3話
フロギアと共に暮らし初めてから数日が経ちました。
彼女と過ごす日々は、シクナにとってとても刺激的でした。二人で起きて、二人で食べ物を探し、二人で営み、二人で寝ました。
そこでは王宮での生活では味わえない、ゆったりとした時間が流れていて、シクナはその中にどっぷりと浸っていました。
ある日、シクナとフロギアが仲良く散歩していると、遠くの方で煙が上っているのが見えました。
「王国の方からだ・・・・・・!」
嫌な予感がしたシクナは、フロギアと煙の方へと走りました。
国を囲う壁の前までつくと、すさまじい騒音が壁を通り越して聞こえてきました。
弓が飛び交う音、人々の悲鳴、爆発音。シクナの嫌な予感は的中しました。
「ちょっと、見てくるね〜」
「えっ!危ないよ!」
シクナの制止も聞かず、フロギアは壁をぴょんぴょん飛び越えて向こう側へと行ってしまいました。
しばらくすると、フロギアはまたぴょんぴょんと壁を飛び跳ね、戻ってきました。
「賊の一団が襲ってきてるみたいだね。でもただの賊じゃないね。人数が多いし、統率もとれてる。奴らは手強いよ。君の国の兵たちは劣勢だったよ」
それを聞いたシクナはしばらく考え込んだ後。
「よし」と言って、壁の抜け道へ歩き出しました。
その腕を、フロギアががっしりと掴みました。
「どこへ行くの?」
いつになく真面目な顔をしてフロギアは尋ねます。
「国の皆を助けに行くんだ」シクナの瞳は真剣です。
「君が死んだって何とも思ってない連中だよ」
言った後、フロギアは少し後悔したような顔をしました。
ほんの一瞬、シクナは顔を歪めました。しかし、すぐにまた表情は引き締まります。
「確かに、だめだめな僕の事なんて、もうみんな忘れているかもしれない。でも、僕はこの国で二番目の王子なんだ。もしこの騒ぎで父上と兄上が倒れたら、誰が国を救えるの?」
シクナは、しばらく口を閉ざし、しかしゆっくりと覚悟を決めたように。
「必要とされてなくたって、僕は皆を助けたい。王子だから。」シクナはそう言いました。脚はぶるぶると震えていましたが。
「君は、強いね」
フロギアには、そんな彼がとても眩しく輝いて見えたのでした。
「ねえ、こっち向いて?」
シクナが彼女の方へと向くと、唇に柔らかな感触がありました。
愛し合うようなキスが終わると、フロギアは潤んだ瞳でシクナを見つめました。
「ちゃんと生きて帰ってこれたら、ご褒美あげる。だから、死んじゃダメだよ♪」
シクナは無言で走り去りました。無事で済む自信はなかったし、口を開けば弱音が出てきてしまう気がしたからです。
城下は混乱のまっただ中でした。平民は叫び声をあげ、闇雲に逃げまどいますが、賊の優れたチームワークによって次々ととらえられていきます。
けっして殺されはしません。すべての平民は皆、奴隷として売りさばかれるからです。
衛兵たちも必死に抵抗しますが、全く歯が立ちません。
決して衛兵たちが弱いわけではありません。賊たちはまず王宮内に忍び込み、国王や第一王子を含む全ての王族を人質にとったのです。
衛兵たちもこれにはたまらず、防戦一方となってしまいました。
人々は希望を失いかけたその時、一際大きな少年の声が国中に響きわたりました。
「国の平和を脅かす悪党どもめ!このシクナ王子が相手になってやる!」
王国の中央部にある巨大噴水の頂点に登り、シクナは叫びました。
賊も平民も皆、シクナに唖然とした表情で視線を注ぎます。
しかし、数秒後には多くの賊たちに囲まれる状況になってしまいました。
シクナはいきなりピンチになってしまいましたが、ここでくじける彼ではありませんでした。
襲いかかる合図を今か今かと待つ賊たちに向かってシクナは言いました。
「お前たちの頭を連れてこい。正々堂々と一対一で勝負しろ!」
これはシクナなりに考えた策でした。屈強な男たち全員を相手にするよりは、その頭領を倒す方がまだ勝算があると踏んだのです。
小柄な少年の挑戦とあれば、相手も油断して受けてくるだろうという考えもありました。
それでも、勝てる見込み自体はものすごく低いのですが。
しばしの沈黙の後、賊たちはどよめきました。
笑いが半分、困惑が半分という状態です。やはりシクナは舐められていました。それと同時に、これは罠ではないか、と疑う者もいました。
騒ぎ声だけが大きくなっていく中。
「うるせえぞボンクラどもがっ!」
賊の長、グネズの一喝により、一瞬にして辺りは静寂を取り戻しました。
彼は王国の宝である魔法銀の鎧を戦利品として纏っていました。
相当な重量になるプレートアーマーを楽々と着こなし、二振りの剣を振り回すその姿は、シクナには怪物のように見えました。予想外、何もかも予想外です。
「戦利品が王子の首ってえのも面白そうだ。その勝負うけてやるよ」
でかい、説明不要なその怪物人間にひるみかけましたが、ぐっとこらえて強気に出ます。
「僕が勝ったらすぐに立ち退き、人々を解放してもらう!」
「構わねえぜ。そのかわりお前が負けたら、王族の奴らは一人残らず始末する。俺はああいう幸せそうな奴らってのが大嫌いなもんでね」
シクナは思わず唾を飲みました。グネズは本当に殺す。そう確信させる気迫があったのです。
「じゃあ、早速いくぜぇ!」
言うがいなや、両手の剣を振り落とし、地面に叩きつけました。
剣は石畳をクッキーのように砕き、大量の破片が礫となってシクナに飛んでいきました。
とっさの攻撃に、シクナは思わず身を屈めてガードします。それを見計らったようにグネズは一気に距離を詰め、接近戦の間合いに入りました。
「その首もらったぁ!」
先程よりも大振りの一撃がシクナの首めがけて振り切られました。
もうダメだ。シクナはぎゅっと目を閉じ、民たちの叫び声も聞こえなくなってきます。
ふと、彼の瞼の裏にフロギアの顔が浮かびました。
ヌルリ。
剣はシクナに触れた瞬間、何とも気味の悪い音を立てて、空振りしてしまいました。
シクナは何事もなかったかのようにぴんぴんしています。
グネズや周りを囲む者達は勿論のこと、シクナ自身も何が起こったのか状況が把握できず混乱しています。
気を取り直したグネズが再び剣を振りますが、またもシクナを傷つけることは出来ませんでした。
それが何度も繰り返される内、グネズらはシクナが剣が触れるギリギリの間合いで避けているのだと勘違いしました。しかし、このカラクリを正しく理解したのはシクナだけでした。
シクナの全身は、粘液のような半透明の物質に覆われていました。
まるで、ミューカストードの皮膚のように。シクナへの攻撃はそのヌルヌルによっていなされていたのです。
他人には見えない粘液がいったい何なのか、シクナは考えようとしましたが、今は戦いに集中せねばと冷静に判断し、剣を構えました。
必死の攻撃も全く当たらず、体力が自慢のグネズもついに息を切らします。
その隙を、シクナは見逃しませんでした。
「隙ありー!!」
シクナは剣を上段に構え、グネズに向かって飛び込みました。飛び込んだつもりでした。
ビィヨォ〜〜〜ン。
いつの間にか脚が蛙のようにしなっている事にも気づかなかったシクナは、力加減が出来ずに天にも登る勢いで空へと飛んだ、いや跳んだのです。
城のてっぺん位の高さまでいくと自由落下しはじめます。
呆気にとられたグネズ。
ガードもしていない彼の兜めがけてシクナの全体重と全スピードがのった一撃が振り下ろされました。
鐘を打ち鳴らしたような轟音が、国中に響きわたりました。
後に【飛翔・雷鳴斬】と名付けられる奥義を食らった国宝の鎧はきれいにまっぷたつ、中身のグネズは・・・・・・。
「・・・・・・ぐうう」
と声を漏らし、地面に突っ伏しました。鎧のおかげか額の大きなタンコブ以外に怪我はありませんでした。
みな、何が起こったのか分からずきょとんとしていましたが。
「ま、まだやるか……?」
とシクナが構えると、事態を理解した手下たちは大慌てで逃げ出します。
シクナの大勝利に、国民たちは大いに喜びました。
「シクナ!おお、我が弟よ!生きていたのか!」
解放された王族たちに混じり、シクナの兄が飛び出てきました。
「兄上!よかった、無事でしたか」
「ああ、父上と母上も大事はない」
兄上が手を握ろうとしますが、はっと気づき、手を止めます。
「すまなかった。お前が生きていると信じられなくて。何度も出した捜索隊が、沼地でお前の遺留品を見つけて……」そう言いながら、兄上は涙をこぼします。
「本当にすまない……」
「兄上、顔を上げてください」シクナは兄上の手を握りました。
「
もういいんです。こうして僕も皆も無事ならそれでいいじゃないですか」
シクナは満面の笑顔でそう言いました。兄上もつられて顔が明るくなりました。
「それにしても、おまえがここまでやるようになったとはな」
「きっと、カエルパワーです」
「はて、カエルとな?」兄上は首を傾げました。
「ええ、そのおかげです」
シクナは自分の身に起こったことが何となく分かりました。フロギアと長い時間を共有し、彼女の魔力と自分の精を交換したため、彼女の能力が自分に少しばかり付与されたのだと。
ざっくりすぎる説明のため、兄上はよく分かりませんでしたが、シクナの話が要領を得ないのはいつものことなので気にしませんでした。
「なんにせよ、あの賊団をどうするかだな。まったく、大国も一大事というときに、賊もどこかで情報を嗅ぎ付けてくるというのか」
「大国?ひょっとして、さらわれたお姫様の大国ですか?」
「この近辺で大国といえばそこしかあるまい。もっとも、いずれ大国ではなくなってしまうかもしれんがな」と、兄上は溜息をつきました。
「どういう事です?」
「国王が亡くなられたのだ。姫をさらわれた心労からだろうな。今、大国は次期国王の座で内輪もめの真っ最中だ。相次いで暗殺や謀反が起こり、国内は東と西に分かれる勢いだ」
「そうだったんですか……」
「ああ……そうか、お前は姫を捜していたのだったな。彼女はもう死んでしまってるだろう。いや、その方がいいのかもしれん」
兄上は皮肉気味に笑いました。
「フロギア姫は純粋で、平和を愛する方だった。今の国の有様を見たら、さぞ嘆き悲しまれるだろうよ」
「はあ……うん?兄上、今なんと」
「今の国の有様を……」
「その前その前」
「フロギア姫」
「フロギア……フロギア?」
「そうだ。フロギア姫。美しい姫君であった。歌も得意でな。よく聴かせてもらったよ。って、シクナ?どこへ行ったのだ?」
シクナは走りました。彼にはまだ大事な使命があるからです。
悲劇の姫を救えるのは、今はシクナだけなのです。
彼女と過ごす日々は、シクナにとってとても刺激的でした。二人で起きて、二人で食べ物を探し、二人で営み、二人で寝ました。
そこでは王宮での生活では味わえない、ゆったりとした時間が流れていて、シクナはその中にどっぷりと浸っていました。
ある日、シクナとフロギアが仲良く散歩していると、遠くの方で煙が上っているのが見えました。
「王国の方からだ・・・・・・!」
嫌な予感がしたシクナは、フロギアと煙の方へと走りました。
国を囲う壁の前までつくと、すさまじい騒音が壁を通り越して聞こえてきました。
弓が飛び交う音、人々の悲鳴、爆発音。シクナの嫌な予感は的中しました。
「ちょっと、見てくるね〜」
「えっ!危ないよ!」
シクナの制止も聞かず、フロギアは壁をぴょんぴょん飛び越えて向こう側へと行ってしまいました。
しばらくすると、フロギアはまたぴょんぴょんと壁を飛び跳ね、戻ってきました。
「賊の一団が襲ってきてるみたいだね。でもただの賊じゃないね。人数が多いし、統率もとれてる。奴らは手強いよ。君の国の兵たちは劣勢だったよ」
それを聞いたシクナはしばらく考え込んだ後。
「よし」と言って、壁の抜け道へ歩き出しました。
その腕を、フロギアががっしりと掴みました。
「どこへ行くの?」
いつになく真面目な顔をしてフロギアは尋ねます。
「国の皆を助けに行くんだ」シクナの瞳は真剣です。
「君が死んだって何とも思ってない連中だよ」
言った後、フロギアは少し後悔したような顔をしました。
ほんの一瞬、シクナは顔を歪めました。しかし、すぐにまた表情は引き締まります。
「確かに、だめだめな僕の事なんて、もうみんな忘れているかもしれない。でも、僕はこの国で二番目の王子なんだ。もしこの騒ぎで父上と兄上が倒れたら、誰が国を救えるの?」
シクナは、しばらく口を閉ざし、しかしゆっくりと覚悟を決めたように。
「必要とされてなくたって、僕は皆を助けたい。王子だから。」シクナはそう言いました。脚はぶるぶると震えていましたが。
「君は、強いね」
フロギアには、そんな彼がとても眩しく輝いて見えたのでした。
「ねえ、こっち向いて?」
シクナが彼女の方へと向くと、唇に柔らかな感触がありました。
愛し合うようなキスが終わると、フロギアは潤んだ瞳でシクナを見つめました。
「ちゃんと生きて帰ってこれたら、ご褒美あげる。だから、死んじゃダメだよ♪」
シクナは無言で走り去りました。無事で済む自信はなかったし、口を開けば弱音が出てきてしまう気がしたからです。
城下は混乱のまっただ中でした。平民は叫び声をあげ、闇雲に逃げまどいますが、賊の優れたチームワークによって次々ととらえられていきます。
けっして殺されはしません。すべての平民は皆、奴隷として売りさばかれるからです。
衛兵たちも必死に抵抗しますが、全く歯が立ちません。
決して衛兵たちが弱いわけではありません。賊たちはまず王宮内に忍び込み、国王や第一王子を含む全ての王族を人質にとったのです。
衛兵たちもこれにはたまらず、防戦一方となってしまいました。
人々は希望を失いかけたその時、一際大きな少年の声が国中に響きわたりました。
「国の平和を脅かす悪党どもめ!このシクナ王子が相手になってやる!」
王国の中央部にある巨大噴水の頂点に登り、シクナは叫びました。
賊も平民も皆、シクナに唖然とした表情で視線を注ぎます。
しかし、数秒後には多くの賊たちに囲まれる状況になってしまいました。
シクナはいきなりピンチになってしまいましたが、ここでくじける彼ではありませんでした。
襲いかかる合図を今か今かと待つ賊たちに向かってシクナは言いました。
「お前たちの頭を連れてこい。正々堂々と一対一で勝負しろ!」
これはシクナなりに考えた策でした。屈強な男たち全員を相手にするよりは、その頭領を倒す方がまだ勝算があると踏んだのです。
小柄な少年の挑戦とあれば、相手も油断して受けてくるだろうという考えもありました。
それでも、勝てる見込み自体はものすごく低いのですが。
しばしの沈黙の後、賊たちはどよめきました。
笑いが半分、困惑が半分という状態です。やはりシクナは舐められていました。それと同時に、これは罠ではないか、と疑う者もいました。
騒ぎ声だけが大きくなっていく中。
「うるせえぞボンクラどもがっ!」
賊の長、グネズの一喝により、一瞬にして辺りは静寂を取り戻しました。
彼は王国の宝である魔法銀の鎧を戦利品として纏っていました。
相当な重量になるプレートアーマーを楽々と着こなし、二振りの剣を振り回すその姿は、シクナには怪物のように見えました。予想外、何もかも予想外です。
「戦利品が王子の首ってえのも面白そうだ。その勝負うけてやるよ」
でかい、説明不要なその怪物人間にひるみかけましたが、ぐっとこらえて強気に出ます。
「僕が勝ったらすぐに立ち退き、人々を解放してもらう!」
「構わねえぜ。そのかわりお前が負けたら、王族の奴らは一人残らず始末する。俺はああいう幸せそうな奴らってのが大嫌いなもんでね」
シクナは思わず唾を飲みました。グネズは本当に殺す。そう確信させる気迫があったのです。
「じゃあ、早速いくぜぇ!」
言うがいなや、両手の剣を振り落とし、地面に叩きつけました。
剣は石畳をクッキーのように砕き、大量の破片が礫となってシクナに飛んでいきました。
とっさの攻撃に、シクナは思わず身を屈めてガードします。それを見計らったようにグネズは一気に距離を詰め、接近戦の間合いに入りました。
「その首もらったぁ!」
先程よりも大振りの一撃がシクナの首めがけて振り切られました。
もうダメだ。シクナはぎゅっと目を閉じ、民たちの叫び声も聞こえなくなってきます。
ふと、彼の瞼の裏にフロギアの顔が浮かびました。
ヌルリ。
剣はシクナに触れた瞬間、何とも気味の悪い音を立てて、空振りしてしまいました。
シクナは何事もなかったかのようにぴんぴんしています。
グネズや周りを囲む者達は勿論のこと、シクナ自身も何が起こったのか状況が把握できず混乱しています。
気を取り直したグネズが再び剣を振りますが、またもシクナを傷つけることは出来ませんでした。
それが何度も繰り返される内、グネズらはシクナが剣が触れるギリギリの間合いで避けているのだと勘違いしました。しかし、このカラクリを正しく理解したのはシクナだけでした。
シクナの全身は、粘液のような半透明の物質に覆われていました。
まるで、ミューカストードの皮膚のように。シクナへの攻撃はそのヌルヌルによっていなされていたのです。
他人には見えない粘液がいったい何なのか、シクナは考えようとしましたが、今は戦いに集中せねばと冷静に判断し、剣を構えました。
必死の攻撃も全く当たらず、体力が自慢のグネズもついに息を切らします。
その隙を、シクナは見逃しませんでした。
「隙ありー!!」
シクナは剣を上段に構え、グネズに向かって飛び込みました。飛び込んだつもりでした。
ビィヨォ〜〜〜ン。
いつの間にか脚が蛙のようにしなっている事にも気づかなかったシクナは、力加減が出来ずに天にも登る勢いで空へと飛んだ、いや跳んだのです。
城のてっぺん位の高さまでいくと自由落下しはじめます。
呆気にとられたグネズ。
ガードもしていない彼の兜めがけてシクナの全体重と全スピードがのった一撃が振り下ろされました。
鐘を打ち鳴らしたような轟音が、国中に響きわたりました。
後に【飛翔・雷鳴斬】と名付けられる奥義を食らった国宝の鎧はきれいにまっぷたつ、中身のグネズは・・・・・・。
「・・・・・・ぐうう」
と声を漏らし、地面に突っ伏しました。鎧のおかげか額の大きなタンコブ以外に怪我はありませんでした。
みな、何が起こったのか分からずきょとんとしていましたが。
「ま、まだやるか……?」
とシクナが構えると、事態を理解した手下たちは大慌てで逃げ出します。
シクナの大勝利に、国民たちは大いに喜びました。
「シクナ!おお、我が弟よ!生きていたのか!」
解放された王族たちに混じり、シクナの兄が飛び出てきました。
「兄上!よかった、無事でしたか」
「ああ、父上と母上も大事はない」
兄上が手を握ろうとしますが、はっと気づき、手を止めます。
「すまなかった。お前が生きていると信じられなくて。何度も出した捜索隊が、沼地でお前の遺留品を見つけて……」そう言いながら、兄上は涙をこぼします。
「本当にすまない……」
「兄上、顔を上げてください」シクナは兄上の手を握りました。
「
もういいんです。こうして僕も皆も無事ならそれでいいじゃないですか」
シクナは満面の笑顔でそう言いました。兄上もつられて顔が明るくなりました。
「それにしても、おまえがここまでやるようになったとはな」
「きっと、カエルパワーです」
「はて、カエルとな?」兄上は首を傾げました。
「ええ、そのおかげです」
シクナは自分の身に起こったことが何となく分かりました。フロギアと長い時間を共有し、彼女の魔力と自分の精を交換したため、彼女の能力が自分に少しばかり付与されたのだと。
ざっくりすぎる説明のため、兄上はよく分かりませんでしたが、シクナの話が要領を得ないのはいつものことなので気にしませんでした。
「なんにせよ、あの賊団をどうするかだな。まったく、大国も一大事というときに、賊もどこかで情報を嗅ぎ付けてくるというのか」
「大国?ひょっとして、さらわれたお姫様の大国ですか?」
「この近辺で大国といえばそこしかあるまい。もっとも、いずれ大国ではなくなってしまうかもしれんがな」と、兄上は溜息をつきました。
「どういう事です?」
「国王が亡くなられたのだ。姫をさらわれた心労からだろうな。今、大国は次期国王の座で内輪もめの真っ最中だ。相次いで暗殺や謀反が起こり、国内は東と西に分かれる勢いだ」
「そうだったんですか……」
「ああ……そうか、お前は姫を捜していたのだったな。彼女はもう死んでしまってるだろう。いや、その方がいいのかもしれん」
兄上は皮肉気味に笑いました。
「フロギア姫は純粋で、平和を愛する方だった。今の国の有様を見たら、さぞ嘆き悲しまれるだろうよ」
「はあ……うん?兄上、今なんと」
「今の国の有様を……」
「その前その前」
「フロギア姫」
「フロギア……フロギア?」
「そうだ。フロギア姫。美しい姫君であった。歌も得意でな。よく聴かせてもらったよ。って、シクナ?どこへ行ったのだ?」
シクナは走りました。彼にはまだ大事な使命があるからです。
悲劇の姫を救えるのは、今はシクナだけなのです。
16/04/29 23:08更新 / 牛みかん
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