うちのメイドはちびぬれおなご あるいは 這いよれ!白蛇さん
ざしゅっ、教団の騎士の剣が僕の体に振り下ろされる。
「大丈夫かっ。」
近くのデュラハンが近づいてくるが他の騎士が横合いから切りかかる。
その時、かすれゆく意識の中で思ってもみなかった光景を見た。
「冒涜的なM24!」
じゃがいも潰しのようなものが投げ込まれると、
爆発によって数人の騎士が吹き飛ばされていく。
「何て事をしやがる、解っているのかこいつらは魔物なんだぞ。」
「たしかに彼女達は人間じゃありません。だが、彼女達は人を愛することができます。そして、愛する者のために戦うことができるのです!信じる理由ならそれで十分です!」
「…貴様は一体……」
「通りすがりのヨグ子です。覚えておきなさい。変身!」
そう言うとヨグ子と名乗った女性は見た事の無い鎧の様なものに身を包み
教団の騎士達と戦い始めた。そして僕の意識は闇へと落ちて行った。
「ああ、夢か。」
つい、昼食後にうとうとしてしまったらしい。最近この夢をよく見る。
半年ほど前大陸に用事で出かけた時、親魔物国と反魔物国の戦争に
巻き込まれ大怪我をしてしまった。その時ヨグ子さんという女性が現れてみんなを助けてくれたらしい。らしいと言うのは意識を失ってしまったから。
重傷の僕のためにわざわざ自分の血を輸血してくれたとさえいう。でも気が付いた時にはもうヨグ子さんはいなかった。
お礼ぐらいは言っておきたかったと思う。
身体が治ってから、なぜか知らないはずのことが解ったり、牛乳を飲んでもお腹を壊さなくなったり、魚の内臓を食べるのが平気になったりしたが、この事とはきっと関係ないのだろう。
とんとん。玄関の戸を叩く音がする。
「宅急便。時間指定で。」
最近、黒いネコマタが創めた運送サービスだ。
玄関の戸を開けるとイグニスが立っていた。一般的なイグニスより少々胸が残念だったが。
「骨まであったまりたい?」
「うぉーっ、あっちぃーっ!って心を読まないでくれます。」
「分かったからここに印鑑かサイン。」
そう言って、伝票とダンボール箱を出してきた。アマゾネス通販のものだ。そこそこ重かった。
「はい、これでいい?」
伝票にサインをすると。
「うん、毎度。」
そう言って帰って行った。
「よっこいしょ。」
居間に箱を持ち込んでとりあえず開けてみようとする。
「何も頼んだりしなかったはずだけど。」
疑問を持ちながら開封していくと。
「ボクと契約してご主人様になってよ。」
ばたん。慌てて閉める。い、いまのは何だったんだ。白い淫獣ではなかったようだが。
気を取り直して、今度はそっと用心しながら開けてみると
中には女の子が入っていた。
背丈は魔女ぐらい、ネコマタがよく着ているような着物を着て、ヘッドドレスとエプロンをしている。いわゆる和風メイドの姿だ。霧雨にでも遇ったかのように少し濡れている。
女の子は箱から出てくると。
「こんにちは!こんばんは!コマンタレヴー!いつもニコニコあなたの隣に這い寄るスライム、ぬれおなごです。」
なんとも怪しげな挨拶をした。
「………」
「あの…、聞こえてますよね…?」
「う、うん聞こえているけど。そ、その挨拶は一体?」
「這いよる混沌さんにこう挨拶するのがいいと教えてもらったんです。」
ちびぬれおなごさんは改造ぬれおなごである。
彼女を改造した這いよる混沌は異世界の邪神である。
ちびぬれおなごさんはご主人様の幸福のために戦うのだ。
「……な、なに今のナレーション。か、改造っていったい……」
「三ヶ月ほど前の雨の日のことを憶えていますか。」
「ちょうど大陸から帰ってきた日が雨だったね。久しぶりに故郷に帰って懐かしかった。ちょっと人恋しくなったのか、柄にもなく雨の中で濡れている女の人に傘を渡して家に帰って来たのを憶えているよ。」
「あの時傘をもらったのが私です。」
「え、でもあの女の人はもっと背の高い大人の女性だったけど。」
「はい、あの時はまだ普通のぬれおなごでした。もっとも家事の下手なぬれおなごは普通じゃないかもしれませんが。ひと目惚れしてぜひ夫になってもらおうと思ったのですが、家事が下手なことを悩んでいたんです。そうしたら這いよる混沌が現れて、家事が上手くなりたくないか、ともちかけてきたんです。」
「それって随分怪しい勧誘に思えるけど、普通断るんじゃ。」
「ええ普通はそうかもしれません、でもあの時の私は思いつめていて承諾したんです。異世界の南極の氷の下から手に入れた、大昔の優秀なスライムの細胞を移植して、その能力を手に入れて愛する人に喜ばれたいが、上手くいくか解らないので、より親和性の高いぬれおなごの身体で試してみてデータを取りたい、ということでした。魔物娘として、愛する人のためにと言われると、ますます断り辛くなって、私の身体に這いよる混沌とそのスライムの細胞を移植したんです。」
「それで小さくなってしまったと。」
「はい、家事能力などを継承することには成功したんです。でも定着する時にたくさんエネルギーが必要で、そのために大きな身体を維持できなくなってしまいました。また普通のぬれおなごほど表面に水分が現れなくなりました。」
「這いよる混沌的にはどうだったの。」
「失敗らしかったです。自分に移植するとただ小さくなるだけでなく、
シニカルでかわいくない『ちびニャル子ちゃん』に
なってしまうらしかったです。」
「……えっと、フラッシュアニメでなくなってよかったんじゃ。」(SAN期前でした)
「恋する混沌としては視聴率より愛する人のハートのほうが大切らしいです。」
「まあそうだろうねぇ。」
「そんなわけでどうかここに置いて下さい。夫になれとまではすぐには言いません。せめてメイドとして主人になってください。」
「いきなりそんなことを言われても………」
とんとん、また玄関の戸を叩く音がする。
「今日は多いな。はい、どなたですか。」
かちゃっ、戸を開けて来客者を確かめると。
「ボクと契約して旦那様になってよ。」
ばたん。今度のは何だ。白かった、目が赤かった、尻尾もあったようだが。
かしゃ、外来者が自分で戸を開ける。しまった、鍵は掛けなかった。九Bが現れるかと身構えたが、現れたのは美しい女性だった。
「こんにちは!こんばんは!コマンタレヴー!いつもニコニコあなたの隣に這い寄るラミア、白蛇です。」
「………流行ってるんですか、その挨拶。」
「あら、この挨拶をご存知ですの。通ですね。」
通とか言われてしまった。なんなんだいったい。
「申し遅れました、わたくし近くの神社にかつて住んでおりました
白蛇です。どうかわたくしの夫になって下さい。」
「ずるいです、その方は私のご主人様になってもらうんです。」
「あら、あなたは?」
「ぬれおなごです。わけあって小さくなってしまいましたが。名前は特にありません。這いよる混沌は、ちびぬれおなごさんと呼んでいました。」
「わたくしも特に名乗る名はありませんでした。この辺りに白蛇はわたくしだけでしたので白蛇さんともっぱら呼ばれておりました。もっとも反魔物国の人の中には、親魔物国の白いヤツとか白い悪魔とか呼ぶ人もいましたが。」
「いきなり物騒になりましたね。」
「もっとも初めから白い悪魔なんて呼ばれてはいませんでしたが。
最近の大きな大陸の戦争で大怪我をした時、ヨグ子さんという親切な方に見たことのない治療をしてもらいまして、なんでも友人のシュブ子さんとアザ子さんの細胞から作った万能細胞で、傷口を塞ぎ、損傷した臓器を回復させるというものでした。そのあとなんだかとっても強くなってしまい、そんなふうに呼ばれるようになりました。まわりの親しい人の中には性格が変わったとか言う人もなぜかいましたが。」
「「……………」」
ヨグ子さん、あなたは一体。
「ところであなたとは会ったことが無いように思うのですが、
人違いではありませんか。」
「いえ、あなたで間違いありません。先日神社にお参りされましたよね。」
「この近くの神社ですね、子供の頃よくそこで遊びましたが今は随分荒れ果てていて見ていて悲しくなりました。」
「実はわたくし前々からそこに住んでいたのですが、大陸でラミア属の大きな会合がありまして、帰ってみればご覧の有様だったわけです。」
「それで戦争に関わったのですね。神社も戦争も災難でしたね。」
「ええ、特に神社は居ない間の事でしたので何も出来なかったのがつらいですわ。何でも野盗が住処にした上に捕り物で大立ち回りが行われた所為で、
酷く破損してしまったと聞きました。」
「ご愁傷様です。でも僕とは関係ないようですが。」
「もはやまともに住むことが出来なくなっていて途方に暮れていた処、お参りに来られた貴方の姿を見て大層気に入ってしまい、ぜひ夫になっていただこうとこうして馳せ参じて参りました。そう、いわばフラグが立ったのですわ。」
お参りしただけでフラグを立てられても………。
「そんな困ります、その方は私のご主人様なんです。」
「あら、あなたまだ居たの。この方はわたくしの夫なんですから。」
「いや、二人とも勝手に決めないで。」
「仕方ありません、実力行使です。わたくしのこの手が光って唸る、ハートを掴めと轟き叫ぶ、必殺!嫉妬の炎!!」
「ああっ、卑怯ですぅ。」
彼女の手から青白い炎が放たれ僕の胸に吸い込まれて………いかずに、体の表面で拡散して消えてしまった。
「そんな……あり得ませんわ……………これは、まさかムスコニウム!」
ムスコニウム、それは邪神、魔物を強化魅了する謎の物質である。
この物質を体内で生み出す男性は邪神、魔物に対して、
非常に高い耐性を持つと言われている。
民明書房刊「現代魔物のウソ知識」より抜粋
今の解説はなんなんだ。僕の身体にそんな物質があるのか。
「ムスコニウム保有者では迂闊な事はできませんわ。」
「あの、実は提案があるのですが。」
「なに。言って御覧なさい。」
「私達、二人のご主人様になっていただくのはどうでしょう。」
「……………この際仕方ありませんわ。そうする事に致しましょう。」
な、なに二人で勝手に決めてるの。に、にじり寄って来ないで!
ああ、おぞましくも冒涜的な様子で這いうねる、
白い蛇の体が僕の足に絡みつき、
名状し難い不定形に揺らぐ粘膜が身体を包み込んでいく。
ああもうだめだこれでおわりだくりかえすこのいえをみだしてはならない
ぼくのしゅきがだれかのめにふれることをねがって
手記はここで途切れている
「とはならない!ていっ!!」
昼食に使った箸を二人に突き刺す。
「きゃーっ。」「いたい、いたい、いたい、いたい。」
「ううっ、お、おねえちゃんが言っていました。刃物を握る手で人を幸せに出来るのは料理人だけだと。」
「刃物じゃなくて箸だけどこの場合似た様なものか。」
(よいこのみなさんへ、はしでひとをつくのはとてもきけんです、
ぜったいにやめましょう)
「迂闊だったわ、ムスコニウム保有者は邪神、魔物に対して防御力無視、
威力強化の攻撃ができるのでしたわ。」
「お前達、こんなことをするならこの家から今すぐ出て行ってもらう。」
「そんな、わたくしの神社はもう住めない状態なんです。」
「私達ぬれおなごは基本的に帰る家がないんです。」
「「どうかここに置いて下さい。」」
並々ならぬ決意の表情で訴えてくる。ここで断ると相打ち覚悟でまた襲われそうだ。
本気で襲われたらどこまで抵抗できるか……
「解った、行く当てができるまでここに居ていいから。
でもまた襲ったら追い出すからね。」
「「はい、解りました。」」
((勿論最終的にはここに永久就職です))
胡乱な思いを抱いて居そうだがとにかく落ち着いたようだ。
「ところでご主人様のお名前をまだ聞いていなかったのですが教えていただけませんか。」
「……えは、……いや、いい。これからもご主人様と呼んでほしい。」
『名前を言いたがらないなんて。』
『余程変わった名前なんでしょうか。』
「わたくしご主人様の名前がキョンとかでも気にしませんわ。」
「そうです、ああああとかでも大丈夫です。」
「ひとの名前を一体なんだと……」
「ひょっとして名前を言ってはいけないあの人なんですの。」
「ご主人様がヴォルデモート卿でも私の愛は変わりません。」
「解った解った。言うから言うから。」
「どんな名前でもわたくしは態度を変えたりいたしません。」
「私も同じです。」
「承知した、実は僕の名前は<蓮太>だ。」
「「…………………………」」
だ、だから嫌だったんだ。
「そろそろ夕食の支度を始めますわご主人様。」
「あ、私も手伝います。」
こうして我が家に二人の住人が増えた。
「大丈夫かっ。」
近くのデュラハンが近づいてくるが他の騎士が横合いから切りかかる。
その時、かすれゆく意識の中で思ってもみなかった光景を見た。
「冒涜的なM24!」
じゃがいも潰しのようなものが投げ込まれると、
爆発によって数人の騎士が吹き飛ばされていく。
「何て事をしやがる、解っているのかこいつらは魔物なんだぞ。」
「たしかに彼女達は人間じゃありません。だが、彼女達は人を愛することができます。そして、愛する者のために戦うことができるのです!信じる理由ならそれで十分です!」
「…貴様は一体……」
「通りすがりのヨグ子です。覚えておきなさい。変身!」
そう言うとヨグ子と名乗った女性は見た事の無い鎧の様なものに身を包み
教団の騎士達と戦い始めた。そして僕の意識は闇へと落ちて行った。
「ああ、夢か。」
つい、昼食後にうとうとしてしまったらしい。最近この夢をよく見る。
半年ほど前大陸に用事で出かけた時、親魔物国と反魔物国の戦争に
巻き込まれ大怪我をしてしまった。その時ヨグ子さんという女性が現れてみんなを助けてくれたらしい。らしいと言うのは意識を失ってしまったから。
重傷の僕のためにわざわざ自分の血を輸血してくれたとさえいう。でも気が付いた時にはもうヨグ子さんはいなかった。
お礼ぐらいは言っておきたかったと思う。
身体が治ってから、なぜか知らないはずのことが解ったり、牛乳を飲んでもお腹を壊さなくなったり、魚の内臓を食べるのが平気になったりしたが、この事とはきっと関係ないのだろう。
とんとん。玄関の戸を叩く音がする。
「宅急便。時間指定で。」
最近、黒いネコマタが創めた運送サービスだ。
玄関の戸を開けるとイグニスが立っていた。一般的なイグニスより少々胸が残念だったが。
「骨まであったまりたい?」
「うぉーっ、あっちぃーっ!って心を読まないでくれます。」
「分かったからここに印鑑かサイン。」
そう言って、伝票とダンボール箱を出してきた。アマゾネス通販のものだ。そこそこ重かった。
「はい、これでいい?」
伝票にサインをすると。
「うん、毎度。」
そう言って帰って行った。
「よっこいしょ。」
居間に箱を持ち込んでとりあえず開けてみようとする。
「何も頼んだりしなかったはずだけど。」
疑問を持ちながら開封していくと。
「ボクと契約してご主人様になってよ。」
ばたん。慌てて閉める。い、いまのは何だったんだ。白い淫獣ではなかったようだが。
気を取り直して、今度はそっと用心しながら開けてみると
中には女の子が入っていた。
背丈は魔女ぐらい、ネコマタがよく着ているような着物を着て、ヘッドドレスとエプロンをしている。いわゆる和風メイドの姿だ。霧雨にでも遇ったかのように少し濡れている。
女の子は箱から出てくると。
「こんにちは!こんばんは!コマンタレヴー!いつもニコニコあなたの隣に這い寄るスライム、ぬれおなごです。」
なんとも怪しげな挨拶をした。
「………」
「あの…、聞こえてますよね…?」
「う、うん聞こえているけど。そ、その挨拶は一体?」
「這いよる混沌さんにこう挨拶するのがいいと教えてもらったんです。」
ちびぬれおなごさんは改造ぬれおなごである。
彼女を改造した這いよる混沌は異世界の邪神である。
ちびぬれおなごさんはご主人様の幸福のために戦うのだ。
「……な、なに今のナレーション。か、改造っていったい……」
「三ヶ月ほど前の雨の日のことを憶えていますか。」
「ちょうど大陸から帰ってきた日が雨だったね。久しぶりに故郷に帰って懐かしかった。ちょっと人恋しくなったのか、柄にもなく雨の中で濡れている女の人に傘を渡して家に帰って来たのを憶えているよ。」
「あの時傘をもらったのが私です。」
「え、でもあの女の人はもっと背の高い大人の女性だったけど。」
「はい、あの時はまだ普通のぬれおなごでした。もっとも家事の下手なぬれおなごは普通じゃないかもしれませんが。ひと目惚れしてぜひ夫になってもらおうと思ったのですが、家事が下手なことを悩んでいたんです。そうしたら這いよる混沌が現れて、家事が上手くなりたくないか、ともちかけてきたんです。」
「それって随分怪しい勧誘に思えるけど、普通断るんじゃ。」
「ええ普通はそうかもしれません、でもあの時の私は思いつめていて承諾したんです。異世界の南極の氷の下から手に入れた、大昔の優秀なスライムの細胞を移植して、その能力を手に入れて愛する人に喜ばれたいが、上手くいくか解らないので、より親和性の高いぬれおなごの身体で試してみてデータを取りたい、ということでした。魔物娘として、愛する人のためにと言われると、ますます断り辛くなって、私の身体に這いよる混沌とそのスライムの細胞を移植したんです。」
「それで小さくなってしまったと。」
「はい、家事能力などを継承することには成功したんです。でも定着する時にたくさんエネルギーが必要で、そのために大きな身体を維持できなくなってしまいました。また普通のぬれおなごほど表面に水分が現れなくなりました。」
「這いよる混沌的にはどうだったの。」
「失敗らしかったです。自分に移植するとただ小さくなるだけでなく、
シニカルでかわいくない『ちびニャル子ちゃん』に
なってしまうらしかったです。」
「……えっと、フラッシュアニメでなくなってよかったんじゃ。」(SAN期前でした)
「恋する混沌としては視聴率より愛する人のハートのほうが大切らしいです。」
「まあそうだろうねぇ。」
「そんなわけでどうかここに置いて下さい。夫になれとまではすぐには言いません。せめてメイドとして主人になってください。」
「いきなりそんなことを言われても………」
とんとん、また玄関の戸を叩く音がする。
「今日は多いな。はい、どなたですか。」
かちゃっ、戸を開けて来客者を確かめると。
「ボクと契約して旦那様になってよ。」
ばたん。今度のは何だ。白かった、目が赤かった、尻尾もあったようだが。
かしゃ、外来者が自分で戸を開ける。しまった、鍵は掛けなかった。九Bが現れるかと身構えたが、現れたのは美しい女性だった。
「こんにちは!こんばんは!コマンタレヴー!いつもニコニコあなたの隣に這い寄るラミア、白蛇です。」
「………流行ってるんですか、その挨拶。」
「あら、この挨拶をご存知ですの。通ですね。」
通とか言われてしまった。なんなんだいったい。
「申し遅れました、わたくし近くの神社にかつて住んでおりました
白蛇です。どうかわたくしの夫になって下さい。」
「ずるいです、その方は私のご主人様になってもらうんです。」
「あら、あなたは?」
「ぬれおなごです。わけあって小さくなってしまいましたが。名前は特にありません。這いよる混沌は、ちびぬれおなごさんと呼んでいました。」
「わたくしも特に名乗る名はありませんでした。この辺りに白蛇はわたくしだけでしたので白蛇さんともっぱら呼ばれておりました。もっとも反魔物国の人の中には、親魔物国の白いヤツとか白い悪魔とか呼ぶ人もいましたが。」
「いきなり物騒になりましたね。」
「もっとも初めから白い悪魔なんて呼ばれてはいませんでしたが。
最近の大きな大陸の戦争で大怪我をした時、ヨグ子さんという親切な方に見たことのない治療をしてもらいまして、なんでも友人のシュブ子さんとアザ子さんの細胞から作った万能細胞で、傷口を塞ぎ、損傷した臓器を回復させるというものでした。そのあとなんだかとっても強くなってしまい、そんなふうに呼ばれるようになりました。まわりの親しい人の中には性格が変わったとか言う人もなぜかいましたが。」
「「……………」」
ヨグ子さん、あなたは一体。
「ところであなたとは会ったことが無いように思うのですが、
人違いではありませんか。」
「いえ、あなたで間違いありません。先日神社にお参りされましたよね。」
「この近くの神社ですね、子供の頃よくそこで遊びましたが今は随分荒れ果てていて見ていて悲しくなりました。」
「実はわたくし前々からそこに住んでいたのですが、大陸でラミア属の大きな会合がありまして、帰ってみればご覧の有様だったわけです。」
「それで戦争に関わったのですね。神社も戦争も災難でしたね。」
「ええ、特に神社は居ない間の事でしたので何も出来なかったのがつらいですわ。何でも野盗が住処にした上に捕り物で大立ち回りが行われた所為で、
酷く破損してしまったと聞きました。」
「ご愁傷様です。でも僕とは関係ないようですが。」
「もはやまともに住むことが出来なくなっていて途方に暮れていた処、お参りに来られた貴方の姿を見て大層気に入ってしまい、ぜひ夫になっていただこうとこうして馳せ参じて参りました。そう、いわばフラグが立ったのですわ。」
お参りしただけでフラグを立てられても………。
「そんな困ります、その方は私のご主人様なんです。」
「あら、あなたまだ居たの。この方はわたくしの夫なんですから。」
「いや、二人とも勝手に決めないで。」
「仕方ありません、実力行使です。わたくしのこの手が光って唸る、ハートを掴めと轟き叫ぶ、必殺!嫉妬の炎!!」
「ああっ、卑怯ですぅ。」
彼女の手から青白い炎が放たれ僕の胸に吸い込まれて………いかずに、体の表面で拡散して消えてしまった。
「そんな……あり得ませんわ……………これは、まさかムスコニウム!」
ムスコニウム、それは邪神、魔物を強化魅了する謎の物質である。
この物質を体内で生み出す男性は邪神、魔物に対して、
非常に高い耐性を持つと言われている。
民明書房刊「現代魔物のウソ知識」より抜粋
今の解説はなんなんだ。僕の身体にそんな物質があるのか。
「ムスコニウム保有者では迂闊な事はできませんわ。」
「あの、実は提案があるのですが。」
「なに。言って御覧なさい。」
「私達、二人のご主人様になっていただくのはどうでしょう。」
「……………この際仕方ありませんわ。そうする事に致しましょう。」
な、なに二人で勝手に決めてるの。に、にじり寄って来ないで!
ああ、おぞましくも冒涜的な様子で這いうねる、
白い蛇の体が僕の足に絡みつき、
名状し難い不定形に揺らぐ粘膜が身体を包み込んでいく。
ああもうだめだこれでおわりだくりかえすこのいえをみだしてはならない
ぼくのしゅきがだれかのめにふれることをねがって
手記はここで途切れている
「とはならない!ていっ!!」
昼食に使った箸を二人に突き刺す。
「きゃーっ。」「いたい、いたい、いたい、いたい。」
「ううっ、お、おねえちゃんが言っていました。刃物を握る手で人を幸せに出来るのは料理人だけだと。」
「刃物じゃなくて箸だけどこの場合似た様なものか。」
(よいこのみなさんへ、はしでひとをつくのはとてもきけんです、
ぜったいにやめましょう)
「迂闊だったわ、ムスコニウム保有者は邪神、魔物に対して防御力無視、
威力強化の攻撃ができるのでしたわ。」
「お前達、こんなことをするならこの家から今すぐ出て行ってもらう。」
「そんな、わたくしの神社はもう住めない状態なんです。」
「私達ぬれおなごは基本的に帰る家がないんです。」
「「どうかここに置いて下さい。」」
並々ならぬ決意の表情で訴えてくる。ここで断ると相打ち覚悟でまた襲われそうだ。
本気で襲われたらどこまで抵抗できるか……
「解った、行く当てができるまでここに居ていいから。
でもまた襲ったら追い出すからね。」
「「はい、解りました。」」
((勿論最終的にはここに永久就職です))
胡乱な思いを抱いて居そうだがとにかく落ち着いたようだ。
「ところでご主人様のお名前をまだ聞いていなかったのですが教えていただけませんか。」
「……えは、……いや、いい。これからもご主人様と呼んでほしい。」
『名前を言いたがらないなんて。』
『余程変わった名前なんでしょうか。』
「わたくしご主人様の名前がキョンとかでも気にしませんわ。」
「そうです、ああああとかでも大丈夫です。」
「ひとの名前を一体なんだと……」
「ひょっとして名前を言ってはいけないあの人なんですの。」
「ご主人様がヴォルデモート卿でも私の愛は変わりません。」
「解った解った。言うから言うから。」
「どんな名前でもわたくしは態度を変えたりいたしません。」
「私も同じです。」
「承知した、実は僕の名前は<蓮太>だ。」
「「…………………………」」
だ、だから嫌だったんだ。
「そろそろ夕食の支度を始めますわご主人様。」
「あ、私も手伝います。」
こうして我が家に二人の住人が増えた。
13/01/15 20:08更新 / らいでん