幼馴染は斬鉄剣
「興味がない」
最早一刀両断。
有無も言わさぬ早業だった。
そう言い放った彼女は、最早興味がなくなったのか、こちらにすたすたと歩いてくる。
男のことはすでに無いものと思っているのだろう、もう男に目もくれることも無かった
その男はよほど自信があったのか、断られたことが予想以上にショックらしく、
抜け殻の如く様相でフラフラとその場を後にした。
「うげぇ、これで何人目だ?」
「これで挑んでいった猛者は49人目。50の大台まであと一人……か」
今は昼休み。
んで、ここは俺がいる学園の教室。
さっき何が起こったかというと、我がクラスの「斬鉄剣」ことクゥエルがものの見事に男を振るということが起こった。
ちなみに、この二つ名の斬鉄剣、告白を片っ端から切り捨てるように断っていくからついた二つ名だ。
閑話休題
ともかく、よりにもよって教室内で告白してくる奴がおり、そいつを斬鉄剣の名に恥じぬ切れ味で切り捨てたのがついさっき。
当然教室内でこんなことが起こったら、クラス中が騒ぎ出すのは当然のことで。
ほら、今も俺の前で男がいろいろ言ってるし、教室を見渡せば、女子までもがひそひそと小声で話している。
(しかし、よりにもよって何で教室で告ろうなって馬鹿な真似を……)
俺はついさっき切り捨てられたイケメン先輩(名前なんぞ知らん)に同情する。
おそらく、人目のあるところならクゥも断りにくいと思ったのだろうが……
「……あいつに人目を気にするというスキルはねぇんだよ」
結果、人前で無残に一刀両断されるというなんともかっこ悪い場面をこのクラスの全員に見られてしまったということだ。
「おい、カル……お前斬鉄剣の幼馴染だろ?もしかしてもう付き合ってるとかないよな?」
「ん〜?あぁ、ないない、というか無理無理。だってよ……」
俺の前でひそひそ話していた男二人のうち、一人が俺に向かってこんなことをのたまってきた。
だから俺は、隣の席にいつもどおりの無表情で戻ってきたクゥを見やる。
後頭部あたりから生えたまるで虫の触角のようなもの、というか触覚そのもの。
そして人間で言う側頭部にある金色の瞳のような装飾。
ここは学園ということで、普通なら制服を着ているはずだが、そいつは例外で、
なにやら緑の甲殻みたいなのと、緑の布なのかよく分からないものに身を包み、
極めつけなのは両腕の甲辺りから生えている立派な鎌。
そして、それらを見ながら、その男にこう言ってやった。
「だって、こいつマンティスだし」
マンティス。
簡単に言うと、無愛想で無口で無表情。
見事な無が三つそろった魔物だ。
「お〜い、クゥ!一緒に帰ろうぜ!」
「…………」
放課後。
帰り支度を済まし、さっさと帰宅しようとするクゥに声をかける。
クゥはその声にちらりとこっちを向くが、すぐに前に向き直り、すたすたと歩き出してしまった。
「へぇへぇ……だったら勝手について行きますかねぇ……」
これはいつものこと。
俺が物心ついたころからの習慣だった。
あいつは一人でさっさと帰ろうとする。
それに俺がついて行く。
普通だったら無視されたらムカついてそれっきりだろうが、ガキのころからこんなんだったから、
最早これが普通なんだろうな〜と思ってたりする。
「とはいえ、一抹の寂しさは隠せませんよ〜っと」
マンティスは日々を生きるためだけに生きているという。
生きることそのものが目的なので、他の魔物みたいに男に執着するとか、そういうのがないらしい。
だから、普段生きるためになんら必要のない男や他の生物は眼中にないらしいのだ。
だから今日のような見事な一撃必殺、なんてこともあるし、今こうやって話しかけても無視なのだ。
いや、無視というより、もともと意識の中にないので、無視しているというのもちょっと違うだろう。
つまり俺はこいつにとっていないも同然なのだ。
「…………」
まぁ、それが森の中とかなら問題ないんだろうが、社会の中だとかなり問題だったりする。
とにかく敵を作りやすいのだ、こういう奴は。
俺がこいつについて回るのは、フォローのためって言うのもあるわけだ。
単に家が隣同士ってのもあるけどな!
「んじゃ、また明日な?クゥ!」
「…………」
家に着くと、あいつは俺の挨拶に返事をすることなくすたすたと家に入っていってしまう。
まぁ、アウトオブ眼中だから仕方がないかなとは思うが、もう少し反応らしい反応があってもいいじゃないかとも思う。
いいけどさ!俺男だもんな!!気にしたらだめだよな!!
「ただいま〜!」
俺も自分の家に入り帰宅の挨拶をする。
いつもどおりだったらここで母が「おかえり〜」と間延びした返答を返すはずなんだが……
「ああ、お帰り、カル君……ということはクゥは家にいるのかい?」
「あれ?おじさんじゃん。どしたのさ?」
何故か今日はお隣さん、つまりはクゥの父親であるケインおじさんが俺の母親と話していた。
ちなみにケインおじさんの隣には当然妻であり、クゥの母親でもあるリィナおばさんもい……
シャキン
「……リィナお姉さん、またはリィナさんだ」
「……ハイ、スミマセンデシタ、リィナサン」
俺の答えに納得したのか、こちらの首筋に突きつけてきた鎌を下ろし、リィナさんは再びケインおじさんの隣に座った。
無口で無表情なマンティスには珍しく、リィナさんはよくしゃべる。
何でも最初は他のマンティス同様無口だったけど、ケインおじさんと結婚してからだいぶ話すようになったそうだ。
しかし、だいたい長々と話したことは無く、必要なことを簡潔に話すという感じだ。
まぁそれはいいとして……お願いですから地の文は読まないでください。俺と筆者とのお約束です、はい。
「あはは……ごめんね、カル君」
「いえ……首つながってるから、大丈夫です」
ケインさんがなんとも悪いと思っているのかいないのか、微妙な表情で謝ってくる。
が、ここで下手なことを言うと再びリィナさんの鎌が突きつけられそうなので、当たり障りの無い返答をしておく。
って、こんな命かけた漫才やってる場合ではなく……
「ところで、何でおじさんたちがいるのさ?」
「あ〜、うん、それはねぇ……」
なんとも言いにくそうに口ごもるケインおじさん。
なんと普段はクゥみたいに無表情なリィナさんも、よく見ると困ったような表情をしている。
「いやね?そろそろクゥもあの時期だから、それについて言おうと思ったんだけど……いざ言うとなるとこれまた言いにくいものでねぇ……」
「あの時期……?」
「うん、あの時期。いつもカル君にはクゥがお世話になってるし、やっぱり言ったほうがいいかなって……」
「でも〜、ケインさん、いざ言おうとしたらやっぱり慎重になりすぎちゃって〜」
と、今まで黙っていた母が相変わらず間延びした口調で話し始めた。
「ケインさ〜ん、もう言っちゃってもいいと思いますよ〜?黙っててもクゥちゃんのためになるとは思えませんし〜」
「う〜ん、そうなんですけどね……これでクゥの一生が決まっちゃうとなると、やっぱりねぇ」
げぇ!?クゥの一生決まっちゃうようなことなのかよ!?
そりゃケインおじさんも言いよどむわけだし、さすがのリィナさんも困るわけだ。
「あの〜、そこまで重要なことなら、別に俺に言わなくても……」
「あ〜……そういうわけにもいかないしねぇ……」
「……カル、重要なことだ。聞いてほしい」
「リィナ!?」
しかし、このままではいけないと判断したのか、リィナさんがこちらを見据えて、真剣なまなざしで話しかけてきた。
普段から鋭い目つきだが、今はいつにも増して鋭いその視線に、俺は自然と姿勢を正していた。
「……実は、娘がそろそろ……」
「……はぁ」
あれから数十分。
すでにケインおじさんたちは帰っており、今俺は自室のベッドで横になっていた。
そして、頭で反芻するのはリィナさんの言葉。
『……実は、娘がそろそろ……繁殖期に入るのだ』
『繁殖期……?』
『うむ。私たちマンティスも生物だ。当然子孫を残さなければならない』
『まぁ、そりゃそうでしょうね』
そうでなければクゥは生まれてないわけですし。
『でも繁殖期って子どもが生めるようになる期間ってだけでしょ?そこまで一生に影響って……』
そもそも、あいつ相手いないし。
言い寄ってくる奴には「興味ない」で片っ端から切り捨ててるもんなぁ……
『……私たちマンティスは繁殖期になると……男を襲う。性的な意味で』
『はい?』
『だから男を襲うのだ。そこらへんにいる男をとっ捕まえて』
『……なんですと?』
『そこに興味のあるなしは関係ない。もとより、我々は他に興味を持たぬ魔物だ。その男の容姿云々には興味を持たず。ただ繁殖するために男を襲う』
つまり……
『今相手がいるいないは関係なし?』
『うむ』
普段長々と話さないリィナさんがここまで長々と話すということは、相当なことなのだろう。
『……で?俺にどうしてほしいんですか?』
『うむ。娘と四六時中一緒にいろ、そして娘に犯られてこい』
『……What?』
この人はいったい何を言っていらっしゃるのか?
『リィナ、それじゃあいきなりすぎるよ』
『そうか』
ああ、さっきまで長々と話してたのに、今になって普段の話し方になったよ。
必要なこと以外言わないっていうね。
ケインおじさんがリィナさんのフォローをするように言葉をつなぐ。
『あ〜、まだ言ってなかったけど、マンティスってはじめて交わった相手に添い遂げるんだよ。だから、下手な男と交わってそいつにつかまってほしく無くてね。その分、カル君だったら信頼置けるし、もう僕たちとも家族みたいなものだから、問題ないな〜ってリィナと相談したんだ。』
『あ〜』
なるほど。道理で一生の問題というわけだ。
将来をともに暮す相手が決まってしまうならそりゃ一生だよな。
でもさぁ……
『本人の意思を無視していいですか?』
『逆に聞くけど、マンティスに自分の意思聞いてどうにかなると思う?』
…………ですよね〜
『失礼しました』
『分かってくれればいいんだよ』
とまぁ、こんなやり取りがあったわけだ。でもさぁ。
「犯られてこいって……」
そこに俺の意思は無いわけで。
もちろんクゥが嫌いってわけじゃないんだが、クゥと俺が……その、アレをいたしてる場面ってのが……
「うん、まったく想像できないね」
別に俺の想像力が貧弱というわけでもないだろう。
それに、俺のことが好きでそういう行為に及ぶわけではないって言うのがまた、ね?
「……だぁ〜!やめやめ!寝よう!寝ちまおう!うん!それがいい!!」
結局、あーだこーだ考えてもどうしようもないだろう。
迷ったところで、俺がどうするかなんて決めちまってるんだしな。
「……今更ほっとけるかよ。今まで俺があいつを世話してやったようなもんだしな」
……お人好しな俺、イヤン。
……夢を見た。
4人くらいの子どもに囲まれてる夢。
なんと脈絡も無く、突拍子もない。
そして、俺が子どもたちから視線をはずすと、そこには……
「……っ?」
ふと、何かの気配を察知し、目を覚ます。
「…………」
「…………」
目の前に移っているのはお隣さん。
「……あの、何でここにいるの?クゥ」
「……繁殖」
「へ?」
「繁殖する」
「さいでっか」
……おいィ?
「って、繁殖!?おまっ!それは!!」
「うるさい」
ヒュンッ
何かが風を切るような音がすると同時に、やけに体が涼しい……
「って、どぅえ!?おま!人の寝巻き斬るなよ!」
「邪魔だった。後悔も反省もしてない」
「後悔は百歩譲っていいとして、せめて反省ぐらいはしてください!マジで!!」
そういっているうちにもクゥは俺のマイサンに手をかけ、撫でるように刺激してきた。
「っぁ……」
こいつぁ……こいつぁやばい!
今までやってきた自慰とかそういうのとは違った気持ちよさ……じゃなくて!
「おい……おま、やめ……くぅ!」
やがて、コツをつかんだのか、クゥはマイサンを握りこむようにして上下に手を動かしてきた。
「ええい、くそ……そろそろ出ちまう……」
何が出るかは聞くな、あと早いとか言うな。
どーてーには過ぎた刺激なんだよ。ちくしょう。
「……もういいかな」
と、もうちょっとでアレが出そうになったところで、刺激がとまる。
こ、これは、助かったと言うべきか?それとも生殺しを悔やむべきか……っ!?
「っ……あああああ!!」
「くぉおおおおおおお!?」
ニュルンとした感じの後に襲ってきたすさまじい快楽。
そのあまりの刺激に俺のマイサンは「もう、ゴールしていいよね……」と言わんばかりに決壊した。
「あぁ……あつ……い……」
「っぁ……」
畜生、こらえ性の無い息子め。
じゃなくて。
「おい、クゥ……おまえ、何のつもり……」
「これ……いい……いいのぉ!」
「うおわああああああああああ!?」
急に人が変わったように大声を出すと、今だ萎えていないブツを自分の膣内に納めたまま、腰を上下に動かし始めた。
「んんっ!あぁ!いい!これ、すごくきもちいよぉ!!」
「おおおおおお!?ちょっ、クゥ、やめっ」
「やだ!やだやだやだやだぁ!もっと、もっとぉ!!あぁん!」
普段の冷静で無表情なクゥとは思えないほど、顔はだらしなく緩み、口元からは唾液の筋がツーッと流れている。
鋭い目つきも見る影さえなく、その瞳が俺の視線とぶつかると、
ふにゃぁととろけた笑みを浮かべる。
「ぐぅうう……ええい!こなくそ!!」
「きゃ!?」
辛抱たまらんばい!!
そんな姿見せられたら……もう抑えてなんかいられっかよ!!
「クゥ、クゥ!」
「え……あ、ああああ……あああああああ!?」
ビクンッ
俺がクゥの名前を呼びながら強く抱きしめると、クゥは一瞬呆けた表情をし、そして体が小刻みに震え始め、ついには背筋をのけぞらせて絶叫。
「ああ……あは……これ、いい……」
「えっと、これは……イッた、と言うことか?」
「ん……わかんない……」
そりゃそうか。
「……カル」
「ん?」
ようやく呼吸が落ち着いてきたのか、クゥが俺が回している腕を解き、そして体をベッドに横たえた。
「……もっと」
「……こうなりゃ、とことん覚悟きめっか……」
寝る前にいろいろと考えてたけど、そんなの実際起こってみたら、もうどうでもよくなっていた。
俺も、健康な青年だった、と言うことで。
本能には逆らえません。
「……う」
「うぅん……」
朝、か?
俺はどうなったんだ……
たしか、昨日は夜中にクゥが……
「そうだ!クゥ!?」
「ん……ふぁああ……何?カル」
「お、そこにいたのか……って、なんか変わったな、雰囲気」
なんっつーか、丸くなったというか、やわらかくなったと言うか……
「ん……よくわかんないけど……色がいっぱい」
「色?」
「ん。今までは何にも興味なかった。だからね、見えてるものがモノクロだった」
そこまで言って、クゥは普段ではついぞ見せないようなふにゃりとした笑みを浮かべ、俺に抱きついてきた。
「でも、カルと、その……シたとき、一気に色がついたの、世界に」
「世界に色……ねぇ」
つまるところ、それは周りにも多少興味が向けられるようになったってことか?
「ねぇ、カル……」
「ん?」
「ふふっ……だぁい好き」
こ、こいつぁ……
微笑みながらの大好きコール……だと?
「……ああ、俺もだ。俺も大好きだ」
そこまで言って、俺はふとあることを思い出し、思わず笑ってしまった。
「?どうしたの?」
「いや、お前さんに襲われる前に夢見ててさ、その夢の実現もそう遠くないかな?ってね」
「ふぅん……」
そこまで言って、言葉は途切れる。
その代わり、互いに見つめあい、次第に顔が近づいていき……唇が触れた。
「おおおおおおおおおお〜〜〜!!!だいた〜ん!」
……と、同時に母参上。
「「ぶっ!?」」
俺とクゥ、二人そろって噴出すの図。
「クゥ……お前にもつがいができたのか……おめでとう」
「いや〜、カル君のところに言ってくれて助かったよ〜。あ、カル君、僕とリィナのことは、お義父さんとお義母さんって読んでくれていいよ!」
「じゃあじゃあ〜!クゥちゃんは私とイっくんのことをお義母さんお義父さんって呼んでね〜」
「そいつぁいいね!ついに息子に春きたるってか!?ガハハハハ!!」
上から順番に、リィナさん、ケインおじさん、マイママン、マイパパン。
って、父さん!?
「父さん!いつ帰ってきたんだよ!?」
「ん?おお、ついさっきだ。ミィに面白いモン見れるっていわれてな」
ミィと言うのは母さんの名前だ。
んで、この豪快一本槍な人が我が父であるイっっくんことイース。
現役バリバリの冒険者であり、ミノタウロスを片手でブン投げたりとか、アヌビス数体と宝の番人であるゴーレム数体と追いかけっこを繰り広げながら、その遺跡の宝を根こそぎ獲得してきたりとかの伝説を作っている人である。
ちなみに本人曰く、ミノタウロスについては「ありゃ軽すぎだ。ちゃんとメシ食ってたのか?」で、お宝の件については「ガキとの鬼ごっこより楽」とのコメントを表明している。
閑話休題
「え?なにそれ!母さん、もしかして……」
「息子の春は、しっかりこの水晶に保存ずみよ〜」
「消せーーーー!!」
母が懐から出した映像保存可能な水晶を奪取使用と、俺は母に飛び掛った。
「……(ポッ)」
「クゥ」
「母さん」
「……幸せか?」
「……はい」
「そうか……なら、もっと幸せになるんだぞ」
「はい!」
一方、クゥ達の家族はそうやってきれいに話をまとめようとしていた。
ちなみに、感涙を流しているケインおじさんの手には我が母のものと同型の水晶が……
「そこぉ!何きれいにまとめようとしてるの!?どうでもいいからその映像を消せーーーーー!!」
俺が見た夢。
4人くらいの子どもに囲まれた俺。
そして俺が子ども達から視線をはずし、顔を上げると……
そこには、微笑んでいるクゥがいた。
それからどうなったかって?
特に変わらんよ、特には。
相変わらず、俺とクゥは一緒に学園に登校し、同じクラスの隣同士の席に座る。
で、授業を受ける。
で、昼休みに、クゥが告白を受ける。
「もう相手はいる」
ああ、今日もまた一人、斬鉄剣に切り裂かれた奴がいる。
その男は、さも自信があったのか、断られたことがよほどショックらしく、抜け殻の様相でふらふらと去っていった。
「まったく……私にはカルがいるのに……」
「大変だな』、斬鉄剣」
「……カル、切ってもいい?」
「勘弁な」
こういうやり取りが追加された以外は、クゥに告白してきた男を一刀両断することも変わってない。
変わったこと。
それは……
「クゥ!帰ろうぜ!」
「うん」
クゥが俺にちゃんと返事をするようになったこと。
それくらいなもんさ。少なくとも、学園では。
家ではどうだ?
……ノーコメントで。
「カル」
「お?」
「大好き」
「……はは、こりゃ参った」
幼馴染は、無口で、無表情で、無愛想な斬鉄剣。
でも、俺と二人っきりのときは、俺の心の防御を切り裂く斬鉄剣。
最早一刀両断。
有無も言わさぬ早業だった。
そう言い放った彼女は、最早興味がなくなったのか、こちらにすたすたと歩いてくる。
男のことはすでに無いものと思っているのだろう、もう男に目もくれることも無かった
その男はよほど自信があったのか、断られたことが予想以上にショックらしく、
抜け殻の如く様相でフラフラとその場を後にした。
「うげぇ、これで何人目だ?」
「これで挑んでいった猛者は49人目。50の大台まであと一人……か」
今は昼休み。
んで、ここは俺がいる学園の教室。
さっき何が起こったかというと、我がクラスの「斬鉄剣」ことクゥエルがものの見事に男を振るということが起こった。
ちなみに、この二つ名の斬鉄剣、告白を片っ端から切り捨てるように断っていくからついた二つ名だ。
閑話休題
ともかく、よりにもよって教室内で告白してくる奴がおり、そいつを斬鉄剣の名に恥じぬ切れ味で切り捨てたのがついさっき。
当然教室内でこんなことが起こったら、クラス中が騒ぎ出すのは当然のことで。
ほら、今も俺の前で男がいろいろ言ってるし、教室を見渡せば、女子までもがひそひそと小声で話している。
(しかし、よりにもよって何で教室で告ろうなって馬鹿な真似を……)
俺はついさっき切り捨てられたイケメン先輩(名前なんぞ知らん)に同情する。
おそらく、人目のあるところならクゥも断りにくいと思ったのだろうが……
「……あいつに人目を気にするというスキルはねぇんだよ」
結果、人前で無残に一刀両断されるというなんともかっこ悪い場面をこのクラスの全員に見られてしまったということだ。
「おい、カル……お前斬鉄剣の幼馴染だろ?もしかしてもう付き合ってるとかないよな?」
「ん〜?あぁ、ないない、というか無理無理。だってよ……」
俺の前でひそひそ話していた男二人のうち、一人が俺に向かってこんなことをのたまってきた。
だから俺は、隣の席にいつもどおりの無表情で戻ってきたクゥを見やる。
後頭部あたりから生えたまるで虫の触角のようなもの、というか触覚そのもの。
そして人間で言う側頭部にある金色の瞳のような装飾。
ここは学園ということで、普通なら制服を着ているはずだが、そいつは例外で、
なにやら緑の甲殻みたいなのと、緑の布なのかよく分からないものに身を包み、
極めつけなのは両腕の甲辺りから生えている立派な鎌。
そして、それらを見ながら、その男にこう言ってやった。
「だって、こいつマンティスだし」
マンティス。
簡単に言うと、無愛想で無口で無表情。
見事な無が三つそろった魔物だ。
「お〜い、クゥ!一緒に帰ろうぜ!」
「…………」
放課後。
帰り支度を済まし、さっさと帰宅しようとするクゥに声をかける。
クゥはその声にちらりとこっちを向くが、すぐに前に向き直り、すたすたと歩き出してしまった。
「へぇへぇ……だったら勝手について行きますかねぇ……」
これはいつものこと。
俺が物心ついたころからの習慣だった。
あいつは一人でさっさと帰ろうとする。
それに俺がついて行く。
普通だったら無視されたらムカついてそれっきりだろうが、ガキのころからこんなんだったから、
最早これが普通なんだろうな〜と思ってたりする。
「とはいえ、一抹の寂しさは隠せませんよ〜っと」
マンティスは日々を生きるためだけに生きているという。
生きることそのものが目的なので、他の魔物みたいに男に執着するとか、そういうのがないらしい。
だから、普段生きるためになんら必要のない男や他の生物は眼中にないらしいのだ。
だから今日のような見事な一撃必殺、なんてこともあるし、今こうやって話しかけても無視なのだ。
いや、無視というより、もともと意識の中にないので、無視しているというのもちょっと違うだろう。
つまり俺はこいつにとっていないも同然なのだ。
「…………」
まぁ、それが森の中とかなら問題ないんだろうが、社会の中だとかなり問題だったりする。
とにかく敵を作りやすいのだ、こういう奴は。
俺がこいつについて回るのは、フォローのためって言うのもあるわけだ。
単に家が隣同士ってのもあるけどな!
「んじゃ、また明日な?クゥ!」
「…………」
家に着くと、あいつは俺の挨拶に返事をすることなくすたすたと家に入っていってしまう。
まぁ、アウトオブ眼中だから仕方がないかなとは思うが、もう少し反応らしい反応があってもいいじゃないかとも思う。
いいけどさ!俺男だもんな!!気にしたらだめだよな!!
「ただいま〜!」
俺も自分の家に入り帰宅の挨拶をする。
いつもどおりだったらここで母が「おかえり〜」と間延びした返答を返すはずなんだが……
「ああ、お帰り、カル君……ということはクゥは家にいるのかい?」
「あれ?おじさんじゃん。どしたのさ?」
何故か今日はお隣さん、つまりはクゥの父親であるケインおじさんが俺の母親と話していた。
ちなみにケインおじさんの隣には当然妻であり、クゥの母親でもあるリィナおばさんもい……
シャキン
「……リィナお姉さん、またはリィナさんだ」
「……ハイ、スミマセンデシタ、リィナサン」
俺の答えに納得したのか、こちらの首筋に突きつけてきた鎌を下ろし、リィナさんは再びケインおじさんの隣に座った。
無口で無表情なマンティスには珍しく、リィナさんはよくしゃべる。
何でも最初は他のマンティス同様無口だったけど、ケインおじさんと結婚してからだいぶ話すようになったそうだ。
しかし、だいたい長々と話したことは無く、必要なことを簡潔に話すという感じだ。
まぁそれはいいとして……お願いですから地の文は読まないでください。俺と筆者とのお約束です、はい。
「あはは……ごめんね、カル君」
「いえ……首つながってるから、大丈夫です」
ケインさんがなんとも悪いと思っているのかいないのか、微妙な表情で謝ってくる。
が、ここで下手なことを言うと再びリィナさんの鎌が突きつけられそうなので、当たり障りの無い返答をしておく。
って、こんな命かけた漫才やってる場合ではなく……
「ところで、何でおじさんたちがいるのさ?」
「あ〜、うん、それはねぇ……」
なんとも言いにくそうに口ごもるケインおじさん。
なんと普段はクゥみたいに無表情なリィナさんも、よく見ると困ったような表情をしている。
「いやね?そろそろクゥもあの時期だから、それについて言おうと思ったんだけど……いざ言うとなるとこれまた言いにくいものでねぇ……」
「あの時期……?」
「うん、あの時期。いつもカル君にはクゥがお世話になってるし、やっぱり言ったほうがいいかなって……」
「でも〜、ケインさん、いざ言おうとしたらやっぱり慎重になりすぎちゃって〜」
と、今まで黙っていた母が相変わらず間延びした口調で話し始めた。
「ケインさ〜ん、もう言っちゃってもいいと思いますよ〜?黙っててもクゥちゃんのためになるとは思えませんし〜」
「う〜ん、そうなんですけどね……これでクゥの一生が決まっちゃうとなると、やっぱりねぇ」
げぇ!?クゥの一生決まっちゃうようなことなのかよ!?
そりゃケインおじさんも言いよどむわけだし、さすがのリィナさんも困るわけだ。
「あの〜、そこまで重要なことなら、別に俺に言わなくても……」
「あ〜……そういうわけにもいかないしねぇ……」
「……カル、重要なことだ。聞いてほしい」
「リィナ!?」
しかし、このままではいけないと判断したのか、リィナさんがこちらを見据えて、真剣なまなざしで話しかけてきた。
普段から鋭い目つきだが、今はいつにも増して鋭いその視線に、俺は自然と姿勢を正していた。
「……実は、娘がそろそろ……」
「……はぁ」
あれから数十分。
すでにケインおじさんたちは帰っており、今俺は自室のベッドで横になっていた。
そして、頭で反芻するのはリィナさんの言葉。
『……実は、娘がそろそろ……繁殖期に入るのだ』
『繁殖期……?』
『うむ。私たちマンティスも生物だ。当然子孫を残さなければならない』
『まぁ、そりゃそうでしょうね』
そうでなければクゥは生まれてないわけですし。
『でも繁殖期って子どもが生めるようになる期間ってだけでしょ?そこまで一生に影響って……』
そもそも、あいつ相手いないし。
言い寄ってくる奴には「興味ない」で片っ端から切り捨ててるもんなぁ……
『……私たちマンティスは繁殖期になると……男を襲う。性的な意味で』
『はい?』
『だから男を襲うのだ。そこらへんにいる男をとっ捕まえて』
『……なんですと?』
『そこに興味のあるなしは関係ない。もとより、我々は他に興味を持たぬ魔物だ。その男の容姿云々には興味を持たず。ただ繁殖するために男を襲う』
つまり……
『今相手がいるいないは関係なし?』
『うむ』
普段長々と話さないリィナさんがここまで長々と話すということは、相当なことなのだろう。
『……で?俺にどうしてほしいんですか?』
『うむ。娘と四六時中一緒にいろ、そして娘に犯られてこい』
『……What?』
この人はいったい何を言っていらっしゃるのか?
『リィナ、それじゃあいきなりすぎるよ』
『そうか』
ああ、さっきまで長々と話してたのに、今になって普段の話し方になったよ。
必要なこと以外言わないっていうね。
ケインおじさんがリィナさんのフォローをするように言葉をつなぐ。
『あ〜、まだ言ってなかったけど、マンティスってはじめて交わった相手に添い遂げるんだよ。だから、下手な男と交わってそいつにつかまってほしく無くてね。その分、カル君だったら信頼置けるし、もう僕たちとも家族みたいなものだから、問題ないな〜ってリィナと相談したんだ。』
『あ〜』
なるほど。道理で一生の問題というわけだ。
将来をともに暮す相手が決まってしまうならそりゃ一生だよな。
でもさぁ……
『本人の意思を無視していいですか?』
『逆に聞くけど、マンティスに自分の意思聞いてどうにかなると思う?』
…………ですよね〜
『失礼しました』
『分かってくれればいいんだよ』
とまぁ、こんなやり取りがあったわけだ。でもさぁ。
「犯られてこいって……」
そこに俺の意思は無いわけで。
もちろんクゥが嫌いってわけじゃないんだが、クゥと俺が……その、アレをいたしてる場面ってのが……
「うん、まったく想像できないね」
別に俺の想像力が貧弱というわけでもないだろう。
それに、俺のことが好きでそういう行為に及ぶわけではないって言うのがまた、ね?
「……だぁ〜!やめやめ!寝よう!寝ちまおう!うん!それがいい!!」
結局、あーだこーだ考えてもどうしようもないだろう。
迷ったところで、俺がどうするかなんて決めちまってるんだしな。
「……今更ほっとけるかよ。今まで俺があいつを世話してやったようなもんだしな」
……お人好しな俺、イヤン。
……夢を見た。
4人くらいの子どもに囲まれてる夢。
なんと脈絡も無く、突拍子もない。
そして、俺が子どもたちから視線をはずすと、そこには……
「……っ?」
ふと、何かの気配を察知し、目を覚ます。
「…………」
「…………」
目の前に移っているのはお隣さん。
「……あの、何でここにいるの?クゥ」
「……繁殖」
「へ?」
「繁殖する」
「さいでっか」
……おいィ?
「って、繁殖!?おまっ!それは!!」
「うるさい」
ヒュンッ
何かが風を切るような音がすると同時に、やけに体が涼しい……
「って、どぅえ!?おま!人の寝巻き斬るなよ!」
「邪魔だった。後悔も反省もしてない」
「後悔は百歩譲っていいとして、せめて反省ぐらいはしてください!マジで!!」
そういっているうちにもクゥは俺のマイサンに手をかけ、撫でるように刺激してきた。
「っぁ……」
こいつぁ……こいつぁやばい!
今までやってきた自慰とかそういうのとは違った気持ちよさ……じゃなくて!
「おい……おま、やめ……くぅ!」
やがて、コツをつかんだのか、クゥはマイサンを握りこむようにして上下に手を動かしてきた。
「ええい、くそ……そろそろ出ちまう……」
何が出るかは聞くな、あと早いとか言うな。
どーてーには過ぎた刺激なんだよ。ちくしょう。
「……もういいかな」
と、もうちょっとでアレが出そうになったところで、刺激がとまる。
こ、これは、助かったと言うべきか?それとも生殺しを悔やむべきか……っ!?
「っ……あああああ!!」
「くぉおおおおおおお!?」
ニュルンとした感じの後に襲ってきたすさまじい快楽。
そのあまりの刺激に俺のマイサンは「もう、ゴールしていいよね……」と言わんばかりに決壊した。
「あぁ……あつ……い……」
「っぁ……」
畜生、こらえ性の無い息子め。
じゃなくて。
「おい、クゥ……おまえ、何のつもり……」
「これ……いい……いいのぉ!」
「うおわああああああああああ!?」
急に人が変わったように大声を出すと、今だ萎えていないブツを自分の膣内に納めたまま、腰を上下に動かし始めた。
「んんっ!あぁ!いい!これ、すごくきもちいよぉ!!」
「おおおおおお!?ちょっ、クゥ、やめっ」
「やだ!やだやだやだやだぁ!もっと、もっとぉ!!あぁん!」
普段の冷静で無表情なクゥとは思えないほど、顔はだらしなく緩み、口元からは唾液の筋がツーッと流れている。
鋭い目つきも見る影さえなく、その瞳が俺の視線とぶつかると、
ふにゃぁととろけた笑みを浮かべる。
「ぐぅうう……ええい!こなくそ!!」
「きゃ!?」
辛抱たまらんばい!!
そんな姿見せられたら……もう抑えてなんかいられっかよ!!
「クゥ、クゥ!」
「え……あ、ああああ……あああああああ!?」
ビクンッ
俺がクゥの名前を呼びながら強く抱きしめると、クゥは一瞬呆けた表情をし、そして体が小刻みに震え始め、ついには背筋をのけぞらせて絶叫。
「ああ……あは……これ、いい……」
「えっと、これは……イッた、と言うことか?」
「ん……わかんない……」
そりゃそうか。
「……カル」
「ん?」
ようやく呼吸が落ち着いてきたのか、クゥが俺が回している腕を解き、そして体をベッドに横たえた。
「……もっと」
「……こうなりゃ、とことん覚悟きめっか……」
寝る前にいろいろと考えてたけど、そんなの実際起こってみたら、もうどうでもよくなっていた。
俺も、健康な青年だった、と言うことで。
本能には逆らえません。
「……う」
「うぅん……」
朝、か?
俺はどうなったんだ……
たしか、昨日は夜中にクゥが……
「そうだ!クゥ!?」
「ん……ふぁああ……何?カル」
「お、そこにいたのか……って、なんか変わったな、雰囲気」
なんっつーか、丸くなったというか、やわらかくなったと言うか……
「ん……よくわかんないけど……色がいっぱい」
「色?」
「ん。今までは何にも興味なかった。だからね、見えてるものがモノクロだった」
そこまで言って、クゥは普段ではついぞ見せないようなふにゃりとした笑みを浮かべ、俺に抱きついてきた。
「でも、カルと、その……シたとき、一気に色がついたの、世界に」
「世界に色……ねぇ」
つまるところ、それは周りにも多少興味が向けられるようになったってことか?
「ねぇ、カル……」
「ん?」
「ふふっ……だぁい好き」
こ、こいつぁ……
微笑みながらの大好きコール……だと?
「……ああ、俺もだ。俺も大好きだ」
そこまで言って、俺はふとあることを思い出し、思わず笑ってしまった。
「?どうしたの?」
「いや、お前さんに襲われる前に夢見ててさ、その夢の実現もそう遠くないかな?ってね」
「ふぅん……」
そこまで言って、言葉は途切れる。
その代わり、互いに見つめあい、次第に顔が近づいていき……唇が触れた。
「おおおおおおおおおお〜〜〜!!!だいた〜ん!」
……と、同時に母参上。
「「ぶっ!?」」
俺とクゥ、二人そろって噴出すの図。
「クゥ……お前にもつがいができたのか……おめでとう」
「いや〜、カル君のところに言ってくれて助かったよ〜。あ、カル君、僕とリィナのことは、お義父さんとお義母さんって読んでくれていいよ!」
「じゃあじゃあ〜!クゥちゃんは私とイっくんのことをお義母さんお義父さんって呼んでね〜」
「そいつぁいいね!ついに息子に春きたるってか!?ガハハハハ!!」
上から順番に、リィナさん、ケインおじさん、マイママン、マイパパン。
って、父さん!?
「父さん!いつ帰ってきたんだよ!?」
「ん?おお、ついさっきだ。ミィに面白いモン見れるっていわれてな」
ミィと言うのは母さんの名前だ。
んで、この豪快一本槍な人が我が父であるイっっくんことイース。
現役バリバリの冒険者であり、ミノタウロスを片手でブン投げたりとか、アヌビス数体と宝の番人であるゴーレム数体と追いかけっこを繰り広げながら、その遺跡の宝を根こそぎ獲得してきたりとかの伝説を作っている人である。
ちなみに本人曰く、ミノタウロスについては「ありゃ軽すぎだ。ちゃんとメシ食ってたのか?」で、お宝の件については「ガキとの鬼ごっこより楽」とのコメントを表明している。
閑話休題
「え?なにそれ!母さん、もしかして……」
「息子の春は、しっかりこの水晶に保存ずみよ〜」
「消せーーーー!!」
母が懐から出した映像保存可能な水晶を奪取使用と、俺は母に飛び掛った。
「……(ポッ)」
「クゥ」
「母さん」
「……幸せか?」
「……はい」
「そうか……なら、もっと幸せになるんだぞ」
「はい!」
一方、クゥ達の家族はそうやってきれいに話をまとめようとしていた。
ちなみに、感涙を流しているケインおじさんの手には我が母のものと同型の水晶が……
「そこぉ!何きれいにまとめようとしてるの!?どうでもいいからその映像を消せーーーーー!!」
俺が見た夢。
4人くらいの子どもに囲まれた俺。
そして俺が子ども達から視線をはずし、顔を上げると……
そこには、微笑んでいるクゥがいた。
それからどうなったかって?
特に変わらんよ、特には。
相変わらず、俺とクゥは一緒に学園に登校し、同じクラスの隣同士の席に座る。
で、授業を受ける。
で、昼休みに、クゥが告白を受ける。
「もう相手はいる」
ああ、今日もまた一人、斬鉄剣に切り裂かれた奴がいる。
その男は、さも自信があったのか、断られたことがよほどショックらしく、抜け殻の様相でふらふらと去っていった。
「まったく……私にはカルがいるのに……」
「大変だな』、斬鉄剣」
「……カル、切ってもいい?」
「勘弁な」
こういうやり取りが追加された以外は、クゥに告白してきた男を一刀両断することも変わってない。
変わったこと。
それは……
「クゥ!帰ろうぜ!」
「うん」
クゥが俺にちゃんと返事をするようになったこと。
それくらいなもんさ。少なくとも、学園では。
家ではどうだ?
……ノーコメントで。
「カル」
「お?」
「大好き」
「……はは、こりゃ参った」
幼馴染は、無口で、無表情で、無愛想な斬鉄剣。
でも、俺と二人っきりのときは、俺の心の防御を切り裂く斬鉄剣。
11/03/01 23:39更新 / 日鞠朔莉