こどもの日(前編)
※魔王城※
※グリア視点※
「それではいってきます。母上」
「お姉ちゃんとしてスラコの面倒を見るのよ」
「ちゃんとグリアお姉ちゃんの言うことを聞くのよー」
「はいっ」
今日はこどもの日、母上とスライムのスラミさんに見送られながらスライムのスラコと一緒に菖蒲(しょうぶ)を買いにいくのです
「いいー店の名前は『鎧の花屋』よー城下町で菖蒲が買えるのはその店だけだからー」
「もうしつこいですね!ちゃんと覚えてますよ。母上はマインドフレイアですか?」
「ママはパピヨンよーあと店長さんによろしくつたえてねー店長さんだけでいいからー」
「まったく母上は、スラコのおつかいについていくだけなのに大袈裟なのです」
「おねえちゃんたちがいってた、ハーレムのスライムたちはぶんれつちたきねんにはじめてのおつかいをちゅるの、そのちゃいにハーレムのおねえちゃんといっちょにいくって」
「だからといってわざわざ私を指名する必要があるのですか……」
「わたちたちってちまいだったのでちゅね、グリアはとろとろしてないのに」
「正確には父親が同じで母親が違う、つまり義理の姉妹なのです」
「ぎりなんだ、ぎり、ぎり」
「おはよう、グリアちゃん」
「おはようございます、ルプスさん」
魔王城の門番をしている執事服を着た女性が私に挨拶をします
「君達もこどもの日のために買い物に行くの?」
「はい、菖蒲を買いに城下町へ」
「そうなんだ。ほら、今日は買い物目的で城を出る人達が多いんだよ」
「悪かったよルプス、どうせベッドでイチャコラしてるよなんて言ってさ」
ルプスさんが伴侶と話に盛り上がっています
「アイリスも言ってたよ。サバトも後輩魔女のために先輩魔女が張り切って買い物をしてるって、自分の子供のために買い物に行く夫婦もいるし」
「そういえば太陽の勇者も奥さんを連れて子供達のために花を買いに行くって言ってたな……」
「親にとっては子供はいくつになっても子供なんだね」
流石王魔界、警備中でも日常会話をするくらい平和なのですね
「あのサキュバス、おとこのかっこうをちてまちゅ」
「スラコ、人に向かって指差してはいけないのです」
「いいよ、今日はこどもの日だから。あと正確に言えばぼくはアルプ。元男だよ」
ルプスさんはそう笑って返します
「あるぷ?もとおとこ?」
「魔物娘の中には、人間の男性がサキュバス化した種族がいるのです」
「へぇーちょうなのでちゅね」
「私達のハーレムの中にもアルプは沢山いますよ。おっと、そろそろ行きますよ」
ここで立ち話をしていたらお昼になりそうなので、スラコを連れて城下町へ向かいます
※城下町※
「おつかい、おつかい、めもめも、めもめも」
スラコは歌を歌いながらメモを取り出します
メモには漢字で大きく『菖蒲一束』と書かれています
「まちにはこんなにサキュバスがいっぱいなのでちゅね」
「そうですよ、それぞれ愛する夫とラブラブな生活を送っているのです」
「ヤッホー」
「イエーイ」
「わー」
二人のアルプが私達の後ろを駆け抜けようとぶつかりそうになります
「こら、ぶつかったらどうするのですか!」
「何だよ、こどもの日だから、はしゃいでもいいだろ」
「今日くらい、男らしく元気にしたいのさ、悔しかったら追いかけてみろ!まぁ、スライムと芋虫には一生掛かっても追い付けないだろうな」
アルプの子供達はあっかんべーとおしりペンペンしながら、鯉のぼりを片手に逃走します
「ぶー!」
「スラコ、ああいう子供の挑発に乗らないのが大人なのですよ」
「おとなはちょうはつにのらないの?」
「そうです。ただ大人の中には挑発に乗る奴もいますが、私が知る限りそれはバカか四つ子魔女のアオイぐらい――」
「あらグリア、ごきげんよう」
「!?」
突然の呼び掛けに私は思わず振り向きます
振り向くと、色とりどりのローブを着た四人の魔女がいたのです
「あ、アオイ、アカリ、アキラ、アリサ」
「どうかしまして?まるでコカトリスに石にされたような顔をしていますわよ」
「な、何でもないです……」
良かった、聞かれなかったようですね
「みんなおなじかおだ」
四人の魔女の顔を交互に見ながらスラコははしゃぎます
「当然ですわ、わたくし達は四つ子の魔女ですので」
青のローブの魔女、アオイが自慢気に胸をはります
「その娘…スラミさんの娘さん?」
「ふわぁ〜また産んだんだね。記録更新だ」
緑のローブの魔女、アキラと黄のローブの魔女、アリサがスラコに興味津々
「グリア、またお前も食料を買いに来たのか、食い意地はってるな〜」
赤のローブの魔女が私にちょっかいをかけます
「アカリ、今日はスラコと一緒に菖蒲を買いにきただけなのです。いつも食べ物を買いに来てると思わないでください」
「何だよつれねーな、せっかく柏餅を買ったのにさ」
「おおっ、子孫繁栄に縁起が良いとされる柏の葉を巻いた餅、中身はつぶあんですか?それともこしあんですか?」
「両方だ、それぞれの食感を楽しめるようにな。食べるか?」
「おお〜いただき……はっ、今はおつかいの最中、後でいただくのです」
「珍しいな、お前が食うのを躊躇うなんて」
「今はスラコと一緒におつかいをしているので」
「変なとこで真面目なのは相変わらずだな。後で食い損ねても知らねーぞ」
「もう…アカリちゃん、意地悪は止めようよ」
「アカリ、わたくし達にとっては姪っ子のような存在ですのよ」
「めいっこ?」
「グリア、彼女達もスラコの父上の嫁、つまりハーレムの一員なのです」
「ちょうなんだ」
「ふわぁ〜折角の縁だし、おつかいに同行するよ」
「いえ、別に無理して同行しなくても」
「わたくし達はサバトのおつかいは済ませましたので、ここはお姉さんとして貴女達のおつかいを見届けてあげますわ」
「おねーちゃん?グリアよりちっちゃいのにー?」
「な!?こ、これでも、貴女たちよりずっと年上ですわ!」
「落ち着けよアオイ」
「アオイちゃん、子供相手に大人げないよ…」
「ふわぁ〜アオイは挑発に乗りやすい」
「ちっちゃいおねーちゃん、ちっちゃいおねーちゃん、ちっちゃいおねーちゃん」
「わたくしに向かって子供扱いをしていいのは、わたくしより年上の人だけですわ!」
「まったく……ハーレムの魔女の中でも古株だというのに、中身が完全に子供じゃないですか」
そんなこんなで四つ子の魔女が仲間に加わったのです
※花屋『鎧の花屋』※
「ここが母上が言っていた花屋ですね」
「なんてよむのー?」
「『よろいのはなや』と書いてありますの」
「元魔王軍のリビングアーマー夫妻が経営している店だ」
「昔からの顔馴染みです…」
「ふわぁ〜」
「アオイ達の顔馴染みということは結構老舗なのですね」
「魔界では栽培が難しい人間界産の花や植物を仕入れていますの」
「魔界の土地で人間界の植物を育てようとしても、魔界の植物に変わっちまうからな」
「人間界の植物が手に入るので一部の住人から重宝されているのです…」
「ふわぁ〜一応魔界植物も売ってるよ、魔灯花とか」
スラコは店の外に置いてある人間界の植物に目をキラキラさせています
「わー、なにこれ、なにこれ」
生まれたばかりで魔界の植物しか知らないスラコにとっては人間界の植物が新鮮に映るのでしょうね
「ほちょながいくちゃがぼーぼーはえてる、ぜんぜんくねくねちてない」
「スラコ、買うのは後にしてまずは店の中に入りましょう。母上から店長によろしくと言われてますので」
「はーい」
私達は店の中へと入ります
「いらっしゃい。おや、四つ子の魔女ちゃんじゃないか」
鎧を纏った優男風の男性が挨拶をします
「ごきげんよう、コーサさん」
「スラコでちゅ」
「グリアです」
「グリア……」
コーサさんは何かに気づいたかのように驚いたような顔をします
「ひよっとして、ピョアちゃんの娘さん?」
「はい、そうですが」
「大きくなったね。噂には聞いていたけど、本当にグリーンワームのままなんだ」
「私のことを知っているのですか?」
「嗚呼、勿論さ、君がまだ赤ん坊の頃だったかな。ピョアちゃんが娘を自慢気に紹介していてね」
「母上が……意外でした。母上からこの花屋の話は先日初めて聞いたので……いや、花の蜜を好む母上なら、ここが行き着けの店でも不思議じゃありませんね」
「まぁ、ピョアちゃんも最近はここに寄ることも少なくなったけどね」
「そうなのですか?」
「ある事情があってね……」
「店長、新しい花、ここでいいですか?」
店員らしき魔物娘が花を担いで店長に話しかけます
「そこでいいよ。モンロちゃん」
その店員は紋白蝶を思わせる大きな翅、そしてエプロンの上からでもわかる妖艶で豊満な身体
成る程、パピヨンがいるなら納得です……
「モンロ、紹介するよ、グリアちゃん、ほら、ピョアちゃんの娘さん」
「ピョアさんの?この娘が噂のグリーンワーム?」
タプン
モンロさんはまるで初めて男をみたかのように興味津々で、私の全身を見渡します
タプン
エプロン越しでもわかる、豊満な胸の揺れに、あんこをたっぷり詰め込んだ柏餅を思わせます
タプン
「これがパピヨンにならずにグリーンワームのままの身体なのか、アタシがまだグリーンワームだったころより弾力があるわね、ぶにぶにしてる」
ムニュ
「質問いいですか?」
「何?」
「貴女、男性を得られないまま蛹になったのですか?」
「そうよ、ああ〜ホント、抱きごごちのある身体だわ〜」
ムギュ-ムギュムギュ
夫になるべき男性に与える筈だった栄養をその身体に回したのですね
「念のため聞いておきますが、貴女、既婚者ですよね?」
「うん、今は夫がいるよ」
「父上を襲ったことは?」
「いやいやそれない、アタシはハーレムを作る気なんてないから。むしろ逆に君のお父さんに声を掛けられたことならあったわ」
「その時は母上も一緒にいたのですよね?」
「勿論よ、その後ろでピョアさんがものすごい笑顔で……笑顔で……笑顔で?」
「……やっぱり。その時は修羅場だったですよね?」
「……まぁ……一応……あはは……さ、仕事仕事〜」
モンロさんは苦笑いしながら、私から離れます
「えっと、えっと、えっと、えっと」
スラコはメモと商品を交互に見ながら、目的の物を探します
「あ、あった、これくだちゃい」
買い物メモと同じ綴りの漢字を見つけ、いい感じにモンロさんに声をかけます
スラコが指したのは前面に垂れ下がった花に網目模様があるのが特徴の紺色の花
「スラコ、それは探し物と違います」
「ちょうなの?もじはおなじなのに?」
「それは菖蒲(あやめ)です。私達が探しているのは菖蒲(しょうぶ)、綴りは同じでも読み方が違うのです」
「菖蒲(しょうぶ)から店の外に置いてあるよ」
コーサさんが外にある樽に詰まった細長い草を差します
「あのくちゃぼーぼーなのが?」
「そうだよ」
「へんなの。まかいのくちゃってくねくねちたり、うねうねちてるのに」
「まぁ、よく言われるよ」
「スラコ、一束握ってこれくださいと店長さんに言うのですよ。母親に褒められたいのですよね」
「うん!」
スラコが元気よく店の外に出ます
その小さな手で菖蒲を取ろうと――
「見つけた」
樽毎持ち上げられ、掴みそこねます
「ねぇねぇ、店長、菖蒲って奴はこれでいいのよね?」
スレンダーなアルプが妙に艶っぽい声色で言います
「いょっ、ナアルの力持ち、ボクもドキドキしちゃうよ〜」
元気よく声をかけるのは巨大な剣を二本ぶら下げたボーイッシュなアルプ
「すまんが、この菖蒲、樽丸ごとくれぬか?」
老婆口調で言う幼女のアルプがやれやれと言った表情をしているのです
「ねぇ、ナアル兄さん。そのスライムの娘も菖蒲を欲しがってると思うよ」
長いスカートを掃いたセクシーなアルプが、オドオドしながらナアルに声を掛けます
「ナリタ、こういうのは早い者勝ちでしょ。そんな調子だから柴様を横取りされるのよ」
柴様、それは父上の――
「あのアルプ達は!?」
「知っているのですか、アオイ」
「彼等、いや彼女達はわたくし達ハーレムの一員で――」
「アルプ四天王ですわ!」
※つづく※
※グリア視点※
「それではいってきます。母上」
「お姉ちゃんとしてスラコの面倒を見るのよ」
「ちゃんとグリアお姉ちゃんの言うことを聞くのよー」
「はいっ」
今日はこどもの日、母上とスライムのスラミさんに見送られながらスライムのスラコと一緒に菖蒲(しょうぶ)を買いにいくのです
「いいー店の名前は『鎧の花屋』よー城下町で菖蒲が買えるのはその店だけだからー」
「もうしつこいですね!ちゃんと覚えてますよ。母上はマインドフレイアですか?」
「ママはパピヨンよーあと店長さんによろしくつたえてねー店長さんだけでいいからー」
「まったく母上は、スラコのおつかいについていくだけなのに大袈裟なのです」
「おねえちゃんたちがいってた、ハーレムのスライムたちはぶんれつちたきねんにはじめてのおつかいをちゅるの、そのちゃいにハーレムのおねえちゃんといっちょにいくって」
「だからといってわざわざ私を指名する必要があるのですか……」
「わたちたちってちまいだったのでちゅね、グリアはとろとろしてないのに」
「正確には父親が同じで母親が違う、つまり義理の姉妹なのです」
「ぎりなんだ、ぎり、ぎり」
「おはよう、グリアちゃん」
「おはようございます、ルプスさん」
魔王城の門番をしている執事服を着た女性が私に挨拶をします
「君達もこどもの日のために買い物に行くの?」
「はい、菖蒲を買いに城下町へ」
「そうなんだ。ほら、今日は買い物目的で城を出る人達が多いんだよ」
「悪かったよルプス、どうせベッドでイチャコラしてるよなんて言ってさ」
ルプスさんが伴侶と話に盛り上がっています
「アイリスも言ってたよ。サバトも後輩魔女のために先輩魔女が張り切って買い物をしてるって、自分の子供のために買い物に行く夫婦もいるし」
「そういえば太陽の勇者も奥さんを連れて子供達のために花を買いに行くって言ってたな……」
「親にとっては子供はいくつになっても子供なんだね」
流石王魔界、警備中でも日常会話をするくらい平和なのですね
「あのサキュバス、おとこのかっこうをちてまちゅ」
「スラコ、人に向かって指差してはいけないのです」
「いいよ、今日はこどもの日だから。あと正確に言えばぼくはアルプ。元男だよ」
ルプスさんはそう笑って返します
「あるぷ?もとおとこ?」
「魔物娘の中には、人間の男性がサキュバス化した種族がいるのです」
「へぇーちょうなのでちゅね」
「私達のハーレムの中にもアルプは沢山いますよ。おっと、そろそろ行きますよ」
ここで立ち話をしていたらお昼になりそうなので、スラコを連れて城下町へ向かいます
※城下町※
「おつかい、おつかい、めもめも、めもめも」
スラコは歌を歌いながらメモを取り出します
メモには漢字で大きく『菖蒲一束』と書かれています
「まちにはこんなにサキュバスがいっぱいなのでちゅね」
「そうですよ、それぞれ愛する夫とラブラブな生活を送っているのです」
「ヤッホー」
「イエーイ」
「わー」
二人のアルプが私達の後ろを駆け抜けようとぶつかりそうになります
「こら、ぶつかったらどうするのですか!」
「何だよ、こどもの日だから、はしゃいでもいいだろ」
「今日くらい、男らしく元気にしたいのさ、悔しかったら追いかけてみろ!まぁ、スライムと芋虫には一生掛かっても追い付けないだろうな」
アルプの子供達はあっかんべーとおしりペンペンしながら、鯉のぼりを片手に逃走します
「ぶー!」
「スラコ、ああいう子供の挑発に乗らないのが大人なのですよ」
「おとなはちょうはつにのらないの?」
「そうです。ただ大人の中には挑発に乗る奴もいますが、私が知る限りそれはバカか四つ子魔女のアオイぐらい――」
「あらグリア、ごきげんよう」
「!?」
突然の呼び掛けに私は思わず振り向きます
振り向くと、色とりどりのローブを着た四人の魔女がいたのです
「あ、アオイ、アカリ、アキラ、アリサ」
「どうかしまして?まるでコカトリスに石にされたような顔をしていますわよ」
「な、何でもないです……」
良かった、聞かれなかったようですね
「みんなおなじかおだ」
四人の魔女の顔を交互に見ながらスラコははしゃぎます
「当然ですわ、わたくし達は四つ子の魔女ですので」
青のローブの魔女、アオイが自慢気に胸をはります
「その娘…スラミさんの娘さん?」
「ふわぁ〜また産んだんだね。記録更新だ」
緑のローブの魔女、アキラと黄のローブの魔女、アリサがスラコに興味津々
「グリア、またお前も食料を買いに来たのか、食い意地はってるな〜」
赤のローブの魔女が私にちょっかいをかけます
「アカリ、今日はスラコと一緒に菖蒲を買いにきただけなのです。いつも食べ物を買いに来てると思わないでください」
「何だよつれねーな、せっかく柏餅を買ったのにさ」
「おおっ、子孫繁栄に縁起が良いとされる柏の葉を巻いた餅、中身はつぶあんですか?それともこしあんですか?」
「両方だ、それぞれの食感を楽しめるようにな。食べるか?」
「おお〜いただき……はっ、今はおつかいの最中、後でいただくのです」
「珍しいな、お前が食うのを躊躇うなんて」
「今はスラコと一緒におつかいをしているので」
「変なとこで真面目なのは相変わらずだな。後で食い損ねても知らねーぞ」
「もう…アカリちゃん、意地悪は止めようよ」
「アカリ、わたくし達にとっては姪っ子のような存在ですのよ」
「めいっこ?」
「グリア、彼女達もスラコの父上の嫁、つまりハーレムの一員なのです」
「ちょうなんだ」
「ふわぁ〜折角の縁だし、おつかいに同行するよ」
「いえ、別に無理して同行しなくても」
「わたくし達はサバトのおつかいは済ませましたので、ここはお姉さんとして貴女達のおつかいを見届けてあげますわ」
「おねーちゃん?グリアよりちっちゃいのにー?」
「な!?こ、これでも、貴女たちよりずっと年上ですわ!」
「落ち着けよアオイ」
「アオイちゃん、子供相手に大人げないよ…」
「ふわぁ〜アオイは挑発に乗りやすい」
「ちっちゃいおねーちゃん、ちっちゃいおねーちゃん、ちっちゃいおねーちゃん」
「わたくしに向かって子供扱いをしていいのは、わたくしより年上の人だけですわ!」
「まったく……ハーレムの魔女の中でも古株だというのに、中身が完全に子供じゃないですか」
そんなこんなで四つ子の魔女が仲間に加わったのです
※花屋『鎧の花屋』※
「ここが母上が言っていた花屋ですね」
「なんてよむのー?」
「『よろいのはなや』と書いてありますの」
「元魔王軍のリビングアーマー夫妻が経営している店だ」
「昔からの顔馴染みです…」
「ふわぁ〜」
「アオイ達の顔馴染みということは結構老舗なのですね」
「魔界では栽培が難しい人間界産の花や植物を仕入れていますの」
「魔界の土地で人間界の植物を育てようとしても、魔界の植物に変わっちまうからな」
「人間界の植物が手に入るので一部の住人から重宝されているのです…」
「ふわぁ〜一応魔界植物も売ってるよ、魔灯花とか」
スラコは店の外に置いてある人間界の植物に目をキラキラさせています
「わー、なにこれ、なにこれ」
生まれたばかりで魔界の植物しか知らないスラコにとっては人間界の植物が新鮮に映るのでしょうね
「ほちょながいくちゃがぼーぼーはえてる、ぜんぜんくねくねちてない」
「スラコ、買うのは後にしてまずは店の中に入りましょう。母上から店長によろしくと言われてますので」
「はーい」
私達は店の中へと入ります
「いらっしゃい。おや、四つ子の魔女ちゃんじゃないか」
鎧を纏った優男風の男性が挨拶をします
「ごきげんよう、コーサさん」
「スラコでちゅ」
「グリアです」
「グリア……」
コーサさんは何かに気づいたかのように驚いたような顔をします
「ひよっとして、ピョアちゃんの娘さん?」
「はい、そうですが」
「大きくなったね。噂には聞いていたけど、本当にグリーンワームのままなんだ」
「私のことを知っているのですか?」
「嗚呼、勿論さ、君がまだ赤ん坊の頃だったかな。ピョアちゃんが娘を自慢気に紹介していてね」
「母上が……意外でした。母上からこの花屋の話は先日初めて聞いたので……いや、花の蜜を好む母上なら、ここが行き着けの店でも不思議じゃありませんね」
「まぁ、ピョアちゃんも最近はここに寄ることも少なくなったけどね」
「そうなのですか?」
「ある事情があってね……」
「店長、新しい花、ここでいいですか?」
店員らしき魔物娘が花を担いで店長に話しかけます
「そこでいいよ。モンロちゃん」
その店員は紋白蝶を思わせる大きな翅、そしてエプロンの上からでもわかる妖艶で豊満な身体
成る程、パピヨンがいるなら納得です……
「モンロ、紹介するよ、グリアちゃん、ほら、ピョアちゃんの娘さん」
「ピョアさんの?この娘が噂のグリーンワーム?」
タプン
モンロさんはまるで初めて男をみたかのように興味津々で、私の全身を見渡します
タプン
エプロン越しでもわかる、豊満な胸の揺れに、あんこをたっぷり詰め込んだ柏餅を思わせます
タプン
「これがパピヨンにならずにグリーンワームのままの身体なのか、アタシがまだグリーンワームだったころより弾力があるわね、ぶにぶにしてる」
ムニュ
「質問いいですか?」
「何?」
「貴女、男性を得られないまま蛹になったのですか?」
「そうよ、ああ〜ホント、抱きごごちのある身体だわ〜」
ムギュ-ムギュムギュ
夫になるべき男性に与える筈だった栄養をその身体に回したのですね
「念のため聞いておきますが、貴女、既婚者ですよね?」
「うん、今は夫がいるよ」
「父上を襲ったことは?」
「いやいやそれない、アタシはハーレムを作る気なんてないから。むしろ逆に君のお父さんに声を掛けられたことならあったわ」
「その時は母上も一緒にいたのですよね?」
「勿論よ、その後ろでピョアさんがものすごい笑顔で……笑顔で……笑顔で?」
「……やっぱり。その時は修羅場だったですよね?」
「……まぁ……一応……あはは……さ、仕事仕事〜」
モンロさんは苦笑いしながら、私から離れます
「えっと、えっと、えっと、えっと」
スラコはメモと商品を交互に見ながら、目的の物を探します
「あ、あった、これくだちゃい」
買い物メモと同じ綴りの漢字を見つけ、いい感じにモンロさんに声をかけます
スラコが指したのは前面に垂れ下がった花に網目模様があるのが特徴の紺色の花
「スラコ、それは探し物と違います」
「ちょうなの?もじはおなじなのに?」
「それは菖蒲(あやめ)です。私達が探しているのは菖蒲(しょうぶ)、綴りは同じでも読み方が違うのです」
「菖蒲(しょうぶ)から店の外に置いてあるよ」
コーサさんが外にある樽に詰まった細長い草を差します
「あのくちゃぼーぼーなのが?」
「そうだよ」
「へんなの。まかいのくちゃってくねくねちたり、うねうねちてるのに」
「まぁ、よく言われるよ」
「スラコ、一束握ってこれくださいと店長さんに言うのですよ。母親に褒められたいのですよね」
「うん!」
スラコが元気よく店の外に出ます
その小さな手で菖蒲を取ろうと――
「見つけた」
樽毎持ち上げられ、掴みそこねます
「ねぇねぇ、店長、菖蒲って奴はこれでいいのよね?」
スレンダーなアルプが妙に艶っぽい声色で言います
「いょっ、ナアルの力持ち、ボクもドキドキしちゃうよ〜」
元気よく声をかけるのは巨大な剣を二本ぶら下げたボーイッシュなアルプ
「すまんが、この菖蒲、樽丸ごとくれぬか?」
老婆口調で言う幼女のアルプがやれやれと言った表情をしているのです
「ねぇ、ナアル兄さん。そのスライムの娘も菖蒲を欲しがってると思うよ」
長いスカートを掃いたセクシーなアルプが、オドオドしながらナアルに声を掛けます
「ナリタ、こういうのは早い者勝ちでしょ。そんな調子だから柴様を横取りされるのよ」
柴様、それは父上の――
「あのアルプ達は!?」
「知っているのですか、アオイ」
「彼等、いや彼女達はわたくし達ハーレムの一員で――」
「アルプ四天王ですわ!」
※つづく※
18/05/06 22:46更新 / ドリルモール
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