ドラゴン 危険度☆☆☆☆☆
体力を取り戻したあなたは再び山を登り、とうとうその頂にまでたどり着くことが出来た。
山の中心は大地のへそのように巨大な噴火口が開いており、地の底で赤く輝くマグマが顔をのぞかせている。
熱せられた蒸気が立ち上り、遙か上空へと昇りつづける。
あなたはサバイバルをしているはずなのに、何故こんな場所に来てしまったのでしょうか。
こんな僻地に人がいるはずありません。それどころか、魔物がいるかすら怪しい。
もしあなたが同じ状況に陥ったら、火山に行ってはいけません。もし火山に不時着したら、速やかに下山しましょう。
「くくく……こんなところまで一人で来るとは、酔狂な人間もいたものよな」
雷鳴の如く絶叫が響き、稲妻を内側で光らせる噴煙から翼を持った魔物が飛び出した。
それは、ドラゴン。
なにものも弾き返す鋼の鱗、一撫でで全て切り裂く鋭い爪、天上の王であると誇示するかのように広げられた翼。
魔界において、個体としてのトップクラスの能力を持つ最高位の魔物。
「貴様が欲しいのは巨万の富か?それとも我の肉体か?なんにせよ、得るにはそれ相応の覚悟を示してもらわねばな」
彼女の肉体といったのはある伝説のことです。ドラゴンの潮を浴びたものは、永遠の不老不死になるというもの。
しかしこれは大きな間違い。
実際のところは、潮を浴びるほどドラゴンと性行為をした男性は気づかぬうちにインキュパスになり、不老不死に見えるということなのです。
さて、サバイバルの最中にドラゴンに出会えたあなたは最高にラッキーかつアンラッキー。
個体数の少ない単独行動のドラゴンに遭遇する機会など殆どない上、装備の整っていない人間が助かる道理はありません。
なぜ、勇者は世界各地を遍歴してから巨竜の住まう城へ向かうのか。
ドラゴンと対等になるには、それほどの経験と準備を要するということだからです。
あなたは為す術なく敗北し、ドラゴンに無様な醜態を晒す運命なのです。
しかし、時代は進歩しました。
伝説の秘境に眠る名剣さえ、インターネット環境が整っていればタップ一つで火山地帯まで届けてくれます。
もちろんお値段は張りますが、ドラゴンにされるがまま、がイヤなかたは、ぜひこれからご紹介する対ドラゴンの『二つの神器』のご購入を検討下さい。
1の神器『大剣 ドラゴンべイン(量産品)』
ドラゴンを倒すというからには、まず必要なのは武器でしょうね。
とはいえ、強固な鱗の鎧を持つ彼女達のまえでは、生半可な武器では傷一つ付けることが出来ません。
伝説の鉱石で出来た剣ですた刃こぼれする鱗の鎧。それを打ち砕ける武器は、この世界においてもたった一種類しかありません。
その名はドラゴンべイン。竜殺しの名を冠するそれは、前魔王時代に多くの竜を葬った剣であったと言われています。
男性の背丈ほどの刀身を持つ巨大な剣で、一振りするだけで嵐のような斬撃を起こし、天上の飛竜すら切り裂いた。
余りに切れすぎるため、剣を振った者も傷を負い、血しぶきをあげてしまう、という扱いづらい逸品だったそうな。
これは単に剣の切れ味が優れているというわけではなく、これを打った鍛冶屋の怨念が込められているからだそう。
なんでも、家族全員を竜に食い殺された鍛冶屋はその生涯を竜を殺す武器を作ることに費やし、晩年に完成させた大きな剣に自分の魂を込めた、という逸話があります。
ドラゴンの気配に反応してガタガタと動き、刀身を赤く光らせると特徴を持っていますが未だ原理は不明で、これこそが鍛冶屋の魂だという使い手もいらっしゃいます。
こんな恐ろしい武器が何で売られているんだ、と疑問に思う方もいらっしゃいますが、上記の性能だったのは前魔王の時代だけ。
ドラゴンが美女の姿をとると同時に、ドラゴンべインもその力を変容してしまったのです。
ドラゴンに対して高い力を発揮するのは変わりませんが、何故かその鋭い刃はドラゴンの肉体を傷つけることが出来なくなりました。
つまり、この剣が斬るのはドラゴンのまとっている衣服だけ。
ドラゴンべインを一振りさえすれば、どれほど強固な鎧も一瞬にしてズタズタにして切り裂き、ドラゴン達は生まれたままの姿をさらけ出すことになるでしょう。ついでに鋭い爪もいい感じに丸く削られてしまい、完全とはいえませんが彼女達を無力化する事が出来ます。
この性能に目を付けた一部のリリムが「堅物なドラゴンにはこういうのも必要」としてサイクロプスに作成を依頼。
結果、ネットで購入できる程に大量生産されることとなりました。
ドラゴンを無力化する能力についてはとても優秀な武器なのですが、運用するにあたってちょっとした難点もあります。
それは威力が高すぎること。
剣の一振りが起こす旋風は周囲の衣服、武器や防具をいっぺん残らずズタズタに引き裂きます。それは、使用者の衣服も含まれます。
使用した後、佇むのは裸になった男と女だけ。
これを使用した後は全裸で取っ組み合うしかなくなるので、最後の切り札として使われるそうです。
2の神器『ヤシオリドリンク(ギフトパック)』
一般的に、ドラゴン系の魔物は酒に強いと言われています。
極寒の地にすむドラゴンなどは「体が温まるから」と言って、こちらの世界で言うスピリタスくらすの度数の酒をガブガブと樽ごと飲み干してしまうんだとか。
そんな彼女達を酔い潰せる酒がこちら。
ジパング伝統の古くから作り続けられている銘酒『ヤシオリドリンク』です。
魔界の数々のフルーツとジパング名産のライスを絶妙な配分で発酵。
搾った汁にまた果物をいれ、再発酵。
これを何度も繰り返す事によって度数は高まり、濃厚な味わいになるのです。
その効果といったら、指ですくった酒を一舐めするだけで、ふらふらと立っていられなくなるほどだとか。
配合される果物は媚薬効果が高い者が多く、体が火照って服を脱がずにはいられなくなったり、前後不覚になってエッチな気分になってしまうそうです。
この酒自体の価値も高く、贈答品としてよく利用されます。
不意打ちで使いたい場合、ドラゴン宛に送りつけましょう。可愛らしいグラスも添えると油断しまくります。めっちゃ喜んで使います。
酔っている状態のドラゴンであれば、貧弱な肉体の男性であろうと御するのは容易いことです。
※注意
ヤシオリドリンクの効能は人間には劇薬と言っていいほど高く、その香りを嗅いだだけで、一ヶ月は発情状態が続くとされています。
酒気の含んだドラゴンの吐息など嗅げば、あなたもべろべろになってしまうことでしょう。
これほど強力なアイテムがあるのなら、悪用する人間も多いのでは?と思う方もいらっしゃるでしょうが、ご安心を。
魔界のウェブショッピングにおきましては、何故かそのような輩には粗悪品が送られ、奇襲に失敗してドラゴンに返り討ちにあう事案が多発しています。
意図的に行われているのではと疑う声もありますが、ウェブサイトを運営している刑部狸は一連の関係性を否定しています。
18/03/26 23:18更新 / 牛みかん
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