連載小説
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仕掛けの発動と金貨兵の起動
Μ不思議の国・タマゴの里から純水の井戸へ向かう道Μ
Μ初太視点Μ


「純水の井戸?」
「タマゴの里から南に歩いておよそ八分、色とりどりの小さな花が咲いてるだけの場所にある小さな井戸、毎日の生活に必要な水をそこの井戸から汲んでいる。つまりぼく達マッドハッターにとっては大事な場所なんだ」
「で、その中に飛び込めば元いた世界に帰れるわけか」
「ただ飛び込んでも意味はないよ。専用のチケットを所持していないと駄目なんだ」
「そもそも井戸に飛び込むだけで帰れるのかよ」
「それが不思議の国クオリティさ、昔この里を守ってくれたフェイ一行も帰還の際にはそこを利用したらしいよ」

「紅茶に使う水ってことは媚薬成分が詰まってるんだろうな〜グヘヘヘヘ」
「へーくん、何いやらしいことを考えてるのよ、いやらしい!」

「ううん、井戸の水は媚薬どころか不純物が一切無い水なんだ」
「ショボーン」
「だからこそ普通の料理にも使えるし、媚薬入りの茶葉で注げば雑じり気無しの発情紅茶が出来上がる。つまりどんな料理にも応用出来ちゃう優れものさ」

「まどっち、井戸の水汲みってストローさん達がやってるの?」
「ううん、コルヌの両親が毎日みんなの分の水を汲みに行ってるよ。ただ今回は夫婦揃って出張で不在だったけどね」
「だから他の住人が代わりに水汲みに行ってたのね」
「細かいことは気にしなくていいよ」
「まぁ別にいいけど、それよりアタシ達が様子を見に行っていいの?」

「満知子、コルヌさんの華麗な勇姿が見れるいい機会なんだぜぇ?」
「いや、へーくんは単にエロありが見たいだけでしょ」
「流石満知子、わかってる〜」

「満知子の言う通りだ。わざわざ俺達まで井戸へ向かう必要は無いだろ?足手まといになるかもしれないし」
「大丈夫だよ初太、コルヌはフォーカードだよ。本気の恋愛以外なら例え矢が降ろうが旧時代の魔術を喰らおうが落ち着いて行動出来るんだ」
「そうなのか?」
「うん、些細なことで唖然としたり悲鳴をあげてたら、フォーカードは務まらないってコルヌが言ってた」
「ふーん……」

「そろそろ到着するよ」

奇妙な植物が生い茂る森を抜けると、そこは――



「どうだ、どうだ?俺のチンポ気持ちいいか!?」
「あんっ、あんっ、あはっ♪」

「出すぞ!出すぞ!」
「染めて、私の身体をあなたの色で染めてぇ♪」


男女が下半身丸出しで生殖する光景が広がっていた。

交わる兵士達の中心には、コルヌが討伐隊と戦っていた。

「いた、コルヌだ」

コルヌは兵士達の攻撃を華麗にかわしつつ、手袋から生やしたキノコを使って交わる男女の下に潜り込ませ、男女を横へごろり、と転がす。

それと同様に、別の男女も隣へ転がす。

「また移動させやがった」
「次はどんな仕掛けを発動させる気だ!?」

「あはっ曹はっ♪」ぱちゅん♪ぱちゅん♪

兵士達は周囲を見渡して、構えをとっているに対し、交わる者達は気にも止めず交わり続ける。

コルヌは何食わぬ顔でキノコを肩に乗せている。

「うん、確かにどんな状況でも動じないな」
「どうやら仕掛けの準備をしてたようだね」
「仕掛け?」
「今に判るよ」

ビュオオオオ

井戸の周りに突風が巻き起こる。
周囲は風が巻き起こり、花や草が舞い上がる。

だが舞い上がるのはそれだけでは無かった。

「クッキー?」

香ばしく焼き上げたクッキーも風で飛ばされていた。
近くにお茶会があったのだろうか?

兵士達はクッキーを剣や槍等の武器で払っている

「ケーキの次はクッキーか!」
「粉々に砕くなよ!クッキーの欠片が口に入るかもしれんぞ」

花弁やクッキーの他にも何かが飛んでいることに気づいた。

「袋?」

正方形の袋が飛んでいた。

袋が此方にも飛んできて、俺の足下に落ちる。

正確には正方形じゃなくやや縦長、中身があり柔らかく、触ると大小の塊が所々に入ってるのが判る。

どこかで見たような……確か似たような袋をお湯が入ったお鍋に入れて温めていた記憶が――

「きゃっ!!」

女性兵士の驚きに俺は顔を上げる。

女性の顔に、白くてどろどろしたモノが付着していた。
どうやら槍で袋を突き破った際に中身が顔に掛かったようだ。

「口の中がどろどろして、ざらざらしてるわ〜」

女性は最初は動揺していたが、やがて恍惚な表情を浮かべながら、顔中の白いソレを指で掬って口へと運ぶ。

「しょっぱ〜い。でもクセになる味だわ〜」

どう見ても

「もっと舐めた〜い」ペロペロ「ねぇあたしの顔に似たようなモノをぶっかけて〜」

シチューです。

「いただきま〜す」ドサッ「ああーん促

本当にありがとうございました。

「満知子、ねぶりの果肉入りシチューだぞ」
「強力媚薬入りなのね」
「今夜の晩飯にする?」
「お断りよ♪例えおかずでも」

「コルヌはあんな風に仕掛けを発動するための仕込みをしていたんだ」
「仕掛けって、ソーンファームで見た奴のことか?」
「ワープポイントの他にも、食べ物を出したり、媚薬の雨を降らせたり、とにかくこの国ではあらゆる場所に仕掛けがあって、主に男女同士の交わりから放たれる魔力によって発動するんだ」
「じゃあいきなり風が吹きはじめたことと、クッキーやレトルトパックが現れたのは、あの二組の男女が交わることで発動した仕掛けなのか?」
「うん、性交に限らず、深い口付けを交わすとか様々な方法があるけどね」

「また狂ってしまった!?」
「えわぁぁ〜」

次々と狂う仲間達に兵士達は叫び、中には発狂する者もいた。

「こいつらの出番か。起動せよ、我が兵士達」

とある男が銅貨と銀貨を投げると

甲冑の兵士へと変形した。

「貨兵を持ってたの!?」
「貨兵?」
「自警団のクラウンさんが所持してる主の命令に従う兵士だよ。まさかあんなに沢山持ってるなんて」

「銅貨兵、銀貨兵、命令だ、あの男女を絶頂させろ!」

甲冑の兵士達が金属音を鳴らしながらコルヌの方へと向かう。

「俺達も続けー!」
「もうどうにでもなれ」
「いぇぁぁぁ!」
「あああ!」


残りの兵士達も捨て身の攻撃に入る。
貨兵を起動した男とマントの少女を除いて。

ザババババ

突如、コルヌと兵士達の間に桃色のカーテンが敷かれた。

ザバッ
ドバッ
ビチョッ
ビシャッ

自棄になったか或いは咄嗟の制止が間に合わなかったのか

「うわっ、次々と媚薬の滝に突っ込んでるよ」
「発情一直線ね」

彼等はコルヌではなく、仲間同士で特攻、口付けやパイタッチ、交わりを始める。

一方、銅貨兵銀貨兵は何事も無かったように滝を潜り抜ける。

「あいつらは媚薬を浴びても平気なのか?」
「あれは人間でも魔物娘でもない人工物だから、誘惑や媚薬の類いは一切効かないんだ」
「それってコルヌにとっては不利じゃないのか?」
「大丈夫だよ、コルヌなら」

コルヌは左腕をつき出すと手首の辺りからキノコが生えてくる。笠の表面にもキノコが生えてきて

ガガガガ!

勢いよく連射。

「参ったわ、媚薬は平気だった兵士達がキノコの弾丸に押されているわ」
「おい、後ろから狙われてるぞ!」

銀貨兵の一体がコルヌの後ろをとる。

だがコルヌはすかさず、身体を回転させ

ズガン!

右腕から細長いキノコが勢いよく飛び出し、その衝撃で銀貨兵を吹っ飛ばす。

特撮物でヒーローが戦闘員を倒すかのように、貨兵達は倒れ、硬貨へと戻って行く。

「万策尽きたね、もう戦いなんてやめて、隣にいるマントの娘と気持ちいいことをしたほうがいいんじゃない?」

と、コルヌは降参を促すが

「ふん、今のはお前の力量を測るための囮だ」

男は金貨一枚を取りだし

「起動せよ、金貨兵!」

金貨が金色の兵士に変わる。
金貨兵の肩には『D-06』と刻まれている。

「奴の戦い方を理解したな?」

金貨兵は無言で頷く。

「ならば身ぐるみを剥がしてまでも奴からチケットを奪い取れ!」

金貨兵は構えをとり

シュンッ

コルヌの懐へと移動し

「速い!」

ザンッ

金色の剣でコルヌの腹を横一線。

「コルヌすぅぁぁぁん!」

平也は大げさに叫ぶが、コルヌの服の一部が切り落とされただけでお腹には傷一つ見当たらない。

「ふん、やはり傷はつかないか」
「魔界銀製だからね……」
「だが魔力は漏れ出してる筈だ。何度も斬ればやがて動けなくなるだろう。或いはその異質な格好を切り刻もうか?」
「君には男装娘を裸にしたい性癖があるんだね」
「……調子に乗りやがって、とっととそいつを仕留めろ!」

金貨兵は躊躇なく、コルヌに剣を降り下ろす。
コルヌはかろうじてキノコで受け止め、反撃に出るが……

「嘘だろ、コルヌさんが苦戦してる」
「参ったわ、あの金色の兵隊、身体を変形させてるわよ……」

平也と満知子は信じられないものを見ているかのような顔をしている。

確かに俺もびっくりしている。
先程の銅と銀の貨兵達は一定のパターンで動いていたのに対し、金の貨兵の動きはそれとは比べ物にならないくらい動く

まるで金貨兵自身に意志があるかのように。

「身体を変形させることで装甲を硬くしたり衝撃を外に流してるんだ」
「マドラ、あんな状況にも関わらず冷静だな……」
「当然のことだよ」

マドラはいつも通り微笑んで

「ぼくはコルヌが勝つって信じてるから」


▲コルヌ視点▲


「はっはっは、流石に勇者クラスの実力を持つ金貨兵には苦戦してるようだな」

ボクは高笑いしている男にキノコを振りかざす。

ガシッ

が、寸でのところにマント娘に止められる。

「ふーん、キミの方が骨がありそうだね。それに可愛いし」
「……」

とりあえず口説いてみるが、マント娘の表情は変わらない。

シュッ「おっと」ヒョィ

いつまでも敵に背中を向けている訳にはいかないので、後ろからの攻撃をかわし、一旦距離をとるために、男と金貨兵から離れる。

「ん?」

ゲシッ

足払いされ、バランスを崩す。

マント娘がボクの近くまで移動し、ボクを足払いした。

いつの間に?転送の魔力は感じられなかった筈……。

「金貨兵、腕を四本にして奴の両手両足を封じろ」

ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ

一瞬の隙をつかれ、ボクは金貨兵に四肢を掴まれた。

「さて、チケットは何処に隠したのかな?」

男は横からボクの服にナイフを入れ切り刻む。
ただの布切れとなった服が金貨兵の足下に落ちる。

ボクは拘束を解こうともがくが、金貨兵の握力でびくともしない。

「確か君たちは今の魔物は無闇に命を奪わないことは知ってるよね?」
「ああ、知ってるとも」
「じゃあ魔王様の目的も知ってるよね?」
「人間と魔物を一つの種族に統一することだろ?」
「そう、ボクにも魔王様の意志を大体把握しているよ」
「魔王と眷属である魔物達が魔力でリンクしてるからだそうだな」
「実は貨兵も名を刻んだ主の魔力とリンクするらしいんだ。それが金貨兵クラスになるとより顕著になる」
「何が言いたい?」
「キミはどんな想いでその金貨兵に自分の名前を刻んだの?」

「そんなの決まっている」



「命令通り動く忠実な兵士だ」



「ならその金貨兵はボクを倒すことは出来ない。ただ命令するだけなら、最強の戦闘員と変わらないから」

ドンッ!

ボクは胸の辺りからキノコを産み出し、金貨兵の胸に打ち込む。

「四肢の拘束だけじゃ足りなかったようだね」

ズドン!ズドドドン!

「地面からキノコが沢山生えてきただと?」

「ボクの服は特注品でね、ボクの意思で服の上からキノコを自由自在に生やせるのさ」



「例えそれが布切れ一枚でもね」



下からキノコの直撃を受けた金貨兵が崩れ、一枚の金貨へ戻る。

「そんな、俺の金貨兵が」ズンッ「アガアッ 何故だ? ナ ツ 」バタッ

マント娘が男を気絶させると、マントを脱ぎ捨てた。

「ふーん、まるでバフォメットみたいだね」

マントの中は布切れで隠した程度の服もといビキニ

シュッ!

「え?」

ボクのワイシャツが縦に引き裂かれた。

彼女の指には金属の爪、いやそれ以上に

「スピードを上げる高速魔術か、道理で転送の魔力は感じない筈だ。やっと本気モードかな?マント娘ちゃん」

「マント娘じゃない、S-72」

彼女が口を開く。

「脱出チケットはこのS-72が奪う」


▲続く▲
14/09/23 23:32更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ
クラウン「何?井戸に討伐隊がうろついている?しかもコルヌが一人で退治に行っただと?皆の衆、自警団総力を上げて応援に行くぞ!コルヌばかりにいい顔はさせられん」

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