愛情の献上と友情の交換
※不思議の国・タマゴの里・カウの家※
※カウ視点※
「明日はバレンタインデー」
「好きな人にチョコを渡す日」
「女も男もチョコを渡す日」
「この特製カカオを材料に」
「作ったチョコを食べさせれば」
「媚薬と惚れ薬効果で欲情しちゃう」
「さらにマッドハッターの胞子を吸わせて」
「さり気なく交われば」
「「晴れて、バレンタインゴールイン」」
「過去数百年間の調査では、年間来訪者が一番多いのはバレンタインデーと言われている」
「さらにその日の来訪者の九分九厘が未婚の男性」
「明日こそ彼氏いない暦十六年の歴史に終止符を」
「今年こそ彼氏しない暦の更新をストップさせる」
ブルルルル…ブルルルル…
テーブルに置いてあった不思議の国専用の通信端末が振動する。
「メールだわ」
ブルーッ!ブルーッ!ブルーッ!
ベレの通信端末もほぼ同時に振動。
「こっちもメールよ。差出人は……ハートの女王」
通信端末の画面をタッチしてメールを開く。
『おめでとうございます、このメールが届いたあなた。明日のバレンタインデーにおいて女王様にチョコを献上する義務が与えられました』
「け、献上?」
「チョコを?」
『なお、チョコの献上を拒否した場合は極刑を科せられることになりますのでご注意ください』
「「な、なんだって―――!」」
※翌日※
※タマゴの里・お茶会会場※
「この里の住人は全員マッドハッター及びその夫だから、毎日のようにお茶会を開いている」
「今日は『バレンタインデー』ということで朝からずっとお茶会」
「お茶を飲みつつ、お菓子を食べ、そして交わる者がいようとも当然のこととしてお茶会は進むけど」
「今回は不思議とお茶やお菓子を楽しめないよ。だってお茶を愉しみつつチョコを渡してるんだもん」
「お茶菓子が無いぞ」
「はい、お茶菓子よ」
雑貨屋のフルーフさんは、お茶請けの菓子としてチョコレート入りクッキーを渡して
「んー、このビスケット美味しい〜メートも食べなよ」
「うん、うまい」
妹のルーメさんも、チョコ入りビスケットを自分で味見して、夫に差し出す
「長い間マッドハッターをやってる人は違うわね。チョコの渡し方が自然すぎる」
「例外もいるけど」
「どうだカムリよ、余のチョコは?」
モグモグ
「黙って食べていないで何か言ったらどうだ!」
「クラウンさんも大変ね」
「夫は寡黙な人だからね」
「逆に夫が妻にチョコを渡す場合もあるわね」
「ムッギ、チョコだぞ…」
「手作りなの?ありがとう」
「ちゃんと味わって食えよ。夜なべして作ったチョコだからな」
「ストローの為にチョコ沢山作ったぞ〜」
「まあ、こんなに沢山、嬉しいわ」
「養鶏場の長男ワーラが姉のムッギにチョコを渡し、父親のバッカンさんは量で勝負してる」
「あなた〜チョコを持ってきたわよ」
「診療所のナースさんだ」
「ボウルの中に溶けたチョコが入ってるわ」
「きゃあっ」ドテン、ジャバッ「ああーん、体中がチョコ塗れだわ〜」
転んだ拍子でボウルのチョコがナースさんの全身にトッピングされる。
顔や髪の毛だけではなく、桃色の燕尾服や帽子を模したキノコもチョコレートでデコレーションされたわ。
「このままじゃチョコの熱で火傷しちゃう、応急処置をお願い」
夫のイーシさんがナースさんの身体や服に付着したチョコを舐め取る。
「もしかしたら服の中にもチョコが入っているのかも」
ナースさんが上着のボタンを上から順に外し、巨大マシュマロのような白くふくよかな胸元が顕わになる。
「「う、羨ましい」」
その巨大マシュマロの上にチョコレートがポタッと垂れ落ちると、
ペロペロペチャクチャ
イーシさんの舌がマシュマロを舐めまわし始めた。
「あんっ、そんな強引な処置をしないでぇ」
ナースさんが夫にお尻を向ける。
「さっきから下腹部が熱いの、もしかしたらここにもチョコが入り込んでいるかもしれないわ」
桃の色のズボンをフリフリと揺らす。男性用のズボンでありながら、くっきりと浮かぶお尻の形が女性らしさを象徴していて何とも背徳的だ。
「何を躊躇しているの?これは火傷の状態を確かめるための診察よ、愛する妻が火傷していないかどうか確かめるのも、医者として夫として当然のことよね?」
ナースさんのズボンを優しくずらすと、燕尾服の桃色に匹敵する輝きを持つ女性器が顕わになる。
ペロペロペロペロ
「あんっ、ソコにチョコがたっぷり付着していたのね、いやらしいけど嬉しいわ、適切な応急処置をしてくれて」
ナースさんは仰向けに倒れ、傷の状態を診てもらうかのように下半身を大きく開脚する。
「ねえ、子宮の奥が疼いているの。バレンイタンデーのお返しを頂戴、あなたのチューブに溜まっているホワイトチョコでね……」
イーシさんはズボンを脱ぎ、長いチューブをナースさんの女性器に差し込み
「ああん、ああん、チューブが子宮の奥まで入り込んでいる、待っていて、私の子宮があなたのチューブを搾ってあげる」
肉のチューブが痙攣を起こし、結合部からホワイトチョコが漏れる。
「熱い、私の子宮があなたのホワイトチョコを美味しそうに食べているわ」
「いいないいな、みんな夫のホワイトチョコでお茶会を愉しんで」
「きーっ、くやしいー!あたしも夫とイチャイチャしたいのに!」
「二人ともそんなに騒がないの」
「「バイザー」」
「マッドハッターが纏う気品さが台無しだよ?」
「騒いで何が悪いの」
「そうよ、バイザーもあたし達と同じ未婚じゃない」
「別に未婚だからといって、そんなに騒ぐ必要は無いよ」
「バイザーはそれでいいの?」
「彼氏を見つけようと思わないわけ?」
「今日の僕はこの義理チョコを住人達に配る義務があるからね」
「あのーチョコの補充をお願いします」
「はーい、どうぞ義理チョコでーす」
バイザーは空の皿に大量の一口サイズのチョコを補充する。
「そう言われても、わたしの両親を見てみなよ」
「親父とお袋を見ても、そんなことが言える?」
「うまい、中に透明なシロップが入っているのか」
「そうだ、精入りのシロップだ」
「チョコの上にトッピングされた透明シロップとっても甘い、まるでディープキスのような味だ」
「胞子入りのシロップさ」
「いいないいな、ママはパパから貰ったチョコで糖分と精を同時に摂取できて」
「お袋の奴、自分のシロップ入りチョコを親父に食べさせるとは、くやしい」
「僕の両親だって――」
「どう?」モグモグ「今年のチョコは?」モグモグ
「中々の出来だ」モグモグ「おれのチョコは?」モグモグ
「――お互いに手作りチョコを黙々と味見しているのさ」
「お互いにあげるって上級者ね」
「親世代が羨ましい……」
「そうだ忘れるところだったよ、僕の手作りチョコを二人にあげる」
と、バイザーが一口サイズとは別のチョコをわたしとベレに渡す。
「バイザー、どうしてわたし達にチョコをあげるの」
「あんたもあたし達と同じマッドハッターでしょ?」
「女の子が女の子にチョコをあげるのもバレンタインの醍醐味さ、この場合は友達にあげるチョコという意味で……」
「ありがとう、でも女王様からチョコ献上の通達が来たらへこむわよ」
「今年こそ手作りチョコで彼氏がゲットできると思ったのに」
「常に美味しいものや楽しいことを求めているハートの女王だからね。だからと言って女王様に逆らうのはオススメしないよ」
「うんうん、女王様の機嫌を損ねればもれなく極刑が科せられるのよね」
「内容は性的なお仕置きだけど、夫のいない住人にとっては甘味のないビターチョコ」
「魔王様、どうしてわたし達二人にこんな試練を」
「あたし達はただ、彼氏が欲しかっただけなのに」
「通達が来たのはカウとベレだけじゃないよ、リコちゃんにも通達が来たんだ」
「リコちゃんにも」
「あたし達と同じ通達が?」
「そうだよ、おっ、噂をすれば」
バイザーが、子供サイズの燕尾服を着た二人組に気づく。
「例え命を懸けても、リコとそのチョコはオレが守ってやる」
「そんなに無理しなくていいよ。コーンがいないとチョコを渡せないから」
「そんな弱気でどうする!」
「おかーさんがコーンを心配する気持ちがわかる気がしてきた……」
「リコちゃん、リコちゃん」
「あ、バイザーさん」
「二人とも今から女王様の城へ行くんだよね?」
「はい、女王様から通達がありまして」
「よぉバイザー、今日はここで売り子の仕事かよ」
「そうだよコーン、お菓子を切らしたテーブルに義理チョコを補充する役目があるのさ」
「本命じゃないかよ、仕事一筋は相変わらずだな。こっちは朝から晩までチョコと一緒にリコを食べちゃう予定だったのに女王のせいでパーだよ」
「女王様って白状ね、カウ」
「そうねベレ。こんな小さい子にもチョコを献上しなきゃならないなんて」
「ううん、このチョコは女王様にはあげません」
「そうだぜ、リコのチョコはオレが貰うのは当然だろ」
「え、あげないの?」
「それ本気?」
「本気も何も、昨日のメールには……」
リコちゃんが通信端末を取り出し、昨日のメールの全文をわたし達に見せた。
「女王様の目の前で」
「想い人に直接渡せば献上を免除する?」
「うん、だから女王様の前で、コーンにチョコを渡すの」
「っていうかお前ら、メールを最後まで読まなかったのかよ?」
「「うっ」」
「その顔は図星だな。今頃選ばれた未婚の住人はチョコを渡す相手を血眼で捜してると思うぜ?つまりこんな所でモタモタする暇があったら、男を捜しに出かけたほうがいいぜ?」
「ぐぬぬ…」
「うぐぐ…」
「まっ、せいぜい女王の城へ強制転送される前に男をゲット出来ることを祈ってるぜ。行こうぜリコ……リコ?」
リコちゃんがわたし達の前に立ち
「あ、あの、二人にもきっと自分にとっての王子様が見つかります、だから――」
その小さな口から大きな声で
「だから、がんばってください!」
わたし達を激励してくれた。
用事を終えたリコちゃんはコーンの許へと戻る。
「リコ、自分にとっての王子様ってオレのことか〜?」
「うん、そうだけど」
「このこの、オレのどこが王子様に見えるんだ?」
「えっとね……かっこよくて、強くて、わたしを守ってくれて……」
「おいおい、エロありが抜けてるぞ、「コーンのテクニックが気持ちよすぎて変になっちゃうよ〜」とか言ってたのは誰だったかな?」
「う〜恥ずかしいことを思い出させないでよ」
「「リコちゃん…」」
「おーい二人とも、くれぐれもリコちゃんにチョコを渡すのは反則だよ。リコちゃんとコーンは立派な夫婦なんだから」
「ち、違うわよ、バイザー!」
「あんな可愛い子に激励されたら心が安らぐのは当然よ!」
「ベレ、今日中に彼氏を見つけるわよ!」
「カウ、燃えてきたわ!素敵な彼氏を見つけて、コーンの鼻をあかしてやるわ」
「「女王様の呼び出しを食らう前に、この手作りチョコで彼氏を見つける!」」
「そうそうその調子だよ二人とも。僕はここで一口サイズのチョコをみんなに配っているから」
「早速、ワープスポットで城下町へ行くわよ」ピューン
「思い立ったが吉日よー!」ピューン
※城下町※
「「城下町へ到着!」」
「いつもより住人が多いわね。女王様にチョコを献上しに来たのかしら」
「それだけじゃなさそうよ。ほら」
「え、チョコと一緒にアタシも食べたいの?」
マーチヘアは言葉を曲解させて襲う口実をつくり
「どうぞムニュニュ、チョコですムニャムニャ」
ドーマウスは情欲を掻き立てるように誘い
「貴様、チョコは持ってきたか!」
ジャバウォックは逆にチョコをくれる男を探している
「はい、お近づきのしるしにチョコをどうぞ」
チェシャ猫は案内に混ざってちゃっかりチョコを渡す
「わたし達と同じように未婚の男をゲットする住人が多いわね」
「モニターには女王の城の様子が中継されているよ」
『今日はバレンタイン!不思議の国の住人達が想い人にチョコを渡す日!』
男性リポーターがハイテンションでリポートをしている。
『同時に不思議と快楽をくれたハートの女王にチョコを献上する日でもあります!玉座の様子を見てみましょう!』
『早速じゃが、余にチョコを献上するのじゃ』
『今、ハートの女王がチェシャ猫にチョコを献上するよう命じているところです!』
『どうした、持ってきておるじゃろ?』
『女王の前に隠し事は通じませんよ?』
『執事のジャバウォックにせかされ、チェシャ猫がチョコレートを取り出します。ハート型の箱にピンクのリボンでラッピングされてますね!』
『にゃっ、あそこに全身チョコをコーティングした白ウサギがダンスしてる!』
『何じゃと!?』
『今にゃ!』
『あっ、チェシャ猫が逃走します!』
『――なんて嘘に引っかかると思ったか?』
『にゃあっ、何にゃこの触手は』
『目の前に触手が現れ、チェシャ猫を捕らえました』
『どうじゃ、逃走者を出さぬために飼い馴らした触手じゃ』
『女王様が餌付けとしてチョコを与えた甲斐がありましたね』
『触手の多くは逃走して野生化したがのう』
『触手がチョコを取り上げ、ラッピングを丁寧に剥がします!触手の一本を使ってチョコの上に白い文字を描きます』
『うむ、「アイラブ女王様」とは、お主は気が利くのう。ほれ、少しだけ分けてやるのじゃ』
『触手にチョコを分け与える、これが女王様の優しさです!』
『にゃあ〜ん、おみゃんこをずぼずぼしにゃいでぇ』
「いや、ただの気まぐれでしょ」
「傍らでチェシャ猫が触手責めにあってるし」
『女王様がチョコを齧りながら、情報端末で別世界の様子をチェックしているようです!』
『あー、どいつもこいつも、「チョコほしい」だの「彼女ほしい」だの「リア充爆発しろ」だのと、嘆きおって』
『女王様、かの者らも不思議の国へ招待させますか?』
『うむ、鬱陶しい嘆きをいやらしい喘ぎに変えてやるのじゃ――』
「女王様の独断と偏見で男をこの国に招待してるわね」
「ここにも未婚の来訪者が現れても不思議じゃないわ」
「ちくしょー!バレンタインデーなんて大嫌いだぁぁぁぁ!」
「早速来訪者が現れたわね」
「どこからともなくね」
「2月14日、ナンデスカソレ〜」
別の方角からは覚束ない足取りでふらつく男が現れる。
「今こそ、静かな狂人と呼ばれるマッドハッターの腕の見せ所」
「未来の彼氏をゲットするわよ」
「行くわよ、カウ」
「ベレこそね」
わたしとベレは二人の男に向かって走り出す
しかし、床が突然動き出し、ターゲットが遠ざかる。
「不思議の国の仕掛け!?」
「こんな時に限って」
「君にチョコをあげる!?」
「私達の愛を受け取って」
その間にも二人のマーチヘアが男二人にチョコを差し出す
「「2月14日が、やってきた……」」
「ヤってキタ―!?」
「ヤりたんだね!?そうなのね!?」
動く床が停止するが、時すでに遅し
「あんっ、あんっ」
「はぁぅ、いくっ」
マーチヘア達は立位バックの姿勢で突かれ、共に大きな胸を弾ませ
「チョコだけじゃなく、まさかエッチも出来ると思わなかった」
「もう、この娘以外のチョコには興味ねーよ」
先程までの態度なんてもう忘れたかのように、ニヤニヤしながらチョコを租借する男達の姿がそこにあった。
「くっ、あと少しだったのに」
「カウ、次行くわよ!」
※
「中々見つからないわね」
「諦めちゃだめ、来訪者の情報をチェックしよう」
ベレの助言で、わたしは大型モニターをチェックする。
だが、間の悪いことにモニターは中継の真っ最中だった。
『此方は女王様にチョコを献上する住人達の行列です。昨日の通達を受けた住人がチョコを持って並んでおります。マッドハッターのカップルさんに聞いてみました!』
「リコちゃん達だ」
『そこの可愛らしい顔をしたお嬢ちゃん、マッドハッターなりの工夫はありますか?』
『えっ?わたしですか?』
『やはりごく自然な感じでチョコを渡しているとか』
『えっと確か……マッドハッター特製のシロップ入りチョコを渡すそうです』
『特製のシロップ!?』
『そのシロップにはマッドハッターの胞子が入っているらしくて、食べればシロップと共に胞子が体内に入るそうです』
『なるほど〜では、そのシロップはどこから採取しているのかな〜?』
『そ、それは……』
『採取も何も、シロップはマッドハッターの唾『ちょっとコーン、堂々と言わないでよ。思い出すだけで恥ずかしいよ〜』
『以上、現場からのリポートでした!』
「リコちゃんも大変ね…」
「ねぇ、あっちにいい香りと素敵な音色が聞こえるわ」
ベレが指す方角を振り向くと
紅葉色の葉が生い茂る木が生えてきた。
「まさかあれはガンダルヴァの木!」
「あの木の下で告白すると恋愛が成就される伝説の木」
「毎年数十組のカップルがあの木の下で、処女や童貞を捧げるといわれている」
「葉の香りだけでも、ガンダルヴァの香気と同様の効能を持つから――」
「シャー!まさにチャンス!」
「あん、この誘われるような香気は、これが男の匂いだったら…」
「香り〜香り〜」
「男を誘う香気を身に纏うこそジャバウォックの誇り」
突如現れた木に住人達は一斉に群がる。
わたし達も香りに引き寄せられるかのように住人たちに続く。
木の麓へたどり着くと、無数の木の枝が襲い掛かり
「わっ、箱が木の枝に絡まった」
「たいへん、チョコが」
枝が柔軟にチョコを絡ませチョコを奪う。
「このベタベタした感触――これはガンダルヴァの木じゃない」
「無数の触手が集まって木に擬態しているんだ、まるで子宝宝樹のように」
「フーッ!チョコを横取りするな!」
「やぁん、いやらしい触手ね。これが男のアレだったら…」
「チョコ〜チョコ〜」
「精魂込めて作ったチョコを返せ」
仕掛けに巻き込まれた住人達が次々とチョコを奪われてゆく。
触手の口が開き、奪ったチョコを食べる。
「まさか、女王様がチョコで餌付けした触手が野生化したの」
「チョコの香りと味を覚えたから、住人からチョコを奪おうとしているのだわ」
美味しいチョコのお返しとして、住人達に粘液を吹きつける。
「ニャー、あったかい粘液だ」
「いやん、ネトネトした液体ね。これが男の精だったら…」
「粘液〜粘液〜」
「こんなにいやらしい粘液をくれるなら、チョコの一つや二つくれてやる」
粘液の媚薬効果なのか、住人達がチョコのことをすっかり忘れ、次々と触手にその身を預けてゆく。
「このままじゃわたし達も」
「そんなことさせるものか」
わたし達は力ずくで触手を引き剥がし、チョコを取り返す。
「やったチョコを」
「取り返したわ!」
安心したもつかの間、周囲の景色が歪んでいき――
※女王の城・通路※
「あれ?」
「ここは」
「どうやら抽選で選ばれた住人が強制的に城へと転送されたようです!」
モニターで見かけた男性リポーターが、わたし達の目の前に現れる。
隣には彼の妻らしき女性がカメラを片手に撮影している。
「とうとう間に合わなかった……」
「仕方ないわよ、だけどこのチョコを女王様にあげるのは……気が進まない」
「さあさあ、この扉を開ければ、女王様がいる玉座です!」
重厚な扉が開く
「よく来たのう」
「ハートの女王様のお出ましです!」
「一見、白髪のアリスをイメージさせる子供のような容姿ですが、彼女こそ魔王様の娘!魔界第三王女にして、この不思議の国を建国したリリムなのです!神に等しい膨大な魔力と類まれなる魔術の才を持ち、国中に設置された仕掛けは全て彼女が設置したものと言われております!」
「説明ご苦労じゃった。リポーターよ」
「お褒めにいただき光栄です!」
「じゃが、少々ウザイから極刑部屋送りじゃ」
「えっ、ちょ
女王様が錫杖を振ると、その場からリポーターが消えた。
妻も一緒に消えたので、夫婦共々性的に気持ち良い刑が科せられるだろう。
「前の子供達が終わりましたら、お二人の番なのでしばしのお待ちを」
執事服を着たジャバウォックがわたし達に待機を命じる。
「前の子供達って」
「もしかして」
「では、リコよ。コーンに本命チョコを渡すのじゃ」
リコちゃんとコーンだった。
「は、はい…」
リコちゃんは顔を赤らめながらコーンにチョコを渡す。
「あ、ありがとう…」
リコちゃんからのチョコを受け取るコーン。
コーンもまんざらじゃないようで、リコちゃん程ではないが照れている。
パチパチパチパチ……
周囲から暖かい拍手
「ふむ、実に理想のカップルじゃ」
女王様もご機嫌。
「では、気まぐれに二人に『バロメッツの刑』を命じよう」
女王様が錫杖を振りかざすと、
「きゃっ」ズブブブ
「リコ!?」ズブブブ
二人の足元からバロメッツの果肉が現れて――
「何これ、プルプルしてる」
「抜け出せない…」
「ひゃっ、コーン、腰を動かさないで」
「違う、果肉の弾力で腰が動いて」
「はむっ、あれ、甘い」
「リコ?」
「コーンの身体から甘い味がする…」ペロッ
「不思議だ、リコの身体が甘い……」ペロッ
「愉快じゃのう、子供二人が互いの身体を貪り、深い口づけを交わす姿、想い人の身体こそ最高じゃな。よし二人ともそのまま下がるが良い」
ボヨンボヨン「ひゃっ、移動の振動で余計腰が弾んで」
ボヨンボヨン「リコ、オレもう我慢出来ない」
ボヨンボヨン「まって、そんな乱暴に脱がせないで」
ボヨンボヨン「行くぞ、リコ…あうっ」
リコちゃんとコーンは互いに腰を振りながら、女王の間を後にする。
「女王様の機嫌を損ねれば、極刑を科せられるけど」
「そうでなくても気まぐれに極刑が命ぜられるのよね」
「次はマッドハッターの二人組か、前に出るのじゃ」
女王様がわたしとベレを指名。わたしとベレは女王様の前に立つ。
「では、余にチョコを献上するのじゃ」
「はい」
「これです」
わたし達は賭けとして、バイザーから貰ったチョコを女王様に差し出す。
「慌て者じゃのう、それは貰ったチョコではないか。枯草色の燕尾服の右ポケット、若草色のズボンの左ポケットにそれぞれお主らが作ったチョコが入っておるじゃろう」
賭けは失敗。これ以上の誤魔化しは無理と判断。
わたしは女王様から指摘された燕尾服の右ポケットから、ベレはズボンの左ポケットからチョコレートを取り出す。
「では、そのチョコを余に献上するのじゃ」
だけど、せめて最後まで悪あがきをさせて貰うわ――
「女王様、このチョコは女王様に献上できません」
「何?」
女王様の表情が険しくなる。
「このチョコレートは、この場で他の人に渡すつもりでした」
「ん?渡す奴がおるのか。どこにおる」
わたしはベレに
ベレはわたしに
「「友チョコなんです!」」
手作りチョコを差し出した。
「女の子から女の子へ、つまり友にあげるチョコなら仕方ない。二人とも献上は免除してやるから下がるが良い」
「「はい…」」
「あと折角じゃから、お互いの友チョコを食べておけ、チョコは想い人に食べて貰うからこそ作る意味があるからのう」
「「はい…」」
ベレはわたしのチョコを口に含む。
わたしもベレが作ったチョコに歯を当てて――
こうして、わたし達のバレンタインデーは幕を閉じた。
※タマゴの里※
「ただいま」パリポリ
「ただいま」モグモグ
「おかえり、大丈夫だった?」
バイザーがわたし達に無事を確かめる。
「うん、一応」パリポリ
「極刑だけは免れたわ」モグモグ
「良かった二人が無事で、リコちゃん達がバロメッツの果肉の中で淫らに交わりながら帰ってきた時は流石の僕もびっくりしたから……」
「そう、因みに今、バイザーの友チョコも食べてるわ」パリポリ
「バイザーの友チョコ美味しいね」モグモツ
「それは良かった。お返しなら一ヶ月後で」
「一ヶ月後?」
「一ヵ月後?」
「だって来月にはホワイトデーがあるからね、さて僕も来月に向けて準備をしないと」
「チョコの補充お願いしまーす」
「はーい」
バイザーは元気よくチョコの補充へと向かう……
「そうよ、ホワイトデーよ!」
「世間一般じゃ、バレンタインデーのお返しをする日だけど」
「不思議の国では未婚の住人が、それと関係なく来訪者に(性的な)プレゼントを渡して交わりを要求する日よ」
「過去数百年間の調査では、バレンタインデーの次に年間来訪者が多いと言われている」
「カウ、こうしちゃいられないわ」
「来訪者に渡すプレゼントを考えなくちゃ」
わたし達の戦いはこれからだ!
※おわり※
※カウ視点※
「明日はバレンタインデー」
「好きな人にチョコを渡す日」
「女も男もチョコを渡す日」
「この特製カカオを材料に」
「作ったチョコを食べさせれば」
「媚薬と惚れ薬効果で欲情しちゃう」
「さらにマッドハッターの胞子を吸わせて」
「さり気なく交われば」
「「晴れて、バレンタインゴールイン」」
「過去数百年間の調査では、年間来訪者が一番多いのはバレンタインデーと言われている」
「さらにその日の来訪者の九分九厘が未婚の男性」
「明日こそ彼氏いない暦十六年の歴史に終止符を」
「今年こそ彼氏しない暦の更新をストップさせる」
ブルルルル…ブルルルル…
テーブルに置いてあった不思議の国専用の通信端末が振動する。
「メールだわ」
ブルーッ!ブルーッ!ブルーッ!
ベレの通信端末もほぼ同時に振動。
「こっちもメールよ。差出人は……ハートの女王」
通信端末の画面をタッチしてメールを開く。
『おめでとうございます、このメールが届いたあなた。明日のバレンタインデーにおいて女王様にチョコを献上する義務が与えられました』
「け、献上?」
「チョコを?」
『なお、チョコの献上を拒否した場合は極刑を科せられることになりますのでご注意ください』
「「な、なんだって―――!」」
※翌日※
※タマゴの里・お茶会会場※
「この里の住人は全員マッドハッター及びその夫だから、毎日のようにお茶会を開いている」
「今日は『バレンタインデー』ということで朝からずっとお茶会」
「お茶を飲みつつ、お菓子を食べ、そして交わる者がいようとも当然のこととしてお茶会は進むけど」
「今回は不思議とお茶やお菓子を楽しめないよ。だってお茶を愉しみつつチョコを渡してるんだもん」
「お茶菓子が無いぞ」
「はい、お茶菓子よ」
雑貨屋のフルーフさんは、お茶請けの菓子としてチョコレート入りクッキーを渡して
「んー、このビスケット美味しい〜メートも食べなよ」
「うん、うまい」
妹のルーメさんも、チョコ入りビスケットを自分で味見して、夫に差し出す
「長い間マッドハッターをやってる人は違うわね。チョコの渡し方が自然すぎる」
「例外もいるけど」
「どうだカムリよ、余のチョコは?」
モグモグ
「黙って食べていないで何か言ったらどうだ!」
「クラウンさんも大変ね」
「夫は寡黙な人だからね」
「逆に夫が妻にチョコを渡す場合もあるわね」
「ムッギ、チョコだぞ…」
「手作りなの?ありがとう」
「ちゃんと味わって食えよ。夜なべして作ったチョコだからな」
「ストローの為にチョコ沢山作ったぞ〜」
「まあ、こんなに沢山、嬉しいわ」
「養鶏場の長男ワーラが姉のムッギにチョコを渡し、父親のバッカンさんは量で勝負してる」
「あなた〜チョコを持ってきたわよ」
「診療所のナースさんだ」
「ボウルの中に溶けたチョコが入ってるわ」
「きゃあっ」ドテン、ジャバッ「ああーん、体中がチョコ塗れだわ〜」
転んだ拍子でボウルのチョコがナースさんの全身にトッピングされる。
顔や髪の毛だけではなく、桃色の燕尾服や帽子を模したキノコもチョコレートでデコレーションされたわ。
「このままじゃチョコの熱で火傷しちゃう、応急処置をお願い」
夫のイーシさんがナースさんの身体や服に付着したチョコを舐め取る。
「もしかしたら服の中にもチョコが入っているのかも」
ナースさんが上着のボタンを上から順に外し、巨大マシュマロのような白くふくよかな胸元が顕わになる。
「「う、羨ましい」」
その巨大マシュマロの上にチョコレートがポタッと垂れ落ちると、
ペロペロペチャクチャ
イーシさんの舌がマシュマロを舐めまわし始めた。
「あんっ、そんな強引な処置をしないでぇ」
ナースさんが夫にお尻を向ける。
「さっきから下腹部が熱いの、もしかしたらここにもチョコが入り込んでいるかもしれないわ」
桃の色のズボンをフリフリと揺らす。男性用のズボンでありながら、くっきりと浮かぶお尻の形が女性らしさを象徴していて何とも背徳的だ。
「何を躊躇しているの?これは火傷の状態を確かめるための診察よ、愛する妻が火傷していないかどうか確かめるのも、医者として夫として当然のことよね?」
ナースさんのズボンを優しくずらすと、燕尾服の桃色に匹敵する輝きを持つ女性器が顕わになる。
ペロペロペロペロ
「あんっ、ソコにチョコがたっぷり付着していたのね、いやらしいけど嬉しいわ、適切な応急処置をしてくれて」
ナースさんは仰向けに倒れ、傷の状態を診てもらうかのように下半身を大きく開脚する。
「ねえ、子宮の奥が疼いているの。バレンイタンデーのお返しを頂戴、あなたのチューブに溜まっているホワイトチョコでね……」
イーシさんはズボンを脱ぎ、長いチューブをナースさんの女性器に差し込み
「ああん、ああん、チューブが子宮の奥まで入り込んでいる、待っていて、私の子宮があなたのチューブを搾ってあげる」
肉のチューブが痙攣を起こし、結合部からホワイトチョコが漏れる。
「熱い、私の子宮があなたのホワイトチョコを美味しそうに食べているわ」
「いいないいな、みんな夫のホワイトチョコでお茶会を愉しんで」
「きーっ、くやしいー!あたしも夫とイチャイチャしたいのに!」
「二人ともそんなに騒がないの」
「「バイザー」」
「マッドハッターが纏う気品さが台無しだよ?」
「騒いで何が悪いの」
「そうよ、バイザーもあたし達と同じ未婚じゃない」
「別に未婚だからといって、そんなに騒ぐ必要は無いよ」
「バイザーはそれでいいの?」
「彼氏を見つけようと思わないわけ?」
「今日の僕はこの義理チョコを住人達に配る義務があるからね」
「あのーチョコの補充をお願いします」
「はーい、どうぞ義理チョコでーす」
バイザーは空の皿に大量の一口サイズのチョコを補充する。
「そう言われても、わたしの両親を見てみなよ」
「親父とお袋を見ても、そんなことが言える?」
「うまい、中に透明なシロップが入っているのか」
「そうだ、精入りのシロップだ」
「チョコの上にトッピングされた透明シロップとっても甘い、まるでディープキスのような味だ」
「胞子入りのシロップさ」
「いいないいな、ママはパパから貰ったチョコで糖分と精を同時に摂取できて」
「お袋の奴、自分のシロップ入りチョコを親父に食べさせるとは、くやしい」
「僕の両親だって――」
「どう?」モグモグ「今年のチョコは?」モグモグ
「中々の出来だ」モグモグ「おれのチョコは?」モグモグ
「――お互いに手作りチョコを黙々と味見しているのさ」
「お互いにあげるって上級者ね」
「親世代が羨ましい……」
「そうだ忘れるところだったよ、僕の手作りチョコを二人にあげる」
と、バイザーが一口サイズとは別のチョコをわたしとベレに渡す。
「バイザー、どうしてわたし達にチョコをあげるの」
「あんたもあたし達と同じマッドハッターでしょ?」
「女の子が女の子にチョコをあげるのもバレンタインの醍醐味さ、この場合は友達にあげるチョコという意味で……」
「ありがとう、でも女王様からチョコ献上の通達が来たらへこむわよ」
「今年こそ手作りチョコで彼氏がゲットできると思ったのに」
「常に美味しいものや楽しいことを求めているハートの女王だからね。だからと言って女王様に逆らうのはオススメしないよ」
「うんうん、女王様の機嫌を損ねればもれなく極刑が科せられるのよね」
「内容は性的なお仕置きだけど、夫のいない住人にとっては甘味のないビターチョコ」
「魔王様、どうしてわたし達二人にこんな試練を」
「あたし達はただ、彼氏が欲しかっただけなのに」
「通達が来たのはカウとベレだけじゃないよ、リコちゃんにも通達が来たんだ」
「リコちゃんにも」
「あたし達と同じ通達が?」
「そうだよ、おっ、噂をすれば」
バイザーが、子供サイズの燕尾服を着た二人組に気づく。
「例え命を懸けても、リコとそのチョコはオレが守ってやる」
「そんなに無理しなくていいよ。コーンがいないとチョコを渡せないから」
「そんな弱気でどうする!」
「おかーさんがコーンを心配する気持ちがわかる気がしてきた……」
「リコちゃん、リコちゃん」
「あ、バイザーさん」
「二人とも今から女王様の城へ行くんだよね?」
「はい、女王様から通達がありまして」
「よぉバイザー、今日はここで売り子の仕事かよ」
「そうだよコーン、お菓子を切らしたテーブルに義理チョコを補充する役目があるのさ」
「本命じゃないかよ、仕事一筋は相変わらずだな。こっちは朝から晩までチョコと一緒にリコを食べちゃう予定だったのに女王のせいでパーだよ」
「女王様って白状ね、カウ」
「そうねベレ。こんな小さい子にもチョコを献上しなきゃならないなんて」
「ううん、このチョコは女王様にはあげません」
「そうだぜ、リコのチョコはオレが貰うのは当然だろ」
「え、あげないの?」
「それ本気?」
「本気も何も、昨日のメールには……」
リコちゃんが通信端末を取り出し、昨日のメールの全文をわたし達に見せた。
「女王様の目の前で」
「想い人に直接渡せば献上を免除する?」
「うん、だから女王様の前で、コーンにチョコを渡すの」
「っていうかお前ら、メールを最後まで読まなかったのかよ?」
「「うっ」」
「その顔は図星だな。今頃選ばれた未婚の住人はチョコを渡す相手を血眼で捜してると思うぜ?つまりこんな所でモタモタする暇があったら、男を捜しに出かけたほうがいいぜ?」
「ぐぬぬ…」
「うぐぐ…」
「まっ、せいぜい女王の城へ強制転送される前に男をゲット出来ることを祈ってるぜ。行こうぜリコ……リコ?」
リコちゃんがわたし達の前に立ち
「あ、あの、二人にもきっと自分にとっての王子様が見つかります、だから――」
その小さな口から大きな声で
「だから、がんばってください!」
わたし達を激励してくれた。
用事を終えたリコちゃんはコーンの許へと戻る。
「リコ、自分にとっての王子様ってオレのことか〜?」
「うん、そうだけど」
「このこの、オレのどこが王子様に見えるんだ?」
「えっとね……かっこよくて、強くて、わたしを守ってくれて……」
「おいおい、エロありが抜けてるぞ、「コーンのテクニックが気持ちよすぎて変になっちゃうよ〜」とか言ってたのは誰だったかな?」
「う〜恥ずかしいことを思い出させないでよ」
「「リコちゃん…」」
「おーい二人とも、くれぐれもリコちゃんにチョコを渡すのは反則だよ。リコちゃんとコーンは立派な夫婦なんだから」
「ち、違うわよ、バイザー!」
「あんな可愛い子に激励されたら心が安らぐのは当然よ!」
「ベレ、今日中に彼氏を見つけるわよ!」
「カウ、燃えてきたわ!素敵な彼氏を見つけて、コーンの鼻をあかしてやるわ」
「「女王様の呼び出しを食らう前に、この手作りチョコで彼氏を見つける!」」
「そうそうその調子だよ二人とも。僕はここで一口サイズのチョコをみんなに配っているから」
「早速、ワープスポットで城下町へ行くわよ」ピューン
「思い立ったが吉日よー!」ピューン
※城下町※
「「城下町へ到着!」」
「いつもより住人が多いわね。女王様にチョコを献上しに来たのかしら」
「それだけじゃなさそうよ。ほら」
「え、チョコと一緒にアタシも食べたいの?」
マーチヘアは言葉を曲解させて襲う口実をつくり
「どうぞムニュニュ、チョコですムニャムニャ」
ドーマウスは情欲を掻き立てるように誘い
「貴様、チョコは持ってきたか!」
ジャバウォックは逆にチョコをくれる男を探している
「はい、お近づきのしるしにチョコをどうぞ」
チェシャ猫は案内に混ざってちゃっかりチョコを渡す
「わたし達と同じように未婚の男をゲットする住人が多いわね」
「モニターには女王の城の様子が中継されているよ」
『今日はバレンタイン!不思議の国の住人達が想い人にチョコを渡す日!』
男性リポーターがハイテンションでリポートをしている。
『同時に不思議と快楽をくれたハートの女王にチョコを献上する日でもあります!玉座の様子を見てみましょう!』
『早速じゃが、余にチョコを献上するのじゃ』
『今、ハートの女王がチェシャ猫にチョコを献上するよう命じているところです!』
『どうした、持ってきておるじゃろ?』
『女王の前に隠し事は通じませんよ?』
『執事のジャバウォックにせかされ、チェシャ猫がチョコレートを取り出します。ハート型の箱にピンクのリボンでラッピングされてますね!』
『にゃっ、あそこに全身チョコをコーティングした白ウサギがダンスしてる!』
『何じゃと!?』
『今にゃ!』
『あっ、チェシャ猫が逃走します!』
『――なんて嘘に引っかかると思ったか?』
『にゃあっ、何にゃこの触手は』
『目の前に触手が現れ、チェシャ猫を捕らえました』
『どうじゃ、逃走者を出さぬために飼い馴らした触手じゃ』
『女王様が餌付けとしてチョコを与えた甲斐がありましたね』
『触手の多くは逃走して野生化したがのう』
『触手がチョコを取り上げ、ラッピングを丁寧に剥がします!触手の一本を使ってチョコの上に白い文字を描きます』
『うむ、「アイラブ女王様」とは、お主は気が利くのう。ほれ、少しだけ分けてやるのじゃ』
『触手にチョコを分け与える、これが女王様の優しさです!』
『にゃあ〜ん、おみゃんこをずぼずぼしにゃいでぇ』
「いや、ただの気まぐれでしょ」
「傍らでチェシャ猫が触手責めにあってるし」
『女王様がチョコを齧りながら、情報端末で別世界の様子をチェックしているようです!』
『あー、どいつもこいつも、「チョコほしい」だの「彼女ほしい」だの「リア充爆発しろ」だのと、嘆きおって』
『女王様、かの者らも不思議の国へ招待させますか?』
『うむ、鬱陶しい嘆きをいやらしい喘ぎに変えてやるのじゃ――』
「女王様の独断と偏見で男をこの国に招待してるわね」
「ここにも未婚の来訪者が現れても不思議じゃないわ」
「ちくしょー!バレンタインデーなんて大嫌いだぁぁぁぁ!」
「早速来訪者が現れたわね」
「どこからともなくね」
「2月14日、ナンデスカソレ〜」
別の方角からは覚束ない足取りでふらつく男が現れる。
「今こそ、静かな狂人と呼ばれるマッドハッターの腕の見せ所」
「未来の彼氏をゲットするわよ」
「行くわよ、カウ」
「ベレこそね」
わたしとベレは二人の男に向かって走り出す
しかし、床が突然動き出し、ターゲットが遠ざかる。
「不思議の国の仕掛け!?」
「こんな時に限って」
「君にチョコをあげる!?」
「私達の愛を受け取って」
その間にも二人のマーチヘアが男二人にチョコを差し出す
「「2月14日が、やってきた……」」
「ヤってキタ―!?」
「ヤりたんだね!?そうなのね!?」
動く床が停止するが、時すでに遅し
「あんっ、あんっ」
「はぁぅ、いくっ」
マーチヘア達は立位バックの姿勢で突かれ、共に大きな胸を弾ませ
「チョコだけじゃなく、まさかエッチも出来ると思わなかった」
「もう、この娘以外のチョコには興味ねーよ」
先程までの態度なんてもう忘れたかのように、ニヤニヤしながらチョコを租借する男達の姿がそこにあった。
「くっ、あと少しだったのに」
「カウ、次行くわよ!」
※
「中々見つからないわね」
「諦めちゃだめ、来訪者の情報をチェックしよう」
ベレの助言で、わたしは大型モニターをチェックする。
だが、間の悪いことにモニターは中継の真っ最中だった。
『此方は女王様にチョコを献上する住人達の行列です。昨日の通達を受けた住人がチョコを持って並んでおります。マッドハッターのカップルさんに聞いてみました!』
「リコちゃん達だ」
『そこの可愛らしい顔をしたお嬢ちゃん、マッドハッターなりの工夫はありますか?』
『えっ?わたしですか?』
『やはりごく自然な感じでチョコを渡しているとか』
『えっと確か……マッドハッター特製のシロップ入りチョコを渡すそうです』
『特製のシロップ!?』
『そのシロップにはマッドハッターの胞子が入っているらしくて、食べればシロップと共に胞子が体内に入るそうです』
『なるほど〜では、そのシロップはどこから採取しているのかな〜?』
『そ、それは……』
『採取も何も、シロップはマッドハッターの唾『ちょっとコーン、堂々と言わないでよ。思い出すだけで恥ずかしいよ〜』
『以上、現場からのリポートでした!』
「リコちゃんも大変ね…」
「ねぇ、あっちにいい香りと素敵な音色が聞こえるわ」
ベレが指す方角を振り向くと
紅葉色の葉が生い茂る木が生えてきた。
「まさかあれはガンダルヴァの木!」
「あの木の下で告白すると恋愛が成就される伝説の木」
「毎年数十組のカップルがあの木の下で、処女や童貞を捧げるといわれている」
「葉の香りだけでも、ガンダルヴァの香気と同様の効能を持つから――」
「シャー!まさにチャンス!」
「あん、この誘われるような香気は、これが男の匂いだったら…」
「香り〜香り〜」
「男を誘う香気を身に纏うこそジャバウォックの誇り」
突如現れた木に住人達は一斉に群がる。
わたし達も香りに引き寄せられるかのように住人たちに続く。
木の麓へたどり着くと、無数の木の枝が襲い掛かり
「わっ、箱が木の枝に絡まった」
「たいへん、チョコが」
枝が柔軟にチョコを絡ませチョコを奪う。
「このベタベタした感触――これはガンダルヴァの木じゃない」
「無数の触手が集まって木に擬態しているんだ、まるで子宝宝樹のように」
「フーッ!チョコを横取りするな!」
「やぁん、いやらしい触手ね。これが男のアレだったら…」
「チョコ〜チョコ〜」
「精魂込めて作ったチョコを返せ」
仕掛けに巻き込まれた住人達が次々とチョコを奪われてゆく。
触手の口が開き、奪ったチョコを食べる。
「まさか、女王様がチョコで餌付けした触手が野生化したの」
「チョコの香りと味を覚えたから、住人からチョコを奪おうとしているのだわ」
美味しいチョコのお返しとして、住人達に粘液を吹きつける。
「ニャー、あったかい粘液だ」
「いやん、ネトネトした液体ね。これが男の精だったら…」
「粘液〜粘液〜」
「こんなにいやらしい粘液をくれるなら、チョコの一つや二つくれてやる」
粘液の媚薬効果なのか、住人達がチョコのことをすっかり忘れ、次々と触手にその身を預けてゆく。
「このままじゃわたし達も」
「そんなことさせるものか」
わたし達は力ずくで触手を引き剥がし、チョコを取り返す。
「やったチョコを」
「取り返したわ!」
安心したもつかの間、周囲の景色が歪んでいき――
※女王の城・通路※
「あれ?」
「ここは」
「どうやら抽選で選ばれた住人が強制的に城へと転送されたようです!」
モニターで見かけた男性リポーターが、わたし達の目の前に現れる。
隣には彼の妻らしき女性がカメラを片手に撮影している。
「とうとう間に合わなかった……」
「仕方ないわよ、だけどこのチョコを女王様にあげるのは……気が進まない」
「さあさあ、この扉を開ければ、女王様がいる玉座です!」
重厚な扉が開く
「よく来たのう」
「ハートの女王様のお出ましです!」
「一見、白髪のアリスをイメージさせる子供のような容姿ですが、彼女こそ魔王様の娘!魔界第三王女にして、この不思議の国を建国したリリムなのです!神に等しい膨大な魔力と類まれなる魔術の才を持ち、国中に設置された仕掛けは全て彼女が設置したものと言われております!」
「説明ご苦労じゃった。リポーターよ」
「お褒めにいただき光栄です!」
「じゃが、少々ウザイから極刑部屋送りじゃ」
「えっ、ちょ
女王様が錫杖を振ると、その場からリポーターが消えた。
妻も一緒に消えたので、夫婦共々性的に気持ち良い刑が科せられるだろう。
「前の子供達が終わりましたら、お二人の番なのでしばしのお待ちを」
執事服を着たジャバウォックがわたし達に待機を命じる。
「前の子供達って」
「もしかして」
「では、リコよ。コーンに本命チョコを渡すのじゃ」
リコちゃんとコーンだった。
「は、はい…」
リコちゃんは顔を赤らめながらコーンにチョコを渡す。
「あ、ありがとう…」
リコちゃんからのチョコを受け取るコーン。
コーンもまんざらじゃないようで、リコちゃん程ではないが照れている。
パチパチパチパチ……
周囲から暖かい拍手
「ふむ、実に理想のカップルじゃ」
女王様もご機嫌。
「では、気まぐれに二人に『バロメッツの刑』を命じよう」
女王様が錫杖を振りかざすと、
「きゃっ」ズブブブ
「リコ!?」ズブブブ
二人の足元からバロメッツの果肉が現れて――
「何これ、プルプルしてる」
「抜け出せない…」
「ひゃっ、コーン、腰を動かさないで」
「違う、果肉の弾力で腰が動いて」
「はむっ、あれ、甘い」
「リコ?」
「コーンの身体から甘い味がする…」ペロッ
「不思議だ、リコの身体が甘い……」ペロッ
「愉快じゃのう、子供二人が互いの身体を貪り、深い口づけを交わす姿、想い人の身体こそ最高じゃな。よし二人ともそのまま下がるが良い」
ボヨンボヨン「ひゃっ、移動の振動で余計腰が弾んで」
ボヨンボヨン「リコ、オレもう我慢出来ない」
ボヨンボヨン「まって、そんな乱暴に脱がせないで」
ボヨンボヨン「行くぞ、リコ…あうっ」
リコちゃんとコーンは互いに腰を振りながら、女王の間を後にする。
「女王様の機嫌を損ねれば、極刑を科せられるけど」
「そうでなくても気まぐれに極刑が命ぜられるのよね」
「次はマッドハッターの二人組か、前に出るのじゃ」
女王様がわたしとベレを指名。わたしとベレは女王様の前に立つ。
「では、余にチョコを献上するのじゃ」
「はい」
「これです」
わたし達は賭けとして、バイザーから貰ったチョコを女王様に差し出す。
「慌て者じゃのう、それは貰ったチョコではないか。枯草色の燕尾服の右ポケット、若草色のズボンの左ポケットにそれぞれお主らが作ったチョコが入っておるじゃろう」
賭けは失敗。これ以上の誤魔化しは無理と判断。
わたしは女王様から指摘された燕尾服の右ポケットから、ベレはズボンの左ポケットからチョコレートを取り出す。
「では、そのチョコを余に献上するのじゃ」
だけど、せめて最後まで悪あがきをさせて貰うわ――
「女王様、このチョコは女王様に献上できません」
「何?」
女王様の表情が険しくなる。
「このチョコレートは、この場で他の人に渡すつもりでした」
「ん?渡す奴がおるのか。どこにおる」
わたしはベレに
ベレはわたしに
「「友チョコなんです!」」
手作りチョコを差し出した。
「女の子から女の子へ、つまり友にあげるチョコなら仕方ない。二人とも献上は免除してやるから下がるが良い」
「「はい…」」
「あと折角じゃから、お互いの友チョコを食べておけ、チョコは想い人に食べて貰うからこそ作る意味があるからのう」
「「はい…」」
ベレはわたしのチョコを口に含む。
わたしもベレが作ったチョコに歯を当てて――
こうして、わたし達のバレンタインデーは幕を閉じた。
※タマゴの里※
「ただいま」パリポリ
「ただいま」モグモグ
「おかえり、大丈夫だった?」
バイザーがわたし達に無事を確かめる。
「うん、一応」パリポリ
「極刑だけは免れたわ」モグモグ
「良かった二人が無事で、リコちゃん達がバロメッツの果肉の中で淫らに交わりながら帰ってきた時は流石の僕もびっくりしたから……」
「そう、因みに今、バイザーの友チョコも食べてるわ」パリポリ
「バイザーの友チョコ美味しいね」モグモツ
「それは良かった。お返しなら一ヶ月後で」
「一ヶ月後?」
「一ヵ月後?」
「だって来月にはホワイトデーがあるからね、さて僕も来月に向けて準備をしないと」
「チョコの補充お願いしまーす」
「はーい」
バイザーは元気よくチョコの補充へと向かう……
「そうよ、ホワイトデーよ!」
「世間一般じゃ、バレンタインデーのお返しをする日だけど」
「不思議の国では未婚の住人が、それと関係なく来訪者に(性的な)プレゼントを渡して交わりを要求する日よ」
「過去数百年間の調査では、バレンタインデーの次に年間来訪者が多いと言われている」
「カウ、こうしちゃいられないわ」
「来訪者に渡すプレゼントを考えなくちゃ」
わたし達の戦いはこれからだ!
※おわり※
15/02/14 05:39更新 / ドリルモール