連載小説
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義理の兄妹と吸血鬼の誘い
※ザントライユ城・壁画の通路※
※シャンプ視点※


「待って、あたしはその娘に、ロザリーに招待状を渡しにきただけよ」

あたしは招待状を出して弁明するが、ハンターが細剣を収めず

「嘘をつけ、貴様らが着用する燕尾服が奴の仲間である証拠だ」
「仲間?ワイトのジュリーさんのことを言ってるの?」
「ワイト?ジュリー?とぼける気か!俺と妹の平穏な暮らしを奪うヴァンパイアはーー」



「待ちたまえ」



あたしとハンターの間に人影ーー鮮血の燕尾服を着用したヴァンパイアが割り込む。

「出たな我が宿敵、カミラ!」

因縁の宿敵に会ったかのように、ハンターが歯軋りをする。

(燕尾服……そうか、彼はこのヴァンパイアの事を言ってたんだ)

だが彼女はハンターを無視して、あたしの方を向く。

「巻き込んですまない、シャンプーハットの……そういえば名前を聞いて無かったな」
「シャンプです」
「改めて私の名はカミラ、種族はヴァンパイア、白百合の花園の園長をやっている」

「俺はリンス、シャンプの夫だ」

カミラはリンスを睨み

「じゃがいもの名を覚えるつもりは無い」

ヴァンパイア特有の見下した態度で吐き捨てた。

カミラは再度あたしの方を向くと数秒前とは打って変わって微笑む。

「気にしなくていい。女の子には優しく、野郎を見下してしまうのが私の性癖でね」


「お前達仲間では無いのか?」


ハンターが問う。

「いいえ、今日が初対面です」
「貴様の勘違いはいつも癪に触る。そうやって不思議の国に迷い込んだ女性や娯しく案内をする罪なきチェシャ猫を追い返したことか」

「ロザリーは俺の妹だ。誰にも渡しはしない」
「ロザリー……おおっ、私の愛しいロザリー」

カミラはロザリーに気付いたのか、瞬間移動のごとくロザリーの傍へ近寄る。

「しまった」

ハンターはあたしに向けていた細剣を慌ててカミラの方へ方向転換させる。

カミラは胸ポケットに手をいれ



「どうぞお嬢様」



ロザリーに一輪の百合の花を差し出した。



男装の麗人と幼き令嬢の美しい絵画を彷彿させた。



ドンッ



「くっ、またアプローチの妨害に失敗した」

ハンターは拳を壁に打ち付ける。

たかが花を一輪差し出すのを止められなかっただけでそこまで悔しがることだろうかと、あたしは思う。

確かに美しい作品ではあったけど。

「たかが花を差し出しただけじゃないか」

リンスが馬鹿正直に代弁してくれた。

一方のロザリーは、ふぅー、とため息をつき

「入園はお断りしますと言ったはずです」
「まだ間に合う。君はマリアンヌと同じ道を進むべきなんだ。だから私の花園に来たまえ」
「わたくしはお兄さまとの蜜月を堪能したいのです」
「今まで見てきた吸血鬼の中で、マリアンヌは私が求めていた吸血鬼の理想の姿。ああ……彼女達がデートを始めたときの感動は今でも鮮明に」タラ〜

「また涎が滴れてますよ」

ロザリーはハンカチを差し出す。

「ロザリーは優しいな」フキフキ
「別に」

二人の様子を見ていたハンターが拳を硬く握り締める。

「あの吸血鬼め、駄目な姉を演じることで妹の気を引くとは……おい!そこの水色の燕尾服をきた女」
「あたし?」
「手に持っている招待状を、寄越せっ!」

ハンターは招待状が入った封筒を強引にひったくって

「我が妹よ、招待状です」

紳士的な態度でロザリーに差し出した。

ロザリーは招待状を受け取り、封を開ける。

「招待状を主に直接差し出してポイント稼ぎか、ギリギリ」

今度はカミラが悔しがる。

「元々俺達が持ってきた招待状だぞ」

リンス、代弁お疲れ様。後でご褒美をあげるわ。

「……」

ロザリーは封筒の中身に目を通す。

「内容が大変気に入りました。パーティーに出席しますわ」
「了解しましたお嬢様。お着替えは?」
「お母様とお祖母様に外出する旨を伝えた後でも遅くはありません」

「ならば私も同行しよう」

と、カミラ

「お前は帰っていいぞ」

と、ハンター



「私はマリアンヌにも用があるのさ」
「本当はロザリーについて行きたいだけだろ」
「黙れ、このシスコンが」
「貴様こそ何度も妹にちょっかいを出しやがって」


「わたくしは構いませんよ」



鶴の一声が、その場を沈静した。



「……ロザリーが言うのなら」
「ありがとロザリーぃ、うるうる」

「では参りましょう、あっ」

ロザリーが思い出したかのようにあたし達に向かって

「シャンプさんとリンスさんと言いましたね。貴女達もご同行をお願い出来ますか?」


「も、勿論よ」
「ああ、そうだな」

「では参りましょう」


※城主通路※


「事が順調に進んで良かったな。シャンプ?」

「……あの、S-50さん」
「何だ?」
「つかぬことお聞きしますが、貴男はどのような目的で城へ潜入したのですか?」
「おいおいシャンプ。そりゃ吸血鬼退治に決まってるだろ、町長さんもヴァンパイアハンターと言ってたし」
「リンスはこう言ってますが、貴男の目的は吸血鬼退治とは違いますよね?」

「……そうだ、貴様の言うとおり、吸血鬼の城に住む幼い吸血鬼の噂を聞いた俺は、その吸血鬼ーーロザリーの兄になるため城へ潜入した」
「何でヴァンパイアハンターがそんな事を?」
「そもそも俺はヴァンパイアハンターではない」
「何だと……」





「妹ハンターだ」





「言ってる意味がわかりません……」

キノコによって活性化した脳でも彼の台詞は理解出来なかった。

ハンターは饒舌に語りだす

「妹は素晴らしい。批護欲を掻き立てる幼さ、愛くるしい天使と我儘な小悪魔のハイブリッド」

スピーチは続く

「普段は「お兄ちゃん、匂いが移るから私のシャツとお兄ちゃんの靴下を一緒に洗わないで!」と怒るが、夜寝静まっていると、寝室の扉を開けて「お兄ちゃん、一緒に寝ていい?」とベッドの中に潜り込むギャップが堪らないのだ」



「貴方、妹いないでしょ」
「アイツ妹いないの?だったら何であんなに語れるんだ?」

冷静に指摘するあたしに対し、リンスの目から鱗が落ちる。

「ロザリーちゃんに理想の妹像を押し付けるなんて」
「俺にとっては最高の誉め言葉だ。俺の名はS-50。同僚からは経緯を込めてシスコンと呼ばれている」

「シスコンって何だ?」
「姉や妹に愛情を抱く人のことよ」
「へぇ〜」

「これで今回の事件の真相が解ったわ」
「ホントかシャンプ」
「ヴァンパイアハンターというのはジュリーさん達の早とちり。彼が城へ向かった目的は吸血鬼退治ではなくロザリーを自分の妹兼妻にすることだったのよ」

事実ジュリーさんの話では、彼は自分のことを『ハンター』と言っただけで対象までは明言していなかった。

「そこにカミラさんが介入したことで事態はより複雑に。ロザリーちゃんを勧誘する吸血鬼と彼女を守るハンターとの防衛戦が始まり、様子を見に来た人達をも巻き込んだわけ」
「何だかとんでもない話だなー」
「この国では頭の中にある常識は通じないわ」


コンコンコン


ロザリーは木製の扉を三回ノックする。


「お母様、ロザリーです。入りますよ」



返事が無い。



「お母様……?」

ロザリーは扉を開ける。





「ああんっ、あなたのオチンポがっ、私のしきゅーをついて、ついてるぅ!」
「きみのひだが、ちつが、うねうねうごいてるぅ、でそう、もうすぐでるかも!」

甲高い嬌声が部屋から漏れだした。

部屋に入るとヴァンパイアとその夫が素っ裸で交じりあっていた。遠くからでも精と魔力の匂いがはっきりとわかる。

「やだぁ、ひとりだけイっちゃうなんてずるいっ、まだイケそうにもないよ」
「だったら、ちをすっていいよ」
「やったー♪いただきまぁす」ガブッ♪チュゥゥゥ
「すわれてる、ちがすわれてるぅ、でるー!」

夫のオチンポから精液が大量に放出、妻の子宮から溢れだしている。

「ああ……ちが、せいえきが、ふたつのおくちをみたしてるぅぅ」

ヴァンパイアが涙を流しながら、口を真っ赤に、膣を真っ白に染め上げる。

よく見ればそのヴァンパイアはロザリーの面影がある。

「お母様、今日もお父様と淫らに交わってますね」

「あら、ロザリーぃ、このくににきてから、おっととのせっくすがすごくきもちがいいのを、なみだがとまらないくらいきもちいいのを」

「そんなに気持ちいいのですか、よしよし」

「ひゃうっ、ロザリーぃ、おっぱいをなでないでぇ、ぴくぴくしちゃう」
「ならもっと慰めてあげます」
「うーっ!」ビクンビクン
「イってしまわれましたねお母様、わたくしはパーティーに招待されたので、これからパーティーに行きますわ」
「そうなの〜あっでもあのひとがなんていうかぁ」

ロザリーは微笑みながら母親に言う。

「それなら心配いりませんわ。お祖母様は大分丸くなっておりますので」


※城主の部屋※


「お祖母様の部屋に到着ですよ」

鋼鉄製の扉が他の部屋とは違うことを表している。

「ロザリーちゃん、ノックもせず中へ入るの?」
「心配いりませんわ、お祖母様はデートの真っ最中ですので」

鋼鉄製の扉を扉をくぐり抜ける



そこは一面に広がる花畑だった。



「ここ城の中だよね?」

リンスが驚いている。

「カミラの粋な計らいですよ。太陽の下でデート出来るようにと」


「あらロザリー」
「ごきげんよう、お祖母様」

金髪に卵形の輪郭、ガーネットの色をした紅い釣り目が特徴のヴァンパイアがそこにいた。

「私はルネとデートよ」
「そうですか、ところでお祖母様、わたくしは街の子供達からパーティーに招待されたので参加しようと思います」

「何ですって!」

マリアンヌの口調が強くなった



が、それも一瞬のこと



「それは良かったわ」

彼女は一安心したかのような声色へと変化する。

「私の籠城が原因でロザリーまで孤立しているのかと心配していたのよ」

マリアンヌは優しい口調で紡ぐ。

一瞬だけ声がきつくなった事から、ついこの間までヒステリックな女性だったのだろう。



「マリアンヌ〜弁当持ってきたよ」



髪は銀色、細目で朱色の瞳を持つ、優しそうな女性がバスケットを持ってやってきた。

「あのヴァンパイアは?」
「わたくしのお祖父様のルネです」
「ヴァンパイアの仮装にしてはよく出来てるな。美しい女性にしか見えないぞ」
「仮装も何もお祖父様は立派な女性ですよ」
「へ?お祖父様なのに女性?」

リンスはこんらんしている。

「ルネは現魔王の代替により女性化した元オスのヴァンパイアだ」

カミラは補足しながらマリアンヌにフィルターを渡す。

「マリアンヌ。新しいスポットを持ってきたぞ」
「今度のデート場所は?」
「南国のリゾートだ」
「まぁ、太陽がギラギラと輝くのね」
「ところでルネとはどこまで進んだ?」

マリアンヌは照れながら

「この前、ルネとソフトキスをしたわ」
「まだ口付けなの?」
「だって私とルネは気が遠くなるくらい愛の薄い結婚生活を送っていたのよ。まずはカップルから始めなくちゃ」
「確かに一族が不思議の国の影響で次々と桃色に染まり、夫ともに寝室で交わりの日々を過ごして行く中、君とルネはただ交わるだけのメスにはならなかったな」
「私達はまだ愛を学んでいる最中だから……行きましょ、ルネ」

マリアンヌが夫に手を差し出し、夫は優しく握る

それはとてもぎこちなく

だけど愛を感じた。

いつか綺麗な花や熟した果実が実る、愛の種子を。


※挨拶終了※


「あのように二人きりの時間を邪魔されないよう、お祖母様は未だに銀貨兵の警備を解いていないのです」

「俺はてっきり城主夫妻は我を忘れてベッドに籠もったかと思ってた」
「愛の形は人それぞれよ」

あたしは見本となる二人を指す。



「あの夫妻は愛の種子を育ててる最中だ。咲かせるのは百合の花か、三種の果実が実る夫婦の木か。私としては前者であってほしいのだが」ジュルリッ


「俺には関係のない話だ。妹のやりたいことをやらせてあげるのが兄の役目」



「お祖母様から外出許可を貰いましたので、お兄さま、シャンプ夫妻にカミラさん、行きましょう」



「わたくしの誕生パーティーへ」


※続く※
14/05/19 21:17更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ
ドリルモールです。

 トリックストリート編第三話。

 ハンターの名前S-50とは、S=Sister、50=コン。つまりシスコンという意味です。

 次回は誕生日パーティー回。不思議の国なのでただのパーティーではありませんよ。

 ロザリー一家及びマリアンヌ夫妻は妄想ヶ原様の作品『彼女はゾンビですか』に登場する吸血鬼の一族です。妄想ヶ原様、許可をいただき誠にありがとうございます。修正等がございましたら感想欄にてお願いします。





キャラクター紹介
【名前】カミラ
【性別】女
【年齢】百歳以上
【種族】ヴァンパイア
【容姿】黄色のショートヘア+舞台上に立つ麗人のような顔つき+鮮血の燕尾服+図鑑のヴァンパイアの花飾りを百合の花にしたもの
【口調・口癖】台詞の最後に擬音を使い感情を表す
【能力・特技】女性が好意を抱くような仕草
【概要】
 不思議の国に住むヴァンパイア。
 『白百合の花園』の園長であり、秘書であるアリスのローラと共に、魔物娘及び人間の女性に教育を施している。

 親友であるワイトのジュリーの依頼でザントライユ城へ向かった時に、ヴァンパイアのロザリーと出会い、彼女を『白百合の花園』へ留学させようとスカウトを繰り返すが、本人から丁重に断られている。
 また、マリアンヌとルネがデート出来る環境を用意する等の支援をしている。

 魔物娘でありながら女性にしか興味がなく、男をじゃがいも扱いする程見下してはいるが、それ以上の嫌悪感はなく男女同士の愛に否定的ではない一面を持つ。

【補足事項】
 ロザリーの夫であるS-50を目の敵にしており、ロザリーに関することで衝突を繰り返している。

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