こんなデーモンはどうでしょう?
「それでこの前、旦那に世界一の夫婦になろうって言われたの♪」
「あら♪素敵な夢ね。ンフフ、そういうの良いと思うわ」
紅茶を口に運び、デーモンのレアとヴァーミリアスはお互いの惚気話を楽しんでいた。
そんな2人を眺めながら、デーモンのガナドゥールは静かに紅茶のカップを置いた。
レアとヴァーミリアスはガナドゥールにとって先輩デーモンである。2人はかつて過激派として世界を魔界に変えるべく暗躍していた。しかし、お互い旦那として契約した人間の男性を得て以来、現場を離れ隠居生活という名の結婚生活を満喫している。レアは初陣で1つの国を魔界へと落とし、ヴァーミリアスは人間同士の紛争を止め、そのまま魔界へと変えた功績を持っている。そんな彼女達が第一線から身を引いた事実に動揺は走ったものの、旦那を得たとなれば止める者はいない。
そもそも、魔物娘にとって夫を得て愛し合う事は何よりも優先されるべき事であり、その祝福すべき事実に異を唱える者はいなかった。
しかし、ガナドゥールは異を唱えこそしなかったものの疑問を覚えていた。
そんなガナドゥールの態度に違和感を覚えたのか、2人は惚気話を止めた。
「ガナドゥール?どうしたの、体調でも悪いのかしら?」
「いえ、そういうわけでは…」
心配したのか、ガナドゥールの顔をレアが覗きこんでくる。ガナドゥールは頭を下げ苦笑した。
ヴァーミリアスは申し訳なさそうにティーカップを置き、机に置かれたガナドゥールの手に自分の掌を優しく包むように乗せた。
「人間界侵攻で貴女も疲れているわよね?ごめんなさい、こんな忙しい時に尋ねてしまって…」
「そ、そのような事はありません!ただ…」
謝るヴァーミリアスにガナドゥールは慌てた。
そんなつもりはない。この2人は自分にとって尊敬できる先輩だ。その2人が訪ねてくるというのなら疲れなど言い訳には出来ない。
それ以前にガナドゥールは人間界侵攻を苦に思った事は無い。
ガナドゥールという名は彼女の父親が付けた名であり、父親の故郷で「勝利する者」という意味だそうだ。その名の通り、彼女は人間界侵攻を何よりも好み、魔界へと変える事に至上の喜びを感じていた。勝利すると言っても人間を傷つける、命を奪うような事は絶対にしない。それはガナドゥールの最も忌むべき行為であり、血を流す勝利など勝利とは言えないと考えていた。
彼女が勝利する相手は人間の歴史であり、その上に人間と魔物娘の歴史を刻んでこそガナドゥールの考える勝利なのだ。
勝利こそ極上の快楽と考える彼女は他のデーモンだけでなく、魔物娘と違い愛する夫を得る事にそこまで執着していなかった。もちろん、全く興味が無いわけではない。それどころか、ガナドゥールだって想像上の旦那に想いを馳せる事はある。
しかし、そんな相手と巡り合った事は無いし、今は何より魔界を広げる事が最優先されるべきなのだ。
だからこそ気になった。
「ただ…その、誰かを愛するというのはどういう気持ちなのでしょうか?」
レアもヴァーミリアスも夫がいる。そんな2人だからガナドゥールの疑問に答える事が出来るだろう。
しかし、2人はその言葉に目を何度か瞬きし、レアはニンマリと意地悪く笑い、ヴァーミリアスはフフッ笑い口元に両手を当てた。
「そうねぇ…ンフフ♪とっても素敵な事よ?」
「レア様…そのように言われましても、自分にはよく分からないのですが」
「あら、当然でしょ?だってそれ以外に言いようがないし、私の夫への愛を言葉にする事は出来ないもの」
レアの言い様にガナドゥールはムッとしたが、何か言う前にヴァーミリアスがパンと手を叩いた。
「そうよ?愛は言葉にできないし、私達が何を言ってもガナドゥールは納得できないと思うわ」
「はぁ…」
「だ・か・ら♪」
ヴァーミリアスは何か思いついたようにニヤリと笑う。チラッとレアの方にも目をやると、レアはヴァーミリアスが何を思いついたのか察したようで意地の悪い笑みを浮かべた。
それはさながら悪戯を思いついた悪ガキのようだった。そして、ガナドゥールは哀れなターゲットだ。
気が付けば2対1であり、場の空気はあちらに流れている。
嫌な予感をガナドゥールが感じると、ヴァーミリアスが身を乗り出してきた。
「今から人間界に行って旦那様を見つけてくればいいのよ!」
「……はい?」
「うんうん♪それがいいわね、さすがはヴァーミリアス♪」
「ちょ、ちょっと待って下さい!自分は今、侵攻の準備中ですし、そんな暇は無いですよ!?」
「有休取ればいいじゃない。どうせ有休使ってないで貯まっているんでしょう?」
「そりゃあ…まぁ」
「だったら行ってきなさいよ♪旦那探しなら誰も文句は言わないわよ」
頭痛を覚える…
乗り気でないガナドゥールを尻目にレアとヴァーミリアスははしゃいでいる。
大体、夫を探しに行ってホイホイ見つかる事が愛だと言えるのだろうか?
いやいや、そんな筈がない。もっと愛というのはロマンチックで運命的な物である筈だ。
例えば……
「ガナドゥール?聞いてる?」
「…すいません、聞いていませんでした。でも、聞きたくないです」
妄想から引っ張り上げられ、ジィッと見つめてくるヴァーミリアスから顔を反らしながら呟く。何を話していたのかは知らないが、十中八九あまり嬉しくはない話だろう。
「もう貴方の部下、サキュバス達には連絡しておいたわよ」
「あぇ!?え、いつの間に!?」
「貴方がニヤニヤしている時に。善は急げって言うでしょ?」
速いよ。
早いじゃなくて速い。
「サキュバス達も喜んでいたわよ?ついに貴女も結婚するんだって」
「そんな勝手に…」
「…ねぇ、ガナドゥール」
レアがふとガナドゥールの瞳を覗きこむように顔を見つめてくる。
「貴女は何故戦うの?」
「何故って……」
レアの疑問にガナドゥールは言葉が詰まった。
戦う理由?そんなもの考えた事が無い。
「…戦うって手段であって目的ではないと思うわ。でも、貴女は逆。今の貴女は戦う事が目的になっているような気がするの。それは私達にとって良くない事よ。魔物娘の私達にはね」
「……」
「旦那を見つけて来いとは言わない。愛し合う人間と魔物娘同士を見てくるだけでも良いわ。愛も目的の1つ。その目的を知るだけでも貴女にとって損はないと思うけど、どうかしら?」
諭すようなレアの口調にガナドゥールは何も言えなくなる。
目的のために手段を用いるのではなく、手段のために目的を求めるというのは確かに妙な話だろう。
目的を知る…戦い以外の。
しかし、それでもガナドゥールは不安だった。
はたして、自分のようなデーモンに愛を見つける事が出来るのだろうか?
それから数日後、ガナドゥールはとある町の上空を飛んでいた。
沈みかけている太陽が全てを黒く染めて行く。まるで、今の自分の心境を表しているようだとガナドゥールは思った。
結局はレアとヴァーミリアスの説得もあり折れたガナドゥールは旦那探しという名目で人間界に来ていた。彼女の眼下に広がるこの町は魔界までいかないが、魔物娘と人間が共存して生活していた。買い物帰りであろう男とラミアの夫婦が手をつなぎ楽しそうに歩いていたり、店から出てきた男にコボルトが嬉しそうに抱きついていたり、露店の店主らしき人間の女と楽しそうにおしゃべりしているショゴスの姿まで見受けられる。
微笑ましい、静かな時間がそこには流れていた。
「……」
その光景を見て、ガナドゥールは自分がひどく場違いなような気がした。
平和が何かは分からないが、少なくともこの町は平和なのだろう。そんな穏やかな空気がとても心地悪い。
やはり、自分にはふさわしくない。
確かにガナドゥールは戦ってきたものの、それはあくまで魔界を広げるという目的のためであり、こんな世界までは考えていなかった。
魔界となれば世界中がこの町のように平和になるだろう。しかし、ガナドゥールにはあまり関心の無い話だ。では、何故魔界を広げる事が快感なのか?それは戦うための言い訳に過ぎなかったのではないか?
ふと、レアの言葉が胸に刺さる。
「今の貴女は戦う事が目的になっているような気がするの」
「…ッ!」
戦う事は至上の快楽である筈なのに、胸が痛い。
愛を知らない自分がとても惨めで、空っぽのようにも感じられる。
そんな自分が誰かに愛される、ましてや誰かを愛する事が出来るのだろうか?
もしかしたら、誰かに愛される資格など持っていないのではないか?
「……くだらないな」
そう、くだらない。
それでも、事実なのだ。
やはり、私は戦場にいるべきだ。愛や平和は他の魔物娘が味わえばいい。私の分まで。
そう思うと、今すぐ魔界に変えるべきだと思えるようになってきたがそうはいかない。このままノコノコと帰ればレアとヴァーミリアスだけでなく、部下に何を言われるか分かったものではない。
「仕方ない…か」
あまり好きではないが、こうなったら適当な男を抱いて帰ればいい。ある程度男の匂いを身に付けておけば、誰も文句は言わないだろうしこれからは侵略で忙しくなる。そんな事に現を抜かしている暇は無くなる筈だ。
そうと決まれば、適当な男を見つけよう。
ガナドゥールはそう決めると、町へ男を探しに降り立った。
ふと見つけたのは素振りをしている男だった。
小さな家に小さな庭、そこで木剣を一心不乱に振る男。長身でそこそこ歳をとっている。引き締まった体からは獣のようなどこか危険な雰囲気と満ち溢れる生命力が漂っていた。飛び散る汗、仄かに香る煙草の官能的な匂い。
ガナドゥールはその男に決めた。
何故、その男にしたのか分からなかったが、どうせ1回寝たら別れる男だ。特に理由も無いだろう。
そう自分に言い聞かせ、ガナドゥールは男の元へ急降下した。
「!?」
空から降ってきたガナドゥールに男は困惑しただろうが、特に慌てた様子は無く静かにガナドゥールを見つめ木剣を握りなおした。
冷静な判断力に度胸もある。元は何処かの傭兵だったのだろうか?
「そう肩に力を入れるな。貴様に害を与えるつもりはない」
ガナドゥールがそう言っても男は油断せず、ゆっくりと離れる。重心が一切動いていない。戦場慣れしているようだ。
「我が名はガナドゥール。野剣士よ、貴様の名は?」
「…レグルス」
レグルス。
良い名前だ、悪くは無い。
その名前の響きにガナドゥールは胸が高まるのを感じたが、無視をした。
「…それで?デーモンが何の用だ?」
レグルスの言葉にガナドゥールは胸がチクリと痛んだ。名前ではなく、種族名で呼ばれた。状況が状況だけに仕方なかったが、心が少し痛かった。
名前を呼ばれないだけで何故、こんなに切なくなるのか。ガナドゥールは戸惑ったが、それを表面に出さず、出来るだけ落ち着いて口を開いた。
「単刀直入に言おう。私を抱け」
「……何だって?」
いかん、ストレートすぎたか。
「聞こえなかったのか?私を抱け、と言ったのだ。安心しろ、それで貴様と契約するつもりはない」
「何故、そんな事を?」
「話すつもりはない。大人しく私を抱けばいい。それとも、嫌だと言うのか?」
その言葉にレグルスは初めてガナドゥールから顔を反らした。
困惑しているようだったが、それ以上に何かを抱えているようだった。
出来れば今すぐにでもそれを暴きたいと思ったが、ガナドゥールは自分を押さえた。
「どうする?私を抱くか?それとも、止めておくか?」
「……」
「早く決めろ。私は気が短い方でな」
その言葉にレグルスは頷いた。
それは了承のサインだろう。
ガナドゥールはフンと鼻を鳴らしたが、どこか心躍るような高揚感があるのを覚えた。
ガナドゥールはその場で押し倒されていた。
レグルスが大きめの胸とむっちりと肉付きの良い太ももを見つめてくる。元々、露出度の高いデーモン種の服をガナドゥールは今までは気にしなかったが、今は気恥ずかしさがあった。まるで突き刺さるようなその視線が恥ずかしくもあったが、何故か嬉しい。
「ん…」
レグルスが覆いかぶさり、ガナドゥールの唇を奪った。レグルスのキスは遠慮が無く、舌がガナドゥールの口内に侵入し、まるで触手のように絡んでくる。ガナドゥールは戸惑いながらも、自分からレグルスの唇をついばむようにキスをした。その中で、お互いの唾液が交わり、ガナドゥールはそれを飲み込む。
初めてのキスにガナドゥールの体は疼き、これからの事を考えると下腹部が熱くなった。
「お前、初めてだろ?」
「んちゅ…そ、それがどうした?貴様には関係ないだろう?」
「いや、思っていたより可愛い反応するんでな」
可愛いと言われたのは初めてだった。ガナドゥールは顔が熱くなり、すっかりパニックになりかけているのに関わらず、レグルスは貪るようにガナドゥールとのキスを続けた。舌先を吸い責め立てるようなキスをしたかと思えば、口の中でもつれる激しい動きにガナドゥールはすっかり体がとろけてしまったような感覚だった。
不意に、レグルスはガナドゥールの服をめくり、彼女の胸を露わにした。
「あ…!」
慌てて隠そうとしたが、レグルスはそれを許さなかった。隠そうとするガナドゥールの腕を掴み、もう片方の腕で波打つガナドゥールの胸に指を食い込ませた。他人に胸を揉まれるのは初めてだった。もどかしいような、それでいて心地良い、痺れるような快感にガナドゥールの体は素直に反応し、無意識にもっと触って欲しいと訴えるように体を反らす。
「ん、あ…ふあぁ」
甘い吐息が口から洩れ、体をくねらせる。それは逃げるような動きでもあり、同時にレグルスにもっと触ってもらえるよう誘うような動きでもあった。
胸を揉まれただけだと言うのに、ガナドゥールの秘所は蜜が溢れだす。レグルスに愛撫されればされるほど熱くなる身体に羞恥を覚えるほどだ。
「んぐ!き、きさ…あぁ!」
レグルスが急に乳首を口に含み、舌を器用に震わせてガナドゥールの乳首を舐め、弾いたのだ。その刺激にガナドゥールは背筋を反らし、喘いだ。
片手で乳房を揉み、レグルスは絞るように乳首を吸いたてる。やがて、乳肉ごとしゃぶりたてたかと思うと舌をナメクジのように這わせ、唾液まみれにしていく。
少しずつ、目の前の男に染められていく感覚にガナドゥールはすっかり酔っていた。
もっと、舐め回して欲しい。
もっと、吸って欲しい。
母乳が出るわけではないが、ガナドゥールはまるで赤子をあやすかのようにレグルスを抱き締めた。左手でうなじを抱き、右手でレグルスの頭を撫でる。
「…本当に可愛いな、お前」
「くぅ…だ、黙れ…あんッ!」
そうは言ったもののレグルスの言葉にガナドゥールは体を熱く震わせる。
レグルスはクスッと笑い、胸から腹へ徐々に舌を下げて行く。青く滑らかな肌にうっすらと浮かぶ汗を味わい、無駄な肉の無い引き締まった腰にキスをし、ついにその下へと辿り着いた。
レグルスは顔を上げると、ゆっくりとガナドゥールの両足を開かせる。ガナドゥールは抵抗したものの、今のとろけきった体では敵わず、あっさりと股間をむき出しにされてしまう。
(あぁ…な、何てあさましい恰好を)
ガナドゥールは両手で顔を覆った。恥ずかしくてこの場から逃げ出したかったが、もっと見てもらいたいという欲望が湧き上がってくる
それに構わず、レグルスはガナドゥールの尻を持ち上げ、服を脱がせていく。秘所を覆っていた最後の1枚が脱がされると、ガナドゥールの秘部がレグルスの目の前にさらされた。
愛液を滴らせながらそこは既にレグルスを受け入れる準備が整っていた。もはや前戯は必要無い。
「……」
(あ……)
レグルスが無言で服を脱ぐと、ガナドゥールは目を反らす事が出来なくなっていた。
まるで彫像のように深く掘りこまれた筋肉にうっすらと浮かぶ玉のような汗、そして血管が脈打つほどにそびえ立っている男の象徴。ガナドゥールはそれが自分に向けられている、目の前の男が自分を求めていると知ると欲望に目が潤み、身体が熱くなるのを感じた。
(い、今からあれで……)
そう考えるとゾクゾクと背筋を何かが駆け巡る。
それはレグルスも同じであった。余裕の無いガナドゥールには知る由も無いが、レグルスも我慢の限界であり興奮しきっていたのだ。
これ以上はもう我慢できそうにない。
レグルスはゆっくりと先端を入口にあてがうと、そのままのしかかるように体重をかけた。勃起の先端が触れた瞬間、ガナドゥールは小さく喘ぎ、喉を反らす。そのまま貫かれ、根元まで飲み込むと苦痛と歓喜の呻き声を上げた。
「が、つぅうう!あ、あああぁ…!」
レグルスの胸へ手を伸ばし、唇から艶やかな空気が漏れた。
初めては痛いものだとは知識で知っていたが、思っていたほどでもない。今はそれ以上に嬉しかった。
何が嬉しいのか分からなかったが、気使うようにガナドゥールの頬を優しく撫でるレグルスを見ると何故か心が満たされた。
「は、ぁ…ん、ちゅ…あむ…ぷはぁ…ちゅ」
しばらくはお互い動かず、見つめ合いキスをしながらゆっくりと体を慣らしていった。
次第にガナドゥールはもどかしくなりゆっくりと腰を揺らすと、レグルスもそれに合わせてゆっくりと腰を上下に動かし始める。
「んんん、くぅ…ふあ、あぁ…」
「初めてなのに…いやらしいな、ガナドゥール」
「あ…ん、言うなぁぁ、言わないでくれぇぇ…」
羞恥を煽る言葉にガナドゥールは首を振ったが、初めて名前を呼ばれた幸せがじわりと心を染めていった。
「ん、レグルス…レグルスゥ…」
「あぁ、ガナドゥール」
甘えるような声を上げ、ガナドゥールはレグルスの首に手を回し、全てを委ねていた。狭い穴が肉竿で広げられ、まるで鉄の杭のような肉棒が出たり入ったりする。その度にガナドゥールの身体は悶え、いつの間にか苦痛は消えていた。
レグルスに胸を揉まれ、熱くぬめった舌に口の中を舐められるたびにガナドゥールの身体は喜びに震えた。
しかし、やられっぱなしというのは正直に言うと悔しい。ガナドゥールもお返しとばかりに舌を絡め、唾液をすするとレグルスの身体も喜びと興奮に震えた。
(レグルスも…私と同じ気持ちなのか?)
身体だけでなく、心も彼と1つになっている。それがたまらなく嬉しい。
そうしているうちにお互いの動きは激しくなる。肉と肉がぶつかる音と、かき回すような水温が響き、次第にガナドゥールも喜びと快楽に声を上げ始める。
「あ、くぅぅ!ん、いい!レグルス!レグルスゥ!」
「ガナドゥール…!ッ、んぐ」
「あん、いい…!レグルスのぉ当たってる!気持ち良いのォ…!」
しばらくは正常位で交わっていたが、レグルスはガナドゥールの身体を持ち上げるように後ろに倒れ、その上にガナドゥールが覆いかぶさる形となった。
騎乗位の姿勢となり、ガナドゥールは戸惑ったが、すぐに下から突き上げられ、歓喜の悲鳴を上げた。
「ひぃああああぁ!レ、レグルスゥ!」
グチュグチュという水音が聴覚を支配し、下から突かれる快楽に当てられ、ガナドゥールは自ら動き始めた。尻を上下に動かし、打ちつけるような動き、円を描くような動きでレグルスを責める。
レグルスもそれに負けじと、がむしゃらに腰を動かしガナドゥールを責めた。
「んんん!レグルスが、レグルスが子宮まで…あぁ、いいぃ!」
奥深くまで受け入れ、夢中で腰を上下左右に揺らす。
レグルスがどんどん速く、小刻みにしていく。お互いが繋がっている境目からは愛液が溢れガナドゥールの太ももとレグルスの下半身を濡らし、そのまま庭へ飛び散る。
「うっ…!ガナドゥール!」
エラが肉壁を擦り、ガナドゥールを快感に踊らせる。
「あうぅん!レグルス、イク?イクの?」
「あぁ!…もう、そろそろ…!」
「や、一緒…!一緒が、いい!ね、イこ?ガナドゥールと一緒に、一緒にぃぃ!」
ガナドゥールがレグルスの肩をギュッと掴む。浮き出た汗が飛び散り、お互いがお互いの名前を呼び合った。
レグルスがとどめと言わんばかりに腰を突き上げた。先端がズンッと子宮を突いて極限まで膨張した瞬間、
「ひあんんあああぁぁぁぁぁッ!!」
ガナドゥールが絶頂の声を上げた。そのままレグルスは彼女の中に精を吐き出した。
ドロリと熱く、まるでゼリーのようにも感じられる精液が子宮内に注がれるとガナドゥールの身体はさらに絶頂で大きく震えた。
(あぁ…中出しでも……イっちゃったぁ…)
満足げなため息を吐き出し、ガナドゥールは余韻に浸った。
一回の性交でお互いに満足する事は無く、そのまま様々な体位で交わり、家に入ると再びレグルスのベッドで交わった。もはや、何回交わったかは分からないが、ダルさとは別に心身を快楽の余韻と幸福が占めている。
ガナドゥールはレグルスに抱きつき、頬ずりをしていた。
「…なぁ」
「ん…なぁに?」
レグルスに呼ばれ、ガナドゥールはゆっくりとレグルスに顔を向ける。
「1回だけの…約束だったよな?」
「知らない」
ムスーッと拗ねたように頬を膨らませるガナドゥールに苦笑し、レグルスはその頭を撫でる。撫でられて気分が良いのかガナドゥールは嬉しそうに目を細め、くすぐったそうに微笑んだ。
「だってぇ…嫌だもん。レグルスともっとイチャイチャしたいもん。レグルスはどうなの?」
「俺も…嫌だな」
「でしょ?じゃあ、もっとしよ?」
「いや、今はもう少しこのままでいたいな…」
その言葉を待っていたようにガナドゥールはレグルスに抱きついた。レグルスも抱き返すとガナドゥールは甘えるように頬ずりをし、レグルスの匂いを楽しんだ。
そのままキスを繰り返し、お互いの身体を愛撫し合いながら意識は夢へと落ちて行く。
落ちて行く意識の中でガナドゥールは1つの答えを見つけていた。
何故、レグルスを選んだのか。
(レグルスに…一目惚れだったんだな、私は)
レグルスを見つけた事が運命ならば、悪魔らしくはないが神に感謝するべきかもしれない。そう思いながら、ガナドゥールは味わった事の無い幸せの中でゆっくりと眠りに落ちて行った。
「御無沙汰です。レア様、ヴァーミリアス様」
魔界の城、そこにあるテラスでガナドゥールは2人に頭を下げた。
その様子のガナドゥールを見てレアもヴァーミリアスもニヤニヤを隠し切れていない。
「お帰りなさい♪ずいぶん長い休暇だったわね」
「ふふふ、まさか10カ月も…ねぇ?」
「……申し訳ありません」
ガナドゥールは謝りながら、椅子に座った。
「で、どうだったの?って答えを聞くまでも無いかしら?」
「ヴァーミリアス様、その…」
「ねぇ、見つけた旦那様ってどんな人なの?」
興味深々といった様子のレアとヴァーミリアスはまるで恋バナに夢中な少女のようだった。ガナドゥールは苦笑し、困ったように頬を掻きながらゆっくりと口を開いた。
「どんな人と言われましても…そうですね。彼は、レグルスという名前なのですが、あまり喋る人ではありません。だけど、行動で示してくれる人で、朝のキスから夕方のキス、お風呂のキスに食事前と食事後もちゃんとキスをしてくれるのです。もちろん、寝る前にもちゃんと抱き締めながらキスをしてくれますし、何より自分が甘えたいなーって思うと抱き締めてくれてその度にキスをしてくれるのです。そんな彼が可愛くて、自分もキスをしたり、ギューッてしたり、膝枕もしてあげるんですが、レグルスは膝枕が好きみたいで嬉しそうですごく安らかな顔をしてくれるのです。それがもう愛おしくて自分も嬉しくなるのです。だけど、レグルスはちょっとエッチで食事の支度をしていたら後ろから抱き締められたそのまましちゃって……それだけではありません。掃除をしている時や本を呼んでいる時ならまだしも、この前なんて買い物に行ったら我慢できなくなっちゃったみたいでそのまま路地裏で…でも、自分も嫌ではありませんでしたし、むしろ嬉しいというか興奮したというか…第一、自分の初めては彼の家にある庭なのです。後で聞いたら近所の人にも聞こえていたらしく恥ずかしくてどうしようも無かったんですが、レグルスも恥ずかしかったみたいで耳まで真っ赤にしていたんですよ。それを見たら我慢できなくなっちゃって、また庭で、今度は後ろからしてもらったんです。彼は後ろから自分を責めるのが好きみたいで、いつかお尻でもシテみたいと言っていました。自分もその、レグルスになら良いかな?って思っているんです。あと…」
「ちょ、ちょっと待って!」
ガナドゥールのマシンガン惚気トークにレアは慌てて静止した。ヴァーミリアスもポカンとし、まるで状況が飲み込めていない。
ガナドゥールはキョトンと首を傾げ、レアを見つめた。
「どうされましたか?」
「い、いや…想像以上というか、まさか、ここまでとは…ねぇ?」
「はぁ…ですが、まだ全然序の口ですよ?どこまで話しましたっけ…あぁ、そうだ。それで子どもは何人欲しいとか、子どもの名前をお互い考える時間が幸せでして、自分の考えた名前は」
「ストップ!ストップ!」
話せと言われたから話したのに…
ガナドゥールは不満そうに頬を膨らませるが、それに構わずレアとヴァーミリアスは耳打ちをした。
「ねぇ、ヴァーミリアス…どう思う?」
「ガナドゥールが旦那様を見つけたのは嬉しいけど、まさかここまで惚気るとは思わなかったわよ」
「恐るべし、ね…」
「…聞こえていますよ?」
ジトーッと睨んでくるガナドゥールにレアとヴァーミリアスは小さく跳び上がった。レアは誤魔化すように笑い、ヴァーミリアスは目を泳がせている。そんな2人を見て、ガナドゥールは大げさにため息をついて見せた。
「ねぇ、ガナドゥール…」
不意に、ヴァーミリアスが悪戯っぽく囁いた。
「はい、ヴァーミリアス様」
「貴女はどう?愛を知る事は出来たのかしら?」
それを今更聞くのか、と思ったが確かに直接口にはしていなかった。
ガナドゥールはフッと笑い、ヴァーミリアスとレアを交互に見つめた。
「……自分は誰かを愛する事…愛される事を知りました」
「それで?どう思う?」
「……今まで自分のために生きてきました。勝利のみが至高の快楽であると思っていました。ですが、今は彼のために…レグルスのために生きようと思います」
そう言ったガナドゥールの笑顔は眩しく、それを見たレアとヴァーミリアスも満足そうに笑った。
「それで、さっきの話の続きなんですが…」
「もうお腹いっぱいよ……」
終わり
「あら♪素敵な夢ね。ンフフ、そういうの良いと思うわ」
紅茶を口に運び、デーモンのレアとヴァーミリアスはお互いの惚気話を楽しんでいた。
そんな2人を眺めながら、デーモンのガナドゥールは静かに紅茶のカップを置いた。
レアとヴァーミリアスはガナドゥールにとって先輩デーモンである。2人はかつて過激派として世界を魔界に変えるべく暗躍していた。しかし、お互い旦那として契約した人間の男性を得て以来、現場を離れ隠居生活という名の結婚生活を満喫している。レアは初陣で1つの国を魔界へと落とし、ヴァーミリアスは人間同士の紛争を止め、そのまま魔界へと変えた功績を持っている。そんな彼女達が第一線から身を引いた事実に動揺は走ったものの、旦那を得たとなれば止める者はいない。
そもそも、魔物娘にとって夫を得て愛し合う事は何よりも優先されるべき事であり、その祝福すべき事実に異を唱える者はいなかった。
しかし、ガナドゥールは異を唱えこそしなかったものの疑問を覚えていた。
そんなガナドゥールの態度に違和感を覚えたのか、2人は惚気話を止めた。
「ガナドゥール?どうしたの、体調でも悪いのかしら?」
「いえ、そういうわけでは…」
心配したのか、ガナドゥールの顔をレアが覗きこんでくる。ガナドゥールは頭を下げ苦笑した。
ヴァーミリアスは申し訳なさそうにティーカップを置き、机に置かれたガナドゥールの手に自分の掌を優しく包むように乗せた。
「人間界侵攻で貴女も疲れているわよね?ごめんなさい、こんな忙しい時に尋ねてしまって…」
「そ、そのような事はありません!ただ…」
謝るヴァーミリアスにガナドゥールは慌てた。
そんなつもりはない。この2人は自分にとって尊敬できる先輩だ。その2人が訪ねてくるというのなら疲れなど言い訳には出来ない。
それ以前にガナドゥールは人間界侵攻を苦に思った事は無い。
ガナドゥールという名は彼女の父親が付けた名であり、父親の故郷で「勝利する者」という意味だそうだ。その名の通り、彼女は人間界侵攻を何よりも好み、魔界へと変える事に至上の喜びを感じていた。勝利すると言っても人間を傷つける、命を奪うような事は絶対にしない。それはガナドゥールの最も忌むべき行為であり、血を流す勝利など勝利とは言えないと考えていた。
彼女が勝利する相手は人間の歴史であり、その上に人間と魔物娘の歴史を刻んでこそガナドゥールの考える勝利なのだ。
勝利こそ極上の快楽と考える彼女は他のデーモンだけでなく、魔物娘と違い愛する夫を得る事にそこまで執着していなかった。もちろん、全く興味が無いわけではない。それどころか、ガナドゥールだって想像上の旦那に想いを馳せる事はある。
しかし、そんな相手と巡り合った事は無いし、今は何より魔界を広げる事が最優先されるべきなのだ。
だからこそ気になった。
「ただ…その、誰かを愛するというのはどういう気持ちなのでしょうか?」
レアもヴァーミリアスも夫がいる。そんな2人だからガナドゥールの疑問に答える事が出来るだろう。
しかし、2人はその言葉に目を何度か瞬きし、レアはニンマリと意地悪く笑い、ヴァーミリアスはフフッ笑い口元に両手を当てた。
「そうねぇ…ンフフ♪とっても素敵な事よ?」
「レア様…そのように言われましても、自分にはよく分からないのですが」
「あら、当然でしょ?だってそれ以外に言いようがないし、私の夫への愛を言葉にする事は出来ないもの」
レアの言い様にガナドゥールはムッとしたが、何か言う前にヴァーミリアスがパンと手を叩いた。
「そうよ?愛は言葉にできないし、私達が何を言ってもガナドゥールは納得できないと思うわ」
「はぁ…」
「だ・か・ら♪」
ヴァーミリアスは何か思いついたようにニヤリと笑う。チラッとレアの方にも目をやると、レアはヴァーミリアスが何を思いついたのか察したようで意地の悪い笑みを浮かべた。
それはさながら悪戯を思いついた悪ガキのようだった。そして、ガナドゥールは哀れなターゲットだ。
気が付けば2対1であり、場の空気はあちらに流れている。
嫌な予感をガナドゥールが感じると、ヴァーミリアスが身を乗り出してきた。
「今から人間界に行って旦那様を見つけてくればいいのよ!」
「……はい?」
「うんうん♪それがいいわね、さすがはヴァーミリアス♪」
「ちょ、ちょっと待って下さい!自分は今、侵攻の準備中ですし、そんな暇は無いですよ!?」
「有休取ればいいじゃない。どうせ有休使ってないで貯まっているんでしょう?」
「そりゃあ…まぁ」
「だったら行ってきなさいよ♪旦那探しなら誰も文句は言わないわよ」
頭痛を覚える…
乗り気でないガナドゥールを尻目にレアとヴァーミリアスははしゃいでいる。
大体、夫を探しに行ってホイホイ見つかる事が愛だと言えるのだろうか?
いやいや、そんな筈がない。もっと愛というのはロマンチックで運命的な物である筈だ。
例えば……
「ガナドゥール?聞いてる?」
「…すいません、聞いていませんでした。でも、聞きたくないです」
妄想から引っ張り上げられ、ジィッと見つめてくるヴァーミリアスから顔を反らしながら呟く。何を話していたのかは知らないが、十中八九あまり嬉しくはない話だろう。
「もう貴方の部下、サキュバス達には連絡しておいたわよ」
「あぇ!?え、いつの間に!?」
「貴方がニヤニヤしている時に。善は急げって言うでしょ?」
速いよ。
早いじゃなくて速い。
「サキュバス達も喜んでいたわよ?ついに貴女も結婚するんだって」
「そんな勝手に…」
「…ねぇ、ガナドゥール」
レアがふとガナドゥールの瞳を覗きこむように顔を見つめてくる。
「貴女は何故戦うの?」
「何故って……」
レアの疑問にガナドゥールは言葉が詰まった。
戦う理由?そんなもの考えた事が無い。
「…戦うって手段であって目的ではないと思うわ。でも、貴女は逆。今の貴女は戦う事が目的になっているような気がするの。それは私達にとって良くない事よ。魔物娘の私達にはね」
「……」
「旦那を見つけて来いとは言わない。愛し合う人間と魔物娘同士を見てくるだけでも良いわ。愛も目的の1つ。その目的を知るだけでも貴女にとって損はないと思うけど、どうかしら?」
諭すようなレアの口調にガナドゥールは何も言えなくなる。
目的のために手段を用いるのではなく、手段のために目的を求めるというのは確かに妙な話だろう。
目的を知る…戦い以外の。
しかし、それでもガナドゥールは不安だった。
はたして、自分のようなデーモンに愛を見つける事が出来るのだろうか?
それから数日後、ガナドゥールはとある町の上空を飛んでいた。
沈みかけている太陽が全てを黒く染めて行く。まるで、今の自分の心境を表しているようだとガナドゥールは思った。
結局はレアとヴァーミリアスの説得もあり折れたガナドゥールは旦那探しという名目で人間界に来ていた。彼女の眼下に広がるこの町は魔界までいかないが、魔物娘と人間が共存して生活していた。買い物帰りであろう男とラミアの夫婦が手をつなぎ楽しそうに歩いていたり、店から出てきた男にコボルトが嬉しそうに抱きついていたり、露店の店主らしき人間の女と楽しそうにおしゃべりしているショゴスの姿まで見受けられる。
微笑ましい、静かな時間がそこには流れていた。
「……」
その光景を見て、ガナドゥールは自分がひどく場違いなような気がした。
平和が何かは分からないが、少なくともこの町は平和なのだろう。そんな穏やかな空気がとても心地悪い。
やはり、自分にはふさわしくない。
確かにガナドゥールは戦ってきたものの、それはあくまで魔界を広げるという目的のためであり、こんな世界までは考えていなかった。
魔界となれば世界中がこの町のように平和になるだろう。しかし、ガナドゥールにはあまり関心の無い話だ。では、何故魔界を広げる事が快感なのか?それは戦うための言い訳に過ぎなかったのではないか?
ふと、レアの言葉が胸に刺さる。
「今の貴女は戦う事が目的になっているような気がするの」
「…ッ!」
戦う事は至上の快楽である筈なのに、胸が痛い。
愛を知らない自分がとても惨めで、空っぽのようにも感じられる。
そんな自分が誰かに愛される、ましてや誰かを愛する事が出来るのだろうか?
もしかしたら、誰かに愛される資格など持っていないのではないか?
「……くだらないな」
そう、くだらない。
それでも、事実なのだ。
やはり、私は戦場にいるべきだ。愛や平和は他の魔物娘が味わえばいい。私の分まで。
そう思うと、今すぐ魔界に変えるべきだと思えるようになってきたがそうはいかない。このままノコノコと帰ればレアとヴァーミリアスだけでなく、部下に何を言われるか分かったものではない。
「仕方ない…か」
あまり好きではないが、こうなったら適当な男を抱いて帰ればいい。ある程度男の匂いを身に付けておけば、誰も文句は言わないだろうしこれからは侵略で忙しくなる。そんな事に現を抜かしている暇は無くなる筈だ。
そうと決まれば、適当な男を見つけよう。
ガナドゥールはそう決めると、町へ男を探しに降り立った。
ふと見つけたのは素振りをしている男だった。
小さな家に小さな庭、そこで木剣を一心不乱に振る男。長身でそこそこ歳をとっている。引き締まった体からは獣のようなどこか危険な雰囲気と満ち溢れる生命力が漂っていた。飛び散る汗、仄かに香る煙草の官能的な匂い。
ガナドゥールはその男に決めた。
何故、その男にしたのか分からなかったが、どうせ1回寝たら別れる男だ。特に理由も無いだろう。
そう自分に言い聞かせ、ガナドゥールは男の元へ急降下した。
「!?」
空から降ってきたガナドゥールに男は困惑しただろうが、特に慌てた様子は無く静かにガナドゥールを見つめ木剣を握りなおした。
冷静な判断力に度胸もある。元は何処かの傭兵だったのだろうか?
「そう肩に力を入れるな。貴様に害を与えるつもりはない」
ガナドゥールがそう言っても男は油断せず、ゆっくりと離れる。重心が一切動いていない。戦場慣れしているようだ。
「我が名はガナドゥール。野剣士よ、貴様の名は?」
「…レグルス」
レグルス。
良い名前だ、悪くは無い。
その名前の響きにガナドゥールは胸が高まるのを感じたが、無視をした。
「…それで?デーモンが何の用だ?」
レグルスの言葉にガナドゥールは胸がチクリと痛んだ。名前ではなく、種族名で呼ばれた。状況が状況だけに仕方なかったが、心が少し痛かった。
名前を呼ばれないだけで何故、こんなに切なくなるのか。ガナドゥールは戸惑ったが、それを表面に出さず、出来るだけ落ち着いて口を開いた。
「単刀直入に言おう。私を抱け」
「……何だって?」
いかん、ストレートすぎたか。
「聞こえなかったのか?私を抱け、と言ったのだ。安心しろ、それで貴様と契約するつもりはない」
「何故、そんな事を?」
「話すつもりはない。大人しく私を抱けばいい。それとも、嫌だと言うのか?」
その言葉にレグルスは初めてガナドゥールから顔を反らした。
困惑しているようだったが、それ以上に何かを抱えているようだった。
出来れば今すぐにでもそれを暴きたいと思ったが、ガナドゥールは自分を押さえた。
「どうする?私を抱くか?それとも、止めておくか?」
「……」
「早く決めろ。私は気が短い方でな」
その言葉にレグルスは頷いた。
それは了承のサインだろう。
ガナドゥールはフンと鼻を鳴らしたが、どこか心躍るような高揚感があるのを覚えた。
ガナドゥールはその場で押し倒されていた。
レグルスが大きめの胸とむっちりと肉付きの良い太ももを見つめてくる。元々、露出度の高いデーモン種の服をガナドゥールは今までは気にしなかったが、今は気恥ずかしさがあった。まるで突き刺さるようなその視線が恥ずかしくもあったが、何故か嬉しい。
「ん…」
レグルスが覆いかぶさり、ガナドゥールの唇を奪った。レグルスのキスは遠慮が無く、舌がガナドゥールの口内に侵入し、まるで触手のように絡んでくる。ガナドゥールは戸惑いながらも、自分からレグルスの唇をついばむようにキスをした。その中で、お互いの唾液が交わり、ガナドゥールはそれを飲み込む。
初めてのキスにガナドゥールの体は疼き、これからの事を考えると下腹部が熱くなった。
「お前、初めてだろ?」
「んちゅ…そ、それがどうした?貴様には関係ないだろう?」
「いや、思っていたより可愛い反応するんでな」
可愛いと言われたのは初めてだった。ガナドゥールは顔が熱くなり、すっかりパニックになりかけているのに関わらず、レグルスは貪るようにガナドゥールとのキスを続けた。舌先を吸い責め立てるようなキスをしたかと思えば、口の中でもつれる激しい動きにガナドゥールはすっかり体がとろけてしまったような感覚だった。
不意に、レグルスはガナドゥールの服をめくり、彼女の胸を露わにした。
「あ…!」
慌てて隠そうとしたが、レグルスはそれを許さなかった。隠そうとするガナドゥールの腕を掴み、もう片方の腕で波打つガナドゥールの胸に指を食い込ませた。他人に胸を揉まれるのは初めてだった。もどかしいような、それでいて心地良い、痺れるような快感にガナドゥールの体は素直に反応し、無意識にもっと触って欲しいと訴えるように体を反らす。
「ん、あ…ふあぁ」
甘い吐息が口から洩れ、体をくねらせる。それは逃げるような動きでもあり、同時にレグルスにもっと触ってもらえるよう誘うような動きでもあった。
胸を揉まれただけだと言うのに、ガナドゥールの秘所は蜜が溢れだす。レグルスに愛撫されればされるほど熱くなる身体に羞恥を覚えるほどだ。
「んぐ!き、きさ…あぁ!」
レグルスが急に乳首を口に含み、舌を器用に震わせてガナドゥールの乳首を舐め、弾いたのだ。その刺激にガナドゥールは背筋を反らし、喘いだ。
片手で乳房を揉み、レグルスは絞るように乳首を吸いたてる。やがて、乳肉ごとしゃぶりたてたかと思うと舌をナメクジのように這わせ、唾液まみれにしていく。
少しずつ、目の前の男に染められていく感覚にガナドゥールはすっかり酔っていた。
もっと、舐め回して欲しい。
もっと、吸って欲しい。
母乳が出るわけではないが、ガナドゥールはまるで赤子をあやすかのようにレグルスを抱き締めた。左手でうなじを抱き、右手でレグルスの頭を撫でる。
「…本当に可愛いな、お前」
「くぅ…だ、黙れ…あんッ!」
そうは言ったもののレグルスの言葉にガナドゥールは体を熱く震わせる。
レグルスはクスッと笑い、胸から腹へ徐々に舌を下げて行く。青く滑らかな肌にうっすらと浮かぶ汗を味わい、無駄な肉の無い引き締まった腰にキスをし、ついにその下へと辿り着いた。
レグルスは顔を上げると、ゆっくりとガナドゥールの両足を開かせる。ガナドゥールは抵抗したものの、今のとろけきった体では敵わず、あっさりと股間をむき出しにされてしまう。
(あぁ…な、何てあさましい恰好を)
ガナドゥールは両手で顔を覆った。恥ずかしくてこの場から逃げ出したかったが、もっと見てもらいたいという欲望が湧き上がってくる
それに構わず、レグルスはガナドゥールの尻を持ち上げ、服を脱がせていく。秘所を覆っていた最後の1枚が脱がされると、ガナドゥールの秘部がレグルスの目の前にさらされた。
愛液を滴らせながらそこは既にレグルスを受け入れる準備が整っていた。もはや前戯は必要無い。
「……」
(あ……)
レグルスが無言で服を脱ぐと、ガナドゥールは目を反らす事が出来なくなっていた。
まるで彫像のように深く掘りこまれた筋肉にうっすらと浮かぶ玉のような汗、そして血管が脈打つほどにそびえ立っている男の象徴。ガナドゥールはそれが自分に向けられている、目の前の男が自分を求めていると知ると欲望に目が潤み、身体が熱くなるのを感じた。
(い、今からあれで……)
そう考えるとゾクゾクと背筋を何かが駆け巡る。
それはレグルスも同じであった。余裕の無いガナドゥールには知る由も無いが、レグルスも我慢の限界であり興奮しきっていたのだ。
これ以上はもう我慢できそうにない。
レグルスはゆっくりと先端を入口にあてがうと、そのままのしかかるように体重をかけた。勃起の先端が触れた瞬間、ガナドゥールは小さく喘ぎ、喉を反らす。そのまま貫かれ、根元まで飲み込むと苦痛と歓喜の呻き声を上げた。
「が、つぅうう!あ、あああぁ…!」
レグルスの胸へ手を伸ばし、唇から艶やかな空気が漏れた。
初めては痛いものだとは知識で知っていたが、思っていたほどでもない。今はそれ以上に嬉しかった。
何が嬉しいのか分からなかったが、気使うようにガナドゥールの頬を優しく撫でるレグルスを見ると何故か心が満たされた。
「は、ぁ…ん、ちゅ…あむ…ぷはぁ…ちゅ」
しばらくはお互い動かず、見つめ合いキスをしながらゆっくりと体を慣らしていった。
次第にガナドゥールはもどかしくなりゆっくりと腰を揺らすと、レグルスもそれに合わせてゆっくりと腰を上下に動かし始める。
「んんん、くぅ…ふあ、あぁ…」
「初めてなのに…いやらしいな、ガナドゥール」
「あ…ん、言うなぁぁ、言わないでくれぇぇ…」
羞恥を煽る言葉にガナドゥールは首を振ったが、初めて名前を呼ばれた幸せがじわりと心を染めていった。
「ん、レグルス…レグルスゥ…」
「あぁ、ガナドゥール」
甘えるような声を上げ、ガナドゥールはレグルスの首に手を回し、全てを委ねていた。狭い穴が肉竿で広げられ、まるで鉄の杭のような肉棒が出たり入ったりする。その度にガナドゥールの身体は悶え、いつの間にか苦痛は消えていた。
レグルスに胸を揉まれ、熱くぬめった舌に口の中を舐められるたびにガナドゥールの身体は喜びに震えた。
しかし、やられっぱなしというのは正直に言うと悔しい。ガナドゥールもお返しとばかりに舌を絡め、唾液をすするとレグルスの身体も喜びと興奮に震えた。
(レグルスも…私と同じ気持ちなのか?)
身体だけでなく、心も彼と1つになっている。それがたまらなく嬉しい。
そうしているうちにお互いの動きは激しくなる。肉と肉がぶつかる音と、かき回すような水温が響き、次第にガナドゥールも喜びと快楽に声を上げ始める。
「あ、くぅぅ!ん、いい!レグルス!レグルスゥ!」
「ガナドゥール…!ッ、んぐ」
「あん、いい…!レグルスのぉ当たってる!気持ち良いのォ…!」
しばらくは正常位で交わっていたが、レグルスはガナドゥールの身体を持ち上げるように後ろに倒れ、その上にガナドゥールが覆いかぶさる形となった。
騎乗位の姿勢となり、ガナドゥールは戸惑ったが、すぐに下から突き上げられ、歓喜の悲鳴を上げた。
「ひぃああああぁ!レ、レグルスゥ!」
グチュグチュという水音が聴覚を支配し、下から突かれる快楽に当てられ、ガナドゥールは自ら動き始めた。尻を上下に動かし、打ちつけるような動き、円を描くような動きでレグルスを責める。
レグルスもそれに負けじと、がむしゃらに腰を動かしガナドゥールを責めた。
「んんん!レグルスが、レグルスが子宮まで…あぁ、いいぃ!」
奥深くまで受け入れ、夢中で腰を上下左右に揺らす。
レグルスがどんどん速く、小刻みにしていく。お互いが繋がっている境目からは愛液が溢れガナドゥールの太ももとレグルスの下半身を濡らし、そのまま庭へ飛び散る。
「うっ…!ガナドゥール!」
エラが肉壁を擦り、ガナドゥールを快感に踊らせる。
「あうぅん!レグルス、イク?イクの?」
「あぁ!…もう、そろそろ…!」
「や、一緒…!一緒が、いい!ね、イこ?ガナドゥールと一緒に、一緒にぃぃ!」
ガナドゥールがレグルスの肩をギュッと掴む。浮き出た汗が飛び散り、お互いがお互いの名前を呼び合った。
レグルスがとどめと言わんばかりに腰を突き上げた。先端がズンッと子宮を突いて極限まで膨張した瞬間、
「ひあんんあああぁぁぁぁぁッ!!」
ガナドゥールが絶頂の声を上げた。そのままレグルスは彼女の中に精を吐き出した。
ドロリと熱く、まるでゼリーのようにも感じられる精液が子宮内に注がれるとガナドゥールの身体はさらに絶頂で大きく震えた。
(あぁ…中出しでも……イっちゃったぁ…)
満足げなため息を吐き出し、ガナドゥールは余韻に浸った。
一回の性交でお互いに満足する事は無く、そのまま様々な体位で交わり、家に入ると再びレグルスのベッドで交わった。もはや、何回交わったかは分からないが、ダルさとは別に心身を快楽の余韻と幸福が占めている。
ガナドゥールはレグルスに抱きつき、頬ずりをしていた。
「…なぁ」
「ん…なぁに?」
レグルスに呼ばれ、ガナドゥールはゆっくりとレグルスに顔を向ける。
「1回だけの…約束だったよな?」
「知らない」
ムスーッと拗ねたように頬を膨らませるガナドゥールに苦笑し、レグルスはその頭を撫でる。撫でられて気分が良いのかガナドゥールは嬉しそうに目を細め、くすぐったそうに微笑んだ。
「だってぇ…嫌だもん。レグルスともっとイチャイチャしたいもん。レグルスはどうなの?」
「俺も…嫌だな」
「でしょ?じゃあ、もっとしよ?」
「いや、今はもう少しこのままでいたいな…」
その言葉を待っていたようにガナドゥールはレグルスに抱きついた。レグルスも抱き返すとガナドゥールは甘えるように頬ずりをし、レグルスの匂いを楽しんだ。
そのままキスを繰り返し、お互いの身体を愛撫し合いながら意識は夢へと落ちて行く。
落ちて行く意識の中でガナドゥールは1つの答えを見つけていた。
何故、レグルスを選んだのか。
(レグルスに…一目惚れだったんだな、私は)
レグルスを見つけた事が運命ならば、悪魔らしくはないが神に感謝するべきかもしれない。そう思いながら、ガナドゥールは味わった事の無い幸せの中でゆっくりと眠りに落ちて行った。
「御無沙汰です。レア様、ヴァーミリアス様」
魔界の城、そこにあるテラスでガナドゥールは2人に頭を下げた。
その様子のガナドゥールを見てレアもヴァーミリアスもニヤニヤを隠し切れていない。
「お帰りなさい♪ずいぶん長い休暇だったわね」
「ふふふ、まさか10カ月も…ねぇ?」
「……申し訳ありません」
ガナドゥールは謝りながら、椅子に座った。
「で、どうだったの?って答えを聞くまでも無いかしら?」
「ヴァーミリアス様、その…」
「ねぇ、見つけた旦那様ってどんな人なの?」
興味深々といった様子のレアとヴァーミリアスはまるで恋バナに夢中な少女のようだった。ガナドゥールは苦笑し、困ったように頬を掻きながらゆっくりと口を開いた。
「どんな人と言われましても…そうですね。彼は、レグルスという名前なのですが、あまり喋る人ではありません。だけど、行動で示してくれる人で、朝のキスから夕方のキス、お風呂のキスに食事前と食事後もちゃんとキスをしてくれるのです。もちろん、寝る前にもちゃんと抱き締めながらキスをしてくれますし、何より自分が甘えたいなーって思うと抱き締めてくれてその度にキスをしてくれるのです。そんな彼が可愛くて、自分もキスをしたり、ギューッてしたり、膝枕もしてあげるんですが、レグルスは膝枕が好きみたいで嬉しそうですごく安らかな顔をしてくれるのです。それがもう愛おしくて自分も嬉しくなるのです。だけど、レグルスはちょっとエッチで食事の支度をしていたら後ろから抱き締められたそのまましちゃって……それだけではありません。掃除をしている時や本を呼んでいる時ならまだしも、この前なんて買い物に行ったら我慢できなくなっちゃったみたいでそのまま路地裏で…でも、自分も嫌ではありませんでしたし、むしろ嬉しいというか興奮したというか…第一、自分の初めては彼の家にある庭なのです。後で聞いたら近所の人にも聞こえていたらしく恥ずかしくてどうしようも無かったんですが、レグルスも恥ずかしかったみたいで耳まで真っ赤にしていたんですよ。それを見たら我慢できなくなっちゃって、また庭で、今度は後ろからしてもらったんです。彼は後ろから自分を責めるのが好きみたいで、いつかお尻でもシテみたいと言っていました。自分もその、レグルスになら良いかな?って思っているんです。あと…」
「ちょ、ちょっと待って!」
ガナドゥールのマシンガン惚気トークにレアは慌てて静止した。ヴァーミリアスもポカンとし、まるで状況が飲み込めていない。
ガナドゥールはキョトンと首を傾げ、レアを見つめた。
「どうされましたか?」
「い、いや…想像以上というか、まさか、ここまでとは…ねぇ?」
「はぁ…ですが、まだ全然序の口ですよ?どこまで話しましたっけ…あぁ、そうだ。それで子どもは何人欲しいとか、子どもの名前をお互い考える時間が幸せでして、自分の考えた名前は」
「ストップ!ストップ!」
話せと言われたから話したのに…
ガナドゥールは不満そうに頬を膨らませるが、それに構わずレアとヴァーミリアスは耳打ちをした。
「ねぇ、ヴァーミリアス…どう思う?」
「ガナドゥールが旦那様を見つけたのは嬉しいけど、まさかここまで惚気るとは思わなかったわよ」
「恐るべし、ね…」
「…聞こえていますよ?」
ジトーッと睨んでくるガナドゥールにレアとヴァーミリアスは小さく跳び上がった。レアは誤魔化すように笑い、ヴァーミリアスは目を泳がせている。そんな2人を見て、ガナドゥールは大げさにため息をついて見せた。
「ねぇ、ガナドゥール…」
不意に、ヴァーミリアスが悪戯っぽく囁いた。
「はい、ヴァーミリアス様」
「貴女はどう?愛を知る事は出来たのかしら?」
それを今更聞くのか、と思ったが確かに直接口にはしていなかった。
ガナドゥールはフッと笑い、ヴァーミリアスとレアを交互に見つめた。
「……自分は誰かを愛する事…愛される事を知りました」
「それで?どう思う?」
「……今まで自分のために生きてきました。勝利のみが至高の快楽であると思っていました。ですが、今は彼のために…レグルスのために生きようと思います」
そう言ったガナドゥールの笑顔は眩しく、それを見たレアとヴァーミリアスも満足そうに笑った。
「それで、さっきの話の続きなんですが…」
「もうお腹いっぱいよ……」
終わり
15/11/23 05:58更新 / ろーすとびーふ泥棒