「プール！」

　遠くを見つめて犬が叫ぶ。もふもふした栗色の体毛で全身を包み、二本足で直立する愛犬が、膨らませた浮き輪を両手で持ちながら両目をキラキラ輝かせる。
　
「ご主人様！　プールですよ！　プールに来ました！」

　そして身を翻し、遠くに見えるドーム状の建物に背を向けぴょんぴょん飛び跳ねる。その様を眼前で見た「ご主人様」は、全身で喜びを表現する彼女の愛らしさに心打たれ、自然と顔に笑みを浮かべた。
　直後、犬が再び主人に言う。
　
「さあ、はやく行きましょう！　荷物は全部私が持ちますので！」
「慌てるなって。今出すから」

　逸る愛犬に主人の男が釘を刺す。その後主人は自分が運転してきた車の後部ドアを開け、座席からリュックサックを二つ取り出した。リュックサックは二つとも荷物でパンパンに張っており、男はその内の一つを犬に手渡した。
　犬がそれを受けとる。自分ももう一つの方を背負いつつ、男が犬に問いかける。
　
「中身は大丈夫？　忘れ物とかはないよな？」
「もちろんです！　水着、タオル、お弁当、水筒、全部入ってます！」
「よし」

　男に倣ってリュックを背負いながら、犬が快活に答える。男がそれに頷き、犬の頭を優しく撫でる。愛しい主人の手の温もりを感じ、犬が目を細めて心地良さげに鳴き声を上げる。その可愛らしい姿を見て自身も笑みをこぼし、男が犬の頭から手を離す。
　
「それじゃ行くか、椿」
「はい！」

　次いでその手を愛犬――椿に差し出し、主人の男が声をかける。椿が快く応答し、男の手を取って力強く握りしめる。
　男もまた椿の手を握り返す。互いの指が絡み合い、二人の手がしっかりと繋がれる。
　犬と人が横並びになり、件のドーム状の建物に向かって歩いていく。
　
「楽しみですね、ご主人様！」
「ああ」

　この日、二人は屋内プール施設で遊ぶためにここに来ていた。
　
　
　
　
　発端は、椿の主人である佐伯純の一言だった。
　
「せっかくだし、来週の休みにどこか遊びに行くか。どこか行きたい所とかあるか？」
「えっ？」

　唐突な純の言葉に、彼の愛犬兼愛妻である椿は返答に詰まった。この時椿は純と仲良くソファに座っており、愛しい彼の体に寄りかかりながらその言葉を聞いていた。
　そうして至近距離で面食らう椿に、純が続けて言った。
　
「いつもお前には助けられてるからさ。その恩返しがしたいんだ。どうだ？」
「恩返し、ですか？」

　椿の反芻に純が首肯する。彼の言を聞いた椿は最初嬉しそうに顔を輝かせたが、そこは忠犬。がっつくことはせず、まず一歩引いて純に問い返した。

「よろしいのですか？　私がそんな我が儘を言っても」
「当たり前だろ。むしろもっと言ってきてほしいくらいだよ。俺とお前の仲なんだしさ」

　謙遜する椿に対し、純が左手を見せる。彼の薬指には指輪が填められていた。そしてそれを見た椿は無意識的に、自分の首に掛けられているネックレスに手をあてがった。
　彼女のネックレスには指輪が通されていた。純が填めているものと同じ指輪だった。
　
「たまには夫らしいこともさせてくれよ。な？」

　椿が首元の指輪に触れたところで、純が笑って話しかける。主人の気持ちを知った忠犬は、素直に主人の好意に甘えることにした。尽くすだけが愛情ではない。甘えることもまた大切なのだ。
　
「それではその……プールに、行ってみたいなと……」
「プール？」
「は、はい。ご主人様と一緒に、プールに行きたいです……！」

　故に椿は一歩前に出た。普段は主人に尽くしている犬娘の、精一杯の甘えである。
　
「プールか。いいな。そこ行こうか」
　
　対する純も、快く彼女の言葉を受け入れた。椿が喜びに顔を輝かせたのは言うまでもない。それから二人は週末の計画を練り始め、冒頭に至る。
　そして当日。純と椿は手を取り合い、受付を通って更衣室に入り、水着を着て――純は普通のボクサーパンツタイプ、椿はフリルをあしらった可愛らしいビキニ水着である――場内に足を踏み入れた。
　
　
　
　
「わあ……！」

　中に入った椿が、純の手を取ったまま驚きの声を上げる。そこは郊外にある屋内プール施設であり、県下一を自称するほどの広さを備えていた。休日ということもあって場内には多くの利用客がおり、人間と魔物娘で大いに賑わっていた。屋内施設ということもあって直射日光の影響を受けず、快適に遊べるのも人気の一つであった。
　
「さすが週末。人でいっぱいだ」
「はぐれないようにしないといけませんね」

　それぞれ言葉を放った純と椿が、互いの存在を確かめるように強く手を握りあう。その後二人はぴったりくっついて行動し、どうにか荷物を置ける場所を確保した。
　見つけた場所にピクニック用のシートを敷き、荷物を置く。浮き輪に空気を入れ直し、水着の紐を締め直す。しかしそうして準備を終わらせ、いざ遊ぼうと純が思った段階で、唐突に椿が彼を引き留める。
　
「駄目ですよご主人様！　準備体操しないと！」
「あっ」

　言われて初めて存在に気づく。しかしお節介とは思わない。寧ろそれを思い出させてくれた椿に、純は改めて感謝した。
　そこに椿の言葉が続く。
　
「いきなり激しい運動をすると、肉離れや筋肉痛になってしまいますからね。ちゃんと体をほぐしておきましょう」
「そうだな。ちゃんと動かしておかないとな」
「はい！　遊ぶ前の下準備です！」

　純の返答に、椿がにこやかに答える。その後二人は椿の主導の下、横並びになってその場で準備運動を行った。
　しっかり者の嫁を持てるというのは幸せである。純はそんな幸せを噛み締めながら、椿と共に準備運動を進めていった。
　
　
　
　
　数分後、準備運動はつつがなく完了した。二人の体は軽く火照り、心なしか身軽になった感じもした。

「椿、最初はどこに行く？」
「はい！　私、最初はあそこに行きたいです！」

　運動を終えた後、純は椿にどこで遊びたいかを問うた。椿はそれに対して快活に答え、そのまま純と一緒にそこへ向かった。
　椿が指し示したのは、いわゆる「波の出るプール」であった。定期的に発生する穏やかな波が水面に浮かぶ人を揺らし、心地よい浮遊感と安らぎを与える。ここを利用する者は波に揺られる感覚をゆったり楽しんでもいいし、力強く波に逆らってもいい。緩急自在な楽しみ方の存在する、万人におすすめのスポットである。
　
「ご主人様！　私奥まで行ってきますね！」
「ああ。気を付けるんだぞ」

　なお純は前者を、椿は後者を選択した。純は浅瀬にて打ち寄せる波の感触を堪能し、椿は押し寄せる波に正面から戦いを挑んだ。もっとも、椿も最初から波に勝つつもりは無く、ただより強く波の抵抗を感じたいだけだったりした。
　
「わーい！」

　早速椿が突撃する。浮き輪の中に入った状態で水中で足を動かし、周りに迷惑をかけないように後方に水しぶきを上げ前進する。体に纏わりつく冷たい水の感触が冷たく気持ちよい。
　そうして底に足が付かなくなる所まで進んだ直後、お目当ての波がやってくる。それを見た椿が進行を止め、全身で波を受け止める。周囲の面々も一様に波を食らっていく。
　
「ひゃああ〜！」

　そこかしこで可愛い悲鳴が上がる。体が浮き上がり、また沈んでいく心地良い感覚に、誰もが歓喜と興奮を覚える。
　椿もそれに混じって可愛く叫ぶ。未体験の浮遊感に興奮し、目一杯喜びを爆発させる。波に押され、後ろに引き戻されていく感覚すら愛おしい。
　もっと欲しい。椿の欲に火が点く。
　
「もう一回！」

　浮き輪に填まった栗色の毛玉が再度前進する。再び波に襲われ、「わーい！」と悲鳴を上げながら元の位置まで戻される。その後懲りることなく、犬が三度戦いを挑む。
　数秒後、波に敗北した忠犬が笑顔で流し戻されてくる。純はそんな椿の可愛らしい姿を、微笑ましげに見守っていた。彼女が目一杯羽目を外せている。それが純にとって一番の喜びだった。
　彼の視界には椿以外入っていなかった。周りの客よりも愛する妻を優先するのは当然である。彼は次も椿は特攻するだろうと予想し、その悪戦苦闘ぶりを見守ろうと決めていた。
　しかし今回は違った。流された椿はその場で踵を返し、浮き輪を持って自分から浅瀬の方へ――浅瀬でくつろぐ純の方へ進んでいった。
　
「ご主人様も一緒に行きましょう！」

　そして純の元に辿り着くなり、椿は腰を降ろしながら彼にそう言った。いきなり請われた純は一瞬驚いたが、その後すぐに気持ちを切り替えた。
　せっかく来たのだ、楽しまないのは損である。彼は立ち上がり、水でびしょ濡れになった椿の頭を撫でながら言った。
　
「そうだな。俺も一緒に行くか」
「はい！」

　純の言葉を聞いた椿の顔がぱあっと明るくなる。耳がぴんと立ち、尻尾が左右に大きく揺れる。嬉しがっているのは明白である。
　二人が手を繋ぎ、共に波の出るプールに立ち向かう。純が先頭に立ち、椿の手を引いて前へ進む。椿は純と浮き輪に体を預け、完全にリラックスしていた。
　やがて波が来る。刹那、純は自分から足を離し、全身で波を受け入れた。浮き輪に頼りきっていた椿など言うまでもない。
　
「ひゃー！」
「うわー！」

　人間とクー・シーが仲良く流される。上下に揺すられ、二人同時に悲鳴を放つ。穏やかな水に揉まれ、しかし手だけはしっかり繋いだまま、波の感覚に幸せを噛み締める。
　
「楽しいですね！」
「ああ！」

　人工波に揺られながら、純と椿が楽しさを共有する。間髪入れずに次の波が襲来し、二人を再び揺すっていく。
　
「ひゃあああ！」

　後は言葉は不要だった。二人は仲良く波を堪能し、笑い声と繋いだ手の体温だけを分かち合った。
　
　
　
　
　ひとしきり波の出るプールを堪能した後、二人は休むことなく次のプールへ向かった。
　二人が向かったのは、いわゆる「流れるプール」だった。施設の中心部に据えられた、横に引き延ばされた楕円形のプールの中は多くの人と魔で賑わっており、誰も彼もが流れに身を任せてゆったりと楽しんでいた。
　純と椿もその中に混ざりこんだ。椿が浮き輪を装着し、そこに純が両腕でしがみついて寄りかかる格好である。
　
「静かでいいですねー」
「そうだな」

　抵抗を止め、冷たい水の流れに体を預ける。波の出るプールとは違う穏やかな感覚に、椿と純が共にリラックスした声を上げる。この時周りからは子供の笑い声やカップルのイチャつく音がひっきりなしに響いて来ていたが、今はその騒々しさすら愛おしかった。
　
「こうしてると、プールに遊びに来たって感じがしてきますよね」
「だよなあ。やっぱりこうでないとな」

　夏のプールは大体こうである。寧ろこの喧騒、人口密度、熱気と反比例する水の冷たさこそが、夏のレジャーの醍醐味とも言える。
　何処へ行ってもこればっかりというのも辟易するが、逆にこれが無いと却って味気ない。人気のないプールほど寂しく、空恐ろしい場所はないものだ。
　
「私はご主人様と一緒にのんびり楽しみたいんですけどねえ」
「でも貸し切りのプールで二人だけで泳いでても、それはそれでつまんないだろ」
「……ですね」

　忠犬主人ペアもまた、同様の結論に到達した。二人はそのまま水流とざわめきに首まで浸かり、暫し安らかならぬ穏やかな一時を過ごした。
　何も考えず、好きな人と一緒に行楽を堪能する。最高の贅沢である。
　
「そういえば椿」

　そうして水の流れに従って何周かした後、唐突に純が椿に声を掛けた。椿はすぐに反応し、純が続けて彼女に問うた。
　
「お前、ああいうのには行かないのか？」
「ああいうの？」
　
　問われた椿が、純の指さす方へ視線を向ける。そこには施設の目玉である、巨大ウォータースライダーが堂々鎮座していた。
　
「わあ……」

　それの威容に圧倒された椿が、呆然と声を上げる。そのスライダーは天高く伸びた複数の骨組みに、一本の青いチューブが植物の蔓のように複雑に絡みついていた。しかし頂上にあるスタート地点へは階段を昇っていく必要があるが、その階段は順番待ちの客でぎっしり詰まっていた。スライダーそのものが長いこともあって、待機列の動きは非常に緩慢だった。
　
「どうだ。中々楽しそうだぞ」

　水に流されながら、しかし視線はスライダーに固定したまま、純が椿に提案する。椿も暫くの間それに見惚れていたが、やがて視線を外して純に向き直る。
　
「いえ、私は遠慮しておきます」

　そして即答する。純が「いいのか？」と再度問うも、椿の意思は固かった。
　
「はい。今日はご主人様と一緒にいたいですから」

　満面の笑みで答える。迷いのない言葉である。それを聞いた純は、それ以上提案することはしなかった。ここまで言ってくれた愛犬の想いを無碍にするのは、愚か者の行為である。純は椿の気持ちを汲み、今日は彼女と一緒にいようと決めた。
　
「それに私はもうオトナですから。あれくらいで喜ぶわけがないのです」

　そこに椿の言葉が追い打ちをかける。純が改めて椿を見ると、彼の愛犬は眼前で無い胸を張って鼻息を吹かしていた。浮き輪に填まった栗色の毛玉は得意満面であった。
　
「……そうか」
「そうです！」

　ふんす！　主人の相槌を受け、クー・シーが再び言い切る。純はその姿も可愛いと思い、しかし下手に踏み込まずそのままそっとしておくことにした。
　
「惚れ直してもいいんですよ、ご主人様？」
「そうだな」
　
　得意げな忠犬に主人が言葉を返す。適当なきらいがあったが、椿はそれでも嬉しそうだった。
　楕円形の流れるプールは、そんな二人とその他大勢を静かに流し続けた。
　
　
　
　
　二人だけの時間をたっぷり楽しんだ後、純と椿は一旦休憩するためにプールから上がった。時計の針が十二時を指そうとしていたのも、彼らの背を後押しした。
　
「ご主人様、そろそろご飯にしましょう」
「もうそんな時間か。じゃあ昼にするか」

　椿の提案に純が頷く。二人同時にプールから撤退し、予め確保していた自分達の場所に戻る。そして純が自分の持ってきたリュックを開け、中から箸入りの袋と弁当箱を取り出す。弁当箱は家族連れが使う大きめの代物であり、同じサイズの箱が縦に二段積みになっていた。
　
「ご主人様と一緒に食べるの、凄い楽しみにしてたんです！」
「そうなのか？　実は俺も楽しみにしてたんだ」

　弁当箱を見て目を輝かせる椿に、純が言葉を返す。次いで純が積まれた箱を分離させ、それぞれの蓋を開ける。
　上側の箱にはおにぎりが、下側の箱にはおかずがみっしりと詰められていた。全て椿と純の共同作業によって作られたものである。
「それじゃ、食べるか」
「はい！」

　自分のリュックから二本の水筒を取り出しつつ、椿が頷く。純が箸袋を差し出し、椿がそれを受け取りながら水筒を純に手渡す。そうして準備が整ったところで、手を合わせて昼食を開始する。
　
「いただきます」

　挨拶を済ませ、思い思いに箸を伸ばす。まずはおかずから。考える事は一緒だった。
　箸でつまんだものを口の中に入れる。よく噛んで味わい、しっかり飲み込む。
　直後、二人揃って顔を綻ばせる。
　
「美味い！」
「とってもおいしいです！」

　卵焼き。ポテトサラダ。タコの形に切られたウインナー。鶏肉の塩焼き。きんぴらごぼう。ほうれん草の胡麻和え。人参と里芋の煮っ転がし。どれもこれも、今日のために二人で分担して作った料理だ。絶品である。
　胡麻和えと煮物は昨日の夕飯の残り物だったりするのだが、それでも美味いものは美味い。
　椿の作るものは何でも美味いのだ。
　
「椿の料理はやっぱり美味いな」
「そうですか？　喜んでいただけて何よりです。それに私もご主人様とご飯を食べられて、とても幸せです」
「俺もだよ。お前とこうしていられて、凄い幸せだ」
「もうっ、褒めても何も出ませんからね？」

　互いに幸せを噛み締め、それを伝え合いながら、にこやかに箸を進めていく。甘々な幸せオーラを辺りにまき散らし、糖分マシマシの世界を見せつけながら、忠犬と主人が無自覚に食事を続ける。その内周りから羨望と対抗心の入り混じった視線が向けられるが、どうでもよかった。彼らに負けじとイチャつき始める人間と魔物娘のカップルも増え始めたが、これもどうでもよい。
　閑話休題。好きな人と美味しいものを食べると、自然と箸の進むスピードも上がるというもの。たった数分の内に、おかずの群れは半分以下にまで減っていた。そうしてあらかた片づけたリア充全開カップルが、今度は主食に手を伸ばした。
　箸を置き、それぞれ素手でおにぎりを取る。これも二人で握ったものであるが、純の作ったものは椿のそれに比べてやや不格好であった。
　
「うまく握れなかったなあ」
「大切なのは形より味です！　ご主人様のおにぎり、とってもおいしいですよ！」

　恥ずかしさを隠すように呟く純に椿が断言する。実際この時、椿は純が握ったおにぎりを半分ほど食べていた。中身は梅だった。
　そのまま残りも食べる。指についた米粒も舐め取り、全て平らげてから椿が言う。
　
「おいしかったです！」
「お、おう」

　椿の言葉に対し、純がしどろもどろになる。彼は褒められることに慣れてなかった。いきなり赤面しだした主の様子に少し困惑しながら、若干鈍いクー・シーが次のおにぎりを手に取る。例によって純の握ったものである。
　ふわふわの毛に包まれた犬が大きく口を開け、ぱくりと一口。口を動かし、よく噛んで飲み込む。
　
「おいしい！」

　邪気のない天使の笑顔。純は眩しすぎて直視できなかった。
　
「尊い……」
「ご主人様、どうかしましたか？」
「なんでもない……」

　震える声で言葉を漏らす純に椿が首を傾げる。しかし考えるのもそこそこに、椿はすぐさま三個目を手に取る。純も遅れまいと二個目を取り、二人仲良くおにぎりを頬張る。ついでおかずにも手を伸ばし、白米とおかずを交互に食べ、口の中で絡み合う味わいに舌鼓を打つ。
　
「残さず全部食べましょうね」
「椿の料理を残すわけないだろ」
「本当ですか？　嬉しいなあ！」
　
　こうして二人の食事は周りに振りまく幸せの糖度を増しながら、万事順調に進んでいった。