紅茶香るばいく屋と紅茶飲ませる眠り鼠
Μ不思議の国・キョウシュウマウンテン第三階層頂上Μ
Μ初太視点Μ
「俺達は下山した筈だろ?下り坂に向かって歩いてたし」
「深いクレーターだと聞いてましたが、山を下ってると勘違いするほど深かったなんて……どうしましょう、どうしましょう」
マドラがお嬢様口調へ戻るほど冷静さを失っている。
どうする?
こんな時、せんせーだったら……きっとこうする。
俺は何も言わずマドラを後ろから抱きしめる。
腕の温もりが伝わるくらいぎゅっと。
「初太……」
「また登ればいい」
「えっ」
「クレーターを下りたなら、クレーターを登って、今度こそ山を下りればいい」
マドラが俺の手を握る。
「だから一緒に行こう」
「はい」
マドラが微笑む。
「この手は絶対離さないからな」
俺はマドラを連れて歩き出す。
歩いた先に建物が建っていた。
「こんな所に家なんてありましたかしら……イタッ……初太、手を強く握りすぎです」
「ごめんマドラ、目の前に俺の家が現れたから…」
「えっと、わたし達の家とは違うような……?」
「俺達がせんせーと暮らしていた家だ」
「そうなのですか?」
「それだけじゃない。周りに建ってる家も、道路も、ミラーも、何もかも同じだ。俺は――」
「故郷へと帰ってきたんだ」
Μばいく屋Μ
Μ満知子視点Μ
店に入ると、紅茶の香りが漂ってきた。
「店の奥に微かかニャがら初太の精の痕跡を感じますニャ…」
「紅茶の香りしかしないけど?」
「魔物娘は男性から放たれる精を認識することが出来ますニャ…」
「確かにへーくんの匂いなら判るけどさ」
「チェルは庭師の仕事をしてますから匂いに敏感ですニャ…」
「店の奥って言ってもどこまで歩けばいいのよ」
参ったわ
小売店のような外見と裏腹に店内は大型店すら狭く感じるほど広く、左右に隙間なくぎっしりと並べられたばいくが連なっていた。
「ばいく一台一台に値札、車種と備考が手書きで書かれているわね」
「オレ達の故郷にありそうなばいくばっかりだな」
「参ったわ、ばいくに詳しくないアタシでも、見覚えのあるメーカーばかりじゃない」
「ここでは古今東西あらゆるばいくが千台以上展示・販売されてますニャ…」
「流石不思議の国、別空間にばいく千台あっても不思議じゃないわね」
「それだけ轟店長はばいくにうるさい人ですニャ…」
「轟店長?」
「この店の店主で、頑固者で有名な人ですニャ…それはもうばいくニャんてどれも同じと言ったら、平地を走る「おんろーど」と障害物を楽々進める「おふろーど」を一緒にするニャと…」
「確かに知らない人から見たらばいくなんて同じように見えモゴモゴ」
チェルが強引にアタシの口を塞ぐ。
「ニャ-!轟店長の耳に入ったらマズイですニャ!下手したらニャン時間もばいくについて聞かされて案内どころじゃニャくニャりますニャ!」
「ムー!ムー!」
「道理でばいく屋に行く話になってから、チェルちゃんの元気が無いと思ったよ」
「ムー!ムー!(へーくん、一人で納得してないで助けてよ!)」
「見ろよ、整備用の工具箱やパーツが置かれた棚、隣には作業机もあるぞ。轟店長のばいく愛が伝わってくるぜ」
「その通りですニャ、流石お目が高い」
チェルの手がアタシの口から離れる。
「ゼェー、ハー」
「満知子、大丈夫か?」
「……うん」
「とりあえず奥に進もうぜ」
少し歩くと休憩所らしき場所を見つけた。
「ふーん、椅子三つに簡易テーブルが一つ。本棚にあるのはばいく漫画か……店員同士が気軽に話し合いをする場所って感じだな」
「参ったわ、お茶会には向かない場所ね」
「見ろよ満知子、壁一列に魔導写真入りの額縁が並んでるぞ」
一番手前の写真はボロボロの作業着を着た男性と幼い魔物が写った写真。
下には『ばいく屋開店記念 轟走助 轟ドリフト』と書かれてある。
「仲良し父娘って感じね」
「いえ、彼女は轟店長の奥さんですニャ。種族はドワーフで、一見幼い容姿ですが立派な成人ですニャ」
「そうなの!?」
「良かったな満知子、満知子以上の合法ロリな種族がいモゴモゴ」
アタシはへーくんの口を抑えながら写真見学していると、アタシ達にこの店を紹介してくれたばいく愛好家、ライドが写っていた。
「彼も常連客なのね」
「プハッ、隣にはライドと花嫁姿のバックもいるぞ」
「他にも夫婦で写っているものが沢山あるわね」
「こっちはつぶらな瞳が特徴のオークが四つん這いで騎乗されてるぜ」
「夫の方は何だか運命的な出会いをしたって顔をしてるわ」
「青いヘルメットを被ってるから表情は判らないけどな」
「いいじゃない、ポジティブな妄想をしたって」
他にも様々なカップルが飾られていて、眺めるだけでもこの店の歴史が伝わってくる。
と、他とは違う写真がアタシの目に止まった。
「『新人研修』?」
目新しい作業着を着た女性がゾンビの体を洗っている。
頭に角、お尻に尻尾、腰辺りに翼というアリスと同じ容姿をしているが、アリスよりも大人っぽく、アタシ達と歳が近いかもしれない。
「他にもゾンビに服を着せたり、パフで化粧をしたりする写真もあるわね」
その女性の仕事ぶりが月毎に撮影されているようた。
「ここからは三年目ね、あれ?」
『命名・ワクス』
彼女が整備しているゾンビの女性が美しくなっていた。
もしばいくが集まる車交界があるとしたら、四つん這いで走る彼女の姿に皆が振り向く妄想が浮かぶ。
「満知子、最近の写真だ」
最近の日付が入った写真全てに四つん這いのドーマウスが写っていた。
ドーマウスに乗る兵士
ドーマウスに乗る弓兵
ドーマウスに乗る術師
ドーマウスに乗る勇者
ドーマウスに乗る(r
「すげーな、四つん這いラッシュだぜ」
「よく考えてみたらさっきのゾンビといい、何で四つん這いの魔物娘が多いのよ?」
「それは彼女達がばいくになりきってるからよ」
振り向くと写真の女性が立っていた。
「おおー、綺麗なねーちゃんだな。背も高くて胸も大きい」
「君は確かバリスだよね。前に競技場の大会で一着でゴールした」
「コルヌさん、私のことを覚えていたのですか」
「勿論さ」
「改めてここで整備士をやってますバリスです。種族はサキュバス」
「アリスじゃないの?」
「お母さんがアリスだけどね」
「道理で外見にしては菓子を食った感じがしないなと思ったぜ。もし良ければその胸に詰まった天然の感触を確かめモゴモゴ」
「ところでさっき言ってばいくって?」
「たまに四つん這いの客がばいくとして店頭に並べてくれと頼むのよ」
「プハッ、じゃあ店のどこかにばいくに成りきった魔物娘がいるのか、是非とも見てぇ!」
「何なら見学してみる?」
「いいのか?」
「へーくん、初太の手掛かりを探してる最中でしょ?」
「ボクからもお願いします」
「コルヌさんまで!?」
「満知子ちゃん、ライドが言ってたことを思い出して」
「そうだった……お願いします、見学させてください」
「じゃあ私についてきて」
バリスさんはポリタンクを片手に、アタシ達を案内する。
「見ろよ満知子、ばいくのポスターもあるぞ」
少し歩くと壁一列にポスターが貼られていた。
「ばいく以外にも広告のポスターもあるわね。飛脚運送やお菓子のカフェもあるわ」
「キャンディー恋愛相談所、恋愛以外の相談も受け付けてるってさ」
「こっちは『白百合の花園』という、女の子二人と百合畑のポスターか」
「ニャ-!カミラ様、許してニャ!」
「どうしたの?チェル」
「ごめんニャさい、条件反射でつい…」
「これは……地民プール?」
そのポスターには『皆の衆、泳ぐのじゃ』と書かれた髪が白いアリス(スク水着用)がプールから顔を出していた。
「それはハートの女王バージョンですニャ」
「ハートの女王……この国を治める女王様のことよね」
「そうですニャ、この国を作った主ですニャ」
「ふーん……もしかしたら女王様なら」
「スゲー、魔物娘が四つん這いになってる」
へーくんの視線の先には
魔物娘が四つん這いの姿勢で並んでいた。
「一番手前の女性って写真で見たゾンビよね」
「彼女はワクス、私にとって初めての相手よ」
「は、初めて?」
「見習いとして雇われて初めて整備を任されたばいくよ」
「あっ、そういう意味ね」
「満知子〜一体ナニを想像したのかな〜?」
「へーくんは黙ってて」
「誤解されるのも無理わ、ゾンビだった頃は何度も私に襲いかかってきてね。わっくすで体を磨いていると大人しくなるの」
「大変ですね、ん?ゾンビだった?」
「鋭い、わっくすで何度も磨くうちに、ある日ワイトに変化したの。あの時の感動は昨日のことの様に思えるわ」
「感動的な話ね、へーくんもそう思うでしょ?」
「……九匹か。多いな」
「へーくん、話聞いてた?」
「悪い聞いてなかった、妙にドーマウスが多くてさ」
「そうなの?」
「それとドーマウスの大半が、服がダボダボだ」
「あはは、次々と入荷されるからカスタムが間に合わなくてね……」
バリスさんが苦笑いをしていると
「貴様がコルヌだな!」
女性兵士があらわれた。
「脱出チケットを寄越せ!」
「うーん、寄越せと言って寄越す人はいないよ」
「だったら力づくで奪うのみ」
突撃する女性兵士に、コルヌはヒョイッ、と軽く避ける。
「ダメだよ、店の中で暴れたら」
「うるさい、仲間さえいれば貴様なんか……む?」
女性兵士がドーマウスばいくに気づいた。
「おおっ、よく見れば我が同胞達ではないか」
女性兵士がドーマウスばいくに近寄る。
「ダメよ近づいちゃ!」
バリスさんが彼女を止めようとするが
「邪魔だっ!」ドンッ
「きゃっ」
素手で突き飛ばされた。
「大丈夫かい?」
「ありがとうコルヌさん」
「子供化されて捕虜になっていたとは、我が同胞達よ、今こそ立ち上がる時だ!」
彼女の一喝にドーマウス達が立ち上がる
「おおっ、応えてくれたか、今こそ一致団結して、あの女を」ガシッ
ところがドーマウス達は女性兵士を取り押さえ
「寝ぼけているのか?取り押さえる相手が違うぞ!」
ドーマウスの一体がバリスさんが運んでいたポリタンクに給油ポンプをセットし、ポンプの先端を女性兵士の口内へ突っ込み
「紅茶、満タン入りまーす」
中身を無理矢理飲ませた。
「ごほっ、何、この紅茶、甘い」
ドーマウス達が満面の笑みで
「もうすぐ私達の仲間に〜」
「なれるよ〜」
「あれ、眠くなって……」
女性兵士の身体が縮みはじめ、頭から丸い耳、お尻から細長い尻尾が生え
「ふわ〜」
ドーマウスへと変化した。
「うにゅ…」
女性兵士は四つん這いの姿勢をとり、サイズが合わずダボダボになった服を引きずりながら店内を這い回る。
「隣空いてるよ〜」
「わかった〜」
女性兵士がドーマウス達の横に並ぶ。
「ああ〜またドーマウスばいくが入荷しちゃった〜どうして女ばっかり来るの〜男だったら買い取ってもらえるのに〜」ダンダン
地団駄を踏むバリスさん。
「バリスさん、パーツの搬入が終わりましたの」
突如後ろから可愛らしい声がした。
声の主は白髪の少女だった。
あれ、この娘、どこかで見覚えが……?
「……どうしましたの?」
「またドーマウスばいくが増えちゃって…よりによって轟店長達の出張中に、店長になんて説明したら…」
「起こってしまったことは仕方ありませんの、落ち込む暇があったら新しい服をカスタムしたほうがいいですの」
「そう、ですね…どうもすみません、優しい女王様」
「……女王様!?」
言われて気づいた。
地民プールのポスターに写るアリスが目の前にいるではないか。
女王様なら初太達の行方が判る筈。
「お願いします女王様、友達の居場所を教えてください」
アタシは女王様に頭を下げる。
「えっ、それは……ちょっと」
だが、女王様は難色を示している。
「この世界は女王様が作ったと聞いています。だから女王様なら友達の居場所がわかるはずです」
アタシは深々と頭を下げるが
「あたしは女王様だけど女王様じゃありませんの」
「はい?」
意外な返事だった。
女王様の身体が光り、ポスターの人物とは似ても似つかない黒づくめの少女へと変わる。
「キャンディー恋愛相談所の所長、ドッペルゲンガーのキジコですの、以後お見知り置きですの」
Μ続くΜ
Μ初太視点Μ
「俺達は下山した筈だろ?下り坂に向かって歩いてたし」
「深いクレーターだと聞いてましたが、山を下ってると勘違いするほど深かったなんて……どうしましょう、どうしましょう」
マドラがお嬢様口調へ戻るほど冷静さを失っている。
どうする?
こんな時、せんせーだったら……きっとこうする。
俺は何も言わずマドラを後ろから抱きしめる。
腕の温もりが伝わるくらいぎゅっと。
「初太……」
「また登ればいい」
「えっ」
「クレーターを下りたなら、クレーターを登って、今度こそ山を下りればいい」
マドラが俺の手を握る。
「だから一緒に行こう」
「はい」
マドラが微笑む。
「この手は絶対離さないからな」
俺はマドラを連れて歩き出す。
歩いた先に建物が建っていた。
「こんな所に家なんてありましたかしら……イタッ……初太、手を強く握りすぎです」
「ごめんマドラ、目の前に俺の家が現れたから…」
「えっと、わたし達の家とは違うような……?」
「俺達がせんせーと暮らしていた家だ」
「そうなのですか?」
「それだけじゃない。周りに建ってる家も、道路も、ミラーも、何もかも同じだ。俺は――」
「故郷へと帰ってきたんだ」
Μばいく屋Μ
Μ満知子視点Μ
店に入ると、紅茶の香りが漂ってきた。
「店の奥に微かかニャがら初太の精の痕跡を感じますニャ…」
「紅茶の香りしかしないけど?」
「魔物娘は男性から放たれる精を認識することが出来ますニャ…」
「確かにへーくんの匂いなら判るけどさ」
「チェルは庭師の仕事をしてますから匂いに敏感ですニャ…」
「店の奥って言ってもどこまで歩けばいいのよ」
参ったわ
小売店のような外見と裏腹に店内は大型店すら狭く感じるほど広く、左右に隙間なくぎっしりと並べられたばいくが連なっていた。
「ばいく一台一台に値札、車種と備考が手書きで書かれているわね」
「オレ達の故郷にありそうなばいくばっかりだな」
「参ったわ、ばいくに詳しくないアタシでも、見覚えのあるメーカーばかりじゃない」
「ここでは古今東西あらゆるばいくが千台以上展示・販売されてますニャ…」
「流石不思議の国、別空間にばいく千台あっても不思議じゃないわね」
「それだけ轟店長はばいくにうるさい人ですニャ…」
「轟店長?」
「この店の店主で、頑固者で有名な人ですニャ…それはもうばいくニャんてどれも同じと言ったら、平地を走る「おんろーど」と障害物を楽々進める「おふろーど」を一緒にするニャと…」
「確かに知らない人から見たらばいくなんて同じように見えモゴモゴ」
チェルが強引にアタシの口を塞ぐ。
「ニャ-!轟店長の耳に入ったらマズイですニャ!下手したらニャン時間もばいくについて聞かされて案内どころじゃニャくニャりますニャ!」
「ムー!ムー!」
「道理でばいく屋に行く話になってから、チェルちゃんの元気が無いと思ったよ」
「ムー!ムー!(へーくん、一人で納得してないで助けてよ!)」
「見ろよ、整備用の工具箱やパーツが置かれた棚、隣には作業机もあるぞ。轟店長のばいく愛が伝わってくるぜ」
「その通りですニャ、流石お目が高い」
チェルの手がアタシの口から離れる。
「ゼェー、ハー」
「満知子、大丈夫か?」
「……うん」
「とりあえず奥に進もうぜ」
少し歩くと休憩所らしき場所を見つけた。
「ふーん、椅子三つに簡易テーブルが一つ。本棚にあるのはばいく漫画か……店員同士が気軽に話し合いをする場所って感じだな」
「参ったわ、お茶会には向かない場所ね」
「見ろよ満知子、壁一列に魔導写真入りの額縁が並んでるぞ」
一番手前の写真はボロボロの作業着を着た男性と幼い魔物が写った写真。
下には『ばいく屋開店記念 轟走助 轟ドリフト』と書かれてある。
「仲良し父娘って感じね」
「いえ、彼女は轟店長の奥さんですニャ。種族はドワーフで、一見幼い容姿ですが立派な成人ですニャ」
「そうなの!?」
「良かったな満知子、満知子以上の合法ロリな種族がいモゴモゴ」
アタシはへーくんの口を抑えながら写真見学していると、アタシ達にこの店を紹介してくれたばいく愛好家、ライドが写っていた。
「彼も常連客なのね」
「プハッ、隣にはライドと花嫁姿のバックもいるぞ」
「他にも夫婦で写っているものが沢山あるわね」
「こっちはつぶらな瞳が特徴のオークが四つん這いで騎乗されてるぜ」
「夫の方は何だか運命的な出会いをしたって顔をしてるわ」
「青いヘルメットを被ってるから表情は判らないけどな」
「いいじゃない、ポジティブな妄想をしたって」
他にも様々なカップルが飾られていて、眺めるだけでもこの店の歴史が伝わってくる。
と、他とは違う写真がアタシの目に止まった。
「『新人研修』?」
目新しい作業着を着た女性がゾンビの体を洗っている。
頭に角、お尻に尻尾、腰辺りに翼というアリスと同じ容姿をしているが、アリスよりも大人っぽく、アタシ達と歳が近いかもしれない。
「他にもゾンビに服を着せたり、パフで化粧をしたりする写真もあるわね」
その女性の仕事ぶりが月毎に撮影されているようた。
「ここからは三年目ね、あれ?」
『命名・ワクス』
彼女が整備しているゾンビの女性が美しくなっていた。
もしばいくが集まる車交界があるとしたら、四つん這いで走る彼女の姿に皆が振り向く妄想が浮かぶ。
「満知子、最近の写真だ」
最近の日付が入った写真全てに四つん這いのドーマウスが写っていた。
ドーマウスに乗る兵士
ドーマウスに乗る弓兵
ドーマウスに乗る術師
ドーマウスに乗る勇者
ドーマウスに乗る(r
「すげーな、四つん這いラッシュだぜ」
「よく考えてみたらさっきのゾンビといい、何で四つん這いの魔物娘が多いのよ?」
「それは彼女達がばいくになりきってるからよ」
振り向くと写真の女性が立っていた。
「おおー、綺麗なねーちゃんだな。背も高くて胸も大きい」
「君は確かバリスだよね。前に競技場の大会で一着でゴールした」
「コルヌさん、私のことを覚えていたのですか」
「勿論さ」
「改めてここで整備士をやってますバリスです。種族はサキュバス」
「アリスじゃないの?」
「お母さんがアリスだけどね」
「道理で外見にしては菓子を食った感じがしないなと思ったぜ。もし良ければその胸に詰まった天然の感触を確かめモゴモゴ」
「ところでさっき言ってばいくって?」
「たまに四つん這いの客がばいくとして店頭に並べてくれと頼むのよ」
「プハッ、じゃあ店のどこかにばいくに成りきった魔物娘がいるのか、是非とも見てぇ!」
「何なら見学してみる?」
「いいのか?」
「へーくん、初太の手掛かりを探してる最中でしょ?」
「ボクからもお願いします」
「コルヌさんまで!?」
「満知子ちゃん、ライドが言ってたことを思い出して」
「そうだった……お願いします、見学させてください」
「じゃあ私についてきて」
バリスさんはポリタンクを片手に、アタシ達を案内する。
「見ろよ満知子、ばいくのポスターもあるぞ」
少し歩くと壁一列にポスターが貼られていた。
「ばいく以外にも広告のポスターもあるわね。飛脚運送やお菓子のカフェもあるわ」
「キャンディー恋愛相談所、恋愛以外の相談も受け付けてるってさ」
「こっちは『白百合の花園』という、女の子二人と百合畑のポスターか」
「ニャ-!カミラ様、許してニャ!」
「どうしたの?チェル」
「ごめんニャさい、条件反射でつい…」
「これは……地民プール?」
そのポスターには『皆の衆、泳ぐのじゃ』と書かれた髪が白いアリス(スク水着用)がプールから顔を出していた。
「それはハートの女王バージョンですニャ」
「ハートの女王……この国を治める女王様のことよね」
「そうですニャ、この国を作った主ですニャ」
「ふーん……もしかしたら女王様なら」
「スゲー、魔物娘が四つん這いになってる」
へーくんの視線の先には
魔物娘が四つん這いの姿勢で並んでいた。
「一番手前の女性って写真で見たゾンビよね」
「彼女はワクス、私にとって初めての相手よ」
「は、初めて?」
「見習いとして雇われて初めて整備を任されたばいくよ」
「あっ、そういう意味ね」
「満知子〜一体ナニを想像したのかな〜?」
「へーくんは黙ってて」
「誤解されるのも無理わ、ゾンビだった頃は何度も私に襲いかかってきてね。わっくすで体を磨いていると大人しくなるの」
「大変ですね、ん?ゾンビだった?」
「鋭い、わっくすで何度も磨くうちに、ある日ワイトに変化したの。あの時の感動は昨日のことの様に思えるわ」
「感動的な話ね、へーくんもそう思うでしょ?」
「……九匹か。多いな」
「へーくん、話聞いてた?」
「悪い聞いてなかった、妙にドーマウスが多くてさ」
「そうなの?」
「それとドーマウスの大半が、服がダボダボだ」
「あはは、次々と入荷されるからカスタムが間に合わなくてね……」
バリスさんが苦笑いをしていると
「貴様がコルヌだな!」
女性兵士があらわれた。
「脱出チケットを寄越せ!」
「うーん、寄越せと言って寄越す人はいないよ」
「だったら力づくで奪うのみ」
突撃する女性兵士に、コルヌはヒョイッ、と軽く避ける。
「ダメだよ、店の中で暴れたら」
「うるさい、仲間さえいれば貴様なんか……む?」
女性兵士がドーマウスばいくに気づいた。
「おおっ、よく見れば我が同胞達ではないか」
女性兵士がドーマウスばいくに近寄る。
「ダメよ近づいちゃ!」
バリスさんが彼女を止めようとするが
「邪魔だっ!」ドンッ
「きゃっ」
素手で突き飛ばされた。
「大丈夫かい?」
「ありがとうコルヌさん」
「子供化されて捕虜になっていたとは、我が同胞達よ、今こそ立ち上がる時だ!」
彼女の一喝にドーマウス達が立ち上がる
「おおっ、応えてくれたか、今こそ一致団結して、あの女を」ガシッ
ところがドーマウス達は女性兵士を取り押さえ
「寝ぼけているのか?取り押さえる相手が違うぞ!」
ドーマウスの一体がバリスさんが運んでいたポリタンクに給油ポンプをセットし、ポンプの先端を女性兵士の口内へ突っ込み
「紅茶、満タン入りまーす」
中身を無理矢理飲ませた。
「ごほっ、何、この紅茶、甘い」
ドーマウス達が満面の笑みで
「もうすぐ私達の仲間に〜」
「なれるよ〜」
「あれ、眠くなって……」
女性兵士の身体が縮みはじめ、頭から丸い耳、お尻から細長い尻尾が生え
「ふわ〜」
ドーマウスへと変化した。
「うにゅ…」
女性兵士は四つん這いの姿勢をとり、サイズが合わずダボダボになった服を引きずりながら店内を這い回る。
「隣空いてるよ〜」
「わかった〜」
女性兵士がドーマウス達の横に並ぶ。
「ああ〜またドーマウスばいくが入荷しちゃった〜どうして女ばっかり来るの〜男だったら買い取ってもらえるのに〜」ダンダン
地団駄を踏むバリスさん。
「バリスさん、パーツの搬入が終わりましたの」
突如後ろから可愛らしい声がした。
声の主は白髪の少女だった。
あれ、この娘、どこかで見覚えが……?
「……どうしましたの?」
「またドーマウスばいくが増えちゃって…よりによって轟店長達の出張中に、店長になんて説明したら…」
「起こってしまったことは仕方ありませんの、落ち込む暇があったら新しい服をカスタムしたほうがいいですの」
「そう、ですね…どうもすみません、優しい女王様」
「……女王様!?」
言われて気づいた。
地民プールのポスターに写るアリスが目の前にいるではないか。
女王様なら初太達の行方が判る筈。
「お願いします女王様、友達の居場所を教えてください」
アタシは女王様に頭を下げる。
「えっ、それは……ちょっと」
だが、女王様は難色を示している。
「この世界は女王様が作ったと聞いています。だから女王様なら友達の居場所がわかるはずです」
アタシは深々と頭を下げるが
「あたしは女王様だけど女王様じゃありませんの」
「はい?」
意外な返事だった。
女王様の身体が光り、ポスターの人物とは似ても似つかない黒づくめの少女へと変わる。
「キャンディー恋愛相談所の所長、ドッペルゲンガーのキジコですの、以後お見知り置きですの」
Μ続くΜ
14/12/15 23:08更新 / ドリルモール
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