読切小説
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死して屍拾うものなし
 騎士ユーリィがその老いた黒竜と出会ったのは、彼が十八の頃だった。まだ魔物が邪悪な怪物の姿をしており、人間に仇なす存在として恐れられていた時のことである。ユーリィが巨大な黒竜と対面したのも、そこに住んでいた王族を追い払って城を占拠し、我が物顔でそこに鎮座する竜を追い払うためであった。
 
「黒竜ゼルフィス! これ以上の狼藉、許すわけにはいかない! 大人しく我が剣の錆となれ!」
「小童風情が、随分と一丁前の口を利くものだな。いいだろう、その根性に免じて、少しだけ相手をしてやろう」

 この時のユーリィは騎士養成学校を首席で卒業し、正式に騎士となったばかりであった。彼はトップクラスの成績で学校を出たという事実から、誰も自分には勝てないと天狗になっていた。パーティを組まず、ゼルフィスに単身戦いを挑んだのも、自分なら一人でも絶対勝てると言う慢心から来るものであった。
 その慢心を、老竜ゼルフィスは粉々にした。玉座の間に鎮座していた黒竜は、寝転がったままユーリィに火の息を噴きかけ、それだけで彼を戦闘不能の体にしたのだ。ユーリィはかろうじて一命は取り留めたが、立つだけでやっとだった。そして一太刀も入れられずに敗北したことに、彼の心は大きなショックを受けた。
 そんなユーリィを、ゼルフィスは鼻で笑った。そして現実に打ちひしがれる若い騎士を見下ろしながら、黒竜ゼルフィスは厳しい口調で言い放った。
 
「若き騎士よ。貴様の実力はそんなものか。拍子抜けだな」
「なんだと!?」
「悔しいと思うのならば、一から己を磨き直し、再びここに来るがよい。私はいつでも待っているぞ」
「言ったな……!」

 ユーリィは情けをかけられた事を屈辱と感じ、ゼルフィスを睨みつけた。そして剣を支え棒代わりにして立ちながら、闘志をむき出しにしてゼルフィスに宣言した。
 
「なら、俺は何度でもお前に挑んでやる! お前を倒せるようになるまで、何回も挑んでやる!」
「そうだ、その意気だ。何度でも来るがいい。私は逃げも隠れもせぬ。何度でも貴様の相手になってやろう」
「望むところだ……首を洗って待っていろよ……!」

 ユーリィは一度負けただけで折れる程、ヤワな心を持っていなかった。彼は黒竜を自身の宿敵と見定め、勝つまで戦い続けることを誓った。
 老練なゼルフィスはそんな彼の意地と執念深さを見抜き、あえて彼を殺さずに挑発したのだった。そしてゼルフィスの目論見通り、ユーリィはよろめきながら城を出ると、さっそく一から自分を鍛え直した。ゼルフィスを倒すために自分を見つめ直し、本気で鍛錬を積んだ。
 そして宣言通り、彼は一か月後に再度ゼルフィスに勝負を挑んだ。この時ゼルフィスには件の王族によって懸賞金がかけられていたが、わざわざ死のリスクを冒してまでドラゴンに喧嘩を売る馬鹿者は、ユーリィ以外にはいなかった。
 
「来てやったぞ、黒竜。今日こそ引導を渡してやる!」
「ハハハッ、本当に来るとはな。だが、それでこそ騎士だ。来い、人間! どこまで強くなったか見せてみろ!」
 
 宿敵を前にユーリィが吠え、ゼルフィスがそれを正面から受け止め心奮わせる。ユーリィが剣を両手で持ち、黒竜めがけて走り出す。
 しかし二回目の挑戦も、ゼルフィスの圧勝だった。ゼルフィスに情けをかけられたおかげで死にはしなかったものの、彼の体は全身ボロボロになった。まさにボロ雑巾である。
 それでもユーリィは諦めなかった。例え体が打ち砕かれようとも、彼の心は折れなかった。
 
「まだだ……! 俺は絶対に、お前を倒してみせる……!」
「いいぞ、その調子だ! どんどんかかってくるがいい! 私を満足させてみせろ!」
 
 彼は二度も自分を返り討ちにした黒竜を、絶対に倒してみせると躍起になった。ただ打倒ゼルフィスのみを求め、ひたすらに鍛錬を積んだ。そしてゼルフィスもまた、その彼の心根を高く買っていた。
 昼も夜も、彼は修業に明け暮れた。やがて同期の騎士達が王都お付きの親衛隊に配属されたり、結婚して一線を退いたりするようになったが、彼だけは変わらなかった。ユーリィはただ黒竜討伐だけに精力を傾け、挑戦と修行を繰り返した。
 やがてそんな彼を、周りは竜に魅入られた変人、あるいは狂人と評するようになった。本人はそれを全く気にせず、ひたすら己の体を苛め抜いた。
 
「ゼルフィス! 今日も来たぞ!」
「来たかユーリィ。さて、今日はどんな戦法で私を楽しませてくれるのだ?」
「ふん。減らず口を聞いてられるのも今の内だ。行くぞ!」
「その意気だ! さあ来いユーリィ! 全力でかかって来るのだ!」
 
 ユーリィとゼルフィスは何年も何十年もかけて、何十回何百回と戦った。その内城を追われた王族達が別の場所に城を建て、黒竜を討伐する必要も無くなったとして、ゼルフィスへの懸賞金を取り下げたりもした。ゼルフィスが長いこと他者に危害を加えなかった――ユーリィと遊んでいたからである――こともあって、進んで黒竜を討伐しようとする者もいなくなった。
 それでもユーリィは、ゼルフィスへの挑戦を止めなかった。
 
「おいお前、いい加減ドラゴンから離れろよ。どこまでこだわってるんだよ」
「俺が何しようが勝手だろうが。横から口出しするな」
「そんなだから知り合いがいなくなるんだよ。もっと外の世界も見ろよ」
 
 彼自身、黒竜との戦いを生き甲斐に感じている節があったからだ。竜に固執するあまり周囲から孤立し始めていた彼は、ゼルフィスと戦っている時だけ、自分は生きていることを実感することが出来たのだった。そしてゼルフィスもまた、ユーリィとの決闘を「老い先短い自分の人生に華を添えてくれる大事なイベント」と捉え始めてもいた。
 二人は互いの存在が、自分の心の中で大きなものになっていくのを自覚していった。
 
「また私の勝ちだな。どうする? また来てくれるのか?」
「当然だろ。次こそは絶対お前に勝ってやるからな。楽しみにしてろよ!」
「……そうだな。楽しみに待っているよ」
 
 そうして何十年もぶつかり合う内に、彼らの関係もまた変化していった。二人は宿敵から好敵手へ、そして好敵手から親友へ。彼らは互いをかけがえのない存在として意識するようになった。第三者――主にゼルフィスの知り合いのドラゴン――からそれを指摘されると、二人はムキになって「こいつとは敵同士だ」と否定したが、説得力は皆無だった。
 そんな二人の関係は、魔王が代替わりし、魔物全てが美しく淫らな存在となった後も続いた。
 
「おーいゼルフィス? いるのか? 来てやったぜーっ」
「けほっ、けほっ……ああ、ユーリィか。よく来たな。歓迎するよ」

 ゼルフィスが見目麗しい美女と化した時、ユーリィは既に齢五十を越えていた。長年ドラゴンと戦い続けていた彼の体は厚く強靭なものとなり、口の周りには立派な髭を蓄えるようになっていた。毛髪がやや後退しかかっていたが、その顔は気力と精力に満ちていた。ドラゴンと何十年もぶつかっていたおかげで、彼は並の魔物では太刀打ちできない、世が世なら勇者と呼ばれるにふさわしい風格と実力を備えていたのであった。
 一方で人間大のサイズにまで縮小したゼルフィスは、決まって玉座に居座りながらユーリィを出迎えた。彼女は元の姿の通り漆黒の鱗に覆われ、肌も黒かった。目は爛々と金の輝きを放ち、対する者すべてを威圧した。一方で彼女の顔には翳りが出来始めていたが、二人ともそれを話題に挙げることはしなかった。
 そして出会った彼らは、いつものようにぶつかり合った。しかし彼らは、もはや勝ち負けにはこだわらなかった。不器用な彼らはただ決闘を口実にして、友と顔を突き合わせていただけだった。ユーリィは剣と一緒に酒を持ち込むようになり、ゼルフィスもその酒を喜んで彼と飲むようになった。

「そうだゼルフィス。さっき近くの町で美味い酒を買って来たんだ。一緒に飲もうぜ」
「そうだな……せっかくだし、いただこうか」

 長く生きる内に、彼らの周りもすっかり変わってしまった。王城だけが取り残される形で、その周りには新しい街が出来上がっていた。町は親魔物派の勢力によって仕切られ、多くの魔物娘と人間のカップルで賑わっていた。ユーリィの同期の中には戦死者も現れ始め、また生きている者の中には魔物嫌いを燻らせるあまり主神教団に入る者もいた。またその逆に、魔物の誘惑を受けいれてそれらと結婚する者もいた。
 しかしそれでも、ユーリィとゼルフィスの時間は止まったままだった。彼らはじゃれ合う程度に――極まった者同士、本気でぶつかったら周りの都市が吹き飛んでしまうから、手加減せざるをえなかった――剣戟を交わし、程よく体を動かした後で二人並んで酒を飲み、朽ちた城内で二人の時間を楽しんだ。
 
「気の置けない奴と飲む酒は格別だな。貴様もそう思うだろう?」
「そうだな。俺もまさか、あのゼルフィスと一緒に酒を飲むとは思わなかったよ」
「私もだ。貴様と一緒にいるだけで、こんなに穏やかな心になれるとは思いもしなかった」
 
 隔離された世界の中で、二人は二人だけの幸せを噛み締めた。そうして二人っきりでいる時、ユーリィは楽しそうに顔を赤らめ、ゼルフィスはそんな彼に物欲しげな視線を送っていた。
 
「なあ、ユーリィ。実はちょっと、話したいことがあるんだ」
「なんだよ、改まって。どうかしたのか?」
「ああ、うん。実は、私はな、貴様のことが……」
「?」
「……なんでもない。忘れてくれ」
 
 それでも、二人がそれ以上先に進むことは無かった。キスもセックスもなければ、浮ついた話もしなかった。何かを恐れるように、二人はその話題に触れないようにしていた。時折ゼルフィスが話を振ることもあったが、結局は尻すぼみに終わった。
 そんな宙ぶらりんの関係は、それから何年も続いた。
 
「ユーリィ、お願いがあるんだ」

 そしてある日、唐突にゼルフィスが話しかけてきた。形ばかりの決闘を終え、いつものように二人並んで酒を飲んでいた時の事だった。
 
「なんだ?」
「もしもの話だ。もし私が死んだら、小さくてもいいから墓を建ててくれ。この城の中がいいな。それからその墓標に、あの葡萄酒をかけてほしい。私が好きだったあの酒をな」
「お前、いきなり何言ってるんだよ」

 当然、ユーリィは面食らった。ゼルフィスは真面目な顔でユーリィを見つめた。
 目の下には濃いクマが刻まれ、金の瞳は涙で潤んでいた。

「頼むよ。貴様にしか頼めないんだ」
「ゼルフィス……」
「頼む……」

 ゼルフィスはいつにもまして、真面目な口調で頼み込んできた。ユーリィはそれを誤魔化すことも茶化すことも出来ず、ただ請われるままに頷いた。ユーリィもゼルフィスも、この至福の時間が長くは続かないことを心のどこかで理解していた。
 その二年後、ゼルフィスは眠るように息を引き取った。老衰だった。何百年も生きてきた黒竜の、静かな幕切れであった。
 
 
 
 
 それ以降、ユーリィは月に一度の墓参りを欠かさなかった。今日はゼルフィスが亡くなってから三回目の墓参り。彼はいつものように、剣とゼルフィスの好きだった葡萄酒を抱えて、彼女の墓のある城へ向かった。
 
「まったく、俺も律儀だよな」
 
 愚痴をこぼしながら、廃墟と化した城の中に入る。黒竜のいない城は、やけに広く感じられた。何か大切なものが抜け落ちたかのような、言い知れぬ寂寞感が漂っていた。
 そんな寂しい城の中を、ユーリィは一人で進んでいった。慣れた足取りで城内を進み、あっという間に玉座の間に至る。その玉座の間の最奥部、かつて立派な玉座があった場所に、木材で組まれた小さな十字架が建てられていた。
 黒竜ゼルフィスの墓。十字架の下には、彼女の亡骸を納めた棺桶が埋められていた。ユーリィは彼女の知り合いのドラゴンと共に大理石の床を掘り削り、ゼルフィスの要求通りにここに墓を作ったのだった。
 
「よう、黒竜。今日も来てやったぜ」

 十字架の前に立ち、いつもの調子でユーリィが声をかける。それに答える者は誰もいない。ユーリィは寂しげにため息をつき、酒瓶の蓋を開けた。
 十字架の上に瓶を持っていき、中の液体を流していく。葡萄酒が瓶の口から解き放たれ、木組みの十字架が落ちてきた紫色の液体を吸い込んでいく。
 そうして半分ほど空にしたところで、ユーリィは瓶を傾けるのを止めた。そして十字架の前に腰を下ろし、瓶に口をつけて残りの分を自ら飲み始めた。
 
「俺より先に死にやがって。魔物は長生きするもんじゃ無かったのかよ」

 自棄酒を呷るように高い葡萄酒をラッパ飲みしながら、ユーリィが愚痴をこぼす。ゼルフィスの墓は何も言ってくれない。それが彼の心を余計に渇かせていった。
 どれだけ酒を浴びようと、渇きは癒えなかった。
 
「ゼルフィス……」

 打ちひしがれたように、ユーリィが言葉を漏らす。背中を丸め、涙で濡れた瞳を十字架に向ける。
 背後で物音がしたのは、その直後だった。
 
「誰だ!」

 反射的にユーリィは立ち上がり、剣を引き抜いた。何十年も彼と共に戦ってきた長剣は、なおも雄々しく銀の輝きを放っていた。そうして頼もしく光り輝く銀の剣を正面に構えながら、ユーリィは音のした方を睨みつけた。
 そこには確かに何かがいた。小さく蠢く一つの影が、姿勢を低めてじっとこちらを見つめていたのだ。
 
「お前、誰だ?」

 剣を構えながら、ユーリィが問いかける。影はそれに答える代わりに、ユーリィに向かって跳びかかってきた。
 まったくいきなりだった。ユーリィは反応しきれなかった。彼は跳んできた影によって剣を叩き落とされ、同時に地面に押し倒された。
 
「うわっ! 誰だお前!」
「ユーリィ! 会いたかった!」

 ユーリィはすぐに跳んできたそれを引きはがそうとした。しかしその直後、自分の耳元で聞きなれた声が響いたのを受けて、彼は無意識の内に体から力を抜いた。
 呆然としながら、すぐ近くにあった相手の顔を見つめた。それは自分がよく知る相手の顔だった。
 
「えへへっ、ユーリィ、捕まえたっ♪」

 黒竜ゼルフィス。唯一無二の友が、自分の体に覆い被さっていた。しかし顔つきこそゼルフィスのものであったが、体つきや雰囲気は全く違っていた。
 かつて筋肉の鎧によって引き締められていた四肢や腹部は、今ではふくよかな程に肉が付き、そこに食い込んだ指を柔らかく食むように沈ませていった。漆黒の体は青緑に変色し、健康とは無縁の――まさにゾンビのような体色に変貌していた。
 そして何より、雄々しく凛々しかった彼女の顔はだらしなく緩みきり、年老いたユーリィを見つめながら物欲しげに涎を垂らしていた。
 
「えへへっ、ユーリィ、ユーリィ♪」

 そんな変わり果てたゼルフィスが、自分で押し倒したユーリィに自分の体を密着させ、甘えるように顔を摺り寄せてくる。ユーリィは当然困惑したが、その一方で、彼女が間違いなくゼルフィス本人であることもまた理解していた。幾度となく体をぶつけ合ってきたユーリィは、理屈ではなく感覚で、それが本物であると知ったのだ。
 
「ゼルフィス、お前いったいどうしたんだ? そもそもお前、死んだはずじゃ」

 しかし理解できた分、困惑も大きかった。何故ゼルフィスが生き返ったのか。そしてなぜゼルフィスがこうも変わり果ててしまったのか。それが不思議でならなかった。
 そのことをゼルフィスに問うと、彼女は蕩けた瞳でユーリィの顔をまっすぐ見ながら口を開いた。
 
「今の私ね、もう普通のドラゴンじゃないの。死んだドラゴンの屍に魔力が集まって復活した、ゾンビなんだぁ」
「は? ゾンビ?」
「うん。ドラゴンゾンビっていうべきかな? それと蘇った理由は、あなたが好きだから」
「はあ?」
「きゃー! いっちゃった! 言っちゃったー! 恥ずかしいよーっ!」

 ユーリィはその理屈が理解できなかった。魔物娘の愛情の深さは知っていたが、愛のために一度死んだ奴が生き返ることまでは予想出来なかった。予想できるわけが無かった。
 
「そんな、いくらなんでも滅茶苦茶だろ。好きだから蘇生するなんて」
「なにいってんのー? 魔物娘に人間の常識はつうじないんだよ?」

 困惑するユーリィにゼルフィスが断言する。そして自分の体をずらし、ユーリィのズボンに手をかけながら、ゼルフィスが彼に言った。
 
「私ね、あなたと戦っている内に、あなたを好きになっていったの。でもドラゴンのプライドが邪魔して、結局何も言えずに死んじゃった。それが悔しくてたまらなかったの」

 ドラゴンゾンビのゼルフィスはそう言ってズボンを脱がし、肉棒を露出させる。そして小さく悲鳴を上げるユーリィを無視して硬く屹立したそれに指を絡ませ、愛おしげに頬ずりしながら、ゼルフィスが熱のこもった声で続ける。
 
「本当は生きている内に告白したかったんだけど、何も出来なかった。それで自分が死ぬなって思ってからは、ずっとそればっかり考えてたの」
「ゼルフィス……」

 強い後悔を抱いたドラゴンが、その強烈な思念とその地に漂う魔力によって蘇生し、ドラゴンゾンビとなって復活する。ユーリィはそんなドラゴン蘇生のプロセスを全く知らなかった。
 しかし彼の心に恐怖は無かった。あるのはゼルフィスが生き返ったことへの喜びと、淡い期待感だった。
 だから彼は抵抗しなかった。顔では困惑したまま、体は彼女の任せるままだった。

「もっと素直になれたらいいなって。もっと自分に正直になれたらいいなって。まあ実際は、生きてる時は全然なれなかったんだけどねー……」

 そんなユーリィに対して、甘えるようなとろけた口調でゼルフィスが本心を吐露していく。だらしない顔のまま、困惑するユーリィに言葉をぶつける。

「でも素直になれた今なら言える。私はあなたが好き。あなたが欲しい。あなたの全部を愛しているの」

 そこまで言って、亀頭の先端にキスをする。初めて感じる快感にユーリィが体を震わせ、その姿を見てクスクス笑いながらゼルフィスが口を開く。
 
「絶対、あなたをモノにする。あなたを私の魅力でメロメロにしてあげる」
「お、おい、待て」
「覚悟してね、ユーリィ♪」

 ユーリィの制止を無視し、今まで見たことも無い淫乱な笑みを浮かべ、ゼルフィスが肉棒を頬張る。根元までずっぽりと咥えこみ、下品な音を立ててストロークを始める。
 
「ん、んじゅぷ……じゅるる、くちゅ……ずるるぅ……」
「あっ……ぐあっ……!」

 今まで感じたことのない、壮絶な快感だった。ユーリィは下半身が丸ごと溶けるような強烈な感覚に腰を浮かせ、ゼルフィスはそんな初々しい彼のリアクションを感じて優越感を味わいながら、彼の両足を抑えつけつつフェラチオを続けた。
 
「ぴちゅ、ぴちゅ、じゅるっ……くちくち……ずぞぞっ、じゅるっ」

 肉棒を口に含んだまま、舌を動かして表面を舐りまわす。そして舌を絡ませたまま口を動かし、口と舌で棒を激しく舐めしゃぶる。皮と亀頭を同時に責め、初心なユーリィに未知の快感を与え続ける。
 ユーリィは既に限界ギリギリだった。目と口を見開き、舌を突き出し、体をびくびく震わせていた。今まで戦いしかしてこなかったユーリィは、生まれて初めて味わう快楽を前になす術が無かった。
 ゼルフィスはそんな快楽に呑まれ、それでも我慢を続ける彼の姿を見て、とても幸せな気持ちになった。自分があのユーリィを悶えさせている。そう思うだけで、彼女は言いようのない程の幸福感に満たされ、自身の膣をぐしょぐしょに濡らしていった。
 
「ちゅ、じゅるっ、くちゅっ……んふふっ、我慢しなくても、いいんらよ? 出したかったら、いつでも出してね♪」
 
 その幸せな気持ちに浸ったまま、一旦肉棒を口から離し、唾液まみれのそれを摩りながらゼルフィスが囁く。そして相手の反応を待たず、再びそれを咥えこむ。愛しい人の性器を頬張れることへの悦びから涙を流しつつ、愛を込めてユーリィのそれをしゃぶりつづける。
 やがてユーリィの股間に熱がたまっていく。尿とは違う別の何かが肉棒の中を駆けあがっていき、それを解放したいという思いが理性を焼き尽くしていく。
 
「ゼルフィス、も、もう……!」
「ぐちゅ、じゅちゅっ……もう、でちゃう? いいよ。いっぱいだしてねっ。わたしのおくち、あなたの精液で、いーっぱい汚してねっ♪」
「う、うおおおっ……!」

 ゼルフィスの挑発にユーリィの理性は完全に崩壊した。彼はゼルフィスの顔を抑えつけ、深く突き刺し、喉の奥に叩き込むように、鈴口から精液をぶちかました。
 
「ひゅふんっ!? んきゅっ……んっ、ごきゅっ、んきゅ……んっ……」

 ゼルフィスは突然の射精に驚いたものの、すぐにそれを受け入れた。肉棒から容赦なく吐き出される白濁液を、ゼルフィスは喉を鳴らし、蕩けた表情で飲み込んでいく。極上の美酒を味わい、流し込むごとに、ゼルフィスの顔がますますだらしなくなっていく。そして撃ち止めとなったところでゼルフィスは口を離し、口内に残っていた分を丸ごと飲み干してから、ユーリィに言った。
 
「んふふっ、ごちそおさまでしたぁ……っ♪」

 そしてとびきり淫猥な笑みを浮かべ、自分から口を開いて中を覗かせる。口内はアンデッドとは思えないほどに瑞々しく、肉感に溢れていた。その雄を悦ばせる肉の穴を見たユーリィは、全力を出して萎びていた自分の肉棒に再び血が集まっていくのを感じた。
 ゼルフィスはそんなユーリィの昂ぶりと、それに呼応するように硬さを取り戻していく彼の肉棒を前にして、心を歓喜でうち震わせた。そしてその喜びのまま、彼女は体を動かして自分の膣口に肉棒の側面をあてがい、片手で頬を撫でながら彼に言った。
 
「ねえ、ユーリィ。もう、いいよね?」

 何を意味した言葉なのか、ユーリィは理解していた。理解したがゆえに、彼は渋い顔を見せた。
 
「俺で、いいのか?」
「えっ?」
「俺みたいな爺さんが相手で、本当にいいのか?」
「……ああ」

 ユーリィが何を心配しているのか、ゼルフィスはすぐに合点がいった。そして彼の不安を取り除くかのように、彼の頬にそっと手を添えていった。
 
「私は、あなたがいいの」
「俺が?」
「見た目も年齢も関係ない。私はあなたと繋がりたいの」

 ゼルフィスがユーリィに顔を近づける。真剣な眼差しでユーリィを見つめながら、熱っぽい声で続ける。
 
「嫌って言っても駄目だからね」
「……ははっ」

 ああ、やっぱり根っこはゼルフィスなんだな。そんなことを考えて、ユーリィは心が軽くなった。それから彼はゼルフィスの顔を優しく撫で、柔らかい口調で言った。
 
「わかったよ。俺も腹括る」
「いいの? 私と一つになってくれるの?」
「ああ。ていうか、その、俺もお前のこと好きだったし。だからそんな嫌でもないっていうか……」

 そこまで言って、ユーリィが恥ずかしげに頬を掻く。唐突に告白されたゼルフィスは一瞬呆気に取られ、そして言葉の意味を理解して顔を真っ赤にし、最後により一層幸せに満ちただらしない表情を見せる。
 
「じゃ、じゃあ、いいよね? 合体していいよねっ?」

 そして喜びのままに息を乱しながら、ゼルフィスがユーリィに問いかける。ユーリィは静かな顔で頷き、それを見たゼルフィスはさらに顔を破顔させつつ腰を持ち上げた。
 
「じゃあ、行くよ?」

 ユーリィが再度頷く。ゼルフィスは一旦動きを止め、そこから一気に腰を落とす。
 そそり立った肉棒が深々と膣に突き刺さる。処女膜が引き裂かれ、ゼルフィスが大口を開けて声にならない叫びをあげる。
 
「あ……がっ……!」
「だ、大丈夫か!?」

 明らかに苦悶の表情を浮かべるゼルフィスを見て、老いたユーリィが不安そうに言葉をかける。彼の頭の中は悦楽よりも不安で満ち満ちていた。
 そんなユーリィの頬に、ゼルフィスがそっと手を添える。
 
「へ、へーき……へーきぃ……♪」

 次いでゼルフィスがおとがいを下げ、ユーリィを見つめる。その顔は茹蛸のように真っ赤になり、両の瞳からはぼろぼろと涙が零れ落ちていた。
 
「痛い、けど……とっても嬉しいよ……? だって、ユーリィと繋がれたんだ、から……っ」

 彼女の表情は痛みと悦びでぐしゃぐしゃに崩れていた。生前の凛々しさなど欠片も無い、反則的なほどに可愛らしく煽情的な顔だった。
 それを見たユーリィは、自分の中で理性の箍が外れていくのを自覚した。よろよろと両腕を持ち上げ、ゼルフィスのたるんだ脇腹をがっしり掴む。
 
「えっ、なに? なにすんの?」
「そんな顔されたら、俺だって我慢できないよ」
「それって」

 ユーリィの言葉にゼルフィスが短く問い返す。それ以上の言葉は不要だった。
 彼女はそれだけで、彼が今何をしたがっているかをすぐに理解した。
 
「いいよ」

 だからゼルフィスは、次の言葉を言い出せずにしかめ面を浮かべていたユーリィに、短くそう告げた。全てを許すその言葉を聞いて、ユーリィは思わず彼女の顔を見つめた。
 愛する男の顔を見ながら、ゼルフィスが小さく首を縦に振る。
 
「好きなだけ、滅茶苦茶にして、いいからね? わたしのこと、いっぱい、いぢめて?」
「――!」

 それがトドメになった。ユーリィはドラゴンにのしかかられた体勢から必死に腰を振り、膣肉を抉るように己の肉棒を突き上げていった。
 すぐに肉のぶつかる音に混じって、水の跳ねる音が響き始める。ゼルフィスの膣内は既にとろとろに蕩けていた。
 気を緩めればすぐにでも射精してしまいそうなほどに、彼女の中は柔らかかった。
 
「あン! あン! やぁん! もっと、もっろ、ちゅいてぇぇぇっ!」

 ゼルフィスの心も完全に溶かされていた。かつてあった威厳もプライドもかなぐり捨て、一匹のメストカゲと化したドラゴンゾンビが、涙と涎をまき散らしながら声高に叫んでいく。全身汗まみれになり、舌を突き出して無様な表情を浮かべ、愛する男の剛直を体内に受け入れていく。
 反り返ったカリ首が肉襞を擦る。肉壺と化した膣内が優しく肉棒を抱き締める。
 接合部から溢れ出す快感が、二人を等しく絶頂へ導いていく。
 
「ゼルフィス、ゼルフィス! 俺、もうイク! イキそう……!」
「わたひ、わたひぃも、イク……! イっちゃう、よぉぉっ!」

 二人の心がシンクロする。互いの精神が絡み合い、共に高みへ昇っていく。
 ユーリィが思い切り腰を突き上げる。亀頭の先端が子宮口にぶつかる。
 二人の頭に電流が走る。
 
「ぎっ――」

 直後、雄と雌が咆哮をあげる。知性の欠片も無い、本能の雄叫び。
 白濁液が膣を汚す。生臭い精臭が鼻を衝き、子種汁が子宮を満たす。
 全身を犯し尽くされ、ドラゴンの心が歓喜で満たされる。
 
「ひいいぃぃぃん! はいってりゅ、はいってりゅぅ♪ きぼぢいいいぃぃぃん♪」
「ゼルフィス! ああっ、ゼルフィスっ!」

 もっとほしいと子宮がねだり、膣肉が肉棒を締め上げる。食いちぎらんほどに剛直が締め上げられ、陰嚢に残っていた分を残さず搾り上げられる。
 魂まで吸われてしまうかのような強烈な快楽。体が軽くなっていく感覚を受け、歴戦の勇士が情けない悲鳴を上げる。
 
「や、やめろ、もう限界、まだ出るうぅっ!」
「もっろ、もっろちょうらい! ゆーりぃのぉ、あかちゃんじるぅ、どぴゅどぴゅちょおらぁい!」
「ひ、ひいいぃぃぃぃん!」
「あはっ♪ また、またきたぁっ! せーえきぃ、どぷどぷぅ、きちゃあああぁぁぁん♪」
 
 愛と悦びに満ちた二匹の絶叫は、その後も止まることなく続いた。
 文字通り枯れ果てるまで、彼らの叫びは止まらなかったのであった。
 
 
 
 
「……満足したか?」
「……うん。おなかいっぱぁい……♪」

 二人が正気に戻ったのは、それから十分後のことだった。この十分間、二人は精根尽き果てるまで互いの肉を貪りあった。
 もう指一本動かせなかった。しかし疲れは感じなかった。それどころか、ユーリィは胸の奥から活力が湧き上がってくるのさえ感じていた。
 
「いっぱいしちゃったね」
「ああ。もうどこもドロドロだ。こりゃ掃除するのが大変だな」
「ユーリィって、結構庶民くさいところあるよね」
「余計なお世話だよ」
 
 全裸になって横並びに寝転んだ人間とドラゴンは、今や心地よい気怠さと、愛液と精液の混ざり合った白濁液に全身を包まれた格好になっていた。そして彼らだけでなくその周りもまた真っ白に汚されており、二人がこれまでどれだけ凄絶な交わりを行ったのかを言外に示していた。
 
「ありがと、ユーリィ」

 そうして二人仲良く事後の余韻に浸っていると、唐突にゼルフィスが声をかけてきた。ユーリィが首だけを動かして彼女の方へ視線を向けると、そのゼルフィスと視線が交錯した。
 久方ぶりに再会した白濁まみれの盟友は、とても穏やかな表情を浮かべていた。
 
「私の気持ちに、応えてくれて」
「気にするなよ」

 ドラゴンの言葉に老人が答える。彼の言葉もまた、優しさと暖かさに満ちていた。
 それ以上の言葉は必要なかった。
 
「俺の方こそ、ごめんな。気持ち伝えるの、遅くなって」
「ううん。もういいの。こうして繋がれたんだから」
 
 ゼルフィスが――プライドの鎧を脱ぎ捨てたドラゴンゾンビが、大好きな男の顔を見ながらにっこりと微笑む。それを見たユーリィも同じように笑みをこぼし、さりげなく彼女の元へ手を伸ばす。
 ゼルフィスもそれに応じて、彼の手を優しく握りしめる。二人で指を絡め合い、互いの手を堅く握り合う。
 
「愛してるわ、ユーリィ」
「俺も愛してる、ゼルフィス」
「……ふふっ」
「はははっ」
 
 ここに至って、二人はようやく互いの気持ちを知ることが出来た。
 真の意味で、二人は一つになれたのだ。
 
「じゃあ、第二ラウンドね」
「……えっ?」

 しかし両者の間には、まだ認識や価値観の点において埋めがたい溝があった。
 少なくともユーリィは、今のゼルフィスの性欲に関して全くの無知であった。
 
「私ね、ついさっき復活したばっかりで、お腹ペコペコなの。だからこれから、ユーリィのおちんちんいっぱい食べさせてもらうからね♪」
「ふ、普通の飯じゃ駄目なのか?」
「だーめ♪ 愛も魔力も、精液じゃないと満たされないの♪」
「マジかよ」
「大マジだよー♪ おかわり、いただきまーす♪」

 そう言いながら、ゼルフィスがユーリィの上にのしかかってくる。
 
「おい! ちょ、やめろ!」
「やめませーん♪ 今まで散々私を焦らしてきたユーリィへの罰ゲームでーす♪」
「おまえ、いい加減に……!」
 
 相手の了承も得ない、一方的なマウントポジション。その後ユーリィと、馬乗りになったゼルフィスが再び視線を交わす。
 
「駄目だよ。じっとしてて。全部私に任せてくれればいいんだから……」
「ゼルフィス……」
 
 ゼルフィスは残忍なほど淫蕩な笑みを浮かべ、それを見上げるユーリィは額から脂汗を流した。
 
「今までずっとお預け食らってたんだから、その分はきっちりいただかせてもらうんだからね。覚悟してよね、ユーリィ♪」

 そしてゼルフィスが白い歯を見せながらにっこり笑う。それは太陽のような眩い笑みだった。
 卑怯だ。ユーリィはすぐにそう思った。心が快楽への期待に呆気なく膝を折る。
 
「ずるいよお前」
 
 強張った顔つきがほぐれる。体の力を抜き、ため息をついてから彼女に言い放つ。
 
「そんな顔されて、断れるわけないだろ」
「もしかして、無理矢理されるのは嫌い?」
「……お前にだったら、なにされてもいい」
「えっ」

 ゼルフィスが一瞬虚を突かれた顔を見せる。ユーリィはそれ以上何も言わずにそっぽを向く。
 
「やだ、かっこいい……ますます好きになっちゃいそう……!」
 
 しかしその後すぐに、ゼルフィスがその顔を再び淫猥な笑みで満たしていく。ユーリィとしては一発反撃したかっただけであるが、結果的には火に油を注ぐ格好になってしまった。
 
「じゃあ、お望み通り、めちゃくちゃにしてあげるからね……♪」
「は、ははは……」

 それに気づいた時には既に手遅れだった。完全にエンジンのかかったドラゴンゾンビを前にして、ユーリィは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
 
「お手柔らかにな?」
「うん! 任せて!」

 一応注文はつけておく。ゼルフィスも快くそれに応じる。
 次の瞬間、間を置かずにゼルフィスの膣がユーリィの肉棒を飲み込んでいく。
 
「ぐふっ、がああっ……!」
「ああン♪ やっぱり、ユーリィのおちんちん、おいしいぃぃん♪」
「も、もうちょっと、緩めてくれ……!」
「やーだ♪ いっぱい味わいたいから、おまんこもーっと締めてあげる♪ それ、ぎゅーっ、ぎゅーっ♪」
「あ、あああああああぁぁぁぁッ!」




 こうして老騎士とゾンビ竜の新たな門出は、一週間耐久白濁マラソンから始まったのだった。
17/02/13 19:34更新 / 黒尻尾

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