広げるとトドメの一言を言い放った。
「もっと、私を負かして？」
脳神経が、一気に束でご臨終する音が聞こえた。
「喜んで！！」
俺は着ている服を一瞬で脱ぎ去ると、クゥへ向かって飛び込んでいった。
今日、俺は二重の意味でクゥの本気の姿を見たのだった。
13/08/08 21:06更新 / 日鞠朔莉